五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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お久しぶりです。

色々忙しくて結構投稿頻度が空いてしまいました。

楽しんでいただければ幸いでございます。

あと、いつも誤字脱字の訂正ありがとうございます!


奏二の秘密
五月を家に泊めた次の日、同じシャンプーを使ってた事をクラスメイトに感づかれ、質問攻めにあった。


第18話 新年、新生活、宣戦布告

 風太郎が五つ子に雇われた家庭教師に、俺は親父さんに雇われた家庭教師補佐と言う少し複雑な状況になってから少し経ち。

 

 俺が大掃除やら客への挨拶回り、忘年会への出席などをこなしている間に年末を迎え。

 

 年明けに初詣にやってきた俺は、上杉兄妹と一緒に中野五姉妹が住まうアパートに招待されていた。

 

 

「キスしました……」

「ロマンチックだわ」

「録画してよかったね」

 

 テレビの前で張り付いている五月、二乃、四葉。

 

「恋愛ドラマなんて、どれも似たり寄ったりだと思うんだがな……」

「あはは……でも、こう言うのを見てみんな恋を勉強するんだぞ?ソージ君」

「何のために呼んだんだ……らいは、帰るぞ」

 

 それを遠巻きに眺めていた俺、一花、風太郎が立ち話をしていると、台所にいた三玖が重箱を片手にやってきた。

 

 

「3人とも、あけましておめでとう……お節作ったけど、食べる?」

「………手作り?」

「そうしたかったけど、スーパーで買ってきたものを詰めただけだよ」

 

 

 とりあえず、味は大丈夫そうだ。風太郎もホッとしている。

 

 

 安全性を確認していると風太郎の隣にいたらいはちゃんがなんだか居心地が悪そうにしていた。

 

「どうした?まあ、この部屋で8人は流石に多いと思うが…」

 

 すると、思ってたのと違うと言った顔で。

 

「えっとね……奏二さん。

 

 私、勘違いしてたみたい。

 

 お兄ちゃんやお父さんから、中野さんのお宅はお金持ちって聞いてたから」

 

 

 と、前と比べてずいぶん質素になった居間を見て感想を漏らした。

 

 

「あはは……まあ、色々ありまして」

「何もない部屋でごめんね……そうだ、振袖も大家さんに返しに行かなくっちゃ」

「ひとまず今は、必要なものから揃えてる段階です」

「じゃあ、テレビは後回しでいいだろ」

 苦笑しながら5つ子がこたつに入っていく。

 

 まあ、この時期といえば炬燵だが……流石に人が多いので俺は遠慮しておく。

 

 

 そのため少し離れたところに風太郎と共に座ると、二乃がそれを見咎めた。

 

「あんたら、何でそこに座んのよ………さむいでしょ、炬燵入んなさい」

「……だ、そうだぜ?2人とも」

「……なら、らいはが」

「ほーら、遠慮しない!」

「そうですよ。それに、私達だけ入っていても申し訳ないですし」

 俺達がらいはちゃんだけ炬燵に入らせようとすると、一花と五月が後ろに回り込み。

 

 

「そうだ、お疲れだろうしマッサージしてあげるよ」

「町谷君もどうですか?」

 

 と、またすっとぼけたことを言い出した。

 

「別に疲れてないが……」

「俺も、自分でケアできるし……俺の家にマッサージチェアあったのは知ってるだろ?」

 

 行動の意図が掴めず、困惑する俺と風太郎だったが風太郎の周りには一花、二乃、三玖、四葉が集まり、なし崩し的にマッサージを受けていた。

 

「奏二さん、お兄ちゃんがモテだした……!」

「絵面はハーレムだぜ………わかった、お願いするからそうむくれるな」

 

 拝みはじめたらいはちゃんを横目に、肩を揉んでもらうことにしたが……まあ、普段からマッサージチェアでコリはほぐしているものの、人の手によるマッサージはまた別物だよな。

 

 

「髪留め……使ってくれてるんですね。輪ゴムで留めてる時があったから心配だったんですよ」

 

 そうしてしばらく揉まれていると、五月は俺の三つ編みを見て何かに気づいたようだ。

「でもよ、あれ結構楽なんだぞ?」

「おすすめみたいにいうものではありませんよ?綺麗な髪してるんですから、もう少し労ってください」

 

