セツヒトさんに大体の事を説明する。
俺がこの世界の人間ではない事、神様にギフトをもらって色んなことができる事、そしてディノバルドにどうやって立ち向かったか……。
カミングアウトも三回目になると慣れたものである。
「へぇー。じゃあ着替えとか楽じゃんねー。」
……ここまでリアクションが薄いとは予想してなかったが……。
「け、結構なことを俺言ってると思うんですが……リアクション薄くないですか?いや、俺が言うのも何か変ですが。」
「んー?いや、だいたい予想してたっていうかー……初めてあった時から、なんかこう、ね?違うなこの子、って思ってたよー?」
「マジですか。」
「マジマジー。」
やっぱこのクラスの人のになるとわかってしまうものなのかなぁ。
教官も感じていたみたいだしなあ、最初から。
「でー?その……武器を勝手に操作するやつー?それを使って、ディノバルドとやり合えたのー?」
「正確に言うと、アイテムの<調合>で罠を作って仕掛けて斬りつけ、作って仕掛けて斬りつけ……その繰り返しですね。」
「ほほーう……それはすごいねー!それでヤツを追い込むとか、大したもんだよー?」
「そ、そうですか?俺、『そんな力ずるいー』とか、そんな感じの反応を想像してました。」
「うーん、ハンター長いことやってたからねー。そういう理不尽な存在って、結構いたよー。まぁ、流石にそんなめちゃくちゃな力持った人、知らないけどさー。」
「理不尽な存在……。」
「……あんまり言いたくないけどー……マショルク達とかねー。いやー初めてみた時は、どんだけ力の差があるのかって思ったもんだよー?うんうん。懐かしいねー。」
俺からしたらお二人ともザ・ベストオブ理不尽なんですが。
「ま、この辺の話は追い追いねー。ソウジが話してくれたんだし、いつか私の事も教えるよー。……つまんないかもよ?」
「い、いやいやいや!!めっちゃ気になりますって!!」
教官との仲の悪さについては、あれだけ見せられたのだ。
気になるって、セツヒトさん。
だが……今日の本題はそこではない。
「……セツヒトさん、今日の本題は、この話をするためでは無いんです。」
「おー?そうなのー?」
「いや、お礼はもちろんしたかったんですけどね。」
「あー、もしかして、武器の修繕?」
「あ!それもあります!……でもその前に、お願いしたいことがありまして。」
俺は、強くなりたい。
セツヒトさんが教えてくれるかは分からない。
でも、双剣を操るあの姿。
完璧だった。
俺がディノバルドを倒せるような力を得るために、力を貸して欲しい。
「セツヒトさん。お願いです。……俺に、剣を教えて欲しいんです。」
「…………。」
「勝手なことを言っているのはわかっております。ですが!あの時のセツヒトさんの双剣は、完璧でした!」
「…………。」
「お願いします!ぜひ、俺に双剣を教えてください!」
とにかく、思いの丈を言葉にして言ってみた。
全てまじりっけなしの本音である。セツヒトさんの剣技に惚れてしまった、と言ってもいいかもしれない。
だが……セツヒトさんは無言のまま俺を見つめている。
これは……ダメだったか……?
「………あ、あーあー。ビックリしすぎて、息するの忘れちゃったよー!」
「す、すみません。」
「いやー、おっどろいたー。私が、ソウジに、かぁ。」
「はい……難しいですかね……。」
「うーーーーーーん……。」
考え込んでいらっしゃる。
やはり一度剣を置いた身としては、なかなか応えられないということなのだろうか。
だとしたら、俺が言っていることは非常に勝手なお願いだ。
仮に、セツヒトさんの何らかのトラウマ的なものを刺激してしまっているのであれば。
それは、大変に申し訳ない。
「セツヒトさん、すみません。もし昔のーーー」
「せっちゃんー。」
「せ、せっちゃんさん、すみません。もし昔の何かが関係して教えることが難しいと言うのであれば、俺は……。」
「へ?いや、そんなん全く無いよー?」
「無いんかい!」
関係なかった。
ザ・杞憂。
「だって引退したのはさー、ここのスジやっちゃったからだしー?実はここから先が……よっ……んー、上がらないんだよねー。ほら。」
そう言って右腕を上げようとするセツヒトさん。
肩から上に腕が上がっていかない。
「うまく剣を振りかぶれなくてねー。それでー、引退ー。」
「……まさかそんな状態で、ディノバルドを……?」
「そだよー?」
恐るべし、セツヒトさん。
「まああの時はムカついてたしー?マショルクもいたからねー。アイツ、本当に言いたくないんだけど、腕だけは確かだから。」
「あー、なるほど……。」
そういえば、セツヒトさん、接地しての攻撃は足ばかり狙っていた。
