「ではー!これからー!雪中行軍を始めるー!」
「さ、さーいえっさぁ。」
「こらー!気合が足らんぞー!気合がー!」
「さーいえっさー。」
「よーし、まずは……あれ?何だっけ……とりあえず、付いてきてねー!」
「せめてちゃんとやってくださいよ……。」
「……あれー?」
ウルクススを倒した翌朝。
俺とセツヒトさんは朝のランニングをするべく、村の入口までやって来た。
セツヒトさんが「私も何か師匠っぽいことしたーい」と言い出し、今こんなことになっている。
「何と言うか、力が、抜けます……。」
「そー?……こらー!ソウジー!しゃんとしなさーい!」
「……さ、さぁいえっさぁー。」
だ、ダメだ。気合いが全く入らない。
本職のマショルク教官は、やはり教官だったんだなと実感する。
だって嫌でも気合いが入ったもの、あの人の掛け声。
対してこちらは、嫌でも気が抜ける掛け声。
ある意味、超絶対称的な二人である。
「んー、難しいねー、これ!」
「楽しそうですね。」
「いやー、やったことないのさ、こういうのー。弟子をびしばしー!っとやるやつ。憧れー?」
「いや、聞かれても……ていうかまんま、マショルク教官ですよ、ソレ。」
「…………え?」
「いや、だから、口調こそ違いますけど、常にビシバシってやるスタイル。教官と似てます。」
「…………。」
「…………。」
「…………やめるー。」
「諦め早っ!!」
すげぇぞ。
つい今の今までやる気満々だったのに。
恐ろしや、教官。
「…………アイツの話聞いて……何かイラってした。」
「そ、そうですか。失礼しました。」
むしろ今のセツヒトさんの口調のほうが、気合が入る。
めっちゃ怖いよ!目が!声色が!!
「…………気を取り直してー。」
「はい…………。」
「これから雪国ランニングを始めまーす。」
「…………よろしくおねがいします!!」
実は昨夜、ランニングをやってみたいとお願いしたのだ。
体力面が落ちるのが心配で、トレーニングの一環として、朝のランニングは継続したい。
すると、セツヒトさんがルートを教えくれることになったのだ。
ちなみにハイビスさんにその事を伝えると、
「ソウジさんが、少しずつ化け物さんの側に…………。」
なんて事を言っていた。
そんな化け物じみたトレーニングをするつもりはないのだが。
「ソウジー、一応今日は安全なルートを教えるからさー。」
「はい。」
「……明日から、一人でがんばってー……。」
「今日だけで覚えろと!?」
「だってー、ねむいー。」
無茶を仰るセツヒトさん。
そりゃ、最終的には一人で頑張るつもりだったけど。
「ちなみにー、沢とか雪崩ポイントとか、そういうところも教えてあげるからー……気をつけてねー。」
「りょ、了解です。」
「おー、いいねーその返事。……弟子っぽいー。」
……よく分からん。
その後はコースを教わった。
と言っても、基本的には村の周回。
アップダウンがかなり激しく、更に雪に足を取られて思うように進まない。
だが、ウルクスス戦で何となく雪の歩き方を掴んだ俺は、何とかセツヒトさんに付いていくことができた。
「いやー、私も体力落ちたなー。」
「はあっ!……はあっ!……ま、全く……疲れて……いるようには……見えませんが!!」
「そーお?うーん、2割ってとこかなー。」
2割って……。
ちなみに俺は限界。
セツヒトさんはケロッとしている。
「慣れだよー、慣れ。」
「慣れ……。」
よかろう。そういうコツコツ系は、結構得意だ。
考えながら走りをマスターしてやる。
* * * * * *
そんなこんなで、ミヨシ村に来てからしばらく経った。
朝はランニングを欠かしていない。
雪の降りしきる中でも構わず走る。
ご近所の方に「え?あの人何で走ってるの?バカなの?」みたいな目で見られるが、気にしないようにしている。
だって……モンスターを相手にしているときに吹雪いたら最悪だし。
ある程度の悪条件にも慣れておかないと。
「ぶぇーっくしょい!!」
「ソウジさぁん……体調管理ぃ、……ハンターの資質ぅ…………。」
「お、温泉!走り終わったら温泉に入りますから!ね!?」
「…………風邪ひいたらぁ……承知しませんよぉ…………。」
ハイビスさんは、俺の体調管理に厳しい。
完全に身から出た錆であるが、俺への信頼が薄い。
柱から半身出して、半笑いで言うものだから余計怖い。
妖怪か。
と言うわけで、走り終わったら温泉へ直行することにした。
汗で冷えないよう、しっかり体を温めてから、一度宿に帰る。
くしゃみが出ることも無くなった。
宿では、ハイビスさんが朝食を作ってくれている。
正直プロのイシザキさんやドールには敵わないが、これが結構うまかった。
「私全くできないからなー、ハイビスちゃんありがとー。」
「俺もです。助かります。美味しいですよ、これ。」
「い、いえいえ!これぐらい朝飯前ですから!」
鼻歌交じりでごきげんなハイビスさん。
褒められたことが嬉しいのかな?
