セツヒトさんとハイビスさんが、雪道の中二人並んでギルドに向かっている。
俺は後ろからついていく。
「いやー、あの温泉の打たせ湯ってのがー、肩に効くんだよねー。」
「わかります!疲れが飛んでいくんですよね!」
「そーそー。」
二人はとても仲良くなった。
最初は、ハイビスさんは完全に萎縮していたし、セツヒトさんはマイペース。
お世辞にも仲が良いとは言えなかったのだが……。
野宿を数回、村での生活も一ヶ月。
お互いの気心も知れようというもの。
セツヒトさんがハイビスさんをイジリ、それが二人のコミュニケーションに繋がっていった。
ハイビスさんも少しずつ打ち解けて、今やガールズトーク……なのか分からんが、そういうのを二人でよく話している。
俺がランニングに出かけているときはどんな話をしているんだろうか。
まぁ、仲良くなって何よりである。
「ソウジー。遅いよー。」
「ソウジさーん!早く行きましょー!」
「は、はいはい。」
ハイビスさん、心なしかセツヒトさんに影響受けてない?
働きたくないでござるの根性まで、影響を受けなければいいのだが。
「うーん……今度の私達の狩り休みの時ー、ハイビスさんもサボっちゃえばー?」
「いいえ!お二人は肉体的疲労を癒やす、必要な休息なんですから。私は働きますので!」
前言撤回。
ハイビスさんはハイビスさんだった。
偉いわ、マジで。
「うーん……偉いねーハイビスちゃーん。」
「わっ……そ、そんな……ありがとうございます。」
頭を撫でるセツヒトさん。
満更でもない感じで撫でられるハイビスさん。
うーん、仲良き事は美しき哉。
まるで姉妹のようである。
「今日も何事もなく、狩りが終わるといいねー。」
「そうですねー。」
すっかりのんびり口調がうつったハイビスさんの返答を聞きながら。
俺たちはギルドに辿り着いた。
* * * * * *
「え!?クエスト受注一時停止?」
「は、はい。すみません、ソウジさん、セツヒトさん。い、今確認してきますので!」
タッタッタッ……。
焦った様子のハイビスさん。
受付業務を行う机の向こうにかけていった。
ギルドに着くなり大変そうだ。
「何かあったんでしょうね……。」
「うーん……まぁ、不測の事態だろうねー。」
この集会所は、臨時のギルドである。
ハイビスさんのお陰で、ミヨシ村臨時ギルドはとても利用しやすくなった。
案内の看板が分かりやすく置かれ、少ないメンバーで回るように部署も分割された。
それに伴い、人員配置もやりやすくなった。
だが、圧倒的に人が足りない。
なので臨時のスタッフが増える。
必然、連絡も報告も滞る。
人がいっぺんに増えると、様々なことでそういった自体が起こりうる。
その辺はハイビスさんの管轄では無い。管理職の仕事だ。
臨時の村長さんは、この少ない人員をよく回していると思う。
さすが以前ギルドで働いていただけはあるなぁ。
多分、俺ならパンクする。
クエスト受注の一時停止。
その原因が分かるまで、俺たち二人は即席のテーブルと椅子に座って待つことにした。
「……セツヒトさん。」
「せっちゃんー。」
「せっちゃんさん、受注停止って聞いたこと無いんですけど、あるんですね。知らなかったです。」
「んー?……んー。ソウジはシガイアさんの管理するワサドラギルドのハンターだったからねー。多分経験ないよねー、こういうの。」
「そうですね、初めてです。」
「……ワサドラはいいギルドだよー。間違いなくねー。職員もハンターも、あんまり不満は聞かないよねー。」
「なるほど。」
「普通ギルドなんて、ギスギスしてるもんだよー?人の命が懸かっているわけだしねー……そういう不和があるギルドはー……まぁこういうこともよくあるかなー?」
「……でもここのギルドは―――」
「うん、違うねー。みんな仲もいいしー、悪い意味での馴れ合いも新参者ばかりだから起こり得ないしー……まぁ普通の非常事態かなー。」
「普通の非常事態って何ですかそれ。」
ワサドラのギルドの盛況ぶりは、正直とんでもない。
