前世、俺はあまり男の子的な趣味を持っている方では無かった。
ロボットに対してロマンを感じる方でもないし、車やバイクに金をかける趣味も持ち合わせていなかった。
付き合い程度のゴルフ……は男の子的な趣味ではないし。
どちらかというと、おっさんの趣味だ。
だから、武器やモンスターに対して「かっこいい」と思う自分が、意外ではあったのだ。
そして今回。
新しい双剣が作られ。
震えてしまった……。
カッコよすぎて。
「おぉ……。」
「どーお?それが氷属性双剣……ベルゲルブリザードだよー。」
「いや……か、かっこいいです……。」
「うーん……刀身の美しさというよりは機能美を感じるよねー。ベリオロス素材を存分に使ってデザインは凝ってみたんだけどさー。双剣って普通
セツヒトさんに、新たな双剣を見せられる。
と、同時に喋りだすセツヒトさん。
もうその語りが、止まらない止まらない。
武具屋……というより武器マニア、といった方がしっくりくるな……。
あのセツヒトさんが熱く語る姿なんてあんまり見ない。
「……ってわけー。ソウジー?聞いてるー?」
「は、はい!聞いてますよー?」
「ほんとにー?……あ、おじさーん、ありがとうございましたー。加工、うまくいきましたー。」
「おーおー!どれ、ちょいと見せてみな!」
セツヒトさんが、鍛冶屋のおじさんに礼を言いに行った。
仲良く談笑している。
というより、武器話で最高に盛り上がっていらっしゃる。
……やはり共通の趣味……いや、生業を持つ者同士、通じ合うものがあるのだろう。
新しく手に入った双剣。
作成、加工に必要な素材をアイテム一覧から探してみたところ、ほとんどのものは揃っていた。
ただ、足りない素材が一つあった。
ベリオロスの鋭爪である。
そんな訳で、クエストボードに張り付いて、ベリオロスの素材を手に入れるためのクエスト探し。
無事にベリオロスを討伐したのはその次の日。
運良くクエストが見つかって良かった。
素材も手に入ったし。
ハイビスさんに言って、預けている素材を必要な分だけもらう。
そのままセツヒトさんが職人さんと交渉しているところに直行したのである。
鍛冶場のおやっさんは、快く場所を貸してくれた。
もちろん謝礼はするが、それ以上にセツヒトさんの腕をその目で見てみたいという。
「あのセツヒトが武器作成に加工たぁ……驚いたぜ!」
「ちょっと、見られるの恥ずかしいですからー……お手柔らかにねー?」
「なーにを言ってんだ!こちとらおめぇが下位の時から見てきたんだぞ!?はずかしがる仲でもあるめぇ!」
「だからだよー……もー……。」
恥ずかしがるセツヒトさん。
不覚にも、可愛かった。
ギャップとは、かくも恐ろしき。
おやっさんとセツヒトさんは、ハンターになってすぐの頃からの知り合いらしい。
やたら話がスムーズに進むと思った。
「ウルクススの突進に、ひいこら言ってたあのセツヒトが、あれよあれよと伝説なんてなぁ……嬉しいやら悲しいやら。」
「はーずーかーしーいー!」
「おっ!?何だおめぇ!照れてんのか!?すかしてすました態度もいいけどなぁ!そっちの方が俺に取っちゃセツヒトだってんだ!ハッハッハッハ!」
「もー……。」
何だこのセツヒトさん。
タジタジである。
か、可愛いぞ?
…………こういうのを萌えって言うのか!?
