セツヒトさんから、昔の話を聞いた。
「…………とまぁ、こんな感じー。」
「…………。」
二の句が継げない。
「は、はい……教えていただき、ありがとうございました。」
「いやいや、それほどでもー。」
セツヒトさんが、過去に何があったのか、教えてくれた。
それは、想像以上に重く、そしてセツヒトさんとその周りの関係性を理解するには、十分な内容だった。
「ソウジー?体は大丈夫ー?」
「はい、それは、まぁ。」
「無理はしないでねー……怪我って、長引くこともあるからさー。」
「はい……。」
セツヒトさんが言うと、説得力が違う。
先程、ジンオウガから攻撃を受けたところをさすってみる。
多分大丈夫だと思うけど……。
「その後は……どうなったんですか?」
俺は、続きを聞こうと話しかけた。
「……ワサドラに来てからは、ソウジも知っている通り……。カホ・チータはその後も大活躍さー。」
他人事のように話し始めるセツヒトさん。
実際他人事なんだけど。
「それじゃ、教官が村に来た経緯とかは……?」
「…………知らないよー……ただ……。」
「…………ただ?」
「……その二年後、かな……大陸中に名を馳せた『カホ・チータ』が活動を停止。結構なニュースだったねー。」
「それは……。」
何故なのだろう。
解散後、マショルクさんがワサドラにやってきたというのはわかるが。
「…………死んじゃったんだ、二人。ムルトさんと、ウミさん。」
「え!?」
「…………古龍討伐。古龍って聞いたこと、あるでしょー?」
「古龍…………。」
通常のモンスターとは一線を画すモンスター、古龍。
話でしか知らないが、その辺の大型モンスターとは、生態も形態もまるで違う。
解明されていないことが多すぎる、異質のモンスター。
その強さも異次元級。
国を滅ぼしたこともあるという昔話を、ホエールさんから聞いたことがあるが……。
確か、教官は古龍撃退スコアを持つと聞いたことがある。
その時は「本当にすごい人だな……。」と思うだけだった。
「私も話を聞いただけだけど……。あの時の一連のモンスターのスタンピード現象。その元の大元が、その古龍だったらしいねー……。」
「…………。」
黙って、頷く。
「首都への危険が予測される中、『カホ・チータ』はその討伐命令を受けた。結果、その二人の犠牲もあり、何とか撃退に成功。南に向かって消えたのを最後に、古龍は観測されていない、ってさー。この辺、演劇にもなっている有名な話だねー。」
「……その後は『カホ・チータ』どうなったんでしょうか。」
「……まぁマショルクは知っての通り。ハスガは……分からないねー。」
「そうですか……。」
経緯をおさらい。
まず、セツヒトさんの生まれ故郷はアヤ村。そこは、これから向かうミヨシ村と近い。
周辺を管轄するギルドはタオカカ……村?町?……にあった。
アヤ村にカホ・チータが拠点を置いて……彼らは数年で首都へ行った。
そこから力をつけたセツヒトさんは、一帯の筆頭ハンターとして名を馳せた……。
その頃、タオカカのギルドマスターとして、シガイアさんが居たわけだ。
ジンオウガ亜種……つまり獄狼竜。スタンピード……とかいう現象の原因。
突如現れ、ミヨシ村を全壊、その討伐に行ったセツヒトさんが負傷。
アヤ村も、次いで被害に遭った。こっちは……半壊ぐらい。
その後、入院したセツヒトさんのところに、教官が訪れたわけだ。
……?
何か、引っかかる。
「……首都の防衛に関しては、『カホ・チータ』の皆さんがあたっていたわけですよね?」
「そうだねー。……過剰な戦力だと思うけど。」
「……何故首都ばかりに戦力を集めていたんでしょうか……?」
「そりゃー、偉い人も多いし、ダントツで人口も多いしねー……私も呼ばれたわけだし。無視したけど。」
「…………?」
そこがまず引っかかる。
何故そこまで戦力を集中する必要があったんだろう。
そもそも、野生の大型モンスターが、そんなに人の多いところにわざわざ赴くものだろうか。
そりゃ首都に舞い込む案件の中には、凶悪なモンスターの類も多いんだろうけど。
疑問が尽きない。
それにもう一つ。
「…………マショルクさんは、何故わざわざセツヒトさんのところに来たんでしょう……?」
「……さぁてね。まるで私と喧嘩するためにやってきたとしか思えなかったよー……。それほど、あの時のタオカカギルドの首都に対する不信感は強かった……『カホ・チータ』も同様にねー……。」
「…………うーん。」
教官が、わざわざ来た理由?
セツヒトさんに、カホ・チータの行動の正当性を伝えるため?
…………いや、直接こんなところまで赴いたのだ。
言い訳がましいし、いくら教官だってそんな考えなしに、自分たちのことを不審に思う場所に赴くとは思えない。
わざわざセツヒトさんを訪ねる理由があったんじゃないか……?
