モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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80撤退させましょう。

クエストには、クリア条件というものがある。

数を集める採取、数を倒す小型の狩猟などは分かりやすい。

 

ただ、大型の狩猟となると達成条件が色々変わる。

捕まえることが前提の捕獲、完全に仕留める討伐、そのどちらでも良い狩猟……。

 

そして今回、セツヒトさんが示した目標は、撤退。

文字通り、相手モンスターを怯ませ、その場から立ち去らせることが目標である。

 

俺は、そんなクエストは受けたことがない。

なぜなら、そういう種類のクエストは、倒すことが非常に難しい危険なモンスターから一時的に危機を逃れるためにある。

 

なので撤退を目的としたクエストは、裏を返せば、討伐や狩猟、捕獲と比べて少し難易度が下がると言えるかもしれない。

 

 

……だが、俺にできるだろうか。

目の前の、この凶悪なモンスターを、撤退させるなんて。

 

 

「グルルルルル……。」

 

 

警戒し、こちらを睨みつけてくるジンオウガ。

 

はっきり言おう、敵う気がしない。

俺の双剣が、ヤツに効く気がしない。

 

ディノバルトにも感じた感覚。

 

怖い。

 

 

 

だが。

 

 

 

ジャキン!

 

 

「ソウジー!ビビったら負けだよー!だいじょーぶー!私がついてるからー!」

「グッ…………ウォォォォン!」

 

 

明らかに気迫負けしている様子のジンオウガ。

 

そう、俺の後ろにはセツヒトさんがいる。

何とも情けないが、仕方ない。

 

俺は実力不足だ。

頼りにさせてもらおう。

 

 

「……来るよー!」

「はい!」

 

 

セツヒトさんが叫ぶ。

その瞬間、前衛の俺に飛びかかってくるジンオウガ。

 

 

「よっ……とぉ!」

 

 

前足の攻撃……!

だが、モーションは甘い。

余裕で避ける。

 

 

「もーいっかい!」

「え!?」

 

 

と思ったら、今度は攻撃した前脚を軸に、反対の前脚を繰り出してきた。

 

あぶねぇ!!

 

 

「うおっとぉ!!」

 

 

間一髪で避ける。

 

 

ズガガガガガガガ!

 

 

「グァァ!」

 

 

後ずさるジンオウガ。

セツヒトさんの援護射撃だ。

 

 

「そーそー、その感じー!いいじゃんソウジー!」

「はい!」

 

 

タイミングは掴んだ。

油断はしないが、これぐらいの速さでくると覚えておく。

 

 

「ソウジー!反撃はいいからー!まずは落ち着いて見ていこー!」

「了解です!」

 

 

姿勢を低く、すぐに動けるようにする。

寒冷地仕様の装備に対応できるか不安だったが、問題はなさそうだ。

むしろ厚めの仕様に、少し安心している自分がいる。

 

ここ最近は、装備もなしにモンスターに挑んでいたわけで。

余裕が生まれている。

 

 

「……アォォォォォン!」

 

 

突如、ジンオウガが光を放ちながら、空に向かって雄叫びを上げ始めた。

何度も、繰り返し。

え!?何だ!?

 

 

「ごめーんソウジー!予定急変更!!」

「ええ!?」

「今、全力で頭やっちゃってー!」

「は、はい!!!」

 

 

すぐさま動き出す。

こう言われるってことはつまり、反撃のチャンスなんだな!

 

すぐさまジンオウガの頭部に近づく。

 

 

「鬼神化……乱舞……!!!」

 

 

ズサン!

ザシュ!ズザザザザザン!

 

 

「そのままー!」

 

 

ジャキ!

ズガガガガガガ!!!

 

 

俺が乱舞しているにも関わらず、その隙間を縫って頭に銃撃を与えるセツヒトさん。

俺も無我夢中だが、これかなり高等技術なのでは……?

 

俺とセツヒトさんが猛攻をかけているのに、歯牙にもかけず、吠えまくるジンオウガ。

バリバリと体全体から電撃を発し続ける姿は、何とも神々しい。

いや、恐ろしいんだけども。

 

 

「ソウジー!飛び退いてー!!さーん!にー!いーち!」

 

 

バッ!!

