五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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今回で林間学校編は終わりです。

かなり短い上に意図が丸見えとなってますが、どうぞよろしく。



奏ニの秘密
 食べやすいからきのこ派。


第10話 信頼 そして……

「見つけた」

 その一言と共にフードが取られ、私はその顔をあらわにした。

 

「お前は目が悪いから、眼鏡がないと見にくいだろ。

 

 悪いな、大事にしちまって……言い出しづらかったろ」

 

 一花として私を探すために上杉君とリフトに乗った私は、誘導尋問に引っかかったのだ。

 

……だが、彼はその前から答えに行きついていて、それを確かめるためにあんな事をしたのだと思う。

「……い、いつから」

 

 そう思って聞くと、上杉君は赤い顔で。

 

 

 

「気づいたのはさっきからだが……きっかけはあの時だ。

 

 一花は俺を名前で呼ぶ。

 

 いくら俺でも、それくらいはお前らを知ってるさ」

「あ……」

 彼が勢いを殺せずに転んだ時、一花の真似をしていた私だったが咄嗟に「上杉君」と言ってしまっていた。

 

 気にしていないと思っていたが、それが私に行き着くヒントになったようだ。

 

 

 

 

「……すみませんでした……私、確かめたくって……」

 試すような事をして、町谷君の信頼を裏切り、姉達を心配させて……情けない事この上ない。

 

 何を言われるかは分からないし、怖いけど……今の私にそれを聞かない選択肢はない。

 

 そうして次の言葉を待っていると。

 

 

 

 

 

「バカ不器用め。

 

……詰めが甘いんだよ」

 そんな言葉と共に肩に重みがかかった。

 

 

 

「あ、あの!….…上杉君、それはちょっと……」

 まさかのボディタッチで来るとは思わなかった私は、どうしたらいいか分からないのでとりあえず彼の顔を見て対応を決めようと横を向くと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「………え」

 

 

 顔を真っ赤にして、脂汗を浮かべた上杉君が、目を閉じていた。

 

 

「上杉君……?」

 

 額に手を当ててみると………何、この熱さ。

 

 

 

「上杉君⁉︎あなた………」

 そこで私は、三玖がしきりに上杉君を心配していたことを思い出す。

 

 そして、それに対しての上杉君は……かなり弱っていた。

 

「上杉君?………上杉君⁉︎」

 

 呼びかけてみるが、反応がない。

 つまり、彼は最後の気力を振り絞って私を見つけに……!

 

 

 

 

「上杉君‼︎………意識を失ってる。

 

 

 

 

そんな、どうしたら………‼︎」

 

 そこまで理解してしまった私は、自責の念と混乱、そして焦燥が止まらず、ただ隣の彼に呼びかけるだけとなってしまっていたが。

 

 

 

 

 

「………あれは」

 すぐ近くを飛行する小さな物体………ドローンが飛んでいるのを目にして、もう一つの言葉を思い出す。

 

「人探しのためにドローン持ってきたが……まずは先公に話をつけよう」

 

 

 つまり、あのドローンは……!

 

 

 わたしは、寒さと別のもので震える手でなんとかケータイを操作して、電話をかけた。

 

 

 きっと、彼は怒るだろう。

 

 

 自分の友達をこんな目に合わせた私を………身勝手に姉の看病を放棄した私を。

 

 

 でも……今は。

「俺だ。お前一体何処に「町谷君、今何処に居ますか⁉︎

 

 

 上杉君が……上杉君が‼︎」

 

 

 お願い……上杉君を助けて‼︎

 

 涙で震えた声で、大した説明もなくそう叫んだ私の耳には。

 

 

「………リフト降り場にいろ。すぐに行く‼︎」

 

 

 全てわかっているかのような力強い返事に、私は安堵したのか感情を抑える弁は決壊し。

 

 

 

 

 

 

「う……ぐすっ………ひぐっ…町谷君……ごめんなさい………」

 声もなく泣き出してしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 指定したリフト降り場に俺が駆けつけた時には、涙でぐちゃぐちゃになった顔の五月が風太郎を支えた状態だった。

 

 今の五月はもう見ていられないし他人様に見せられないので、フードとマスクで顔を隠させ、風太郎は俺がコテージまで運び。

 