 クリスマスに俺がもらった小箱の中には、髪留めがいくつか入っていたのだ。

「前向きに検討する方向で善処するよ」

「前向きな言葉なのに、なぜかやらないイメージしか浮かばないのですが…」

「気のせいさ。お前も新年だしこの際もう少し頭を柔らかくしたほうがいいぜ?」

「新年だからって口がよく滑るのも考えものですが……まあ、今日は聞かなかった事にしてあげます」

 

 いつもの応酬を繰り広げていると、風太郎の身体をいじっていた4人が。

 

「……ねえ、2人とも実は付き合ってたりする?」

「2人だけの世界をすぐ作るわよね、あんた達」

「羨ましい」

「本当に仲良しだね、2人とも!」

 

 

 四者四様な感想を述べていた。

「………折角だし、俺も揉んでやろうか?」

「せ、セクハラはダメですよ⁉︎」

「なんでやねん」

 

 

 

 

「風太郎にお礼?」

「ええ。何かいいアイデアはありませんか?」

 

 数分後、俺は5人に招かれたかと思いきや、風太郎へのお礼について聞かれていた。

 

 

 どうやら、風太郎が仕事でもないのに家庭教師を続けていく事に対して何かしたいそうだ。

 

「さっきのマッサージとお菓子、あの福笑いでいいんじゃねえの?」

「できれば、もう少し何かしてあげたい……」

「お父さんにはできるだけ頼りたくないしね」

 

 どうやら風太郎と言うお題に関しては、親父さんは完全に敵視されているようだ。

 

「とは言え、私たちが彼にしてあげられることって………」

 

 「親の心子知らず」と言う諺を思い浮かべたところで一拍置いて。

 

 

「不純です!」

「あんたも同じこと考えてたでしょ!」

 あのドラマのキスシーンでも思い浮かべたのか、顔を赤くして湧き出した。

 

 

「ちなみに四葉は何考えた?」

「金メダルです!」

「うん健やか」

 まあ、1人だけやたらと健やかなのがいるが。

 

 

 そして、残りの不健全達はまたも話し合う。

 

「あはは…それでフータロー君が喜ぶとは思えないけど」

「アイツも男だから分からないわよ。女優ならほっぺにくらいできるんじゃない?」

「じょ……女優をなんだと思ってるの!」

 二乃に突っ込む一花をゲーム片手にみていると、三玖の方を向いて。

 

「でもそれなら……私より三玖の方が適任じゃないかな!」

「私?私が………フータローに……」

 

 ご指名を受けた三玖は、しばらく間を置いたかと思えば。

 

 

「だ、だめだよフータロー………

 

 やめて………やっぱやめないで………」

「あんたが止まりなさい」

「みんななんの話をしてるの?」

「思春期の話さ。四葉にはまだ早いぜ」

「むむ、町谷さんまでお子様扱いして!」

 体育座りでモジモジしながら、妄想を垂れ流すムッツリにジョブチェンジしていた。

 

 とりあえずお子様に聞かせていい内容ではないのでモラルガーディアンとしての責務を全うしていると、五月が料理を打診したが、二乃がそれを止めた。

 

「だめ……せっかく忘れたんだから」

「……?どう言うことで」

「兎に角、料理は無しで進めてちょうだい」

「……分かりました」

 

 

 その顔は何かに迷っている様子で……後で探りを入れるとしよう。

 

 と、思ったところで一花が取り出したのはポチ袋。

 

「となると、やっぱりこれじゃない?」

「……お年玉?」

「うん、少ないけどね」

「相場はどれくらいのもんかは分からねえが……まあ、いいんじゃねえの?」

 

 なんせ生まれてこの方貰ったことがないからな。

 

 物心ついてない時にワンチャンもらってるのかもしれないが………まあ、もう使っちゃってるだろう。

 

「そうだね。予定通りあげよう」

「ですね。上杉君も1番喜ぶと思います」

 

 という事で、お礼はお年玉となったところで一花が扉を開けると。

 

 

「‼︎」

「一花、動くな」

 

 突如風太郎が一花に急接近した。

 

 

「え、ちょ、何………」

 

 突然のことに対して面食らう一花だが、それにかまわない様子で風太郎は真剣な眼差しを向ける。

 

 

 それに面食らった俺たちが固唾を飲んで見守り、当の一花は目を閉じてMtM受け入れ態勢を見せていると。

 

 

「やはり!

