モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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66バイトの様子を見に行きましょう。

ショウコと部屋で話した後、外に出かけた。

 

とにかく腹が減ったのだ。実はもう昼過ぎ。

朝はムキムキ人に起こされ、昼はプレゼン資料の作成(笑)とショウコの説得に追われ、全くご飯を食べていない。

 

なのでショウコとイシザキ亭に向かうことにした。

 

 

「ご主人様……。あれ、何でしょうか。」

「何って……あの人だかりのことを言っているのか?」

 

 

ショウコが指さす先。

イシザキ亭の前に人だかりができている。

 

 

「結構な人がいるな。」

「混んでいるんですかね。」

「かもな。……まぁ混んでいたら別の店にしよう。」

「はい!」

 

 

気にせず店に向かうことに。

気にせず……。

 

 

「さぁさぁ皆さん!いらっしゃいいらっしゃい!こちら、あの有名な『イシザキ亭』の持ち帰り弁当にゃ!はい!ありがとうございますにゃ!お釣りの200zですにゃ!はい!B弁当!毎度にゃ!こちら……あー!売り切れですにゃあ……ごめんなさいにゃあ。こ、こちらのA弁当はいかがですかにゃ?え?あ、ありがとうございますにゃ!!はい!ちょうどいただきますにゃ!袋はサービスにゃ!ありがとうございました〜!」

「……。」

「……。」

 

 

何だろう。

あのイシザキ亭と書かれた大きすぎるエプロンを身につけたアイルーは。

地面に付かないよう、安全ピンで止めてあるエプロンは白色、ブラウンヘアーによく似合っている……。

 

 

「なぁショウコ。」

「何です、ご主人様。」

「あれ……そうだよな。」

「……ええ、ウチの目がおかしなってなければ、あの方で間違い無いです。」

 

 

そう、あの弁当を慣れた手つきで売るその姿は。

 

 

「「……オスズさん!?」」

 

 

ハモった。息ぴったりである。

 

 

「おー?おやぁ!?ソウジさんにショウコじゃないかにゃ!?あれ?ソウジさんケガはもういいのかにゃ!?」

「お、おぉ。歩く程度なら問題はないが……。」

「それはよかったにゃあ!ショウコも、クエストお疲れ様だにゃ!」

「あー、あははははー。」

 

 

何だろう。

さっきまでコンビ解消とかオトモやめるやめないとか、そんなちょっとシリアス?だったのに。

 

一気に力が抜ける。

 

 

「そういえばそうだった。オスズさん、働き出したんでしたね。」

「そうなんだにゃあ。お店の手伝いかと思いきや、弁当売りを任されましてにゃ!どうにゃ?似合うかにゃ!?」

 

 

エプロンを軽くつまんで一回りするオスズ。

うん。

 

尊い。

 

 

「オスズさん、めっちゃ似合ってますわぁ……。何でここで弁当売りしてるのか、わかりませんけど。」

 

 

ショウコがごもっともな意見を口にする。

 

 

「それが、あちしもそっちでやりたかったんだけどにゃあ。ケイさんがこっちの方で頑張って、何て言うもんだからにゃあ……。でもでも、あちしはどこでも頑張るんだにゃ!おや!いらっしゃいませ!A弁当最後ですにゃ!はい、ありがとうございます!!」

 

 

どうやら弁当は今ので売り切れたようだ。

しかし、オスズの周りには人だかりが消えない。

 

 

「なぁ、ショウコ。」

「はい、ご主人さま。」

「……天職って知ってるか?」

「あ、ウチも同じ事思いました。まさしくソレです。……似合ってますわぁ。」

 

 

2回目の褒め言葉をショウコが口にする中、「完売ですにゃー!」と頭を下げるオスズ。

拍手を贈る周囲のオーディエンス。

 

状況がよくわからない俺たちは、一緒になって乾いた拍手を贈るしかできなかった。

 

何だこれ。

 

 

* * * * * *

 

 

イシザキ亭に入ることにした。

オスズも店に戻るというので、販売用の立て看板や机を持ってあげることにした。

俺は片手しか使えないので、机を持ってあげることに。

 

「そ、ソウジさんはいいですにゃ!怪我人ですにゃ!!」

「いや、左手は平気なんです。右腕と右の胸から腹にかけてが痛いだけで。」

「そ、そうですかにゃ?やっぱりソウジさんは神のようなお人にゃ……。」

「オスズさん。どうやってこれ、運ぶつもりやったんですか……。」

 

 

バイトを始めたのは昨日のはずだから、今日は2回目の弁当販売なのだろうか?それとも初めて?