良かった、俺も料理なんて大したことできないから、やる気になっていただけるなら大変ありがたい。
ちなみに、朝食を作るのが朝飯前というややこしい返事はスルーしておいた。
その後は3人でギルドへ。
ハイビスさんは業務、俺たちは狩りに出かける。
余談だが、素材報酬などは、相変わらず一括してギルドに預けてある。
銀行の預金のように、各地のギルドで素材の受け取りが可能だということらしい。
ある程度のストックをギルドで管理し、必要な時だけ受け取るシステム。
前も思ったが、このやり方を考えた人ってすごい。
何よりパソコンも無しに、これだけのハンターの素材を管理しているギルドの凄さに驚かされる。
「この辺のモンスターの素材は、ワザドラにも数はありませんから……。帰る際には、ある程度持って行ったほうがいいかも知れませんね。」
「なるほど。」
ギルド職員らしい助言をしながら、バリバリとするハイビスさん。
その手腕の甲斐もあってか、ここの臨時ギルドはすごく回転が良くなった。らしい。
村長のアワキさんから聞いた話である。
素材の管理や物流とか、ハンター達の人の流れとか、クエストの承認や事前事後の処理とか、集会所内の案内板とか…………とにかく色んなことについて細かく提案、調整してくれた、とのこと。
「自分がやりやすいように変えてみようと進言したら……思いの外通ってしまいまして……。大丈夫ですかね、私。外から来た調子に乗った奴みたいになってませんかね……。」
「大丈夫でしょう。むしろ皆さんありがたがっていると思いますよ?」
「だったらいいんですが……。」
すごいぜハイビスさん。
この短い間に、ここまでやりやすくシステムを再構築するとは。
セツヒトさんの敏腕という言い方も、あながち間違っていないと感じた。
こういう方がいるから、俺たちも安心してクエストに出かけられるというものだ。
クエストを受注したら、狩り場へ。
セツヒトさんは基本的に、見守るスタイルである。
その装備は、毎回違う。
武器も多彩で、モンスターに合わせて調整しているのだと思う。
以前、どうして装備まで毎回違うものにしているのか聞いてみたら、
「いやー、本命の討伐対象の弱点が気になってねー。」
「?」
「これもあまり視線を感じないしー……やっぱりスケスケあみあみのナルガ装備にするかー……明らかに見てくるしねー。」
「??何の話ですか??」
「んー?いや、こっちの話ー。」
この会話を最後に、毎日変わっていた装備は、ナルガクルガというモンスターの素材でできた装備に統一された。
武器もヘビィボウガンではなく、俺と同じ双剣。
教えるために俺と同じ武器に変えてくれるとか、ありがたやありがたや。
「うぅ……さーむーいー。ホットドリンクホットドリンク……。」
そしてこんな寒さにも関わらず、そんなアミアミ装備にして下さって、眼福眼福。
ありがたやありがたや。
「どーお?結構イケてるでしょー。」
「そうですね。」
イジり対策に塩対応も忘れない。
セツヒトさんは不満げな顔だが、スルーしておこう。
モンスターの狩猟について。
これは、かなりの数を倒してきた。
大体一日1〜2匹のペース。
ウルクススを始め、雪山には見たことのないモンスターがウヨウヨしていた。
冬眠とかしないのかと思っていたが、むしろ奴らにとっては冬が一番ホットな季節のようだ。
まずウルクスス……は割愛。
ウサミミかわいいという概念を吹き飛ばしてくれたモンスター、とだけ。
お次はドドブランゴ。
なんと、こいつは「雪獅子」と呼ばれるモンスター。
正真正銘、雪の中でのみ戦うモンスターである。
