頭の中の<マップ>を広げる。
縮尺を、うんと広くしてみる。
北西の方に位置を合わせると、高い山の向こうに、大きな町がある。
タオカカという町。
その少し北、山脈をなぞるように行くとあるのが、ミヨシ村。
マップ画面だと、雪深さとかそういう情報までは分からないが……ここからそこまで離れていないように見える。
「ソウジー?……だいじょぶ?」
「あっ、はい。すみません。少しギフトの<マップ>を見てました……。」
「おー、そっかそっか。村の位置とかわかるんだねー?」
いかんいかん。
俺の力は人に見せることはできない。
ギフトを見ている時、俺はまるでボーッとしているようになってしまう。
「……ギフトで確認しました。……思っていたよりは、結構近い位置にあるんですね。」
「そなのー?ガーグァ車で5日ってことしか分からないからねー。」
「……ここに、今から向かうんですか?」
「いやいやー。準備があるからねー。もしソウジがよかったら、だけどー?」
急な話ではある。
だがまぁ……断る理由も特に無い。
ただ、時間は少し欲しい。
「期間は……どれぐらい?」
「んー、季節を一巡り……。モンスター達が落ち着くまで……3ヶ月ぐらい?」
「なるほど……。セツヒトさんも来るということ……ですよね。お店は……?」
「んー。基本冬は暇になるしねー。だいじょーぶ。」
なるほど、本当に期間限定のクエスト……ではなく、訓練を行うっていうイメージだろう。
あとは、この街を出た事のない俺が、急に違う村なんかに行って大丈夫なのか、ということだが……。
「その村?に行く事自体は、俺は全く問題ないです。ただ……シガイアさん。俺って、ワサドラ以外で活動しても大丈夫なものでしょうか?」
「そうですねえ……身分証は、ハンターライセンスがありますからね。大陸を跨ぐわけでも、何か商売を行うわけでも無いですし……まず大丈夫でしょう。」
「そうですか。よかった……。」
シガイアさんに、一応確認してみる。
その他、通貨や言語なども、大陸の中では一貫しているようだ。
……というか、大陸の外にも世界があるのか。
…………。
<マップ>で確認しようとしたが、何度やっても大陸の外にはいけない。
仕様か?
まぁ、そこはいいや。
大事なのは、今から準備を進め、違う町まで行かなければならないということ。
そう、もう肚は決めた。
強くなりたい。
そこは、ブレたくない。
「……セツヒトさん。」
「……せっちゃん。」
「せっちゃんさん。俺、行きますよ。その村に。」
「……ん。ソウジなら、そう言うと思ってたよー。」
「はい。」
まぁ、また戻ってくるわけだし。
雪に覆われた場所というのも、ちょっと興味がある。
「では、その方向で話を進めましょうか。ソウジさん、くれぐれも、あなたの力については、内密にお願いしますね。」
「了解です。ここで外部に漏れたら、俺にとってもそちらにとっても、都合が悪そうです。」
「いやはや、おっしゃる通りで。……ソウジさん、ハンターおやめになったら、ギルドで働きません?」
「いやいや、まだ考えられませんよ。……最近カミングアウトしすぎなので、ちょっと自重しようと思っています。」
「ええ、慎重な方がいいです。……私の方でも、少し手は回しておきます。」
「……よろしくお願いします。」
手を回しておくって……嫌な予感しかしないが。
シガイアさんからは悪意は感じられないんだけど、気をつけないと、えらい目に合いそうな予感が拭えないんだよなー。
……まぁ、気にしても仕方のないことなので、スルーしておく。
「せっちゃんさん。」
「んー?」
「よろしくおねがいします。準備って、何かしておくことはありますか?」
「んー。そーだねー。」
そう言うと、セツヒトさんが急に近づき、俺のポーチを触ってくる。
「この中のソウジの装備をー、ちょっち借りてもいいかなー?」
「へ?いいですけど……。」
何か加工でもしてくれるのだろうか?
