前回の続きからになっています。ようやく終わり。
ほんの少しグロ描写あります。苦手な方、すみません。
ドガァァァァァァァン………。
聞いたこともないような大きな音だった。
夜半過ぎ、前線で見張っていたはずの獄狼竜が消えた。
「大型は、とてつもない跳躍や地面を掘るなどして、大移動をすることがある!」
マショルクから教わったことだろうか。
もう覚えていない。
とにかく、私の視認できる中に、獄狼竜はおらず。
背後の村から、轟音が響いたのだった。
「チィッ!」
バシュバシュッ!
赤い信号弾を放つ。
2回続けるのは、「最悪」の知らせ。
獄狼竜が村を襲った。
まずい。
まずいまずいまずい。
「落ち着けー……落ち着け私ー……。」
山を下る。
木々の間から、ミヨシの集落が見える。
獄狼竜が集落を襲っている。
「とどけぇぇぇぇぇ!!」
ヘビィボウガンを取り出す。
走りながら、届くかどうかギリギリの射程。
集中する。
ズガガガガガガガガ!!!!
ビシビシビシィ!!!
「ガァァァァァァ!!」
着弾、確認。
続いて……
ヘビィボウガンをその場に投げ捨て、大剣に持ち変える。
タイミングを合わせて……3……2……1……!!
ザン!!!
「グァア!」
タイミングバッチリ……うわー……効いてなさそー……。
前線に持ってきた武器は3つ。
ヘビィボウガン、大剣、双剣。
流石の私も、これ以上は重くて無理。
勘で持ってきた武器だけど。
やっぱこいつかなー。
ジャキン!
双剣を手にして、ジンオウガ亜種……獄狼竜と対峙する。
「あんたに遠距離勝負とかー、ちまい事やっても、絶対いつまでも勝てないっしょー。」
「……グルルルルルル……」
「全力でいかせて―――」
「……ウォォォォォォォォォオオオン!」
すでに体が温まっていたのか。
それとも私を前にして本気を出すことにしたのか。
今でもわからないけど。
獄狼竜が放電状態に入った。
「……クソっ。」
放電状態。
ある意味チャンスタイム。
無防備になる時間帯とも言えるが、完全な放電を行えば。
大量の雷光虫が寄り、手がつけられない状態になる。
止めなければ。
こんな村のど真ん中で、あの状態になられたら、周囲の被害は免れない。
一瞬で思考を終える。
突っ込む。
全力の全力を、ご自慢の角に、叩き込んでいく。
「うらうらうらうらあぁぁぁぁぁあ!!」
「ウォォォォォォォォォオオオン!!」
意に介さない獄狼竜。
くそっ!間に合わないっ……!
ジンオウガとは違う、赤くて黒い、不気味な光。
これは雷光虫などではない。明らかに異質な色。
「……離脱っ!」
放電待機の間に怯ませることは、かなわず。
獄狼竜は―――
「ウォォォォォォォォォオオオン!!!!!」
凄まじい雄叫びの後、周囲を焦がす大放電を行った。
バチッ!バチバチッ!
ドゴォン!!
ドオオォォォォォン…………!
ふっ飛ばされて、転げる私。
目一杯踏ん張って顔を上げた直後。
ヤツの周りには、瓦礫と化した家屋が広がっていた。
「うそ……でしょ……。」
ジンオウガは、放電待機の状態、つまりタコ殴りにできる時間がある。
しかし。それを過ぎれば、パワーアップした状態に変化する。
その変わる瞬間の放電は、たしかに凄まじいものだが。
獄狼竜の大放電は、ケタが違っていた。
放電などではない、異質な力の解放。
「威力が、強すぎる……」
その後は、ひどいものだった。
獄狼竜の力は、それはもう全く別の次元になっていて。
ミヨシの村の人達が一生懸命作り上げた集落が、その努力が崩れ去るのに、さほど時間はかからなかった。
攻撃を避けようにも遮蔽物が多すぎる。
それは獄狼竜にとっても同じようで。
目に入る全ての邪魔な家屋など、獄狼竜の脚の一振りで全て全壊した。
私を狙うのではなく、まずは狩場を整える。
さも当然のように、村を破壊し尽くす獄狼竜。
反撃を試みるも、意に介さず、すべてを蹂躙していく。
数分ほどすれば。
「…………アォォォォォン!!!」
村は、その村としての体を、失っていた。
「ふぅー……ふぅー……。」
誘いにもおびき出しにも乗ってこない。
焦る私の気持ちを、逆に誘い出すように。
ヤツは全てを壊し、雄叫びを上げいた。
