五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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どうも、更新です。

楽しんでいってください。


奏二の秘密

 クラスメートと「胸、尻、太もものどこが一番好きか」と言う議題で熱論して、「腰が細くないと他がデカくても寸胴なので、案外腰が一番重要」と言う結論に至った。
 なお、どこが好きかに関しては脱線した模様。


第19話 死神なキューピッド

「へえ……ここがお袋さんの墓か。まあ、この辺りの人なら大体ここだよな」

「ええ。ここに眠っているのが私の母です」

 

 

 冬休みが明けてから数日経った14日。

 

 月命日ということで私は毎月お母さんが眠る墓にやってくるのだが………今回はいつもと違っていた。

 

 

 私1人でのお墓参りではなく、町谷君もいるのだから。

 

 

 彼の話によると、彼の義理のお父様である「町谷奏一」さんが同じ墓地に安置されており、亡くなったのは10月15日らしいけど彼は月に一回不定期に来ているんだとか。

 

 

 それで、たまたま鉢合わせしたのである。

 

 

「俺以上にマメに来るやつがいるなんてな………折角だし線香あげさせてもらうぜ」

「ええ、勿論いいですよ。

 

……その代わり、後であなたのお父様のところにも……」

「ああ。頼むわ」

 

 そうして2人で線香に火をつけ、手を合わせる。

 

 

 

「……進路希望調査はどうしました?」

 

 そうして少しした後、私は目の前に立ち塞がった問題について2人に相談する。

 

「何でも屋の経営の継続………2年ぽっちで潰したら、あっちで合わせる顔がないしな」

 

 

 私と同じく、奏一さんと言う大きな背中を追う町谷君と………お母さんに。

 

 

「お母さんは、私にとって憧れでした。

 

 そして、そのようになりたいと思っていたのですが………空回りばかりです。

 

 

 私は、お母さんのようになれるのでしょうか」

「………」

 

 答えのない問いに意識を持っていかれそうになっているところに。

 

 

 

「お、珍しいこともあるもんだ。

 

 

 二つ揃って先客がいるなんてな……」

 

 

 聞き慣れない声がしたので振り向くと、そこには見覚えのない人が。

 

 

 いや、一応女性という事はわかるんだが………。

 

 

「よお、久しぶりだな……一番乗りは俺だぜ」

「おう奏二……って、お前なんでここにいんだ?

 

 ここは奏一の墓じゃ……」

 

 

 なんか、町谷君はしてやったりという顔をしてその人と会話をしている。

 

「えっと……初めまして」

 一体誰なのかと思いつつも挨拶をしてみるとその人は。

 

 

「うげっ………先生?」

 

 

 

 

 

 私を見て、なぜか顔を引き攣らせた。

 

 

 

 

 奏一さんの墓へやってきたら、偶然五月と鉢合わせして。

 

 

 五月と共に零奈さんの墓にお参りに来たら、またまた偶然下田さん……奏一さんの友達だった人と会った。

 

 

 そして……遺伝子とは面影さえも伝えるのか、下田さんはその娘である五月を前に驚いたような顔をしている。

 

 

 

「わっはっは……悪い悪い。

 

お嬢ちゃんがあまりに先生にクリソツだったから間違えちまった!

 

 

よく考えたら、とっくの昔に先生は死んでたわ」

「おいおい……一応その先生の娘の前だぜ?」

 

 この下田さんは、奏一さんの高校時代の友達だが……兎に角デリカシーをどこに置いてきたのかと聞きたいレベルで口が悪いのだ。

 

 

 「奏一の墓はどこだ」って、いきなりウチを訪ねてきたのは、なかなか印象に残っている。

 

「おっと、娘さんの前で言う事じゃねぇな。許してくれ。

 

 

 昔から口が悪くて、先生によく叱られたもんだ」

 

 マシンガントークというわけではないが、なかなかの勢いで話す下田さんに五月がポカンとした顔を見せる。

「五月、話についていけてるか?」

「なんとか………」

 

 

 

「ここで会ったのもなんかの縁だ。

 

 

 先生への恩返しで好きなだけケーキを奢ってやるよ。

 

 ここのケーキ屋は美味えぞ、店長はちょっと感じ悪いがな!」

「よく言うぜ、とんでもねえブーメランじゃねえか」

「まあ、野暮は言いっこなしだ奏二。あと、お前は自腹な?」

「最初から自分の分は自分で払うぜ」

 