「店で渡してもらえたら……そーだねー、出発は3日後。それまでにー、寒冷地仕様に仕上げておくよー。」
「わ、分かりました。」
言われるがままに、装備を預けることになった。
「だから、しばしのお別れをしてきてー?ドールちゃんにー、ハイビスさん、ヒナタさん……ミヤコさんとホエールさん。他にはー……。」
「ショウコとオスズ……イシザキ亭のケイさんとか、ですかね。」
「む……ソウジの周り……女の子多いねー。」
「あ、あと教官もーーー」
「アイツはいい。」
「はい……。」
言われると思った。
だが確かに、言われてみれば、俺の親しい人と言えば、女性が圧倒的多数。
男性達のキャラが濃すぎて気づかなかった。
「……なーんかムカつくー……。」
「へ!?何でですか!?」
「なんでもー。……何だろー、腹立ってきたよー?」
「ええぇ……。そんなんどうしようもないですよ……。」
「……決めた。訓練に冬山雪中行軍も追加してやるー。」
なんだか物騒な訓練を取り入れられてしまった。
字面からして恐ろしい……。
来るべき恐ろしい訓練を想像して震えていると、神妙な面持ちをしたシガイアさんから声がかかった。
「ソウジさん。」
「な、何でしょうか、シガイアさん。」
「……暗い夜道にお気をつけください。」
「なぜ急に物騒な言葉を!?」
シガイアさんがよくわからないことを言って、この場は終いになった。
この二人のことは、とりあえずいいや。
まずはドールやショウコ達に、話をしなければならない。
どうやってし話をしようとか考えながら、セツヒトさんと俺は部屋を後にするのだった。
* * * * * *
「ただいまー、かえりましたー。」
すっかりセツヒト語がうつった俺は、宿に戻ってきた。
今日はクエストも訓練も無し。
3日後の出発に向けて、色々と準備をしなければならない。
「まずは……。」
宿の中を見回す。
この世界にやって来てから今日まで、この宿で寝泊まりしてきたわけで。
もはや俺にとっての家は、ここである。
ショウコはクエスト、ドールは買い物かな?
ホエールさんは……姿が見えないから、裏手だろうか。
「……誰から打ち明けたもんかなぁ。」
「何を?」
「のわぁ!」
ドールがいつの間にか、帰ってきていた。
いつものパーカーに、エプロン姿。買い物袋に大量の食材を抱えている。
「ご、ごめんね。びっくりした?」
「す、すまん。」
「ううん。こっちこそ。……ソウジさん。何か、打ち明けるの?」
「へ?」
「だって、さっき。」
「あ、あぁ。」
ドールが心配そうな目で俺を見てくる。
今まで散々心配かけてきたからなぁ。
今回もとんでもないことを言い出すのではと、不安になるのもしょうがないよな。
「ドール、俺が遠いところに行くなんて言ったら、驚くか?」
「え……。」
「あぁ、すまん。言い方が悪かった。実は冬の間、訓練を兼ねて北の方の村に行こうと思ってな。」
「あ、あぁ。何だ……。びっくりしたよ、もう。」
「すまん。どこかに消えてしまうわけではないから、安心してくれ。」
言い方が悪かったな。
まるで前の世界に戻ってしまうような、そんなニュアンスになってしまうところだった。
「うん、わかった。いってらっしゃい。気を付けて、行って来てね。」
「……お、おう。」
「……?どうしたの?」
「い、いやー、何と言いますか……。随分とあっさりとしているなあ、と。」
「え?あ、えーっとね……違うよ?」
何と何が違うのかよくわからん。
もうちょっと、引き留めるまではないものの、何かしら寂しがられるかと思っていた。
……恥ずかしくなってきたぞ。
「ち、違うのソウジさん!さ、さ、……寂しいんだよ?ソウジさんが遠くに行くなんて。」
「お、おお……。そうか……。」
何だろう、期待していた返事をもらったら。
それはそれで、余計に恥ずかしくなってくる。
「え、えーっとね。……ほら、私ずっと宿屋にいるから、ハンターさんが冬にどこか行ってしまうって、よくあることなんだ。」
