異世界に転生して2日目の朝。
俺は女神様と頭の中で会話を行っていた。
そして神託という名の無茶ぶりを受けていた。
……窓から見える朝焼けのキレイさに、現実逃避したくなる。
あぁ、どんな世界でも、朝は美しいなぁ……。
「昨日のような戦いを、今後もコンスタントに行っていってほしいのです。」
(2回も言わなくていいです!というかそれ、どういう意味ですか??)
なぜ俺がモンスターと戦い続けなければならないのか。
何とか食いつなぎながら、この世界で適した職業を探しつつ、第2の人生をエンジョイしようかな~とか考えていたのに。
「では、このお願いに至った経緯をお伝えします。」
(よろしくお願いします。)
「はい。」
一から説明を聞くことにした。
この人…ではなくこの女神様、何か気をつけなきゃと思い始めた。
「まず、私はあなた方が捉えているところの地球の女神です。」
(それは……聞きました。)
「そして、神々は様々な物体、事象、概念……ありとあらゆるところに存在します。双治さんに分かりやすく例えると、八百万の神々、というところでしょうか。」
そうして女神さまは、背景となる神様事情を話し始めた。
難しい話にもなってきたが、かいつまんで、分かりやすくまとめるとこうなる。
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①生命体増えすぎで概念も物体も増えすぎ神様増えすぎ。
神様間の認識にどうしても齟齬が発生するわー。
→神様同士のネットワークを強固にする必要があるんじゃね?
⇒神様版インターネット作ったわ。
②神様間のコミュニケーションに革命起きてね?
→神様間のネットワークで発信受信が盛んになれば、神界全体が盛り上がるんじゃね?
⇒神様版SNS作ったわ。
③SNS大流行じゃね?
でも何か神同士のやりとりも飽きてきてね?
もっと下々に目を向けたら面白いんじゃね?
→地球女神「うちの時断崖喰らって転生した人間テラワロスwww」
⇒バズりまくり。そんなレアキャラの奮闘記とか超面白そうなんですけどー。
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「……という感じです。お分かりになりましたでしょうか。」
(はい……、それはもう……。)
いやいやいや。
いやいやいやいや。
何してくれちゃってんのよ女神様!?
俺が目立ったっていうか、女神様が勝手に目立たせてくれちゃってますよね!?
「地球側への広告収入も相当なものになりそうです。ありがとうございます。」
(お礼言われても仕方がないんですがそれは)
「ありがとうございます。」
(反省しないつもりですねわかります……)
その後も、女神さまの自重しないSNSはっちゃけ話を聞いた。
(つまりは、時の神という高次元すぎる神のミスでこの世界に投げ出されたレアキャラな俺が、さらに頑張る姿が見られれば、もうバズりまくるだろうと。そういうことですね……?)
「はい、そうです。」
(で、その奮闘する姿は、モンスターと戦う必要はあるんでしょうか?)
ここが聞きたい。異世界にいるレアな存在の俺が、一生懸命生活するだけではダメなのか。
「仮に双治さんが普通に異世界で生活する様子……だけでは、正直あまり面白くないと思います。神々はかなりの数で好戦的な方が多いですし、戦って強くなる姿が見たいのではないかと予想します。」
(……私が仮にその要求に応えなかった場合は……。)
「いえ、双治さんは100%応えます。」
(いやいや、お待ち下さい!本当に!私は、別に世界最強を目指したいとか、凶悪なモンスターを打倒したいとか、そんなことは考えてませんよ!?)
