モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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ギルドの受付嬢、ハイビスの視点です。
前回からの続きになっています。


96ある受付嬢の話⑥

ギルドにやって来た意外な人物。

それは、セツヒトさんでした。

 

…………実は私、この方がちょっと苦手です……。

 

以前、ソウジさんのハンター昇格試験クエストを見送りに行ったとき。

マショルクさんと、もう一触即発。

 

だ、だっていきなり殴りかかったんですよ?

 

それ以来……少し怖いなぁ、っと。

普段はのんびりされた優しい方なんですけどね。

 

 

まぁその話はおいておいて……。

 

セツヒトさんが、要件を告げ始めました。

 

 

「実はねー、今日行こうと思っていた小型のクエストが軒並みなくてねー。」

「は、はい。そうですね。時期が時期ですし……。お二人が頑張ってくれたおかげで、今年は食害が本当に少ないです。」

「そういうことかー。しょうがないかなー。」

 

 

最近、ソウジさんはセツヒトさんとともにクエストに行きます。

特に小型の駆除を中心に、精力的に狩りに出かけていきます。

その話で、ギルドは持ちきりです。

 

付き合い始めたのか、なんていう下世話な想像をされるハンターさんもいらっしゃいますが……多分それは違いますね。

お二人の仲はよくわかりませんが……何だか師弟関係のような感じがします。

 

クエストを受けては、ボロボロになって帰ってくるソウジさん。

小型のクエストでなぜあれだけボロボロになるんでしょう……?

 

そんなセツヒトさんのお願い……一体何でしょうか。

 

 

「そ、それでは、お願いというのは。」

「うん、ソウジと一緒にー、上位の大型、狩らせてくれないー?」

「……じょ、上位の大型、ですか?」

「そー。できるならー、3級危険種辺りを。」

「こ、この時期でその強さとなると……セツヒトさん。この周辺には……。」

「んーっとねー、そこも込みでー、お願いしたいんだよー。……だめー?」

「……しょ、少々お待ち下さいね……。」

 

 

待って下さい……。

つまりセツヒトさんが言うのは……「ワサドラ周辺ではない、どこか遠方のクエストは無いか。」ということ……ですよね?

 

うーん。

 

……ソウジさんもセツヒトさんも絡んでますし。

これ、完全に私の手には収まらない話ですよね……。

 

しょうがないです。

ここはギルドマスターに報告、相談しましょう。

下手に遠くの地のクエストを許可なんてして事故を起こしてほしくはありません。

前回のディノバルドだって、ほど近い狩猟場だったからこそ、救援が間に合ったんです。

 

 

「すみません、少し相談してきます。」

 

 

一言断りを入れて、私はギルマスの部屋に向かいました。

 

 

……………。

 

 

コンコン。

 

 

「はい、開いてますよ。」

「ギルドマスター、ハイビスです。」

「おや、どうしました?」

 

 

ガチャ。

 

 

「失礼いたします。ソウジさんに関することです。」

「ほう、聞きましょう。」

「最近、武具屋のセツヒトさんと一緒にクエストを受けている、というのはご存知ですか?」

「あぁ、はい。それはもう。様々な方面から伺っておりますが。」

 

 

それはそうですよね。

この話でギルドは持ちきりですし。

 

お二人をお待たせしています。要件は手短にいきましょう。

 

 

「簡潔に申し上げますと……そのセツヒトさんが、3級以上の大型モンスターを狩猟したい、と。」

「この時期にですか?」

「はい。」

「……ソウジさんも共に?」

「はい。」

「……。」

 

 

考える様子のギルマス。

この方、とっても仕事のできる方です。

特に、どんな案件も即断即決。地頭の良さもさることながら、経験が違います。

 

結構考え込む様子は中々珍しいです。

 

と言っても、10秒ぐらいでその様子は終わりましたが。

 

 

「……分かりました。ハイビスさん。」

「は、はい。」

 

 

何がわかったと言うのでしょうか……。

私にはさっぱりなんですけど!

 

 

「お二人を、こちらに連れてきてくれませんか?直接私が話をしたいと言っていると、伝えてもらえると。」

「わ、分かりました。……よろしいのですか?」

「えぇ、構いません。よく私にこの話をもってきましたね、ハイビスさん。」

「い、いえ。責任の所在がよくわからなかったものですから。」

「その辺を見極めるのってとても難しいですからねぇ……。ハイビスさん、よかったらこの後の話もーーー」

「そ、それでは呼んでまいります!!」

 

 

ピュー!

