モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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71コミュニケーションの大切さを学びましょう。

武器を極めるというのは、伊達ではない。

当たり前だ、一つの武器でさえ四苦八苦するのだ。

誰も好き好んで多くの武器を極めようとは思わない。

 

それでも、近距離武器と遠距離武器。もしくは扱いが似通った武器種などを選別して。

そうして複数の武器を扱うハンターが居ないわけではない。

パーティーの中でマルチに役割を担えるハンターは、とても重宝されると聞く。

実際、教官は双剣が使えた。ヘビィボウガン使いなのに。

 

 

では、今目の前にいるこの人、セツヒトさんはどうか。

 

何と、全武器種を扱えるのだという。

……少しばかりはセツヒトさんの二つ名を聞いており、何となくの想像はついていたが。

まさか大体の武器OKとは……!!

 

 

しかも先ほどのヘビイボウガンの腕前、ハンパなかった。

偶然ではないと思う。スピードに乗って突進するファンゴの、その頭を正確に射抜いていた。

 

不測の事態にもかかわらず。

 

 

「でもさー、この虫みたいな二つ名は無いよねー。もうちょっと可愛いのでもよかったよねー。」

 

 

そして本人は、この呑気さ。 

滅茶苦茶な実力を持っているのに。

 

 

「二つ名って、自分で決められないんですか?」

「んー、なんか勝手に呼ばれだしたらー、もうそれがひとり歩きしちゃうんだよねー。不名誉なあだ名ですなー全く。」

「なるほど……。」

 

 

確かに。

ショウコの場合も、そんな感じだったらしいし。

 

 

「それはそうと、ソウジー?」

「は、はい!」

「油断禁物ー。怪我しないでー。これ、命令ー。」

「はい……すみませんでした。」

 

 

俺は学習しない生き物なのか。

二度と油断はしないって決めてたのに。

 

……よし、切り替えていく。

先程はなぜ油断したか。

答えは簡単。考え事をしていた。

 

 

「よしっ。行きます。」

「はーい、また危なくなったら助けるよー。」

「はい、よろしくおねがいします。」

 

 

<マップ>を開いて、小型ファンゴを探す。

……いた………北北西の方角。

そこに向かう。

 

ファンゴは寝ていた。

横たわって鼻提灯を出している。

 

 

「うーん、野生とは……。」

「寝ていても訓練にならないしー……待ってねー。」

 

 

セツヒトさんが、ボウガンを構える。

あまりに軽々と持ち上げるが、確かヘビィボウガンって結構な重量があったはず。

 

すごい。

 

 

「やっ、と。」

 

 

ビシィ!

 

 

セツヒトさんが撃った弾が、ファンゴの鼻提灯を射抜いた。

直後、怒ったように起き出すファンゴ。

 

俺を見つけ、足を鳴らしだした。

 

 

「よーし。じゃあソウジー。ふぁいとー。」

「はい!」

 

 

セツヒトさんが離れると同時、ファンゴが俺めがけて突っ込んできた。

 

狙いは弱点。

ファンゴの弱点と言えば、その鼻。

しかし突っ込んでくるファンゴのそこを狙うのは、正直難しい。

 

なので、ギリギリを狙う。

先程少し考えた、余裕を持って避ける方法ではなく、本当にギリギリを見極める。

 

重心を低く。力を抜いて…………。

倒れるように避けるっ!

 

 

「ファゴッ!」

「……!」

 

 

間一髪!

真横に避けるのではなく、少し斜め前に倒れ込むイメージ。

そのまま避けた方向に、足を踏ん張る。

 

拳を鼻に!

 

 

「らぁっ!!」

 

 

バゴッ!

 

 

「ブヒィィィ!!」

 

 

突っ込んだ勢いそのままに。

俺は拳を振り抜いた。

 

 

「……いってえええ!!」

「ブルゥッ…………ブフゥ……!」

 

 

拳めっちゃ痛い。

でもファンゴは……よぅし!効いている!

 

頑張って立っているように見えるが、フラフラしているのは目に見えて明らか。

 

チャンスだ!

