73話に続いています。
一番幼い頃の記憶は、集落に来たでっかいハンターさんに肩車された時。
高いところから見えた集落はとても小さくて。
こんな狭いところやなくて、もっと広い所で遊びたいと思ったのを、今でも覚えてます。
きっかけはそこやったと思います。
ここを出て、ハンターさんと一緒に、自由に世界を駆け巡りたい。
オトモアイルーの特訓に明け暮れて、気づけばそれなり力を身に付けていました。
自分で言うのも何ですけど、運動能力とか動体視力とか、他のアイルーには負けたことありませんでした。
まぁ……なので、調子こいてました。
ウチにふさわしいハンターさんを見つけるんや!と躍起になったのも、その辺からかなぁ……。
思い出すだけで恥ずかしいです。
初めてのオトモは、小型の狩猟。
そのクエストの後は、採取、運搬、そして大型……色んなハンターさんを転々としては、確実に経験を積み重ねてきました。
時には、親友のトツバと一緒にクエストに出かけて。
……死にかけたこともまぁありましたが、素早いことには自信があったので……。
何とかなりました。
「ねぇ、ショウコ?」
「んー、なにー?」
その日は二人とも、いつもの様にクエストから帰った後、集落でゴロゴロしてました。
月が綺麗な夜だったのを、今でも覚えています。
「……一生着いていくハンターさん、いそう?」
「んー……わからんなぁ。トツバは?」
「……私はまだ。ハンマーに振り回されてる内は、見つからない……。」
トツバは、集落でも力がダントツで強いアイルーでした。
黒いショートヘアに眠そうな目。
基本口数が少なくて、ウチより小さい見た目。
とても怪力には見えんのですけど……組手の特訓はともかく、腕相撲では敵う気がしません……。
早々にハンマーを武器に携えたトツバは、ハンターさんと共に狩猟をするスタイルを確立してました。
「トツバはええやん、ウチ、速いだけで何にもできひん。」
「ショウコは……いろいろすごい。」
「いろいろって、何やねん。」
「……早いし、速い。」
「……言葉って難しいわぁ……。」
この頃からウチは、その調子乗りの性格がかなり矯正されてました。
集落一番や、と自負してた格闘も、ハンターさん達の前では雀の涙ほどの助力しかできないんです。
程なくして、アイテムの援護とか、罠とか、索敵とか、そう言うバックアップを主体としたスタイルに切り替えてました。
「トツバが羨ましいわ……ウチにもそのパワーがあればええんやけどなぁ。」
「私はショウコが羨ましい。私、素早くないし器用でもない。」
二人で、まるで慰め合うように駄弁り合う。
そんな夜が当たり前のようになってました。
* * * * * *
ある日。
ギルドで意気投合したハンターさんに、砂漠のクエストの同行を頼まれました。
一回のみという契約で、サポートとして。
ハプルボッカの狩猟が何とか終わりそうな、そんな時。
ウチにもパワーがあったらとか、そんなことばかり考えてボーッとしてました。
だからやと思います。
いつも行うはずの、狩猟後の周囲確認を怠ってしまったのです。
「ショウコさん!あのモンスターは!?」
「あ、あれは……!」
完全に、確認不足でした。
モンスターにとどめを刺すときは、事前に周囲を確認して、倒して、信号弾を打って、その間も常に怠らない。
そのオトモの鉄則を、何故かウチはその時忘れていたんです。
だから、上空から猛スピードで迫るモンスターの叫び声を聞くまで、気付けませんでした。
そのモンスターは、セルレギオス。
最近砂漠で目にするようになった、かなり珍しいモンスターでした。
話だけは聞いていたんです。
その叫び声と飛ぶ時の音は非常に特徴的で、アイルーならまず聞き分けができる、と。
なのに、なのに、気付けませんでした。
何とか死にものぐるいで逃げ続けて。
幸い近くの上級ハンターと合流。
支援を受けて、逃げ切ることができました。
運がいいのか悪いのか。
「ショウコさん、気にしなくていいよ。狩場不安定なのを承知の上でこのクエストを受けた私にも責任はあるしね。ぜひ、次もサポートをお願いしたいな。」
「はい……。」
この時組んだハンターさんは、HR2の太刀使い。
人柄も良く、何より絶対にウチを攻めませんでした。
だから、なのか。なのに、なのか。
ガラにもなく、落ち込んでしまいました。
その日の夜の会合は、ひたすらに慰められました。