何か理由があるとは思っていたが、これが原因だったのかな。
「でー、教えるのは、全然いいよー?」
「マジですか!?」
「うん。ただねー……。」
言いよどむセツヒトさん。
「やはり問題がありますか?」
「いやー、ギルド的にも私の仕事的にも、支障は来さないと思うんだけどねー。うーん。」
……これだけ悩むということは、やはり無茶なお願いだったのだろうか。
「えーっとねー……。」
しばらく間を開けて、セツヒトさんが予想外のことをのたまった。
「私さー、教えるの、超絶ヘタッピなんだよねー。たはははー。」
「…………へ?」
顔を少し赤らめて言うセツヒトさんに。
肩の力が抜けてしまった。
* * * * * *
宿に戻ってきた。
武具屋とは目と鼻の先。
ホエールさんに挨拶をしたあと、部屋に入る。
「見て覚えろってことかなぁ……。」
先程のセツヒトさんとの会話を思い出す。
セツヒトさん曰く、自分が教える力は、全くもって無いということだった。
「何ていうのかなー、ここまで感覚?でやってきたからさー。教えるときに擬音が多くなるんだよねー。それで武器の扱いも武具の加工もやってこれちゃったからねー。」
要は、天才肌、ということなんだろう。
前世にゴルフを習ったことがあるが、得てして上手い人=教えるのが上手い人、ではなかった。
言葉がうまいとか、そういう能力も必要なのだろうが、一番わかりやすかったのは、苦労してようやく100を切ってきたような先輩だった。
自分が壁にぶつかって、乗り越えてきたポイントが多ければ多いほど、教えられる引き出しも増えていくというもの。
名選手が名将になれるわけではない、ということか。
……なんか納得がいく。
器用に何でもこなせる人の教えって、妙に実感が薄いというか。
セツヒトさんは、間違いなくその部類だと思う。
更にセツヒトさんと話をして、とりあえず明日から剣技を見せてもらえることになった。
「明朝、朝ごはん食べたらー、うちに来てー?」
とりあえず、そこで話は終わり。
こう考えると、教官の教え方はものすごく丁寧だった気もする。
いや、めちゃくちゃスパルタだったし、死ぬほどきつかったけど……「絶対無理ぃ!」というギリギリのラインをいつも攻めてきた。
教官は数少ない「名選手で名将」なタイプなのかもしれない。
「とりあえず……明日からまた頑張るか!」
怪我が完治したわけではないし、とりあえず見るだけしか、今はできないしな。
そういう意味では、この形で良かったかもしれない。
「そうと決まれば、ショウコが帰ってきたら、飯でも食いに行くか。」
体を少し動かす程度なら問題はなさそうなので、飯を食ったら筋トレとイメトレ、風呂のルーティンは再開しよう。
腕を使わないように気をつけて。
これからの計画をなんとなく考えながら、部屋でゆっくり時間を潰した。
* * * * * *
明朝。
久々に再開したランニングで、少し落ちてしまった体力を実感。
10周程度の村の周回が、恐ろしく長く感じた。
「やっぱ体力落ちてんなぁ……。鍛え直しだ……。」
「そ、それに……ついていくのがやっとのウチは……はあっ……はあっ……どうすればええんですか……?」
ちなみにショウコもランニングを再開。
10周に頑張ってついてこられた。
「いやいや、これではいけないな。明日からスピードをあげよう。1時間を超えてこの体力では、マズいと思う。」
「普通アイルーのほうが……はぁっ……速いもんですけど……ご主人さま、十分化け物です……。」
バタン。
ショウコが目をクルクルして倒れた。
「きゅう〜……。」
「おお……きゅうって言いながら倒れるもんだな。人って。」
人ではなくアイルーだけど。
まぁいいや。
ショウコをおんぶして、宿まで運ぶ。
朝も早くから、気を失ったアイルーの女の子をおんぶして宿に連れ帰る男……。
道行く人に変な目で見られてしまったが、スキル「気にしない」を発動した俺に、死角はなかった。
スルー能力は鍛えられております。
なお、宿で朝食をとりながら、ドールにプチ怒られしてしまった。
「怪我の治りたてで、ショウコちゃんが倒れるまで走っちゃ、だめだよ?」
実年齢では娘と言っても差し支えない娘さんに怒られてしまった。
はい、ごめんなさい。
* * * * * *
武具屋にやってきた。
今日から、セツヒトさんの特訓?が始まる。
と言っても、まだ見るだけなんだけど。
武具屋のドアには「おやすみなさい☆」の札がしっかりとかかっている。
毎回微妙にセリフが違うのが、セツヒトさんクオリティ。
気にせず、ドアを開ける。
ガチャッ。
「おはようございます!」
第一声は元気よく!
