五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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更新です。

オリジナル展開は原作の流れを壊さないようにするのが大変ですね。



 奏ニの秘密
 嫌いな食べ物はみょうが。


第13話 月夜の再会

 五月がウチに泊まることになった日の夜。

「二乃は高級ホテルで籠城か…んで、連れ戻せずと」

「痛い所をつくな……で、五月はお前の家に。何というか落差がひどいな」

「ほっとけ……財布を忘れたアイツが悪い。

 

 兎も角、一花や四葉にも連絡したから当面はこのままだな」

「……今回はあのハードルがない代わりにこれか。うまくことが運ばねえな」

 

 五月と一緒にテスト勉強をした後、買い出しやら食事やらを終えた俺は、風太郎と今日の成果について話していた。

 

 ちなみに五月は疲れて眠ったようなので、聞かれる心配はない。

「俺は二乃の説得を何とかやってみるから、お前は五月の方を頼む」

「………二乃からさっき連絡きた。お前がしつこいから何とかしろって」

「……五月のことは?」

「伝えたけど、それが何だって一蹴さ」

「分かった……じゃあ、また明日学校で」

 

 

 そうして切られた電話をベッドに投げた俺は、先程話した二乃の事について考えていた。

 

 

「人を狂わせるのは、憎しみや恨みじゃなくて、愛しさ……か。何となくわかるかもしれない」

 

 中野二乃は姉妹達が大好きで、姉妹5人でいる事を大事にしている。

……他の姉妹もそれは同じなのだが、特に二乃は「5つ子だけの世界」

を大事にしているんだ。

 

 だから、俺たちが家庭教師として来たての頃にいろんな妨害工作を働いたのは、その5人の中に異分子である風太郎や俺が入るのを拒むためだと言われれば説明がつく。

 

 

 で、それを踏まえての今回の二乃が家出に踏み切った経緯を考えてみると……正直、これほどやりきれないものはそうそうない。

 

 二乃は5人の世界を大事にしている中で、俺や風太郎が入ってくるのに良い感情を持っておらず、また、俺達に順応していく姉妹達にも疑念のようなものが湧いていた……なのに。

 

 いつのまにか三玖は風太郎に惚れ、他の姉妹も俺や風太郎を受け入れてしまった。

 

 自分の守ろうとした世界が崩れていくのを何とか食い止めようとした矢先に、三玖から告げられた最後通牒。

 

 それは、自分が守ろうとしたものはとうにないと言われているようなものだった。

 

 自分の望まない空間にいれば、人はやがて歪み壊れていく。

……パワハラやら人間関係のもつれで鬱になるように。

 

 二乃が「私を腐らせる」と言って出て行ったのは……壊れた世界の破片で傷ついた場所が傷む前に、その場から逃げたのだ。

 

 

 そう考えると、今俺達がやろうとしていることは、二乃をまた望まない鳥籠に連れ戻そうとしているだけなのかもしれない。

 

 

 だが……こうなった理由は、二乃が他の姉妹達を大切に思っていたからだ。

 

 そんな二乃がもし、それっきりで他の姉妹ともう話すことができなくなってしまったら………あの豆腐メンタルは、きっと大ダメージを受ける。

 

「もっとこうしておけばよかった」って。

 

 愛や恋なんてあんまりわからない俺でも、その後悔と痛みだけはよく知ってる。

 

 

「あんなのを何度も味わうのは、俺だけで十分だ。

 

……お前には渡さねえぜ、二乃」

 小さな決意を胸に、とりあえず何か策を練ろうとパソコンを立ち上げていると、ドアがノックされた。

 

 

 ドアを開けると、そこにいたのはジャージ姿の五月。

「どうした?お化けでも出たのか?」

「違いますよ!……って、もしかして出るんですか?」

 

 俺が適当に言った冗談に、五月はどういうことだと言う顔で震えだした。

「出ない………で、冗談はさておきどうした?あんだけ食った後の夜食は太るぞ」

俺のネタバラシと忠告に、五月が心配は無用だと言わんばかりに。

「脅かさないで下さい!……それに間食しなくてもいいように、沢山食べてきたので大丈夫です」

 そういう五月に、夕飯に行った焼肉の食べ放題を思い出す。

……もう、あそこは出禁になるんじゃないかと思うレベルの食いっぷりだった。

 回転寿司とかだったら一人で50皿とか行くんじゃないだろうか。

 

