モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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65説得のプレゼンをしましょう。

「た、ただいまー……。」

 

 

宿「ホエール」に入る。

な、何か昨日涙を流されて別れた手前、妙に気恥ずかしい……。

 

 

「おや、おかえり。ソウジさん。」

「のわっ!ホエールさん!?」

 

 

ビビった。

いつの間に後ろに!?

 

 

「ほっほっ、わしに気付かんとは、まだまだ本調子じゃないのう。」

「いや、すみません……ただいま帰りました。」

「うむ、お帰り。」

 

 

ホエールさん、気配消すのうまいなあ……。何か前にもこんなことがあったような……。

……まぁいいや。

 

 

「もう、こちらに戻ってよいのかの?」

「はい。安静は必要らしいですが。」

「ハンターさんは流石じゃの。……ドールは今買い物に行っておる。ミヤコさんは分からんが、ショウコ殿は、部屋におるはずじゃ。」

「ありがとうございます。」

「ショウコ殿は、落ち込んでおる……。わしも、あの子が塞ぎ込んどると、調子が出なくての。」

「はい。少し、話し合ってきます。」

 

「……ほっほ。いい顔しとるの、ソウジさん。……頼んだわい。」

 

ショウコはもはや、この宿のムードメーカーだからな。

 

俺は一言、ホエールさんに礼を言って部屋に向かうことにした。

 

 

* * * * * *

 

 

コンコン。

 

 

自分の部屋なのにノックをする。

 

 

「ショウコ、いるか?入ってもいいか?」

「……へ!?ご主人様!?」

「そうだ、ソウジだ。」

「ど、どうぞ?ていうか、ご主人様の部屋です!」

「……そりゃそうなんだけどさ。」

 

 

ガチャッ。

 

 

「……ショウコ、元気か?」

「いやいやいや!それ、ウチのセリフですから!」

「すまん。ボケてみた。元気そうだな。」

「ご主人様……分かりにくいです。」

 

 

うん、いつもの感じ。よかった。

 

 

「ショウコ、昨日はありがとう。おかげで助かった。」

「いや、ウチも無我夢中でした。ご主人様、もう大丈夫なんですか?」

「いや、安静は必要だ。流石にな。でも、日常生活なら問題なさそうだ。」

「そうですか……。よかったぁ……。」

 

 

安堵した表情を浮かべるショウコ。

心無しか、顔が固い。

 

 

「あぁ。ショウコのおかげだ。」

「……ホンマに、そうでしょうか……?」

 

 

ショウコが不穏な言葉を口にした。

 

 

「ウチ……めっちゃ落ち込んでしもうて……。ご主人さまを守るのが、オトモアイルーの使命です。でもあの時……ウチは、ご主人さまを、見捨ててしもうた。」

「ショウコ、それは―――」

「仕方なかったのは、分かります。助けを呼ぶのなら、うちの方が適しとる。それは……理屈ではわかるんです。でも、もし……もし、またあんな事になったら……。」

「…………。」

「ウチはまた、ご主人さまを置いて、逃げるんちゃうかって。そんなん、オトモアイルー失格やないかって。この、堂々巡りがグルグルしてしまいます。」

 

 

見捨てたわけではない。

だが、もしあの場で俺が死んでいたら?

周りは、ショウコを攻めるのかもしれない。

 

主人を囮に命を繋いだアイルーとして。

 

 

「……あの時、心の中でどこか冷静に、『あぁ、またや。』って思ったんです。またウチ、主人を不幸にするんやって……。そんな自分が情けなくて……。そして、取り乱してしもうて……。」

「ショウコ。ヤツは紛れもなく強敵だった。情けなくなんか無いぞ。」

「……頭では、わかってます。ウチは力不足や。だからしゃあないと。」

「…………。」

「でも、理屈やないんです。心は納得せぇへん……。」

 

 

ショウコが、俺を見つめる。

 

 

「ご主人さま……いや、ソウジさん。お願いです。ここで、私を見限って下さい。……ウチはもう、あんな事、したくありません……。」

「…………ショウコ。」

「…………。」

 

 

ショウコは目を落とした。

 

一晩、考えに考えたんだろう。

俺がいない間、ずっと一人で。

そして出した結論は、別離。

 

