前回の続きからになっています。
「これで、終わりー!」
ズガガガガガガガ!
「ギャアアァァァ…………」
ズゥン…………。
「イャンガルルガ……だっけー?討伐完了ーっと。」
クエストを完了する。
ポーチから信号弾を取り出す。
バシュッ!
信号弾が空に弾ける。
じきに、タオカカのギルドから回収班がやってくることだろう。
「んー……強かったねー。」
振り返る。
黒狼鳥イャンガルルガ。
黒紫の体色、禍々しいまでに棘が生えた羽と尻尾。
その尻尾には毒があり、まず避けないと話にならない。
切断してもお構いなし、怯ませてもお構いなし、果ては見つけたイャンクックにまで襲いかかる始末。
おかげで双剣での討伐は諦め、ボウガンに変更。
ジワジワと削る作戦に変更した。
落とし穴にも気付くし、激情型かと思ったら冷静に罠を破壊したり閃光玉を食らっても普通に反撃してきたり……。
やりにくすぎて笑えてきた。
イャンクック討伐と聞いてやってきたハンター達が、軒並みやられたのもうなずける。
似てはいるけど……全く違うよ?このモンスター。
コイツはどこからやってきたのか……少なくともイャンガルルガなんてこの辺で見たことは無い。
「ギルドから緊急要請受けてきたけどー……うん、納得だねー。これはキツイでしょー。」
まぁ、何とかしたけどさ。
* * * * * *
アヤ村を出て3年。
出たと言っても、周辺の村……タオカカやミヨシ、タケキヨ、ノタ……それぞれの村を飛び回っては、トラブルに対処する生活を続けている。
だからまぁ、家にも頻繁に帰る。
家族は、たまに顔を出すから安心しているみたい。
「みんなを守れている……かな。」
あの時の、カホ・チータとの別れ話を思い出す。
みんなを、守るハンターになる。
私なりの答えは出た。
「どんなハンターになりたいか」と今、ムルトさんに聞かれれば、胸を張って言える。
「みんなを守れる、ハンターになる。」って。
カホ・チータのみんなとは、今でも連絡をとりあっている。
首都ギルドに舞い込む案件は、困難を極めるものばかりらしい。
でも、壮絶な強さを誇るモンスター相手に、連戦連勝。
疲れるけど、充実していると、ウミさんから手紙が来ていた。
首都で筆頭ハンターチームになったカホ・チータは、今やこの大陸で知らない人はいない。
なんだか遠くに行ってしまった感じがする。
でも、繋がりは消えない。
「私は、私の手が届く範囲でがんばるよー……。ふふ、ウミさん。幸せそーだったなー。」
手紙には、ムルトさんと一緒に暮らし始めたというノロケ話も追記されていた。
近々、結婚も考えているという。
なんとも幸せな話だ。
「ごちそうさまですー……フフッ。」
思わず笑みが溢れる。
とりあえず、タオカカのギルドに帰るかな。
シガイアさんも待っているだろうし。
* * * * * *
タオカカのギルドは、中々に大きい。
他の大きな街のギルドと比べても、遜色ないと思う。
一度だけ首都のギルドを見たことがあるけど……あれと、比べちゃだめだよねー……。
デカすぎ、荘厳すぎ、どこかの遺跡の神殿みたいだった。
それと比べれば、この前行ったワザドラのギルドは可愛いものだった。
ここから五日ぐらいの距離のところにある、村のような街のような……微妙な大きさの町。
少し厳つい石造りの建物の中は、とっても賑やかだったのを覚えている。
タオカカは、ガッツリ木造の巨大ログハウスみたいなつくり。
……自然に近いと言われれば聞こえはいいけど……田舎臭いよねー。
ま、私は大好きなんだけど、ねー。
ちなみに、この周辺にはギルドはここ、タオカカにしかない。
私の故郷のアヤも、隣村のミヨシも、ここのギルドに頼りっぱなし。
だから私が飛び回ることになってるんだけどさ。
