ミヨシとタオカカを結ぶ道が、とあるモンスターの出現により通行止めになってしまった。
そのモンスターの名前は、雪鬼獣ゴシャハギ。
今、そのゴシャハギが見える位置にまでやって来ている。
ヒグマのようなずんぐりむっくりとした体格。
上半身は白くて深い体毛に覆われているが、その前脚と後ろ脚はゴツゴツとした地肌のまま。
厳つい顔の上、頭からは角が生え、「鬼」という名も納得である。
やはりクマのように、二足歩行と四足歩行を使い分けるのだろう。
今は両後ろ脚で立ち上がり、辺りを警戒している様子だ。
ここから見てもよく分からないが、周辺の木の大きさと比較すると、まぁウルクススより小さいなんてことは無いだろう。
セツヒトさんの話では「小さめ」なんて言われてたけど。
そんなセツヒトさんが、とんでもないことを言い出した。
「ソウジ一人で討伐してみよう」と。
当たり前だが、初見である。
情報は頭に入れたが、イメージと実際が違うなんてよくある。
俺の解釈とのズレ。
まずはそこを修正していこう。
教官の教え、まずはよく見る!
そして生きて帰る!
そこは忘れない。
その上で改めて考えてみよう。
俺はアイツに敵いそうかどうか。
「……セツヒトさん。」
「せっちゃんー。」
「せっちゃんさん、あいつの強さって、他のモンスターと比べるとどんなもんですか?」
「んー……ギルド的には、ディノバルドやジンオウガと同レベルかそれ以上、ってとこかなー。攻撃力半端ないし、技の種類も豊富だしー……倒し方っていうのを心得てる頭のいいやつだよー。」
「…………俺がソロでいけるっていう根拠は?」
「んー……相性。」
「……。」
そこだ。そこがよく分からない。
今までいろんなモンスターを倒してきたが、いずれも今出てきたモンスターは含まれない。
ディノバルドもジンオウガも、俺はコテンパンにやられた。
「相性ってのは……?」
「んー……説明が難しいんだけどー……ソウジは引き際が分かっているから、かな。」
「引き際?」
「そー。あ、だからって意識はしないでー。今のままで丁度いいからー。」
「はぁ。」
いまいちピンとこない。
「ゴシャハギは、賢い。相手に合わせて戦法を変えてくる。……今回ソウジが接近戦で挑むなら、やつは接近戦で応えてくると思うよー?……但し、拘らない。アイツはアイツで、状況に応じてブレスを使ったり地面割ってきたり……。上手いんだよね。……だからこそ、ソウジはイケると思う。」
「…………。」
「ソウジに戦法が読みにくいよう頭を使ってくるからこそ、読みやすい、ってこと。説明が難しいねー。……ついでに言うけど、空中回転乱舞がうまく決まらないようなら、私と共闘するよ。いくら避けられても、攻撃しなきゃ討伐はできない。それに命の危機を少しでも感じたら、助けに入る……いーい?」
「はい、それはもちろん。」
むしろお願いしたい。
安心は、ほしい。
「おけー……さーて、準備はいーい?」
「……行きましょう。……ヤバいときはお願いしますね。」
「そりゃーもう。気楽に行こうねー。」
気楽に、か。
いけたらいいんだけどな。
まぁ深くは考えず、いつもどおりの自分+空中での攻撃を主体にしろと、そういう事かな。
無理にああしろこうしろ、じゃない分……気楽に行けるだろう。
視界の中のゴシャハギが、移動を始めた。
開けたエリア……湖が凍っているその場所を目指しそうだ。
街道沿いの湖……ここを生活エリアに定めたのなら、確かに人々の往来に支障が出るな。
「……移動します。行きましょう!」
「よーし!」
いずれにせよ、強敵。
細心の注意を払っていこう。
* * * * * *
移動した先、一つ予想外の事態が起きた。
「あれは……デカいですね……。」
「まさかいるとはねー……気配もしなかったのになー。」
湖の奥にある山の中へ続く洞窟から、ゴシャハギよりも大きいモンスターが這い出てきた。
「ヨツミワドウ……ですよね?」
「そーだねー……洞窟に縄張りがあったんだろうねー。」
ヨツミワドウ、でかい蛙のモンスター。
ワサドラの修練場のからくり蛙のモデル。
討伐したことはあるが、そのブヨブヨでパワーのある肉体に、苦戦させられたことを思い出す。
「…………2体、睨み合ってますよ……?」
「……多分、やるねー、これ。」
「戦い始めるってことですか?」
「うん……お互いの殺気がビンビンに伝わるよー。」
セツヒトさんの予想は的中。
2体は、山に響く大きな雄叫びを上げたあと、ぶつかりあった。
「グァァァァア!!」
「ギャァァァァァァ!!」
バゴォーン!
