五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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お久しぶりです。

色々シナリオを考えてたらかなり期間が空きましたね。

主人公をどう入れようかを考えてました。


あまりクオリティには自信がありませんがどうぞ!


奏二の秘密
期末テストの点数は
国語 81点
数学 77点
英語 76点
理科 78点
社会 80点

合計 392点

である。



第17話 聖夜と言葉と

 五つ子から頼まれごとを受けてから数日。

「いやー、随分攻めた格好だな江端さん」

「上杉様の不安を煽るような格好、ということでしたので。

 

 彼とは真逆の格好を意識しました」

 

 チョイスの意図を語る江端さんに、俺は吹き出しそうになるのを堪えながらカメラを構えていた。

 

 

 もちろんこれは遊んでいるわけじゃない。

 五つ子に頼まれた事をこなしているのであり……いわば仕事をしているのだ。

 

 

 だが……

「この時期にその格好は、寒がりの俺には目に毒だぜ…」

 この季節じゃ見てるだけでも寒い格好に、俺は苦笑いすることしかできなかった。

 

 

 そう、このクソ寒い冬だと言うのに、浅黒い肌に半袖のシャツ、そして金髪にサングラスと……まさに夏のチャラ男みたいな格好をしているのだ。

 

 と、そんな格好の江端さんを、笑いで震える手でなんとか撮影するのであった。

 

 

 なんで撮影するかって?

 

 それを説明するには、あの5人が俺達に頼んできたところまで遡らせてもらおう。

 

 

 

 5人からの話を聞いた俺は、苦笑いしながら内容を要約する。

「……つまり、ここから引っ越せば風太郎の出入り禁止は無くなるから、後は風太郎をその気にさせればいいだけになる……ってか」

 

 つまり、アイツらが考えた事は引っ越しだったのだ。

「そう言うこと。それで場所は……ここで」

 

 頷いた一花から渡された紙には住所と間取り図、そして家の写真が……ん?この場所見たことあるような。

 

 

 そんな俺の疑問は、次の江端さんと一花のやり取りで解決した。

「……よもや、この場所をお選びになるとは」

「うん………お母さんが再婚する前まで私たちが住んでいたアパートが空いてたのを、前々から狙ってたんだ。

 

 ここのお家賃なら、私の給料で払えるしね」

 

 

 要は、俺と五つ子達が初めて会ったあの場所だな。

 

 

 だが……あそこは女子高生5人が暮らすには狭すぎる印象しかない。

 

 少なくとも今のマンション暮らしと比べれば、かなり生活ランクは落ちるだろう。

 

「セキュリティ面は大丈夫かよ?あと、生活ランクって意外と下げにくいらしいぜ」

 

 後は、あの親父さんがこの話を聞いたらどんな反応をしてくるか……想像だけでもビビる自信がある。

 

 そんな俺の問いかけに、一花は。

 

「生活水準は……まあ、ここに来るまでに戻ると思えば何とかなるよ。

 

セキリュティ面は、一応アルゾックの警備があるみたいだから」

 

 前々から考えていたと言うだけあって、色々調査済みだった。

 

 だが……コイツらにはもっと大きな壁がいる。

「……なら、親父さんには何て説明する?」

 

 そう、あの親父さんだ。

 自分が追い出した相手を囲い込むために家出します、だなんて言い出したらどうなることやら。

 

 何度も言うが想像だけでびびっている俺がそう聞くと、さすがの一花も緊張したような顔で。

「事前に言ったら間違いなく却下されるだろうから、この際事後報告にさせてもらうよ」

 と、後が怖い事を言い出した。

 

 とりあえず……俺がやるべき事は、バレた時の言い分でも考えておくくらいだな。

 

 

 

 

 そんなこんなで風太郎を囲い込むの準備が進む中で、着々と日にちは進み……決行の日であり、終業式の日でもあるクリスマスイブを世間は迎えるのであった。

 

 

 

 終業式が終わり、夕方の事。

「メリークリスマスって事で、これをガキどもに渡しておいてくれ」

「いつもありがとうね、奏二くん……そちらのお嬢さんも」

「いえいえ……私はただ、後ろをついてきただけですから」

 