 って、だいぶ脇道に逸れたな。

「…んで、本題は?流石におしゃべりしたいだけとかはないよな?」

 

 俺がようやく本題に入ろうと聞いてみると。

 「あなたに聞いて欲しい事がありまして。

 

 今日は月が綺麗に見えますし………少し、歩きませんか?」

 夜のお散歩のお誘いが舞い込んできた。

 

 

 

 

「少し曇ってしまいましたね。折角今日は月が綺麗に見えていたのに」

 

 適当に夜道を散歩している中で、五月が曇った空を見て顔を顰めた。

 

「まあ、いつも綺麗ならそれが普通になっちまうぜ?

 

 こういう時があるからこそ、綺麗だと思えるのさ」

 

 諌めるように返事をしながら、歩いているが……すでに会話がない。

 

 いや、夜の静かさを堪能してると言えばいいのか……。

 

「そう言えば、風太郎から聞いたけど三玖が心配してたらしいぞ?」

 

 とはいえ、話したいことがあるのに静かさを堪能する意味はないので話を振る事にした。

「……今回ばかりは二乃が先に折れるまで帰れません」

「そうは言っても、ウチじゃああの家みたいな生活ランクは提供できないぜ、お嬢様?」

 

 一応、家族や奏一さんの遺産や万事屋の収入、株などをやっている事で一人で暮らしていく金はある。だが……それは今の生活ランクを維持していればの話であり、あの5つ子の家のような生活ランクに引き上げるのは難しい。

 

 

 そんなことを話すと、五月は苦笑して。

 

「それに関しては心配いりませんよ。

 

 私達は数年前まで、町谷君よりも貧しい環境で生活してましたから」

 

 と、懐かしそうに昔のことを教えてくれた。

 

 

 曰く、今の父親……要するに中野医院の院長と再婚するまでは、極貧生活だったとのこと。

 

 まあ、シングルマザーで5人養うとなれば当然の話だな。

「けれども、女手ひとつで育ててくれた母は体調を崩し、入院してしまって………」

「大したお袋さんだな……あの葬儀の時、「お母さんになります」って言っていたやつの気持ちが少し分かった気がするよ」

 

 その先を言わせるのは忍びなかったので、横取りするように言葉をかけると、五月は驚愕と納得の表情で。

 

 

「やはり、あの時の男の子はあなたでしたか……」

「そういうお前は星ヘアピンのやつか。奇妙な偶然もあったもんだ」

 

 俺も、どことなく感じていたものがようやく繋がった事を何となく悟る。

 

 母親になろうとしたアイツと、母親代わりをやっている五月は…同一人物だったのだ。

 

「そうですね……でも、そう考えると確かにあの男の子は、あなたしか考えられません」

 

 

 

 

 少しだけ昔話をしよう。

 

 俺と奏一さんが、この五月達の母親…「中野 零奈」さんの葬儀に手伝いとして参加した時のことだ。

 

「優一。この人が話があるそうだから5人を同じ部屋に集めておいてくれ」

 

「あいよ……連絡はケータイでいいか?」

「おう。充電は大丈夫か?」

「ノープロブレムだぜ」

 

 誰かと話していた奏一さんにそう頼まれた俺は、式場であるボロアパートの中を探し回っていた。

 その娘達は5人で、皆同じ容姿をしていた。

 だから、一人見つけても誰かは分からないので5人でまとまっていてくれるとありがたい……と、願っていたら。

 

 運良く奥の部屋で泣いてる5人を見つけたが、出る雰囲気でなさそうなので様子を伺っていたんだっけな。

 

 

「うわぁあん!

