五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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お久しぶりです。

期間開けた割にはクオリティーが微妙かもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

奏二の秘密
取り返しのつかない嘘はつかないが、ジョークや冗談を会話に入れないとなんか落ち着かない。


第15話 四葉解放作戦 風が去るは嵐の如し

「あれだな……四葉のリボン、目印としては一級品だからすぐわかるぜ」

 

 期末テストまで後3日。

 一花からもらった情報をヒントに、俺は朝練をやっている陸上部を後ろから張り込んでいた。

 

「それで……どうするのですか?」

 ドローンを操作している俺の後ろには、眠そうな顔をした五月がいる。

 

 流石に他人を自分の家で1人にさせるほど、俺は間抜けじゃないのだ。

 

「お前はもう知ってるだろうが、もうじき高校生駅伝っていう大会があるんだ。

 

 その為にアイツらはテスト期間を使ってまで練習をしているのさ……ここをベースとしてな。今はちょうど終わろうとする頃だぜ」

 

 陸上部員の知り合いから聞いた話を五月と共有しておくと、なるほどと頷いて。

「それで、四葉は助っ人を辞められずにいる……って事ですよね」

「ああ。四葉がきっちり断ってくれれば問題ないんだが……アイツの性格と部長の性格じゃあ望みは薄い」

「部長の性格?」

 

 あとついでに、そいつに教えてもらったのは……部長の性格についてだ。

 

「結構押しが強いらしいんだ。そして、その大会に対するモチベーションはかなりのもので……そんな奴が、お人好しで体力もある四葉をそうそう手離すと思うか?」

「むしろ、なんとかして囲い込みたい……ってなると思います」

「そういう事さ」

 

 要は、練習に出ざるを得ない雰囲気を作っているって事だ……あと、顧問が「赤点取らなければいいよ」というスタンスらしく、あんまり関わってこないのもまた問題だな。

「でも、あの問題集をやっていればテストは……今回は、ノルマがないんですよね?」

 ちなみに今回は、前回のようなノルマは設けられてないが……仕事をやるなら結果を残したいと言うのが、俺と風太郎の共通意見である。

 

 それに、まだ希望はあると言わんばかりの五月には悪いが、あの問題集の問題を四葉がわかるとは思いにくい。

「無いけど、今の四葉の成績であの問題集を解くのは他の奴らの力を借りればできるだろうが、それを理解するのは多分無理だ。

 

……ましてや、部活との両立なんて夢のまた夢だな。

 

 それを感じたから、一花達が俺と風太郎に助けを求めてきたようなもんだろ」

「……それもそうですよね。それで、町谷君は何をやろうとしているのですか?」

 

 状況を軽く説明し終えると、五月が改めて何をするのかを聞いてきたので、満を辞して話すとしよう。

 

 

「現状に対する反抗心を煽る。

「あとは卒業するだけの部長のエゴのせいで、俺たちは勉強できない」……的なやつをな。

 それを沸かせて、現状を続けることに対してのデメリットを強く認識させて譲歩を引っ張り出すんだ。

 まあ、部員でも無い四葉は本来拘束される義務がないわけだが……この際もののついでだな。

 だから、まずは協力者……要は不満を口にしてるやつを急いで見繕ってるってわけさ」

「頑張ってる人たちの水を差すようで、あんまり好ましくないのですが……」

 

 それを聞いた五月は、予想通りにいい顔はしないが……手段を選ぶにはあまりに時間がなすぎる。

「今回は期間が期間だ。綺麗汚いにこだわる余裕はないぜ……だから五月。今回はこんなことに付き合わなくていいぞ?」

 

………真面目で純粋な五月を、汚すような真似はしたくない。

 

 こんな汚れ仕事は、俺みたいに慣れてる奴がやればいい。

 

 そう思いながら品定めをしていると、五月が俺の隣に座って。

 

 

「お気持ちはありがたく受け取ります。でも……あなた1人に頼り切るのはもうやめにしました」

 

 と、俺の目を見てそう告げてきて。

 私だって、四葉を助けてあげたいんです。だから……」

 

 

 

「私にも、なにか協力をさせてください」

 

 と、覚悟を決めたように笑いかけてきた。

 

 

 正直、この作戦において五月が必要なことはない。

 

 

 真面目なコイツに謀略系は無理だろうし、情報収集にしてもある程度はもうやってある。

 