 突然だが、俺はクリスマスにやっている任務がある。

 

 それは……施設にプレゼントとしておもちゃやマンガ、本などを寄付する事であり、今年は五月にもプレゼント選びを手伝ってもらったのだ。

 

 俺が前いた施設でも、クリスマスにはおもちゃや本の寄付があったので、それの真似事だな。

 

 いや、真似事というよりも……贖罪という方が正しいのかもしれない。

 

 

「そうだ、子供達が帰ってくるから顔を出してあげてよ」

「あー、わり。今年もまだ仕事があるんだ」

 

 

 この言葉に嘘はない………実際、風太郎の囲い込みをやるという用事がある。

 

 だが、それだけかと言われたら違う。

 これは誰に頼まれたわけでもない、ただの自己満足で。

 

 それに付き合ってもらっている分、むしろ俺がお礼を言わなければならない。

 

 何より、無邪気な笑顔でお礼をもらうには、俺はあまりに汚れすぎている。

 子供好きなのか、残念そうな顔をしている五月には悪いが……。

 

 

 そんな意固地な俺に、ここの所長は。

 

「そう……分かった。なら、残りのお仕事頑張って」

「本当にすまねえな……来年もまたくるよ」

「それでは、失礼します」

 これ以上聞いてくる事はなく、ただ笑顔で送り出してくれた。

 

 まるで、俺にはそれが一番ありがたい事を理解してくれているように。

 

 

 

 その夕方。

 みんなが待っている場所に向かっていると、町谷君が頭を下げてきた。

「いやー、助かったぜ。女の子向けのプレゼントは毎回適当に選んでたからな。今年はかなりしっかりと選べたと思うよ」

「いえいえ……それより、子供達に顔を見せなくてよかったんですか?まだ、時間に余裕はあるんですよ?」

「……まあ、アレだ。サンタはミステリアスなもんだぜ?子供の夢を壊すような事はしないさ」

 

 唐突だけど、町谷君の笑顔には様々なものがある。

 

 包み込むような暖かなものや、悪戯めいた生意気そうなもの、純粋な子供を思わせるような満面のものなどあるが……

 

 

 先程彼が見せたのは、諦めを込めたような悲しいものだった。

 

 思えば、彼は自分の過去についてあまり話さない。

 

 話を聞こうとしても、それに触れたくないと言う感情を全面に出しながらお茶を濁す。

 

 

 だから私が知っているのは、彼とは昔一度だけ会っていることと、何でも屋を営んでいる事のみ。

 

 だから、彼のことをもっと知りたい私としてはその過去についても知りたい。

 

 そして……できれば町谷君の力になってあげたい。

 

 

 そう思えるほど、彼には色々な事をしてもらっているから。

 

 

 それに、お父さんの動きにも少し思うところがある。

 

 お父さんが上杉君が辞めた後でも町谷君を家庭教師補佐として雇っているのは、ただ辞意を表明してなかっただけなのだろうか。

 

 

 何か、彼には思うところがあったから、こうして継続して家庭教師補佐をやらせているのではないだろうか。

 

 わからないところが多いから……私は彼をもっと知らなくてはならない。

 

「今はそういうことにしてあげますよ」

「……なんか引っかかる物言いだな」

「でも……いつか、話してくれる日が来るのを待ってますからね」

「別にいいぜ………その日が来ると思うのならな」

 

 訝しむような目を向ける彼の前に出て、私はみんなが待っている場所まで向かった。

 

 

 何が待っていたとしても、彼をより深く知ろうという決意を胸に掲げて。

 

 

 

 すっかりイルミネーションの光が眩しくなったイブの夜。

 ケーキ屋の近くの暗がりから……

「アレだ。目つきが悪いながらも精一杯のスマイルをしているぞ」

「でも、反応はあまりよろしくなさそうですね……」

 俺たちはサンタコスの風太郎がケーキ販売の売り子をやっているのを伺っていた。

 

「やっぱり上杉さんには笑顔の特訓をさせるべきだと思います!」

「それはなんだか複雑……ライバルが増える」

「ライバルになるような人がいるの?」

「まあ、きっといてくれるよ……」

 