 

 

返事もできず、言われた通りに後方に飛び退く。

後ろに行き過ぎたか?と思うほどには離れられた。

 

その直後、

 

 

「ウォォォォォォォォォオオオン!!!!」

 

 

凄まじい叫び声が響く。

思わず耳をふさぐ。

 

すごい声……だがヤツから目を背けはしない。

 

ジンオウガは光り輝いていた。

雷を身に纏っているような。

……まるで別の生き物だ。

 

全身バチバチと音を立て、前足や尻尾はより猛々しく感じられるほど。

その姿は神々しいと思う程であった。

 

 

「完全にスーパーなサ◯ヤ人じゃねえか……!」

 

 

やべえ、ちょっとかっこいいとか思ってしまった。

モンスターにこんなこと思うのは初めてである。

 

 

「……セツヒトさん!」

「うん!強いよー!そいつー!」

 

 

ジャギ!

ズガガガガガガガガガン!

 

 

セツヒトさんが、銃撃をお見舞いする。

効いてはいると思うのだが、意に介しないジンオウガ。

 

俺を睨みつけてくる。

 

オシッコチビリそう。

 

 

「ソウジー!また、(けん)でー!さっきより速いよー!」

「はい!」

 

 

見逃さない。

 

やつの一挙手一投足を。

 

見逃さ―――

 

 

「ソウジ!右ぃ!!」

「えっ。」

 

 

ジンオウガが、消えた。

 

 

消えるわけない。

 

 

つまり見逃した。

 

 

右。

 

 

やべぇ。

 

 

イチかバチか!

 

 

「うおおっと!!!」

 

 

前方に全力で転げる!

緊・急・回・避ぃ!!

 

 

その直後、俺のいた場所から、「ドガン!」という音。

 

 

「マジかよっ!」

「体勢、立て直して!!」

「はい!!」

 

 

どう動いたのか分からなかった。

 

とんでもない超スピードで動いたのだろうか、いつの間にか俺の右に動いただろうジンオウガは、俺のいた場所に()()を叩きつけていた。

 

右に動いて直後に後方宙返りをして尻尾を叩きつけた…………ってことか!?

何たる運動神経……!!

 

 

「よく避けたねー!ソウジー!」

 

 

ズガガガガガガガガガン!!!

 

 

「グルルルルル……」

「チッ……厄介……!」

 

 

セツヒトさんが舌打ちしている。

多分、今ジンオウガは、攻撃を食らっても効いていない。

いや、効いていないのではない。食らっても気にしてないのだろう。

 

まさか俺の気にしないスキルを、実践レベルで習得しているモンスターがいるとは。

恐れ入る。

 

 

「いいねーソウジー、余裕あるじゃーん!」

「いやいやいや!目一杯です、よ!」

 

 

飛び跳ねたかと思うと、まるでいがぐりの殻のような背中を見せ、体ごと俺を押しつぶそうとしてくるジンオウガ。

 

だが、分かる。

 

飛んだ瞬間に俺に向かうのだから、今いる場所から避ければいい。

断定はしない。油断もしない。

今は見る。見るに徹する。

 

余裕をもって、右に飛び退く。

 

 

直後、背中を突き刺すかのように、空からジンオウガが降ってきた。

トゲが地面に突き刺さっている。

ゾッとするわ……ムチャクチャだなコイツ……。

 

 

「チャーンスソウジー!」

「はい!」

 

 

行け、ということだろう。

背中から落ちたからか、若干もがいているジンオウガ。

頭部めがけて突っ込む。

 

セツヒトさんの動きを真似て……。

脱力……振り抜く感覚……!!

振り抜いて尚、動きは止めない!

剣に身を任せ、勢いをつけ続ける。

 

「おらぁぁぁぁ!!!」

 

 

ザシュ!!

ザザザザザザシュ!ズザン!

 

 

よし!いい手応え!

 

 

「オッケー!離れる!」

「はい!!」

 

 

ムクリと体を起こすジンオウガ。

 

 

「グルルルルル…………!!!」

 

 

顔が怒りに満ちている……こえぇ……。

 

双剣もそろそろ研ぎたい。

攻撃が通らなくなる前に―――

 

 

「……!ソウジぃ!飛んで―――」

「へっ―――」

 

 

一瞬の出来事だった。

 

急に間合いを詰めてきたジンオウガが、ノーモーションで全身をぶつけてきた。

回避も防御も取れず。

 

 

「ぐへァ!!!!!」

 

 

俺はふっ飛ばされた。

 

 

「チィッ!!」

 

 

セツヒトさんの舌打ちが聞こえる。

 

早く動かなきゃ。

早く。

 

 

「ぐぁっ!ガッ……ああ……!」

 

 

体が動かない!

いや、動けない!!

 

何だ……っ!クソっ……クソっ!動け!俺!!

 

 

「グルルル……ガァァ!!」

 

 

目の前に迫るジンオウガ。

……食われる!!

 

 

「…………はぁぁぁぁぁあ!!!!」

 

 

ズガン!!