「……本当ですか?」
(……ええ。)
「本当の本当に、心の奥の双治さんご自身に尋ねてみてください。」
女神さまは一拍置いて、こう言った。
「好きではないですか?こうした、剣と魔法の世界が。」
(……。)
「強くなる主人公が。成り上がりが。」
(…………。)
心の奥底の自分が答える。
……好きだ。
ああ、そういうのは大好物だ。
手に取る漫画や小説も、そういう趣向のものが多かった。
強くなる主人公が好きだった。
弱い自分を、主体性の無い自分を、強くなっていく主人公に投影した。
そして夢想しては、楽しんでいた。
そして今。
俺の目の前の、この世界に俺は来ている。
神の不手際で、何かよくわからないままに。
ただ、この状況を楽しんでいないと言えば、嘘になる。
だってこの世界は。この世界は……。
「非常にこの世界は単純にできています。すなわち…。」
(……。)
「喰うか、喰われるか。」
(ッ…!)
単純だ。昨日の俺がそうだ。
「血沸き肉躍る、この世界で、双治さん。強くなってみませんか。私は、そう願っていらっしゃるとわかった上で、この世界が向いているとわかった上で、ここに送りました。……SNSでバズった件に関しては、たいへん申し訳ありません。あそこまで反響があるとは思いませんでした。ですが、つまりそれは、多くの神々があなたの活躍を期待しているということです。」
第二の人生が始まった。いきなりの大型のモンスター。
怖かった、ちびりそうだった。
でも、死にたくなかった。負けたくなかった。
「その不屈の気持ちでこの生を全うされることを、我々は期待しています。」
(……。)
「世界が変わり、私がお手伝いできることはあまりありませんが……私のギフトをご活用いただければ、多少は双治さんの力になると思います。」
……なりたい。変わりたい。
強くなって、第2の人生を過ごしてみたいな。
「……ありがとうございます。肯定いただきまして。」
顔が見えないまま続く、女神さまとの会話。
目の前には宿の窓。そこから見える村の家々と、朝焼け。
だが、目をつぶれば、そこに女神さまの笑顔が見えたような気がした。
(……やってみますよ。あがいて見せます。正直怖いし、逃げたい。でも、せっかくだから、憧れた姿目指して、四苦八苦してみせますよ。)
「……とても意志のこもったお返事ですね。かっこいいと思います。」
女神さまにほめられたのはこれが初めてではないが、妙にうれしかった。
……やってやろう。中身はおっさんだが、肉体は若い。夢を見るのにはまだまだ十分な年齢と言える。
せいぜい頑張ってやろうじゃないか。
とりあえず、この世界で、昨日のように戦う職業って何だろうか。女神さまに聞いてみよう。
(で、女神様。手始めに私は何をすべきかーーー。)
「さぁ、それではこれから忙しくなりますね。まずはそちらの世界の神に正式に許可をいただきましょう。私のアカウントだけで発信するのも限界があるでしょうから様々な神々に観測いただいて双治さんの様子をアップロードしていく形にしましょう。SNSの利点を存分に生かしてもはや私でも制御しきれない一大コンテンツに成長させ……そういえば中継映像の配信や本人インタビューという形もできますね。これはしばらくはわたくしが独占権をもって行使していく形が望ましいでしょう。ゆくゆくは記者発表のような形で各SNSやニュースサイトに多重配信を行ってもらうということも可能です。そしてゆくゆくは……」
……あのー?女神様?聞いてます?もしもし?女神様?
「それでは双治さん、私は失礼いたします。ぜひとも、その一生懸命な姿勢を崩さず、頑張ってください……。」
(あのっ!まだ聞きたいことが!!)
「応援しております。」
……。
…………。
切れてしまった、のか?
……ま、まあいいか。とりあえず、神と呼ばれる方々がご所望なのは一生懸命生きて、できれば戦う姿、ということだった。
そしてそれは、俺も望んでいるんだ。
気づかされた形だが、自発的に、頑張っていきたいと今思っている。
「…頑張っていこう。」
朝日がすっかり昇り、眩しい。だが、新しい出発には何とも心地よい。
そんなことを感じながら、俺はポーチを腰に付け、新しい一歩を踏み出すことにした。
……女神さまに一抹の不安を感じながら。