前回の続きからになっています。
その日も、いつもの様に、狩りに行きました。
相手は、ロアルドロス。
……何やアホっぽいクエスト名でしたが、なんとそのクエストは上位ハンター向け。
ご主人さまはまだ下位なので、受けられなくて困っていたら……なんと、ハイビスさんが特例で許可を出されました。
何やかんや言ってますけど、ハイビスさんも、絶対にご主人さまに気があります。
以前ハイビスさんにクエストを紹介してもらった時は、そんな感じやなかったんですけど……。
最近になって、「私は専属の受付嬢ですから!」って、よくアピールされるんです。
…………例によって例のごとく、ご主人さまは全く気づいてませんが。
「…………ご主人様、鏡って見たことあります?」
「ん?部屋にはあるが……何でだ?」
「いや、ええんです。失言でした。」
クエストボードの前で、自分がモテモテさんであることを自覚してるのか尋ねてみたんですが……。
ご主人さまは、罪なお方です。
ウチ達はいつもの様にガーグァ車に乗って、狩り場に向かいました。
ロアルドロスの狩猟。
はっきり言って、ここ最近のご主人さまの成長は恐ろしいものがあります。
多分、ロアルドロスもいけるでしょう。
あのぎふと……の力、「ひょーい状態」の真似をするという、誰にもできない訓練のおかげなんやと思います。
でもご主人さまは、うちをただのサポートとして働かせはしません。
ウチも、戦いに参加して、一緒に狩るんです。
今回も、いつもの様に、ご主人さまと共闘して。
いつものように挟撃を行いつつ、徐々に削るという作戦でした。
うちの力をアテにしてくれている事が、とても嬉しいんです。
何やろ……必要とされていることが、身を持って実感できるというか。
まぁ、普通のハンターさん、特に上位になってくると、まずそんなことはしません。
そういうところも、ウチがご主人さまにメロメロな理由なんですよね……。
あぁ。言ってもうた。
そうです。メロメロなんです。
言葉にすると恥ずかしいんですけど、それはもうおかしいくらいに。
だって、いつもウチのことを心配してくれて気にかけてくれて、でも頼りにもしてくれて。
他とは違う扱いを自然にしてくれるんです。
……そんなん、誰でもそうなるに決まってます……。
……う、ウチの叶わぬ想いの話は置いといて!
いつものように敵の観察に向かいました。
少し離れたところから、ロアルドロスの動きを見ます。
…………しばらくすると、驚きの行動を始めました。
なんというかその……ロアルドロスは二体いて、その取り巻きの雌のルドロスがたくさんおったんですが……まぁ……いたし始めました。
雄と雌の、アレを。
「あ、あいつらアホなんちゃいます!?滝の下で普通します!?」
「いや、そういう生態なのかもしれないぞ。」
「同時に!?仲良く!?やる意味あります!?」
「……ないよなぁ……。」
「ご主人様……何かウチ、アホらしくなってきました……。」
「いや待て待て、もしかしたら俺たちは、ものすごく貴重な場面に遭遇しているのかもしれないぞ?あ、ほら見てみろ。さっきまで片方に擦り寄っていたメスが、今度はもう一頭の方と……。」
「ご主人さま。とりあえずどっか移動せんと、ウチもう見たくないです……。」
「……そうね。どっか行こう。」
ウチは気分が悪くなったフリをしてましたが。
内心バックバクでした。
変な事考えんようにせんとあかん……。
* * * * * *
ドールちゃんのサンドイッチを頬張りながら、気分転換。
ホンマに美味しいんです。ドールちゃんのサンドイッチ。
一生食べ続けさせてほしいわぁ……。
あ、アカン。これプロポーズの言葉やったっけ……。
そんなアホな事を考えていた時、ご主人さまがとんでもない事を言い出したんです。
「ショウコ。」
「フガフガ!!は、はい!!」
むせるところでした。
でもご主人さまは構わず続けます。
「ごめんな食べてる時に。だが、作戦変更だ。」
「へ?」
「…………2頭連続狩猟だ。奴らを分断して、今日2頭狩る……!!」
「……ご、ご主人様……?」
いつもよりトーン強めで言うご主人さま。
……連続狩猟?
しかも、ご主人さまが初見の敵を!?
驚かされました。
こんな風に無茶ぶりするなんて。
ただ、ご主人さまが提案した作戦は、まぁハマれば理にかなっていて。
それに乗ることにしたんです。
……結果は大成功でした。
2体のロアルドロスを、狩猟できたんです。
初めて見る相手なのに。
むしろ余裕すら感じられるご主人さまの様子に、ウチは感心しっぱなしでした。
まぁ、ブレスをスレスレに躱して攻撃するとか、所々危ういところもあったので、そこはオトモといえど苦言を呈させていただきましたけど。
ホンマ無茶するんやから……ご主人さまってば。
そんな大成功の雰囲気でも。
ウチは周囲への警戒を怠ってませんでした。
前みたいに必死にやるわけではないですが、きちんと周囲を確認しました。
敵影、無し。
今日も無事に狩りが終わる。
……なんて思っていたのが、良くなかったんですね。
スタート地点までもうすぐの、そんなところで。
キン…………キン……キン!