 

 

バタン。

 

 

ふぅ。

危ない危ない!また巻き込まれるところでした!

 

ギルマスが直接ハンターと話すなど、厄介ごとぐらいしか無いと相場は決まっています!

あのタヌキさん、油断するととんでもない仕事を被せてきますからね!

 

戦略的撤退です!

 

 

……いけません、急ぎましょう。

お二人がお待ちです。

 

 

私は足早にギルド本部に戻りました。

 

 

* * * * * *

 

 

お二人を案内した後は、足早に業務に戻ります。

 

私の危険を感知する本能が教えるんです。

「いやこの話は聞いちゃだめですよ!」って。

 

そんなこんなで昼食をとって。

いつもより少しのんびり目に仕事を進めているときでした。

 

 

「あ、ハイビスくん。ギルマスがお呼びだよ?」

「……へ?」

 

 

今日二度目の呼び出し。

上司経由で、です。

 

もうイヤーな予感しかしませんが……。

仕方ありません。私は単なる平の受付嬢。

あちらはギルドのトップ。

 

私は恐る恐る、ギルマスの部屋に向かうのでした。

 

 

…………。

 

 

「お伝えすることがありまして。すみませんね、ハイビスさん。」

「いえ……ど、どのような要件でしょうか?」

 

 

さっきの今ですから、十中八九、ソウジさんやセツヒトさんに関連することで間違いなさそうです。

心して聞くとしましょう。

 

 

「ええ、では簡潔に。まず、ソウジさん並びにセツヒトさん。三日後にこのワサドラを出ます。」

「……は、はい。そうですか。」

 

 

ここは予想済みです。

お二人……というよりセツヒトさんが狩猟を望むような大型は、この季節滅多に現れませんからね。

 

 

「はい。以上です。」

「…………え!?」

「ん?ですから、以上です。」

「…………?」

 

 

お、終わりですか?

なんか拍子抜けというか、もっととんでもないことを言われると覚悟していましたのに。

 

 

「何か、気にかかることでも?」

「い、いえ!承知しました!」

「はい、ですので当分は、ソウジさん関連の業務はなくなるかと思います。私への定期報告も、しばらくは大丈夫ですので。」

「……了解いたしました。」

 

 

や、やけに話がスムーズに進みます。

…………嫌な予感がしますよ…………。

 

 

「そ、それでは私は戻っても……?」

「はい。よろしくおねがいします。」

 

 

ほ、本当に終わりなんでしょうか!?

帰りますよ!?私、戻りますからね!?

 

 

クルッ。

 

 

「あー、そういえば。」

「!!」

 

 

……実にわざとらしい声が、ギルマスから上がりました。

 

やはり何かあるんですね……!

 

ギルマスが、演技がかった口調で話し始めます。

 

「いやー。もう一つ忘れていました。実は、今から彼らが向かう村……ミヨシ村と言うんですがね?実はそこ、冬季に人手を募集しているらしく……。」

「……募集?ですか?」

「ええ。そこは冬季だけ、臨時のギルドが置かれるんです。いやー、そこからヘルプが欲しいと毎年要請が来るんですよ……失念していましたねぇ。」

「臨時……。」

 

 

聞いたことはあります。

ワサドラや、ここに匹敵するような規模の町や村には、ギルドが置かれています。

ですが、僻地の村や集落にはそんな立派な施設などはないです。

でも季節ごとに出てくるモンスターが違う……特に雪山などは、強力なモンスターがわんさか湧いてきます。

そういったところに、臨時のギルドが置かれることがある、と。

 

大変な業務、仕事の内容もワサドラギルドのようにオートメーション化されているわけもなく。

多忙を極めると、聞いたことがあります。

 

おそらくは、私をそこに派遣したいのでは……?

 

 

「いやー、どうしましょうか……若くて体力のある、それでいて有能な若手……。」

「…………。」

 

 

でもでも……これってチャンスではないですか?

その……ソウジさんの周りって、素敵な女性が多いですし、多少なりとも寿退社リタイアを夢見てきた身としては、結構ありです。

結構どころか、割とまぁ……えぇ。

 

…………自分で言うのも恥ずかしいですけど。

 

これを機にお近づきになれたら、こう、いい感じに二人は……。

 

 

そ、それに!

セツヒトさんとふたりきりなんて、いくらあのにぶちんのソウジさんでも!

間違いが無いとは言い切れませんし!

 

チャンスですし、ピンチを回避もできます!

これチャンスですよ!!