 

 揃っていた他の5つ子と共に、主任に風太郎を預けていた。

 

 

 

 

「よく連れてきてくれたな。

 

 上杉は一旦この部屋で安静にさせ、様子を見る……これ以上悪化するようなら、私が病院に送ろう。

 

 とりあえず、こいつの荷物を持って来てくれ」

「はい……」

「……病院には連絡したのか?場合によっちゃ救急車かヘリを…」

 そんで今は五月を他の4人に預け、俺が代表して主任と話をしている。

「……それも踏まえて考えるから、後は先生達に任せなさい」

「……あまり迷わないでくれよ、先生」

 

 

 これで話は終わりなので、後ろにいる5人の方を向くと一花が耐えきれないという顔でその場から走り去ってしまった。

「ごめん……私の所為だ」

「一花!」

 

 三玖が声をかけるが、風太郎の方が心配なのか後を追うことはしない。

 

 

 

「お前達は着替えて広場に集合だ。じきにキャンプファイヤーが始まる」

「そんな!私も残ります!」

 

 ある程度落ち着いてきたのか、五月が残ると言い出したところで、風太郎が。

 

「お前達がいても仕方ないだろ……1人にしてくれ」

 

 拒絶とも取れるような言い回しの配慮を見せた。

 

「ここまで運んでやった恩人に、ずいぶん言ってくれるぜ」

「悪いな奏ニ……でも」

「分かってるさ。それが事実だ」

 

 いつも通りのやりとりをする俺たちの後ろで、ニ乃が何かを言いかけるが。

 

「ちょっと冷たいんじゃない?五月はあんたを心配して……」

「という事だから、早く行きなさい」

「……でも」

「安静にと言っているだろう⁉︎

 

 これよりこの部屋は立ち入り禁止とする!入った者には罰則を与えるからな!」

 主任に一蹴されて食い下がるも、部屋を罰則込みの立ち入り禁止とされてしま……いそうな時、風太郎が。

 

 

 

「ニ乃……話がある」

 

 荒い息を吐きながら、ニ乃を呼び止めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そのままでは汗が気持ち悪いので、足早に着替えを終え。

 

 三玖は一花の元へ行き、四葉が上杉君の荷物をまとめに行った。

 

 ニ乃は上杉君と話をしに行ってから会ってないが……多分大丈夫だろう。

 

 そして私は……呼び出した町谷君に全てを打ち明けていた。

 

「つまり、俺たちが家庭教師に相応しいかを確かめるために俺たちの行動を観察して、一花の真似をした……と。そういう事でいいんだな?」

 

「はい……でも、結果はこの通りです」

 町谷君の確認に、私は自嘲気味に答える。

 

 

 それを受けて彼が何をいうかは分からないが、どんな言葉だったとしても受け止めなければならない……それが、せめてもの贖罪だ。

 

 

 そうして次の言葉を待っていたが。

 

 

 

 

 

「……もうちょいお前は肩の力を抜けよ。

 

 他の姉妹を守りたいって言うのは……お前だけの思いじゃないんだぜ?」

 どこかへ去っていく彼が残したのは、望んでいた罰とは程遠いような優しい言葉だった。

 

 

 不意打ちを喰らったような感覚になった私は、思わず彼の後を追う。

「そ、それだけですか?」

「……それだけって何だよ」

「いや…その………もっと、罵詈雑言を浴びせてくるかと」

 

 怪訝な顔をする彼に、困惑の内容を伝えると。

 

「罰のおかわり要求してくるんなら、もう十分懲りてるんだろ?

 

 ……あんなボロ泣き見せられたら、バカでもわかるさ」

 

 悪戯めいた笑みで言う彼に少し恥ずかしいものを感じたが、こんな簡単に済まされては私が納得できない。

 

「でも……」

 

 何か言いたいけど、言う言葉が考え付かないもどかしさに歯噛みしていると、町谷君はため息をついた。

 

 

「お前は自分を追い詰めすぎなんだよ。自分のことを思いやれない奴が、他人を思いやることなんて出来ないぜ?」

「………」

「お前は、自分のせいで風太郎がああなったと思ってるみたいだが、あれは若干自業自得だ。

 