トツバ、ええやつなんです。
しかし、そこから不運が続きました。
行く先行く先、何故か狩猟中に大型モンスターに乱入されるんです。
どこに行っても。
さすがに周囲確認は怠らず、大事には至りませんでしたが…………。
ハンターの皆さんからは、次第に距離を置かれるようになりました。
当然です。
原因は分からない。
ただ運が悪いだけ。
だから、どんどん契約の依頼が減っていって。
集落の長のオスズさんにも、始めは「昔調子に乗っていたツケにゃ!」とかからかわれていたのに。
次第に本気で心配されるようになりました。
そんな時、契約の依頼が舞い込みました。
笑顔で契約書を持って来たオスズさんから、内容を見てビックリ。
あのセルレギオスの時のハンターさんでした。
「サポートは完璧、女の子同士、気も合うしね。もう一回、お願いできるかな?」
「……はい!」
とても嬉しかったのを、覚えています。
目的地は、森丘の奥部。ターゲットは、イャンクック。
以前にも増して、気合を入れて周囲を確認しました。
でも、不運な招き猫の私は。
この久しぶりのクエストでも……ダメでした。
「……!!フェニクさん!!今すぐこの場を離れてください!」
「えっ!?」
まさか、まさかでした。
まだ狩りさえ始めていない、そんな時。
上空から猛スピードで滑空してくる、モンスター。
……はっきり言って、あの時のウチらじゃどうしようもない相手。
「か、火竜……。」
「リオレウスや……。」
大きな翼を広げて、こちらを威嚇する空の王者。
火竜リオレウスが、私達の目の前に現れました。
もう、運が悪いとしか言いようが無くて……。
この時も成す術も無く、死にものぐるいで逃げました。
でも、リオレウスが放った火球が、ハンターさんに着弾。
救援信号を確認してやってきた近くの上級ハンターさんが、何とか追い払ってくれました。
「フェニクさん……!」
「ショウコさん……不運だったね……でも、あなたのせいじゃないから……。」
そう言って、ギルドの医務室に運び込まれたハンターさん。
怪我が重く、早急に街の病院で見て貰う必要があり、明朝にはザキミーユシティに行ってしまいました。
やっと、ようやくやっと手に入れた、オトモアイルーとしての最後の糸が。
プツリと切れたような気がしました。
* * * * * *
そこからは、自堕落な日々。
オスズさんに心配されたのも最初の内。
「働かざる者食うべからずにゃ!!せめてハンターさんの受付業務ぐらいやるにゃ!!」
「オスズさんも、似たようなものやないですか……。」
「にゃにを言うか!!このごくつぶしー!!」
オスズさんは、こうは言っても、心の中では本気で私を心配してくれていました。
抜け殻のようになった私を、無理やり外に引っ張り出して、仕事をくれたんです。
……あの人には感謝しか無いです。
しばらく受付業務をする日々が続きました。
でも、少しずつ穏やかな日々を取り戻していく中で。
オトモアイルーとしての自分が、小さい頃から必死に頑張ってきた自分が、心の中で訴えてくるんです。
また、オトモとして、頑張りたいって。
「はぁぁ……ウチ、何やってんねやろ……。」
その日、いつものように昼食後の昼寝。
木の上に作ったご自慢のスペースでゴロゴロと。
「こんなん、昔のウチが見たら、引っ叩かれるわ……。」
グスッ。
泣いてしまいました。
何も踏み出せない自分が情けなくて、勇気が出ない自分が情けなくて。
泣くぐらいなら、いっそ死ぬつもりでオトモをすればいいのに。
何なら、一人でハンターさんの真似事をすればいいのに。
……いや、違う。
オトモは、お供。
ハンターさんたちをサポートし、必要とされる存在であるべき。
「グスッ……うん。泣いててもしゃあない。オスズさんとこに謝りに行って……もう一回、オトモとして頑張ってみるって、伝えよう。」
泣いたら、少しスッキリしたんです。
思いっきり鼻をすすって。
そしたら。
うまく言えんけど……ピンときたんです。
本能に訴えかけるような、そんな匂いがしました。
それは、オスズさんがお話しているハンターさんからのものでした。
しかも、何だか困っている様子。
「いいですよ、そこまで急ぎじゃありません。また来ますので。」
「…………にゃ、にゃあ〜。申し訳にゃあです。次、優先して案内いたしますので。」
あれは、オトモを紹介できずに困っているオスズさん?