変な音が聞こえてきたと思ったその時。
「……ちょっと待て!ショウコ!」
「へ?どうしたんですーーー」
「伏せろぉ!!!!」
ご主人さまがウチを急に押し倒してきました。
あまりの出来事に反応できなくて。
ビュオン!
(……!?なんや!?)
ご主人さまの頭の上を、恐ろしく早い何かが掠めていきます。
すぐにご主人さまが私を引き起こしてくれます。
「ショウコ!無事か!」
「ご、ご主人さま!すみません!!ありがーーー」
「礼は後だ……こいつは……嘘だろ……。」
「グルルルルル……。」
目の前に現れたソレは、見るからに凶悪で。
「ショウコ、目をあいつから離すなよ。今から……ショウコ?」
「あ……うああぁ……。」
「ショウコ……。」
ウチは、心が折れそうになりました。
アカン、ウチのせいや。
ウチが調子乗って、ご主人さまのそばにおるから……。
また、招いてしもうた……。
ウチは……不幸を……。
ご主人さまを……。
不幸にするんや。
* * * * * *
そこから先は、とにかく必死でした。
不幸やろうが何やろうが、ご主人さまは命を賭けて、ウチを逃してくれた。
助けを呼ばんと。
落ち着いて、今できることをするんや……!
とにかく必死で、スタート地点まで戻りました。
いつものネコタクアイルーのおっちゃんに事情を説明したら、「乗るにゃ!嬢ちゃん!回収班を見つけて、救援信号にゃ!」って言ってくれて。
街までとばしながら、回収班と連絡が取れたのは、ホンマに幸運でした。
ウチが村のギルド本部に着く頃には、既に救援体制が出来上がっていたらしいです。
「ショウコちゃん!」
「ハイビスさん……助けてください……!ウチ、ウチのせいで……ご主人さまが!ご主人さまがぁ……!」
「ショウコちゃん……。」
ハイビスさんが、ギルド本部に着いたウチを迎えてくれました。
ハイビスさんを見た瞬間、心の中の思いが溢れてしまって。
ギュッとウチを抱きしめてくれるハイビスさん。
……少しだけ、落ち着きました。
「落ち着いて……大丈夫。もう救援の用意はできています。きっと……きっと大丈夫だから。」
「うっ……ううぅぅ。」
涙が止まりませんでした。
「……ハイビスくん、彼女が、ソウジくんのオトモさんかな?」
「はい……マショルクさん。ショウコさんです。」
「そうか……ショウコ君!よく助けを呼んでくれた!」
「グスッ……えっ……?」
いきなり声をかけられると。
目の前には、厳つい格好をした男の人。
……マショルクさんって人、聞いたことある。
ご主人さまの、お師匠さまや……。
「君がディノバルドだと通達をくれたおかげで、こちらも装備をすぐに整えられた!こんなにいいオトモが弟子についているとは!嬉しいぞ!」
「あ……ありがとうございます……?」
泣いてきた涙が引っ込むほどには。
その人はキャラが濃すぎました。
そして何より……。
「セツヒト!用意はいいかな!?」
「うるさいよ……大声出すな。」
ジャキン!
シュッ……パチン。
ご主人さまと同じ、双剣を装備する女性ハンターさん。
もしかして……セツヒトさん!?
え!?ハンターさんやったんですか!?
「……ショウコちゃん……だったねー。……安心してー。もうすぐファンゴ車が用意できるからさ。」
「は、はい……!」
「あたし達、こう見えても強いんだよー?……まー私、2年ブランクがあるけど。」
「はーはっはっは!そんなブランクがあるにも関わらず、救援に行くと言って聞かなかったのは、どこの誰だったかな!?」
「……本当にうるさい。やっぱ殺す?」
「…………。」
「…………。」
え?何この雰囲気?