……何にせよ、板についた商売っぷりだった。

確かにテイクアウトとか弁当とか売る店はこの辺には無いから穴場かも知れないが……それにしても、である。

 

俺は、マーケティングと人員配置の奥深さについて考えながら店に入った。

 

 

カランカランカラン。

 

 

ドアに付けられた控えめな鐘の音が、店内に響く。

外の混雑の割にテーブルは2つほど空いているようだ。安心して店内に入る。

 

 

「はーい、いらっしゃ……ソウジさん!?お帰りなさい!あらー……こんな怪我して痛々しい……。もう大丈夫なの!?」

「ケイさん、ご心配おかけしました。」

「本当よー全く!少し頼もしくなったと思ったらこんな大怪我して……でもよかったよ!元気そうじゃないか!」

 

 

そう言って俺の背中をバンバンと叩くケイさん。

 

 

「いってぇぇぇ!!!」

「あら!?ご、ごめんねソウジさん!!そこも怪我してるのね!?」

「い、いえ。大丈夫です……おぉぉ。」

 

 

背中を叩かれたまさにそこが重症なんです……。

三角巾の下から左手で患部の下胸部をさする。

ふう……大丈夫だ。

 

 

「あらー……本当にごめんね、ソウジさん。この辺かい?」

 

 

さすさす。

 

 

撫でてくれるケイさん。

おおう。

ちょうど俺の右肘が……その、あなたのアレに当たっております。

 

ふう……。

 

 

「ご主人さまー?もう痛くないですよ、ねー?」

「いででででで!!!!しょ、ショウコ!?だ、大丈夫だから!!洒落にならんから!!」

 

 

ショウコも一緒にさすりだす。

さするどころか、ショウコ!それは圧迫と言うんだ!!!

 

 

「ギブ!ギブギブ!!」

「もう、全く……ケイさん、ご主人さまはが・ん・じょ・うなので、平気ですよ。」

「そ、そうかい?申し訳ないことをしたねえ。」

「い、いえ……マジで大丈夫なんで……。」

 

 

ぷいっと顔を横にするショウコ。

な、何だ!?俺の邪な感情がショウコにはわかると言うのか!?

 

さすが相棒だぜ……。

 

 

アホなやり取りは置いといて。

 

 

「ちょうど弁当を売っていたオスズさんを発見したんです。驚きました。」

「あー……なるほどね!そう言うこと……オスズちゃん!お疲れ様!弁当はどうだった?」

「にゃ!にゃにゃんと!完売しましたにゃあ!」

「まぁすごい!よかったわぁ。厨房に賄い用意してるから、食べてきて!」

「ほ、本当ですかにゃ!やったにゃ!労働とは尊いものだにゃあ!!」

 

 

まさに「ピューン!」といった感じで走り去っていくオスズ。

 

 

「……で、ソウジさん。オスズちゃんのことなんだけど……。」

「……お聞きしましょう。紹介したのは俺ですし。」

「……怪我しているソウジさんに言うのも申し訳ないんだけど……聞いてくれる?」

 

 

そこから事情を伺った。

内容はこうだ。

 

昨日朝、張り切ったオスズが店にやってきた。

まさかオスズ自身が働くとは思っても見なかったケイさんとイシザキさん(兄)。

でも、やる気満々で頑張るというオスズに押される形で、バイトの仮契約期間を設け、様子を見ることに。

 

うん。ここまでは問題ない。

 

 

「一生懸命なオスズちゃんが、本当に可愛くてねえ。兄貴もそれにやられちゃって。」

「あ、お兄さんが。」

「そう。……あっ!今朝迷惑かけた件は、こっ酷く叱っておいたからね!」

「あー、それはどうも……。」

 

 

ダブルムキムキ襲来事件の話は、一旦横に置いておく。

 

それからランチタイムになるまで。

オスズに色々と教えていたケイさんだったが、ここでオスズの本領発揮。

正にやる気が空回り。

何枚も皿は割るわコケて水はこぼすわ、挙句机に頭をぶつけてでかいたんこぶ作るわ。

 

 

「そらひどいわ……。」

 

 

思わずショウコの顔が引きつる。

 

 

「で、見るに見かねて、兄貴がテイクアウトの弁当を作って売ってみたらどうだって言ったら、これがもう大成功!」

「なんと……。」

 

 

才能とは、どこにあるかわからないものである。

 

 

「だから私も、正式雇用でいいかなー、ってね。ホールの仕事は、まぁ少しずつ覚えてもらいながら、暫くは昼の弁当販売をがんばってもらおうかなって。」

「いいんじゃないですか?オスズさん、とても活き活きしていましたし。」

「そう?よかったぁ……実は最初、弁当販売をお願いしたとき、すごく落ち込んでいたから……。」

 

 

オスズからしたら、厄介払いされたと思われたんだろうな。

まぁ実質そうなんだが。

 

ショウコが口を開く。

 

 

「……ちなみに賄いって……オスズさん、大量に食べてはりません?」

「そこは……まぁお給料から代引ね……。」

「差し引きどれぐらいですか?」

「……トントン、かしらね。」

「おぅふ……。」

 

 

つまりは弁当販売した分だけ食べるってことかよ。

すげぇなオスズ。

 

 

「ちなみに、兄貴は『こんなに作りがいがあるのは初めてだ!』ってやる気なのよ。だからまぁ、いいかって。」

「食う分は働いてるわけですしね。」

「そうそう。あっ、じゃあそういうことで!はいはい!お待ち下さいね!」

 

 

そう言うとケイさんはお客さんに呼ばれ、行ってしまった。

 

 

「この忙しさが解消されればいいんだけどな。」

「オスズさんなりに頑張ってるんやと思います。」

「……そうだな。応援しよう。」

 

 

オスズに陰ながらエールを送る俺とショウコ。

俺たちができるのはここまでだ。

社会人として、頑張れオスズ。

 

 

ちなみにその後、俺とショウコの定食を持ってきたオスズが転びそうになり、ヒヤヒヤするということがあった。

 

……頑張れ!オスズ!