「……病死じゃ避けようもねえだろうに、何を大袈裟な」

 

 この時の俺は、暮らしていた施設が突如として壊滅し、そこにいた人達と死別したばかりで……もう、命の重さなんて忘れていた。

 

 命なんて簡単に無くなっていくし、無くならなくてもどうせいつかは無くなる。

 それは他人の命も、家族の命も……自分の命も同じものだ。

 

 なくなったことでクヨクヨするより、そいつの分まで今ある自分の命を生きようとした方がマシだ。

 

 それが俺のやろうとしてることの根底にあるし、今でもそう思うことがあるが……この時はそれが顕著だった。

 

「でも……これが普通なんだよな」

 命のひとつひとつに重みを感じ、その死を悲しむ……それこそが本来あるべき姿であり、この頃の俺は完全に壊れていたんだ。

 

 

 そんな俺の、羨望やら軽蔑やら諦めなどが混じったような目に気づいてないようで……5人は母親を失った痛みに震えている。

 

「お母さぁん!」

「うっ……うう……っ」

 

 しっかし、本当によく似た5人だな。

 

 うさ耳リボンが「四葉」で星のヘアピンが「五月」ということ以外、父親らしきおっさんに紹介されても誰が誰だかわからない。

「やっぱり……体調良くなってなかったんじゃん……」

 

「もう……いないんだね……」

 

 眠かったのであくびを噛み殺していると、その中の一人が壁に目を向けてその流れを断ち切った。

 

「いるよ」

 

 てっきり幽霊でも見えてんのかと少し近づくと………その顔に流石の俺も当時ながらにこれはまずいと思った。

 

「いるんだよ。お母さんは私たちの中に……

 

 

 

 これからは私がお母さんに………お母さんになります」

 

 目は絶望に浸っているのに口元はやけに吊り上がり……何というか、アイツらの死に目に立ち会った時の俺もこうはならなかった。

 

「五月……」

 誰かはわからないが……名前を呼んだ顔にあったのは紛れもない恐怖。

 それほどまでに、あの時の五月は痛々しかったんだ。

 

 

 そして、そんなこいつらを見て俺はため息を吐き。

 

「やめとけやめとけ。出来ねぇ事は言うもんじゃないぜ!」

 

 思わず、口を挟んでいた。

 

 

 

「あの時、突然入ってきたものだからびっくりしましたよ」

「バレないように忍び込むのは、あの頃からの得意技だったんでね」

「それで、あの後随分と言ってくれましたよね…あれ、結構ショックだったんですよ?」

 

 俺はジト目を向けてくる五月を宥めて。

「あの時のお前は、言葉を選ぶ事を忘れさせるくらいにやばかったからな。

 

 荒療治でもなんでもやらないとまずい……ってなったんだよ」

 

 あの時の俺を動かしていたものを思い返すと……多分、ほっとけなかったんだろうな。

 

 すると、懐かしむような目で月を見ていた五月がこちらに向き直り。

「でも……あの言葉があったから、今の私になれたように気がします」

 そう苦笑した。

 多分、あの後こいつが目指したものは、母親そのものではなく……

「母親代わりか……まあ、空回り気味だけどな」

「一言余計です……まあ、うまくいかないのが現状ですが」

「それだけ目指すものは大きいって事だろ?」

「……そうですね」

 

 少し雲が止んできた所で、再び俺達はあの頃へと戻る。

 

 

 突然姉妹の誰でもない声が響き、その方向を振り返るとそこには一人の男の子がいた。

 

 背丈は私たちと同じくらいだが……見た目が兎に角特徴的だ。

 

 

 服は神父さんが着るような服で、髪は三つ編み。

 

 瞳は私たちの物よりも明るめの青だった。

 

 今をして思えば、何でこんなに特徴的な見た目をした彼のことを忘れていたのかと驚きを隠せない。

 

 だが…問題はそこじゃなくて彼の言った言葉だ。

 

 

「あなたはお手伝いに来ていた子でしたよね?いったい何なのですか?」

 

 みんながお母さんがいなくて悲しんでいる。

 

 だから私がお母さんにならなければいけないのに、彼はそれを出来ないと言い切ったのだ。

 

 

 そんな失礼なこの男に詰め寄ろうとした私だが、彼は動じる様子もなく、ケータイを取り出して。

 

「こんな面で母親やろうってのかい」

 そこに写った私の顔を見せてきた。

 

 そこに写っていたのは……お母さんのものとは程遠い、怖い顔だった。

 

 記憶の中のお母さんの顔を、この時の私のものに置き換えたら……ゾッとする。

 

 そうして、何もいえなくなった私の前で呆れたような顔をした彼はこう聞いてきたのだ。

「大体、お前は何で死んだ母親になろうとしてるんだ。もし、自分の苦しみを娘達にも味わえとか言うんなら、飛んだろくでなしだぜ」

「そんな事ない!」

 