 

 

「困りましたねぇ……。」

 

 

チラチラとこちらを見てくるギルマス。

……完全に誘ってますね。

 

乗りますよ!その提案!

私、専属受付嬢である、このハイビスが!

 

 

「あ、あのー?……も、もしお困りでしたら……専属の受付嬢なんて、いかがで―――」

「え?……あーあー!それ、いいですね!確かに、有能で若手、しかもソウジさんのクエスト処理もこなしている!」

「で、ですよね!それでしたら早速―――」

「ヒナタさんがいましたね!」

 

 

………………………へ?

 

 

「失念していましたねぇ。彼女は有能ですし……いつだか、ソウジさんとは銭湯も共にする仲だと。趣味も似ていると聞き及んでいます。」

「あ、あの!」

「これからのギルドを支える若い担い手として、成長も見込める……いやぁ、素晴らしい。」

「いやいやいや!ちょっとお待ち下さい!」

「え?」

 

 

ひ、ヒナタ!

ヒナタが居ました!

まずいですよ!ヒナタはただでさえソウジさんに心惹かれているようですし!何より可愛いんです!

セツヒトさんとは違うタイプで、これまたまずいですよ!

 

 

「え、えとですね……ひ、ヒナタはまだまだ新人です!雪山の臨時ギルドなんて、忙殺されないか心配です!」

「なるほど……確かにそうですねぇ。」

「そ、それに!ギフト!ソウジさんのあの力をまだ知らないんです……そ、そしたら……それを知っている人の方が、こう、適任ではないかと!」

「ほう!ですが……そんなにピッタリの人選がありますか?」

「わ、私なんていかがでしょうか?」

 

 

ちょ、ちょっと苦しいですかね?

でも!押し切らないと!

私の素敵な彼氏さん計画が!

 

 

「ハイビスさん……ですか!なるほど!それはいいですねぇ。」

「で、ですよね!ですよね!」

「えぇ……ですが、大丈夫ですか?」

「へ?」

 

 

大丈夫、とは……どういうことでしょうか?

 

 

「いえ、ハイビスさん。お言葉は大変嬉しいのですが、出発は三日後の明朝。今任されているお仕事は、大丈夫ですか?」

「え、えーっと……お、終わらせます!死ぬ気で!」

「各種報告書作成、ハンターの来歴の更新と整理、それから来季に向けてのギルド受付周りの環境刷新……それらを?」

「うっ……はい!」

「終わらせる?」

「はい!も、もちろんです!」

 

 

できるわけ……あります!

やってやりますよ!

 

 

「いやぁ!そうですかそうですか!……本当にそこが心配だったんですよね……。(ぼそっ)」

「え?」

「いや、こちらの話です。……そこまでしていただけるのでしたらぜひ、ハイビスさんにミヨシ村派遣をお願いしたいです。」

「ほ、本当ですか?……あぁ、良かったぁ。」

「ええ、途中のタオカカ村への書簡やミヨシ臨時ギルドの業務全般のスリム化、可視化、効率化もお願いしようと思っていましたので……助かりますよ!」

「…………ん?」

 

 

今、何かドカンと仕事が増えたような……。

 

 

「あ……でも一つだけ懸念が……。」

「え!?」

 

 

何何何!?

まだクリアできていないことがあるんですか!?

 

 

「実は先程、『私の方でも手を打つ』と、ソウジさんに伝えてしまったんですよねぇ……。」

「そ、それはヒナタのことでしょうか!?」

「…………。」

「わ、分かりました!ソウジさんに確認を取ってまいります!」

「おや、本当ですか?」

「はい!」

「助かりますよ、それではソウジさんの許可が取れ次第、正式に長期出張をお願いしますので。」

「はい!」

 

 

ガチャ。

 

 

バタン。

 

 

よしっ。

長期出張、ソウジさんとの遠出……ゲットです!

 

何か仕事がおかしいぐらいに増えた気がしますけど……。

 

と、とりあえず今はソウジさんを探しましょう!

ギルドに来てくれればいいんですが……。

 

 

* * * * * *

 

 

結論から言うと、ソウジさんの許可。

取れました!

 

いえ、私が着いていくとは言ってないんですが……私が力をお貸しする形で、了承いただきました!

 

 

よし……あとはギルマスに報告して……。

ワサドラで貯まった仕事を片付けて……。

あちらで新たに受ける仕事も確認しておいて……旅支度もしなきゃいけませんね……。

 

 

…………。

 

 

 

あれ?