…………いや、しらんけど。
と、とにかく……セツヒトさんが無事剣を打てるということで、ありがたくもそれを待つことになった。
2日で仕上げるというから、驚きである。
翌々日、双剣ベルゲルブリザードは無事完成。
命名に一悶着あったようだが、俺の新しい双剣が完成した。
「いやー、つっかれたー。」
「おつかれ様です……今日はもうお休みください。」
「うん、そーするー……ソウジー。」
「はい?」
いつも以上に眠たげな目。
セツヒトさん、頑張ってくれたんだな。
「……ジンオウガ、絶対倒そうねー。」
「……はい!」
ここまで頑張ってくれたのだ。
これに応えなきゃ、男がすたる。
セツヒトさんを宿に送ると、セツヒトさんは倒れ込むように寝てしまった。
俺の剣のために、頑張ってくれたのだと思うと、感謝しかない。
……頑張んなきゃな。
俺はおもむろにログハウスの外に出て、新しい双剣の素振りを始めた。
セツヒトさんの思いに報いるために。
精一杯、頑張ろうと思う。
* * * * * *
そこから一ヶ月ほど。
再びクエスト漬けの毎日が再開。
ゴシャハギさんを討伐したとはいえ、俺はまだまだ未熟。
目下の目標は、空中回転乱舞の精度を上げることと、回避である。
セツヒトさんに一定の評価はもらっているものの、モンスター相手の回避は俺の生命線。
鍛えていきたい。
回避と言っても、避ければいいってもんでもない。
モンスターの挙動を読んで、次の手につながるように行う必要がある。
これを意識するかしないかで、狩りの時間がガラリと変わる。
つまりは、効率化を目指せるのだ。
命を取るのに効率とか、そんな考えはどうかと思うが。
村やその周辺の人達の生活を守るために、割り切るしかない。
空中回転乱舞も、通常の攻撃よりも強く手数も多いので、効率が良いといえば良い。
しかし、体力が減るわ減るわ。
鍛え続けていて良かったと実感した。
おかげで、一応疲れ果ててリタイア、という事は一度もなかった。
コツコツランニングをしてきてよかった。
これからも続けよう。
ちなみに空中回転乱舞を、一度憑依状態で行ったあと、真似をしてもう一度、という荒業も試してみた。
大型を相手に。
だが、あまりに術後のスキが大きく、非常に危険であることがわかった。
予想の範疇であったが、実戦向きとは言えない。
「ソウジー。その憑依状態ってのー?それは、最後の切り札にしたほうがいいねー。」
「ですよね……。」
セツヒトさんからもストップがかかったので、やめておこう。
ディノバルドに使ったときも、あっちが偶然ダウンしたから良かったようなものだ。
手痛い反撃を喰らうのは、目に見えている。
……そういえばあの時、ディノバルドの攻撃を受けながらも反撃することができたなぁ。
「セツヒトさん。」
「せっちゃんー。」
「せ、せっちゃんさん……俺、以前ディノバルドと対峙したとき、空中回転乱舞で攻撃を避けられたんですけど……何でですかね?」
「おー?どゆことー?」
「えーっと……こう、無我夢中で憑依状態で空中回転乱舞を行ったら……なんて言うか、攻撃をいなしながら?反撃できたんです。」
「ふんふん。」
「よくわからないんですけど……その時なぜかできたんですよね……。」
「…………んー。」
セツヒトさんが、いつもの考えるポーズをとる。
回答を待とう。
「…………ジャスト回避……ってのがあるんだけど……それに近いのかなぁ……いやでも、反撃できたってのがなー……。」
「…………。」
「…………ちょっち、考えてみるー。」
「わ、分かりました。でもそこまで考えてくださらなくてもいいですよ?そもそもできるかどうかも分かりませんし。」
「りょー。」
その時は、ここまでで終わった。
まさかこの思いつきのような技が、俺の切り札になるとは。
このときは予想していなかったんだけど。
* * * * * *
更に一ヶ月。
クエスト漬けの毎日。
モンスターの動きも雪山の移動にも慣れ、攻撃を食らうことも少なくなってきた。
雪山も徐々に日が長くなり、もうしばらくすれば雪解けが始まるという。
ワサドラに帰る日も近い。
……だが。
「ハイビスさん、現れませんか?」
「そうですね……いつもならもう出現してもおかしくないらしいんですけど……。」
「そうですか……あの時は偶然襲われただけ、だったんですかね。」
「タオカカ西部で一体、氷海で一体、討伐記録があります。もしかしたら倒されているのかもしれませんね……。」
「あー……。」
ヤツが、なかなか現れない。
そう、今回の俺の最終目標である、雷狼竜。
ジンオウガである。
「あの時の個体にこだわっているわけではないんですけどね。」
「私としては、出てくれない方が安心なんですけどね……いや、ソウジさんの腕を信用していないというわけではありませんよ?」
「ええ、大丈夫です。でも、準備を重ねてきましたし……もしジンオウガ関連の話があったら、また教えて下さい。」
「はい。承知しました。」
「では、行ってきます。」
「はい、ご武運を!」
クエストに向かう前にハイビスさんに逐一確認しては、溜息を吐く毎日。
いや、相手にしなくていいんならそれはそれで安心なのだけど。
ここに来る道中、タオカカの目前というところで襲来したジンオウガ。
奴への恐怖はまだ拭えない。
セツヒトさんに現状を報告する。
