モンハン世界に成り行きで転生した中身おっさん   作:びびんば

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99人間関係の難しさと紳士らしさについて考えましょう。

「ソウジー!潜るよー!」

「はい!」

 

 

バキバキッ!

ズボッ。

 

 

氷の下に潜ったザボアザギルが、背ビレだけを出す。

隠せばいいのに……おかげで位置は丸わかりである。

まぁ出している方が逆に恐怖を煽っていいのかもしれない。

 

氷の下を、恐ろしい速さで進むザボアザギル。

標的は……。

 

 

「……!ハンズさん!」

「は、はい!!」

 

 

言われてすぐ横にすっ転ぶハンズさん。

見事な緊急回避。

 

 

バキバキッ!

バゴォン!!

 

 

「ギャォォォ!!」

 

 

直後、氷の下から垂直に飛び出すザボアザギル。

 

 

「ひっ……!」

「落ち着いて!後退!」

「は、はい!」

「こっちは任せてー。」

 

 

逃げるハンズさんをかばうように前に出たセツヒトさん。

ザボアザギルの顎が、セツヒトさんを襲う。

 

だが……。

 

 

「よっ……。」

 

 

何の力みもなく、それを下に避けるセツヒトさん。

 

 

(ジャスト回避……?いや、ただ避けただけか?)

 

 

違いはわからない。

だが数ミリレベルの世界で攻撃を避けたセツヒトさんは、双剣を斬り上げた。

 

 

ザン!

 

 

「ギャァァァ!」

 

 

すげぇ……パワーが違う。

一撃でこれかよ。

 

セツヒトさんは、堪らず後退するザボアザギルに追撃を行っていく。

 

 

「うらっ!よっ……。」

 

 

ザン!ザザン!

 

 

「ハンズさん!こっち!」

「はいっ!」

 

 

俺は安全な場所にハンズさんを誘導。

距離を離しすぎると庇いきれないし、かと言って近づきすぎると手痛い攻撃を食らう。

 

付かず離れずの位置でいること。

ハンズさんはその約束を、きっちり守っていた。

 

 

「怪我はないですか?」

「は、はい!大丈夫です!」

「良かった……一応、これ回復薬です……あと、これも。」

「えっ?」

 

 

ポーチから回復薬グレートと信号弾を取り出す。

 

 

「し、信号弾ですか?」

「はい。……多分、もうすぐ終わります。……それでは、行ってきますので。」

「えっ?えっ!?」

 

 

戸惑うハンズさんを置いて、セツヒトさんの加勢に向かう。

 

 

「ソウジー!背中ガラ空きー!」

「はいっ!」

 

 

合図と共に、俺は跳躍。

背中を切り刻みながら、空中回転乱舞をお見舞いする。

 

 

ザシュ!ザザン!ザザザザン!

 

 

「おー!いいねー!」

「まだまだ……っ!」

 

 

着地してなお、攻撃をやめない。

続けて回転乱舞を食らわす。

 

ようやくこちらを向くザボアザギル。

 

だが、それは悪手だ。

 

 

「―――終わりだよ。」

 

 

ザン!

 

 

「ギャァァァ…………。」

 

 

ズゥン。

 

 

セツヒトさんが終の一撃を食らわす。

……俺で仕留め切れると思ったのだが、ちょっと足りなかったな……。

 

 

「んー……私も入ると、早いねー。」

「そうですね。」

 

 

基本、俺の狩猟はソロ。

セツヒトさんはバックアップ。

二人で共闘する機会は、実はここまであまりなかった。

 

それでも、中々いいチームワークだったと思う。

 

 

「時間はー?」

「多分昼過ぎです……結構早いんじゃないですか?」

「よーし。無事いっちょあがりー。……ハンズー?信号弾いーい?」

「は、はーい!」

 

 

セツヒトさんの声を聞いて、慌てて信号弾をセットするハンズさん。

モタモタしながらも、数秒後に信号弾が上がった。

 

 

「お二人共……大変勉強になりました!」

「怪我とかはないですか?」

「はい!というか狩猟中も気を遣って頂いて……ありがとうございました。」

「いやいや。無事で良かったです。」

 

 

始めは遠巻きに見ておく予定だった。

セツヒトさんが「ハンターの勉強になるから」と、中距離での共闘を提案した。

「勉強」というのは、ハンズさんばかりではない。

俺も勉強になった。

 