その後すぐに、特急のファンゴ車に乗って、二人は嵐のように行ってしまいました。
「ショウコちゃん……。後は、信じて待ちましょう?」
「……ハイビスさん、ごめんなさい。ウチ、取り乱してしもうて……。」
「いいのいいの。私だって、最初聞いたとき……ちょっとね……。」
「…………。」
よく見ると、ハイビスさんの目も、心なしか赤くなっています。
「……大丈夫。ソウジさん、強いからね。マショルクさんもセツヒトさんも、心配ないわ。……受付嬢たるもの、待つのも一つの仕事なんだから。」
「……はい。」
宿まで行くように言われましたが、ギルドで待つことを伝えると、「無理はだめだからね。」と言ってハイビスさんはお仕事に戻りました。
ギルドのみんなが、私を見てきました。
今思えば、あれは心配の眼差しやったんでしょうけど……その時のウチは、まるで責められているような気がして。
壁を背に、うずくまりました。
ご主人さま……ご主人さま……。
ごめんなさい、ごめんなさい。
……バチがが当たったんや。
ウチが……また……どうしようもないモンスターを呼んでしもうた……
ウチは……もう。
ご主人さまと一緒に、おったらいかん。
そんなことばかり考えてました。
* * * * * *
ご主人さまは、無事でした。
…………大怪我をして、担架で運ばれてましたが。
「今ここにいられるのは、ショウコのおかげなんだ。謝らないでくれ。」
「でも……ウチ……ウチのせいで……。」
「ショウコのせいなもんか。ショウコはむしろ命の恩人だぞ?ディノバルドが勝手にやってきたんだ。それに、俺は大丈夫だ。大丈夫。安心してくれ、俺は生きている。」
「うぅぅ……!」
あぁ、ご主人さま、生きてた。
良かった……。
痛々しく包帯を纏ったご主人さまは、そのままギルドの医務室に運ばれました。
すんません。ご主人さま。
ウチは、あなたを不幸にする招き猫。
……また、クエストに出かけたら……そしたら、また、きっと……。
悪い方悪い方に、気持ちが傾きます。
その夜は、ハイビスさんに付き添われて、宿で寝ました。
何も言わず、ドールちゃんが横で寝てくれました。
ドールちゃんも、目が腫れていて。
何だか余計申し訳なくなったんですけど。
……温かかったです。
* * * * * *
起きても何にもする気になれんで、部屋でボーッとしてました。
頭の中はグチャグチャのままです。
こうしている間にも、ご主人さまは怪我で苦しんどるかもしれんのに。
ご飯も食べずに部屋におるから、ドールちゃんもミヤコさんもホエールさんも、みんな心配してくれました。
空元気で返事をします。
「ウチは大丈夫です。……ご主人さまは……。」
「医務室で寝ておるようじゃ。何、心配はいらんよ。」
「あ、ありがとうございます。」
ホエールさんが、ギルドにいるご主人さまのことを教えてくれました。
「……ショウコ殿。あなたが来てから、宿は本当に明るくなった。」
「え……。」
「ドールも笑顔が増えての……。今ショウコ殿が何を考えているかはわからんが……この宿にいつまでもおってええからの。」
「……はい。」
「ホホ。早く帰ってくるといいのぉ、ソウジくんも。」
「……そう、ですね。」
ご主人さまの容態を、なぜホエールさんが知っているのかはよく分かりませんでしたが。
ウチを、元気づけてくれているのが分かりました。
ホントにこの宿の人らは、みんなええ人たちです。
ご主人さまが帰ってきたら。
……言うんや。オトモを、辞めさせてくださいって。
きっと、ご主人さまは、嫌って言ってくれます。
それでも、ウチは、ご主人さまが大事やから。
……大好きやから。
……言わんと。
コンコン。
「ショウコ、いるか?入ってもいいか?」
「……へ!?ご主人さま!?」
え!?ご主人さま!?
何で!?早すぎひん!?
「そうだ、ソウジだ。」
「ど、どうぞ?ていうか、ご主人様の部屋です!」
「……そりゃそうなんだけどさ。」
ガチャッ。
「……ショウコ、元気か?」
「いやいやいや!それ、ウチのセリフですから!」
「すまん。ボケてみた。元気そうだな。」
「ご主人さま……分かりにくいです。」
いつもの、軽いやり取り。
右腕の三角巾に、ぎこちない歩き方はされてますが、思ったより元気そうです。
「ショウコ、昨日はありがとう。おかげで助かった。」
「いや、ウチも無我夢中でした……って!そうやなくて!……ご主人様、もう大丈夫なんですか?」
「いや、安静は必要だ。流石にな。でも、日常生活なら問題なさそうだ。」
「そうですか……。よかったぁ……。」
「あぁ。ショウコのおかげだ。」
「……ホンマに、そうでしょうか……?」
そこから、意を決して言いました。
ウチが、今回のクエストで、どれだけ自分の力不足を味わったか。
そして、それがご主人さまを不幸にする。
何よりも、何よりも大切な、ご主人さまを。
だから、ここで、見限って欲しいと。
そう、心の内を、明かしました。
本音を、伝えました。
「ご主人さま……いや、ソウジさん。お願いです。ここで、私を見限って下さい。……ウチはもう、あんな事、したくありません……。」
「…………ショウコ。」
「…………。」
ついに言ってしまいました。
……でも、これでええんです。
……楽しくて幸せな日々でした。
…………さぁ、ご主人さまは、どうやって返して来るんやろうか。
ウチの決意は、早々崩れませ―――
「……いいから黙って、俺について来い!」
「……えぇ!?」
まさかのオラオラパターン!?
