朝のギルドは相変わらず混んでいた。
とは言っても、軽装のハンターも多い。
討伐や捕獲のクエスト量が減るに従って、比例してハンターの格好も変わってきているのが分かる。
採取や運搬のクエストは、人が生活を送る限り消えることは無いようで、ラフな格好に大きな荷物を持った連中がそこかしこに屯っている。
いつものガチガチの装備に身を包んだハンターがいる景色と比べると、まるで紅葉のようである。
ギルドの壁側に移動し、ショウコを探す。
……いつもならあの子に熱い視線を送る輩がいるので、それを辿ればすぐに分かるのだが……いない。
まだ着いていないのだろうか。
キョロキョロしていたら、ショウコではなく、違う人物に声をかけられた。
「ソウジさん、おはようございます。」
「あっ、ハイビスさん。おはようございます。」
ハイビスさんである。
今日もアップのブロンドヘアーに、受付嬢の制服が似合っている。
「……ソウジさん、やたら不審な動きをされていましたが、どうかしましたか?」
「うっ……いや、それはすみません……実はショウコを探してまして。」
「ショウコさんですか?私の知る限りでは、今日はまだいらしてないと思いますが……。」
どうやら不審がられて声をかけられてようだ。
……申し訳ない限りである。
しかし……ショウコは来ていない?
だとしたら、ショウコが俺をここに呼び出したのは何故だろう。
うーん……。
……考えてもわからん。
「……あ、そ、そういえば。」
ハイビスさんが何かを思い出したかのように声を出す。
「ソウジさん、ミヨシ村に行かれるんですよね?」
「……ええ。そうなんです。シガイアさんに聞きましたか?」
「え、ええ。まぁ、そんなところ……です。」
「…………?」
何だろう。
歯切れが悪い。
「ソウジさん、と、遠くの地に行かれるのは初めてですよね?」
「は。はい。」
「その……お一人だと、中々分からないことも多そうですよね?」
「ま、まぁ、そうですね。何せこの村……町?以外の人が住む場所なんて、行ったことがありませんし……。」
転生してからバサルモスに襲われ、何とかこのワサドラにたどり着いた。
そこから寝泊まりは、殆どが宿『ホエール』である。
俺は外の世界を全く知らない。
一度ミヤコさん、というか首都ザキミーユのギルドにスカウトを受けたことがあるが、丁重にお断りさせて貰ったし。
クエストで村の外に行くことはあったが、違う村や街に行った事はない。
「わかります……ふ、不安になりますよね!」
「でも……このギフトもありますし、セツヒトさんも同行してくれるんで、多分大丈夫ですよ?」
「そ、そうですか……で、でででもですね!こう……近くに頼りになる人がいたら……心強いですよね!」
「は、はい、そうですね。」
「例えば、腕利きのハンターとか……知り合いのギルド関係者とかいたら!……頼もしいですよね!」
「お、おっしゃる通りかと。」
鼻息が荒い!
何だ?今日のハイビスさんはいつにもなく必死な感じがする!
その整いすぎたご尊顔が近い!美人だな!
「じゃあ!その……頼もしく力になる人が一緒に行ってくれるとなると、嬉しいですよね!」
「は、はい。俺なんかに着いてきてきくれる方がいるなら、そりゃあありがたいですけど。」
「で、ですよね!そうですよね!よーし……。」
「…………?」
ガッツポーズをしながら、ニコニコ顔でいらっしゃるハイビスさん。
もしかして、誰かついてきてくれる人でもいるんだろうか。
「……どなたかご紹介してくださるんですか?」
「へ!?」
素っ頓狂な返事をするハイビスさん。
普段はこんな姿は見ないので、新鮮である。
「いや、だから……話の流れ的に、俺にどなたか着いてきてくださるって言うことでは……?」
「あ、あーあー、はいそうですねぇ……そういうことになるよう……私の方で手配をしておきますので……!」
「……?じゃ、じゃあどなたになるんで―――」
「あーいけない!私そろそろギルドの方に行かなくては!それではソウジさん?出発は明日ですよね?ご準備などもあるでしょうし、私は失礼しますね。」
「え!?は、はい、分かりました。」
確かにギルドは忙しそうなんだが……ハイビスさんの話の切り方が強引すぎる。
「よーし……それでは、しし失礼しまふ!」
そう言うと、ハイビスさんはピューンと仕事に戻っていった。
……最後噛んだな……。
でも、俺のことをサポートするような方が、なぜ付くのか。
言ってしまえば、まだまだペーペーの俺である。
……逆か?新人の頼りない俺だからこそ、ついて来る人が必要ってことか。
……うん、そっちの方がしっくりくる。
こう言っちゃなんだが、セツヒトさんは頼りになるものの、普段の生活に関しては微妙によく分からんというか。
だからかな、まぁよくわからんけど。
……あれ?あっちの生活って、セツヒトさんと一緒なんだよな?