ショウコは、オトモアイルーとして生きるのを、諦めるということだろうか。

あんなにも熱意を持って、頑張ると言っていたのに。

 

……昨日のことは、それほどまでに辛いものだったんだな。

 

 

……だが。

俺は引き下がらない。

 

 

「ショウコ。俺からも、いいか?」

「は、はい。」

 

 

俺は、強い目で見つめ返した。

 

 

「……いいから黙って、俺について来い!」

「……えぇ!?」

「なーんて言えたら、かっこいいんだろうけどな。スマン、俺もまだまだ強くない。そこまで格好はつけられん。」

「……じゃあ、やっぱり―――」

 

 

どこか不安そうな目で見つめ返してくるショウコ。

 

 

「だがな、俺はこれから、強くなる。」

 

 

キッパリと宣言する。

 

ショウコは、俺のオトモなのだ。

俺の、唯一無二の相棒。

 

同じ高みを目指すなら、ショウコしか居ない。

 

 

「だが、ショウコはオトモをやめたいと言う。」

「は、はい。」

「……なので、説得する材料を用意してまいりました。」

「…………へ?」

 

 

俺はスケッチブックを取り出す。

 

 

「こちらをご覧ください。」

「えっ?えっ!?」

「こちらは先程、ギルドにいたハンターの方々に聞いたアンケートを集計したものです。」

「……えぇ!?」

 

 

困惑するショウコ。

そう、女神様のやり方を少し拝借したのだ。

スケブに書かれた下手な字と帯グラフ。出来の差は歴然である。

だが、俺は構わず続ける。

 

 

「まず聞いてみたのは、『あなたは今まで、自分にはどうにもならないようなモンスターに遭遇したことはありますか?』という内容です。」

 

 

下手くそな手書きの帯グラフを見せる。

慣れない左手で書いたんだ。

それに表計算ソフトなんて使えない。汚いのは許してほしい。

 

 

「こちら、24人中19人が『ある』と回答しております。」

「は、はい。」

「では、『無い』と答えた5人。彼らは新人ハンターさんで、比較的安全な場所での狩りを始められたばかりです。」

「な、なるほど。」

「つまり、ほぼ全てのハンター達が、そうしたどうしようもない事態に遭遇した、と言うことですね。」

 

 

ハンターをやっていればそうしたことは起こりうるようだ。睨んだ通り。

 

 

「じゃあ、『ある』と答えた人。その内訳ですが。」

「まだあるんですか!?」

「何を言う。まだ始まったばかりだぞ。」

「えぇ……。」

「はい、19人中11人が、『すぐに救援信号を打ち、ギルドに助けを求めた。』、6人が『オトモやパーティーメンバーにギルドに救援を要請してもらった、または自分が行った。』、残りの2人は『なんとか倒せた。』とお答えでした。」

 

 

実に半数以上が、ギルドに頼って何とかしたと答えた。

 

 

「俺達はこの『オトモやパーティーメンバーにギルドに、救援を要請してもらった、または自分が行った。』に該当するな。」

「そうですねぇ……。」

「これは、狩猟をすでに終えていて、救援信号や信号弾自体がなかったパターンがほとんどらしい。俺たちも連続狩猟を終えて、予備の信号弾もなかったしな!」

「はい、もう打ち切ってました。」

「この事から、屈強なモンスターに遭遇することも、オトモや仲間が囮となって助けを求めることも、そこまで珍しいことではないということがわかる!そして、信号弾を常に3つ以上持つことが、対策として挙げられるな!」

「お、おぉぉ……。」

 

 

ショウコが少しだけ感心し始めた。

畳み掛ける。

 

 

「では、次の資料です。」

「ご、ご主人さま?これいつまで―――」

「こちらは、先程ギルドにいた職員18人に聞いた、ショウコへの印象です。」

「ツッコミもさせてくれん……。……てか、ウチの印象!?何聞いてるんですかご主人さま!」

「まぁまぁ。えー、これによりますと。」

 

 

二の句を告げさせない。

悪いが、ずっと俺のターン!!