ヨツミワドウの巨体が、ゴシャハギにぶつかった。
しかし、一方のゴシャハギが怯む様子はない。
それどころか、両手を振りかぶり、ヨツミワドウの頭部にハンマーのように拳を叩きつけた。
ドガァ!
「ギャァァァ!」
たまらず後退するヨツミワドウ。
チャンスと見たか、四つ足で突進するゴシャハギ。
だが、そんなゴシャハギの動きを読んでいたのか、ヨツミワドウは巨体を反らせる。
「ブォッ!ブォッッ!!」
ヨツミワドウの口から出される液体。
あれは当たると痛い……のだが。
「!!」
「……あれだよー……あれは、初見だとキツイよねー……。」
驚かされた。
だってゴシャハギ、跳躍してヨツミワドウを越えたと思ったら、その後方から拳を地面に叩きつけたのだから。
叩きつけられた氷の地面が隆起。
その隆起した氷が、まるで地を這うようにヨツミワドウに向かって……。
ドガッ!ドガッ!ドガァン!
「ギャァァァ!!」
その巨体に直撃した。
その場に転げるヨツミワドウ。
背中に氷をモロに食らった。フラフラしている。
「うわー……すご……。」
「あれは意外と避けられるよー?……当たると痛いけど。」
「…………。」
こえぇよ。
好機と見たゴシャハギは、そこから猛攻。
ブレスを当て、更に弱ったヨツミワドウを殴る殴る。
最後は何と馬乗りになって、ボッコボコ。
たまらずヨツミワドウは洞窟の方に逃げていった。
「…………あれ、俺がやるんですよね。」
「うん。」
「…………。」
いけるのかなぁ……果たして敵うのか俺。
「基本はいつもと同じだよー?回避主体でリズムを掴んでー、攻撃。攻撃前のモーションも大きいから、分かりやすいってー。」
「……もし当たったら?」
「……考えちゃだめー。」
そうですね。
モロに食らったら、恐らくセツヒトさんが一発召喚である。
キレた状態で。
二人が戦うのを見てみたい気もするが……。
「じゃあまー、ソウジー?」
「はい。」
「ご武運をー!」
「はい……。」
セツヒトさんは、考え無しに俺を送り出すわけがない。
そう信じて、ゴシャハギの所に向かうことにした。
* * * * * *
俺は、ゴシャハギに近づいていく。
特に気配を消しているわけでも無いので、すぐに気づかれた。
耳がいいんだな。30mは離れているのに、既に臨戦態勢に入っている。
「……よーし、ゴシャハギ……。」
「グゥゥゥ……。」
「胸を……お借りします!」
「…………グァァァァァァ!!!!」
鼓膜が破れそうなほど痛い咆哮と共に。
俺とゴシャハギの戦いが始まった。
開幕直後、いきなり跳躍するゴシャハギ。
「いやはぇぇな!!」
さっき見た、地面をガーッとやるビーム(セツヒト命名)を繰り出してくるゴシャハギ。
動きは直線的だし、遅い。
「よっ……と。」
冷静に避ける。
あれだな、逆に遅いからテンポ狂わされそうだ。
気をつけねば。
そして恐らく次も……。
「グァァ!!」
ドガァ!!ガガガガガガ!!
地面が隆起。
二回目の跳躍をしたゴシャハギが、再度地面をガーッとやるビーム(セツヒト(ry)を行ってくる。
二度目も当たらん!
難なく避ける。
「グァァ!」
今度は、避けた俺に向かって近づいてくるゴシャハギ。
大きく右の拳を振り上げた。
(殴りつけてくる……位置的に……ここ!)
大体の間合いを掴んで、後退。
直後、目の前に何度も空を切るゴシャハギの拳。
その連撃を、後退し続けて躱す。
(間合いを取りすぎたけど……まずはこんなもんか。)
接近しないと攻撃は当たらない。
だが、まずは
「グォォォ……!」
(!!)
大きく息を吸い込んだ!
口には白い氷が見える……ブレス!
「ぬおぉっとぉ!!」
俺めがけて、氷のブレスが吐かれる。
しかも、避ける俺をしっかり見つめ、当たるように調整しながら吐かれる。
一度出されたブレスは、地面にめり込み、ゴシャハギが顔を上げると、同時に上空にまでに放たれた。
角度で言えば、マイナス5°ぐらいから一気に垂直へ。
「あぶねぇ!!」
間一髪、避けることに成功。
(……次も来る!!)
安心するのはまだ早い。
首を振ったゴシャハギが、今度は右を向く。
そして首振り機能のついた扇風機のように、右から左へ一面、ブレスを放ってきた。
(どうしようもねぇ!……一か八か!!)