モンスターにもハンズさんにもセツヒトさんにも目を向けつつ、動く。

結構疲れた。

それぐらいには、勉強になった。

 

 

「ハンズー。私達の見てー、どうだったー?」

「えっ……はい。そうですね……。」

 

 

相変わらず主語が抜けたセツヒト語。

だが、ハンズさんはしっかり解読して答える。

 

 

「セツヒトさんは、とにかくすごかったとしか……。一撃一撃が、とても双剣とは思えませんでした。モンスターもセツヒトさんに集中せざるを得なかったと思います。」

「ふんふん。」

「ソウジさんは、セツヒトさんには確かに一撃は劣りますが……私もセツヒトさんもモンスターも見ながら、指示を丁寧に出されてました。あんなの、私にはまだ無理です。的確で、分かりやすかったです。」

「そ、それはどうも、ありがとうございます。」

「いやいや!私の言葉なんて……。勉強になりました。」

 

 

ハンズさんも、しっかり振り返りができていると思う。

これが出来るかどうかは、大きいよな。

評価をきちんと下すからこそ、改善点や成果が分かるというものだ。

 

 

「ソウジはー?」

 

 

セツヒトさんが俺にも振ってきた。

 

 

「そうですね……まず、セツヒトさん。……手、抜いてましたね?」

「えっ!?」

 

 

ハンズさんの驚きの声。

まぁ普通はわからないよな。

 

 

「おー。分かったー?」

「そりゃもう。何回一緒にクエスト行ったと思ってるんですか。」

「セツヒトさんは本気じゃなかった……。」

 

 

目を丸くするハンズさん。

 

 

「多分、半分も力、出してないんじゃないですかね。」

「は、半分!?」

「そーねー。そんぐらいー。」

「わぁ……。」

 

 

驚きの目から羨望の眼差しに変わるハンズさん。

すごいよなぁ……俺懸命に動いたんだけど。

 

 

「俺の勉強のため、ですよね?」

「…………つまりー?」

「奔放に動く前衛。守るべき対象。それらをしっかり見ながらも、モンスターを相手取る。その、勉強になりました。凄く。」

「おー、100点満点ー。……しっかり学べたみたいだねー。」

「はい。」

 

 

セツヒトさんは、明らかに自由に動きすぎていた。

手も抜いていたし。

この結論を導くのは、そこまで難しくはない。

 

 

「…………護衛する対象を抱えてなお、全力を出すって……なかなか難しいんだよねー。いや、ハンズもよく避けてたよー?でも、その辺の視野も後々大切になるからさー。いい勉強に、なったでしょー?二人共。」

「はい。」

「は、はい!」

 

 

ザボアザギルには失礼だが、たいへん勉強になった。

亡骸に、礼を言わせてもらおう。

 

 

…………。

 

 

そのまま俺たちは、ギルドへの帰路についた。

道中ハンズさんと色々話したが、まずは置いていかれた件について、話し合うべきだと伝えた。

それはハンズさんも分かっていたようで、頷いていた。

 

 

「俺たち、同席しましょうか?」

「いえ……元から今回がパーティの最後のつもりでしたので、3人で話し合ってみます。」

「りょー。」

「分かりました。」

 

 

それ以上俺たちは、特に突っ込まないことにした。

 

 

* * * * * *

 

 

ギルドに着いたのは、夕方にもなりきらない時分。

 

日が長くなってきた。

山あいのこの村にも、少しずつ日が当たる時間が伸びている。

春も近いと実感。

 

ハンズさんとは、ギルド前で別れた。

最後まで、何度も礼を言われ、気恥ずかしかった。

報酬については、ハンズさんが頑なに固辞。

なので、俺たちでもらうことに。

申し訳ないので、多少は素材を分配させてもらうことにしよう。

 

 

「ソウジさん!セツヒトさん!」

「戻りました……色々ありまして。」

「はい、こちらも把握しておりますが……ハンズさんはご一緒されては……。」

「あ、クエスト処理は俺たちでやります。ハンズさんには先にパーティーメンバーのところに……えっと、無事を伝えに。」

「あ、なるほど……。ご無事なんですよね?」

「はい。全員無事です。」

 

 

ハイビスさんに報告しておく。

ハンズさんたちの事情については、知る限りを話す。

と言っても、真実は知らない。

見たり聞いたりした情報だけ。

 

 

「ザボアザギルの狩猟、お疲れさまでした。」

 

