モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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70訓練の意図について、考察しましょう。

キツかった。

 

かなりキツい訓練だった。

双剣があれば、バッタバッタと小型モンスターたちを屠れるのに。

 

装備が全く無いというだけで、こんなにも違うものか……。

 

 

「……もう夕方か……。」

 

 

体を起こす。

幸い怪我はない。あるのは少しばかり残る疲労のみ。

相変わらず丈夫なこの体に感謝しつつ、ベッドに座り込んでまどろんでいた。

 

 

トンットンットンッ……。

 

 

誰かが階段を昇る音がする。

 

 

コンコン。

 

 

「ご主人さまー?帰ってますー?」

「おぉ、ショウコか。あぁ、いるぞ?」

「よかった、入りますよー?」

「ああ。」

 

 

ガチャッ。

 

 

ショウコが帰ってきた。

例のクエストの帰りなのだろう、オトモ装備を身に着けたまま部屋に入ってくる。

 

 

「ただいま帰りました、ご主人さま……だ、大丈夫ですか?」

「あぁ、すまん。今起きたところでな。ボーッとしてた。おかえり、ショウコ。」

「は、はい。ただいまです……。なんかこういうの、初めてですね。」

「確かに……。ショウコ、今日はどうだったんだ?」

 

 

ショウコのクエストが気になる。

件の、意気投合したというハンターとオトモ。

初めての共同狩猟だ、大丈夫だったんだろうか。

 

 

「はい!何とかアオアシラ、倒すことができました!」

「お!大型をやったのか!」

「はい、何でも森を荒らしていたらしくてですね。ウチらが力を合わせて、退治できました。」

「そうか、よかった。……実はちょっと心配してた。」

「え?」

 

 

ショウコがまた、トラウマを引っ張ってくるんじゃないかと、俺としては少し心配してたのだ。

 

 

「いや、昔色々あったろ?そこのところを……ちょっとな。」

「ご主人さま……。」

「い、いやいや!何もなさそうでよかった!安心したよ。」

「……ふふっ。ご主人さま、ウチの装備、外してくれます?」

「へ?あ、あぁ。」

 

 

情報画面から<オトモ装備>を選択。

ショウコの装備を外して、すぐさま普段着を着せる。

 

気分は何だか着せ替え人形である。

ちなみに着せ替えの時は、俺は後ろを向く。

マナーマナー。

 

 

「どうだ?」

「ありがとうございます、ご主人さま。」

 

 

そう言うと、ショウコは俺の横に座った。

アイルー特有の耳が、ぴくぴくと動き、金色の髪が揺れる。

俺に頭を預けてくると、ニコニコ笑いながら、ショウコが口を開いた。

 

 

「もう、ご主人さまは心配し過ぎです……ちょっと嬉しいですけど。」

「そ、そうか?」

 

 

妙に距離が近くてなぜかドキドキしてしまう。

いやいや、相手はショウコだぞ!

 

……俺は過保護なのか?

 

 

「……ご主人様、ウチは幸せもんです。こんなに心配してもらえて。」

「そりゃ、心配もするさ。」

「ふふっ……今日のクエストは、大丈夫でしたよ?ハンターさんも、オトモのトツバも……ま、まぁ若干癖のある人らやったけど。なんか、楽しかったです。」

「……あぁ。よかった。」

 

 

……少し寂しいような……何だこの気持ち。

いやいや、喜ばしいことなんだ。歓迎しなければ。

 

 

「……ご主人さま、もしかして……妬いてます?」

「い、いやいや……なんつーかなぁ……うん。」

「ふ、ふふふ。ふーん。ご主人さまー。」

 

 

俺の左腕に耳をこすりつけてくるショウコ。

……ち、ちくしょう。隙を見せてしまったような……恥ずかしいぞ!!

 

 

「と、とにかくだ。ショウコ。」

 

 

少し真面目な顔をして、ショウコに向き直る。

顔が少し赤いかもしれないが、そんなん知らん!!

 

 

「俺も、頑張って強くなる。ショウコも、クエストを頑張ってくれ。……いっしょに、アイツにリベンジするぞ!」

「……ふふ。はい!ウチも、がんばります!」

 

 

多少……いやかなり強引なやり方だが、ごまかした。

 

だが、言ったことは本音だ。

アイツ、ディノバルドにリベンジするんだ。

 

ショウコと一緒に。

 

 

「あ。」

 

 

唐突にショウコが声を上げる。

 

 

「そういえば、セツヒトさんとの特訓はどうやったんですか?」

「あー……うん。絶賛悩み中……。」

「え?」

 

 

俺はショウコに、今日の特訓の話をした。

素手で小型を屠る。

字面にすれば簡単なこの行為を、いったいどうやって達成すればいいのか。

 

 

「うわぁ……それはキツイですねぇ……。」

「あぁ。控えめに言って、死ぬかと思った。」

「うーん、流石に人間さんにはそれはキツいんちゃうかなぁ……。」

「そうなんだよ……あれだけ余裕だった小型のファンゴだが、素手となると攻撃が全く効か…………ん?」

 

 

ん?