まさか宿の部屋は……?
…………。
……。
スキル!気にしない!
よーし、問題は何も解決していないが、時の流れに身を任そう。
邪なことを考えないようにしつつ、俺は壁にもたれながらショウコを待つことにした。
* * * * * *
「結局昼だな……。」
時刻はもうすぐ正午。
ショウコは現れない。
さすがに腹の虫が鳴ってきたので、ギルド内のバルで軽食をとることにした。
ギルドの喧騒はすっかり止み、一番人がいない時間。
そんな中、寂しく飯を食う男が一人。
傍から見たら完全に仕事にあぶれたものにしか見えないと思う。
……あれ?今俺ってニート状態?
いやいやいや、確かにクエストこそ受けてはいないが、ハンターとして登録されている訳であって。
でも待てよ……なにかしらの職業免許を持っていても、職につけない人はそれこそ沢山いる。
訓練中……あ、ニートのTってトレーニングで、俺は職業訓練中の扱いだから……。
よしよし、ニートじゃない、俺はニートじゃないぞ。
……でも待てよ……俺は今税金を払っていない事になる……ハンターは、狩猟の成果から税金など天引きされるシステムだったはずだから、世間的にはやはりニートに属するのか……?
いやいやいや、これからその世間に貢献するために訓練をしているわけであってそれは―――
「ご主人さま!おまたせしました!」
「うわぁお!」
ガタガタ!
くだらないことを考えていたら、急に声をかけられてビックリしてしまった。
「しょ、ショウコ!?」
「ご、ご主人さま!すみません驚かせて!そしてお待たせしてしまって本当にすみません!堪忍です!」
「い、いや、油断していた俺が悪い……ショウコ、おはよう。」
「ははは……完全にもう昼ですけどね……。」
俺のテーブルには軽食の跡とコップが2つ。
ずっと待っていましたと言わんばかりの主張具合である。
「いや、大丈夫だ。時間はあるしな。」
「すんません……その……これの加工に時間がかかりまして……。」
「加工?」
「はい……ご主人さま、どうぞ。」
そう言うと、ショウコは何やらゴツゴツした輪っかを俺に差し出した。
長さ7センチメートルぐらいの……おそらく腕輪だろう。
ガラス玉のようなものが数個くっついており、鈍く輝いているのがわかる。
「それ、持っていってください。」
「え……?」
「その……何の力にもなれんかもしれませんが、それを付けると、ハンターのスキルが身につきやすくなるらしいです。」
「ま、まさかショウコ……これを、俺の為に用意してくれたのか!?」
「え、えーっと、そうですね……なーんて、胸張って言えたら良かったんですが……ちゃうんです。実は……。」
ショウコが事情を説明してくれた。
俺と別行動していたこの期間、件のハンターとそのオトモアイルーと様々な場所に行っていた。
何日間か宿に戻らずにクエストをこなす、なんていう日もあった。
ある時、北西に位置する岩山の近くで、良質な護石の元になる鉱石が取れる場所があると聞き、三人でその場所へ行ってみたらしい。
「それで、その辺の鉱石を掘ってみたんですが……ただ……。」
「ただ?」
「ウチ、超絶運が無いというか……。ホンマにそういう運、無いみたいで……。」
「運?」
何でもこの鉱石堀り、全く見分けがつかない鉱脈をピッケルで掘っては移動し、掘っては移動しを繰り返すもの。
掘った時点では、見た目には全く分からないただの鈍く光る石。
これを装飾品や加工を行う専門店に持っていき、査定してもらう。
査定の結果、良質なもの、つまりスキルが身につきやすくなる効果のあるものは「良おま」、ものすごく効果の高いものは「神おま」なんて呼ばれるらしい。
結果は専門の高価な器具を使わないと分からず、多くの査定を頼むと費用もそれなりに値段もかかるとの事。
そうして売られた鉱石は、加工屋などの手によって加工され、ハンターたちが身につける商品になるのだとか。
値段もピンキリで。
ここまで聞いて思った。
これはまさに運任せ。完全にギャンブルである。
その「神おま」というのが、一つで何zするのかは分からないが……。
「ショウコの運がなかったってことは、つまり……。」
「ええ……ウチの掘った中に、スキルが付きそうなものは一つも無かったです……逆に珍しいと、店のおっちゃんにも驚かれました……。」
ショウコはその日頑張って20個、鉱石を採掘してみたが、その尽くがハズレ。
費用対効果が悪すぎる……と言うかショウコの運が悪すぎるのか。
「で、でも、この腕輪は効果があるんじゃないか?……ちょっと見てみるか。」
「え?ご主人さま、スキルの効果とか見られるんですか?」
「わからんが、ギフトを使えば……。」
試しに腕輪を装着。ギフトを起動してみる。
<装備>から<護石装備>を選択してみると……あ、やっぱり見られる。
何々……回避距離Lv.1……弱点特効Lv.2……それにその文字列の下に○が2つ……この○は何だ?
