今回は意外な人物がブレイクスルーとなりますよ。
それではどうぞ!
奏二の秘密
クラスメイトの男子に勉強を教えていた時、中野姉妹にやる時と同じようにやったら馬鹿にするなと怒られた。
「すげえ、マジで分かりやすい……」
「お褒めの言葉、恐縮ですな」
家庭教師を辞めてから数日。
テストの答案が全部返ってきたので、江端さんが家庭教師としてどれほどのものかを試すついでに、間違えたところを教えてもらったのだが………とんでもないやり手だったことを俺は実感していた。
そう、マジで分かりやすいのだ。
正直俺たちが臨時家庭教師だったのでは?と錯覚するくらいには。
「なにか、教育関係の仕事とかやってたり?」
「これでも私、元々教師をしていたものですから」
「……これ、俺要らねえんじゃねえの?」
江端さんのスペックの凄さに脱帽していた俺がそう漏らすと、江端さんは。
「いえいえ。私一人ではお嬢様方全てに効率よく教えることができませんし、久々に教鞭を取るもので。町谷様には色々と助けてもらいますよ」
「そうかい……まあ、俺も江端さんからは色々学びたいって思ってた所だしな。何か頼みがあったら言ってくれ」
「良い心がけです」
そうして色々と教えてもらいながら、テストの復習と今週の土曜に向けての打ち合わせを行い……そして。
中野家のマンションにて。
「さーて、どう言うかな…」
「正直に言うしかないかと」
「それしかないですよね、やっぱ…」
風太郎が家庭教師を辞めてから、初めての土曜日がやってきた。
風太郎が家庭教師を辞めたと知った次の日。
「今更たらればに意味はないが……それでよかったのか?風太郎」
「ああ……俺にはすぎた役割だったんだ」
俺は風太郎と二人で屋上で話をしたのだが……その時の風太郎は見た目こそいつも通りだったが、話してみるとそれまでより覇気がなくなっていた。
「前にお前が言ってた事が、今ならよくわかる」
「……それが分かったなら、繰り返さなけりゃ良い話じゃねえの?それに……」
風太郎が今回の件でかなり思い詰めてたのはよく分かっている。
だが、たとえ向いてなかったとしても風太郎は素直に引き下がるような奴じゃないし、今までだって引き下がらなかった。
そんなコイツが自ら手を引く選択をするとは……本当に堪えたんだろうな。
「……あの仕事以上に、稼ぎのいいバイトはなかなかないぜ?」
「ああ……今のバイトをもっと入れるか、掛け持ちでなんとかするさ」
なにせ、現実を見るタイプの風太郎が現実的じゃない選択をしたのだ。
それほどまでに今回の件は風太郎の内面に大きな爪痕を残してしまったと言う事だろう。
それを悟った俺は……話そうと思っていたことや、聞きたかった事を一旦胸の内に留めておく事にした。
なんというか……少し精神的に休ませた方が良いと思ったから。
俺は立ち上がり、仕事を斡旋しようかと申し出る。
「そうか……わかった。アイツらは俺に任せときな。
あと一応、良い仕事がないか知り合いにも声かけてみるわ」
「いつも悪いな。お前には気を遣わせて…」
「気にすんな…何でも屋は頼られてなんぼなんでね」
いつもなら「怪しいバイトじゃねえだろうな」くらい言ってきそうなら風太郎の、素直なお礼に手を振って、俺は屋上から戻って行った。
ここまでくれば、俺が何を悩んでいるかはお分かりだろう。
風太郎が家庭教師を辞めた事。
そして、辞めた理由……つまり、この家の5姉妹との関わりからの心労と言う事実を、どうやって伝えるかという事だ。
まあ、下手にオブラートに包むのも変だし、正直に言うしかねえな。
「では、行きますよ」
「…覚悟決めますか」
そうして俺は息を一つ吐き、江端さんがインターホンを押すのを見守っていた。
中野一花
国25点 数49点 理41点 社28点 英38点 合計181点
中野二乃
国19点 数22点 理38点 社27点 英45点 合計151点
中野三玖
国37点 数42点 理41点 社73点 英21点 合計214点
中野四葉
国35点 数15点 理22点 社30点 英26点 合計128点
中野五月
国45点 数28点 理70点 社27点 英37点 合計207点
「これは酷い……」
「あんなに勉強したのにこの結果かー」
私達に帰ってきたテスト結果を見て、私達は落ち込んでいた。
