討伐開始からしばらく。
俺は、ゴシャハギ……改めゴシャハギさんの攻撃を、ずっと避け続けていた。
気づいたことが一つ。
確かに攻撃力は凄まじい。
先程刀身から放たれた氷の破片は、少し掠っただけなのに結構な出血になっている。
それに、パワーも半端ない。
多分あの氷の刀……だと思うのだが、それを頭部をガツンと食らってしまったら、俺は死ぬ気がする。
それぐらい、感じるパワーは凄まじいものがある。
だが、動作のスキは大きい。
回避に専念すれば……おそらく自惚れでも何でもなく、避け続けられると思う。
動きが分かってきたから、余計に。
「とは言っても……なっ!」
ゴシャハギさんの双剣の上段からのブチかましを、横に避ける。
右に右に、たまに左に。
基本は反時計回りで、たまに左。
基本の避けるための立ち回りはこうだ。
目も慣れてきた。
「……やってみるか。」
決心をして。
ジャキン―――
俺はようやく剣を抜いた。
「グルルルルル……。」
動きを止めるゴシャハギさん。
そうなんです、偶然ですね。
俺も双剣なんです。
まぁ……。
「はっ!」
ギン!
「グァ……。」
威力は全く違いますけど……。
「…………グァァァァァ!!」
舐めんな貧弱野郎、と言わんばかりに。
ゴシャハギさんが襲いかかってきた。
「ふっ!」
まともにかち合ったら、もちろん勝ち目はない。
パワーで勝てる人なんて、いるのだろうか。
…………セツヒトさんや教官とかなら、やってしまいそうではあるが。
まずは基本。
避けて、いなして、スキを見て攻撃する。
狙う場所は。
「やっぱりそこだよ……なっ!!」
ギキン!ギン!
「グァァァ!」
ゴシャハギさんの武器である氷の双剣。
そのどちらかに狙いを定める。
必ずある、スキを見つける。
攻撃と攻撃の間。
息をつく瞬間を狙って、攻撃。
第一優先は、左腕の氷剣。
次に右腕。
弱点であろう顔の周辺は届かなそう。
無理はしない、まずは届くところ。
「ふっ……ふっ……。」
「…………グアァァァ!!」
ギン!ガシュ!
ギン!!
コツコツと、左の氷剣を削る。
「うらっ!!」
ガキン!!
ビキッ!
大振りに構えたゴシャハギさんの横斬りを交わした俺は、少しふらついたスキを逃さなかった。
いい一撃が入った!
ヒビが入った!よし、もう少しで……!
ピキ……ピキピキピキ…………。
「…………マジか……。」
頑張って頑張ってヒビを入れた氷剣は、何でも無かったかのように元に戻ってしまった。
ゴシャハギさんが修復したのだろうか。
「ガァァァァ…………。」
白い息を吐き出しながら、剣先を口元にやるゴシャハギさん。
そう何度も直されてはかなわない。
これを壊せば、ダウンをとれると、情報画面には書いてあったのに……。
「グルゥゥゥゥゥ…………!」
ダンッ!
ドシンドシンドシンドシン……。
「あー……。」
ゴシャハギさんは、その身を翻すと、街道方面に向けて走り出した。
逃げた……?いや、体勢を立て直すんだろう。
致命傷を与えられずに苛ついたのかな。
……まぁいいか。無理して追いかけることもない。
俺の双剣もそろそろ研いでおきたかったし、ホットドリンクも切れそうだ。
こいつが切れたら、寒くてかなわない。
シャキン!