 スパイよろしく陰から覗いている俺と五月の後ろでは、お姉様方が思い思いな感想を述べていた。

 

 まあ、風太郎は無愛想なところがあるのでもう少し笑ってた方がいいのは確かだが……。

 

 

 

「それでは、そろそろ始めますよ」

「まあ、やるだけやってみな」

 

 腹を据えたような顔で五月が立つと、他の姉妹も立ち上がり。

「うん!必ず上杉さんに家庭教師を続けてもらおう!」

「そうでなくても、お話は聞きたいからね」

「そうね……仕方ないわね」

「……フータローとしっかり話す。逃がさない」

 

 そうして風太郎の元へ向かっていった5姉妹達を見送ってから。

 

 

「………そいじゃ、聞き耳を立てとくとするか」

 

 五月に渡しておいたレシーバーを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは一体どういうことだろう。

 

 

「わー、本当に働いてる!」

「クリスマスイブだってのに、偉いねー」

 

 ここの場所は奏二くらいにしか教えてなかったはずなのだが……。

 

 

「と言うか寂しい」

「ケーキも遅いわ」

 

 バイト先のケーキ屋に、元生徒だった5人が押しかけてきたのだ。

 勿論この五つ子にも教えてないが……それ抜きにしても、黙って辞めた手前、あまり入り浸られても忍びない。

 

 とりあえずケーキを渡してお帰り願うとするか。

 

 

「仕方ないだろ、今日は繁盛「ちょっと。私達はお客であんたは店員でしょ?」

「……さっさともってお帰りくださいませ」

「あーら、できるじゃない」

 仕事の邪魔をしに来たとしか思えない5人をさっさと帰らせようと対抗していると、五月が手を挙げて。

 

「すみません、ケーキの配達ってできますか?」

 

 この状況で中々エグい事を言い出した。

 

 

「は?配達なんてやってないけど」

 

 そもそもウチでは配達をやってないし、たとえやってたとしてもアイツらのマンションまで行くことになるから、勘弁願いたいのだ。

 

 

 だが。

「えー、落としちゃうかも」

 

「か弱い乙女に持たせるつもり?」

 

「雪降ってるし……いいでしょ?」

 

「すぐそこなので、お願いします」

 

 全く引き下がろうともしない5人に、俺では無理だと店長に助けを求めると。

 

 

 

「もう店も閉める。 

 

 こっちはもう良いから、最後に行ってあげなよ」

 

 店長もまたとんでもない事を言い出した。

 

……いや、気を利かせたんだろうが今の俺からすれば完全に余計な気遣いだ。

 

 

 大体、お客さんもそれなりにいるのに1人でなんて無理がある。

 

「店長!そんな事………」

 考え直してもらおうと声を上げると、店長は。

 

 

「上杉君……

 

 メリークリスマス」

 

 サムズアップと共に、嫌な笑顔で送り出しやがった。

 

 

……このバイトもやめよっかな。

 

 

 

 

 

 

「世間はクリスマスだってのに、働き者はいたもんだ?」

「奏二、お前コイツらのお守りをしっかりしてくれよ……」

「俺もコイツらにちょい頼まれた口でね。フライドチキンとシャンメリーのおつかいさ」

「勉強はしっかりやってるんだろうな……?」

 

 

 店を出て少しした頃に、バイクに乗った奏二がやってきたので、文句をぶつけると、返ってきたのはいつも通りの軽い声だった。

 

 

 おそらく、アイツらにあの場所を教えたのはコイツだろう。

 

 色々押し付けて悪いとは思っているが、こんな仕返しをしてきやがって。

 

 きっちり問い詰めてやろうと考えている俺の前では、四葉がやけにはしゃいでおり、それを見守る他の4人と言う構図が成り立っていた。

「四葉、雪の上は危ないよー」

「お子様なんだから………転んでも知らないわよ?」

 

 

 そうして歩いているが……俺はあることに気づいた。

 

 

「おい、お前らの家はこっちじゃないだろ」

 なぜか、あの5人はあのマンションとは別の方向に歩き出していたのだ。

 

 だが、それを指摘されたにもかかわらずアイツらは進むのを止めない。

 

「違うよー」

「こっちこっち」

 

 それどころか、こっちが正解だと言い始める始末。

 

 

「おい、アイツら気が触れたのか?」

「さーて、どうだろうな?」

 

 思わず隣でバイクを引く奏二に聞くが、返ってきたのは不敵な笑みだ。

 

 

 あれか?体力がない俺への当てつけか?