 

 

 これが一花の口だ!間違いない!」

「えー、こっちだと思うけどなー」

 風太郎はらいはちゃんの元へと戻っていった。

 

 

 そして、2人の視線の先にあるのは………

 

「福笑いか……まあ、ルール変わってるけど」

「わー、遊んでくれてるんですね!」

「四葉、これでどうだ?」

「えー、どれどれ……」

 小会議の前に四葉が風太郎に渡していた福笑いだった。

……一花が骨抜きになってるのに目を向けてないのを見ると、他意がない分なんだか憐れだ。

 

 無意識の残酷さに苦笑いを浮かべる前では、風太郎の頬にクリームらしきものが。

「おい、なんか「上杉さん、クリームついてますよ」

 

 

 四葉の口に吸い込まれていった………

 

「「「「‼︎」」」」

「無欲の勝利、だな」

 

 姉妹達が呆気に取られ、俺が思わず口笛を鳴らしていると四葉は自分が何をしたのかを理解した様で。

 

 

「お、お兄ちゃん⁉︎四葉さん⁉︎」

「今のほっぺにチューが、家庭教師のお礼ということで……」

 

 流石に照れた顔でそれっぽく言い訳したが……そのせいで三女からなかなかの密度の殺気が溢れ出ているのをどうするおつもりなのやら。

 

 

 殺気立つ三玖を抑えていると、五月が風太郎に現状だと報酬を出せない事を伝えていた。

 

 

 だが、風太郎は………

 

 

「出世払いで結構だ」

「え?」

 

「その代わりちゃんと書いとけよ!

 

 1日1人5000円!

 

 1円たりともまけねえからな!」

「うわー、ゲバい」

 

 中々の守銭奴っぷりを見せつけてきた。

 

 

 さすが、焼肉定食焼肉抜きの男は伊達じゃない。

 

 だが……結果としてはそのお年玉も「出世払い」と言うことになるのであった。

 

 

 

「ソージ君、いる?」

「ありがとう」

……おこぼれに預かれたので俺としては文句はないけどな。

 

 

 

 

 そんな年明けを過ごしてから数日も経った頃。

 

「もう、こんな生活うんざり!」

 

 勉強会の為に来た俺と風太郎の前では、朝っぱらからまた不穏なセリフが飛び出した。

 

 

 

「お前ら一部屋で寝てたのか」

「まあ、ここの間取り的にそうならざるを得ないしな」

 このアパートの間取り的に、五つ子達の寝床は個室ではなく一部屋に布団を並べて寝ると言う川の字スタイルになる。

 

 

 だが……こいつらは寝相が悪いのだ。

「なんで私の布団に潜り込んでくんのよ!」

「さ、寒くって!」

「あんたの髪がくすぐったいのよ、さっぱり切っちゃいなさい!」

「あー!自分は切ったからってずるいです!」

 例えば、五月が二乃の布団の中に入ってたり。

 

 

「お布団は久々で、まだぐっすり寝られてません」

「……四葉はもう少し寝付けないほうがいいと思う」

 

 四葉をジト目で見る三玖の右頬にはあざが出来てたりな。

 

 

 しかし、コイツらのパジャマ姿ひとつとっても、案外違いはあるなと改めて思う。

 

 二乃はパーカー、三玖はスタンダードなやつ、四葉は着ぐるみ、五月はネグリジェと。

 

 

 こうして観察していると意外と面白いもんだ。

 

 

 若干変態じみた思考をする俺の前では、姉妹達が生活環境の変化に嘆いている。

「フカフカのベッドが恋しいわー」

「そうですね、私もお布団は久々ですが……慣れるまで我慢しましょう」

「生活水準のダウンに適応できてねえじゃねえか」

「はあ、新生活始まってこれか……」

 

 風太郎が、ため息と共にこの騒ぎの中でまだ眠っているやつを指さし。

 

「この騒ぎの中でぐっすりと眠っている一花を見習え!」

「見習えって………」

「すでに汚部屋の片鱗が見え始めていますが……また掃除しないと」

 姉妹達の言う通り、一花が寝ている場所には服や雑誌が散乱している、いわば人の夢を壊しそうな状態となっていた。

 少なくとも、これを見習い出したら人間としては終わりである。

 

 

「一花、朝だ!