いや、他のギルドを見たことなどないのだが、見るからに職員が忙しそうだった。
それでもきっちり2日の休みを取らせて運営を続けているらしい。
シガイアさん、やはり優秀な上司である。
対して、ここミヨシのギルドはハンターの数が比較的少なめ。
それに、昨日今日やって来た新しい顔なども珍しくない。
俺たちのように、冬の間だけやって来るハンターがほとんどだ。
だから、ギルドとハンターの連携には時間がかかってしまう。
ワサドラで当たり前だと思っていたことは、当たり前じゃないんだな。
認識を改めなきゃ。
「お待たせしました、ソウジさん、セツヒトさん。」
「ハイビスさん。」
10分ほどしてハイビスさんがやってきた。
顔つきは若干険しい。
「村長さんが直接話をされたいそうです。こちらへ。」
「…………分かりました。」
俺とセツヒトさんは立ち上がり、ハイビスさんに付いていく。
集会所の脇の方の長机。
同じく険しい顔をした村長さんが、俺たちを待っていた。
「………おはようございます、セツヒトさん、ソウジさん。」
「アワキさん、おはようございます。」
「おはようございますー。」
「お呼びだてして申し訳ありません。ご相談したいことがありまして。」
いつもにこやかな村長さんが、今日は別人のように真面目な顔をしている。
格好はいつもの茶色のジャケットに、少しお腹の出たワイシャツ。
愉快に笑うことの多い人だけに心配だな。
何かあったんだろうな。
「急に申し訳ない……実は、村の一大事でございまして。」
「何があったんですか?」
「……タオカカとの道が、モンスターによって塞がれてしまいまして……。」
「え!?」
「タオカカ方面からの道で、うちの生命線です……アヤ村から迂回すればひとまずは何とかなるんですが、参りました……。」
村長さんが状況を説明してくれる。
「モンスターが、道を塞いでいるってことですか?」
「そうなんです……正確には、道中に何度も確認されるため、通行止めにせざるを得ない状況にあります。念の為、クエストの受注も一時停止しました。……観測班の方々の情報では……ゴシャハギ、と。」
「うーわー、マジかー……。」
「「?」」
初めて聞く名前である。
見るとハイビスさんも知らない様子。
セツヒトさんに聴いてみる。
「セツヒトさん、そんなにやばいんですか?そのモンスター。」
「うーん……人にもよるけどー……ジンオウガとどっちが強いかなー。相性かなー。」
「……とりあえずジンオウガとかそれ並に強いってことですね。」
「接近戦ならむしろソウジは……いやでも、あいつの攻撃キッツイからなー……んー……いい勝負かなー?」
セツヒトさんが悩んでいる。
頭の中で強さ比べでもしているんだろうか。
「村長さん……少し質問があります。」
「は、はいはい!何でしょう!」
ビシッと気をつけをする村長さん。
ずっと気になっていたことを告げる。
「その緊急クエスト、俺受けていいんですか?」
「え!?も、もちろん!ソウジさんもできましたら、ぜひお願いしたいんですが……。」
「俺、下位ハンターですけど……お力になれるかどうか。」
「…………え!?」
「!!……あ、そ、それは……。」
俺が村長さんに尋ねてみると、横でハイビスさんが狼狽えている。
「やっべぇ」って顔してる。何だろう。
村長さんはすごく驚いているし。
「そ、ソウジさんは……下位のハンターなんですか!?」
「は、はい、そうです。」
「し、しかし!セツヒトさんが近くにいたとは言え!ウルクススの上位個体やベリオロス、果てはガムートまでソロ討伐をされているのに……!!」
「あ、あのー……。」
おずおずとハイビスさんが手を挙げる。
「私です……私がやりました……。」
探偵の漫画の犯人のように話し始めるハイビスさん。
「つい……出来心だったんです……。」
2時間のサスペンスドラマのごとし。
やたら深刻に話すが……まぁ話を要約するとこうだ。
以前、俺がディノバルドにやられた時、本当の用は、ロアルドロスの討伐であった。
だが、そのクエストは上位相当。