少し前まではこの点数なら喜んでいたであろうことを考えると、ずいぶんとレベルが上がっているのだが……それでも赤点回避にはまだ遠い。
現に、私は数学と社会で一問ずつあっていれば赤点回避はできていたのだから悔しさはかなりのものであるし、私達に起こったトラブルを解決しながら勉強を教えてくれた町谷君や上杉君に申し訳が立たない。
「二乃、元気出して」
「あんたは自分の心配しなさいよ」
「改めて、私たちって馬鹿なんだね…今日は期末試験の反省がメインかな」
四葉が二乃に突っ込まれている隣で、三玖が窓の外に目を向けながらそうぼやいていると、タイミングよくインターホンがなった。
「お、噂をすれば……」
「フータローにしこたま怒られそう……ソージが口添えしてくれてると良いんだけど」
「だねー」
「……なんで、嬉しそうなのよ四葉」
「あはは……結果は残念だったけど、またみんなと一緒に頑張れるのが楽しみなんだ」
みんなから一旦離れて、モニターに来客を写してみると………そこには珍しい組み合わせがいた。
「あれっ」
それは……普段はお父さんの運転手を務める江端さんと、町谷くんと言う二人組だったのだから。
「……邪魔するぜ」
「失礼いたします」
「なんだー、町谷さんに江端さんか」
「今日はお父さんの運転手お休み?」
「小さい頃から江端さんにはお世話になってるけど、家に来るとか初だよね」
「ホホホ、何を仰る。
私から見たら、まだまだ皆様小さなお子様ですよ」
口々に出たみんなからの感想を笑って受け流す江端さんだが……私はそれよりも町谷君がやけに緊張した面持ちなのが気になる。
普段なら人懐っこそうな笑顔で軽口を叩いてきそうなのだが。
「町谷君、何故あなたが江端さんと一緒にここに来るのですか?それと、上杉君の姿が見えないのですが…」
「たしかに、フータロー君遅いね」
一花のその言葉に、みんなも上杉くんがまだ来てないことに気づき、町谷君の言葉を待っていると。
「今から俺が話す事に、その答えも含まれてるから……俺から言わせてもらう。それで良いか?江端さん」
「構いません。詳しい事は私が説明しますので」
町谷君は何故か江端さんに話を張り、江端さんも頷いた。
「ソージ、フータローに何かあったの?」
その異様な光景に三玖が顔を曇らせながら聴くと、ゆっくりと噛み締めさせる様に。
「単刀直入に言う。
期末テストの当日付で、風太郎が家庭教師を辞めた」
「え」
驚愕の内容を口にして、私はあっけに取られることしかできなかった。
町谷君からの衝撃的な告白を江端さんが引き継ぐように。
「そこで、新しい家庭教師が見つかるまで私が勤め、町谷様には私のサポートを行ってもらいます」
「待って待って、二人してずれた冗談はやめてよー?ほら、今日はエイプリルフールじゃないでしょ?」
「何かの間違いだよね」
話していた所を、一花と三玖が慌てて待ったをかけるが、江端さんは首を振り。
「事実でございます。
旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験で契約を解除なされました」
「俺も、風太郎がやめた後に親父さんから聞かされたんだ……大体、俺は逃げも隠れもするが嘘は言わない男だぜ?」
町谷君が、押し殺したような声で付け足したのを聞いて、私の頭は突拍子もないこの話が真実なのだと認識を始める。
なにせ、彼の様子が変だったことが今回の辞任の予兆だったのでは?と、どこか理解してしまったから。
そして、他の姉妹もどうやら本当のことを言っていると感じたらしい。
「フータロー君、もう来ないの?」
「嘘……」
呆然と呟く三玖の後ろで、二乃がそう言うことかと下を向き。
「赤点の条件は生きてたんだ……」
「どう言うこと?」
「試験の結果のせいよ。パパに言われてたんだわ」
三玖に中間の時に設けられていたあのハードルのことを説明していると、町谷くんがそれを否定した。
「それなら俺もクビになってないとおかしい。
……となると、残る可能性はもう一つだけさ」
「……自分からってこと?」
「フータロー、どうして……」
町谷君に確認する四葉と項垂れる三玖は突然のことにショックを隠すことができずにいる。
私だって、理解はできても納得なんてできない。
町谷君だってきっと……!