シャッ……シャッ……。
ザッ……ザッ……ザッ……。
砥石の音が辺りに響く。
静かな一帯に聞こえるのは、俺が刀を研ぐ音と……近づいてくる足音。
セツヒトさんだ。
「……ソウジー、お疲れー。」
「セツ……せっちゃんさん。」
「いやー、うまくいってたのにねー。これから反撃ーって感じだったのにー。」
「いや、完全にのまれてましたよ。あいつ怖すぎです……。」
終始ビビりっぱなしだった。
何なら攻撃が効いた感じは全くしない。
「怪我は平気ー?」
「はい、そんなには。避けるだけなら……まぁ何とかなりそうです。問題は攻撃ですね。全然効いてないです。」
「いやー?あの氷の剣には、結構いい感じだったよー?もうちょっとで割れてたよ、あれ。」
「ヒビは見えたんですけどね……。」
より強い攻撃か、またはより手数を増やすか。
強い一撃は、双剣の目指すところではない。
そうすると、やはり手数を増やす方向だろう。
「…………次は、空中回転斬り、やってみます。」
「……気負わずにねー。後ろ、私もいるからー。」
「はい。」
セツヒトさんの頼もしい言葉。
今は、頼りにさせていただきます。
待ってろ、ゴシャハギさん。
* * * * * *
街道沿いには、雪の山奥らしい針葉樹林が立ち並ぶ。
湖から街道方面に向かうと、その林にぶつかる。
モンスターを倒す際に遮蔽物となるその木々は、邪魔なときもあれば有効活用できるときもある。
今回は広く狩り場を使いたい。
「いました……。」
「おけー。すぐフォローできるようにしておくー。」
そう言うとセツヒトさんは、木々の上に飛び乗った。
音もしない、まるで忍者。
すげえなぁ……。
(ゴシャハギさんは……街道のど真ん中……強者の風格バリバリだな……。)
件のゴシャハギさん、街道の真ん中を悠然と闊歩していた。
人の気配でモンスターは縄張りを変えていくと聞いたが、それは弱いモンスターのみに適用されるようだ。
ゴシャハギさんには関係ないらしい。
「さて……。」
朝のことを思い出す。
標的としてはかなり小さい、ファンゴ。
奴らに「空中回転乱舞」を当てることはできた。
完全に成功したのは一回だけだけど。
(標的は大きい。当てることはできるだろうな……問題はその後だ。)
「空中回転乱舞」は、確かにたくさんの剣撃を食らわすことができるが、その分スキも大きい。
気をつけねば。
(……落ち着け……よし。)
「……ふぅー。」
ゆっくりと、息を吐く。
体と心を再度整える。
ゴシャハギさんの両腕に、例の双剣は無い。
解除したのかな。
自在にできるとか、俺のギフトみたいだ。
「…………シッ!」
短く息を吐くと、俺はゴシャハギさんに接近した。
「グァァ!」
気づいたゴシャハギさん。
体をゆっくりとこちらに向ける。
(……イケる!)
体をこちらに向けるゴシャハギさんに合わせて、俺は進行方向を少し右に。
狙うは、左腕。
「…………うらあっ!」
戦い始め。
ゴシャハギさんも体勢が整っていない。
チャンス。
(………後ろから回転……!)
両の剣を後ろ手に向け、俺は跳躍した。
高さはいらない。
クルッと空中で回って。
振り向きざま、切っ先を当てる。
回し蹴りの要領で回転を力に変え…………。
(当てる!)
ズザン!
「グアァァ!」
成功。
両手に力を込め、更に飛び上がる。
顔の高さまで、クルクルと跳躍した俺は。
「ふんっ!」
「ゲァ!!」
ズザザザザザザザン!!
ザシュ!!
低く素早く回転しながら、ゴシャハギさんの体をなぞるように剣を当て。
ザザン!
「ギャァァァ!」
着地。
回転斬りもお見舞いする。
ザザザザン!!
「グァァ!!!」
たまらず後退するゴシャハギさん。
俺も、その動きを確認して後退。
俺のスキを、相手に与えてはならない。
(いけた!!成功!!)
まだ氷剣を生成していない左腕。
そこを中心に、左半身の全体的にダメージを与えられたように思う。
(ダメージは……わからん!だが、押し切る!)
次。
雄叫びをあげられそうな気配。
構わず突っ込む!
ゴシャハギさんの右に右に位置を取る。
「…………グァ―――」
ここ!
跳躍。
縦に回転。
切っ先を再び左腕に当てる!
ザシュザシュ!
「―――ァァァァ……。」
ゴシャハギさんの声は力なく霧散。
叫び声は響くことなく。
「らあぁぁぁ!!」
グルングルンと回る視界の中、回転して斬る意識を保つ。
飛び過ぎはしない、浅い跳躍からの回転斬り。
ザザザザザン!!
「……らぁ!!」
着地、剣を振り抜く。
「……グァ!!」
よろめくゴシャハギさん。
だが、目は死んでない。
(……来る!)
数瞬の間。
体勢を一気に立て直したゴシャハギさんは、大きく振りかぶり。
俺に右前脚の鉤爪を向けた。
ヒュオン!!
(あぶねぇ!!)
スウェー、鼻先を氷剣が掠める。
すぐにバックステップ。
間一髪!
「ガァ!…………グルルルルル…………。」
力任せの右前脚の引っかきを、何とか避けられた。
危なかった。
モーションを学習していたからこそ、避けられたが……。
(ヨツミワドウとの戦いを見ていなかったら……ヤバかったな。)
ツー……。
頭から汗が垂れる。
寒いのに。
(……一瞬も、気は抜けない……。)
「…………。」
「…………。」
睨み合う俺たち。
ゴシャハギさんの顔つきは、心なしか先程より険しく見える。
怖さ2倍増し。
(少しは敵と認められたか……?)
捕食する弱い生き物から、倒すべき強者に認識が変わった……なら嬉しいんだけど。
バッ!