 

 大体、体力がないのは三玖も同じなので遠回りは諸刃の剣みたいなもんだと思うが……。

 

 

 

 変な行動をとっている6人に、なんか嫌な予感を感じるが……とりあえず、謝っておくか。

 

 

「黙って辞めた事は悪かった。だが……もう俺は家庭教師には戻れねえ」

 

 

 と、すると5人は立ち止まり一枚の紙を見せてきた。

 

 

「履歴書?」

「コイツらの新しい家庭教師だ。一応顔は合わせてある」

 

 奏二の説明を聞いて改めてその紙を見ると……見た目は怪しいが、経歴は申し分ない。

 

 

「そ、そうか。意外と早く決まったな。

 

 

 東京の大学出身で元教師。へぇー……」

 

 とりあえず、何か返しておかないと間が持たないし、妙な感じが湧いてきたので思考を総動員して当たり障りのない言葉を返す。

 

「優秀そうな人で良かったじゃないか。

 

 

 見た目は怪しいが、この人と奏二ならお前達を赤点回避まで導いてくれるだろう」

 

 

 そう。俺と奏二には出来なかったコイツらの赤点回避を……な。

 

 

 

 と、強引に納得しようとしている俺に、二乃がそれで良いのかと言う顔で。

 

「このまま次の人に任せて、私たちを見捨てんの?」

 

 

 また、何というか嫌な言い回しをしてきた。

 

 

 まあ、そこに嫌気を感じるのは……それを自覚しているからだな。

 

 

「俺は2度のチャンスで結果を残せなかったんだ。

 

 

 次の試験だって、うまくいくかは限らない。

 

 

………だったら、プロに任せるのが正解だ。

 

 

 これ以上、俺の身勝手にお前らを巻き込めない」

 

 勉強を嫌がるコイツらに、色々な手を使って勉強をやらせたくせに、いざ自分が結果を出せないとなった途端に逃げ出す。

 そんな俺がコイツらに顔を合わせるのは後ろめたい気がして、正論に逃げる俺だったが、そこに二乃が詰め寄って。

 

 

「そうね。あんたは……どうしようもなく身勝手だわ!」

 

 と、はっきりと言い切りやがった。

 

 そこまで言い切られるのは流石に文句の一つでも返そうとおもったが、反撃は許さないと言わんばかりに捲し立てた。

 

 

「あんたが身勝手だったせいでしたくもない勉強をさせられて!

 

 

 

 必死に暗記して公式覚えて!

 

 

 

 でも、問題解けたら何だか嬉しくなっちゃって!

 

 

 

 あんたのせいでここまで来れたのよ!

 

 

 だったら……最後まで身勝手なままでいなさいよ!

 

 

 謙虚なあんたなんて気持ち悪いわ‼︎」

 

 

 

 褒めてるのか貶してるのか分からない事を言い出した二乃に呆気に取られていると。

 

 

「俺たちのゴールはコイツらの卒業だ。

 

……ここで諦めるのはまだ早いんじゃないか?」

 

 

 奏二が5人を見ながら発した言葉に、俺は忘れかけていたこの家庭教師の仕事の最初の決意を思い出した。

 

 

 

 俺のゴールは……コイツらを笑顔で卒業させる事。

 

 

 そして……この5人も赤点脱出に向けて着実に歩き出している。

 

 

 俺が今までやってきた事は、結果は振るわないが……無駄じゃなかったんだな。

 

 

 だが……俺はもう。

 

 

「………俺はもう、戻れないんだ。

 

 俺は家庭教師を辞めて、お前らの家に入るのさえ禁止されている」

 