首を振る動作の寸前、避けきれないことを悟った俺は、ゴシャハギに突っ込む。
全速力。
ゴシャハギの懐に……飛び込め!!
(間に合えぇぇぇ!!)
スライディング。
下が氷で良かった、めっちゃ滑る。
「…………あぶねぇよ…………。」
何とかビームを避けることに成功。
灯台下暗し回避、ビーム中はむしろ近くの方が避けやすい。
故バサルモス先生からの教えである。
そして学習。ブレスは縦に放たれたら横一面にもやってくる。
当たるところだった……。
「グァァァァ!!!」
すかさずゴシャハギ、今度は両手を上げて威嚇するようなポーズをとった。
大型のクマのような姿勢。
そこから繰り出されるのは。
(多分……前脚で攻撃!!)
正面に立つのはまずいと本能で分かる。
ゴシャハギの脇に回り込むように事前に回避。
その直後、メチャクチャな前脚ブンブン攻撃を繰り出してした。
空振りするゴシャハギ。
「あれ当たったら痛いよなぁ……。」
「グァァァァア!!」
怒っている?
元の顔が怖すぎてよくわからん。
いや……顔が赤くなっているような。
「ォォォォォォ……グァァァ!!」
パキパキパキ……バキン!!
「うぇっ!?」
思わず変な声が出た。
ゴシャハギが少し息を吐いたと思ったら。
「マジか……。」
右腕に、氷の剣ができていた。
白い氷の刀身。
切れ味が良くはなさそうだが、多分斬るためにあるんじゃなさそう。
どちらかと言えば……ぶん殴るための鈍器としての役割が強いんだろう。
でも、見た目はやっぱり刀。
正直……ちょっとかっこいいとか思ってしまった。
今まで、体の一部をまるで武器のように使ってくるモンスターはいた。
ディノバルドは、尻尾が完全に刀。
切れ味も抜群だった。
ドボルベルグというモンスターは、尻尾が棍棒のようになっているらしい。
聞いたことしかないけど。
だが今目の前のこいつは違う。
体の一部に、武器を
モンスター情報では、これを壊せばチャンスになるらしいけど……。
「ォォォォ……。」
「!?」
とか何とか思っていたら。
ゴシャハギが更に氷の息を吐きだした。
まさか……。
まさか……!
パキパキ……バキン!!
「マジっすか……。」
ゴシャハギ。いや、ゴシャハギさんが。
両手に氷の剣を装備した。
双剣。
あれは、私と同じ、双剣ではないですか……。
「かっこえぇ……。」
「……グアァァァ!!!」
「!……やっべぇ!!」
ちょっとかっこいいとか思っただけじゃないですかゴシャハギさん!!
剣を横に振りかぶったゴシャハギさんは、剣先からキラキラした氷の破片を飛ばしてきた。
何度も。
「マジか……よ!!……いってぇ!!」
油断大敵。
左の太ももに、氷の破片が掠めた。
血が流れてきてしまっている。
「グァァァァ!!」
俺に攻撃を当てても満足しないゴシャハギさん。
今度は両手の剣を構え、俺を狙って振りかぶってきた。
「型も何も……!ない……な!」
「グァァァァ!!」
だが、剣を振り回すだけ……?
じゃあ。
先程の殴り攻撃を避ける要領で、ゴシャハギさんに近づいて……。
「グァ!ガァ!グァァ!!」
「よっ!ほっ……うぉっと!」
「グァァァァ!!!」
正面に立たないように、体の周りを回りながら避けていく。
スキはかなり大きいな。
多分剣としてではなく、やはり鈍器として使っているんだろう。
バッ!
ズザァ!!
急に後退したゴシャハギさんが、今度は右腕をおおきく振りかぶってきた。
ジャンプしながら。
「グラァァァァ!!」
雄叫びとともに、地面に氷の剣を叩きつけてくる。
俺はゴロンと転がって避けた。
「あっぶねぇ……ん?」
刀が突き刺さって抜けない様子のゴシャハギさん。
「グァァ!!!」
ズボッ。
あ、抜けた。
「グルルルルル……。」
中々攻撃が当たらないことにイライラがピークなご様子。
すみません、こちらも痛い思いは嫌でして……。
……だがまぁ、そろそろいいか?
避け続けていても、意味はない。
攻撃のモーションは、大体分かった。
こいつは一発一発にとんでもない攻撃力があるが、隙が多いし避け易くはある。
その隙を狙おう。
チマチマと。
そういうの得意。
「ゴシャハギさん……そろそろ反撃させてもらいますよ!!」
「ゴァァ!!」
返事なのかどうかは分からない。
ただ、俺に呼応したように、ゴシャハギさんは声を上げた。