 だが……不思議と断る気にはなれなかった。

 

「………しょうがねえな」

なんというか、少しだけ気持ちが楽になったような気がしたから。

 

 よくわからないけど悪くはない…そんな不思議な感じがしながらも、俺は照れ隠しも兼ねていっそう獲物探しに精を出すのであった。

 

「……あの男子生徒はどうですか?テスト勉強があんまりできてないらしいですよ?」

「1年坊主か……なら、知り合いに連れてきてもらうかな」

 

……少しだけ楽しそうにしているあたり、存外俺が抱く印象もあてにならないようだが。

 

 

 

 昼休み。

 

「町谷、頼まれてたやつを連れてきたぞ」

「どうも……その、自分に話ってなんですか?」

 

 陸上部に関する情報をくれた陸上部員「加藤」に頼んで、その1年生を図書室に連れてきてもらった俺は、なるべく警戒されないように片手を上げた。

 

「よくきてくれた…まず、自己紹介からな。

 

 俺は町谷奏ニ……そこの加藤の知り合いだ」

「どうも……自分は山田と言います。加藤先輩が先輩が勉強を教えてくれるって言うからきたんですけど…」

 

 そう名乗ると、山田は緊張と困惑で首を傾げていた。

 

「加藤、普通にお悩み相談のプロとかでいいだろ」

「いつからプロになったんだ……俺の嘘の方がまだ普通じゃねえか」

 

 ヒソヒソとやっていると山田はますます怪訝な顔をしているため慌てて向き直り。

 

「悪いな。実はお前さんが部活が忙しくて勉強できてない事をそこの加藤から聞いて、ちょっと手助け出来るかもって思ってな。それで、代わりと言っちゃあなんだが、少し頼まれてほしいんだ」

 

 ちなみにこの場に五月はいない。

 アイツには俺とは別の作戦で動こうとしている風太郎の手伝いをを頼んであるからだ………まあ、昼休みのアイツに飯を食わせなければ、下手すりゃ放課後には電池切れなので飯に行かせたのもあるが。

 

 

 因みに、昨日落ち込んでいたらしい風太郎は何かを吹っ切ったのか、教室で見た限りではいつも通りに戻っていた。

 

 よくわからないが、元気そうで何よりだ。

 

「ええと……確かに、テスト週間くらいはテスト勉強したいと思ってましたけど……その、お恥ずかしながらあまり成績が良くない物で」

 

 この場にいない風太郎に少し安堵していると、山田は恥ずかしそうにそう白状した。

「朝早く練習があって、放課後も夜遅くまで練習。そして次の朝練に備えて早く寝ないといけないから、時間なんてほとんど取れないよな……わかるぜ」

「中間の時はちゃんと休みを取っててくれたんだけどな…やっぱり高校生駅伝がでかいわ」

「だが、駅伝に優勝しても進級にはなんの影響はない。

 ……しかし、期末でこけると進級が危うくなる可能性がある」

 

 加藤にそう返すと、どうやら山田は中間での成績があまり良くなかったようで、それもそうだなと頷くだけだった。

 

 

「それで……自分は何をすればいいんですか?」

「同じように勉強で苦戦してる奴に声をかけて、勉強したいって雰囲気を出してもらってくれ。

 

 あとは……部長の発言を録音しておいてほしい。

 

 特に、部活を優先するような言葉はな」

 そうして俺はボイスレコーダーを山田に手渡した。

 

 

 

 その日の放課後、山田から大変なことになったと報告を受けた俺が、五月と共に待ち合わせに指定したファミレスに向かい。

 

 

ドリンクバーのコーヒーを片手に、その大変な事を記録した音声を聞いていた。

 

「朝の乱入者はあったものの、今日は一日お疲れ様。

 

 

 だけど、みんなまだまだ伸び代があると感じたよ………

 

 

 そこで、この土日に合宿を行う」

 

 そう、なんとテスト前の土日で合宿をやると言い出したのだ。

 

「あの、土日は休みだったと思うんですけど……それに」

「山田の言う通りですよ。期末テストがあるのに……」

「あのね、2人とも?