 

 早く起きて勉強するぞ‼︎」

「あ、上杉君‼︎」

 風太郎がそんな一花を起こそうと声を上げると、一花は目を開いてこちらを向き。

 

「あ、フータロー君にソージ君。おっはー」

 

 布団のおかげでR18とまでは行かないが、この季節では気が狂ってるとしか思えない、裸であった。

「一花⁉︎……町谷君、見たらどうなるかはわかってますよね?」

「見えてるんだから仕方ないだろ、悲しい事故だぜ」

「見えていても見なければいい話です!」

 五月に脅されている俺の隣では。

 

「フータローのえっち!見ちゃダメ!」

 

 三玖が風太郎に目隠しをしており。

「というか……よく考えたら、2人して乙女の寝室に入ってくんじゃないわよ!」

 

 最後は二乃に部屋から追い出され、準備が終わるまで居間に腰掛けるのであった。

 

 

 

 

 

 そうして準備が終わり、いざ勉強となったのだが……先程の騒動の元凶となった長女様は。

 

 

「……おい、起きろ」

「一花」

「あ、ごめん」

 

 コタツの中で舟をこいていた。

 

 四葉に揺すられて目を開けた一花は、先程のことについて苦笑する。

 

「フータロー君にソージ君も、先程はお見苦しいものをお見せして申し訳ない。

 

 

……それともご褒美だったかな?」

「冬くらい服着て寝ろ!」

「そうそう、こっちにとっては眼福だか目に毒だかわかんねえしな」

 

 俺と風太郎の突っ込みを受けて、一花は自分でも分からないといった顔で。

「……習慣とは恐ろしいもので、寝てる間に着た服を脱いじゃってるんだよ」

「え!授業中とか大丈夫?」

「あはは、家限定だよ」

 先程の朝チュンのような状態の理由を明かしてきた。

 

 

「授業中に寝る前提で話が進んでる……」

「否定してねえぞコイツ……まあ、ストリップショーになってないだけマシか」

 むしろ、脱いでもらうための金を払うまでもなく勝手に脱いでるのだから、ただの露出魔かもしれない。

 

 アホな事を考えていると、一花は弁明しながら。

「なんだと……?」

「あ、安心して?これからは勉強に集中できるように仕事をセーブさせてもらってるんだ。

 

 

……次こそ、赤点回避してお父さんをギャフンと言わせたいもんね」

 

 風太郎に発破をかけた。

 

「そうね。目にもの見せてやるわ」

「うん、頑張ろうフータロー」

「私も、今度こそ……!」

「そうですね。

 

 

 全員で合格してお父さんに上杉君を認めさせましょう」

そして、他の姉妹も賛成の意思を示した。

 

「……ふん、赤点なんて低いハードルに、これほど苦しめられるとは思わなかった」

「……お、デレ太郎だ」

「しかし!

 

 三学期末こそ正真正銘のラストチャンスだ。

 

 

 さっそく始めよう!まずは俺と一緒に冬休みの課題を片付けるぞ!」

 

 俺の発言をかき消すように大きな声で、課題の消化を提案するが、前髪をいじるのはコイツ照れている時の仕草と言うのを俺は知っている。

 

 

 そんな豆知識を披露したところで中野家の面々の反応は……

 

「え?」

「え?」

 

 五女がポカンとした顔をして。

 

「ふふ」

「あはは」

 

四女と長女が笑い。

 

 

「フータロー」

「アンタ、流石にそろそろ私たちを舐めすぎよ。

 

 

 

課題なんて、とっくに終わってるわ」

 

 三女と次女が完遂させた課題を風太郎の前に差し出した。

 

 

 

「あ、そう………奏二は?」

「年内に終わらせてあるぜ。俺は8月31日に焦るバカな子供とは違うんだ」

 俺も5人と同じようにノートを出すと、風太郎はマジかよと言わんばかりの顔で。

「そうか……じゃあ、通常通りで」

「あなたは今まで何をやっていたのですか?」

「私たちが手伝ってあげましょーか?」

「う、うっせー!」

 

 五つ子に煽られる風太郎と言う珍しい構図が発生しながらも今度こそ勉強会が始まった。

 