じゃあなぜその時受けられたのかと言うと、ハイビスさんが、上位ハンター昇格試験として特例で受けられるように配慮してくれたからだ。
そして昇格云々なんて話は、俺が大怪我してきたもんだから、そのまま有耶無耶になってしまった。
そして今に至る。
「……つまり俺は、まだ下位なんですよね。」
「はい。ですが、いつもG級のセツヒトさんも同行しますし、体としては上位昇格試験期間中として扱っておりました……。」
「ガムートやベリオロスの討伐クエストは……。」
「上位相当です……。」
「おぉ……。」
昇格試験……というもののシステムがよく分からないが、これはいいのだろうか。
特例として認められることを、何度も何度も許可していては、それはもう特例ではなくなるのでは。
「すみません……何せ上位のハンターさんたちが少ないものでして……。クエストはどんどん舞い込みますし、上位相当のものも回させていただいてました……。」
「なるほど。」
「お二人それぞれで活動していただくことも考えたんですが、それだとソウジさんは上位相当のクエストを受けられませんし……万が一セツヒトさんのケガが悪くなってしまった時、ソウジさんがそばにいれば安心ですし……それで。」
まぁ、臨機応変に動いてくれた、と考えれば済む話だと思う。
ギルドが回らなくなったら、それこそお終いであるわけで。
「まー固いことはいいんじゃなーい?」
セツヒトさんが入ってくる。
「気にしないでいいよー、ハイビスちゃん。必要な処置でしょー。それに要はー、その雪鬼獣をやっちゃえばいいんでしょー?……ハイビスちゃーん、シガイアさんにすぐ郵便飛ばせるー?」
「は、はい。天気が良くなれば、すぐにでも。」
「じゃーそこに書いておいてー。『昇格試験期間である下位ハンターソウジを、上位クラスとして認定。G級ハンターセツヒト』って。」
「えぇ!?」
「二枚目の手紙にはー、『報告書とかは後でお願いします。ミヨシ村村長確認済み。』って。」
「「え、えぇぇ……。」」
村長さんまで巻き込んだ。
すっげぇ強引。
巻き込まれた方は「マジすか。」みたいな顔している。
いいのか。
「実際ソウジ、明らかに下位じゃないよー。ガムートほぼソロでイケるって、HR5ぐらいは楽にいくんじゃない?」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよー。自信持ってー。」
「は、はい。」
驚いた。
俺上位クラスなのか。
「そ、それでは……いろんな特例はあるようですが、お二人にゴシャハギ討伐の緊急クエストを依頼させていただいて、よろしいでしょうか。」
「せ、せっちゃんさん……よろしいでしょうか。」
「おっけーでーす。」
「ありがとうございます!……ハイビスさん……色々すみませんが、よろしくお願いしますね……。」
「はい……アワキ村長。」
がんばれ、村長、ハイビスさん。
俺も、がんばってきます。
「ゴシャハギかー。ソウジはいけるかなー。」
セツヒトさんが不安になることを言うものだから。
思わず身震いしてしまった。
* * * * * *
雪の中を歩く。
眼前には、ギフト画面。
<マップ>を開いて、例のモンスターを探しながら進んでいく。
「ふぅ……。」
ホットドリンクを飲んた。
幸い雪は止んでいる。風も少なく、体に感じる寒さはそれほどではない。
「うー、さーむーいー。」
「はい、ホットドリンクどうぞ。」
「ありがとー……うー、あったまりますなー……。」
セツヒトさんの格好は、例のナルガクルガの装備である。
お腹から胸の下までアミアミスケスケ。
男の俺としては大変ありがたい限りなのだが、見ているだけで寒い。
足も見えてるし。
「寒いと気合が入るんだよねー……研ぎ澄まされる?」
「いや、聞かれても。でも寒い方が頭が回る気がします。」
「そーそー、お腹ポッカポッカだと逆に……ソウジ、そろそろ?」
「……そうですね、視認できる範囲ギリギリに……いました。」
くだらない世間話をしていたら、セツヒトさんの目つきが少し変わった。