「あぁ。そういえば、冬はクエストが少なくなるって……。」
シガイアさんが言っていた気がする。
「だから、ソウジさんが、一時的にどこかに行くのは……さ、寂しいんだけど、大丈夫だよ?」
「そうか。確かにハンターたちって、一か所に留まるとは限らないもんなぁ。」
「うん。移動するハンターさんって、結構いるよ。昔キャラバンでやってきたハンターさんたちもいたんだ。……ごはん、大変だったなぁ……。」
ドールさんが珍しく遠い目をしてらっしゃる。
辛い経験を思い出させてしまったようだ。
しかし、ドールも感情が豊かになったものである。
この前まで怒っていたと思ったら、今は普通に話しているし。
更に……。
「じゃ、じゃあさ、ソウジさん。行く前に……その。……ん。」
「……撫でるのでしょうか?」
「……ん。」
「は、はい。わかりました。」
俺が頭を撫でるとか、俺を起こしにくるとか、とにかくそういうことになると、やけに積極的になるのである。
感情表現や意思表示が、豊かになったなぁ、と思う。
そういえば頭なでなでは、最近とんとご無沙汰だったなぁ。
出発前に撫でておけ、ということだろうか。
……いつか俺はセクハラで捕まる気がする……。
ドールの栗色の髪の毛に、手のひらを乗せる。
ナデナデ。
「……。」
「んっ……。」
ナデナデ。
「……。」
「……ん……。」
気分は、お寺にある霊験あらたかな撫で地蔵をさする感覚。
無事に帰ってこられますように。無事に帰ってこられますように。
「……こ、こんなところか?」
「んっ……うん、ありがと。」
「いや、お礼なんて。」
「……何だか、お祈りされた気がする……。」
ドールさん、鋭い。
ドールは俺にとって勝利の女神である。
無事に帰って、「ただいま」という相手。
この宿で待つ、ドールに伝えるのだ。
この子を泣かせるようなことは、したくない。
「無事に帰ってこられますようにって、お願いしたんだ。」
「……私、お祈りの像なんかじゃないんだけど……。もう。」
少しむくれたドールに謝りつつ。
これからの遠征、気を付けていこうと、引き締まった俺だった。
* * * * * *
次にショウコ。
宿でクエスト帰りのショウコと合流し、俺が北の方で訓練を行う旨を伝えた。
返ってきた言葉は、これまた意外なものだった。
「ウチも行きたいところですけど、我慢します。……多分、セツヒトさんは、ご主人さま1人のレベルアップを想定しとると思います。」
「そうだよなぁ。」
「……ウチかて今、クエスト受けまくってます。実力つけて、少しでもご主人さまのリベンジの力になりたいんです。」
「……あぁ。」
「ちょっと寂しいですけど、行ってきてください、ご主人さま。……冬明け、帰って来たらまた、一緒にクエスト行きましょう!」
ショウコはいつになく明るく俺を送り出してくれた。
ショウコとともに冬山の特訓というのも考えていたのだが、おそらくセツヒトさんの意図はそこには無い気がする。
それに……何と言うか、言うのは少しばかり悔しいのだが……ショウコは最近楽しそうなのである。
恐らく今一緒にクエストをこなしている、ハンターとお友達のオトモアイルーのおかげなのだろう。
……なぜ俺は悔しがっているのか。
「ご主人さま……やっぱり、妬いてますよね?」
「やややや妬いてないわ!」
そしてそれを見透かされてショウコにいじられる始末である。
「もう……そんな顔、見せんと……本気にさせんでください……。」
「へ?本気?」
「……な、何でもないです!……とりあえず!ご主人さまはいろんな人に挨拶があるんですよね?はい、行ってきてください!」
なぜか顔を赤くしたショウコに、宿を追い出されてしまった。
……まぁいいか。次は誰に報告しようか……。
* * * * * *
夕方。
腹も減ったので、次に向かったのはイシザキ亭。
ケイさんにお兄さん、オスズにも挨拶ができて一石三鳥である。
……ところがここで予想外の事態が。
「おぉ!ソウジ君では無いか!すっかり怪我の様子はいいようだな!」