(……!!)
動いた!
両手を振り上げるモーション!
メチャクチャなぶん殴りが来る!
「グァァァァア!!」
(こえぇぇ!!)
とんでもない形相をしていたと思う。
良くは見ていないけど。
俺は、避けるのに必死だったから。
ゴロンゴロン。
バッ!
右足の力を抜き、そのまま倒れ込むように転げる。
すぐ横を、腕をブンブン振りながらゴシャハギさんが通り過ぎる。
俺はすぐに体勢を立て直し、起き上がった。
「グァッ!!」
ダンッ!
(飛び上が……地面バキバキか!!)
もう攻撃の名前などどうでもいい。
とにかく、後ろに大きく跳躍したゴシャハギさんは、地面に両拳を叩きつけた。
ドガァン!!
バキバキバキバキ!!
(よっ……と。)
あんまりスピードは無い、余裕で避ける。
ゴシャハギさんまでは……遠い。
(近づいて攻撃を……またか!)
猛攻は続く。
続けて、口に見える白い何か。
(ブレス!!)
白い雪の光線が、舞い上がる。
(悠長に避けてる場合じゃねえ!)
ブレスの向こう、ゴシャハギさんに近づく。
急げ!急げ!!
(鬼神化……!!)
鬼神化を行うと、動きが格段に速くなる。
スタミナは激しく消耗するけど。
「よっ……と!!」
滑り込むようにゴシャハギさんの足元にスライディング。ゴシャハギさんは、前方にブレスを吐いたままである。
(チャンス!)
ダンッ!
ザシュザシュ!!ザザザザザン!
ザン!
ザザン!!
クルクルと、空中回転斬り。
ブレスをしているゴシャハギさんの背中から後頭部にかけて、斬り刻む。
(鬼神化中だと……キッツいな!!)
より重く、速い連撃。
その分、体力の消耗も激しい。
ズザザザザザザン!!!
着地と同時に追撃!
「グァア!!」
「うらぁ!!」
ズザン!
「ガッ……。」
厳つい顔が離れる。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………。」
「グルル……。」
疲れた……!
でも、追撃含め、完璧だった気が……する。
これでも倒れないゴシャハギさん。恐れ入ります。
それもそうか。
だって……。
「……ハァァァァ……。」
パキパキパキ……バキン!
(来たか……。)
本気は、これから。
両手に氷の剣を作り出すゴシャハギさん。
口から出てくるのは冷気なのだろうか。
とんでもない速さで氷剣が形作られる。
(…………ん?)
左手は剣ではない……もっと無骨な、氷の棍棒が作られている。
いやアレはアレで、なぐられたらタダでは済まなそうな感じはある。
双剣使いゴシャハギさんは、新たに片手剣&棍棒使いに進化。
多彩でクリエィティブ、またまた恐れ入ります。
「……ガアァッ!!」
気合を入れ直すかのように、両の剣……ではなく、剣と氷の塊を構えるゴシャハギさん。
…………怖すぎるって。
* * * * * *
「グァ!!」
飛んで垂直に剣を振り下ろすゴシャハギさん。
「よっ。」
避けてから……。
ザン!ザン!ザザン!
「グァァァァア!!」
斬る。
再びの追撃。
今度は……三連かな?
「よっ……と……おわっ!!」
何とか避ける。
地面に剣が突き刺さった。そのスキに……。
「うらぁ!!」
鬼神化、乱舞。
「グァ……!!」
ビキッ!
バキン!!
壊れる氷剣と棍棒。
そしてダウン。
転げるゴシャハギさん。
逃すものか。
「きじんかぁ!!乱舞!!」
ズザン!!ズザザザザザザン!
ザシュ!ザザザン!!
「ついでにぃ……!」
ダン!!
跳躍。
後ろから剣を回し斬り。
からの回転斬り、振り下ろし、着地後の回転斬り。
ザザン!!
「らぁ!」
「グァァッ…………。」
バッ。
後退する。
追撃は一回まで。
ゴシャハギさんの立て直しは、早い。
「グァァ……。」
立ち上がったゴシャハギさんは、まっすぐこちらを睨みつけてくる。
(……すげぇ体力……。)
氷の片手剣と棍棒を装備したゴシャハギさんは、そこから猛攻を始めた。
が、俺も大体のモーションは分かった。
数度ダメージは受けたが、問題なし。
回復薬グレートをそのたびに服用。
持ち直している。
罠も使い、砥石を使う時間も確保。
無理はしない。
「グァっ!!」
「おわっとぉ!!」
両腕を振り上げ、地面に叩きつけるゴシャハギさん。
だが、地面バキバキビームは飛んでこない。
……おそらく疲れている。
攻撃と攻撃の感覚も、緩慢になってきた。
(一番気を抜いてはいけない時間帯……今まで通りに!)