何か引っかかる。

 

 

「ショウコ、人間さんにはって……どういう事?」

「へ?」

「いやだから、人間さんにはキツいんちゃうかって、今。」

「あー。そらアレです。うちらアイルーはまず、素手で訓練しますからね。でも人間さんは、うちらみたいな爪無いから、大変ちゃうかなって……。」

「……そうか。ショウコはいつも爪のグローブみたいな武器だよな……。」

「ぐろーぶ?ってのはよく分かりませんけど……ウチのは手に付けるタイプの武器ですね。やっぱり、これが一番しっくりきます。まぁトツバみたいに武器を持つ奴も結構いますけど。」

 

 

素手で戦う……まではいかなくても、ショウコはかなり素手に近い戦い方だ。

……これは、チャンスかもしれない。

 

 

「ショウコ。」

「はい?どうしました?」

 

 

俺は思いついたことを口にする。

 

 

「俺に、ショウコの戦い方を、レクチャーしてくれないか?」

「……えぇ!?」

 

 

* * * * * *

 

 

宿の庭へ移動。

軽く準備運動をする。

 

 

「ご主人さま……本気ですか?」

「あぁ、本気も本気だ。さっきも言ったろ?この戦い方を身に付けることが大切なんだって。」

「は、はい。」

 

 

なぜセツヒトさんが、俺に武器無しでモンスターに挑ませるのか。

考えてみた。

 

そして、辿り着いた一つの結論。

 

俺は武器での戦いに、慣れ過ぎてしまったのではないか、と言うことだ。

俺は、憑依状態になれば、一瞬だけG級並みの剣の使い手になれる。らしい。

もちろん様々な制約は付きまとうが。

 

だから、その剣の動きを真似して、模倣して、自分自身をある意味での師として、自主訓練に明け暮れていた。

この体はとても優秀だ。体に動きを覚えこませていけば、少しずつモノにできていった。

 

……それでも、ディノバルドには、敵わなかった。

 

単純に訓練不足、力不足だと言われればそれまでなんだけど。

憑依状態の俺なら、何とかダメージを与えられていたが……ギフトをフル活用して罠にハメまくって、それでようやくって感じ。

……セツヒトさんは、俺に素手での戦い方を会得させることで、最も基本的な戦い方を仕込もうとしているのではないだろうか。

凝り固まった俺の剣の型を、一度ぶち壊そうとしているのではないだろうか。

 

俺が今までやってきた訓練は、素人が超級のプロの真似をするようなものだったのかもしれない。

まるで、料理もしたことの無いような子どもが、一流シェフの調理を真似するような。

バスケットをしたこともない人間が、とりあえずNBAの選手のフォームを真似してシュートをするような。

 

模倣が無駄だとは思わない。

だが基礎の基礎から鍛えていくことしか、得られないモノは必ずある……と思う。

 

 

以上が、俺が考え出した結論である。

 

 

「一朝一夕で身につくようなものじゃないよな……。だから、ショウコ。頼む。」

「わ、分かりました。」

 

 

ショウコと向き合う。

これから行うのは、いわゆるステゴロである。

ただ怪我防止の為、ヘッドギア代わりのヘルムをお互いに装着。

拳にも、グローブ代わりの海綿素材を巻き付けた包帯を装着。

故ロアルドロスさんの鬣である。

 

ザ・有効活用。

 

急所や弱点の攻撃は寸止めで。

怪我したら元も子もないしな。

 

……やろうとしていることはかなり野蛮ではあるが……。

実践訓練が一番、効率が良い気がする。

この体は、覚えが早い。丈夫だし、正に実戦向きだろう。

 

 

「じゃあ、いきますよ!」

「よし、こい!」

 

 

構える。

構え方からしてわからん。

 

 

「ご主人さま、利き手で顎、守ったほうがええです。」

「え?こ、こうか?」

「そうです。あと、体は正面ではなく、肩を前に出す感じで……そうです。」

「なるほど。」

 

 

人体の弱点である正中線を、なるべく見せないようにするのか。

……まんまボクシングだな。

 

 

「ウチも、素手は久しぶりなんで……痛かったらごめんなさい!」

「気にするな!思いっきり来い!」

「では……。」

 

 

スウッ。

 

 

ショウコが浅く息を吸う。

 

 

「シッ!」

「!!」

 

 

物凄い速さで俺の間合いに入ったショウコは、ワンツーのリズムでいきなり顔を狙ってきた。

俺の顎を守る右手を弾くと、2発目の拳が同じ箇所にやってくる。

 

 

パァン!