自分の故郷の周りを守れるなら、それでいい。
私の本懐だ。
ソロで飛び回るのは、この辺を本拠地にするハンターが少ないから。
冬にどっとハンターがやってきて、春も半ばになると閑散とする。
パーティを組んでやることもあるけど……一人の方が気楽なんだよねー。
のんびりと自分のペースで。
遂には口調までこんなになってしまった。
こう話してると、自分が落ち着くんだよねー。
冷静になれる。
…………私って、頭にきたら意外と激情型らしいからねー…………。
未熟未熟。
「シガイアさーん。入りますよー。」
ガチャ。
「こんにちはです……あれ、なんですかー?その顔ー。」
「セツヒト……ノックをするのを忘れただろ。」
「あ、やばー。……まー、許してくださいよー。例のやつ、倒せましたのでー。」
「あぁ、報告は聞いている。……本当に助かった……。」
「いえいえー。……大丈夫ですか?」
シガイアさんは、タオカカギルドのギルドマスターだ。
数年前にタオカカにやってきてから、この周辺の生活は俄かに上向いてきた。
アヤ村からカホ・チータがいなくなった後、周辺の狩り場事情は一変した。
首都に引っ張られたカホ・チータの代わりが、どこにもいなかったからだ。
その時にはすでにタオカカのギルドマスターになっていたシガイアさんもてんてこ舞い。
首都ザキミーユに、ハンター補充の陳情を出しに行っても、暖簾に腕押しだったらしい。
……首都ばかり戦力集めて、どうすんだっつーの……。
私も死物狂いでがんばった。
そして、ハンターになった。
自分で言うのもなんだけど、才能があったみたいで。
……多分全武器種、使えるんじゃないかなー。
生まれてから、あの山で育って、カホ・チータのみんなに鍛えられて、自分で特訓しまくって。
気付いたら、こんな感じ。
いやー、がんばったんだよ?わたし。
不本意な二つ名には、いささか不満だけどさ。
何よ、『百手』って。
「セツヒト……頼ってばかりで済まない。」
「いいですよー。……で、今回の原因は、何ですか?」
おかしいのだ。
ここのところ。
見たことのないモンスターばかりを相手にしている。
真冬の時期に、強いモンスターが湧くこの辺だけど、今のあったかいこの季節にあんな強力なやつ、出たことなんてない。
この辺で生活していた私が言うんだから、間違いない。
「……仮説の域は出ないが……。」
「はい。教えて下さい。」
疲れが見えるシガイアさんが、ゆっくりと口を開ける。
「……スタンピード、かもしれん。」
「すたんぴーど?」
聞いたことない。なにそれ?
「強力過ぎるモンスターが出現し、ありとあらゆるモンスターたちが、その生息域を大幅に変える。縄張りを侵され、立ち向かうこともできず、逃げ出す。そう言う連鎖的な現象を指す。」
「……逃げたって……今日のヤツ、そうとうヤバいやつでしたよ?」
「……だから……そのモンスターでさえ、歯が立たぬ様なモンスター、と言うことだ。」
「……マジっすかー……。」
シガイアさんは、かなりできる人。
疲れを見せるなんて、あり得ない。
そして、嘘を付く人でも、ましてや信憑性の薄い説をバカみたいに公言する人でもない。
つまり。
これは、
「どーすればいいですか?」
「……済まないが、これまで以上のペースで、狩猟を頼むことになる。原因はこちらで究明する。……セツヒト、すまん……。」
「…………シガイアさーん。」
「……。」
シガイアさんが、心底苦しそうな顔をしている。
「私は、守るためにいる。みんなを、みんなが住む場所を、その営みを。……苦になんかならないですよー?お任せください!」
「…………あぁ。」
……ダダダダダ!
コンコン!
「開いている。誰だ?」
ノックの音が、部屋の中に響く。
ガチャッ!
