朝が来た。
ていうかもう日が高い。寝過ぎて腰が痛い。
だがそれはいい。
安静にして回復をはかる。今俺ができることは、それしかないのだから。
だが。
なぜ。
「なぜこの2人はここにいるんだ……。」
俺の寝るベッドに上半身を預け、スヤスヤと眠る2人。
これがショウコとか、まぁドールとかなら、百歩譲って分かる。
ショウコが深夜、寝ぼけてベッドに潜り込んでくることも、宿では珍しくなかったし。
だがここにいるのは。
野郎2人である。
「教官と……なぜイシザキさんがここに……?」
例えば、自分が寝ていたとして。
枕元に、ちょっと気のある幼馴染の女の子が、ベッドに上半身を預け寝ていたとしたら?
それだけで、少し甘酸っぱい気分になるというもの。
そこに「ご、ごめんね。あまりに気持ちよく眠っていたものだから。〇〇君って、寝顔かわいいね。」なんて言われてみたら。
……素敵な話が綴れそうである。
では、ぐっすり眠った起き抜けに、筋骨隆々のおっさん2人が枕元に眠っていたら、どうだろう。
……大抵の人間は、大混乱であろう。
いい話を綴るどころではない。
下手したら110番へテレフォン、即、事案である。
スヤスヤと眠る教官。そしてムキムキのイシザキさん。
……イラッときた。
「……起きろおおおおお!!!!!」
「のわっ!!」
「……。」
ビクッと体を起こす教官とイシザキさん。
「おお!ソウジ君!起きたか!心配したぞ!」
「心配になるのはこっちですよ!?何でこんなところで寝ているんですか!?」
「いや何、昨日イシザキ亭で飲んでいたらな!イシザキ殿と意気投合したのだ!それから……。」
「……。」
「心配になって来てみたのかもしれん!」
「かもって何!?」
「記憶が飛んでいるな!!飲みすぎてしまったようだ!!」
「……何で飲みすぎてここにくる事になったのか、全くもってよくわかりません!」
「いや、私もわからん!!ハーハッハッハッハ!」
力が抜ける。
こっちは怪我人だと言うのに。
「えーと、イシザキさん……?なぜここに……?」
「……。」
「昨日飲みすぎて?」
「……。(コクン)」
「……ここに来てしまった?」
「……。(コクン)」
「……。」
「……。」
「何か喋れよ!!」
何!?何なのこの2人!?
俺を疲れさせにきたの!?
しかも何か酸っぱい匂いがする!!酔っ払い2人ぃ!!
甘酸っぱいとは程遠い状況に、怪我の治りが遅くなりそう!
コンコン。
ガチャッ。
「ソウジさーん。そろそろ起きて……何をしているんですかあなた達!?」
「おぉ!看護師の方ではないか!ちょうどいい、ソウジ君を診てやってくれ!いや、我が弟子ながら、この回復力、恐れ入る!」
「ま、マショルクさん!?いや、そうじゃなくてですね!ここは患者と関係者しか入れません!て言うかどうやって入ったんですか!?あぁ!ドアが壊れている!!」
「そう言えば壊してしまったかもしれんな!!いや、ソウジ君が心配でな!!」
「「……出て行って下さい!!!」」
そそくさと去る2人。
看護師さんとハモってしまった。
そしてついに一言も発さなかったな、イシザキさん。
「す、すみませんソウジさん。あの2人は一体……。」
「あ、知らない人達です。無視してください。」
「は、はぁ……。」
俺の素敵な目覚めをぶち壊した2人には、後退出願う。
朝から疲れた……。
* * * * * *
お医者さんに診てもらった。
何でも、驚異的な回復を見せているらしい。
よく見ると、包帯や薬布が新しいものに変わっている。
とても丁寧に巻かれていた。
お医者さんの話では、昨日看護師が変えた訳ではないという。
……教官か……。
「この薬……秘薬ですよ。一体誰がこんな高いものを……。」
「ハハハハハ、誰でしょうねー。」
教官はもしかして、本当に心配して来てくれたのか。
しかも新しい薬を使って包帯を変えてくれていた?
教官の優しさに、目頭が熱くなる……
……そんなワケないわ!!
て言うか何!?俺が寝ている間に服を脱がせてこの処置をしてくれたってこと!?
いや、ありがたいけど、キモいわ!!
「すごいですよ、この薬効……肋骨も、ほぼ問題なくなっております。」
「そ、そうですか……。」
「心配だった内臓の損傷も見当たりませんね。一日経ってから、症状が出始めるものですが……おお、腫れもひいている。……うん、退院でいいでしょう。1週間は様子を見て安静になさってください。1週間後、また来てくださいね。」
「ありがとうございます……。」
……しかも効果は覿面で、文句も言うに言えない!
あれかなぁ、昔話で小人に靴を作ってもらったおじいさんも、こんな気持ちだったのかな。
子どもながらに「でも、朝起きたら勝手に完璧な靴ができているって、ホラーだよね。」とか思っていたけど。
うん、あの頃の俺よ。お前は正しいぞ。
ちょっと怖いわこれ。
こうしてちょっとしたホラーを味わった俺は、完治とはいかないまでも、歩けるまでになった。
もう少し安静にして、しばらくは宿で過ごすことにするか。
……精神的ダメージと引き換えに、肉体的な回復を手に入れた気分……。
* * * * * *
医務室を後にした俺は、ポーチを腰につけ、ゆっくりと歩いた。
怪我した箇所が少し痛む。
まだまだハンター業は難しいだろうが、ちょっとした日常生活なら問題はなさそうだ。
もしかしたら、女神様から頂いた『回復力を上げる』効果も効いているのかもしれない。
ギルドにいる受付嬢に、退院の手続きなどをするように言われた俺は、受付台の前を彷徨う。
……退院手続きってどこぉ……?