「え!?教官!?」
教官が酒をあおりながら、酒を呑んでいたのだ。
教官は俺を半ば強引に席まで引っ張り、その場で俺の快気祝い&壮行会が始まった。
……まぁいいか。
残り3日、やることといえば挨拶回りぐらいだし。もう夜だし。
久々に教官と飲み交わす。
ちょっとだけ雪山のモンスターの話を聞いたところ、ポポというモンスターの肉は絶品だから絶対に食べておけ、ということだった。
いや、そういうこと聞きたいんじゃ無いんだが。
本格的に酔っ払う前に、ケイさんとオスズにも挨拶しておく。
「はにゃ!?ショウコは一緒に行かないのかにゃ!?」
「は、はい、オスズさん。今日ショウコには話をしました。お互い冬の間レベルアップして、また冬が明けてから契約を結ぶ事にしました。」
「そ、そうですかにゃ……!ショウコ、大丈夫かにゃあ……。」
「そ、そんなに心配ですか?」
「……いや、ソウジ様も強くなるために行くんだにゃ。むしろ泣き言言ってたら、アチシが気合いを入れてやりますにゃ!」
「あ、ありがとうございます。」
よくわからんが、これでショウコが寂しくなると言うこともないだろう。
オスズさんは最近、この店でバイトとして、より精を出して働いているとのこと。
今日も大きめの白いエプロンが、金髪とそのちっこい体格によく似合っている。
……賄いと弁当でその給与がほぼ相殺されていることも含めて、恐ろしい人物である。
「ソウジさん……寂しくなるねえ!」
「ケイさん。」
今まで挨拶をしてきた中で一番寂しそうにしてくれたのは、意外にもケイさんだった。
「ホント、寂しくなるよ……ソウジさん、またいつでも店に来てね!これが今生の別れってわけでも無いんだしさ!」
「……ケイさん?」
「いやぁ……短い付き合いだったけど、たくさん世話になったからねぇ……。」
「あのー、ケイさん?」
「ほらこれ、持っていっておくれよ!ウチ特製のモグモガーリックソースの瓶詰め!ポポノタンにもきっと合うからさ!」
「ケイさん……。」
あかん。
ケイさん、多分、完全に俺が戻ってこない前提で話をしている。
うーん。
「遠方に行くことになりました。」なんて中途半端な言い方をしたのがいけなかったのか。
「ケイさん、違います。」
「え?な、何がだい!?このソースじゃお気に召さなかったのかい!?ソウジさん、大好物だったじゃないの!」
「いえ、そうではなく。俺、冬の間だけです。遠方に行くの。」
「……え!?」
「えぇ、ですからその……寂しがって下さるのはとても嬉しいのですが……多分100日位したら帰ってきます。」
「……えええ!?あらら、そうなの!?アタシてっきり住む場所を変えるもんだと思って……あぁ、よかったぁ……!」
一番寂しがってくれたケイさんも、ただの勘違いでした。
そこから、なぜかやけくそになったケイさんも加わり、大宴会が始まった。
教官が脱いで下ネタを吐き、ケイさんがぶっ倒れ、俺が説教し、オスズが宴会芸を披露して。
実に楽しい夜になった。
* * * * * *
深夜店を出ようとすると、イシザキさん(兄)に肩を叩かれた。
トントン。
「……。(スッ。)」
「……い、イシザキさん、これは……いにしえの秘薬!?まさか、これを俺に……?」
「……。(ニコッ)」
「……。」
「……。」
「なんか喋れよ!!」
ありがたくも、餞別を頂いた。大事に使わせていただこう。
……もちろん、ハンターの道具として、である。
アチラの方で使う予定はない……。
何とも人恋しい思いをしながら、宿に帰って行く俺であった。
あとがきに失礼します。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
活動報告でもお伝えしましたが、書き溜めが切れましたので、明日から不定期更新となります。
なにせ遅筆なもので……。
エタらせはしません、ソウジの物語の完結に向けて、筆を取り続けます。
少しばかりお待ちいただけると幸いです。