 

 土日や試験を気にしてるような甘い考えじゃ、大会2連覇はできないよ」 

「す、すみません!」

「そんな無茶な……」

 

 ここまでのやり取りでわかるように、山田と加藤が待ったをかけるが、部長に一蹴されている。

 

「おいおいマジかよ……」

「そうですね……これでは四葉が」

 

 五月と顔を見合わせていると、山田が不思議そうな顔で。

「それって、中野先輩のことですよね?なんで町谷先輩の彼女さんがそれを知っているんですか?」

 

 首を傾げながら聞いてきた。

 

「か、彼女⁉︎違いますよ、ただのクラスメイトです‼︎

 

 それに、四葉は私の姉で……」

「彼女ではないが、コイツは四葉の妹の五月なのは間違いないぜ」

 

 慌てる五月を宥めながら理由を話すと、一応は納得してくれたようだ。

 

「そ、そうですか……それで、中野先輩にはかなり期待しているようで……続きを聞いてください」

 

 

「中野さん……あなたは走るために生まれてきたの。

 

 私があなたを立派なランナーにしてあげる」

「は……はい………」

 

………なるほど、これは相当強引な奴だ。

 

 そして、こう言うタイプは人の話を聞こうとしないのがまたタチが悪いんだよな。

 

「こう言う感じで……」

 

 山田がため息と共にそう締め括ると、五月が結構御立腹なようで。

 

「四葉がいる理由を、そんな簡単に決められたくありません」

……と、絞り出すように言葉を発した。

 

 まあ、五月ならこうなるだろうと思ったが……正直、俺もこの傲慢さには相当頭にきた。

 

 一人一人がなんのために生まれてきたかなんて、自分でもわからない物を他人が易々と決めて良いもんじゃない。

 

 人の存在理由を、自分の都合でいいように決めようとする奴を俺は許せないのだ。

「山田、その合宿の集合場所は?」

「はい、6時に学校ですが……」

 

 俺は、少しビビった様子で答える山田にわかったと返し、五月と互いに頷き。

 

 

「明日、俺がその部長と話す……そして、必ずお前らの勉強時間を勝ち取ってやるぜ」

「そうですね。善は急ぐものですよ」

 と、二人揃ってやる気満々であった。

 

 なお、後にその時の様子を山田から聞いたが……あまりに目がガチで、頼んで大丈夫だったかと少し悩んだとのこと。

 

 

 

 

 翌朝。風太郎に一花と合流した俺と五月は作戦の段取りを決めながら四葉達陸上部が校門にやってくるのを待ち構えていた。

 

 因みに一花は四葉から「辞めちゃダメかな…」と本音を聞いて、部長と話をしたいそうだ。

……どうやら、一花的にも看過はできないようだ。

 

 

「じゃあ……今、二乃のところに行っている三玖が、四葉のフリをして戻って来るから、その時にフータロー君が……」

 作戦としては、二乃の説得に向かっている三玖が四葉の格好をして出発時間までにやって来て。

「何とかして四葉の注意を惹きつけるから、その隙に四葉になった三玖が、辞める意思を伝える。そして、それが無理そうなら……」

 

 風太郎が四葉をこっちに掻っ攫ってから、三玖と入れ替えて話をして。

 

「私と一花、町谷君が四葉の格好をした三玖について話をするんですね」

 話が進まないなら俺、一花、五月も偽四葉の味方として加勢すると言う流れだ。

 

 因みに三玖の行動についてだが……どうやら、二乃がホテルを変えたらしく、その場所を知っているのが三玖しかいないからである。

「ああ……それでダメなら顧問と話すしかねえな」

「ソージ君、何だか悪い顔してるね」

「話だけしか聞いてないけど、俺例の部長みたいなタイプは嫌いなんでね」

 

 冷や汗をかいている一花に軽く返答しながら、作戦の起点となる偽四葉を待っていると、一花のケータイがなった。

 

 三玖から着くって言う連絡だろうが、一応スピーカーにしてもらって通話の内容を聞いてみると。

 

 

「一花……今すぐホテルにきて、助けて欲しい。二乃が……」

 

 

 まさかのまだホテルにいると言う大コケの連絡だった。

 

 

 

 

 陸上部は、一旦学校に集まってから駅に向かうとのこと。

 

 つまりは、目の前で出発したアイツらが電車に乗るまでになんとかしないといかず。

 

 三玖と二乃を心配した一花はそのホテルへと走って……残された俺達は。

 

 

「……なあ、本当にこの作戦やるのか?」

 