「セ……せっちゃんさん。今日も無いみたいです。」
「まじかー。……んー、まぁこういう年も無くは無かったしなー。」
「そうなんですか?」
「うん。だって、近隣に2体は出てきているんでしょー?まーあの時の個体はやられちゃったんじゃなーい?」
「あー……。」
確かに。
タオカカで倒されたというジンオウガが、そいつである可能性は高い。
「まーそれにさー。あんな厄介で強いやつ、出ない方がいいよねー……ソウジの目標にしてた私が言うのもなんだけどー。」
「……それもそうですね。」
「……よーし、それじゃ、氷海に行こうかー。」
「はい、そうしましょう。」
今日の相手はザボアザギル。
氷の海に潜って攻撃してくるという、でかいサメみたいななやつである。
どうやってやっているのかも分からないが、ヨツミワドウよろしく、自身の形態を変化させて攻撃することもある。
ブヨブヨのブックブクに膨らむ姿は、少し面白い。
「前みたいに、奴の真下に居座らないようにしてねー?ソウジー。」
「が、合点承知です。」
以前も狩ったことのある、このモンスター。
初めての際は、氷の下から突き上げる攻撃を食らってしまった。
双剣で攻撃を防いだとはいえ、中々の衝撃だった。
高く突き上げられたときは、心底驚いたものだ。
まぁその落ちる勢いを利用して斬り刻んでやったけど。
「……ソウジの成長には、ほんとに驚かされるよー……。(ボソリ)」
「え?なんか言いました?」
「んーん。こっちの話ー。さー、れっつごー。」
よくわからないが、まぁいいか。
2回目とはいえ、油断しないようにしないとな。
慣れた頃が一番危ないっていうし。
俺はハイビスさんに再度挨拶をすると、セツヒトさんについていった。
* * * * * *
「いるねー、ザボアザギル。」
「はい、いますね……。」
「いつも通りソウジにやってもらおうかと思ったけど……どーするー?」
「うーん……あの状況じゃ……。」
「……そーだねー。」
二人にしか聞こえない位の声で話す。
2百メートル程先に見えるのは、今回の標的ザボアザギル。
平べったいサメのようなフォルムなのに、四本脚で吠えている。
そこまでは前回と一緒。
偶然狩り場も同じ。
それはいい。
だが。
「……あの子……何やってんのー?ここ上位の狩り場だよねー?」
「えーっと……ハンズさん、でしたね……。」
「うん……一人でやってるのはまぁいいとしてー……。」
「…………。」
「…………うわっ、危なー。」
「そうですね……。」
前回と違う点。
それは、いつかの飲み会でお話した女性ハンター、ハンズさんがいたことだ。
でかい刀を構え、ザボアザギルと対峙している。
そこはまぁいい。
問題は、その理由である。
クエスト被り……ということは考えにくい。
ミヨシに来た当初はそうしたこともままあったが、ハイビスさんを始めとしたヘルプの人材が増えたことで、解消されたと聞く。
だがその可能性も捨てきれない……。
「ソウジー、ハンズって子で、間違いないー?」
「はい……傷は多少ありますが……しっかり立っていますね。……動きも軽やかです。」
「そっかー。」
「あれは、太刀、ですよね?」
「うん、多分ねー。……ソウジ、よく見えるねー。」
「あ、はい。目はいい方……みたいです。」
「私よりいい人あんまりいないんだけどー……あっ。」
「あっ。」
ザボアザギルの動きが突如として変わった。
飛び上がったかと思うと、氷の下に潜り込んだのだ。
背ビレだけ出してハンズさんを追う姿は、完全に映画のアレである。
「うまく逃げてるねー……救援信号は出そう?」
「そんな様子は無さそうですね……どうしましょうか。」
こちらの標的は、まずあそこにいるザボアザギルで間違いない。
俺のギフトのマップに、それ以外は見当たらないからだ。
だがここで変にしゃしゃり出て共闘したとして。
ちょっと厄介なことになる。
まず万が一にもクエスト被りだった場合。
ハンターの一人頭の分け前は、当たり前ながら減る。
それを良しとしないハンターは大勢いる。
まぁギルドが悪いならその補償はどこかで行われるのだが、こちらに責を問われたら、たまったものではない。
だが、単なる遭遇だった場合。
これは直ちに助けに行かねばなるまい。
予期せぬモンスターの襲来など、準備もない中対応するわけだから、危険である。
信号弾で救援を出したら、すぐに駆けつけられるのだが……。
今の所それはない。
…………わからん!どっちだ!?
「…………セツヒトさん。」
「…………うん。…………どーする?」
「…………行きましょう!仮にギルドのクエスト被りであったとしても、セツヒトさんのファンであるハンズさんなら、大事にはならないでしょう。」
「うーん、そうねー。打算的だけど、ウチら悪くないし……いこっかー。」
「はい!」
ジャキン!
双剣を構える。
セツヒトさんは納刀のまま。
どうせ臨戦態勢なのだから、見つかるかどうかなどどうでもいい。
むしろ見つかって、こっちに気を引いた方がいい。
氷と雪の地面を、全力で走る。
慣れた物だ。おそらく村についた当初だったら、すっ転んでいた。
雪質は硬め。ほぼ氷。
滑りやすいが、もはや滑ったらそのまま進む勢いで走った。
ザボアザギルはこちらに気づく様子もなく、ハンズさんの方を見てる。
背中を見せた。
チャンス!