上から吊るされた案内板にも、そんな文字は見当たらない。
どこか適当な受付に行けばいいのだろうか。
迷いに迷っていた、その時だった。
「ソウジさん!?」
「あ、ハイビスさん。」
ようやく知った顔を見つけ、ホッとする。
「ソウジさん!?もう出歩いて大丈夫なんですか!?」
「ええ、お医者さんからは退院で、しばらく安静に、と。ちょっとした日常生活なら、問題なさそうです。」
「あぁ、よかったぁ……。本当に。」
「ご心配おかけしました。」
ハイビスさんは、今日も今日とて受付嬢の制服を身につけている。
昨日女神様が、俺の周りには美人が多いとか何とか言っていたが、確かにな、と思う。
女神様は絶世の美女というレベルだったが、ハイビスさんも負けてはいない。
今日も、アップにまとめた金髪が美しい。ありがとうございます。
「……わ、私の顔に、何かついていますか?」
「あぁいえ、すみません。見つめてしまって。」
「い、いえ。……ソウジさん、もしかして退院の手続きですか?」
「あ、はい。そうなんです。どうすればいいですか?」
「いいですよ、私が案内します。こちらに。」
そう言ってハイビスさんが、端の方の受付に案内してくれた。
ゆっくり座る俺。まだ素早い動きは難しい。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません。大丈夫です。」
ゆっくりとした動きの俺を心配するハイビスさん。
「少し待っていて下さいね。」
「はい。」
そう言ってハイビスさんは、ギルド内部に向かっていった。
何かを探している……。
あ、つまずいた……。
……キョロキョロしている。
……何も見ていない振りをしよう……。
「そ、ソウジ様?」
「は、はい!?」
顔を伏せていると、急に声をかけられた。
思わず顔を上げると、受付台の向こうにヒナタさんがいた。
「ソウジ様?もう大丈夫なのですか?」
「あぁ、ええ。先ほど、退院の許可をいただきまして。その手続き?をハイビスさんにやってもらっているところです。」
そう言ってヒナタさんがハイビスさんを見る。
すると、すぐに声をかけに行った。
そういえば昨夜、ヒナタさんが事務的な手続きをするとか何とか、言っていたな。
朝の衝撃で忘れていた。
2人がこちらに戻ってくる。
「ソウジさん、お待たせしました。」
「いえいえ、ありがとうございます。」
「ヒナタが書類を持っていたのね。探しても見つからないから、焦っちゃって。」
「すみません、ハイビス先輩。ソウジ様、ここをよく見て頂き、サインをお願いします。」
「はい。」
書類に目を通す。
かかった費用の内訳や、退院で間違いないか、費用はギルドが負担する、などの内容が書かれていた。
問題はないので、サインをする。
「お願いします。」
「はい、確かに。」
周囲から何か視線を感じる。
振り返ると、主に男たちの視線が、こちらに集中していた。
あー……この二人、人気あるもんなぁ。
……ちがいますよー?独占しているわけではないですよー?
「そうだ。ハイビスさん。」
「はい?」
「昨日は、ショウコのこと、ありがとうございました。」
「あぁ、いえ。気にしないでください。……ショウコちゃん、昨日のことが、とてもショックだったみたいです。ソウジさんが帰ってくるまで、自分のせいだってずっと言っていて……。」
「そう、ですか。」
昨日、ずっと謝っていたショウコ。
ハイビスさんに宿に送られてからも、落ち込んだままだったようだ。
……早く会って、ショウコと話し合おう。
「手続き、ありがとうございました。俺、宿に戻ります。」
「はい、分かりました。……ソウジさん。」
「はい?」
「ショウコちゃんのこと、よろしくお願いします。あの子の傷はとても深い……私達も心配してるんです。」
「……はい。」
二人を見る。
心底、心配している様子だった。
二人の向こうを見れば、ギルドの職員もちらほら、こちらを気にしている。
……ショウコのことが、気になるのだろう。
ショウコは、太陽みたいな子だ。
最近はギルドに来れば、注目の的。
明るいあの子の姿に、感化された人もいるんだと思う。
振り返ると、笑顔だったり申し訳無さそうな顔をしたりしながら、こちらを見つめるハンター達がいた。
……皆、この話、聞いてたの?
「……ショウコは、愛されてるんですね。」
「……当然です。」
ヒナタさんが口を開く。
「ショウコ様は、いつも一生懸命で……不名誉なあだ名なんて吹き飛ばしてやると、ソウジ様が居ないところで、常に仰っておりました。」
「……ショウコ……。」
「空元気だったのかもしれません。それでも、そんなショウコ様に元気づけられたハンターの方々は少なくないと思います。」
「……。」
「……ソウジ様。よろしくおねがいします。」
……ショウコは、本当に愛されているなぁ。
……うん。元気づける算段はついた。
「ありがとうございます。」
「はい。」
「……ちょっと不躾なんですが、一つお願いをしてもいいですか?」
「……はい?」
ショウコを元気づける。
あの、いつものショウコになってもらおう。
だがその為には、俺の気持ちだけじゃちょっと足りない気がする。
「ギルドの皆さんと……後ろにいるハンターの方々に、少しご協力をお願いしたい。」
「…………ソウジさん。何を考えてます?」
「いえいえ、ちょっとした資料の収集ですよ。」
「…………?」
ギルドの皆さんに聞こえるように、少し大きめの声で話しかける。
ちょっと恥ずかしいけど。
「み、みなさーん!少しばかり、ご協力をお願いします!!」
「そ、ソウジさん!?」
前世の新人研修で学んだ綺麗な礼をかまして。
呆れる面前に、笑顔でお願いを始めた。