「ぎ、ギルドマスター!またやられました!ハンター2名負傷!内1名は瀕死!場所はミヨシ!相手は……電竜!ライゼクスです!」
「…………わかった。すぐに行く。」
「はい!」
バタン!
ダダダダダ……。
ギルドの人が入ってきたと思ったら、とんでもないことを言って、出て行った。
ライゼクス?以前山脈の向こうにしかいないようなモンスターが……ここに?
「セツヒト…………。」
「だからー、そんな顔しないでくださいよー。……行ってきますねー。」
「…………武運を祈る。」
「はーい。」
部屋を出る。
『クソッ……!!異常事態だ……首都は何をしているんだ……!!』
シガイアさん……。
首都からやって来たって聞いたけど、タオカカ周辺の発展とハンターの育成に、とてもがんばってくれているギルドマスター。
本当に、尊敬している。
……がんばりますよー!
ライゼクス、か。
まだ知っているだけマシかなー。
さーて、いっちょやりますかー。
首を洗って待ってなー、電竜ー!
…………。
その日から、大変な日々が続く。
毎日毎日、強力な大型の相手。
私しかいないのかって言うぐらい、がんばっていたけど。
他のハンターも、それぞれが相手できるモンスターを倒していた。
……疲れていたけど、弱音なんて吐けない。
カホ・チータのみんなも、こんな感じで頑張ってるのかな?
そう思うと、不思議と力が湧いてくるようだった。
* * * * * *
その日もつつがなく討伐完了。
忙しさも極めれば波に乗ってくるもので、最近はちょっとした大型じゃ、私の相手にはならなかった。
自分でも、恐ろしい速度で成長しているのがわかる。
大型狩猟の達成難易度、速さ、数……凄まじい程の記録になっていた。
様々な条件を加味し、ギルドが私にG級の称号を与えた。
首都から称号付与の手紙が来た時、なんの冗談かと思った。
どれだけ周辺のハンターやギルドスタッフ達が苦心して、生活を守ってきたか。
そんなことなど知ったことかと、手紙にはこう書かれてあった。
「首都ザキミーユギルドへ招聘する。」
その手紙は、粉々にして破り捨てたあと、灰になるまで燃やし尽くした。
思い出すだけでも腹が立つ。
討伐を完了したリオレイアの亡骸を前に、変なことを思い出してしまった。
関係ない。
私は、ここで守る為に生まれ、ここで死ぬんだ。
例えフリーのハンターになったとしても、それは変わらない。
……ギルドに帰ろう。
信号弾を打とうとした。
その時だった。
ーーーゾクゥッ!!
寒気が襲った。
恐ろしい何かがいる。
山の中腹に目を向ける。
私じゃなきゃ、一瞬すぎて見逃すような、そんな光が見えた。
あれは稲光だったのだろうか。
しかも、色は赤黒かった。
見逃すわけには行かない。
しばらくしてやってきた回収班に事情を伝え、その場所に向かう。
近づけば近づくほど、本能が告げる。
「近づくな、無事では済まない。」と。
それでも、歩みを止めるわけには行かない。
木々が生い茂るミヨシの山。
その中腹に、ヤツはいた。
(な、なーんだ……ジンオウガか……。)
感覚はとっくに麻痺している。
この時期に、こいつがいる事自体が異常。
だが、最近のこの辺は、事情が違う。
イャンガルルガにライゼクス……他にも、普段目にしないようなモンスターをたくさん見てきた。
普通のジンオウガなら、珍しくもない。
そう、普通のジンオウガなら。
(……いや、なに……?あれ……?)