 

ハイビスさんから聞いた話では、そのカップル二人はギルドに駆け込んできて、すぐに救援要請を出したらしい。

だが、観測班からの報告で俺たちが既に救援に入ったことが判明。

ザボアザギルが狩猟対象としてクエスト登録されていたこともあり、救援要請がそのまま俺たちのクエストに紐づいた。

 

カップルは二人とも下位ハンター。

逃げ出してしまうのはしょうがないとしても……。

 

 

「事前に打ち合わせもなし、ハンズが『囮になる』って言ったわけでもなし……。和解は無理かもねー。」

「……難しいですかね。」

「そりゃそうでしょー。……しょうがないとはいえ、自分を見捨てた人たちと、ソウジはもう一回手を組めるー?」

「んー……。」

 

 

まぁ、無理かなぁ……。

すごく難しい話だと思った。

 

ソロはソロで大変だけど、パーティー組むのも大変なんだなぁ……。

とりあえずクエスト完了報告を済ませた俺たちは、ログハウスに帰ることにした。

 

 

* * * * * *

 

 

「ただいま帰りました。」

「あ、おかえりー、ハイビスちゃーん。」

「おかえりなさい。夕飯できてますよ。」

「あ、ありがとうございます……。お二人とも狩猟でお疲れですのに……。」

「いえいえ、今日は楽な方でしたし……。」

 

 

バサッ。

 

 

「……料理も、テイクアウトです。」

「ごめんねー、先に食べちゃったー。」

「いいえ、助かります!用意をしてきますね!」

 

 

パタパタ。

 

 

バタン。

 

 

机の上の料理を確認しつつ、自室に戻るハイビスさん。

今日も遅くまで、お疲れさまです。

 

基本、ハイビスさんが朝夕ともにご飯を作ってくれている。

俺たちはそれに甘えていたのだが、ハイビスさんはかなりの激務。

しかし、俺もセツヒトさんも、作れるのは男飯。

……いや、言い換えよう。

材料の無駄。そして味も……まぁお察しレベルだ。

 

なのでこうやって、ハイビスさんの帰りが遅くなりそうな時は、テイクアウトで済ませることにしている。

夕飯は7割方、こうだ。

最近はハイビスさんも多忙を極めており、ほぼ毎食テイクアウト。

近場の酒屋にお願いして、夕飯を詰めて持ち帰るのだ。

 

栄養が偏らないようメニューは選んでいるが……店の味には、正直飽きが来てしまった。

ハイビスさんの手料理も望めぬ今、死ぬほどドールの飯が恋しい。

というかワサドラの飯が恋しい。

 

俺が持ってきたイシザキ亭の飯は……いわば秘密兵器である。

帰りの道中、美味しくいただきたい。

 

 

「……ワサドラのご飯が恋しいねー。」

「雪山育ちのセツヒ……せっちゃんさんもそうですか?」

「うーん、何だろうねー。ワサドラで舌が肥えちゃったんだろうねー。」

「あー。」

 

 

異世界に来てからこっち、ご飯がまずいと思ったことがない。

これはすごいことだと思う。

前世、日本から海外に出張などをした仕事仲間からは、ご飯が一番たいへんな問題だったと聞いた。

ひどいやつなんか、毎食胃薬を服用していたとか。

 

……そういう事態になったことがないわけだから、こちらの食事レベルは異様に高い。

この雪に囲まれたミヨシ村であっても、それは同じ。

だが、味の良さと料理のレパートリーは、ワサドラに軍配が上がる。

 

 

「……ワサドラのご飯が、恋しいですね……。」

「ねー。」

 

 

フォローするわけではないが、ハイビスさんの朝食、夕飯も中々美味である。

多分、材料とかそういう問題だろうな。

 

……いかん、話していたら無性にワサドラが恋しくなってきたぞ。

 

 

バタン。

 

 

パタパタ。

 

 

「お待たせしました……わぁ、ありがとうございます。用意までしていただいて。」

「どうぞ、お茶です。」

「もう……すみません。最近遅くて……。」

「気にしないでください。」

「ハイビスちゃん、最近忙しいねー。もしかしてー、引き継ぎー?」

 

 

セツヒトさんがハイビスさんに尋ねる。

部屋着でリラックスしているセツヒトさん。

お気に入りのパジャマの薄茶色の七分丈を、今日も上下身につけている。

……寒くないのか。

 