 史上最高に頭が悪くなってしまったこの作戦をやろうとしていた。

 

 

 何とか先回りした所で、風太郎発案のさっき作戦をやろうとしたのがきっかけだったが……いた人材が最悪としか言いようがないのだ。

 

 

 まず、一花は三玖と二乃の下に行き、三玖はホテルにいる。

 

 そこで残っているメンツでさっきの作戦をやろうとすれば……まあ、偽四葉をやれるのは1人しかいない。

 

 そして、その1人が……

「ぶ、部活を辞めさせていただきたく……」

「違う!もっとアホっぽく!」

「〜〜〜ッ‼︎無理です!こんな役目もう辞めたいですー!」

「それだよ、それ!」

 

 風太郎の熱血アホ講座に根を上げている五月である。

 

 要は五月を四葉とする方向にシフトしたわけだな。

 

 しかし……

「大事なことだからもっかい言うけど……なあ、本当にこの作戦やるのか?」

「勿論だ!見ろ……今の五月を。少なくとも見た目は完璧に四葉だ!」

「どこが完璧なんだよ、頭から下だけじゃねえか!」

「町谷君……」

 本気でコイツ、一回病院に連れて行った方がいいのではなかろうか。

 五月も、助けてくれと言う熱い視線を送ってきてるし。

 

 そもそも……

「四葉を引き剥がすとか言ったけど、お前どうやるんだよ」

「そうですよ、簡単に言いますが……」

 何だか穴だらけに思えてきた作戦の内容を、改めて確認しようとすると、風太郎は大きく息を吸って。

 

 

 

 

 

 

「痴漢だ!

 

 

 痴漢が出たぞー‼︎」

 

 と、大声で叫んだかと思うとどこかへ走り去ってしまった。

 

 そして、朝早くから出た痴漢魔を追う1人の勇敢な少女が、うさ耳リボンを靡かせて……

 

「そこの人、とまりなさーい‼︎」

「乗っちゃうのかよ……」

「四葉……」

 

 こちらに見向きもせずに、風太郎の後を追いかけて行った。

 

 つまり、痴漢の真似をして逃走を図り、それを四葉に追いかけさせることで引き剥がした………と。

 

 

「捨て身すぎだろ……」

「え、ええ………でも、ここまできたらやるしかないですね」

 まさかの方法に頭を抱えて言葉を漏らす俺に苦笑いしていた五月は。

 

「町谷君……私、行きますよ」

 と、覚悟を決めたように陸上部の元へと向かった。

 

「……これ、ボイスレコーダーな。あと、この際派手にぶちかましてこい」

 幸運にも、この惨状を逆手に取った揺さぶりも思いついたし。

 

 

 

「はあ……はあ………逃げられちゃいました」

 陸上部の方々の前に出た私は、いつバレるのかとヒヤヒヤしながら四葉を装って話すと、部長らしき人が心配そうに声をかけた。

 

「もー、いきなり走り出すからびっくりしちゃったよ。

 

早くしないと予定の電車行っちゃうよ」

 

 しかし、四葉ではなく練習の心配をするその言い方に文句の一つでも言いたいが……今の私は四葉だ。

 

 四葉を演じなくては。

「すみません。……私、合宿にはいけません」

「え?

 

 あなた……何やってるの?」

 

 

 私は、普段の四葉を思い出しながら不思議そうな顔をするその人に。

 

「私、部活を辞めたいです………」

 

 と、辞意を告げると。

「何で?」

 

 と、そんな事を言われるとは思わなかったと言わんばかりの顔をした。

 

「試験は来週ですし……」

 それならと理由を説明しようとしたわたしに、陸上部の部長は。

 

「違う違う。

 

 

 私が言いたいのは………なんで、別人が中野さんのフリしてるの?」

 

 当たり前だろうが、私たちの作戦をあっさりと突破してきた。

 

「いや、何を言っているんですか?部長……私です、四葉ですよ?このリボンを見てくださいよ」

 一応悪あがきはしてみるが……

 

「うん。似てるけど……違うよね。

 

 だって、髪の長さが違うもん」

 

 この作戦における致命的な欠陥を指摘してきた。

 

……まあ、私としても何でこれでいけると思ったのか問いただしたいのが本音だけど。

 

 

「あんなにやる気のあった中野さんが、そんなこと言うはずないもん。

 