 

 

「『活発で可愛い。』『心のオアシス』『神かわいい。神。』『ペロペロ』『仕事中に来てくれるだけで、力が湧きます』……ちょっと変なのもあるが、ポジティブな意見しかない!!」

「途中の何やねん!こわいわ!」

「あ、大丈夫だ。左手でゲンコツ食らわしといたから。」

「そういう問題ちゃいます!」

 

 

ショウコは、俺が守る。

 

 

「そして……まだあるぞ。」

「変なのはもういいです……。」

「えー……『ショウコちゃんの一生懸命な姿は、ここの職員みんなにとても良い影響を与えています。頑張ろうと思える。私も、あなたを見ると、頑張らなきゃって。そんな気持ちになります。そんなあなたに、またギルドに来てほしいです。』……だそうだ。」

「……これ……まさか、ハイビスさん?」

「さぁな……匿名希望さんだ。ちなみに追伸。『また触らせてください。』だそうだ。」

「やっぱハイビスさんや!」

 

 

ショウコは顔を赤くしている。

恥ずかしかったかな。

 

……だが俺は自重しない。

 

 

「もう一つ。……『ショウコさんのおかげで、私がギルドで働く理由がもう一つ増えました。一人のファンとして、ショウコさんを応援しています。あなたは、みんなのアイドルです。また笑顔でギルドにいらしてください。』……だって。」

「これ、ヒナタさんや……!」

「えー、『追伸。耳や尻尾を触らせてくれたら、私は昇天します。』だそうだ。」

「絶対ヒナタさんや……。」

 

 

神に誓っていいが、集計に手は加えていない。

それでは意味がない。

 

みんなの生の声が、欲しかった。

 

 

「どうだ?これだけショウコは、みんなを元気にしているんだ。」

「変な意見もありましたが……素直に嬉しいです。ウチ、そんなん、全然気にせんと普通にしていただけやのに……。」

「これだけの人が、ショウコに笑ってほしいって、望んでいるんだと思うぞ?」

「……はい。」

 

 

ちょっと嬉しそう。

だが、俺はまだ用意しているぞ。

 

 

「ショウコ、次だ。」

「まだあるんですか!?」

「……次はハンターたちに聞いた、ショウコへの印象をまとめてみました。」

「!!」

 

 

ショウコの表情が、少し固くなった。

……「招き猫」なんて言われていたことを、気にしているんだろう。

そうやって呼んでいたのは、一部のハンターたちだ。

 

 

だが、この集計結果は、俺の予想を大きく裏切っていた。

 

いい意味で。

 

 

「ショウコ。大丈夫だ。悪いものじゃない。そして誓ってもいいが、俺は何も手を加えていない。」

「ご……ご主人さま。」

 

 

身構えるショウコ。

ごめんな、怖い思いをさせて。

だが違う。よく聞いていてくれ。

 

 

「……『とても応援している。』」

「……え?」

「『私も、ショウコちゃんみたいなアイルーがオトモに欲しい。』『主人に忠誠を誓って奮闘する姿。尊敬している。』『周りが何と言おうと、俺は君のファンだ。』」

「…………。」

「『主人の為に全速力でギルドに来た時、こんなにも素晴らしいアイルーがいるのかと思わされた。凄い。』『落ち込んでいる時に話しかけてくれて、とても元気が出ました。また撫でさせてね。』『主人を変えたい時はいつでも言ってほしい。君ならどのハンターともうまくやっていける。力になる。』……。」

「…………あ、あぁ。」

 

 

ショウコは固まっている。

どちらかというと驚きで。

そして、この励ましの言葉の数々が信じられなくて。

 

 

「『あのご主人に変なことされたらすぐに言ってください。法的処置も検討します。』『スケベな主人なら、変わった方がいい。俺は君を大切にする。』……この辺は言いたくなかったが、俺が手を加えていない証だと思ってくれ。ちなみにコイツらもゲンコツを入れておいた。」

「ご主人さま……。」

「ショウコは、俺のオトモアイルーだってな。」

「……ご、ご主人さま……。」

 

 

頭にきたしな。

アンケートにどう答えようが自由だが、俺だって言いたいことはあるんだ。

……俺そんなにヤバそうなやつに見えるのか?