 なんでお母さんのようになりたいのか、わからないけどなろうとしたところにいきなり否定され。

 

 更にはお母さんを馬鹿にされたような気がした私は思わず彼に掴みかかっていた。

 

 でも……掴みかかってもどうしたらいいのかもわからずに、私は泣きじゃくることしかできなかった。

「そんな事ないもん……そんな事、絶対にないもん‼︎」

「五月!……君も、冷やかしに来たなら帰って!」

「すぐに帰るさ……だが、こいつを何とかしてからな」 

「………」

 一花が私と彼の間に入ってこようとしたが、彼は一瞥だけして再び私に視線を向けた。

 

「皆、お母さんが死んじゃって悲しんでる……だから、私がお母さんになって、みんなを守らないといけないのに、何でそんな事いうの?」

 

 そのどことなくバカにしたような顔に、私は問い詰めた。

 すると、少しの間が空いて。

「お母さんになる必要がないからだ」

 

 目から鱗と言わんばかりに予想外な事を言い出す。

「みんなを守りたいって気持ちはお前さんのものだ。なら……お前として守ればいいのさ。わざわざ他人になる必要はないぜ?」

「でも……そんなのどうやって」

 

 すると、先ほどのバカにしたような声音とは打って変わった優しい声で。

「そこで姉貴やお母さんのやり方の出番だろ。それを踏まえた上で自分でやり方を考えな」

 

 そこまで言って、彼は「誰かは知らないけど話があるらしいから、そこにとどまってろ」と言って外に出て行った。

 

 そして私は……

 

「私は……お母さんのように、みんなを……自分のやり方で」

 

 

 悲しみの迷路から、引っ張り出されたような感じを彼の言葉に覚えていた。

 

 

 

「……あの時のあなたの言葉がなかったら、今の私はなかった。

 

 

 本当に、ありがとうございました」

 

 その時を思い出した私が町谷君に頭を下げると。

 

「そう思うなら、早く二乃と仲直りしろよ?

 

 

 できなくなっちまったら……全てが遅いからさ」

 

 悲しげな瞳で告げた町谷君の顔が、月明かりに照らされてはっきりと映し出されていて。

 

「………は、はい…」

 

そこに触れてはいけないような気がした私は、そう頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 翌日。

 

 

「………なあ、なんか遠くね?」

「ここから一緒に登校していたら、同居してることがバレてしまいます!」

 

 月曜日で祝日でもないため、当然俺たちは学校へ向かうのだが……五月は俺の後ろから数メートル離れてついてきていた。

 

 正直これだとストーカーのようだがこいつは分かっているのだろうか。

 

 そうして俺と五月は数メートル越しに話をするが……そういえば気になったことが。

 

「うちに来た時に、制服とか学校のカバンって持ってたっけ?」

 

 五月が持っていたのは、下着やら私服、例の問題集などが入った大きなボストンバッグくらいで、今着ている制服とかはなかったはずだ。

 

 

 そう思った俺が聞いてみると、五月がああそれならと反応して。

 

「一昨日、四葉に持ってきてもらいました」

「………その時に財布も持ってきて貰えばよかったんじゃないか?」

 

 そんな俺の言葉に対して宥めるように。

「私も後から気づいたのですが、忙しそうだったので……」

「忙しそう?………そういえば昨日、三玖も四葉と一花は用事とか言ってたけど、なんかあるのか?」

 

三玖の言葉を思い出してまた聞くと、五月は聞いてないのかと言わんばかりに。

 

「え……聞いてないのですか?

 

陸上部の助っ人で、大会前の練習があるらしいですよ?」

 

「ほう?どういうことか詳しく聞かせてもらえるか?」

 

 五月の教えてくれた情報に、風太郎が詳しい情報を催促したので、ついでにそっちも聞こうと………

 

 

 

ん⁉︎

 

「風太郎⁉︎」

「上杉君⁉︎」

 

 いつのまにか近くにいた風太郎が、どういうことだと言わんばかりの顔で、俺たちに詰め寄ってきた。




いかがでしたか?

次回は偽零奈さん登場と四葉の陸上部騒動に触れていければなと思います。

それではお楽しみに!
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