 

 

「私たちも働きませんか?」

 最近、一花が仕事の量を増やしている。

 

 理由は明白で……

「私たち5人の生活費を、1人で賄ってくれているのよ……もう少し寝かせてあげなさい」

「貯金があるから気にしなくていいって、本人は言ってたけどね……」

「こうやって、フータロー達に教えてもらってるのも、全て一花のお陰」

 

 私たちの暮らしているアパートの家賃や生活費を1人で賄っているからだ。

 

 その為今のように勉強会の中でも居眠りしてしまうほど疲れているのだろう。

 

 だから、こうして提案してみたのだ。

 

「まあ、担い手が増えれば一花の負担は減るだろうな」

 何か反応が欲しいので、町谷君の方に視線を向けるといつのまにか出していたパソコンをいじっていた。

 

「勉強の邪魔にならないようにですけど……少しでも、一花の負担を減らせたらと思いまして……」

「俺が斡旋してやれる仕事で、お前らでもできそうなのはちょこちょこあるけど…今リストアップするから待っててくれ」

 

 流石の手回しの早さにいつもながら驚いていると、上杉君が面接官のように質問してきた。

 

Q.「今まで働いた経験は?」

A.「ありません……」

 

Q.「勉強と両立できるのか?赤点回避で必死なお前らが」

A.「うっ………」

 

 今の私たちの最優先課題を突きつけられて言葉に詰まった私はしばらく考えて。

 

 

 

 

 

「それなら……私も家庭教師をします!」

「⁉︎」

 

 絞り出すように出した答えに、上杉君と町谷君はびっくりしたような顔をした。

 

 

「教えながら学ぶ!

 

 これなら自分の学力も向上して一石二鳥です」

「辞めてくれ……お前に教えられる生徒がかわいそうだ」

「小学生の勉強見たって学力向上には繋がらねえわな」

「なんで小学生って決めつけるんですか⁉︎」

「いや、すまん。幼稚園児か」

「町谷君‼︎」

 新年で浮かれているのか、口を滑らせまくる町谷君に詰め寄っていると四葉が。

 

「それならスーパーの店員はどうでしょう?

 

近所にあるのですぐに出勤できますよ」

「即クビだな」

「即答⁉︎」

 まあ、あっちは上杉君に一蹴されているけど。

 

 そして三玖は……予想外な職業を。

 

「私……

 

 メイド喫茶やってみたい」

「⁉︎」

 

 メイド喫茶って、確かフリフリのメイド服を着て「お帰りなさいませ、ご主人様!」ってやるやつだ。

 

 それを三玖がやると………

「ふ、不純です!却下です却下!」

「不純というのは極論かもしれねえけど、妙なトラブルに遭うリスクはあるな」

「意外と人気出るかもしれないぞ?」

「でも、この街にメイド喫茶はないぜ」

「むう……いい案だと思ったのに」

 

 そう肩を落とす三玖の横では。

「二乃は……やっぱ女王様?」

「やっぱって何よ!」

 

 四葉が二乃に突っ込まれていた。

 

「冗談冗談!

 

 でも、二乃はお料理関係だよね。

 

 

 だって、二乃は自分のお店を出すのが夢だもん」

 そして、訂正しながら二乃が小さな頃から抱いていた夢を口にする。

 

「へえ、初めて聞いたな」

「まあ、前にちょい見せてもらったけど中々の腕だったしな。そこに行き着くのもわかる話だ」

「……子供の頃の戯言よ。気にしないで」

 男性陣の反応を受けて、二乃は照れ臭そうにそっぽを向いていた。

 

 

「それならお前らに一つ言いたいことがある。

 

 

 居酒屋、ファミレス、喫茶店。

 

 

 和食に中華にイタリアン。

 

 

 ラーメン、そば、ピザの配達と、俺はさまざまなバイトを経験してきたが、どれも生半可な気持ちじゃこなせなかった」

「食べ物系ばっかり!」

「賄いが出るからでしょう」

「しかも、一年に9個経験って……お前一職毎はかなり短いじゃんか」

 そんな私達に上杉君は何か言い出し、私や四葉に町谷君のコメントを聞き流しながら。

 

「仕事を舐めんなって事だ!