 俺はもう決断を下した後であり、時を巻いて戻す事はできやしない。

 

……後悔先に立たずとはよく言ったもんだな。

 

 

 

「それが理由?」

「ああ、早く行こうぜ」

 

 そうして、家に向かうことを促す俺に一花が。

 

 

「もう良いよ」

 

 と、突然ケーキを受け取った。

 

「え?」

「ケーキ配達ご苦労様」

 

 その行動の意味がわからない俺はとりあえず。

 

「いや、まだここは……」

 お前らの家じゃないと言いかけたが。

 

 

「ここだよ。

 

 

 

 

 ここが、私たちの新しい家」

 

 

 後ろにあったアパートに視線を向けながら、とんでもないことを言い出した。

 

 

 

「どういう意味だ……?」

 意味がわからないので聞くと契約者は別人であるものの、一花が借りたらしい。

 

 そして……

 

「今日からは私たちはここで暮らす。

 

 

 

 これで、障害は無くなったね」

 

 コイツらは、俺の為にこの生活を選んだ………と?

 

 

 

「嘘だろ……たったそれだけのために………。

 

 

 

 

 あの家を手放したのか?」

 

 

 ただ、家庭教師を辞めただけでこんな大ごとになるとは思わなかった俺は、思わず食ってかかる。

 

 

「馬鹿か!

 

 

 今すぐ前の家に戻れ、こんなの間違ってる!

 

 

 このままあの家で、新しい家庭教師を雇えば……奏二も何とか言ってやれよ!」

 

 だが、あまりにぶっ飛んだ行動に、どう言えば良いのかも思いつかないので奏二にも話を振ると。

 

 

「この規格外なお嬢様方に、俺がどうこう言って止まると思うか?

 

 恐らく、あの親父さんが止めても止まらないと思うぜ」

 

 と、お手上げと言わんばかりに笑うが、その顔は何だか楽しそうだ。

 

 

 コイツの酔狂な所は知っているが、流石に度が過ぎると口を出そうとしたが、それを封じるように四葉があのマンションのカードキーを取り出し。

 

 

「上杉さん?前に言いましたよね。

 

 

大切なのはどこにいるかではなく……5人でいることなんです!」

 

 

 そんな言葉と共に放り投げた!

 

 

「………やりやがった‼︎」

 

 宙を舞うカードキーに目線を奪われながら、俺はコイツらの覚悟を思い知った。

 

 

 いくらバカな奴らとは言え、流石に今の生活とこれからの生活のどちらが良いかくらいはわかるだろう。

 

 

 だが……コイツらは俺を家庭教師にする為だけにあの狭いアパートでの生活を選んだのだ。

 

 

 

 そこまでの覚悟を持ったコイツらに比べて、俺は一体何をうじうじと悩んでいたのだろうか……何だか馬鹿馬鹿しくなってくる。

 

 

 そうして急速にクリアになっていく頭に気を取られた俺は……凍結した路面に足を滑らせて、自分の体が背後にある川に傾いていくことにようやく気づいた。

 

 

 

 そして、遅れて俺の頭には走馬灯が浮かんでくる。

 

 

「さよなら」

 

 

「必要とされる人になれてるよ」

 

 

「久しぶり」

 

 

………あれ?なんだか直近すぎるな。

 

 

「どうしたらアイツらがまとまってくれるんだ」

 

 

「ここで俺が溺れたら……」

 

 

………まさか、この発言が盛大な振りになろうとは。

 

 

 何だか皮肉めいたものを感じずにはいられない俺が、水面に叩きつけられたのと同時に。

 

 

 

「………⁉︎」

 

 

 俺の周りには、5人の少女たちがいた。

 

 

 

 

 

 風太郎が足を滑らせたかと思いきや、何と5人も後を追うように川へとダイブした。 

 

 

 

 何を言っているのかわからないと思うが、俺もよくわからない。

 

 

 兎に角俺がやる事は……うん。

 

「フータロー、大丈夫⁉︎」

「全員で飛び込んでどうするんですか⁉︎」

「1人も飛び込む必要はねえんだよ、このバカヤロウが‼︎」

 