 

 

「ギャアアアアアァァ!!!」

 

 

ジンオウガに食われると思った、まさにその瞬間。

セツヒトさんが、いつの間にかやってきて。

 

 

「おらぁ!」

「グァッ!」

「ごらぁ!」

「ガァ!」

 

 

殴っていた。

 

……ヘビィボウガンで。

 

嘘だろ…………。

 

 

「私のー、ソウジにー……。」

「…………ガァァァ…………。」

「何してんのコラァ!!!」

 

 

ドゴォン!

 

 

人の出す音じゃねぇ!!

 

 

「…………グッ……グァッ!」

 

 

バッ!

 

 

「グルルル……。」

 

 

クルッ。

 

 

ダダッ

 

 

ドスンドスンドスン………………。

 

 

い、居なくなった……?

 

 

「せ、セツヒトさん……?」

「フゥー……フゥー……フゥー……。」

「…………。」

 

 

とても話しかけられる雰囲気ではない。

あと、俺も体が痺れていて、それどころではない。

 

何とか体を起こす。

 

 

「……いってぇ!」

「……!ソウジ!!」

 

 

シュタッと俺のもとにやって来るセツヒトさん。

 

 

「ケガはどう!?どこが痛い!?まず……これ、飲んで。」

 

 

何かの実が、俺の口の中に入れられる。

 

 

「ムグ……んん!ぐへぇ!ゲホッ!ゲホッ!」

「あー……不味いよねー、ウチケシの実……。どーお?」

「あ……痺れが……消えました……。」

「よかったー……。ソウジー!」

 

 

ギュッ。

 

 

抱きしめられる。

優しく。

 

 

「ごめんね……無理、させすぎたねー……モロに食らってたの、ここー?」

「は、はい!大丈夫です!大丈夫ですから!!」

 

 

胸の辺りを触られて、ドギマギしてしまった。

ち、近いです!セツヒトさん!!

 

 

「胸の……この辺りですが……多分大丈夫です。……す、すみません。とんだ失態を……。」

「そんなことないよー……アイツ、無双の狩人はねー……強いよー。間違いなく。」

「そうですか……。」

「最後のアレはねー、体当たり。一瞬で来るから、その一つ前のモーションを盗んでおくと、避けられるよー。」

「な、なるほど。」

 

 

簡単に言うが、初見で出来たらそれはもう神業である。

セツヒトさんは、きっと戦ったことがあるのだろうが。

 

 

「あと、動けなくなったんですが、それは……。」

「痺れてたんだねー。いや、あれ食らっちゃうともう動けないのさー。……ソロハンターには、ちょいと致命的ー。」

「マジですか。」

「うん。だからウチケシの実を常に口の中にいれて戦うハンターもいるよー?ソロでー。」

「マジですか……。」

 

 

あんなまずいものを四六時中口に入れてなどおけない。

正気の沙汰ではない。

でもまぁ、正気とか狂気とか、そういう次元ではない極限の戦いであれば、そうした戦い方もアリなのかもしれないが。

 

 

言いながら深呼吸。

 

……うん、骨まではいってないと思う。

 

 

「村で、しっかり見てもらおーねー。ソウジー。」

「はい。本当にすみません……悔しいです……。」

「……うんうん。くやしーよねー。わかるよー。」

「はい……でも、セツヒトさんの援護付きでアレですから……。修行のし直しです。」

「まー、そのためにここに来たんだしさー。……私だって、来たのは、禊のためだし。」

「……。」

 

 

()()だ。

セツヒトさんが言う、禊とは、何なのだろう。

ジンオウガを相手にして、「こくろうとはちがう。」と言っていたが、こくろう、とは何なのだろう。

 

……セツヒトさんの過去が、気になってしまう。

 

 

「……セツヒトさん。」

「んー?ちょっと待ってねー……今、救援信号を出すからー……。よっ、と……。」

 

 

セツヒトさんが、緑の信号弾を上げた。

そのうち、ギルドからの救援がやってくるだろう。

 

 

「ん。お待たせー、ソウジー。もうゆっくり休んでていいからねー。……どしたのー?」

「……聞かせてくれませんか?……村に着く前に……セツヒトさんの、話を。」

「……。」

「すみません……でも、ミヨシ村は、セツヒトさんと何か因縁のあるところなんですよね。……それを知らないと、何でしょう……、先に進めない気がして……。」

「……あははー、気、遣わせちゃったねー……。うん。話すよー。ソウジに、話すつもりだったしねー。」

「……。」

「んー。どこから話せばいいのかなー。」

 

 

救援を待つ、しばしの間。

俺は、セツヒトさんの過去について聞くことにした。

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