 

 なんせ、この後下田さんは顔を引き攣らせる事だろうし……まあ、それを明かさないのは、奢られない事への抗議活動の一種だな。

 

「す、好きなだけ………」

「遠慮すんな!私に二言はねえ!」

 

 あーあ、言っちゃった。

 なんせ、食べ放題で出禁を喰らいかけるレベルの食いっぷりを、ケーキバイキングなしの店でやらせるとなれば、とんでもない額になる事が確定するのだ。

 

 

………まあ、この際たっぷり引きつってもらうとするか。

 

 口は災いの元と言う諺を頭に浮かべていると、五月がおずおずと。

 

 

「あの……下田さんはお母さんと、どう言う関係なんですか?」

 

 目の前にいる下田さんについての情報を所望した。

 

 

「ああ、そこの奏二の親父と同じく元教え子だな!

 

 

 お母ちゃんには何度ゲンコツをもらったか覚えてないね!」

 

 葬儀の手伝いの依頼を受けた時、奏一さんが教えてくれたのだが………零奈さんは高校の教師であり、奏一さんは教え子だったらしい。

 

 

 だが、この人もだったとは……。

 

 

 と、そんな下田さんに五月が。

 

 

「そ、それです!

 

 

 

 お母さんがどんな人だったのか教えていただけませんか?」

 と、問いかけた。

 

 恐らく、先ほどの「お母さんのようになれているか」という問いへの答えを見つけるための質問だろう。

 

 

 

 その質問に、下田さんは首を傾げて。

 

 

「覚えてないのか?

 

 5年前だから………結構大きかったろ?」

「ええ……そうですが。

 

 

 

 私は家庭でのお母さんしか知りません。

 

 

 

 お母さんが先生として、どんな仕事をしていたのか知りたいのです」

 

 

 運ばれてきたケーキを受け取っていると、下田さんは頭をかきながら。

 

 

「ふーん。

 

 

 まあ、聞きてえならいくらでも話してやれるし、話してやるよ」

 

 

 零奈さんの事を話し始めた。

 

 

 

 

 

「なにぶん先生とは、高二の1年間だけの思い出しかねぇ。

 

 

 私が少々………おてんばだったからかもしんねぇがよ?

 

 

 とにかく怖ー先生だったな。

 

 

 愛想も悪く、生徒にも媚びない。

 

 

 学校であの人が笑ったところを一度も見た事がねぇ」

「はは………さぞ、生徒さんには怖がられてたのでしょうね」

 

 

 フォークが止まらない五月の苦笑いを、なぜか否定した。

 

 

「いーや、それが違うんだよなぁ。

 

 

 

 どんなに恐ろしくても、鉄仮面でも許されてしまう。

 

 

 愛されて……慕われちまう。

 

 

 

 先生はそれほどまでに………

 

 

 

 

 

 

 めちゃ美人だった」

 

「………めちゃ美人……!」

「………確かに遺影めちゃ綺麗だったなー、って記憶あるぜ」

 さらに運ばれてきたケーキと、積み上げられていく皿の存在感に圧倒されながら思い返していると、下田さんはそうだろうと頷き。

 

「ただでさえ新卒の、歳の近い女教師で美人。

 

 

 

 それだけで同学年のみならず、学校すべての男子はメロメロよ。

 

 

 なんせ、先生がいた頃あたしら全然モテなかったからな」

「め、メロメロですか……」

 

 と、きょうび聞かないような擬音を交えた受け答えの後。

 

「ま、そんな事言わずもがなか。

 

 

 お嬢ちゃんも先生似だし、いけるんじゃねーか?」

「わっ、私なんてそんな………!」

「なあ、奏二もそう思うだろ?」

「全くだぜ。コイツ怒るとすぐ手が出るんだ」

「そ、それは町谷君が怒らせるような事を口走るからでしょう⁉︎」

 

 こちらに振られたので、正直に話すと五月に威嚇された。

 

 

 そして、そんな俺たちを見て下田さんは面白そうに。

「だっはっはっは!やっぱ先生そっくりだわお嬢ちゃん!」

 

 

 そうしてゲラゲラと笑った後にまた話し出す。

 

