ディノバルドを討伐した後。
俺、教官、セツヒトさんは、キャンプで休憩した。
村に戻るためのネコタクは振動が激しく、俺の傷が開くかもしれないと言うことで、ガーグァ車を手配することになった。
ガーグァ車も揺れることは揺れるのだが、ネコタクのような荒々しい運転ではない。
やってくるまでの小一時間、俺は体を休めながら、教官たちにここに来るまでの経緯を聞いた。
* * * * * *
ショウコが運良く回収班を見つけ、そこからギルドに緊急連絡が届いた。
ギルドは大慌てになったという。何せ、近辺にいるはずもない斬竜ディノバルドが出現したと言うのだから。
確実に倒せるハンターを探すも、実力も測りかねる相手だけに、難しいところ。
そこで白羽の矢が立ったのが、マショルク教官だった。
武具の準備をする為、すぐにセツヒトさんの店に足を運ぶ教官。
すると事情を知ったセツヒトさんは、マショルク教官と共に俺を助けに行くと言って聞かなかったらしい。
緊急事態ということ、ディノバルドを屠れる確実な戦力が見込めなかったこと、セツヒトさんの過去の実績から、ギルドは最終的に認可。
というか事情を聞いたシガイアさんがゴリ押しして、二人で救援することになったとか。
……ギルドマスターのシガイアさんがそこまでするんだから、セツヒトさんの実力の程が伺える。
俺が手も足も出なかったディノバルドに完封勝ちしていた二人。底知れないその力に、俺は尊敬と感謝の念しか湧かない。
二人はガーグァ車ではなく、より早いファンゴ車で沼地に到着。俺のもとに来てくれたということだった。
色々な人に迷惑をかけてしまったな、と思った。村に着いたら、謝りたい。
* * * * * *
俺が村に戻った時には日も落ち切ってしまっていた。
松明が燃える入り口で、ハイビスさんが待っていた。
「専属担当として、責務を果たすためです!」と言っていたが、目には涙が浮かんでいた。
心配をかけてしまったので、からかわないでおこう。
……涙を浮かべるハイビスさんは、とても美しかった。
そして、その後ろにいたのはショウコ。
ショウコは泣きじゃくりながら、俺のことを心配してくれた。逆に、こっちが心配になるぐらい憔悴していた。
担架でギルドの医務室に運ばれる俺に付きっきりになりながら、ずっと謝ってくる。
「今ここにいられるのは、ショウコのおかげなんだ。謝らないでくれ。」
「でも……ウチ……ウチのせいで……。」
「ショウコのせいなもんか。ショウコはむしろ命の恩人だぞ?ディノバルドが勝手にやってきたんだ。それに、俺は大丈夫だ。大丈夫。安心してくれ、俺は生きている。」
「うぅぅ……!」
泣いていた。
……泣かせてしまった。
俺の力が弱くて、悔しくて、しょうがなかった。
ショウコは、ハイビスさんが宿まで送ってくれることになった。
……後でちゃんと話そうと思う。
ギルドに着くと、セツヒトさんとマショルク教官とは一旦別れることに。
二人ともギルドに報告してくれるらしい。教官にロアルドロス2頭の討伐部位を渡しておく。
「ソウジくんは、とりあえず気にせず、体を癒やすんだ!あとは私に任せておけ!」
と、教官からありがたい言葉を頂いた。
なのでクエスト処理とかやってもらうことにした。
「セツヒトさん、教官、今日はありがとうございました。」
「気にしないでー。こういうのは、持ちつ持たれつー?だからねー。」
「はい。」
二人には、本当に感謝してもし切れない。
何度目かわからないお礼を述べたあと、二人と別れた。
その後医務室に直行。
白髪交じりのおっさんのお医者さんから、応急処置を受けて、診察。
無理をし過ぎだと、しこたま怒られた。寝ながら怒られるなんて初めての経験だった。
ちょっと小太りなところが、何だか前世の上司を思わせる。
幸い右腕の骨は綺麗にくっつくそうだ。教官、流石である。
肋骨の骨折、更に腹の中まで損傷しているかもしれないとのこと。しばらく安静にするよう言われた。
ハンター業はしばらく休業だな……。
何かの薬を塗られた布を負傷した箇所にあてがわれた俺は、医務室横のベッドのある部屋に移動され、寝かされた。
病室の真っ白いベッドに落ち着くと、すぐにシガイアさんが、ヒナタさんと一緒にやってきた。
二人とも焦った顔が安堵に変わった。最悪な状態を想像していたのかもしれない。
2人のそんな顔を見るのは初めてで、新鮮だった。
シガイアさんがふたたび顔を引き締めて、ベッドの近くにやってくる。
「ソウジさん……まずはご無事で何よりです。」
「いえ……ご迷惑をおかけしました。」
「違います。これはギルドの落ち度、申し訳ありません。」
「えっ?」
そうなの?ギルドのせいではないんじゃないか?