「彼をここに呼んで、直接話を聞きます」
そうしてスマホを取り出した私を江端さんが止めた。
「申し訳ありませんが、それは叶いません」
「アイツのこの家への侵入を、一切禁止しやがったからな」
そこに町谷君の付け足しが入り、私はお父さんの考えが読めないでいた。
確かに、お父さんと上杉君は合わなそうだなーって思いはしたが、どうしてそこまでするのかが理解できない。
ここは上杉君よりも先にお父さんに話を聞かなければと思いだしていると、三玖が立ち上がって外に出ようとしたが江端さんに止められた。
「江端さんにソージ、通して」
「なりません。
臨時とは言え家庭教師の任を受けております。
最低限の教育を受けていただかなければ、ここを通すわけにはいきません」
「そう言うこった。外に出たきゃ出ても良いが、しっかりやることやってからな」
「ぐぐ……江端さんとソージの頭でっかち!」
「ホホホ、何度でも言いなされ」
「言うなら力を示しな」
あくまで譲るつもりはなさそうな二人に三玖がむくれながらも引き下がり……私たちは素直にその教育を受けることにした。
「これ終わったら行っても良いのよね?」
「ええ。ご自由になさってください」
「町谷君、この後覚えておいてくださいね」
「さらっと物騒な言い回しすんな」
先程のニュースの余波が覚めない中、二人から出されたプリントを解いていく……難易度はそこまで難しくはなく、結構自信を持って解けるものばかりだった。
「全く、アイツどう言うつもりよ」
「私はまだ信じられないよ」
「本人の口……最低でもソージ君からはちゃんと話を聞かないとね。
誰か終わった?」
「私はもうすぐです」
「私も」
一花に短く返しながら問題を解いていった私は、ついに最後の問題にたどり着いたが……これだけはどうしてもわからない。
「この問題、比較的簡単だよ。
きっと、江端さんやソージ君も手心を加えてくれてるんだね」
「そうね。でも……前の私達なら危なかった。
自分でも不思議なほど問題が解ける。
悔しいけど、全部アイツのおかげだわ」
二乃の言葉は、奇しくも私も考えていたことだった。
今でこそ楽に感じるこの問題達も数ヶ月前の私達なら5人がかりで取り掛かっても4分の1も解けなかっただろう。
私の場合は町谷君だが……他のみんなは主に上杉君からの指導でここまでのレベルに到達できた。
ここまでの成果を出しておきながら、どうして…やはり、あのボートでの出来事が尾を引いているのだろうか?
「あと一問、あと一問なのに…」
「私も最後の問題が……」
そんなことを考えている間にも、三玖も最後の問題に手を焼いている様だ。
「おいおい……その問題は前にもやったし、そこまで難しいものでもないぜ?」
「では、特別授業に……」
町谷君と江端さんの声に、私たちは改めて考えてみるが……やはりわからない。
こうなったら……上杉君からもらったアレを出すしかないだろう。
「あの……カンニングペーパーみませんか?」
「!」
「……それって、期末の?」
「はい。全員筆入れに隠したはずです」
「い……いいのかな……」
そう……上杉君からもらったのは、カンニングペーパーだ。
これは、テスト前日の土日に「村人でもボスを倒すことのできるチートアイテム」として渡されたが……正直、四葉が顔を曇らせた様に、こんなものを使うのは気が引ける。
だが……
「目的のためならつまらない意地は捨てます。今は……そうしなければいけない時です」
「五月が町谷さんみたいになった!」
「五月、アンタ変わったわね……」
今の私達には、上杉君に家庭教師を止めた理由を聞がなければいけないと言う止むに止まれぬ目的がある。
だから、四葉や二乃が少し引いた様な顔をしていても……うん、結構心にくるものがあった。
やはり、私にはまだ町谷君のような面の皮の厚さは……いや、この表現だと彼に失礼か……ええい!
「では……ってあれ?」
二人が雑談を交わしている隙に、私は自分の持つカンニングペーパーを開くと………そこに書かれていたのは文章だった。
「どうしたの?」
「なんというか……私のはミスがあったみたいです」
固まった私に三玖が問いかけてきたので、その謎の文章をミスとして伝えると、一花がペーパーを開いた。
そこには……私のと同じ様な文章だったが、これは私のよりも最初に来そうな文章だ。
「安易に答えを得ようとは愚か者め」
「………なーんだ。初めからカンニングさせるつもりなかったんじゃない」
「でも、フータローらしいよ」
確かに、彼らしいと言えば彼らしいけど……これではなんの解決にもならない。
どうしたものかと考えていると、一花が紙の端っこに2と書かれているのを見つけた。
「②って……」
「私のかしら」
そうして今度は二乃が開く。
「カンニングする生徒になんて教えてられるか→③」
「自分で言ったんじゃない」
そうして三玖のものを見る様に促しているということは……
「みんな、これ……上杉さんの最後の手紙だよ」
四葉の予想通り、おそらくこれは手紙の文章を5つに分けて、カンニングペーパーとして持たせたのだろう。
「これからは自分で未来を掴み取れ→④」
「奏二には悪いが、やっと地獄の激務から解放されてせいせいするぜ→⑤」
「……あはは。やっぱりやめたがってたんだ」
「私たちが相手だもん。当然と言えば当然だよね」
みんなは苦笑しているが………ここで私がもらったペーパーに書いてあることが、彼の本当の思いであることがなんとなくわかった。
「最後、五月だけど……?