獅子というからジンオウガの親戚みたいなものかと思っていたが、これが完全にゴリラだった。
繰り返すが、ゴリラだった。
始めは挙動が読めず、ボッコボコにされた。
回復薬も飲みまくりである。
セツヒトさんも「ヒヤヒヤしたよー」と評したほどである。嫌いだわこのモンスター。
急接近して力ずくでぶん殴ってきたり、口から冷たいブレスを吐いてきたり、距離のあるバックステップから急に飛びついてきて両手で殺しに来たり……何というかゴリ押しのモンスターだった。
動きが読めてからは安全に交わしつつちびちび削っていった。そこまでが大変だったけど。
お尻もウルクススと違って硬かった。
できればあまり相手にしたくない。
ちなみに、このモンスターで初めて「乗り」に成功した。
「乗り」とは、文字通り、モンスターに乗ることである。
一定のダメージを与えると転げるモンスターに無理矢理騎乗し、背中にダメージを与えて再び転げさす。
大きなスキができるし、セツヒトさんも得意とするらしく、珍しく積極的に教えてくれた。
「だからー、二段斬りの勢いをこうビュッと相手にのせてー、自分が飛び上がるでしょー?」
「……。」
「そのまま回転をかけてー、こう、顔のあたりをザザザザーってやると、バタンって倒れるからー。」
「…………。」
「…………乗る。」
「……その後は……?」
「ナイフでー、背中斬りまくってー、たまに振り落とされないようにがんばるんだよー。」
「……。」
「簡単でしょー?」
「できるかぁ!!」
その後は何度も乗る練習。
なんとか、三体目のドドブランゴでようやく「乗り」に成功。
斬撃を与えつつ、空中から連続技につなげるやり方も学べたので、良しとしよう。
この体の軽さと動きの良さに改めて気付かされた。
ドドブランゴの次に討伐目標にしたのは、氷牙竜ベリオロス。
もう名前からしてかっこよかった。
だが、ウルクスス、ドドブランゴと、中々に期待を裏切る2体であったため、期待はしていなかったのだが……。
何と、名前の通りかっこよかった。
サーベルタイガーの様に伸びた牙、当たるとタダでは済まなそうな長い尻尾。
翼も発達していて、飛び立つときは垂直に「ダン!」と飛ぶものだから、テンションが上がった。
ショウコ辺りに言ったら、「油断せんといてください!!」と説教を食らいそうである。
更に翼から後方に伸びる棘は、当たると痛い。
……そう。
俺は始め、めちゃくちゃ攻撃を食らってしまった。
そんなモンスターに怒ったセツヒトさんが、尻尾を切断する事態に。
油断しちゃったよ、ショウコ……すまん……。
モーションの少ないぶちかまし?体当たり?も、非常に痛かった。
「ソウジ、双剣は防御なんかできないからね?避けるんだよ。」
マジトーンのセツヒトさんはちょっと怖かった。
それでも何とか大怪我は免れ、5体目でようやく安全に狩ることができた。
回復薬グレートを飲みまくらずに倒せるようになったので、まぁ良しとしよう。
ベリオロス、強い……。
ちなみに狩猟後、お詫びも兼ねてセツヒトさんに酒を奢った。
「大吟醸・龍ころし」という少し高めの酒をグラスで頼んだら……まぁ飲むわ飲むわ。
結局ボトルを頼んでしまった。
その後、ベロンベロンのセツヒトさんと一杯でほろ酔いになった俺が、調子こいて木刀で模擬戦を開始。
2秒で剣を粉砕され、サバ折りという名のハグを食らった俺は、そこから記憶がない。
起きたらプンスカ怒っているハイビスさんがいた。
セツヒトさんと正座で並んで説教された。
飲み過ぎ、ダメ、絶対。
最後に、外せないのがガムート。
一言でいうと、とにかくデカいマンモス。
多分俺が見てきたモンスターの中で、一番デカかった。