「…………グルルルルル…………。」
「くそっ…………くそっ!」
泣きたいと思う気持ちはいつぶりだろう。
おそらく、倒壊した建物の中には避難しなかった住民が多数いたはず。
竜災害において、住民が被害を受ける際、直接このモンスターに攻撃を食らって亡くなることは、実はあまりない。
モンスターのとんでもない力で、家屋が倒壊されたり山を崩されたり水害が起きたり……そしてそれに巻き込まれるパターンが多い。
亡くなった人が見える。
ウソみたいに動かなくなったその人たち。
頭が潰れたり、あらぬ方向に手足が曲がっていたり。
見知った顔も居た。
服でしか判断できないような状態だが。
「ふぅーーーー…………。」
今すべきは何か。
……ひとまず、安全な場所への誘い出し。
私しかいない。
これ以上、被害を出すわけには―――
グッ。
獄狼竜が構えた。
背筋が凍る。
攻撃を行う前のモーション。
普通の狩り場なら、避ければいい。
だが。
ここは村の中。
避けないと、タダでは済まない。
たが、避ければ村にさらなる被害が。
でも、避けないと。
けど避けたら村が。
でも―――
「……ガァァ!」
クルンと回った獄狼竜は、その勢いのまま、右脚を振り下ろす。
私の取った選択は……回避。
凄まじい速度で連続して振り下ろし。
これも回避。
潰される家屋。
蹂躙されるミヨシの人たち。
構うことなどできなかった。
おびき出すなど、不可能。
そして獄狼竜は、さらに。
いや、突進、では無い。
ボウガンで撃たれた弾のように、私めがけて突っ込んできた。
「ふんっ!!!」
私も体を思い切り回転させる。
卓越した双剣使いにだけ許された、ジャスト回避&斬り返し。
タイミングは合っていた。
なのに。
「ぐぁぁっ!!」
私はふっ飛ばされた。
「ぐっ!…………あぁっ!!」
痛い。久しぶりの、痛み。
避けるか否かの判断が遅れた。
ジャスト回避はうまくいったと思ったのに。
精度が甘かった。
……すぐに立ち上がる。
「うぁっ…………!」
右腕の腱が、やられた。
全身の裂傷と、上がらない腕。
骨も……いってるな、これ。
「……グルルルルル……」
獄狼竜が、唸る。
勝ち誇った顔を、するんじゃない。
私はまだ、負けていない。
「…………舐めんなぁぁぁぁぁあ!!」
脱力。
力が抜けてドロドロになった体を、倒れ込むようにして、加速。
一瞬で獄狼竜と間合いをつめる。
「鬼神化……!」
狙うは、ヤツの頭部。
油断しているヤツの、ご自慢の角。
「おらぁぁぁぁぁぁあ!!」
ザン!ザシュ!!ズザン!!!
ヒュバッ……ズザン!!!!
バキン!!
「グォォォォォ!!」
「どうだコラァ!!」
折ってやった。
倒れ込む獄狼竜。
チャンス。
「オラオラオラオラオラオラ!!!!!」
「グァッ!ガッ……!ガァァ!!」
ありったけを、叩き込んだ。
今殺してやる。
今、ここで、お前を絶対に、殺す。
よくも……よくも村の人達を……!!
「ぅらぁっ!!」
「ギャゥン!!」
自分でも体がどう動いているのか、分からない。
だが、死んでもいい。
こいつを、こいつだけは、必ず!必ず!!
ザン!!
「ガァァァ!」
忌々しそうにこちらを見つめる獄狼竜。
くそっ……倒しきれなかった……!!
「グルルルルル……。」
起き上がった獄狼竜は、こちらを睨みつけ。
クルッ。
ダダッ。
ドスンドスンドスンドスン…………。
山の向こうに消えていった。
「待て―――」
私は、追いかけることもできずに。
ドサっ………。
その場に倒れ込んでしまった。
* * * * * *
「…………!?」
パチッ。
目を覚ます。
意識が戻った。
知らない場所で寝ていた。
「…………ッ!」
体を起こそうとするも、できない。
「いたい…………。」
包帯が巻かれた、全身。
腕も脚も、固定されていた。
動かそうとすると、強烈な痛みが走る。
「ご、獄狼竜は……。」
声を絞り出す。
ガチャッ!
「セツヒト!!」
「あ……シガイアさん……。」
「…………良かった…………あぁ、良かった…………。」
「…………シガイアさん……今、獄狼竜は…………。」
「……あぁ、無理に話すな。ヤツは、去った。」
去った……?
いなくなったってこと……?