 

 中野さんは五つ子だって聞いたし……あなたは姉妹の誰かかな。

 

 

 何でこんなことするの?」

 

 時間を奪われて怒っているのか、言葉の節々に圧のようなものが掛かってきている。

 

 

 これはもう、本当の私で話をするしかないと言葉を言いかけた時。

 

 

「よく言うぜ……部員でもない奴を囲んでおいてなあ?」

 

 

 

 呆れたような言葉とともに、町谷君が私の隣に並び立った。

 

 

「……君がこれを考えたの?私達は急いでるんだから、邪魔しないでもらえるかな」

「……なら聞くが、何で俺がこれを考えたと思う?」

 

 苛立ちを抑えるような声で聞いてくる部長に、質問で返してやると部長は眉を顰めた。

 

……まあ、赤の他人に近い俺が明確な理由を持って自分達の邪魔をしているんだし、当然か。

 

 

「知らないよ。他校のスパイとか?」

 吐き捨てるように言う部長に、俺はやれやれとため息をついて見せ。

「俺はそれほど暇じゃない……ただ、クラスメイトのコイツから頼まれてね。俺はそれを遂行してるまでさ」

 

 五月を指さしながら理由を明かすと、視線を五月に向けて。

 

「何を心配してるのか知らないけど、中野さんのことに関しては心配いらないよ。

 

 中野さんは、今回の合宿に関しても快諾してたからね」

「アレを快諾って言うか……その割には随分と強引だと思ったけどな」

 

 まさか、自分達の話の内容も知られてるとは思わなかったらしい部長が、俺に警戒の目線を向けた。

「随分と物知りだね。ウチに盗聴でもしたの?それなら顧問の先生に突き出すよ」

「いやあ、あんたのやり方が気に食わないって言う協力者がいたもんでね。そいつが録音してくれたのさ」

 

 

 ボイスレコーダーを見せながら答えるとさすがに予想外だったのか、部員達に疑惑の目線を向けた。

 

「おいおい、あんた自身が招いた結果だろうが」

 すると、部長はハッとして。

「……まさか、その協力者って中野さん?」

「誰かは言えねえな」

 

 五月の姿を見て思い付いたのか、あり得ないと言う顔をしながら答えたのをぼかした所で………本題に入らせてもらおう。

 

 

「疑心暗鬼になってくれた所で、本題だ……

 

 

 この合宿を自由参加にしてもらえないか?そうすれば俺はこれ以上何もしないが……

 

 

 嫌だと言うなら、陸上部の顧問にこの事を話す」

 俺がはっきりと要求を告げると、小馬鹿にしたように部長は返した。

「……名前も名乗らない人に、いきなりそんな事要求されたくはないな。それに、そのやり方もよっぽど強引じゃない」

「なら名乗ってやるよ。

 俺は町谷奏二………逃げも隠れもするが、手段は選ばない町谷奏二さ。

 

 そして、強引には強引をぶつけるくらいが丁度いい」

 それに……顧問に話すと言った瞬間に少しビクッとしたのを俺は見逃してない。

 

「そういえば顧問にはちゃんとこの事を話して、許可をもらってるんだよな?

 

 期末前の土日に、土日両方つぶすような合宿を入れる事を。

 

 部員の成績を落としにいくような事をよ」

 

 

 たしか、あの顧問は赤点さえ取らなければいいと言うレベルの放任らしいが……流石に赤点になる可能性を高めるような真似を許しはしないだろう。

 

 それを聞いた部長は少しの間を置いて。

「……私たちの話を聞いてるならわかるだろうけど、甘い考えで2連覇を狙えるほど、高校生駅伝は甘くない。

 

 それは顧問だって分かってるだろうし……言ってもあまり意味はないんじゃない?むしろ、危ないのは君の方じゃないかな」

 今度は俺に揺さぶりをかけてきた。

 

 勿論、この要求には俺にもリスクがある。

 

 それは、赤の他人が陸上部の会話を盗み聞きしていたと言う事実がある事であり……その実行犯である事を明かすなら、それ相応の処分は喰らうだろう。

 

 だが、俺にそんな揺さぶりは揺さぶりにならない。

 退学になったなら、学費を払う必要性がなくなる上に、何でも屋の方に専念すればいい話だ。

 

 それに、こうして高校に通っているのはブランド確保の為であり、それがなくとも高卒程度の資格が欲しいなら通信制にでも通えばいい。

「俺は別に、退学になっても構わねえぜ」

「………は⁉︎」

 

 言い切った俺に、馬鹿でもみるような目を向けてくる部長だが……自分も危ないと言う事はわかっているのだろうか。

「でも、もし推薦狙ってるならこの話をされるとやばいんじゃないか?

