全3話になります。長い……。
「はっ……はっ……はっ……!!」
走る。
ここは勝手知ったる道。
山の中は散々駆け巡ってきたから、抜け道山道獣道、何でも行ける。
でも……でも……。
「何あれ……聞いてない………。」
ブーーーーー!!!
後ろから虫が来てる。
でも、ただの虫じゃない。
とんでもなくでかい虫が、すごい羽音で私を追いかけ回してくる。
「うう……怖い……!」
村の人からは、感情のない子だって言われるけど。
そんなことはない。
私だって、嬉しかったら笑うし、怖かったら泣く。
皆みたいに、たくさんたくさん表情は作れないけど。
「うっ……ううっ……。」
ブーーーーーー!!
羽音が近くなってきた。
近くにいるんだ。
こわい……こわい……。
「誰か……誰かぁ!」
自分史上、一番の大声で叫ぶ。
でも、誰も来るはずない。
だってここは山の中。
絶対に一人では行くなと言われた、山。
アヤの村は、人が少ない。
お医者さんもいない。
おじいちゃんの薬草を探していたら……なんでこんな目に……。
「……うあっ!!」
コケる。
痛い。怖い。
「ううっ……!」
ブーーーーン!!
虫が、目の前に迫る。
もうダメだ。私はここで、このおっきな虫に、殺されるんだ。
「…………!!」
目を瞑る。
「…………フン!」
バゴォーン!!!!!!
「ピギュッ!」
ブチョッ。
…………?
静かになった。
「……嬢ちゃん……ここに入るなって、村で教わらなかったか?」
「なぁに!仕方あるまい!子どもとは行くなと言われたら行くものだからな!」
「そりゃおめえだけだろ!ったく……ほら、嬢ちゃん。立てるか。」
「…………は、はい……。」
あれ?
虫は?
…………アレかな……立派な角がひしゃげて、緑色の液体があたりに散らばっている。
「ハッハッハッ!お嬢さん!救われたな!コイツのハンマーの一撃は、マカライト鉱石をも砕く!」
「何でおめぇが自慢気なんだよ……。まぁ、嬢ちゃん。こいつがありえねぇ視力で、嬢ちゃんとこのモンスターを見つけたんだ。礼なら、こいつにも頼むわ。」
「あ、あ、あぁぁぁ…………。」
助かった。
助かったんだ。
何だか頭がツルツルのおじさんと、ツンツン頭のお兄さんに。
助けられた。
どっと、力が抜ける。
「う……うわぁぁぁぁぁあん!!」
「お、おいおい!泣き出しちまったぞ!!」
「案ずることはない!お嬢さん!君はアヤ村の子だろう?私達が連れていってやろう!」
ヒョイッ
軽々と抱えられて。
私は。
「うっ……うわぁぁぁぁぁあん!!!」
これまた自分史上最高に、泣き出してしまった。
「余計泣いてんじゃねえか!このバカマショルク!」
「何!?ハスガ!私は間違えてしまったのか!?」
「あーもぅ……俺たちはこれだから……こんなことならムルトとウミを連れてくるんだった……。じょ、嬢ちゃん。俺ら悪い奴らじゃねえからな!すぐ!今すぐ!村に連れて行くからよ!だから……!」
「うっ……うっ……うえぇぇぇえん……!」
「泣き止んでくれよ……。」
おっきな虫、アルセルタスに襲われて。
二人のハンターに助けられた。
これが、私と彼等との、出会い。
* * * * * *
「本当に……なんとお礼を言えばいいものか……ほらっ!アンタもいつまでも泣いてないで!頭を下げる!セツヒト!」
「うっ……うっ……ありがとう……ございましたぁ……。」
「気にしないでほしい!母君!あなたの娘さんは大変素晴らしい脚をお持ちだ!あのアルセルタスから逃げる速さ!ハンター向きと言わざるを得ない!!」
「あ、脚ですか……?ま、まぁこの子は運動に関しちゃピカイチなんですがねぇ……。」
「…………。」
村に帰ると、待っていたのは、母のお説教だった。
とても厳しい母。
私が死ぬところだったっていうのに、叱りつけてくる。