 

 

* * * * * *

 

 

昼が遅かったこともあり、俺たちがランチ時間の最後の客となった。

お兄さんとオスズが食器を洗う音が聞こえる。

 

伝票をカウンターに持っていく。

 

 

「じゃあ会計で。」

「はいはーい。……ソウジさん!スタンプ10個溜まったから、15%引きね!」

「おぉ。そういえばその制度があった。」

 

 

いつだかのイシザキ亭改革案の一つ、ポイントカードの導入。

俺が提唱したものだ。

 

 

「えーっと、ちょいと待ってね……720zにドリンクが2品で……1840zだから……えーっと?」

 

 

ケイさんが頑張って計算してる。

……ダジャレじゃないぞ。

なんて下らないことを考えていたら、ケイさんの後ろからオスズがひょっこり顔を出した。

 

 

「ケイさん、1564zだにゃ。」

「あら、ありがとうオスズちゃん!ソウジさんお待……えっ!?」

「はにゃ?」

「オスズちゃん!?計算早くない!?」

 

 

俺も驚いた。

待てよ、720zの定食と200zのドリンクで920z、それが2つで1840z。その15%引きだと……276z引いて……1564z!?

……うん、合っている気がする。自信は無いが。

 

 

「……ケイさん、多分合っています。」

「うそ!!……スゴイわねオスズちゃん!!」

「にゃ、にゃあ?」

 

 

偶然なのか?

試しに俺からも問題。

 

 

「……オスズさん、今日の弁当の売上は?」

「えーっと、34000zですにゃ。」

「内訳は?」

「A弁当800zとB弁当900zが20個ずつですにゃ。」

「……合っている、かな?」

 

 

俺も自信がない。

速い!速いぞオスズ!

 

 

「すっごーい!オスズちゃん!!計算得意なのね!?」

「にゃ、にゃあ。これでも、集落の収支計算をする仕事をしてましたからにゃ。店の計算ぐらいなら朝飯前ですにゃ!」

「本当に!?じゃ、じゃあ……。」

 

 

今度はケイさんが、今日の会計の伝票を取り出す。

 

 

「これ、今計算できるかしら!?」

「は、はいにゃ!」

「よかったぁ〜。私も兄貴も算術が苦手でね!ランチとディナーは収支別にしてるから、昼に計算締めをしてくれるならとても助か―――」

「62795zですにゃ。お弁当販売分も含めて、にゃ。」

「「「「!!!」」」」

 

 

俺もケイさんもショウコも、何なら厨房からこちらを覗いていたお兄さんまで驚いている。

 

オスズがとんでもない力を隠し持っていた。

 

 

「お、驚きや……。」

 

 

どうやらショウコも知らなかったらしい。

恐るべし、集落の長。

 

 

「にゃ、にゃあ?み、皆さん大丈夫ですかにゃ?」

「……オスズちゃん!」

「ははは、はいにゃ!!」

 

 

ケイさんがオスズの手を取る。

 

 

「ぜひウチで働いて!お願い!給料は弾むわ!よろしくおねがいします!」

「わ、わかりましたにゃ!全力でがんばりますにゃ!!」

 

 

ガシッ。

 

 

手を固く取り合う二人。

オスズのイシザキ亭での正式雇用が決まった瞬間であった。

 

 

* * * * * *

 

 

その後、お兄さんを含めた3人で協議し、オスズを弁当販売員兼会計担当として雇うことになったらしい。

オスズもイシザキさん達の役に立てて、心底嬉しかったらしい。

 

良かったなぁ、オスズ。

 

俺としても、エプロン姿のオスズが今後も見られるならば、無問題である。

さらにそこにケイさんのエプロン姿があるならば、尚いいだろう。

 

 

「……ご主人さま?鼻の下伸びてます。」

「の、伸びてないぞ!」

「……ウチもウェイトレスやればええんかなぁ……。」

「ん?ショウコ?なんか言ったか?」

「……いいえ!……ウチは、ご主人さまの唯一無二のオトモですからね!」

「……?その通りだが……。」

 

 

当たり前の事をのたまうショウコ。

まぁいい。これからイシザキ亭はますます流行っていくことだろう。

頑張れよ、オスズ。

 

 

ちなみに、あまりに繁盛しすぎた為に、新たにバイトを雇うことになり、その給金や税金の計算まで任されていくオスズの活躍が光るのは、もう少し先の話。

 

 

人の才能とは、本当にわからないものである。

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