初めて遠くから見たときは、「え?あんなの倒せるの?」というのが感想だった。
まず刃が、弱点と思しき顔周辺に届かなそう。
それにあの強靭そうな脚。その一本だけ集中して狙ったとしても、バランスを崩せるのか、自信がない。
「ビビったら負け……って前いったけどー……あいつは論外だねー。でかすぎるしー。」
「あれ……倒せるんですか?」
「そりゃーいけるよー。てかー、いけないなら来ないってー。」
「それはそうなんですが……。」
はっきり言って、倒せるビジョンが全く浮かばない。
と言うわけで、セツヒトさんからアドバイスをもらった。
「前教えた『乗り』を上手く使うんだよー。」
「えぇ!?あのデカさで乗れるんですか!?」
「いけるいけるー。まずは、足の雪を剥がしてー。」
「剥がす。」
「何か若干低くなるからー。」
「若干。」
「クルクルピョーンと。」
「…………。」
「さぁいってみよー。」
「なんとなく分かった自分がいます。」
意思疎通も少しは慣れた。
ガムートの攻撃はとにかく強烈無比の一言。
そりゃああれだけ重いのだ。当たればただでは済まない。
後ろ足で立って、俺に狙いをつけて前足をプレスした時は、流石に死んだと思った。
とっさに避けていなければ、今頃俺は雪の下で押しつぶされていたと思う。
更に雪も厄介だ。足を取られるし、雪がガムートの鼻で舞い上がり、身体にべとつく。
放っておくと動きにくくなるため、消散剤というアイテムが欠かせない。
慣れてきたと思ったら、今度は頭を地面にこすりつけて突進してくる。
2回ほどキレイに吹き飛ばされた。
セツヒトさんは難なく避けられるようだが、俺は無理。
なので後方から足を削る作戦に出たのだが……。
「ソウジー!避けてー!!」
「うぉっ!!!」
バックステップで避けると、俺のいた場所にガムートが後方突進。
真後ろもだめみたいだ。
なので後方左右から、雪をばらまいたり鼻で俺を吸い込もうとしたりするスキを狙って攻撃する方法が確立した。
図体はデカいのに技が多彩で、「後方なんか取らせねぇよ?」とさも言いたげな身のこなし。恐れ入る。
「乗り」には数回成功。
自分でも驚いている。
故ドドブランゴ先生に鍛えられたからかもしれない。
振り落とされないようにするのにコツが必要だったが、相手の呼吸を読んでしまえば、意外といけた。
これはセツヒトさんも、珍しく驚いてくれた。
だが問題は火力。
後から聞いた話では、ガムートは例のティガレックスの噛みつきにも耐えるほどの分厚い外皮と毛が生えているらしく、もうチマチマ削るしかなかった。
何度か狩猟に成功するも、毎回夕方までかかっている。
セツヒトさんの助言とフォローがあってこれである。
「うーん、武器を変えてみよっかー。」
「武器?強化するんですか?」
「この辺に出てくるのはー、軒並み火属性に弱いんだよねー。だから、武器の交換?」
「武器を変えれば、狩猟も楽になりますか?」
「んー……技術が追いつけばねー。それにガムートは雪が剥がれちゃうとそこまで……そか、先に技やろっか。うん、標的でかいし、いけるいけるー。」
「???」
クエスチョンマークしか浮かばない。
とりあえず、技術を習得してから、武器の変更を考えるってことだろうか。
しかし、その技術とは。
「ヘルプでこの村にやってきたからさー、モンスターを実際に狩ってやってみるのが理想的なんだけどー……やる?」
「やります。」
二つ返事。
特訓は冬の間だけなのだ。やるしかない。
「そっかー。……よーし。」
やけにニンマリするセツヒトさんに。
やっぱり即答は不味かったかと、少し後悔し始めた俺であった。