 

 

「ぐぁ!」

 

 

きれいに顎にパンチをもらってしまった。

俺の体が開く。

 

 

「すんません!」

 

 

口では謝りながらも、懐に入ったショウコは、俺のボディーにもう一発拳を入れる。

完全に体が開いていた俺は、それをもろに食らってしまった。

 

 

「げふ!」

「ご、ご主人さま!!」

 

 

orzのポーズでうずくまる俺。カッコ悪い……。

 

 

「す、すんません!寸止めがうまくできひんと……。」

「い、いや、いい。気にするな。ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

痛くなければ、覚えない。

よく言うものだ、二度とこんなの貰いたくない。

 

 

「……ご主人さま、足、止まってます。」

「足?」

「はい、単純ですけど、動いていたら攻撃は中々当たりません。」

「なるほど。……もし避けた先に攻撃が来たら?」

「……そん時は。」

「……時は?」

「覚悟してください。」

「……がんばります。」

 

 

こうしてショウコとステゴロの特訓を続けた。

 

ショウコがくれるアドバイスは、実に分かりやすい。

言いにくいようなこともズバズバ言ってくれるので、こっちも助かる。

 

飯も食わずに正直フラフラだが、頑張った。

 

 

「ここらで終わりましょうか……ご主人さま、フラフラです……。」

「す、すまん。流石に腹減って腹減って……。」

「とりあえず、銭湯行きましょうか。ウチ、体ベタベタや。」

「俺も。ドロだらけ。」

 

 

二人して銭湯に向かうことに。

 

 

「ありがとな、ショウコ。明日も、頼んでいいか?」

「エエですけど、無理はせんでくださいね。怪我、治ったばかりなんですから。」

「ああ、ありがとう。」

 

 

大通りを歩きながら、俺は先程までの特訓を振り返っていた。

 

ちなみに銭湯では完全に別行動。

ヒナタさんと色々あったので、銭湯では自重することにしたのだ。

 

「ウチはご主人さまの体を流すんです!」とショウコは不満げだったが、納得してもらう他ない。

ドールには言ってないが……まぁ空気を読んでくれるだろう。

……そもそもドールぐらいの年齢の子が俺の背中を流すのは、結構……危険なのでは無いだろうか……?

 

 

ま、まぁ、この辺は追々考えよう!

うん!

 

今はとにかく風呂と飯。

今日も一日頑張りました。

 

 

* * * * * *

 

 

夕飯は宿で食べた。

疲れていたのもあるが、ドールがなんだか最近不機嫌続きなので気になってしまった。

 

 

「はい、どうぞ。」

「はい、いただきます。」

「召し上がれ。」

「…………。」

 

 

……セツヒトさんと訓練を始めてから、ドールはこんな感じ。

 

つ、冷たくないですか?

いや、ご飯はいつもどおり美味しいんですが。

 

 

「ご主人さま……訓練もええですけど、ちょっとそっち方面も鍛えた方がええですよ?」

「そっち方面もって……。」

「ズバリ、女心です。ドールちゃん、むくれてますねぇ……。あれ、そのままでええんですか?」

「いや、良くない。何とかしたい。」

「じゃ、ご主人さまができることは何ですか?」

「……謝る?」

「……多分それ、逆効果です……。」

 

 

だめなようだ。

ショウコに教わることは、まだまだたくさんありそうだった。

 

 

* * * * * *

 

 

ベッドに入る。

 

頭を切り替えていく。セツヒトさんとショウコとの訓練を今一度振り返ろう。

 

まず今の課題は、素手でモンスターを倒すこと。

その為に必要そうなのは、力のある一撃。

ショウコとやってみて感じたのは、意外と双剣と体の動かし方が似ているということだ。

常に動く。手数でダメージを稼ぐ。体力とスタミナの管理に気をつける。

うん、似ている。

 

セツヒトさんが意図を持ってこの課題を出したのがわかってきた。

 

しかし、逆に全く違う問題点も見つかった。

 

間合いである。

 