 

 

 バイト探しもいいが、試験を突破してあの家に帰ることができたら全て解決する。

 

 その為にも今は勉強だ……一花が女優を目指したい気持ちもわからんでもないが、今回ばかりは無理のない仕事を選んで欲しいもんだな」

 

 と、眠る一花に目を向けながらそう締めくくろうとしたのだが。

 

 

 

 一花はそんな上杉君に反応したのか、はたまた癖が出たのか。

 

 

 

「んー……」

 着ている服をいきなり脱ぎ出そうとしていた。

 

 

「フータロー、見ちゃダメ!」

「町谷君、今度は見えたなんて言い訳は通じません!目を閉じてください!」

「まったくよ、この変態‼︎」

 

「「えー………」」

 

 止めに入った私達に、2人は理不尽だと言わんばかりの声を上げるのであった。

 

 

 

 

 ある日の夕方。

「すげえ、ここのサンドイッチ結構高いってのに……さすがは院長様ってところか」

 

 買い物を終えた俺が喫茶店で一息ついていると、そこに親父さんと五月が入ってきたかと思いきや、早速サンドイッチ全種を頼んでいた。

 

 

 どうやら五月の大食っぷりは理解しているようだ………ってそうじゃねえ。会話を聞いておかないと……

 

 

 

 

「ああっ、お気遣いなく!」

「いらないのかい?」

「…………い、いただきます……」

 

 そうして後ろに意識を向けていると、蚊の鳴くような声で承諾をした五月に親父さんは能面みたいな無表情を少し緩めて。

「いい子だ。

 

 

 五月君は素直で物わかりがいい。

 

 

 賢さとはそのようなところを指すのだと、僕は思うよ」

 

 

「……賢さ、ねえ」

 親父さんの言う賢さは、間違っちゃいない。間違っちゃいないが………

 

 少なくとも、俺はそんな賢さなんていらない。

 賢さとは真逆の生き方をしている俺が、どうにも腑に落ちないものを感じていると。

 

「お父さん。私をここに呼んだ理由はなんですか?」

 

 風太郎の一件で警戒しているのか、どことなく緊張感を漂わせた五月の問いに。

 

「父親が娘と食事をするのに、理由が必要かい?」

 

 当たり前だけど、こいつらにとってはそうでもない事を言い出した。

 

 

 

 

「君たちのしでかしたことには目を瞑ろう。しかし、どうやら満足いく食事も取れてないようだ」

 

 

 五月がサンドイッチを平らげ、空になった皿を見ながら親父さんが話し出す。

………まあ、満足いく食事に関しては五月に対しての必要量が多すぎるだけで、他はそこまでひもじい印象は受けないんだけどな。

 

 

 だが、その次の親父さんの言葉で今回の呼び出しの目的を理解する。

「すぐさま全員で帰りなさい。姉妹全員に伝えておいてください」

 

 

 俺が報告した新しい部屋の見取り図や生活の様子を鑑みて、全員で帰るように伝えに来たんだな。

 

 この会話の内容次第では、今後の俺に影響があるかもしれないので注意しながら聞いておく。

「………それは、彼らも含まれるんでしょうか」

「上杉君と町谷君のことかい?

 これは僕たち家族の問題だ。彼らはあくまで外部の人間であることを忘れないように。

 

 

 それに、町谷君はともかく上杉君のことは嫌いだ」

 

 うーん、大人げない。

 

 以前にも聞いたがやはりそんな感想が頭をよぎる。

 

 

 

「しかし、彼らを部外者と呼ぶにはもうかかわりが深すぎます。

 

……せめて、次の試験までの間は私たちだけで暮らしt「君たちの力?それは一体何だろう。家賃や生活費を払ってその気になっているようだが……。

 

 

 明日から始まる学校の学費に携帯の契約。保険はどう考えているのかな?