 すっとぼけたことを言い出した五女に突っ込みつつ、サドルの下にある収納場所からロープを取り出した。

 

 冬服の素材は、大体水を吸うと重くなるようなものばかりだし、このクソ寒い時期の冬の水中が身体に堪えないはずがない。

 

 

 咄嗟に俺はメットへロープをくくりつけ、あいつらの近くに投げる。

 

「町谷君!」

「さっさと上がりな!冷えた体に重たくなった厚着は、普通に沈むぞ‼︎」

 

 

 それに五月が捕まったのでこっちに引き寄せていると、四葉が自力で上がってきた。

 

「町谷さん、手伝いますよ!」

「お前は家に戻って風呂の準備しとけ!……クッ、重いなコンチクショウ‼︎」

「はい!」

 

 ダッシュで家へと向かった四葉に目を向けずに五月を引っ張っているが……予想外に重かった。

 

 水を吸って重くなった服があるとは言え、重すぎやしないだろうか。

「重いのは水を吸った服のせいです!私が重いわけでは……!」

 疑惑の目を向ける俺に、心外だと抗議する五月を何とか引っ張り上げていると、三玖が風太郎の元へ。

 

 

「三玖、何やってんだお前「たった2回で諦めないで、フータロー……」

 

 まずいことになる前にさっさと上がって欲しいが、それを止めるのは何だかよくない気がしたので俺はそちらに目を向ける。

 

 

「今度こそ私たちは出来る………フータローとならできるよ!

 

 

フータローが私達に5人でいて欲しいように、私は…私たちはフータローにいて欲しい!

 

 

 それに、成功は失敗の先にある……でしょ⁉︎」

 

 三玖が珍しい大声で風太郎に語りかけていると、一花が岸にたどり着く。

 

 

「………二乃?」

「……二乃、どうしたんですか⁉︎」

 

 そして、二乃の様子がおかしいことを伝えてきたので二乃の方を見ると、二乃が必死にもがいている様子だった。

 

 

「二乃、どうしたの⁉︎」

「つ、冷たくて身体が……!」

 

 それを聞いて、俺はいよいよヤバくなったことを悟る。

 

 

「あいつ、身体が鈍り始めてる!」

 人間は体温が低い状態が続くと動きが鈍る。

 

 そして、服は水を背負って重くなるから……あのまま放っておけば心肺停止で水死体の出来上がりだ。

 

 

 しかし、ここからではロープがギリギリ届かない。

 

 そうなると……!

 

「風太郎!二乃を…「分かってる!」

 

 二乃の近くで三玖と共に浮かんでいる風太郎に声をかけようとした時、風太郎は既に二乃の元へと向かっていたのであった。

 

 

 

 

 

「町谷さん!お風呂沸かしてきましたよ!」

「おう……って、お前着替えてくりゃよかったのに」

「みんなが心配で……それに、お馬鹿は風邪ひかないって言うじゃないですか」

 

 戻ってきた四葉に返事をしながら、他の面々が二乃の引き上げを完了して一息ついているのを見ていると、最後に岸に上がった風太郎が吹っ切れた様子で。

 

 

 

 

 

「これだからバカは困る。

 

 

 なんだか、お前らに配慮するのも馬鹿馬鹿しくなってきた。

 

 

 俺もやりたいようにやらせてもらう。

 

 

 

 だから、お前ら俺の身勝手に付き合えよ……最後までな‼︎」

 

 

 これぞ上杉風太郎、と言わんばかりの言い回しで新しい家庭教師の履歴書を思い切り破いた。

 

 

 

 そして、その光景をしっかりと見届けた俺は。

 

「五月、俺は少し席を外すから……チキンとシャンメリーは食っちまって良いぜ」

「……嫌です。あなたの分は残しておきますから、絶対に帰ってきて下さいね」

「……それ、俺死んじゃうフラグじゃねえか」

 おそらく冷め切ってるチキンとキンキンに冷えたシャンメリーを五月に渡して、「ある人」の元へと向かった。

 

 

 

 