俺の拳が、相手に全く届かないのだ。

届いても、力の乗らない一撃。

単純に近づけばいいのだが、それはこちらが攻撃を食らうリスクもつきまとう。

モンスターは、ショウコのように手心を加えることはない。

そんなこと構ってくれるわけもない。

 

 

「相手の動きを読んで……足を運ぶ必要があるな。」

 

 

しかも、とんでもない精度で、だ。

ミスが、一大事を招く。そんな間合いで。

 

できるなら、装備で体を守りたい……でもインナー一本で勝負をしなければならない。

……そういったリスクも込みで、考えろってことか。

 

セツヒトさん……ドSだなあ……。

 

 

何にせよ、小さな目標ができた。

まずは相手を観察。

次に動きを読んで、間合いをはかる。

できるなら、攻撃に移る。

これだな。

 

よし、そうと決まれば、イメトレである。

あの憎きイノシシを、猪肉にしてやる。

 

 

俺は決意を固め、目を閉じた。

 

ショウコにブツブツと独り言を聞かれ、次の朝心配されたのは言うまでもない。

 

 

* * * * * *

 

 

「おはよー、ソウジー。疲れは取れたー?」

「はい!おはようございます!大丈夫です!」

「んー。よろしー。んじゃー早速、クエスト探そっかー。」

 

 

翌朝、ランニングも早々に終えた俺は、朝飯を食ってギルドでセツヒトさんと合流。

適当なクエストを選んで、いつもの草原に向かう。

 

クエストを選ぶときは、ギルドのスタッフが物凄い目をしてこちらを見てくる。

……俺を見ているわけではないよなぁ……セツヒトさん、何者なの……?

 

まぁいつか本人が教えてくれるらしいし、気長に待つか。

 

 

そんなこんなで草原に到着。

 

 

「ソウジー、今日はいきなりやってもらうけど、大丈夫ー?」

「はい!平気です!」

「おぉ、元気だねー。……きついときは、言うんだよー?」

「はい!無理はしません!」

 

 

マップを起動。

ファンゴを一匹、発見する。

 

 

「西に少し行くと、いますね。ファンゴが。」

「おー。じゃーいくよー?」

 

 

ヒュンッ。

 

 

風のように走り出すセツヒトさん。

速いよ!

 

 

* * * * * *

 

 

ファンゴと対峙。

俺の格好は、もちろんインナーのみ。武器も無い。

 

やはり恐怖が勝るが……とにかくやってみよう。

 

 

「ブルッブフォ!」

 

 

こちらに気づいたファンゴが起き上がる。

前足を動かし、「今から走ります!」って姿勢でこちらを向く。

 

そんな感じだから、避けるのは正直簡単である。

回避はいつもの感じで大丈夫だな。余裕をもって避けていこう。

 

ん……?

余裕を持って避けていくのは……正しいのか?

間合いを詰める必要がある以上、いつものように安全に避けていては……。

 

 

「ブモォ!!」

「うわあ!!」

「ソウジ!?」

 

 

しまった!

意識を思考にもって行き過ぎた!!

眼前にファンゴ!!!!やべえ!

 

 

「シッ!!」

 

 

ドォン!!

 

 

発砲音!?

 

激しい銃声が耳を劈く。

聞こえた瞬間、俺の目の前にいたファンゴが消えた。

いや、消えたのではない。

 

横を見ると、頭を爆散させて横たわるファンゴの体。

ピクピク動いているが……完全に死んだな、これ。

 

 

「ソウジ―!!」

「せ、セツヒトさん!?」

 

 

セツヒトさんが、いきなり俺に飛びついてきた。

 

 

「今のは……。」

「今のは、私のヘビイボウガンだよー。ソウジ―?……駄目だよー?ボーっとしちゃ。」

「す、すいません。」

「ケガはないー?大丈夫ー?」

 

 

やたらと心配してくれるセツヒトさん。

ペタペタと俺をさわってくる。

 

何か子供みたいな扱いで、はずい……。

 

 

「ぶ、無事です!そ、それより、ヘビイボウガンって……。」

「あー、ごめんごめん。説明してなかったねー。」

 

 

軽々とボウガンを肩に担ぐセツヒトさん。

 

 

「私ねー。これでも結構すごいハンターだったのさー。ボウガン弓、チャアクにスラアク、双剣大剣片手剣……大体は、できるよー?」

「もしかして、『百手』……?」

「うわー、それ知ってたのー?……むー、ちょっと驚かせようと思ってたのになー。」

 

 

そう言うと少しむくれ顔を見せながら。

セツヒトさんは、糸目を余計に細めて笑った。

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