……だめだ、分からん。
考えるためのピースが足りない。
……ただ、俺の尊敬するマショルク教官とセツヒトさんがいがみ合っているのは……まぁ見慣れてしまった感はあるが、ちょっと嫌だし。
仲良くできないものかなぁ……。
「……単純にアイツ苦手なんだよー。……ペースが全く合わない。」
過去のことを抜きにしても、仲良くさせるのは、難しいかも……。
よし、今は話を変えよう。
「セツヒトさんはーーー」
「せっちゃんー。もう真面目な話は終わりなのー。」
「は、はい。せっちゃんさん。最後に……一つだけ!」
「えぇー。」
あからさまに嫌そうな顔をしている。
だが、構わず続ける!
「……せっちゃんさんは、ハンターは終わりって話してましたけど……なんで俺なんかの訓練を引き受けてくれたんですか?」
「あー、そっちの話ー?んー……育てないと、って思ってねー。」
「育てる?」
「そーそー……いいハンターを育てるのが、私にできることなのかなーって。」
「あ……。」
そうか。
引退しても、モンスターの脅威が去るわけではない。
「それにまー、全くもって動けないってわけでもないしー……それにー。」
「それに?」
「他ならぬソウジの頼みだからねー。」
「……は、はぁ。」
「……んー、そこの反応は、そうじゃないよー?ソウジー。」
「え!?俺なんか間違えました!?」
「あははー、まぁいいやー。これから長いしねー…こっちはゆっくり、討伐しようかなー?」
「……?」
ワケがわからん。
やはりセツヒト語。ディスコミュニケーション。
しばらくして、タオカカのギルドのポポ車が到着して。
俺たちはようやく、村への行程を再開することができたのだった。
* * * * * *
「ソウジさん!セツヒトさん!」
「あー、ハイビスちゃーん。おまたせー。」
「お、お怪我はありませんか!?あぁ、ソウジさん!やっぱり怪我しています!!す、すぐに医務室へ!」
「だ、大丈夫ですよ、ハイビスさん。そこまでの怪我ではないです……。」
「だ、だって!ジンオウガですよ!?ジンオウガ!!雷狼竜なんて言ったら私、扱ったことさえ無いような……あぁ、そんなことはいいです!早くこちらへ!」
ハイビスさんが、タオカカの入り口で待ってくれていた。
名前もこんなことあったような。
でもまぁ、今は自分で歩けるし、そこまでの怪我ではないし。
…………心配してくださるのはありがたいから、素直にここは従おう。
俺は医務室まで歩きながら、ぴったり連れ添うハイビスさんに感謝するのだった。
「…………ソウジー?鼻の下伸びてないー?」
「伸びておりません。」
ちょっと嘘をついた。
…………。
医務室で治療をしてもらった。
ジンオウガから受けた体当たりは全身に痛みを与えていたが、骨や皮膚へのダメージは大したこと無かった。
むしろ全身の麻痺が多少残っていることが問題らしい。
ウチケシの実を煎じた薬を処方された。
しばらく麻痺が残ることを、セツヒトさんに話した。
「酷い時は、クセになるらしいよー?」
「後遺症ってことですか?」
それはイヤだな。
生活に支障が出なければ良いが。
「いやー、えっとねー……あのシビレをもう一度喰らいたいっていうやつもいるんだよねー。」
「……は?」
「…………クセになる、らしいよー。」
…………。
人間の業は深いなぁと思い知らされた。
変態は神だけじゃないよね、そうだよね。
うん、もういいや。多分その人たちとは人生において接点は無いだろうし。
考えないことにしよう。
「おー!ソウジさん!……良かった、元気そうで。」
「おじさん。」
気を取り直していると、ガーグァ車のおじさんが来てくれていた。
「セツヒトさんも!いやぁ、無事で何よりだよ!あんたらはやっぱ凄腕なんだな!」
「いやー、俺は怪我してますけど……。」
「何を言うんだ!おかげで俺も、あの受付嬢の姉ちゃんも、うちのガーグァも無事に済んだ!ありがてぇ事だ!礼を言うぜ!」
「いえいえ……撤退させたのは、ほぼセツヒトさんのおかげですよ。」
おじさんに礼を言われるが、俺は全く何もできなかった。
セツヒトさんが居なければ、今頃あの爪の餌食になっていたことだろう。
「ソウジー?」
「はい。」
「さっきも言ったけどー、アイツが今回の最終目標。……ジンオウガはこの冬山によく出るんだよねー。」
「はい……。」
うーん……倒せるビジョンが全く浮かばん。
……特訓して特訓して、強くなるしかないな!