残り数メートルというところで、更に加速。
バッ!!
俺は勢いをつけて跳躍して。
(…………ここっ!!)
刃を引っ掛けるように、空中回転乱舞を繰り出した。
ザシュ!ザザザザン!!
ズバッ!!
重力に身を任せつつ、落下の勢いで追撃。
「ギャァァァ!」
完全に不意をつかれたザボアザギルは、そのまますっ転んだ。
本来ならここが攻め時。
だが、今回は事情が違う。
「ハンズさん!」
「そ、ソウジさん!?それにセツヒト様!?」
「やほー……てゆーか、様って。」
余裕はない。
ジタバタもがくザボアザギルを横目に、話を進める。
「すみません!私達はザボアザギルの討伐クエストを受けてきました!ハンズさんは!?」
「わ、私、このモンスターではないです!」
「え!?」
「違うクエストで帰還途中に襲われて……パーティーメンバーもいつの間にかいなくて……。」
「…………。」
遭遇パターンであった。
しかも、割と最悪の。
「あー……置いてかれたー?」
「うっ…………。」
ストレートに聞いちゃうセツヒトさん。
心理的なダメージを受けて、気まずそうなハンズさん。
とにかくこれ以上は時間がない。
仕切り直そう。
「一旦離脱します!セツヒトさん!」
「せっちゃんだってー……ハンズ?だっけ?こっちおいでー。」
「わ、わわわ!」
腕を引っ張られ、後退するハンズさん。
状況がつかめないのか、困惑している様子。
まぁそんなことはどうでもいいか。
まずはこいつを足止めだ。
(シビレ罠……!)
ザボアザギルのもがく横にすぐさま罠を設置。
俺も一目散費離脱する。
また後でな、ザボアザギル。
ここは一旦……。
「痺れておいてくれ。」
バチッ!!バチバチバチ!!
「ギャ!ッギャァァァ……!!」
おー苦しそう苦しそう。
だがかまってはいられない。
「よしっ。」
そう言いながら。
俺も戦線を離脱した。
* * * * * *
「はあっ……はあっ……!」
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい……危ないところを……ありがとうございました……。」
とりあえず俺たちは、風の少ない洞窟の中に避難してきた。
ハンズさんは、息も絶え絶えである。
まだ余裕のある俺達とは違って、先程まで一人で大型を相手にしていたのだ。
それにさっきのザボアザギルは、大きさからしておそらくは上位個体。
ハンズさんは下位ハンターである。
無理もない。
以前集会所でお会いした時の明るいイメージは、鳴りを潜めている。
似合っていたブラウンのボブカットは、めちゃくちゃになっていた。
「ハンズさん、事情をお伺いしても大丈夫ですか?」
「は、はい……。」
「そーそー。なんで仲間に見捨てられたのー?」
「うっ……。」
「せっちゃんさん、ストレートすぎます。」
何か事情があるのかもしれない。
どんな事情かは知らないが。
「実は……。」
ハンズさんが髪を整えながら話を始めた。
まずハンズさんは、以前の宴会でとあるハンター二人組の男女と意気投合した。
何度かクエストに行ったという。
「その……初めは良かったんですけど……お二人が何と言いますか……仲良くなられまして。」
「……仲良くっていうのは……?」
「……その……男女の仲に。」
「わー。あるあるー。」
セツヒトさんが大きく頷く。
あるあるなんだな。
クエストの同行を男性に頼まれ、断れない人のいいハンズさん。
それをよく思わないながらも、表面では仲良く接してくれたという女性。
……うわー。女って……。
「それで気まずくなって……これが最後のクエストかなーって思っていたんですけど……。」
「運悪く、ザボアザギルに襲われてしまった、と。」
「はい……。」
突如として現れたザボアザギルに、恋人ハンターたちはパニック。
結果、ハンズさんを置いていった……のかも知れない。
「せっちゃんさん、これって……。」
「うん、わからないねー。その二人の言い分も聞かないとだしー?……まぁなんとなく察しはつくけどー。」
「……。」
うん。
多分二人で助かろうとして置いて行ったパターンだろう。
……一番可哀想なのはハンズさんである。
その二人から救援要請が出ているかも知れないが、見捨てられたことに変わりはないわけで。
「……お二人とも、本当にありがとうございました。とにかく……村に戻って、無事を報告します。」
「また何かと遭ったらどうすんのー?」
「その時は……もう、そういう命だったと諦めます……。」
「いやいやいやいや。」
自暴自棄になっていらっしゃる。
……放っておけないよな。
「ハンズさん。」
「はい?」
「俺たちこれからザボアザギルを倒すんですが……見に来ますか?」
「え?」
「身の安全は保証し兼ねますし……もしよかったら、ですけど。」
ポカンとしている不幸なハンズさんを見ながら。
変な提案をする俺であった。