 風邪引いてるなら無理せずに休んでいれば良いのに、それをしなかったアイツのミスだ。

 

 そして……それもわからずに連れ出した四葉や、先公に伝え忘れた俺も悪い」

 慰めじゃなくて、やっているのは事実の羅列。

 

 でも……その事実は私のことを思って明かしたものだ。

 

 何せ、私にとっては都合のいいものばかりなのだから。

 

 

 

 

 そんな彼のちょっと変わった気の遣い方が………なんだか妙に心に染みる。

 

 そして……何の偶然か、それとも狙ってやったのかわからないが。

 

「お前1人で全部抱え込まなくていいんだよ。

 

……誰かの失敗は、みんなで乗り越える。

 

 

 自分で言ってたことだぜ?」

 

 

 花火大会の時に漏らした言葉を、彼は思い出したかのように私に投げかけた。

 

 

「………それじゃあ、俺は四葉の手伝いにでも行くかな」

「お気をつけて……あと、ありがとうございます」

 

 そう言って今度こそ彼は私の前からいなくなった。

 いつもしんみりは苦手だと言っていたし、おそらくそのためだろう。

 

 

 

 

 

 残された私は、先ほどよりも早くなった胸の高鳴りを感じつつ、心の中にいるお母さんに詫びた。

 

 

 

 

「………ごめんなさいお母さん。私………」

 

 

 男の人はよく見極めないといけないと、お母さんは言っていた。

 

 

 それは、男女の仲で苦しんだお母さんの実感がこもっていたし、私もその通りだと思う。

 

 

 

 でも、見極めなんてする暇もないほど……もう分かってしまった。

 

 

「私は、町谷君のことを…………」

 

 

 

 

 だって………それくらいにまで、彼の存在が大きくなってしまったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五月と話をした後に四葉の手伝いに行った俺は、忍び込むと言って飛び出していった四葉の代わりに風太郎の荷物をまとめ、主任の元へ行こうとしたのだが……時間帯的にキャンプファイヤーが始まるのか、コテージの中にはいなかった。

 

 

「……寝てる部屋にでも置いとくか」

 

 立ち入り禁止らしいが、カメラも警備もない立ち入り禁止なんてないのと同義だ。

 

 そう言うことにしておいた俺が扉を開けると、中にあったのは暗闇と静寂……いや、何人かいるな。

 

 数は……いや、考えるのも疲れたので荷物だけ置いて帰ろう。

 

 

……そうだ。

 

「あとは頼んだぜ?5つ子さん達」

 

 

 俺はなんとなくそう思ったこの場にいる面子に、一言だけ告げて自分の部屋に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして林間学校は終われば、俺たちはまたいつもの日常に戻る。

 

………まあ、風太郎が入院することになったので退院するまでは俺が家庭教師のメインをやるわけだが。

 

 

 とりあえず、数週間後に控えた期末試験に向けて、何をやらせるかなと考えながら、通学路を自転車で走っていると。

 

 

 

 

 

「………お前、いつもの車はどうしたよ」

「たまには健康のためにも歩かないといけないかと」

 この時間帯に、この道では見ない奴が待ち構えるようにして佇んでいた。

「……まあ、いいんじゃねえの?」

 

 どう言う心境の変化かは知らないし、知るつもりもないのでそのまま行こうとすると。

 

「……一緒に行きませんか?」

「2人乗りは嫌だぜ?」

 

 この辺りはたまに警官がいるので2人乗りを却下すると。

「自転車には乗れないので、安心してください」

 そうなると、歩くコイツにあわせてチャリを引かなけりゃならないんだが………

 

 

 

 

 まあ、こうなったのならしょうがねえな。

「……なら、とっとと行くぜ?五月」

「それじゃあ、一緒に行きましょう?町谷君」

 

 こうして俺達は隣り合って登校した。

 

 なんというか、まだまだコイツの監視対象としての日々は続きそうだが……まあ、仕事は信頼が大事ってことにしておこう。




いかがでしたか?

ここからはアニメで言うと2期、原作だと5巻のストーリーに入っていきます。

 そして、五月がここから奏ニ攻略に着手するのと同時に彼の過去話も入れていこうかと。

 それでは、次回もお楽しみに!
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