「なんたって、ファンクラブまであったくらいだったからな。

 

 

 

……そして、女の私でさえ惚れちまうほど、外も中も美しかった。

 

 

 

 あの無表情から繰り出される鉄拳に、私ら不良は恐れ慄いたもんでな……その姿はまさに鬼教師さ。

 

 

 

 だが、その中にも先生の信念みたいなもんを感じて、いつの間にか惚れちまってた」

 

 

 思い出話を語る下田さんの顔は、段々と昔を懐かしむようなものとなり。

 

 

「結局、1年間怒られた記憶しかねぇ。

 

 

 

 ただ、あの一年がなければ………教師に憧れて、塾講師になんてなってねーだろうな」

 

 

 と、確信めいたような言葉で締め括った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 下田さんの話を聞いて、私の中で一つの答えができた。

 

 

 お母さんのようになれるのなら………私が目指すものは一つだけ。

 

 

「ん…お前、何する気だ?」

「進路希望調査ですよ!

 

 

 下田さんの話が聞けて、踏ん切りがつきました」

 

 町谷君に短く返し、私はカバンから進路希望調査の用紙とペンを取り出す。

 

 

「下田さんのように、お母さんみたいになれるのなら………やはり私はこれしかありません」

 

 

 と、書こうとしたところで。

 

 

「え」

「ちょいと待ちな」

 

 

 下田さんにフォークでペンを止められ。

 

 

「母親に憧れるのは結構。

 

 

 憧れの人のようになろうとするのも決して悪い事じゃない。

 

 

 私だってそうだしな。だが………」

 

 

 

「お嬢ちゃんは、お母ちゃんになりたいだけじゃねえのか?」

 

 

 かつて、町谷君に言われたような事を、もう一度突きつけられた。

 

 その言葉に、返す言葉を探そうとしていると下田さんはフォークを下げて。

 

 

 

「とは言え、人の夢に口出す権利は誰にもないし………生徒に勉強を教えるのも、やりがいがあっていい仕事だよ。

 

 

 存分に目指すといいさ。

 

 

 

 

 

 お嬢ちゃん自身が「先生」になりたい理由があるならな」

 

「わ、私は………」

 

 

 そんな言葉を受けて、何か言葉を出そうと考えていると、下田さんは伝票を取って。

 

 

「おっと、こんなところまで説教とはな。

 

 先生の悪い所が出ちまった」

 

 その伝票を見て顔を引き攣らせ………流石に初対面の人にそこまで奢ってもらうほど図太くないので、あんまり食べてないんだけど……。

「あ、そうだ。

 

 

連絡先交換しようぜ。

 

 

 

 

 あと、お母ちゃんの話がまた聞きたくなったら………

 

 

 

 また会おうな」

 

 

 撤回することもなく、レジへと向かっていく。

 

 

 

 

「………あれ?あの人俺の分の代金も払っていっちまいやがったぜ」

 

 そして、町谷君がその背中を見て困惑している隣で。

 

 

 私は白紙の進路希望調査を見続けていた。

 

 

 

 

 バレンタインデー。

 

 その昔のローマ皇帝クラウディウス2世が、恋愛を法律で禁止した中で、恋愛を是とした司祭ウァレンティウスが処刑された日であり、それを祭る日が由来である。

 で、それに目をつけたお菓子メーカーが、「チョコレートを渡して思いを告げる」的な謎風習を作り上げて、俺たちのよく知るバレンタインになっているわけだ。

 

 

 で、なんで二月にすらなっていない今、昔検索して覚えた事を俺が思い浮かべたのかと言えば。

 

 

 

「ソージ君、お菓子作りができる知り合いっていない?」

「んあ?」

 

 学食で昼飯を食っていると、向かいの席にやってきた一花が突然そんな事を言い出した事に起因するのであった。

 

 

 

 

「料理か……でも、なんで急に?お前と料理のイメージが全然湧かねえんだが」

「むっ、失礼だよ。お姉さんだってやるんだから……まあ、必要としてるのは私じゃなくて三玖なんだけどね」

 

 ムスっとしながらの説明を纏めると、三玖が風太郎にバレンタインのチョコを渡すらしく、美味しいものにしたい為先生を探してるんだとか。

 

 