ショウコにたくましくなった俺を見てもらおう。
セツヒトさんが、山の向こうを見つめている。
あの先に、ミヨシ村があるのだろうか。
「おじさーん、今日はここで一泊してー、明日またミヨシ村まで頼んでいーい?お金払うからさー。」
「金なんて!よしてくれ、セツヒトさん!あんたたちは恩人なんだ。俺も道中だしな。任してくれ!」
「やったねー、よろしくお願いしまーす!」
ミヨシにつくのは明日、か。
……セツヒトさんでも、守り切れなかった村、ミヨシ。
村の人たちの気持ちはどんなものなんだろう。
あれから数年……。
……もし、セツヒトさんを攻めるような人がいたら、俺が守ろう。
セツヒトさんは頑張ったんだ。……たった一人で。
セツヒトさんは、胸を張っていいんだ。
「ソウジさん、セツヒトさん、今日の宿が取れましたよー!」
「は……ハイビスさん……あ、ありがとうございます。」
ガーグァの羽を服につけたハイビスさんが、いつの間にか宿を取ってくれていた。
ありがたいのだが……ハイビスさん、いつの間に厩舎に行ったんだろう……。
「あそこまで愛情を注げば、そりゃガーグァ達も懐くわなぁ。」
おじさんも、俺と同じ驚いた顔をしながら、そんなことを言っていた。
* * * * * *
タオカカの町は、ワサドラと規模は似ている。
だが、やはり全く違う町だ。
医務室に行ったときにギルドを見たが、大きな山小屋のような木造りで暖かみがあった。
そういう意味では、ワザドラの完全な石造りとは違っている。
それに、周辺の地理はまるで違う。
畑や草原が周りに広がるワサドラとは違い、南側以外の三方は完全に山に囲まれている。
更にその稜線の向こう、大きな山脈に、既に白い雪化粧が見える。
もう雪が降っているのか。
山に日が沈む。
真っ赤な色に染まる山々とその雪が、何とも美しい。
……だと言うのに。
……これは一体どういう状況なんだ。
「えー……セツヒトさん?確かに私は二部屋しか取れず、申し訳なかったと思いますが……。」
「でしょー?だからー、私がこっちで寝ればー、オッケー?」
「「いやいやいやいや!」」
ハイビスさんとハモる。何かデジャビュ。
ハイビスさんが部屋を取ったまではよかった。
二部屋だった。それしか取れなかったらしい。
うん、まぁそこもいい。
問題は、そこで何かアホなことを言い出したセツヒトさんである。
「えー、だってー、ソウジはけが人だよー?一人で部屋は、ちょっちかわいそうかなーってねー?」
「だ、だからって……そのー、だ、男女同室っていうのは……は、ハレンチだと思います!」
ハレンチて。
久しぶりに聞いたよ。
……いや、ヒナタさんとの銭湯騒動で言われたな……。
「えー……じゃー……ハイビスちゃんがー、ソウジと一緒の部屋ー?」
「えっ!?」
「私じゃ駄目ならー、ハイビスちゃん?」
「えっ!?えっ、えっ!?」
「何テンパってるんですかハイビスさん!しっかり拒否して!」
よく分からんセツヒト理論に惑わされないでください!ハイビスさん!
ていうか俺大丈夫ですから!
「せっちゃんさん、違いますよ……申し訳ないですが、俺が一人で部屋を使えばすべて解決します。」
「おー。」
「お二人には……すみませんが、一部屋使っていただく方向で。」
「なーるなるー。……でもソウジー。」
すべて丸く収まるベスト意見。
文句なんてあるのか?
「私がー、そっちの人だったらー……どーなるー?」
「……そっちー?」
「だからー、夜のー、双剣使い?」
「…………。」
夜の双剣。
下的な意味で、2つイケる。
つまりどっちもオッケー的な。
「「何を言ってるんですか!!??」」
またもハイビスさんとハモった。
本日2回目。
「ほらほらー、そうなるとー、ハイビスちゃんが大変なことになっちゃうかもねー?」
「え、えぇぇ!?いや、それはちょっと!」
「でもでもー、そしたらー、私を一人にしないといけないからー……ソウジとハイビスちゃんが相部屋ー?」
「そ、それは、ちょっとまだ!まだ!」
まだってなんですかハイビスさん。
顔が真っ赤ですけど。
「んじゃーやっぱりー、私と一緒に寝るー?しょーがないねーハイビスちゃーん……今夜はー……寝かさないよー?」
「わ……わた……私!一部屋いただきます!!」
ピュー!
バタン!
シーン……。
「……セツヒトさん。」
「せっちゃんー。」
「…………せっちゃんさん……完全に今、からかってましたね?」
「……いやー、楽しいねー、ハイビスちゃんいじりー。」
「反省の色がない!!」
この人はあれか、人をイジらないと生きていけない人種なのか。
「……私って昔から、
「あー……それは何か分かります。」
「あー、安心してねー。私はー、ノーマルだよー?」
「……とりあえず、ハイビスさんに謝ってきなさい。」
「はーい。」
そこは素直なセツヒトさん。ハイビスさんのところに行き、弁解。
二人で仲良く寝るようである。
…………あれ、俺セツヒトさんと寝てたら、就寝裸族の生態を観察するチャンスだったのでは…………?
…………。
よし!
もう飯食って風呂行って寝よ。
怪我もしたことだし、早く寝るに限る。
一人でも寂しくなんてないんだから。