モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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88一人でも特訓してみましょう。

「んぁ……。」

 

 

目を覚ます。

ログハウスのリビングの天井も見慣れてきた。

木でできたこのログハウスは、夏は涼しく冬は暖かいらしい。

断熱が効いているのか、凍えるほどまでは冷え込まないし、暖炉で暖まった室内は中々冷えない。

 

でもまぁ、寒いものは寒い。

完璧な施工がされた現代日本の建築ならまだしも、ここは異世界。

むしろこの冷え込みにおさまっている事自体がすごいことだと思う。

 

 

「すげぇ雪……。」

 

 

外は深々と降り積もる雪で、相変わらずの白い景色。

吹雪いてこそいないものの、昨日の夜から続く雪で窓から見える景色は真っ白である。

朝で薄暗くとも分かるほど。

 

正直に言おう。

……この景色ちょっとだけ飽きてきた!

 

ごめんなさい!

「雪すごい!」とかはしゃいでましたが、ごめんなさい!

雪だるまとかに夢中になっていた自分が遠い昔のよう!

 

この一ヶ月、延々と雪の中クエストに出かけていたんです……イヤになるのもしょうがないじゃない……。

 

 

……まぁだが、雪の中の足運びも、かなり上手くなったと思う。

深い雪を踏みしめ、なるべく大きく動く。

動作のスキも大きくなるので、モンスターの挙動も今まで以上に気をつけて読まねばならない。

おかげで体力と観察力は、相当伸びた気がする。

 

それに、ワサドラでやっていた徒手空拳での訓練。

小型モンスターばかり相手をしていて、力になるのかと不安だったが。

あれが、ここに来てかなり効いている。

 

一撃さえもらうことは許されない、そんなシビアな環境である雪山。

そんなモンスターと肉薄する機会の多いここで、あの武器なしの訓練は非常に役立っている。

主に度胸の面で。

 

双剣は接近しなければ当たらない。

突っ込めば、モンスターにもよるが、あっちの攻撃も当たりやすい。

回避と攻撃の両立。そこに怯えという感情は邪魔になる。

 

危険を未然に察知して動く。

セツヒトさんのレベルにはまだまだかも知れないが、かなり自信はついた。

 

そして、セツヒトさんに課題を一つ与えられた。

……空中での攻撃である。

 

 

「セツヒトさんレベルをマスターするのは……骨が折れそう……。」

 

 

とりあえずランニングを始めるため、俺は外に出ることにした。

 

 

* * * * * *

 

 

女性二人は、部屋で寝ている。

起こさぬように玄関を閉める。

 

 

「さむぅ……。」

 

 

白い息が、まるで湯気のように眼前に立ち上る。

その向こうに見える村の家並み。

幻想的な風景。

 

 

今朝、とある夢を見た。

 

夢というか思い出を振り返るような内容。

それはディノバルドから殺されかけた、あの時。

セツヒトさんとマショルク教官が、まるでヒーローのように助けてくれた、あの日の夢である。

 

セツヒトさんは、ディノバルドの攻撃を物ともしていなかった……ように見えた。

 

動きを極限まで正確に読んで、回避、攻撃。

今でも鮮明に思い出せる。夢に見るほど。

 

 

「…………よし。」

 

 

雪を踏みしめて、走り始める。

 

走る間は、特に何も考えないようにしているが、今朝はあの時のことを思い出しながら走ることにした。

 

 

セツヒトさんの剣撃。

繰り出した攻撃には、特に驚かされたことが2つあった。

 

まず、空中に飛び上がりながらも連撃を繰り出す、あの技。

体を回転させながら斬り刻んで、その勢いで更に相手の頭上に位置どる。

そこから落下の力も加えて更に連撃。地面に落ちてもなお、回転の力で連続して斬り続ける。

恐ろしいほどの手数を稼いでいたし、ダメージはかなりのものだったと思う。

 

続いて、教官が口走っていた「ジャスト回避」なる技。

技なのか何なのかはわからない。

ただ、ディノバルドの強烈な尻尾攻撃を簡単に()()()()()()

当たっているのに当たっていないような。そんな不思議な避け方。

 

 

「あれどうやってやるんだろうな……。」

 

 

とかなんとか言いつつも。

実は、俺はヒントを得ている。

 

あの時。

ディノバルドに一矢報いようと、満身創痍で選んだ<憑依状態>での「操作方法」の技。

とにかく必死で、適当に選んだ「空中回転乱舞」。

 

何故かディノバルドの攻撃を避け、ダメージを食らわすことができた。

 