違う。
明らかに通常個体とは違う。
見た目は確かにジンオウガ。
だが、毛並みや体色が、まるで違う。
普通ジンオウガは、黄色や水色、白の入り混じる美しい印象だが、こいつはドス黒い。
赤い光……飢えた眼光……。
そして見た目なんかより。
私の本能が言った。
「勝てない」と。
…………。
すぐさまギルドに報告に戻った。
観測班が見逃すとは思えなかった。
「まて……確認のみの報告に……あった、ジンオウガだ。」
「場所は……?」
「ミヨシとアヤの間……山一つ向こうに見つけているが、確認のみ。現状危険性なし、との報告だな……。」
「シガイアさん、それは―――」
「あぁ、わかっている。セツヒト、お前が直接見たんだ……こいつが今回のスタンピードの原因かもしれん……。」
「…………。」
ありのままに報告した。
体高や色といった特徴。
そして、現状の認識。
私でも、敵うとは思えない、と。
「…………。」
「…………。」
沈黙。
そりゃそうだ。
現状……自分で言うのもなんだけど、この周辺の最強戦力である私が、謙遜も奢りもなく、率直に「敵わない」と言っているのだ。
打つ手は、限られる。
「……首都に、報を飛ばす。」
それしか……ないよね。
「セツヒト並の……いや、それ以上の戦力など覚えはないが……それでも、やるしかない。」
私に匹敵するハンター。
メンバーが揃えば、撤退程度ならいける。
だが、撤退させてどうする?
あんな突然変異のような個体を、野放しにするのか。
いつ来るともしれない不安を抱かせながら、みんなに生活を送れと、言えるのか。
答えは「No」だ。
討伐。
やるしか、ない。
シガイアさんも、その辺は十分に理解していた。
* * * * * *
観測班からの情報が揃い、そのジンオウガには二つ名ができた。
獄狼竜。
ジンオウガ亜種。
第一級竜災指定。
いつ来るともしれない、獄狼竜の襲来に備え、アヤ、ミヨシ、全住民の避難命令が出た。
ただ、村を離れない人もたくさんいた。
頭を下げても、「俺たちはここで骨を埋める」と、覚悟を決めていた。
……あの時、無理やりにでも引っ張っていけばよかったと思う。
首都から返信が来た。
ギルド自慢の竜便を使って、1日半でやってきた返事。
そこにはこう書いてあった。
『首都、モンスター襲来につき、対処できず。
そちらで対処せよ。』
シガイアさんは憤慨した。
後にも先にも、この人が怒ったのを見たのは、この1回だけだ。
私だって、頭に来たけどさ。
「首都にも、
「……首都にもー?どんなモンスターですかー?」
それは、カホ・チータの人たちが、歯が立たないほどのモンスターなのか。
首都ご自慢の強力なハンター達でも敵わないほどの。
「……リオ夫婦、通常個体種だと。」
「……はー?……舐めてんの?」
余裕じゃんそんなの。
ハンター舐めんな。
「……首都の評議会の老いた連中の力かもな……よほど自分たちの命が大事と見える。」
そりゃ大型モンスターを見たことさえ無いような都会の連中は、リオ夫婦なんて見たら卒倒するだろうけど。
対処さえ誤らなければ、私一人でもいけるわ。
「……カホ・チータのみんなは?」
「……聞いたら……セツヒト。余計怒ると思うぞ。」
「うん、言ってー。」
「『多くの人命の救助を、最優先とする。』……だそうだ。」
「…………。」
わかってる。
カホ・チータは、そこに住む人の命を最優先に動いていた。
でも……みんながやれば、すぐにリオ討伐なんて終わらせて、こっちにやって来られるでしょ?
なんで……?
こっちのみんなの命だって危ういんだよ?
首都の人たちが、そっちの方が、大切だっていうの?
私が、私が憧れたハンターは……。
そんな程度だったの?
…………。
シガイアさんを始めとしたギルド関係者は、首都のギルドを完全に敵対視した。
私も、もう考えないようにした。
私の1番の憧れだった、カホ・チータのみんなは……あの人たちは、もう関係ない。
私は、私のできることをする。
覚悟を決めて、山中に身を潜めていた、その時。
突如として、獄狼竜が村を襲った。