「うん……よく分からないが、スキル名がわかるぞ。」
「す、すごいですご主人さま。それって普通、器具を通さんとわからんようなものですよ?」
「らしいな……。ショウコ、これ本当にもらってもいいのか?もしかしたら結構な高値で売れるかも知れないぞ?」
「えっと……実はそれ、フェニクさんから頂いた鉱石を鑑定した護石が元なんです。ウチがたくさん採掘しとるのを見て、足しにしてって渡してくれて。そしたらその鉱石だけやたら効果が高いもので、お店のおっちゃんも興奮してました。」
「例のハンターから貰ったものか。」
「はい。うちの石はヒドイもんでしたが……。なので、今更お返しするのも気が引けますし、何よりご主人さまに役立ててほしいので。あ、ちなみにウチらアイルーは装備できませんよ?」
「そうか……。で、でも費用は?」
「プレゼントですし……ぶっちゃけますと、持ち込みなのでなので加工代金だけでした。」
「そうか……。」
頂くことにした。
「ショウコ、ありがとう。俺のためにこんなもの用意してくれて……。」
「いやいやいや!いつもお世話になってますし……ご主人さまが遠方に行くとか関係なく、用意しようと思ってましたから。」
「……うん、大切にするよ。」
付くスキルとか、値段とか運とか、正直なところどうでも良い。
こうしてショウコが頑張って、俺にプレゼントをくれたことが嬉しかった。
まぁ、せっかく頂いたものだから、スキルの確認とかは後でやろう。
もしかしたらセツヒトさんとか詳しいかもしれないし。
「でも、ウチ、その岩山に驚かされました。」
「ん?そんなに珍しいところだったのか?」
唐突にショウコが言う。
「ウチとフェニクさんとトツバは、まぁ和気あいあいと楽しく鉱石を探しておったんですけど……。なんか周りの人らのピッケル振るう顔が……死に物狂い?いや、目が死んでいる?感じでした。」
「そりゃ……当たればデカいんだろうから、一攫千金でも狙っていたんじゃないか?」
「みなさん『おま……』『かみおま……』とかブツブツつぶやきながら、ずっとピッケル振ってるんです。……憑りつかれているかのように。」
「怖いな……。」
ギャンブルに取り憑かれた者達なのだろうか。
見てみなければ真偽はわからないが。
「いや、嬉しい。嬉しいよ、ショウコ。」
「あ、ありがとうございます。ご主人さま。」
「何でショウコが礼を言うんだ。こっちがありがとう、だよ。うん。」
「はい……。」
照れているのか、モジモジしているショウコ。
「良かったぁ、ウチ、贈り物とか初めてで、喜んでくれるか心配やったんです。ホンマに。」
「何を言う。ショウコのくれるものなら何でも嬉しいのに、こんな実用的なもの。……ありがたく使わせてもらうよ。」
「はい!北の狩り場で、存分に使ってください!」
「ああ!わかった!」
ショウコとはそこで別れた。
これからまた泊まり込みでクエストに行くらしい。
「気をつけるんだぞ、ショウコ。あと、フェニクさんと……トツバ、だったか。よろしく伝えておいてほしい。」
「はい!ウチも……強くなって、ご主人さまの役に立ちたいですから。」
「ああ。それじゃ、またな!」
「はい!」
ギルドを出ていくショウコ。
足早な姿に、照れている様子が見て取れた。
なんとも微笑ましい。
俺はショウコがいなくなるまで、手を振り続けるのだった。