 

「はい……いただきます……モグモグ……うんっ、おいしい……。えーっと、そろそろハンターさんたちの冬季の逗留も終わりが近づいてますし、引き継ぎの他にも、業務の締め作業に、他ギルドへの連絡に……まぁ色々ですね。」

「あー、なるほどねー。そりゃ大変だー。」

 

 

なるほど、引き継ぎとはそういうことか。

ゴクンとご飯を飲み込んでから、ハイビスさんが続ける。

 

 

「私達もそろそろ、ワサドラへの帰還の時期を考えた方がいいかもしれませんね。」

「そーねー。……モンスターの出現数はー?」

「例年よりも……モグモグ……ゴクン。……早いです。大型の餌となるモンスターの移動が始まりだしたと、夕方の連絡で判明しました。」

「あー、もうかー。……こりゃージンオウガも出てこないかなー。」

「…………。」

 

 

そうか、大型もそろそろいなくなる時期か……。

 

小型が減れば、当然それを捕食する大型もいなくなる。

餌が少なくなれば、待っているのはその餌を巡る大型同士の衝突。

モンスターも、無謀なことはしない。

より強いモンスターだけが残り、より弱いモンスターは移動を始める。

 

……ミヨシを含めた雪山周辺に、そろそろ春がやってくるんだな。

 

 

「雪崩の報告も上がっています。そこまでの規模では無いですが。」

「雪崩。」

「はい。とは言っても、人の生息圏の話ではないですが……モグモグ。」

 

 

話しながら器用に食事を進めるハイビスさん。

小動物のように小さく、しかしモリモリ食べている。

 

……受付嬢の性だろうな……飯食ってるときも仕事しているイメージ。

 

 

「…………ちょっとー、二人にお願いがあるんだけどさー。」

「どうしました?」

 

 

セツヒトさんが、寝転んでいたソファーから身を起こす。

あぐらを掻いて、頭をポリポリしている。

……何か……照れている?

 

 

「…………家族に会いに行ってきてもいーい?」

「「へ?」」

「いやー、だからねー?」

 

 

セツヒトさんの話。

 

要約すると、アヤ村に顔を出したいとのことだった。

せっかく近くにいるんだし、それ自体は何の問題もない……と思う。

照れてお願いするセツヒトさんなんか初めて見るし、遠方に住む家族なんてなかなか会えないのだから。

むしろ会いに行ってきて欲しいぐらいだ。

 

 

「ご家族に会いに行かれるんですね。……私はいいと思いますよ?せっかく近くに来たんですから……ソウジさんはどうですか?モグモグ。」

「反対する理由なんて……特に無いですけど。」

「おー?マジでー?ホントにいいのー?」

「「?」」

 

 

改めて聞き返してくるセツヒトさん。

俺とハイビスさんは、頭にクエスチョンマーク。

 

 

「何かまずいですかね……あ、俺のソロのクエストですか?」

「いやー、それは全然心配してないよー。行くのも二日ぐらいだしー、ソウジなら無茶しなきゃ平気だよー。大型のクエストも減ってきているしー、ソウジの腕は保証するってー。」

「それじゃ何が……。」

 

 

更に首を傾げる俺。

ハイビスさんはご飯を食べ終わり、お茶を啜っている。

……食べるの早いな!

 

 

「だからー、2日はここを空けるけどー……二人っきりだよー?」

「…………。」

「ブーーー!!!」

 

 

何を言い出すんだセツヒトさん。

 

 

「な、何を言い出すんですかセツヒトさん!?」

 

 

お、ハイビスさんも同じ意見。

吹き出したお茶をキレイにしながら話すハイビスさんの能力の高さ。

吹き出し慣れし過ぎではなかろうか。

 

 

「だからー、今まではほらー、3人でいたでしょー?それが若い2人になったらー……ねー?」

「ね、ねー?じゃありません!」

 

 

うーん。

確かに今日まで3人で過ごしてきた。

例えば明日からさぁ、ハイビスさんと二人だ!と言われたら。

…………お?……何か……イケない気がしてきたぞ!?

 

 

「若いって、セツヒトさんも殆ど年変わらなかったですよね!?」

「あー、それオフレコー。」

「あ、す、すみません……じゃなくて!」

 

 

……セツヒトさんとハイビスさん年変わらないの!?

そっちの方が衝撃!!