おかげで助けてくれたツルツル頭のおじさん……ハスガさんも、ツンツン頭のお兄さん……マショルクさんも、引いていた。
その日は、礼を言ってから、家に返された。
そしたら家に入った瞬間、母に抱きしめられた。
「このっ……大バカセツヒト!……心配させるんじゃないよ……!!」
「おかーさん……ご、ごめんなさい……うぅ……。」
母は、いつまでも、優しく頭を撫でてくれた。
急いで帰ってきた父も、抱きしめてくれた。
祖父は、泣きながら私の無事を喜んでいた。
この日から私は、色々考えを改めた。
私は、別に無表情でも無感情でもない。
たくさん笑って、たくさん泣ける。
母も父も祖父も、たくさんたくさん、私を愛してくれている。
私が分かっていなかっただけ。
色んなことが、いいことになって。
それは、私の心次第だったんだって。
それがわかって、よかったなって、思えた。
* * * * * *
銀髪は、母譲り。
そして山の走りを教えてくれたのは、父。
山菜とか山の幸とか、色んなアイテムのことは、祖父が教えてくれた。
毎日の薪割りも、水運びも、競争して他の子に負けたことなんてなかった。
自分でも、なかなかやるなって、思っている。
「……こんにちは……。」
「おや、セツヒト。いらっしゃい。」
「こ、こんにちは、ムルトさん、……ウミさん。」
「キャー!!セツヒトちゃん!!いらっしゃーい!!何々ー?おねーさんたちに会いに来てくれたのー!?」
「は、はい。遊びに来ました。」
「いやーん!うれしーーー!」
ウミさんに、ギュッと抱きしめられる。
「ウミ……それはやりすぎだよ。」
「えーだってだってー。セツヒトちゃん、めっちゃ可愛いんだもん!」
「はぁ……セツヒト、許してやって欲しい。ウミも悪気はないから。」
「は、はい。私も。嬉しいです。」
「やーーん!も、かわいいーー!」
眠たそうな目で、マイペースな男性がムルトさん。
やたらハイテンションで、私のことを可愛がってくれる女性が、ウミさん。
この所、彼らに会いに行くのが、日課になっている。
彼らとは、このアヤ村にやってきたハンターさんたちのこと。
リーダーで、ツルツル頭のハンマー使い、ハスガさん。とにかく、パワーがすごい。
ツンツンのマショルクさんは射撃が得意。この人が的を外すを見たことがない。
のほほんとしたムルトさんは、戦いになると豹変する。近接の武器が得意で、縦横無尽に狩り場を斬り回る。
唯一の女性、ウミさんはとっても器用。感覚も鋭くて、索敵にサポートに、時には猟虫や笛を持ち出して、味方を援護する。
彼等は自分たちを、一つのチームだと言っていた。
名前は「カホ・チータ」。
隣のミヨシ村との間にある山にやって来る、たくさんのモンスターを狩りに来ているようだった。
このアヤ村を拠点にして。
滞在期間は、本人たちもわからないらしい。
数年になるとか言っていたけど。
ちなみに、ムルトさんとウミさんは、恋人同士らしかった。
いつも二人、一緒にいるので、怪しいなぁって思っていたけど案の定だった。
私は、そんな彼等の訓練の様子を見るのが好きだった。
「どうだ!試しにお嬢さんも、武器を持ってみないか!?」
「……え?」
「えー!?マショルクー!セツヒトちゃんにそんなこと教えないでよー!」
ある日、いつものように訓練を見ていたら、マショルクさんから誘われた。
武器を使ってみないかと。
「いや!私の勘では、彼女は筋がいい!気がする!」
「本当に勘なのね……。セツヒトちゃん、ちょっとやってみる?」
「……じゃ、じゃあ……。」
おっかなびっくり、片手剣を手にしてみる。
とりあえず、見様見真似で、ムルトさんの動きをやってみた。
「「!!??」」
確か、こんな感じ。
力は極力抜いて。
体重を使って、回転、勢い、振り抜く、続けて。
見てきたことを真似して、目標の木の木製のモンスターの模型を斬りつけてみた。
バキィ!