五月?」
それは……
「だが、そこそこ楽しい地獄だった。
じゃあな」
デリカシーがなく、意地っ張りな彼らしい感謝の言葉だったから。
上杉君から贈られた言葉に、私たちが言葉を失っていると。
「風太郎は、テスト期間中お前らがどうしたらまとまるかを必死で考えてた。そして……自分の無力さが許せなかったんだろうな。
あいつ、ジジイみてえな頑固者だからよ」
いつのまにか後ろにいた町谷君がカンニングペーパーを見て苦笑していた。
江端さんはどこかに行ったらしく、今この場には私たち以外では彼だけだ。
「無力って……それは、私たちがバラバラになってしまったからで彼は……」
その状況を招いてしまったものとして反論するが。
「多分アイツは、お前らがバラバラになったのも自分の能力不足のせいだって思ってるだろうぜ」
町谷君が、もっと早く気づいてやればよかったと言わんばかりにつぶやく。
「町谷君……」
何か言葉をかけてあげたいけど、なんてかければ良いのかわからない。
そんな風に言葉を考えている私の隣では。
「……普段は自意識過剰な癖に、こういうときだけ謙虚になるんじゃないわよ、あいつ」
「二乃……」
呆れたと言わんばかりにため息をつく二乃だが……その顔はどこか浮かばれない顔だった。
きっと、二乃なりに上杉君を追い込んでしまったことに思うところがあるのだろう……私だってそうだ。
問題を解くのも忘れ、それぞれがそれぞれの後悔に顔を曇らせていると。
「ソージ、問題が解けたからフータローの家に案内して」
三玖が、町谷君に突然そんな事を言い出した。
「……確かに正解だけど、行って何をする気だ?」
その場にいる誰もが思ったであろう事を町谷君が口に出すと、三玖は。
「フータローに無力なんかじゃないって伝える。
それでフータローが否定しても、私はフータローに教えてもらいたいって伝える。
だって私は、フータローなしじゃ、もう……」
最後の言葉はよく聞こえなかったが、三玖は上杉君に教えてもらいたいとはっきりと口にした。
「フータローに無力なんかじゃないって伝える。
それでフータローが否定しても、私はフータローに教えてもらいたいって伝える。
だって私は、フータローなしじゃ、もう……」
普段はあまり声を出して話さない三玖が、はっきりと口にした言葉に、俺は眠りから覚めた様な感じになった。
そして、今風太郎に必要なものを改めて理解する。
アイツに必要なのは、伝わるかどうかわからない気遣いよりも確実に「お前が必要だ」と伝える確かな言葉だったんだ。
まさか、人付き合いに関して三玖から教えてもらうことになるとは。
肺から暗いムードを溜め込んだ空気を追い出し、その分新しい空気を取り込んでいると、四葉も三玖にあてられたのか。
「私も……まだ、上杉さんに教えてもらいたいよ…」
と、風太郎を所望する声を上げた。
「そうは言っても、あいつはここに来られないの。
……どうしようもないわ」
「それなら、突撃あるのみだぜ?」
「……アンタって、考えてる風で意外と脳筋なところあるわよね」
「シンプルイズザベストってやつさ」
現実に引き戻そうとする二乃に軽口を叩いて応戦すると、一花が。
「みんな……私から提案があるんだけど」
と、姉妹達を集めて何かを話しだす。
それを遠巻きに見ていると、江端さんが用事から帰ってきて。
「みなさん、解けましたか?………おや、お嬢様方は何を?」
「さあ……よく分からんが、問題は解けてたぜ」
そうして、2人で5人の様子を眺めていると、やがて俺たちの前に立ち。
「町谷君に江端さん……お二人に協力して欲しい事があります」
やたらと真剣な顔をした5人を代表した五月が、その協力して欲しい事について話し出した。
そして、それを全て聞いた時に江端さんは。
「………大きくなられましたな」
万感を込めたように、一言呟いた。
はい、今回は少し短めとなりました。
あと、今回のテストの点数ですが、一花、三玖、五月は少しだけ点数を上げてあります。
これは、原作で風太郎が自主勉としていた期間の一部を奏二が教えていた事から、原作よりも高得点が取れていても不思議じゃないのでこのようにさせていただきました。
ただし、二乃と四葉は家出や助っ人で接点が他の3人ほどなかったので勉強時間が増えておらず原作の点数のまんまというわけです。
また、風太郎を催促するのが原作では四葉が先でしたが、今作では三玖からとさせていただきました。
そんな変更点を解説したところで、次回もお楽しみに!
感想や評価のほどお待ちしております。