気配だけで視認範囲が分かったのか。
さすがである。
「見えたー?あれが、ゴシャハギー。」
「見えます………ウルクススみたいな……いや、体毛は厚いですね。顔は……よくわかりませんが、絶対厳ついです。」
二つ名を、雪鬼獣。
これで顔が可愛かったら、いよいよギルドのネーミングセンスを疑うところである。
「よく見えるねー……よっし。特徴をおさらいしとこっかー。」
「はい。よろしくおねがいします。」
ここに来るまでに、セツヒトさんにゴシャハギの特徴を教えてもらった。
雪鬼獣、ゴシャハギ。
二足歩行でも歩ける、牙獣種らしい。
その強さは、かなりのもの。
セツヒトさんを派遣するほどなんだから、そうなんだろう。
見た目通りのパワー、殴られたら結構痛い。
遠距離にいても、ブレスを吐いたり氷塊を投げつけたり、地面を叩きつけてこちらに氷の地面ビームをバーっとやってくる。
接近戦でも、距離を置いてもやっかいさん。
更に恐ろしいのが、剣を装備する。
氷で両手に剣のような尖った刀を作りだし、それを使って強烈な殴り斬りをバゴーンとかましてくる。
避けても対の剣で連撃を狙ったり、回転斬りもグルグルーっとしてきたり。
剣士のような感じとパワー、スキがなくてやーになるという。
後方を位置取っても、硬い背中にダメージは通りにくい。
定石がなかなか通じない上、ジリ貧になってきたら翔んで中距離から氷地面ビームをバー。
やーになるよねー。
…………以上が何とか俺が意訳して汲み取った、セツヒト語の全てである。
どうだ、これが1ヶ月生活を共にした成果だぞ。
「セツヒト語翻訳」なんてスキルがあったら、多分レベルはいいトコいってるだろうな。
……よく分からないところもあったので、こっそりギフトを起動し、情報を確かめておこう。
【モンスター名】ゴシャハギ
【種族】牙獣種
【別名】雪鬼獣
【詳細】
主に氷雪地帯に生息する大型の牙獣種。
大柄な体格で、威圧的な顔と鋭い鉤爪をもつ。
胴体を覆う分厚い毛皮と、太い強靭な四肢が特徴。
食料に対しての執凄まじく、僅かな物音にも敏感に反応し、凄まじい運動能力で襲い掛かる。
基本的にはその前脚や鉤爪を主たる武器として振り回す。
腕力だけでなく脚力も相当発達しており、自分の体高以上の高さまで跳躍し、相手の頭上を跳び越えてその背後や死角に着地してから襲い掛かる。
状況によっては両腕に氷の刃を作り出したり、丸みを帯びた形状の氷塊を生成して鈍器のように扱ったり、地面に叩きつけて自ら破壊し、その破片を投げつけるように打ち出す。
纏った氷塊は意外に外的な衝撃には脆く、集中的に攻撃を受けると砕け散ってしまう。…………
相変わらず詳細かつ長々しい情報画面である。
……セツヒトさんごめんなさい。こっちの方が、一般の方にはわかると思います。
そんな俺の心の中の謝罪を知ってか知らずか、セツヒトさんが変な質問をしてきた。
「……ソウジー、課題の空中戦。どーお?」
「え?れ、例の空中での連撃ですか?」
「うん、それー。」
「あー……実はですね、朝ファンゴに向けて試しました。」
「……お?小型に成功したのー?」
「はい……でも、まだ実践レベルではないかと。」
「…………そっかー……小型に当てられた……。よーし。」
何が良し、なのか。
…………嫌な予感がするぞ。
「ソウジー、多分ねー……アイツはソウジと相性がいい。多分、ねー。」
「……え?」
「……ソウジの回避は結構いい線いってるよー。それに目もいいしねー……課題は攻撃力だけどー……空中斬りと回転斬りの手数で押すならー……多分いけると思うんだよねー。アイツ少し小さめだしー。」
「……そ、それは……つまり?」
ちょっと待って。
聞きたくないこと言われそうだぞ?
「……ゴシャハギ、ソロでいってみようかー。もちろんサポートはバッチリするよー。」
「…………マジすか。」
「…………大マジー。」
見たこともない、ジンオウガにも勝りそうな初見の敵を相手に。
セツヒトさんが、とんでもないことを言い出した。