激痛で記憶も朦朧としていたが、確かに「空中回転乱舞」を選んだ。

うん、そこは覚えている。

 

 

「…………よし。」

 

 

徐に「マップ」を起動。

山を少し登った開けた土地に、小型のモンスターが2体。

 

試してみよう、とふと思った。

 

 

* * * * * *

 

 

そこにいたのはファンゴ。

ゆっくりと歩いて、雪の中に鼻を突っ込んではフガフガやっている。

確かギルドのクエストボードに、討伐対象として挙がっていた。

相手としては、丁度いい。

 

 

(「装備」……。)

 

 

いつものミヨシ村一式装備を、一瞬で装着。

武器は変わらず、双剣。

 

 

(………………今だ!)

 

 

2体が完全に後ろを向いたそのタイミングで、一瞬で間を詰めていく。

 

 

「プギィ!」

「フゴォ!」

 

 

こちらに気づくが、構わない。

既にそこは間合い。

 

 

(「操作方法」……「空中回転乱舞」!)

 

 

走り寄りながら、ためらわずに選択。

突如、自由が効かなくなる。

<憑依状態>に入った。

 

 

(ここだ!ここを覚えろ!……うおっ!?)

 

 

跳躍した俺は、ファンゴの頭に両の剣の切っ先を当てる。

そのタイミングで体が捻られる。

勝手に動く。

でも思考はできる。

 

 

(覚えろ……覚えろ……!)

 

 

ひねられた肉体は、そのままクルクルと回り、空中に飛び上がる。

ファンゴに幾多のダメージが入る。

だが、そんなことには構わず、落下に入る俺の体。

落下のスピードをそのまま回転に加え、ファンゴに剣の追撃。

 

 

「ブフォッ!」

 

 

ふっ飛ばされるファンゴ。

それを追いかけようにも、まだ体の自由は効かない。

着地してもなお、対象が剣の届かぬ向こうにいるにも関わらず、回転斬りを行う。

空振りのそれは、見るからにとてつもない威力で振るわれた。

 

 

(……よく目を回さないもんだ……キツイなこれ……。)

 

 

ふっと体の自由が戻る。

その向こうには、横たわってのたうち回るファンゴ。

 

 

(再現……!)

 

 

覚えたことを元に、今度はいつもの自分でもう一度。

倒れているファンゴに向けて跳躍。

切っ先を当てて……空中へ……!!

 

 

「のわっ!!」

 

 

剣を当てることには成功。

だがそのまま飛び上がろうとしたら、ファンゴに引っかかった剣先を支点に、投石機のように吹っ飛んでしまった。

 

 

ボフッ。

 

 

雪の上に背中から着地。

痛くは……ない。

 

 

(……やり方は合っていると思うんだけど、剣が振り抜けなかったな……勢いが足りなかったか。)

 

 

ウルクススやガムートの時も、一応空中攻撃後の「乗り」には成功している。

だがあれは、単にジャンプして攻撃して、倒れたところに乗っただけ。

華麗に空中攻撃のコンボを決められたわけではない。 

 

 

「フゴッ!」

 

 

起き上がってくるファンゴ。

 

 

(よし……もう一丁!)

 

 

再び跳躍して斬りかかる。

今度はしっかり振り抜くことを意識して……。

 

 

「ブフォッ!」

(!!)

 

 

しまった!

ファンゴも突進してきた!

 

あ、飛んで気づいた。

これ避けられないわ。

 

 

「ブォ!!」

「っ!」

 

 

蛙のような声を出して、攻撃を食らってしまう。

だが……力押し!

 

ええい!!このままいってしまえ!!

 

 

「やぁぁぁぁあ!!!」

「フゴォ!」

 

 

突進の勢いを食らってなお、俺は回転を止めずに。

そのまま高く跳躍に成功。

 

2撃、3撃と剣を当てる。

 

 

(このまま……!落下しながら……!)

 

 

クルクル回りながらも、ファンゴのいる位置をイメージ。

別のカメラで自分を見る様に。

 

落ちるタイミングで、再び剣撃をお見舞いする。

 

 

「おらぁぁぁ!!」

「プギィ!!!」

 

 

ファンゴを吹っ飛ばした。

俺は膝から着地。

 

 

ボフッ。

 

 

「はぁっ……はあっ……!」

 

 

すぐに立ち上がる。

ファンゴは2〜3m先で倒れていた。

 

多分死んでいる。

 

 

(成功!……最後は膝をついたけど!!)