……壊れてしまった。
「…………ま、マショルク……私、驚いた…………。」
「あ、ああ!これは、彼女は、化けるぞ……!」
「…………?」
真似をしてみただけなんだけど。
二人はとても驚いていた。
「お嬢さん!どうだろう!私達と一緒に訓練してみないか!?」
「…………いいけど…………セツヒト。」
「ん?」
「私の名前、セツヒト。」
「…………はははははは!!す、すまんな!……改めて、セツヒト!よろしくな!」
「うん。」
一緒に、武器を振るうのを見てもらうことになった。
ウミさんもニコニコしていて。
マショルクにもようやく名前で呼んでもらえて。
私も嬉しかった。
* * * * * *
いつも見てもらえたわけじゃないけど、カホ・チータの皆は、暇があれば私に色々教えてくれた。
ムルトさんは、剣術を。マショルクさんは、射撃を。
ウミさんは、私と一緒に狩り場に行っては、採集や採掘、その他ハンターに必要な色んな事を教えてくれた。
唯一ハスガさんだけは、
「俺のやってる事って、ハンマーぶん回してるだけだからなぁ……。」
と、あまり教えてくれなかった。
「すまんな、セツヒト。」なんて言っていたけど、ハスガさんはこのチームのまとめ役。
何よりその頼れるパワーで、どんな敵も粉砕してきたらしい。
私はコッソリハスガさんの筋トレの仕方を盗んで、毎日トレーニングに励んだ。
どうやら私は、呑み込みがいいらしい。
教えてもらったことは、簡単にできた。
でも私は満足しなかった。
あの人たちに届くには、まだまだ技術が必要。
毎日毎日、反復練習をした。
ある日、
「……セツヒト、あなた、ハンターになるつもり?」
「え!?」
「最近よく鍛えてるし、よくわからない武器をたくさん使っているみたいだし……。それに、楽しそうだしね。」
母に指摘されて、初めて気がついた。
私は、ハンターになりたいんだと。
あの時、私を助けてくれたあのハンターのように、なりたいのだ、と。
「……おかーさん。」
「……止めやしないさ。あんなに引っ込み思案だった子が、『カホ・チータ』の方々が来てからとっても楽しそうでさ。……難しいねぇ、お母さんとしては、危ない事はして欲しくはないんだけどね……。」
「…………。」
「あなたも、そろそろ独り立ちの時かね。」
「………うん。」
ハンターになりたい。
できるなら、カホ・チータのみんなと一緒に。
あの頃は本気で、そう思っていた。
* * * * * *
数年が経ち。
カホ・チータの皆は、村を離れることになった。
盛大な宴会が開かれた。
周辺の村々を、大型モンスターの脅威から、何度も何度も救って。
今やこの辺でカホ・チータの名前を知らぬ者はいない。
首都から、お呼びがかかったらしい。
そんなことを、ウミさんが教えてくれた。
四人が仲良くお酒を酌み交わす中に、私は飛び込んだ。
「あら!セツヒトちゃん……本当に……お世話になったね!ありがとう。」
「本当に。……セツヒトと離れるのは、寂しいよ。」
ウミさんとムルトさんが、別れの挨拶をしてくれる。
「セツヒトくん!君は素質がある。個人的には、立派なハンターになって、ここを守ってほしいと感じている!」
「バカマショルク、そんなのセツヒトが決めることだろーが!勝手にオメェが決めるんじゃねぇ!……セツヒト、世話になったな。なんつーか、その……なぁ。」
ツルツル頭まで真っ赤にしているハスガさん。
いつもの調子のマショルクさん。
「……ありがとよ。カホ・チータを代表して、礼を言う。この数年、お前と過ごす時間は、皆楽しかったと思うぞ。……元気でやれよ!」