 

 

「よし、俺への精神的ダメージは置いておいて……。」

「置いとくんですか!?」

「まぁ今はそこは重要じゃないし……。次……。」

「明らかに元気がなくなっとりますけど!?」

「えー……『招き猫なんて呼んでいた自分を恥じている。謝罪でも何でもするつもりだ。許してほしいとは言わない。君が一生懸命頑張る姿は、みんなを笑顔にしている。君は、幸福を運ぶ招き猫だ。』」

「……!?」

 

 

ショウコが今日一番に驚いた顔を浮かべる。

……そうだ、ショウコのことを不名誉なあだ名で呼んでいた、その一人がいたのだ。

 

腹が立ったが、本人がどうしても伝えたいというので、読ませてもらった。

 

 

「ご主人さま……これって。」

「ああ。その……『招き猫』なんて呼んでいたやつだ。……しつこいようだが、俺は何も手を加えていない。何ならギルドにいた奴らに聞いてみるといい。」

「そ、そうですか……。」

 

 

幸福を運ぶ、招き猫か。

そっちなら、本当に素敵な二つ名だ。

 

 

「……ギルドにいた奴らは、みんなショウコのことを心配していたぞ。」

「…………。」

「目の前に怪我人がいるのにな。まったく。」

「……す、すみません?」

「いや、ショウコが謝ることじゃないんだけど。」

 

 

ショウコには、伝わっただろうか。

この村のギルドの、みんなの気持ちが。

 

じゃあ最後は、俺の番だ。

俺の思いも伝える。

 

 

「ショウコ。」

「は、はい。」

「……さっきの発言だけどな。嘘じゃないぞ。」

「えっ?」

「俺のオトモアイルーは、ショウコ、お前なんだ。」

「……ご主人さま。」

 

 

ハンターに正式に認められてから。

ショウコとはずっと一緒に過ごしてきた。

 

 

「辛いクエストも、嫌になりそうな時も、ショウコと一緒だから乗り越えられた。本当にそう思う。」

「…………。」

「ショウコが俺にオトモになりたいと言ってきた時、正直驚いた。はじめは同情だったのかもしれない。でもそんなのすぐに消し飛んだ。ショウコは死ぬ気で、俺を支えてくれたからな。」

「…………。」

「俺はこれから、強くなる。強くなりたい。あのディノバルドにリベンジしたい。まだ道半ばなんだ。ショウコがそこに、隣にいないのは、何か……駄目だ。」

「…………。」

「俺を見捨てた?冗談じゃない。何度も言うが、ショウコは俺の命の恩人なんだ。あそこにショウコが居なかったら、俺はここに居ない。」

「…………。」

 

 

必死に、俺の思いを伝える。

ショウコは、泣いていた。

 

 

「だから……。これからも、俺のオトモアイルーとして、そばにいてくれ。……お願いします。」

「…………うううっ!!!」

 

 

ショウコが涙を拭うと。

俺に抱きついてきた。

 

 

「……ご主人さま。」

「お、おう。」 

「……安心する……このにおいや。ウチ、初めに思ったこと、何で忘れとったんやろ……。」

「…………。」

「集落でご主人さまを見つけた時、この人やって思った。ウチの最後のチャンスやって。この人ならって思って。」

 

 

あの時のことを思い出す。

上から飛びこんできた、あのアイルーの事を。

 

 

「ご主人さま?」

 

 

ショウコは俺から離れると、しっかりと見つめてきた。

 

 

「もう、ズルいです。ただ私を説得するんやなくて、みんなから話聞いて、そんなん作って……。これでオトモやめたら、ウチ、ただの嫌な奴やないですか。」

「す、すまん。そんなつもりじゃ。」

「わかってます、わかってます。ご主人さまにそんなつもりは無いって。」

「ああ。」

「……言うとること、コロコロ変わってすみません。お願いがあります。」

「ああ。」

 

 

スッと息を吸うと、ショウコは笑顔になった。

 

 

「もう一度、もう一度だけ、ウチをご主人さまのオトモにして下さい。……お願いします。」

「……ああ!もちろんだ!」

「……ご主人さま……これからも、よろしくお願いします。」

「……ああ。よろしくおねがいします、ショウコ。」

 

 

何だかとても照れくさくて、二人とも笑いあった。

その時間はしばらく続いて。

 

怪我の痛みとか、そんなの忘れるくらいだった。

 

おかえり、ショウコ。

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