 

 

安心してはいられない。

 

もう一体の方を探す。

 

 

「どっちだ―――」

「ブモォーー!!」

 

 

ヤバい!既に近くに来ている!

 

 

(突進……!避……無……なら……!!)

 

 

一瞬の思考。

冷静な自分。

徒手空拳で無数の小型を相手にした経験が、肝を座らせる。

 

選んだ攻撃は。

 

 

(短めに……跳躍……!!)

 

 

ステップぐらいの、小さな跳躍。

クルッと回りながら、背中から回し斬りの要領で……剣を当てる!!

 

 

「ふん!!」

「フゴォ!!」

 

 

よし!なぜか知らんが、うまくいった!!

 

そのまま切っ先に体重を乗せて、飛び上がり……。

 

 

「フゴォ!!」

 

 

落下しながら……斬り続けて……!

 

 

「ブモォ!ブホッ!」

 

 

着地後に更に……回転斬りぃ!!

 

 

「ヴァッ……!」

 

 

ズダン!!ゴロゴロ……。

 

 

まるで蹴られた石ころのように転がったファンゴ。

 

 

「……。」

 

 

そこから、全く動かなくなった。

 

 

「はぁっ……はあっ……はあっ……はぁっ……。」

 

 

つ、疲れた。

だが、何とか掴めた気がする。

 

 

(すまん。ファンゴ。踏み台にして。)

 

 

動かないファンゴたちを見つめる。

こいつらにとっては、俺はただの殺戮者だな。

……割り切れと言っても、やっぱり俺は割り切れない。

 

……でも、割り切れないままやっていこうと思う。

この気持ちは、無くそうとしても無くならない気持ちだと思うし……失ったらなんかヤバいやつになってしまいそうで……怖いし。

 

 

収穫は多かった。

空中回転乱舞を……完コピしたとは言い難いが、実際の敵を相手に繰り出すことができた。

勢いは小さいし、成功率もまだ低いだろうし、大型を前にした時にできるかどうか分からないし……色々課題はあるけど。

セツヒトさんにも色々聞いてみながら、完成形に近づけていこう。

 

<憑依状態>を用いた訓練は、やはりいい。

俺にしか許されない、この訓練方法。

……だが、小型だから何とかなったけど、やはり大型に使うのは危ない。

一度繰り出したら止められないのが、この状態の最大の弱点。

隙が多すぎる。

 

 

……もう一つのセツヒトさんの技。

「ジャスト回避」については、まだよくわからないけど。

 

 

「とりあえず、空中回転乱舞をまず習得していこう。」

 

 

俺は「マップ」を起動し、他のモンスターに会わないように村に戻ることにしたのだった。

 

 

* * * * * *

 

 

「あ、おはようございます。ソウジさん。」

「ハイビスさん、おはようございます……どうしたんですか、その格好?」

 

 

ログハウスに戻ってきた俺。

もちろん温泉に浸かってきている。

ハイビスさんに怒られてはかなわないからな。

 

こんな大雪の中、一人で訓練していたなどと知られたら何を言われるか分からないので、何事も無かったかのように帰ってきたのだが……。

 

ハイビスさんがエプロンを着けていた。

 

 

「えぇ、お料理が制服にはねるといけませんので、買ってみたんですけど……へ、変ですか?」

「いやいやいやいや!!変じゃないです変じゃないです!」

「そ、そうですか?よかったです。」

「は、はい。」

 

 

何だろう。

エプロンをつけただけなんだけど……だけなんだけども。

 

こう……受付嬢の制服にエプロンを身につけただけで……何だこの破壊力は!

 

 

「そ、ソウジさん?」

「……えっ!はい!」

「いや、ぼーっと見つめて……どうされました?……まさか風邪を!?」

「違います!もうめっちゃ元気です!!」

「それならいいのですが……。」

 

 

危ない危ない……風邪だなんて誤解されたら、ハイビスさんが一転して恐怖の体調管理妖怪に変化してしまう。

美人って、怒ると怖い。

 

……ハイビスさんって、美人だよなぁ……。

エプロン制服姿を後ろから見つめる。

ブロンドヘアーをまとめてアップにしているので、うなじが色っぽい。

 

 

……。

 

 

いかんいかん、完全に思考がスケベ親父である。

自重せねば。

 

 

「ソウジー、ああいう感じが好みなのー?」

「はぅあっ!!」

 

 

急に耳元で囁かれて、変な声を出してしまった。

 

 