 先程の寒空とは真逆な、暖かいけど物凄く狭い場所にて。

 

 

「……昨日、一花から部屋を借りたのでそこでみんなで暮らすと連絡があったんだが、君は止めなかったのかい?」

「止めて聞くような奴らじゃないでしょ。それに、あんたが風太郎の出入り禁止を表明したのに合わせるようにそれを言ってきたって事は……」

「娘達が彼に何らかの感情を抱いている……と?」

「そう言う事だろ。でなきゃあんなバカな選択はしないさ」

 俺は、話があると呼び出してきた雇い主……ようは五つ子達の親父さんと駐車場に止まっているリムジンの中で話していた。

 

「勿論風太郎から頼んだわけでもないですよ。

 

……この音声を聞けば分かると思いますが」

 勿論、先程のドボンのところまでを納めた音声を早速資料として使用している。

 

 

 それを聞いた親父さんは暫くの沈黙の後。

「僕には理解できないね。彼のどこにそこまで入れ込む要素があるのか……友達の君の前では悪いが、僕は彼が嫌いだ」

 

 動かない顔に少しの苛立ちを見せて、風太郎への敵意を口にした。

 

 別に、人の好き嫌いに対して文句を言うつもりはない。

 

 だが……風太郎があの5人に気に入られたのにはしっかり訳があると思う。

「……多分、あいつらにあそこまで食らいついたのがあいつが初めてだった。とかじゃないんすか?

 

 無礼を承知でいうけど、あなたのやり方はペットの飼育環境を整える飼い主みたいだ」

「………なに?」

 

 愛があっても金がないと育児はできないのは間違いないし、この人のスタンスは何らおかしな事はない。

 

 ある程度の管理下の中で自由に生きさせようとする……親が考える育児環境の最適解だろう。

 

 

 でも………いい環境だけでは成り立たないのが、ペット飼育と育児の違うところだ。

 

 

 

 俺は、突き刺すような視線になぜか恐怖を感じることなく。

「環境は大事だけど、人を育てる主要素はあくまで人だ。

 

……そっちのやり方を否定する気はないけど、それをもう少し考えてもバチは当たらないさ」

 

 

 そう、言い切る事ができた。

 

 それは多分……奏一さんや俺がいた施設の職員、所長とかの俺を育ててくれた人たちが、そうさせてくれたんだと思う。

 

 

 そして、それを聞いていた親父さんは。

 

 

「ならば、もう一つ君には仕事を頼もう………定時報告以外にも、今後娘達や上杉君の行動に何か変化があったら、僕に伝えるように」

 

 そこまで言って俺に降りるように指示してきた。

 

「………任務了解だぜ」

 

 言いたい事は山ほどあるが、取り敢えず歩み寄ろうとするならいいかな。

 

 

 

「さて……ご馳走がなくなる前に帰るか」

 

 俺は、止めていたバイクのキーを回した。

 

 

 

 

「……着く前に連絡をくれてもよかったのではないですか?」

「……こんな寒空で待っててくれなくてもよかったんだぜ?」

 

 あのアパートにたどり着いた俺の目の前には、濡れた服から着替えをしたらしい五月が待っていた。

 

「まあ、それはそうなんですけど……ほら、アレです!忠犬ハチ公みたいな感じです!」

「そうかい……でもまあ、悪い気はしないな」

 

 軽口を叩きはするが、待っててくれている人がいると言うのは久しぶりのことで少し嬉しい。

 

 

 しんみりは苦手な俺だが……今日くらいはいいよな。

 

「やけに素直ですね……さあ、お家に帰りましょう」

「へーへー」

 

 

 そうして階段を登り出した五月の後をついて行こうとすると、五月は俺に小さな箱を差し出して。

 

 

「メリークリスマス、町谷君」

「……おう、サンキューな」

 

 

 聖なる夜の始まりを告げた。

 

 

 

 




いかがでしたか?

 現状奏二はマルオさんに雇われた密偵のような感じとなっております。

 そして、ここから7巻のストーリーに入っていく訳ですが、色々考えて遅くなるかもしれませんのでご了承ください。

 それでは次回もお楽しみに!
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