 

 

「大体!セツヒトさんとソウジさんも狩猟中二人っきりですよね!?」

「いやー、モンスター狩るときにそんな気分にはならないってー。……うん、ならないよねー?」

「何で俺に聞くんですか!?」

「いやー、ソウジはどうなのかなーっと。狩り中に気持ちが盛り上がる人種もいるのさー。」

「そんな特殊な方々と一緒にしないでください。」

 

 

生存本能が刺激されるとムラムラするような話を、どこかで聞いた気がするが……。

俺はむしろシュンってなるタイプである。

 

 

「せっちゃんさん、安心してください。まさかいない間に俺が襲うとでも?」

「お、襲う……。」

 

 

顔真っ赤にしてうつむかんといて下さい、ハイビスさん。

ちくしょう、可愛い。

 

 

「……だってソウジさー、ハイビスちゃんに鼻の下伸ばしたことあるでしょー?」

「うぇっ!?」

「えっ!?」

 

 

な、なぜわかる!?

そしてハイビスさん!聞かないで!耳塞いで!!

 

 

「いつだったかなー……確かタオカカに怪我しながら着いたときー、腕掴まれてデレデレしてたじゃーん。」

「んなっ……。」

「あ、あの時……。」

 

 

思い出す。

デレデレなんて……していた、かなぁ。

 

……していたなぁ……。

 

 

「そ、それでもですね。」

「デレデレは認めるー?」

「み、認めます!それはもう、俺も男ですし。けどですね、それとこれとは話が違うと言いますか……そんな俺が襲うような男に見えますか!?」

「「……。」」

「なぜ二人とも黙る!?」

 

 

見えるのか!?俺が襲っちゃうような輩に見えるのか!?

激しく心外なんですけど!?

 

 

「いや、ソウジさんはしませんね……。」

「むしろしないことが問題なんだよねー……。」

「二人とも?何の話してます?」

「……ハイビスちゃん、こうなったらアレだよー……むしろ、頑張ってー?」

「……ですね……少しでもこう、目を向かせるだけでも……。」

「そーそー、それだけでもめっけもんだよこの狩猟対象はさー。」

「もしもーし?二人ともー?」

 

 

二人して、壁に向かってヒソヒソ話を始めないでほしい。

あれか!?俺が襲っちゃうような輩ってことで、その対策を練っているのか!?

 

 

「よーし。がんばってーハイビスちゃーん。」

「わ、わかりました……!……自信はありませんが!精一杯、やってみます!」

「上手くいったら私もがんばるー。」

「わかりま……え!?セツヒトさんも!?」

「い、いやー、ここまで何にもないとさー……焦るよねー。」

「あー……。」

 

 

よく分からんが、ひそひそ話がヒートアップしている。

いつの間にか蚊帳の外の俺。

 

……俺に襲われないように、セツヒトさんがハイビスさんに対策を教えたのだろうか。

だとしたら、「問題ない!」と言わせてもらおう。

 

俺は、何せ中身おっさん。

紳士であるからして。

 

……セツヒトさん数日居ないのか……。

……いかんいかん、やらしいことを考えるな!紳士!紳士だソウジ!!

 

 

* * * * * *

 

 

善は急げ、ということで。

 

次の日の朝、セツヒトさんはアヤ村に旅立った。

朝食も食べずに。

明後日には戻るらしい。

 

手を振って、セツヒトさんを見送る。

 

 

「気をつけて行ってきてくださいねー!」

「はーい!……ハイビスちゃーん!がんばってねー!」

「は、はーい!がんばりますからー!セツヒトさんも、お気をつけてー!」

 

 

本人の前でなんて失礼な方々だろう。

ジェントルメンの俺に、そんな心配をしないでほしい。

 

 

「…………そ、ソウジさん!!」

「は、はい!」

 

 

セツヒトさんが見えなくなるまで手を振った後、ハイビスさんが話しかけてきた。

……やたらと気合が入っている。

 

 

「きょ、今日と明日!よろしくお願いしますね!」

「わ、わかりました!」

 

 

……何をよろしくすればいいのか!

……むしろ、よろしくしちゃいけないんじゃないのか!?

 

あーもう頭がこんがらがってきた。

 

 

「と、とにかく、朝ごはん、食べましょうか!」

「そ、そうですね!」

 

 

訳のわからぬハイテンションのまま。

 

俺は味のしない朝食を掻き込むことにしたのだった。

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