「シッ!」
「ガッ!?」
駆け寄る。
肉薄。
拳が振り上げられる。
知ったことか。
小さく、跳躍。
―――空中回転乱舞!!
ズザザザザザザン!
「グァァ!!」
「もう一丁!」
ザシュザシュ!ザザン!!
「グァ……。」
ズゥン……。
「グルッ!ガァ!……グルル……ガァ!」
地面にひれ伏して、もがくゴシャハギさん。
「…………。」
スチャッ。
俺は、シビレ罠を仕掛けた。
「グォ!?グゴォォォォォ!!!?」
困惑している。
(麻酔玉…………。)
ボフッボフン……。
2発の麻酔玉を、地面に叩きつけると。
「ガァァアァ…………。」
ゴシャハギさんは、動かなくなった。
「………………。」
スヤスヤと寝ている。
これで、捕獲成功……かな。
「…………っふぅぅ…………よぉしっ!」
ジャキン!
双剣をしまう。
「ゴシャハギ……捕獲完了!」
いつもショウコに頼っていた、捕獲のタイミング。
ミヨシにやってきてから、それがだんだん分かるようになってきた。
要は、相当にダメージを与えていればいいのだ。
……まだショウコのように、バッチリ分かるわけではないけど……。
今回は足も引きずっていたし、呼吸もおかしかった。
おそらくあのままやっていたら、討伐していたと思う。
「……ただのエゴだけどな……。」
せめてもの、敬意。
似たような武器を操る者として。
今回は捕獲、ということで一つ。
「強かったぁ……。」
一撃の重さは、はっきり言って俺が遭ったモンスター史上最強クラス。
ディノバルドの尻尾のような強烈な感じではないが、それに匹敵する重い攻撃を、常に繰り出してくる。
避ければいい、というのは、避けきれなかったら終わりなわけで。
そういう意味では、回避主体の俺とは、確かに相性は良かった。
スキは大きかったし。
それに、セツヒトさんが後ろに控えているという安心感。
狩猟の前にヨツミワドウとの戦いを見られたという幸運。
この辺が、気持ち的に少し楽になった要因だ。
「…………強くなっているぞ……俺。」
モンスターを倒した達成感は、何物にも代えがたい。
……倒したというか、捕獲したんですけど。
セツヒトさんは、何て言うだろう。
冷酷にやらなきゃー、ソウジー、なんて言うだろうか。
いずれにせよ、回収班へ連絡しよう。
セツヒトさんとの反省会はその後だ。
バシュッ……。
俺はポーチから取り出した信号弾を上空に放った。
山にこだまする音。
毎回、勝利の後に打つその音は、心から安心する。
村の人に被害が無くて、よかったと安堵する俺であった。
* * * * * *
「やっぱり甘いってー。」
「はい、すみません……。」
信号弾を撃って少し。
やたらセクシーな装備を纏った女性が、こちらに駆け寄ってきた。
怪我のことをまずはとにかく心配された。
だが血は止まっているし、何度か受けた攻撃も、そこまで痛くはない。
「完勝だねー……でもソウジー?」
そこから、俺は反省。
甘い、討伐しなきゃいけない案件だよ、と。
そうですよね……敬意とか払っている場合じゃなかったですね……。
……でも仕方がない。と割り切る。
俺はまだまだ覚悟が足りない。
命を屠るという覚悟。
セツヒトさんに教えられたその覚悟は、まだまだできていない。
「まー……そういうところも……いいんだけどねー……。」
「へ?」
「んーんー、こっちの話ー。とにかくさー、ソウジー?」
「は、はい。」
何だ、まだ反省点でも―――。
「―――狩猟、お疲れ様。よかったよ、とても。」
「………っ。」
素直に褒められ、俺は。
照れてしまった。
「あー、ソウジはこういうのに弱いんだねー。」
「よ、弱いって何ですか!?」
「んー……攻略の糸口が見えてきたというか……やっと射程範囲ー?」
「聞かれてもワケ分かんないっす!」
「あははー……。」
笑顔のセツヒトさん。
いつもの含んだ笑いでは無い、普通の笑顔。
「じゃーソウジー、帰ろっかー?」
「……はい!」
今日の狩猟も無事、終了。
想定外の敵だったが、何とかクリアした。
「ソウジー、顔真っ赤だよー?」
「ホットドリンク飲みすぎました。」
笑顔にやられましたとは言えない。
そんなん言ったら、恐らく今夜遅くまでイジられコース確定である。
「ふーん……まぁいいやー……フフッ。」
「……っ。」
またも見せる、その見慣れない笑顔に。
俺はまたも、ドギマギしてしまうのだった。