「ギルドは悪くないのでは……。」
「他のギルド支部との連絡や観測班からの情報には、斬竜ディノバルドの情報はありませんでした。つまり、我々が見落とした、と言うことになります。」
「はぁ……。」
「申し訳ありません。」
シガイアさんとヒナタさんが頭を下げる。
「い、いやいやいや、顔を上げてください!確かにちょっとヤバかったですけど……ハンターなんですから!こんな事もあるのでしょう?俺、気にしてませんから。」
「下位の狩場に危険指定種がくることなど、見逃してはいけないことなのですが……そう言って下さると、大変助かります。ソウジさん、ありがとうございます。」
当然だ。
いくらギルドだって限界がある。観測していても、その連絡が遅れているのかもしれないし。
誰も悪くない。
その後、色々と後始末があるという事で、シガイアさんは退室した。
ヒナタさんは俺を見ると、
「事務的なお話をしようかと思いましたが、今日はゆっくりお休みください。ソウジ様、また後日、参ります。」
と言って、退室していった。
何か……声が震えていたような気がする。
今度、猫的な何かでお詫びしようかな……。
* * * * * *
ヒナタさんが退室してしばらくボーっとしていると、今度はドールがやってきた。
「ドール。」
「ソウジさ……。」
俺を見るなり、声に詰まったドール。
その場で泣き出してしまった。
「よ、よかったぁ……よかっ……た……うぅぅぅ……。」
「すまん、ドール。泣かないでくれ。心配かけて、ごめんな。」
「……ううん、ごめん、ね。……よかったよぉ……。」
心配をかけたなぁ。ドール。ごめん。
「無事で何よりね、ソウジくん。」
「ミヤコさん。」
「話は少し聞いたわ。……何であの斬竜が出てきたのか、本当に分からない。ギルドの者として、申し訳なく思います。ごめんね、ソウジくん。」
ミヤコさんも一緒に来ていた。ドールに続いて部屋に入ってくる。
「ははは、平気ですよ。こうやって、四肢もくっついてますし。」
「……よかったわ。……もーホント!ギルドの後輩から連絡受けて、ディノバルドって言われて……心臓止まるかと思っちゃった!頑張ったわね!ソウジくん!」
「はい。死ぬかと思いました。」
「あはは、まあそうよね。私も遠くから見たことあるけど……怖すぎるわ、あのモンスター。」
見たことはあるのか。
ミヤコさんの過去も気になるところだ。
「……ハンターがいなくなる時なんて、いつくるかもわからない。……ギルドで働いている身としては矛盾しているんだけど、大切な人にハンターはしてほしくはない、かな。……そう思うよ。」
……ミヤコさんが言うと、重いな。
「ホントに、ご心配をおかけしました。ドールも、顔をあげてくれ。」
「うん……。ご、ごめんね。取り乱しちゃって……。」
「いや……変な言い方だけど、嬉しいよ。何だか……うん。」
「……う、うん……。」
……。
……何だこの空気。
気恥ずかしい……!!