 

 優先順位も理解できず、他人の言葉に耳を貸さずに自分のわがままを無理矢理通す……更には部員でもない奴を無理矢理参加させる。そんな実態を知ったら、考え直しちまうかもしれないぜ」

「………そこまで考えられて、なんで退学することのリスクがわからないのかな」

 そうして俺と部長の間に流れた不穏な空気を、五月と部員が固唾を飲んで見守っていると言う構図が出来ていたころ。

 

 

 

「お待たせしました。

 

 皆さんご迷惑おかけしました」

 

 四葉らしき声がしたので後ろを振り返ると今度こそ本物の四葉が………

 

 

 いや、何かが違う。

「!」

「中野さん」

「今度は本物ですよね……」

 

 

「あはは…

 

 ちょっとしたドッキリでした。五つ子ジョーク」

「四葉……」

 

 五月は感じてないのだろうか、この違和感を。

 

 

 四葉にしては髪色が違うし……何より、これから運動しようとする奴がサンダルはないだろう。

 

 でも、髪の長さが似てる一花はホテルにいるだろうし多分違う。

 これは一体……。

 

 そんな違和感を強めていく俺とは対照的に、部長は錦の御旗でも手に入れたように。

 

「なんだ、冗談だったんだね……でも、こんな危ない人を使ってまでの悪ふざけなんて、笑えないから辞めてよ。

 

 

 中野さんの才能を放っておくことなんてできない。

 

 私と一緒に高校陸上の頂点を目指そう」

 

 四葉の才能を認めながらも、己の欲望丸出しな事を言い出していたのを遮るが如くそいつは。

 

 

「まあ、私が辞めたいのは本当ですけどね」

 

 と、笑顔ではっきりと辞意を伝えた。

 

 そして、この言い方で完璧に正体を確信した。

 

 

 そう、この笑顔は………林間学校で見せた相当キレている時の顔とよく似ていたから。

 

 まあ、ここで正体をバラすのは下策なので何も言わないが。

 

 

 

 そんな偽四葉に部長は困惑したように。

 

「な、中野さん……なんで…」

 と、言いかけたところでまたもや遮り。

 

 

「なんでって……

 

 そこの人も言ってましたけど、調子のいいこと言って私のこと考えてくれてないじゃないですか。

 

 

 そもそも前日に合宿を決めるなんてあり得ません」

 

 ほぼ目と鼻の先くらいの距離まで部長に近づき。

 

 

 

「マジありえないから」

 至近距離でのガチギレボイスをお見舞いしていた。

 

 

 こんなドスの聞いた声と圧は、四葉じゃ絶対に出せないが……部長はその迫力を前に完全に勢いを喪失して。

 

「は、はい……すみませんでした……」

 

 涙目で謝ったかと思えば、膝から崩れ落ちていた。

 

 

 その光景に流石の俺も少し引いていたが、近寄ってきたそいつの耳打ちで我にかえり。

 

 

「それじゃあ、ちょっとお話ししようか」

「は、はい……」

 

 俺は、すっかりしおらしくなった部長に、改めて交渉を持ちかけたついでに、今回の功労者へねぎらいの言葉をかけておいた。

「……助かったぜ、二乃」

 

 

 

 

 

 それからテストまでに起こった事を軽く話そう。

 

 まず、あの時現れた偽四葉は、唐突すぎる散髪を行った二乃だった。

 

 本人曰く「失恋みたいなもの」らしいが……こんなありがちな理由が今どき存在するとは、時代の流れとはわからねえもんだな。

 

 まあ、それはいいとして今日の本題だった四葉解放作戦に関しては、俺が同席こそしたものの、メインとなる四葉本人と陸上部の間での交渉の結果、四葉は大会の間まで協力してからお別れと言うことになり。

 

 今回の合宿は、俺が録音させていた音声の全削除を条件に自由参加となった。

 