そして……男のハンターさん?かな?
ピンときたんです。
それしか言えんのです。
「あ!この人や!」て。
ウチが鍛えてきた直感とか判断力とか、そんな部分が。
もうビンッビンに、この人を逃したらアカン!って言うんです。
「ちょーーーっと待ったあああぁぁ!!!」
「えっ!?」
だから、気づいたらウチは木の上からその人の腕に着地していて。
シュタ!
「う、ウチはいかがですか!」
「しょ、ショウコ!」
「ウチを、ウチをあなたのオトモにさせて下さい!」
TPOなんかまるっきり無視して、その人に頭を下げていました。
腕に思いっきり爪を食い込ませて、怪我をさせているとも知らずに。
* * * * * *
その人の名前は、ソウジさん。
そこから私は心を入れ替えました。
本当に最後の最後の気持ちで。
この人のオトモアイルーになるんやと、決めたんです。
初めて、ハンターさんと同じ部屋に泊まりました。
初めて、ハンターさんの背中を流しました。
色んな人との交友も増えました。
……はっきり言って、ご主人さま……ソウジさんのことをそう呼ぶことにしたんですが……。
モテます。
何でしょう、スキも多くてハンターとしてもまだ初心者。
なのに不思議と温かくて、優しくて、でもどこか見ていてハラハラする感じ。
放っておけないって気分にさせられるんでしょうね……。
同じ宿に住むドールさんも、どうやらご主人さまを好きな様子。
色々な策を練って、事あるごとに焚き付けています。
そんなモテるご主人さまですから、交友も増えていくってもんです。
そんなご主人さまは、ひたすらに、ただひたすらに優しいんです。
クエストの後は、色々あったウチを気遣って、その不思議な力で周囲を確認してくれます。
初めてのクエスト終わりで、
「……ショウコ。モンスターは来る気配がないし、俺が周りを警戒するから。」
「はい……。」
「安心してくれ。もうショウコは、『招き猫』じゃないぞ。」
「…………はい!」
何やもう……やられてしまいました。
…………ドールさん、すんません。
キュンと来てしまいました。
* * * * * *
そんなこんなで、忙しくも楽しい日々は過ぎていきます。
不運がやってくるぞと、クエストの度にヒヤヒヤしていたのに。
ご主人さまの力の前では、そんなの杞憂に終わりました。
はっきり言って、ご主人さまの力は、異常です。
うちらアイルーの力でも分からないモンスターの配置まで、正確に当ててくるんです。
何度も何度もクエストを受ける中で、その力への信頼は確たるものに変わりました。
いろんな大型モンスターをやっつけて。
採種に運搬、いろんなクエストをこなしました。
運搬は、ご主人さまが明らかに嫌がっているので、そんなにやってませんが……。
まぁ、確かに面倒くさいですよね……。
ご主人さまはこの世界の人や無いそうです。
でもそんなの、どうだっていいんです。
いつも前向きで、時々抜けていて、なんか放っておけなくて……でもいつも私のことを気遣ってくれるご主人さま。
あぁ、やっとウチは、ずっとついていくハンターさんに出会えたんやなって。
そう思っていた頃でした。
あの事件が起きてしまいました。