「それで、その当てがありそうな俺に来たってことね」

「そういう事。それで、誰かいないかな」

 言われて思い浮かべたのは風太郎のアルバイト先。

 

 偶に手伝いを頼まれるし、あそこの店長とはバイクを紹介してもらったり、バイトとして風太郎を紹介したりとそこそこ仲はいいのだが……最近向かいにあるパン屋に客を取られて躍起になっている為、他人の料理の世話をしてるほど暇はないはずだ。

 

 

 それに、俺が気になったのは……

 

「一花。お前さんは風太郎に渡さなくていいのかよ?」

「ふえ⁉︎」

 

 一花も恐らく風太郎に惚れている。

 つまり、三玖は恋敵となるわけで、今していることは敵に塩を送ることでもある。

 

 

 素っ頓狂な声を上げた一花は目を大きく見開いて。

「な、何言ってるのさ。私がフータロー君に惚れてるだなんて」

「死神に隠し事はできないぜ。

 

 最近風太郎に向ける視線が途切れ途切れになっているのは、勉強会でリサーチ済みだ。

 そもそも。

 正月に福笑いやった時、風太郎に詰め寄られてキス受け入れ態勢取ってたのはどこの「わー!認める、認めるからそれ以上言わないで!」

 

 すっとぼけようとしてきたので、声を大きくすると口を塞ごうと身を乗り出してきた。

 

 

 そして、乗り出す体勢を少しずつ解きながら一生懸命言い訳を探そうとする。

「で、でも私はお姉さんだから……それに、三玖はここ毎晩、フータロー君へのチョコレートを試作してるんだよ?」

 

 

 だが……俺からすれば、そんな遠慮に意味はない。

「だからって、お前が引く理由にはならねえだろ。

 

 お前は姉貴である前に、1人の恋した乙女なんだぜ?」

「ソージ君………」

 意味もなく自分を抑えて、終わった後に後悔するくらいなら……感情に赴くままに突っ走った方がいい。

 

 

 顔を赤くして悩み出した一花を前に、飯を食い終わった俺は立ち上がり。

「一応当てがあるから話してみるけど……自分が本当にしたいことを優先してもいいんじゃねえのか?

 

 

 人生は一度きりなんだし……初恋もまた一度きりさ」

「これが初めてみたいに言わないで欲しいなぁ……まあ、あながち間違いでもないけどさ」

 

 恐らくジト目を向けているであろう一花に手を振りながら、俺はその当ての元へと向かっていった。

 

 

 まあ……あのツンデレ様のところなんだけどさ。

 

 

 

 

 進路希望調査でその先のことを考えたとしても、学期末試験を乗り切らなければその先について語る資格はない。

 

 

 その為、まずは目の前の問題をなんとかしなければならないのだが………

 

 

「なあ、風太郎?」

「皆まで言うな、わかってる」

 

 

 

………うん。

「「詰まった」」

 

 

 俺たちは、机に突っ伏してる五つ子に対して同じ感想を漏らしていた。

 

 

 冬休み明けから二月の頭となる今まで、俺たちは学期末試験に向けて勉強をしている訳だが……

 

 

「えーっと…私が感じたことってなんだろう……」

 

 コイツらは何がわからないのか分からない。

 

 何がわからないのか分からないから、どう教えたらいいのかが分からない。

 

 

「くっ……IQの差とは何と残酷……!」

「ビギナーズラックは終わりって事だな」

「よく分からないけど、馬鹿にされてることはわかる気がするわ」

 

 二乃のジト目から目を背けていると、一花が疲れたような顔をして。

 

「と言うか、問題を解く以前に………

 

 

 みんな、集中力の限界だよねぇ……」

「わ、私はまだできるよ!」

「連日勉強漬けですからね……」

 

 

 この停滞の訳を簡潔に表した。

 

 

 そうなのだ。ここ連日はいつもの土曜日だけでなく、平日の放課後もこうして勉強をしている。

 

 

 そのおかげでもう赤点回避は現実のものとなっているが……油断はできない。

 

 

 とは言え、このまま続けてもあまり意味はないし……

 

 

 何とも難しい盤面に、どうしたもんかと頭を悩ませていると。

 

 

 

 風太郎が突然、一のジェスチャーを見せた。

 

 俺たち6人が首を傾げていると、風太郎が意外な事を言い出した。

 

 

 

「決して余裕がある訳じゃないが………

 