「覚えていないか……観測班からの報告でしかないが……対象は遠く山を離れ、北東の霊峰近くまで逃げたと。そう、報告があった。」
「…………そう、ですか……。」
「あぁ……それが、二日前の報告だ……当面の危機は去ったと言っていい。」
「…………はい。」
シガイアさんが色々教えてくれた。
あの後、応援に駆けつけたタオカカのハンターたちが見たのは、崩壊したミヨシ村と、その震源地らしきところに寝転ぶ私。
息をしていなかったらしい。
すぐに住民の救助が始まり、私はタオカカの医務室まで運ばれた。
息を吹き返し尚、危険な状態だったとか。
「ミヨシは……ミヨシは……?」
「…………落ち着いて聞け、セツヒト。」
「…………。」
「…………村は全壊。避難拒否の村民35人の内、当時屋内に身を潜めていた25人が被害……死者、16名。生存者のうち3名は重体、意識は戻っていない。」
「…………。」
「…………アヤ村にも被害が出ている。」
「えっ!?」
思わず首を起こす。
ビキッと全身が痛んだ。
「…………!!」
「動くな!お前も、何故生きているかわからないと言われたんだぞ……!」
「…………はい…………。」
「…………続けるぞ。」
放電を撒き散らしながら、ミヨシを去った獄狼竜は、まるでその憂さを晴らすかのようにアヤ村を襲撃。
一瞬の出来事に、避難拒否の住民もなすすべなく、被害を受けた。
「…………アヤは……アヤの村は…………?」
「…………全壊は免れたようだ。……セツヒト、お前の家族はもちろん無事だ。安心しろ。」
「…………そんなこと……言ったって…………!」
少し安心してしまった自分が、憎い。
私の家族は全員避難していたから、そりゃ無事だろうけど…………。
……私の村まで……。
「…………被害を受けたのは7名、死亡者2名だ。一瞬で立ち去ったらしく、ミヨシほどの被害は出ていない。」
「…………2名は…………。」
「あぁ…………死んだ。獄狼竜の手によってな。」
「…………。」
「勇敢なハンターの二人だ。下位とはいえ、村民が山に逃げるまで、体を張って時間を稼いだそうだ。」
「…………そう、ですか…………。」
ハンターの仕事。
村を、みんなを、守る。
その人たちは命を使って、仕事をやってのけた。
私は……私は………。
「あっ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
「…………。」
動かない体。
唯一使える、声を振り絞り。
「あぁぁぁぁぁぁ……………。」
「…………。」
私は、悔しさをぶつけた。
私自身に。
「…………セツヒト、お前は守った。」
「…………。」
「お前がいなければ、これ以上の被害が出ていた……間違いなく、な。ここに強者がいるとわかれば、モンスターもおいそれと手出しはすまい。モンスターたちのスタンピードも、パタリとなくなったしな……。だから……ギルドマスターとして、礼を言う。…………ありがとう。」
「…………。」
「…………かなりの大怪我だ。一度、しっかりと体を見てもらえ…………私は仕事に戻る。」
ザッザッザッ……。
バタン。
シガイアさんがいなくなってから。
私は、泣いた。
* * * * * *
涙も出なくなった頃、病室に色んな人が訪れた。
アヤやミヨシの人たちが、たくさんたくさん、礼を言ってくれた。
ろくな返事もできないまま、私は頷くだけ。
母と父も来た。
よくやったねと、労ってくれた。
よくやった?
誰が?
私が?
沢山の人を、村を、守れなかった私が……?
みんなが立ち去った後、私はまた、自分に怒りをぶつけ続けた。
次の日。
来客がようやく落ち着いた頃。
コンコン。
ガチャッ。
「……セツヒト、元気か?」
「……え……?」
意外な人間がやってきた。
「……久しぶりだな……生きていて、良かった。」
「……マショルク?……なんで……?」
……今頃……?
「首都の防衛もそこそこに、すっ飛んできた。……間に合わなかったようだがな。」
「…………カホ・チータの、みんなは……?」
「いない。私一人だ。」
「…………そう。」
何故、今頃?
首都の防衛が済んで来たって。
「……首都は何とかなるおそらくな。リオ夫婦は、両方ともハスガ達が仕留めるだろう。………ここに来る途中に村も、見た…………。」
「…………。」
「ひどいものだった……。私達を受け入れてくれた場所が、こうも壊されていてはな。」
「…………それで?私を笑いに来たの?」
「違う!…………よく守った。セツヒト。」
「…………何で?」
そんな労いの言葉などいらない。
私が聞きたいのは、そういうことではない。
「何で……何ですぐに来れなかった!?そんなに首都が大事か!?あんたの……あんたたちの力を、村の人達がどれだけ欲していたか!わかるか!?」
「…………。」
「みんな言っていた!あんたたちがいればって!…………私じゃ……私だけじゃ……ダメだったんだ!!人が……!!」
「…………。」
「人が……たくさん死んだんだ…………。」
思わず叫んでしまった。
だが、止まらない。
感情が、思いが、あふれる。
「なぜ!?なぜ、知らせを聞いてすぐ来られなかった!?もしかしたら、もしかしたら間に合ったかも知れないのに!!何で…………。」
「セツヒト…………。」
「…………。」
マショルクが、口を開けた。
「私は……
「…………え?」
聞き間違いか?