「なーんて言えたら、かっこいいんだろうけどな。スマン、俺もまだまだ強くない。そこまで格好はつけられん。」
「……じゃあ、やっぱり―――」
はぁ、ビックリした。
グイグイくるご主人さまも、それはそれで……。
…………あかんあかん、何を考えとるんや
……やっぱり、ご主人様もウチと同じ気持ちで……
「……なので、説得する材料を用意してまいりました。」
「…………へ?」
……何を言うてはるの?ご主人さま?
と、ツッコミも入れさせてもらえぬまま。
ご主人さまの怒涛の説得が始まりました。
しかも……こう、なんと言えばええんやろ……感情に訴えてくる感じではなかったと言いますか……。
アンケートとかいうのをされて、周りの人の声を集めて、それを私に伝えてきました。
スケッチブックに、少し下手なグラフと、文字を添えて。
ギルドの人や、ハンターさん達の、生の声。
特に、ハイビスさんやヒナタさん、何よりもハンターさん達の声には、驚かされました。
ウチは、どうやら、自分が思っていたよりも……自分でいうのも気恥ずかしいんですが……大事に思われてたみたいです。
励ましの言葉の数々。
まるで、ウチの心が、溶かされていくみたいでした。
ウチは、ただ一生懸命に頑張らなって、そう思って働いていただけなんやけど。
どうやら、ウチが、周りを笑顔にしているって。
幸運にしているんだって、言ってくれるハンターさんがおって。
そうや……ウチは何を勘違いしとったんやろ……。
決めたやんか。
不幸な招き猫なんて不名誉なあだ名、吹き飛ばしたるって。
このご主人さまとなら、頑張れるって。
そう、決めたんや。
ご主人さまと出会ったあの日から。ご主人さまと過ごしたあの日々の中で。
あの決心は、嘘やない。
あの時の熱い気持ちが、一瞬で蘇ってきました。
気がついたら、ご主人さまに飛び付いてました。
「……ご主人さま。」
「お、おう。」
「……安心する……このにおいや。ウチ、初めに思ったこと、何で忘れとったんやろ……。」
「…………。」
「集落でご主人さまを見つけた時、この人やって思った。ウチの最後のチャンスやって。この人ならって思って。」
あの時のことを思い出します。
……はぁ、ウチって心弱すぎや……。もう絶対ブレへんって決めたのに。
次は、もう間違えません。
再び、意を決して言います。
内容は、さっきと180度違いますけど。
「もう一度、もう一度だけ、ウチをご主人さまのオトモにして下さい。……お願いします。」
「……ああ!もちろんだ!」
「……ご主人さま……これからも、よろしくお願いします。」
「……ああ。よろしくおねがいします、ショウコ。」
もう、ウチは絶対離れへん。
この人と一緒に、強くなるんや。
ウチの大切な、このご主人様と一緒に。
それが、ウチの決意やから。
* * * * * *
ちなみにその日。
ウチはどうしてもギルドの人たちにお礼がしたくて。
ちょっと恥ずかしかったんですけど、単身、ギルド本部に行きました。
元気付けてくれて、ありがとうございます。
励ましてくださって、ありがとうございます。
そこにいた、目が合う人たちみんなに、お礼を言いました。
……めっっっっっちゃ恥ずかしかったんですよ!?
それはあっちも同じみたいで。
ギルドの職員さん達も、ハンターさん達も、みんな気恥ずかしそうに、だけど笑ってくれました。
ええ村やなって、ええギルドやなって、もっと頑張らなって気持ちにさせてくれました。
ほんま、ありがとうございます。
余談ですけど、ヒナタさんに少しおふざけで耳や尻尾をスリスリしたら、固まってました。
ポケーっとして、目だけがグルングルン回してました。
……やりすぎはほどほどに。
* * * * * *
ご主人さまは、その後順調に回復。
今はセツヒトさんのところで絶賛修行中です。
ウチはと言うと―――
「ショウコ。おまたせ。」
「おはようさん、トツバ。……それと、フェニクさん……!」
「ふふ、元気そうね、ショウコさん。」
ザキミーユから戻ってきた、あの時のハンター、フェニクさん。
そしてその人と、新たに組むことになったトツバ。
3人で、クエストを受けまくってます。
ご主人さまが頑張っとる。
ウチも、強くなるんや!
「さ、今日から
「大丈夫。私は無口。」
「自分で言うことちゃうやろ……。」
待っとってください、ご主人さま。
ウチも負けません。
まだまだ強くなって、またご主人さまと一緒に。
大好きなあの人と一緒に。
狩りに行くんや!