 

 

「おらぁ!」

「ブフォ!」

 

 

腹部に蹴りをかます。

 

 

「そこぉ!」

「ブヒィ!」

 

 

目に拳。

うわぁ、痛そう。

 

でも悪いな。ここでやらなきゃ、多分先程のような一撃は出ない。

俺がやられる。

 

 

数分かけて、タコ殴りにした。

 

 

「ブフゥ……。」

 

 

ズン……。

 

 

「倒した……か?」

 

 

横たわって動かないファンゴ。

絶命したのか……。

 

気をつけながら近づいて、脈を測る。

 

動いてない。

 

 

「……よ……よしっ。」

 

 

手を合わせる。

すまん、ファンゴ。

 

……ファンゴに直接攻撃したからか、罪悪感が半端ない。

素手で殺したという生の感覚が、頭にこびりついている。

 

 

「おつかれー、ソウジー。」

「は、はは……何とかできました……。」

「……うん、辛そうだよねー。苦しかったろうねー。……()()は、ソウジが殺したんだよー。」

「……。」

 

 

セツヒトさんが、俺を見てくる。

まるで心を読もうとしているかのよう。

 

 

「ソウジ。忘れちゃダメ。私達は、命の上に立ってる。それを、忘れないでねー。」

「はい……。」

 

 

俺は、倒す方法のことばかり頭にあった。

最初の一撃は、してやったり、という気持ちが強かった。

 

でも、そこからはただのリンチ。

しかも、素手。

 

……罪悪感が、拭えない。

 

 

「……心の整理、するー?」

「……すみません、少しだけ。」

 

 

異世界だから、弱肉強食のこの世界だから。

なんとなくの感覚で、今まで戦えてきた。

自分に納得させてきた。

 

でも、今俺が抱くこの感情は、少し違う。

確実に命を奪った。

明確にそんな思いが湧く。

湧いてしまう。

 

 

しばらくの間、俺はその場に佇んでしまった。

 

 

* * * * * *

 

 

「ソウジー?大丈夫ー?」

「はい、何とか。」

 

 

セツヒトさんは、そのまま待ってくれた。

うろたえて落ち込む俺を、ひたすらに。

 

ありがたかった。

 

 

「……ここまできたからようやく伝えるけどー。……ソウジの始めの狩りを見て、わたしは、どこか遠慮みたいなものを感じたんだよねー。」

「遠慮?」

「うん。躊躇、って言えばいいのかなー。明確な意図もない、ただの剣の振り。」

「…………。」

「その感情は、ソウジー。……君を、殺すよ?」

「……。」

「私達は、モンスターの命の上に立っている。その覚悟をもって、改めてモンスターに対峙する。……生半可な気持ちじゃー、上級にはなれないかなー。」

「……はい。」

 

 

……俺は、甘かったのか。

モンスターを殺す。生命を奪う。

初めてのその時に、この気持ちに気づくべきだったんだ。

 

ゲームみたいなこの世界だからこそ、リアルな感覚が失せていた。

 

だから、セツヒトさんは俺に―――。

 

 

「……だから、素手で殺して欲しかったんだー。ソウジ、君は甘いよー。」

「…………。」

「……心構え、できそう?」

「……わかりません。でも、やってみます。」

「……うんうん。そうだよねー。その返事で良かったよー。悩んで、当たり前。……そこら辺の認識が甘いやつには、ハンターになって欲しくないかなー。」

「…………。」

「…………迷っていい、今はいい。そこを乗り越えて尚、残酷に。それがハンターだから。」

 

 

セツヒトさんの口調が、いつもと変わる。

寒気がした。

 

 

「…………なんてねー、私もその辺甘かったからねー。」

「……セツヒトさん、俺は―――。」

「せっちゃんー。」

「せ、せっちゃんさん。……俺は、俺は甘かった。敵をどうやって倒せばいいのか、ただそれだけに考えを集中させていた。」

「うんうん。」

「……違ったんですね。俺に素手でやれといった意図は。」

「……うん。ようやくスタートラインに立てたね。ソウジ。」

「……ありがとうございます。」

 

 

心持ちを変えよう。

どこか、甘い。指摘されてハッとした。

 

ハンターとして生きる。この世界で。

リアルなこの世界で、生きていく。

 

異世界ではないのだ。

ここは、俺が生きる、俺の世界なのだから。

 

 

「……よーし!じゃー、さっきの振り返り、しよっかー。」

「……はい。」

「すぐには切り替えなくていいんだよー?ソウジー。少しずつ、分かってくるからさー。」

「……はい!」

 

 

気持ちを切り替える。

覚悟とやらはまだ半人前。

でも、やるべきことはやろう。

 

凹んだときも、違う仕事をこなしていくのだ。

そのへんのマルチなやり方は、前世で随分仕込まれたし。

 

……社会人って、色々鍛えられていたんだなぁ。

 

 

「じゃーソウジー。最初の一撃なんだけどー。」

「はい!」

 

 

頭を別の思考に切り替える。

それはそれ、これはこれ、だ。

 

 

「よかったよー?こう、シュンってくるファンゴを、ズビィッと一拳?うんうん。いいカウンターでした。」

「…………はい!」

 

 

相変わらず感覚で伝えてくるセツヒトさん。

汲み取るんだ。

何となく、言わんとすることはわかる。

ほめてくれているようだ。嬉しかった。

 

 

「…………うん、よかったー。」

「はい……。」

「…………。」

「…………終わりぃ!?」

「え?うーん。……うん。」

 

 

……そうか。

 

…………いや。ちょっとまって。

 

 

「セツヒトさんはその、今回の素手の戦いで、俺にまず心構えを伝えたかったんですよね?」

「そーそー。」

「そして、素手で戦うことによって、俺に足りない戦い方の基本を身に着けさせたかったんですよね?」

「…………うん?」

 

 

え!?違うの!?