四人はこれから、より難易度の高いクエストを受けていくという。
だから、無理かもしれないけど。
言いたかった。
「みんな……みんなと、私、一緒に行きたい。一緒に、ハンターになって、活躍したい。」
「セツヒトちゃん……。」
「……。」
ウミさんが泣いていた。
マショルクさんは無言のまま、立ち上がる。
「……セツヒト。」
「……はい。」
「……君は、ハンターになって、どうしたいんだ?」
「えっ……。」
言葉に詰まった。
「……君は、君の素質は大変素晴らしい。我々も負けるつもりはないが、いつか同じステージに登れるだろう。」
「……。」
「だが!ハンターになってどうする?……常に命を賭け、他の命を奪い、生きていくのが我々だ。……ただの憧れでは無いのか?漠然とただ、今の状況を脱したく、ハンターになりたいだけではないのか?」
「ちょっと!マショルク!」
ウミさんがマショルクさんを止める。
「何も別れの席で、そんなこと言うものじゃないわよ!」
「……今だから言うのだ!セツヒトくんは真剣だ!真剣に、我々と共に来たいと言っている!だからこそ!我々がどんなに汚い仕事をしているか!数々の命と責任を背負って生きているか!伝えなければならない!」
「…………マショルク。」
ムルトさんが割って入ってきた。
「……その辺にしておくんだ。……セツヒト、悪いが、僕も同意見だ。それに君は、まだ若い。若すぎる。……落ち着いて、ハンターになりたいのはなぜか、考えてみるといい。」
「……ムルトさん。」
「すまない。こんなことしか言えなくて。」
「…………いえ、いいんです。正直、分かってましたから。」
無理やり笑顔を作って、言葉を紡ぐ。
「皆さんと居ると、どんどん強くなる自分が嬉しくて……憧れとか、そういう感情ばっかりで、ハンターになりたいって、思ってました。マショルクさんの言う通りです。」
分かっていた。
私は、カホ・チータにはなれないって。
でも、伝えたかった。
あなた達のようになりたい、あなた達と共に行きたいという、思いだけは。
「……俺は連れて行ってもいいと思うがな。」
ハスガさんが、野太い声で話し出す。
「なぁに、小難しく考えることじゃねぇ。嬢ちゃんは強くなる。間違いねぇ。それによ……楽しかったじゃねえか。親もいねぇ、頼れる人も家もねぇ。そんなオレたちを、この村は、セツヒトは、本当に暖かく迎えてくれた。」
「…………。」
「だからよ、連れて行って、また楽しくやれたらな、ってよ。思っちまったよ……。いけねぇ、リーダー失格だ。」
ハスガさんが立ち上がる。
私の倍はあろう体格に見下ろされる。
でも、怖くない。今は全く。
初め見たときは怖くて仕方なかったけど。
とても優しい目をしていた。
ハスガさんは、膝を曲げた。
私と同じ目線。
「嬢ちゃん……いや、セツヒト。世話になった。言ってることコロコロ変わってわりいな。やっぱり連れて行くのは無理だ。俺たちはこれから、命を賭して、戦いに行く。」
「…………。」
「おめえにゃ、家族がいるよ。優しい村の人もな。……どうか強くなって、守ってやってほしい。おめぇなら、できるさ。」
「…………はい。」
こうして、カホ・チータは首都へ行った。
翌日の見送りの際、髪の毛がよく生えるという薬草を煎じたものを、ハスガさんにプレゼントした。
何とも言えない微妙な顔をするハスガさん、周りの三人は爆笑していた。
明るい別れになった。
「わたしも、強くならないと。……なるんだ、みんなを守る、ハンターに。」
私の、一人の修行の日々が、ここから始まった。