 とりあえずこれで四葉に関するトラブルは解決したし、流れで五月と二乃の間にあった溝も2人での直接的な話し合いの末に消えたようだが……本題であるテスト勉強は、土日全てを使った詰め込み作業となった。

 

 

 一緒にやってた感想としては、やはり四葉にはまだ、部活との両立は難しかったようだ。

 

 

 だが……そんな嵐のような日々の中でも、一つだけ確かな成果がある。

 

 それは……五つ子達の勉強へのモチベーションが確実に上がっているの確認できた事と、成否はともかくあの問題集を終わらせてきた事だ。

 

 

 んで、そんな前回とは間違いなく何かが変わった状態で臨んだ期末テストが終わってから最初の夜。

 

 

 

 

 俺は、雇い主の親父さんからとんでもない事を聞かされていた。

「…………それ、本当なんですか?」

「ああ。彼の口から直接、家庭教師を辞めたいと申し出てきてね……それで、新しい家庭教師が見つかるまでは秘書の江端が臨時の家庭教師をやるから、君にはそちらのサポートを引き続きお願いしたい」

 

 

 

 それは……

「俄には信じ難いですよ。あの風太郎が辞めるだなんて」

 

 

 風太郎が、期末テストの当日に家庭教師を辞めたいと言い出した事だ。

 

 

「彼曰く、ただ勉強を教えるだけじゃダメだった。アイツらの気持ちも考えてやれる家庭教師の方がいい……とのことだ」

 第一の感想を伝えると、親父さんが状況を説明してくれたが……前に聞いた声よりも、声に圧があるような気がしてならない。

 

 

 そもそもなんで風太郎は、それを俺に言わなかったのかが……。

 

 まあ、それは後で聞くとしてこの親父さんの声の圧はどうにかならないもんか。

「……もしかして、あいつ何か妙なこと口走りました?」

「……彼のように他人の家庭のことに一々口を出すような家庭教師は、私から願い下げさ」

 それとなく探りを入れてみると、何を言われたか知らないが親父さんは相当お怒りのようだった。

……でも、それを聞いて風太郎の言いたいことが少しだけ分かった気がする。

 

 

 この親父さんは……父親の仕事をペットの飼い主のそれと間違えているような気がするのだ。

 

 人間は必要な物を揃えれば良いわけじゃない。

 

 育っていく上で親の存在は確かに必要となるのだ。

 

 現に、

……まあ、いまそれを言ってさらに機嫌を悪くされても面倒だから聞きたい事を聞くとしよう。

「それで……なんで俺は継続なんです?俺は確か風太郎の補佐として雇われたんだから、アイツが辞めたら連鎖的に俺もお役御免になるのがセオリーですよね」

 

 俺は風太郎の指名によってこの補佐の仕事をやっている。

 その指名した奴が辞めたなら俺がいることが少し変な状況となるのに、なんで俺は継続なのか。

 

 そんな当たり前の疑問を口にすると、親父さんはまたもすごい事を言い出した。

「彼の中野家への侵入及び介入を、今後一切禁ずる。

 

 そこで、君には彼が娘達に妙な事をしないかの監視と報告を頼みたいんだ」

 

 要はこの親父さんの密偵として風太郎を監視してほしいってわけだが……なんというか気に入らないから徹底的に省くと言ってるようにも取れてしまう。

 

 そう、まるで……

「風太郎が何を言ったのかは知らないけど、ひょっとして嫌ってます?」

 

 ふと思った事を聞いた俺に返ってきたのはかなり回りくどい肯定だった。

「……君のように勘が良すぎるのも、考えものかもしれないな」

「……生憎、鈍感に探偵補佐や何でも屋はできませんよ」

「それもそうだね……兎も角、引き続き君には期待しているからこれからも励みたまえよ」

「え、ちょっと⁉︎俺まだ良いって一言も……」

 

 と、そこで有無を言わさないように電話が切られた俺は。

 

「……とりあえず、風太郎から言い訳でも聞くか」

 

 風太郎のケータイに電話をかけた。

 

 

 五月がうちに居候してたこと、言わなくて正解だったな……。

 




いかがでしたか?

今回は二乃が散髪したところあたりまでをお話しとしました。


そして次回はクリスマス回をあげていきたいと思います。


次回の更新がいつになるかは分かりませんが、気長に待ったり評価、感想を入れてくれると幸いです。

それでは〜。
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