 

 

「その、俺ほら、特殊な訓練方法ばかりしてましたし……武器とは違う間合いとか、避け方とか、そういうのを実践で仕込みたかったんでは…………。」

「………………。」

「………………。」

「…………そそ、そー、その通りー。さすがソウジだねー。」

「……今の間は何!?」

 

 

ちょっと待ってほしい。

俺はショウコにお願いしてまで、色々と考えてやってみたのに。

 

せ、セツヒトさん?

 

 

「い、いやー。ねー……。ほら、ソウジ鍛えてるしー、ファンゴぐらいなら素手でいけるかなーって。」

「素手の狩猟とか結構決死の覚悟だったんですけど!?」

「えー?うーん。……どんまい?」

「その程度!?」

「あ、ソウジー、さっきの狩猟、最後はお粗末だったよー?だめだめー。」

「そして急なダメ出し!?」

 

 

その後も少し話して分かったこと。

セツヒトさんは、どうやら俺に素手で戦わせることで、命を奪うことの残酷さ、ハンターという仕事の覚悟を認識させることが目的だった模様。

つまり、素手で戦う方法を身に付けるとか、あんまり考えてなかったようだった。

 

……まぁでも、間合いとか体の動かし方とか、その辺は無駄にならないだろ……。

 

 

「じゃーソウジ―?そっち方面も鍛えてみるー?」

「……え?」

 

 

意外な言葉を聞いて、セツヒトさんを見る。

 

 

「これからー、素手でやってみるよー。ちょっち、モンスター、探してくれる―?」

「わ、分かりました。」

「お手本―、やってみよーかねー。」

 

 

ボキボキと拳を鳴らす姿は、正直少し怖い。

首を回しながら準備運動っぽいことをしている。

 

えーっと……<マップ>内にいる小型モンスターは……。

 

 

「あっ、いました。」

「お、どこどこー?」

 

 

屈伸をしながら尋ねてくるセツヒトさん。

 

 

「ここから南に少し、あの木の向こう側ですね。……2体、ファンゴがいますけど。」

「おっけー……じゃー、よーい……ドン!」

「へ!?ちょっと待って……」

 

 

ヒュンッ。

 

 

速い!

掛け声も早々に南方へと走るセツヒトさん。

 

追いつけ!

 

…………。

 

 

「はあっ……はあっ……。」

「おっ。いたいたー、あれかなー?」

 

 

遠くを見つめるアクションに、余裕を感じる。

いつか追いつける日が来るのだろうか……。

この人、2年ブランクがあるって話してたけど……。

 

 

「じゃー、ちょっくらやってくるねー。」

「は、はい!」

 

 

そう言うと、まるで町中を歩くようにファンゴに近づいていくセツヒトさん。

格好は、武器なし。

装備こそつけてはいるが、むしろ重くて、徒手空拳には辛いのではないかと思う。

 

 

「……ブルゥッ!」

「ブフォ!」

 

 

あ、ファンゴが気づいた。

 

 

「…………シッ!」

 

 

……えっ?

 

 

「フゴォ……」

「フゴ……」

 

 

ズズン……。

 

 

ファンゴが力なくその場に倒れる。

2体とも。

息はしているようだが……動かない。

 

 

「……はーい、このとーりー。」

 

 

フゥっと息を吐くセツヒトさん。

 

……今起こったことを頭の中で整理する。

 

ファンゴに気づかれたと思った刹那、セツヒトさんがゆらっと動いて。

凄く速くてよく見えなかったけど、おそらく近づいて「シッ」て言って拳を当てて。

その後力なくファンゴ二体が地に伏せて。

 

…………。

 

……。

 

 

「……さー、ソウジもやってみよー。」

「できるかぁ!」

 

 

無茶振りにも程がありますセツヒトさん。

どこ!?どこをどうやってどんな強さで叩いたの!?

 

 

「えー、ソウジならできるよー。」

「意味のわからない信頼!!」

「だからー、ファンゴのこの辺りを、こう、シュッと。」

「顎の当たりを的確に一瞬で振り抜く……?」

「そー、それー。」

「できません!」

 

 

天才とは、得てして良き師になれるわけではない。

 

セツヒト語をなんとか汲み取りながら、俺は素手での仕留め方を教えてもらうのだった。

 

 

言葉って、難しいんだなぁ……。

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