「せ、セツヒトさん!おはようございます!きゅ、急にやめてください!」

「せっちゃんー。あと、おはよー、スケベソウジー。」

「すすすすすすすすスケベちゃうわ。」

「えー?だってー、ここからー、こうやって穴が開くほどジーッとーーー」

「あーあーあー!!今日はいい天気ですねー!!」

「誤魔化し方が下手だよー、ソウジー。大雪だしー。」

「……何が望みですか……?」

「……ブレスワインー……ボトルでー……」

「ぼ、ボトル……わかりました……。」

 

 

俺のスケベ心は、高いお酒代を代償として招いてしまった。

ハイビスさんが美人すぎるのが悪い。

 

 

……。

 

 

「いただきます。」

「いただきまーす。」

「はい、お口に合うか分かりませんが……。」

 

 

食卓に並ぶのはいつもの朝食。

ハムとチーズが乗った食パン、サラダ、そしてハイビスさんお手製のカボチャのポタージュスープ。

昨晩のうちに仕込んだとか。偉すぎる。

オレンジ……のようなグレープフルーツのような柑橘系の果物も、テーブル中央にセット。好きな人は食べていいと言うスタイルらしい。

 

 

「あ、ほらセツヒトさん。パンくずが。」

「あー、ありがとー。……ハイビスちゃん、お母さんみたいだねー。」

「お、お母さん!?」

「じょーだんだよー?こんな可愛いお母さんいたら、私泣いて喜んじゃうよー。」

「か、可愛い……。」

 

 

ハイビスさんが顔を赤くしている。

 

この人あれだな、ストレートな褒め言葉に弱いんだな。

セツヒトさんは本心から言っているのがわかるし。

……からかいも半分あるかもしれないけど。

 

 

「あー、ハイビスちゃーん、そういえばー。」

「はい?」

「ソウジがエプロン姿のハイビスちゃんに見惚れてたよー?」

「「ブーーーーーー!!!!」」

「わー。きたなーい。」

 

 

おい。

おい、せっちゃんこのやろう、ちょっと待て。

 

 

「せ、せっちゃんさん!?」

「あー、いけない。これじゃワインもらえないやー。……まぁいいかー。」

「よくねぇよ!!何チクってんですかアンタって人は!!」

 

 

いかん。

これでは俺が完全にスケベ親父認定されてしまう。

 

 

「えっ?えぇっ!?……わ、わわ私のええええエプロン姿……!?」

 

 

わかりやすくテンパらないでくださいハイビスさん。

逆に俺は落ち着いてしまったではないか。

 

もうこうなったら正直に言おう。

ここで変に取り繕うのは逆効果だろう。

いや、別に「あなたの制服&エプロン姿にめっちゃグッときてはぁはぁしてました」とかそんなこと言うわけではなく。

はぁはぁなんてしてないし。

してないし。

 

こう……波風立たぬように、褒める方向で。

 

 

「……すみませんハイビスさん、本当なんです。」

「……え?」

「見惚れていたのは事実です……その、エプロン姿がとても似合っていて、つい見つめてしまいました。」

「え?ええ!?」

「ハイビスさんはとても美人なので、申し訳ありません、つい。」

「び、びじ、へ、へぇぇぇぇ……。」

「いつも制服姿も美しいと思っていました。お気を悪くされたならすみません。ですが、事実なんです。」

「ふ、ふぅぅぅ……。」

 

 

嘘偽らず、気持ち悪くないように、言葉を選んで、誠実に。

多分できた。知らんけど。

 

……真っ赤になっているハイビスさんは……何か動かないぞ。

 

 

「ソウジー、ソウジー。」

「な、何ですか、せっちゃんさん?」

「その辺にしときなー?……ほらー。」

「へ?」

 

 

セツヒトさんがほっぺたをツンツンする。

反応なし。

顔を真っ赤にして完っ全に固まっている。

 

 

「ソウジー。ハイビスちゃんはストレートな褒め言葉に弱いんだからー、ほどほどにしないとー。」

「…………気絶してるのかこれ………?」

 

 

プシュー。

 

 

なんて擬音を、今にも出しそうな感じ。

顔が真っ赤なまま固まってしまっている。

まるでラングロトラである。

 

俺は制服とエプロンの相乗効果について頭の中で論じながら、ハイビスさんの回復を待つことにした。

 

 

「ソウジはー……自覚が足りなさすぎるねー……。」

「何の話ですか?」

「んー……こりゃ討伐には苦労するわー……私もハイビスちゃんも。」

「???」

 

 

やることもなく仕方が無いので、柑橘系の果物を口に運ぶ俺。

……めちゃくちゃ酸っぱかった。 

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