…………。
返事がない。
……まだ寝ている可能性は高い。
仕方がないので、武器を見て待つことにする。
約束の時間は特に決めてなかったからなぁ。
武器を物色するか。
…………。
………………。
いや、遅いわ。
起こしに行ってもいいものか……でも、セツヒトさんは寝るとき裸族だし……。
「せ、せっちゃんさーん?」
…………。
返事は無い。
うーん。
しょうがない、悪いが上がらせてもらおう。
べ、別に裸を見たいわけではないんだからねっ!
「お、お邪魔しまー……ん?」
何か音がする。
微かだけど、風を切るような音。
武具屋の裏手、入り口とは反対側から聞こえる。
これは……。
「素振りの音……?」
……もしやと思い、武具屋の中、セツヒトさんの居住スペースを横切って裏手へ。
そこには……。
「いた……。」
建物の裏に抜けると、小さめの庭のようなスペースが広がっていた。
建物が日を遮り少し暗めのそこは、広さが大体20平米ぐらい。
宿「ホエール」の庭よりは小さい。
そこで、Tシャツにスキニージーンズというラフな格好で、剣を振るう銀髪の女性が一人。
……セツヒトさんである。
「…………フッ。」
息を浅めに吐きながら、両手の双剣を横薙ぎに振るう。
風を切る音はそこまで大きくない。ゴルフや野球のバットの素振りのそれとは違う。
「…………フッ。」
……とんでもなく速い。
憑依状態の俺でも、こんな剣速、出せるだろうか。
自分のことはよく分からないが、セツヒトさんはその速さを維持しながら、ほぼ全く同じ角度で素振りを行っていた。
「…………フッ。」
しかも一定の間隔で。
見てわかることは、身体の使い方が俺とは全く違う。
見るからに細い腕なのに、剣が振るわれるある一瞬だけ、とんでもない速さに到達する。
力が入っているようには見えない。
「…………ソウジー?」
「はっはい!」
「おはよーん。ちょっち、待っててねー。今、……終わるから…………フッ。」
ヒュン!
最後の一振りを終えると、いつものセツヒトさんがこちらを振り向いた。
「……見てたー?」
「へ?」
「だからー、今の素振り。見てたー?」
「あぁ、はい。」
もちろん。4回だけだが。
「んーっとねー、素振りするときはこんな感じなんだー。」
「こ、こんな感じ……。」
「うん。」
「…………。」
「…………。」
「……え!?終わりですか!?」
その説明だけ!?あの剣速の出し方とかコツとか、そういうのは!?
「……あー、言葉にしなくちゃだ。ごめんねー、ホント苦手なんだ……。」
「い、いえっ!見て感じます!見て覚えますよ!」
「ホントー?まぁ、初めてだし、そうしようかなー。……なんか私が言葉にするとー、余計分からなくなるみたいでねー。」
「そ、そうなんですね。」
うん。
「教えるのが苦手」と言うが、まさに。
だが、観察眼は教官に鍛えられまくった。
どうせ俺の体はまだ万全ではない。
見に徹することにする。
「えーっと、今日はねー……わたた、えっとー……。」
「…………。」
慌てながら、何かのメモを取り出すセツヒトさん。
この人のこんな姿、初めて見るぞ!?
「あー、あったあった。……今日はねー、私の狩猟を見てもらおうかなって。」
「……え!?狩猟!?」
「うん。あー、大型じゃないよー?村の近くの小型を数頭、だねー。」
「は、はぁ。」
「やっぱり教えるのって難しくてさー。実践あるのみー?」
言わんとする事はわかる。
実際にまず手本を見せる。これはどんな教えでも共通すると思うから。
……セツヒトさんレベルの狩猟を見られるなんて、またとない機会であるからして。
ありがたいです。
「じゃあギルドに行こっかー。あ、歩きで行くよー?大丈夫ー?」
「はい!ランニング程度なら問題ないです!」
「んー。よろしいー!……今の、先生っぽい?」
「……はい。」
何だろう。
いつもはのんびりクール?な雰囲気のセツヒトさんだが……どこか楽しんでないか?
ピクニック気分で小型狩猟……。
まぁセツヒトさんレベルなら朝飯前なんだろうけども。
とりあえず俺たちは、ギルドに向かい、適当なクエストを選んだ。
場所は村にほど近い草原。
そこで俺の地獄の特訓が始まるとは、この時は知る由もなかった…………。