 

 明日は一日だけオフにしよう。

 

 

 思う存分羽を伸ばせ」

 

 

 

 要は、一回休みって訳だな。

 

 

 そうして俺たちが足を運んだのは………

 

 

 

「遊園地か。安直なとこ来たなおい」

「うるせえ」

 

 

 隣町にある、それなりに大きな遊園地だった。

 

 

 

 

 その遊園地は、特にこれといった目玉はないのだが……とにかく遊園地といえば的なものを目白押しにしたような種類のアトラクション構成をしている。

 

 んで、そのうちの一つであるお化け屋敷に行った後、五月の希望でジェットコースターに乗ることになったのだが……

 

 俺と二乃だけ次のコースターに乗ることになった。

 

 

 

 

「なあ二乃」

「何よ」

「風太郎の事、どう思ってる?」

「………何よ、急に」

 

 

 コースターへの列を町谷と並んでいると、突然今の私の中での大きな問題に触れてきた。

 

 

 随分突拍子もない発言だが、コイツはやたらと勘がいい。

「いやあ、お化け屋敷でお前が変な動きをしていたのが………いや、クリスマスの時からお前がしおらしくなってたのが気になってな」

 

 誰にも話してない悩み…………上杉のことを意識し始めてしまっていることを、いつの間にか嗅ぎつけているくらいには。

 

 

「前にアンタに言ったでしょ。私が好きなのはキンタロー君よ。アイツじゃないわ」

「風太郎の変装だってもうわかってるんだろ?

 

 別人だと思ってるなら、五月の提案に乗っかていた筈だ。

 

 

……お前が姉妹に甘いのは、もう検証済みだしな」

「……アンタ、本当いい性格してるわ」

 

 

 要は、あの時から私の葛藤に気づいていて、その上で三玖のお菓子作りの先生を頼んできたのだ。

 

 

………なんか、コイツの前での隠し事なんてもう無意味ね。

 

 

「誰かにバラしたら許さないけど………私がアイツを好きだなんてありえないし絶対に認めない。

 

 私はそんなに軽い女じゃないわ」

 

 そうだ。私の中で上杉の存在が妙に大きくなり始めている。

 

 前まではキンタロー君一筋だったのに、それが上杉の変装だとわかって私は悲しんだし、上杉に腹が立った。

 

 

 でも………今その感情があるかと言われればもうない。

 

 

 元はと言えば、アイツの変装だと見抜けなかった私が悪いし、アイツは浮かれた私のために嘘をつき続けただけだ。

 

 そして……溺れそうになった私を助けてくれたのは、恋焦がれていたキンタロー君ではなく上杉なのもまた事実。

 

 考えてみれば、必要とした時に私のそばにいたのはキンタロー君ではなく上杉だ。

 

 

 ならば……ひょっとしたら、上杉の事が気になり始めている今の状況は不思議なものではないのかもしれない。

 

 でも、それじゃあ……なんだかキンタロー君へ抱いていた思いが嘘臭くなってしまうような気がして。

 

 

 

 

 そこまで考えた私の横で、町谷がなるほどなと一息つきながらコースターに乗ったので私もそれに続く。

 

「あり得ないなんてことはあり得ないもんさ。

 

 現に、お前がそれを証明してる」

「……百歩譲って私がアイツを好きだとしても、アイツは私のことなんて生徒の1人くらいにしか思ってないでしょ?」

 

 

 コイツには着飾る必要がないと自分を許してしまえば、葛藤を話すのを止めることはできず、愚痴のようになってしまっていたが、登っていくコースターの先頭で町谷は。

 

「キンタローとして振る舞えるのも、アイツの良さの一つって考えればいい。

 

 そして、そう思うなら耳元で叫んでやればいいのさ。

 

 

「私を見ろ」ってね」

 そう、口元を歪めていた。

 

 

 

 

 

「一花一花!次はアレに乗りましょう!」

「五月ちゃんちょっと待って………」

 ジェットコースターから降りると、やたらテンションの高い五月とそれに付き合って疲れた顔をしている一花。

 

 そして、地図を見ている三玖と風太郎と………あれ。

 

「四葉はどこだ?」

「あら、居ないわね……でも多分トイレよ。あの子昔から限界まで我慢するから」

 