「すごいわね……お母さん結構重苦しいこと言ったつもりなんだけど、一気に甘酸っぱくなっちゃったわ……。」
「えっ!?いやいやいや!!」
「お母さん!」
「そこは否定するのね……一度二人の頭の中覗いてみたいわ……。」
……ミヤコさんはスルーしよう。
「ど、ドール?朝はゴメンな。」
「えっ……朝?」
「ほら……ドール、怒ってたろ?」
「……あぁ。うん、いいんだ。ソウジさんが無事ならそれで……。おかえり、ソウジさん。」
「あぁ……。ただいま。」
無様だけど。
満身創痍だけど。
ドールにただいまと、言うことができた。
今はそれだけで、良しとしよう。
「……私、砂糖吐きそう。」
ミヤコさんが呆れた顔でなんか言っていた。
* * * * * *
夜も更けてきた。
ギルド横のこの医務室は、ギルドの喧騒がわずかに聞こえるが、静かなものだ。
ベッドこそ4床しかない小さな部屋だが、処置室や診察の部屋は別にある。
そして他のベッドは誰もいない。実質一人部屋のよう。
看護師さんも常駐するらしいが、基本的に一人である。少し寂しい。
実は、講習を受けているときに医務室を利用したことがある。
だが、ベッドに横になるまでの怪我を負ったことはなかった。
この部屋には入ったことも無い。かなり新鮮である。
骨折の部位に貼った湿布は薬効がすごい。痛みは鈍く残るものの、全く無かった食欲が少し回復する迄になった。
そういえば教官の骨折の治りも驚異的だった。
あの人がおかしいと思っていたが、傷の治り具合や薬の効き目は、前世基準で考えてはいけないようだ。
ちなみに夕飯、医務室利用料、その他掛かる費用全てギルド持ちらしい。
そこまでされるほどモンスターの未確認事案は珍しく、ディノバルドは強敵だった、ということか……。
それともギルドの思惑的に、俺の力をいつか使いたいが為に、恩を売りたいとかそういうことかも。
……あのシガイアさんなら、有り得ないと言い切れないところである……。
……まぁ何にせよ、久しぶりにゆっくりしている。
近頃忙しかったし、強制的に休みができたとプラス思考。
しかもロハ。いいご身分だ。
……体は動かさないほうがいいが、静かにしていると考えなくてもいいことまで考えてしまう。
先程までのクエストの反省をしよう。
ロアルドロスの狩猟をするまでは良かった。
連続狩猟の選択も、間違ってはいなかったと思う。事実、割と余裕を持って倒せた。
……いや、やはり一度休んで、より余裕を持ってロアルドロスを狩れば、ディノバルドもなんとかなったのではないか?
体力を温存して、憑依状態をうまく使いながらギフトをフル活用しておけば、ディノバルドも倒せたのでは……。
いや、違うな。
アイツは強かった。
恐らく、万全で臨んだとしても、到底叶わなかっだろう。
……悔しい。
……リベンジしたい。
ギフトの力を使わず、奴を、自分の力で倒したい。
そう思うのは、おかしいことなのだろうか。
強ければ、せめて逃げ切れる時間を稼ぐくらい……モンスターをダウンさせる力を付ければ……。
モンスターは、ある一定のダメージを受けると、大体はエリアを変えて仕切り直してくる。
今回は俺が弱かったため、ディノバルドも猛攻を仕掛けてきた、という予想がつく。
女神様のお願い……命令?を遂行するには、アレを屠れるぐらいに強くなるのがいいと思う。
……恐怖を克服できるか。何よりそこまでの力を身に着けられるか。
そこが鍵だな。
うん、大体の振り返り終了。
俺は、まだまだ強くなりたい。
コンコン。
決意をした瞬間、室内にノックが響いた。
面会は終わりになった為、来るとしたら看護師さんかお医者さんか。
「どうぞー。」
ガチャ。
「お疲れさまです。」
「はい、お疲れさまです……。」
真っ白なワンピースに、キレイなロングストレートの黒髪の女性が入ってきた。
……美人さんだなぁ。
身長は俺ぐらいあるかもしれない。女性にしては高め。スタイルもよし。
「えっと……どなたですか?」
「お久しぶりです。初めましてが正しいでしょうか。」
「えっ?」
会ったことがある?でも初めましてってどういう……。
「双治さんの前にこうして現れるのは初めてです。」
「…………えっ。」
確かに、こんな絶世の美女、見たことない。
「絶世の美女……。褒められるのは、存外嬉しいものですね。」
いや、褒めるも何もそこまで整ったお顔立ち、生まれてから今日まで、前世含めて見たことが無いです。
……ていうかこの人、心の中を読んで……。
「双治さんの周囲には、美しい方や可愛らしい方が多いですね。ハイビスさんという受付嬢の女性、実際に見るのは初めてでしたが神界でもそうそう見ない美しさでした。ドールさんという子は、あのあどけない感じがウケるのですね。ファンクラブが二分して掲示板戦争を起こしているのも頷けます。」
「…………。」
「…………。」
「…………えっ!?」
今、何て言った?しんかい?
しんかいって、深い海ではなく、神の世界の神界!?
ていうかその俗っぽい言葉を丁寧な口調で話すあなたはもしや……。
「もしかして……女神様ぁ!?」
「どうも、認識が遅いです。双治さん。」
女神様、現界。
驚きの余り、言葉を失う俺であった。