何を、何を言っているんだ?
「私達の活動理念は、『より多くの人間を守る』ことにある。首都だけではない。世界を救う。私達の根底は、そこにある。」
「マショルク……?」
「首都にリオ夫婦が襲来した。正確には、夜間に突如襲来し、被害を出しては帰っていく……卑怯な奴らだ。首都の民衆は恐怖に陥った。我々は、ザキミーユの筆頭だ。頼りの我々が居なくなれば、どうか。」
「…………。」
「私達は話し合った。…………結論は『首都の防衛を最優先。タオカカ周辺への助力をその後行う』ことになった。」
つまり……?
こいつらは、人間の数を判断の基準にしたのか?
この……山あいの村落の集まりで。
頼りにするものも少ない、そんなか弱い私達。
対して潤沢な設備も、優秀なハンターも揃っている首都。
天秤にかけて。
首都の方が、優先すべき、と。
「…………だから、私達は間違っていない。より良い方法はあったとは思うがな。」
「…………ふざけるな。」
「…………。」
「ふざけるなぁ!!」
ようやく動くようになった右腕を、ベッドに叩きつける。
軋んだ音がした。
「『カホ・チータ』の力があれば!亡くなる人もいなかった!!」
「首都の防衛を優先することこそが、我々の理念であり、結論だったのだ!」
「あんたらは、人間を数で考えただけだ!!」
「違う!」
「違わない!首都の……よくわからない権力に飲まれ、どうにもならない自分たちの行いを正当化したいだけだろ!」
「違うぞセツヒト!首都の人間は脆い!モンスターなど見たことも無いようなものが殆どだ!だからこそ、そんな弱き民衆を―――」
「この集落の人間の方が、強いって!?だからそっち優先ってこと!?ふざけている!!私が……私達がどれだけ……!」
「…………。」
「頼るものも無く、日々を過ごしてきたか…………!分かっているだろ!?あんたらだって……ここにいたんだよ!!」
「セツヒト……。」
「あんたらの……あんたらのいた場所は……もうボロボロだよ…………。」
「…………。」
私は泣いた。
もう、流す涙も無いかと思っていたのに。
崩れ落ちてしまった。
* * * * * *
マショルクは、すぐに帰っていった。
私は、カホ・チータが許せなくなっていた。
程なくして、私は首都の病院に行った。
一向に良くならない腕を診てもらうためだ。
首都での人々の話題は、カホ・チータ一色だった。
彼等は、リオ夫婦から首都を救ったヒーローとして、もてはやされていた。
胸糞が、悪かった。
カホ・チータは、英雄か。
…………ここの住人で、あの村で起こった惨劇を知っている人はどれだけいるのだろうか。
益々、カホ・チータが憎らしくなった。
* * * * * *
「引退する?」
「はい。」
「…………そこまで、怪我はひどかったか……?」
「まー動けなくは無いですけどねー……上がらないんですよねー、腕。はははー。」
「…………私もここを離れることになった。」
「え!?」
「……ここからしばらく行ったところにある、ワサドラへ異動だ。安心しろ、次来るやつは首都には染まっていない、俺の友人だ。…………俺なんかより、よっぽど向いている。」
「そうですか……。」
首都で、私の腕は以前のように上がらないと診断された。
リハビリを続ければ、日常生活を送るには問題のないレベルまでいけるらしい。
だが、肉体を酷使するハンターは、難しいかもしれないと言われた。
「…………私も、ついて行っていいですかー?」
「ワサドラにか?」
「はい……私も……もうここには居たくないんですよねー。」
「……お前の故郷が、すぐそこにあるんだぞ?」
「……帰るべきところなんて、もうありませんよー。」
「……そうか。分かった。」
シガイアさんはそれ以上何も聞かなかった。
私は、逃げるようにワサドラへ向かった。
父と母も祖父も、何も言わなかった。
ただ、笑顔で、「行ってらっしゃい」と言ってくれた。
ワサドラに着いたら、どうしようかな。
まずは仕事を探さないとね。
私ができる仕事…………何だろ?
得意なこと……なんでも武器を扱えます?
武具屋とか開いてみるかなー。
そんなことを呑気に考えながら、車に揺られる。
もう、戦いに身を置くことはしないなと、ぼんやりと考えながら。
なるようになるか、と独り言ちた。