 四葉がいないのでみんなで辺りを見渡していると、三玖がスマホを出して。

 

「……お腹痛いからトイレだって」

「なぜ直で言わない……」

 

 と、四葉の行き先を明かし、風太郎はため息をついたがそれならと言わんばかりに。

 

「俺も便所行ってくる。待ってるのも勿体無いだろうし、後で落ち合おう」

「そうね。それなら先に行ってるわよ」

「待って。お姉さんはちょっと疲れちゃったから、ここで休んでるよ」

 

 そう言って風太郎はトイレのある方向へ向かい、一花はベンチで休んでいることを提案した。

 

 

「そうなると残りは俺ら4人か……どうする?」

 

 

 この後の予定が定まってないであろう二乃、三玖、五月に話を振ると。

「フリーフォールです!その後はゴーカートで……最後はサーカスに行きましょう!」

「私ちょっと考え事したいから、1人でいるわ。五月のお守りは任せたわよ」

「私も疲れたから一花といる…ソージは五月に付き合ってあげて」

「おいおいマジかよ……」

 

 

 ものの見事に、テンションの高い五月を押し付けられ。

 

「さあ、どんどん行きますよー!」

「おい待て、ついてくから引っ張るな!」

 

 

 五月にフリーフォールのある場所まで連行されていくのであった。

 

 

 

 

 数十分後。

 

 

「五月ちゃん、遊園地は楽しかったかい?」

「その、幼児へ語りかけるみたいな口調やめて下さい!

 

 私もなんであんなハイテンションを………!」

 

 

 ゴーカートまで行ったところでようやく素に戻った五月は、サーカスへ向かう道中で真っ赤にした顔を覆っていた。

 

 

「悪りぃ悪りぃ……まあ、ストレス発散できたって事でいいんじゃねえの?」

「………なんか、私の恥ずかしいところを大体町谷君に見られてませんか?」

「そんなん言われても。

 

 お前が意外とポンコツなのは多分みんな知ってんぜ?」

 頬を膨らませ、ジト目を向けてくる五月をあしらっていると、クレープの屋台があったのでそこで適当なものを買い。

 

「でもまあ、面白いもの見せてもらったから、これはそのお礼って事で」

「…………理由がとんでもなく失礼ですが、いただきます」

 

 ご機嫌斜めなお嬢様をクレープで鎮めようと働きかけていると。

 

 

 

「……町谷君、あの観覧車の中にいるのって四葉と上杉君じゃないですか?」

「………あのリボンは間違いないな。それに、黒い双葉もある」

 

 観覧車を指差して聞いてきたのでそちらを見ると、たしかに観覧車のゴンドラの一つに、四葉のリボンと風太郎の双葉があった。

 

 

「……そういや、2人ともトイレに行ったっきり帰ってこないと思ってたが」

「ひょっとして、2人は内緒で付き合ってるとか……ふ、不純です!」

 

 顔を赤くしてそう叫ぶ五月を宥めながら。

「まあまあ、ちょっと落ち着こうぜ?

 そもそもあの2人で不純な関係ってあんまり想像できないんだが……少なくともお前や他の姉妹よりは健全だぜ」

「誰が不健全ですか⁉︎」

「お前だお前!

 

 恩返しにキスを思い浮かべたお前!」

「なにおう⁉︎」

 いつもながらコントのようなやりとりをする俺達だったが、とりあえず観覧車へ向かうことにした。

 

 

 

「奏二、五月!光明が見えたぞ!」

「光明だあ?」

「一体どう言うことですか?それに、何故四葉と一緒に観覧車に……」

 

 観覧車に向かうと、俺たちが見えていたのか。

 

 観覧車から降りてきた風太郎達は、俺たちの元へやってきて早々得意げな顔をした。

 

 

「五月、国語でわからないところはない?」

「え、ええ?四葉、どう言うことですか?それに、国語って……」

 四葉は五月に詰め寄り、詰められた五月は目をぱちくりさせている。

 

 

「………おい、どう言うことだ?」

 その光景が異様で、俺は本当にどう言うことか風太郎に聞いてみると。

 

 

 

「これからは、みんながみんな先生だ!」

 

 

 と、よくわからないことを言い出した。

 




いかがでしたか?

次回で2年生編は終わりですな。

ぜひ、楽しみにしていてくださいな。


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