 

 

 町谷君のように一人で全てを賄っていての言葉なら自立と言えるが、君たちは僕の扶養に入っているうちは何をしても自立とは言えないだろう」

 

 それはこれ以上ないほどのド正論だ。

……俺の状況を知っていたのは、まあ、奏一さんのことを知っていたのならなんとなく察しでも付いたんだろう。

 

 

「……とは言え、五月君のいう事にも一理ある。

 

 そこでこうしよう。

 

……上杉君の立ち入り禁止を解除して、家庭教師を続けてもらう」

 

 

 とそんな中で、親父さんは意外な案を出してきた。

 

 

「え?」

「ただし、僕の友人のプロ家庭教師との2人体制で、彼にはサポートに回ってもらう」

「……町谷君は?」

「江端が自分が引退した際の後任を探しているので、彼にはそのためのノウハウを積んでもらうつもりだ」

 

 そして俺にとっては寝耳に水な案も。

 

 要するに江端さんの後任にするべくクビにして経験を積ませるということになるが…。

 

 技量を見込んでくれているのはありがたいが、俺は今の何でも屋としての生活をこの先も続けなくてはならない。

 

 奏一さんから受け継いだものを無駄にしたくないというのもあるが………俺は、それ以上にこの人生全てを賭けてやらなければならないことがある。

 

 

 それは……かつて俺がいて、7年前に壊滅してしまった施設にいた仲間たちの夢を背負い、叶えること。

  

 

 物心つく前に死んだ本当の家族や、そいつらの命を犠牲にしてまで生き残ってしまった、「死神」の俺ができる、唯一の贖罪の道だから。

 

 

そして、そんな内面的なもの以外にも気になるところがある。

 

 どうしてこの親父さんはそこまで俺を囲い込もうとする?

 

 

 奏一さんと何かしらの縁があったみたいだが、それの恩返しにしてもやりすぎではないだろうか。

 

 

 よくわからないでいる俺だったが、五月も同じらしく。

 

 

 

「………前から思っていたのですが、どうして町谷君にそこまで目をかけているのですか?

 

 家庭教師の友人……それくらいの関係性しかない筈ですよね?」

 

 

 困惑顔で聞くと、親父さんは一息ついて。

 

 

 

「五月君。君は町谷君から昔の話は聞いたことがあるかな?」

「………万事屋を先代の方から受け継いだことくらいしか」

「そうか……なら、簡単に話すとしよう。

 

 

 その先代とは友人だった。そして……僕は彼の病を治してやることができなかった。

 

 だから、せめて彼の最期の願い……「俺の息子を見ててやってくれ」と言う言葉を果たしているだけのことさ」

 

 

 

 奏一さんは、不治の病に侵されていた。

……だから医者が悪いわけじゃないと奏一さん自身が言ってたし、俺だってそう思う。

 

 だが……親父さんからすればそれで割り切れるものじゃなかったんだ。

 

 どうにもならなかったって割り切れれば楽なんだろうけど、それができないのが人間だからな。 

 

 

「町谷君の話はこれくらいにして……どうだろうか?君たちにとってメリットしかない話だ。

 

 高校生2人で5人を教えるとなれば、カバーできないところもあるだろう」

「し、しかし!

 

 みんなこの状況で頑張って……」

 

 五月がなんとか食らいついていくが、親父さんはそれも予想済みなのか。

 

「四葉君は赤点回避できると思うかい?

 

 二学期の試験の結果を見せてもらったが………とてもじゃないが僕にはできるとは思えないね」

 

 と、そこまで行ったところでガタッと音がしたので一旦そっちに目を向けると、そこには何故か風太郎と二乃が並んで座っていた。

 

 

 

 「あいつらもいたのか……下手に音立てて気づかれたら、俺まで巻き添えだぜ」

 

 言いたい事はあるんだろうが、今は我慢して欲しいものだ。

 

 

 そんな外野はさておいて、再び父子に目線を戻すと。

 

 

 

「やれます」

 

 なんとそこには四葉までいたのか、親父さんに向けて告げた。

 

 

「私達と町谷さん、上杉さんならやれます。

 

 

 7人で成し遂げたいんです。

 

 だから、信じてください………もう、同じ失敗は繰り返しません」

 

 

 

 その目は、いつもの能天気なものではなく確かな決意を秘めたもので、俺は静かに驚愕した。

 

 

 

 すると、数瞬置いて親父さんが。

 

「では、失敗したら?」

 

 水を差すような問いをしてきた。

 

 そして、そこに畳み掛けるように。

「これはあまり大きな声で言えないが………

 

 

 僕の知人が理事を務める高校があって、無条件で3年からの転入ができるように話をつけているんだ。

 

 

 もし、次の試験で落ちたらその学校に転校する。

 

 プロの家庭教師と2人体制ならそのリスクは限りなく小さくなると保証しよう」

「………やっぱ、お偉いは汚い手がお好みなのかねぇ」

 ガチモンの裏口入学だし、そもそもこの呼び出しも本来全員にすべき所なのに、それをしないあたり、他のメンツだと反論されるのをわかっているからじゃないのか?