 

何か私、めちゃくちゃ忙しくなってませんか?

…………何か、うまーいこと嵌められているような……。

 

 

コンコン。

 

 

とりあえずギルマスに報告です。

 

 

「はい、どうぞ。」

「失礼します。」

 

 

ガチャ。

 

 

「ギルドマスター、お待たせしました。」

「おぉ、ハイビスさん。お早いですね。」

「はい。」

「それで?ソウジさんの方はいかがでしたか?」

「はい、ギルド側から、ソウジさん事情を知る職員が派遣されるという形で、了承いただきました。」

「おぉ、それは良かったです。それでは…………。」

 

 

そう言うと、ギルマス、後ろに置いてあったファイルをドサッと私に渡してきました。

す、すごい量ですね……。

 

 

「こちらをお願いします。」

「こ、これは?」

「全て、ミヨシで行ってほしい業務になっています。すみませんねぇ、こんなことまでお願いすることになってしまって。」

「は、はぁ。」

 

 

とりあえずファイルを机に置きます。

 

…………しかし……だんだん私……分かってきましたよ……?

 

ギルマス……私を嵌めましたね……?

 

 

「ギルドマスター?」

「はい、何でしょう?」

「…………もしかしたら、初めから私を派遣するご予定だったのでは……?」

「ん?何のことです?」

「で、ですから、私を派遣するのは決まっていて……ですが、私が居ないと滞る仕事も多数あります。」

「そうですねぇ。ですから、残りの期間でやっていただけると言ってもらえて、良かったですよ。」

「…………はめましたね?」

「ですから、何のことです?」

 

 

ニヤニヤと笑うギルマス。

…………タヌキオヤジ…………。

 

 

「…………。」

「…………ははは、まぁあまり睨みつけないでください。根拠はあります。」

「根拠?」

「まず、あなたがいなくなることのワサドラギルドの損失、これは大きい。逆に言えば、ミヨシの臨時ギルドの補充、これに最適な人材はハイビスさん、あなたしかいません。」

「…………。」

 

 

一応、黙って聞いてみます。

 

 

「そこで、業務はなるだけ終わらせていただいて、そこのファイルにある仕事、それをあちらでもやっていただく……不可能ではないでしょう?ハイビスさんなら。」

「そ、それはそうですが。」

 

 

そうなんですよね……フル稼働で頑張れば、終わらない量ではないです。

……残業は確定ですが!

 

 

「それに……あなたにとっても、有益なのではないですか?」

「…………。」

「セツヒトは、あぁ見えて奥手ですが……今回はソウジさんに、本気です。」

「!」

「…………私としては、どちらも応援したいんですよねぇ……?」

「ぐ……ぐぐ……。」

「いかがです。」

 

 

だめです。

この人、初めから分かっていたんですね……!

 

私がソウジさんという餌にまんまと釣られることを!

そして私から望んだという言質も取って、ギルドの損失を最小限に!

 

しかも期待されているという本音までオマケでつけて!

 

…………断る理由は、ありません。

だけど……納得できないというか!

まんまとしてやられた感じがどうにも腹が立ちます!

 

 

「…………わ、分かりました。」

「…………本当に、すみません。良い人材に限って、早々に寿退社していく受付嬢という仕事柄……あなたのような有能な方は、貴重なんです。」

「……あ、ありがとうございます……。」

「無理を通した手前……以前の貸しは、今回でチャラにしましょう。どうです?」

「……はい。」

 

 

貸しの話までされたら、もうチェックメイトですね……。

この方に敵う気が致しません……。

 

 

「よかったです……それでは、業務の方、どうぞよろしくおねがいします。……あぁ、それともう一つ。」

「はい?」

「これを、セツヒトに渡してください。」

 

 

渡されたのは、封筒。

簡単な封をされています。

 

 

「出発の際に、渡してください。ハイビスさんがついていく経緯など、簡単にまとめておりますので。」

「わ、わかりました。」

 

 

忘れないようにしないといけませんね。

…………まぁ、とにかく頑張って仕事終わらせましょう。

 

やってやりますよ!もう!

 

 

「そ、それでは!失礼いたします!」

「はい。よろしくおねがいします。」

 

 

スタスタスタスタ。

 

 

バタン。

 

 

…………もうこうなったら、ヤケです。

ワサドラに仕事を残さないように、精一杯やってやります!

 

任された仕事は確かに多いですけど、ギルマスの言うようにやってやれないことはないです。

残業確定ですけどね……。

 

やってやりますよ!


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