 

 そんな俺の思考とは関係なく時は進み、最後に警告の念も込めているのか。

 

「それでもやりたいようにやるのならあとは自己責任だ。

 

 

 わかってくれるね?」

 

 と、言葉の圧を強めてきた。

 

 

 元来押しに弱い四葉が押し黙り、またも沈黙が流れてから……五月が静かな口調で。

 

「……分かりました」

「では、こちらで話を進めておこう。五月君ならわかってくれると思っていたよ」

「いいえ」

 と了承する………かと思いきや。

 

 

 

「もし、ダメなら転校という条件で構いません。

 

 

 素直で、物わかりが良くて………

 

 

 

 

 

 賢い子じゃなくてすみません」

 

 

 と、笑いながら親父さんの意図を蹴っていた。

 

 

 

 それには、流石の親父さんも少し固まっていたが持ち直し。

 

 

「………そうかい。

 

 

 どうやら、子供のわがままを聞くのが親の仕事らしい。

 

 

 そして、子供のわがままを叱るのも親の仕事」

 

 ゆっくりと立ち上がり。

 

 

「次はないよ」

 

 五月に念押しして。

 

 

「前の学校の時とは違うから」

「僕も期待しているよ」

 

 四葉の言葉に月並みな返事をして、今度こそ店から出ていった。

 

 

 

 

 

 

「………そう言う事だから、考えておいてくれたまえ」

 

あ、ばれてーら。

 

 

 

 お父さんとの、胃がキリキリと痛むような会話を終え、息をついていると何故かお客さんの1人の前で止まった。

 

 

 そのお客さんを良く見ると………ハットにサングラスを付けており、三つ編みで黒いジャケットだった。

 

 

 つまり、あのお客さんは………

 

「あの、町谷君?」

「ええ⁉︎いたんですか?」

「………なんであの人にバレてたんだよ。俺、気配消すのはそれなりに自信があったんだけどな……お疲れ五月」

「あはは……それにしてもおどろきました。あなたとお父さんにそんな過去があったなんて」

 

 やはり町谷くんであり、労いの言葉といつも通りのやりとりで、妙に心をほぐされていると。

「俺も初耳さ」

「あの、町谷さん?私も頑張りましたよね?」

 

 納得がいったような顔をしていて、更にそこには上杉君と二乃まで。

 

「おいおい、この世間は狭すぎやしないか?」

「たまたまの偶然だ。

 

……それより、想像通りの手強そうな親父だったな」

「そうね。あの人が言ってる事は正しいし、わたしたちをここまで育ててくれた事は感謝してるわ。でも………」

 

 そうしてその2人も会話に入り。

 

 

「あの人は正しさしか見てないんだわ」

「………やり方はだいぶ狡いけどな」

 

 二乃がお父さんをこう評し、町谷君がやれやれと言わんばかりに続け。

 

 上杉君がため息をついた。

「だが、転校なんて話まで出てくるとは、責任重大じゃねえか」

 

「我が家の事情で振り回してしまって、申し訳ありません」

「転校……したくないね」

 

 

 私が謝罪を口にした隣で四葉がつぶやく。

 

 

 そうだ。私だって転校したくない。

 

 なんだって私はまだ………町谷君に何も恩返しができていない。

 

 

 そう、町谷君をチラリと見ながら考えていると上杉君が口を開く。

 

 

「だが……どうでもいい。

 

 

 お前らの事情も、家の事情も、前の学校も転校の条件も………どうでも良いね」

 

 

 そして。

 

 

 

「俺は俺のやりたいようにやる。

 

 お前たちを進級させる………この手で!

 

 

 全員揃って笑顔で卒業………それだけしか眼中にねえ‼︎」

 

 握り拳と共に、高らかに宣言した。

 

 

 こうして始まる。

 

 私達7人にとってのプライドをかけた戦い………

 

 

 

 学期末試験が。




いかがでしたか?
次回は学期末テスト編となりますね。



それでは次回もお楽しみに!
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