五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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どうも、更新です。


 今回は学年末試験の前に奏二の過去について、軽く書くことにしました。

 と、言うのも全て書こうとすると重すぎて書く方が辛いので………

 なんで、今回は過去編の前半と考えてもらっても大丈夫です。

 それではどうぞ!


第20話 出会いと別れだけ繰り返す

 突然だが、五つ子にはそれぞれ得意科目がある。

 

 分かりやすいのは三玖の社会と五月の理科、四葉の国語あたりだな。

 

 

 そして、他の科目に関しても数学なら一花が、英語から二乃が得意科目にしている。

 

 

 で、それを踏まえた上で今回風太郎が思いついた事は………

 

 

「これからは、全員が家庭教師だ。

 

 

 自分が得意な科目を他の姉妹にも教えるんだ!

 

 

 俺がいない時にもお互いに高め合ってくれ。

 

 

 そうして全員の学力を1科目ずつ引き上げるぞ!」

 

 

 俺ら以外にも姉妹同士で教え合う、教師3人体制だった。

 

 

 

 そろそろバレンタインデーに近づいてきた頃。

 そんな形で始まった3人体制だが……結果としてはいい傾向にある。

 

 他人に教えると言うことは、自分がその内容について深く理解しなければならず、必然的に勉強の質と量は上がり。

 

 

 また、教えられる方も教える事の大変さがわかるようになるので、

 大変な思いをしている教える側のためにも頑張ろうと言う姿勢になるってわけだ………特に、姉妹同士の関係を重視するこの5人なら尚更だな。

 

 

 そうして勉強をしていくうちに……俺にとって「あの日」がやってきた。

 

 

 

 

 血のバレンタイン。

 

 この単語の由来は、「機動戦士ガンダムSEED」の作中で起きた惨劇である。

 

 24万もの人々が、一瞬にして命を散らしたと言う他のアニメではなかなか見られない規模の事件だが………

 

 

 これはアニメの中での出来事の方なので、知らなければわかるまい。

 

 

 

 だが………今日、同じように「血のバレンタイン」と称された事件が起こってから。

 

 

 既に、7年の月日が経過していた。

 

 

 

 

 

「町谷君、今日はいなかったな………」

 お母さんのお墓へ向かった私は、先月いた同伴者のことを考えながら、帰路についていた。

 

 

「チョコレート、ひとつ無駄になっちゃいました……」

 そうして、いつもより少し重い鞄に目を落とす。

 バレンタイン用のチョコレートを買っておいたのだ。

 

 

 今までの私ならこんな事はしなかっただろう。

 

 でも……最近家の中に漂っているチョコレートの香りが、私にこれを買わせたのである。

 

 

 最近、みんなの様子がどこか変だ。

 前までは、バレンタインデーにはみんなでチョコレートを食べる日程度にしか捉えていなかったのに、今年は何だかみんなそわそわしている。

 

 

 考えられる理由としては、男女共学の高校に通ったことにより好きな男子ができて、チョコレートを作っている……このあたりが挙げられる。

 でも、私達が話す男子と言えば上杉君と町谷君くらいで………そうなると、姉妹の誰かがどちらかを好きになったのだろう。

 

 そう考えていたら……何というか、買わなければいけない気がしたのだ。

 

 お母さんのようにみんなを見守らなければならないのに、こんなことをしていいのかと悩む気持ちはある。

 

 

 でも……よくわからないけど、私に空腹とは別の理由でチョコレートを買わせたのだ。

 

 そして、それと同時にこのチョコレートを渡したい相手がぼんやりと浮かぶ。

 

 

 

 私は、町谷君の事をもっと知りたいと思っている。

 そして、このチョコレートを渡す相手に彼を思い浮かべた。

 

 

 バレンタインデーとは「意中の相手に想いを込めたチョコレートを渡す日」であり。

 その「意中の相手」に彼を思い浮かべたと言うことは……

 

 

 そこまで行った私の思考は、花の瑞々しい香りに中断された。

 

 

 行く道にある花屋でいつもお供え用の花を買っていくのだが、どうやらお墓からここまでの距離を既に歩いていたことに気づく。

 

 

 そうして視線をお花屋さんの方向に向けると………

 

 

「んじゃあ、ありがとな」

「こっちこそ、いつもありがとうね」

 

 大量の花束を購入している、町谷君の声がした。

 

 

 

 

 花を手に入れた俺は、とある広場にたどり着く。

 

 そして……そこにはそれなりの大きさの慰霊碑があり、そこには先月俺が供えた花束以外は2つくらいしかなかった。

 

 この慰霊碑が経ってから2〜3年くらいは結構な数の花束があったりしたのだが………今となっては、ここにお参りに来るのは数えられる程度なものだ。

 

 

 時間とは恐ろしい物で、どんなに惨たらしい事件が起きても、人々の記憶からその事実をかき消していく。

 

 そしてまた、似たような悲劇を繰り返す。

 

 

 だから………俺は忘れないし、忘れさせない。

 

 ここで確かに育まれていた命があった事を、示し続けなければならない。

 

 

 だから………俺はこの慰霊碑の管理を勤め続けているし、これからも勤め続ける。

 

 なぜならここは、「血のバレンタイン」で壊滅した、俺のいた施設の跡地であり……ここに刻まれている名前は、俺の育ての親ときょうだい達なのだから。

 

 

 

 

 

「よし………終わったぜ、お前ら」

 あらかたの掃除を終えた俺は、綺麗になった慰霊碑の前にしゃがみ。

 

 そこに刻まれている人々に想いを馳せる。

 

 

「そっちでは元気にやってるか?」

 

 答えなんてないのはわかっているが、声をかけずにはいられない。

 

「ファーザー………あんたが遺してくれた神父服、まだ着られそうにないや」

 

 

「シスターのおばさんたちが教えてくれた三つ編み……こんなに上手くなったよ」

 

 

 

「お前ら……ちゃんと歯磨きやうがいしてるか?向こうでも喧嘩してねえよな?」

 

 

 俺の頭の中には、あの頃の思い出が次々と蘇るが。

 

 その中で笑っているみんなは、あっという間に血反吐を吐き、ナイフを突き立てられて、ピストルで胸を撃たれた死体へと変貌する。

 

 

 そして……そこにあったのは、何も守ることができなかった現実だけだった。

 

 

 

 慰霊碑の前でしゃがみ、普段の彼なら考えられないような空虚な雰囲気を出す町谷君に戸惑っていた時。

 

 

「あら?あなたは………奏ニくんと一緒にいた女の子よね?」

「え?………あ、クリスマスの時にお会いしましたね」

「奏ニくんと一緒じゃ………あら、そう言うことね」

 聞き覚えのある声に後ろを振り返ると、そこにはクリスマスの時に伺った施設の所長として紹介された女性だった。

 

 

 その人は慰霊碑の方に目を向けると、ため息をついて苦笑する。

「……まあ、誰かを連れて来ようとは思わないよね」

「………あの、ここと町谷君は何の関係があるんですか?奏一さんのお墓は共同墓地の方ですよね?」

 

 そんな彼女に、尾行していた時に真っ先に考えた事を質問すると。

 

 

「…………とても重い話になるけど、いい?」

 先程までの柔和な印象からは予想外な、念押しめいた口調に少し戸惑ったが。

 

 

 そこまでしなければ話すことができないほど、彼の根幹に関わる話だと言うことで。

 

 

「構いません。私は………彼を知りたいんです」

 

 彼女の目を正面から見て返事をすると、そう……とまた、笑みを浮かべ。

 

 

 

「それなら……場所を移そっか」

 

 私を、この近くにある個室タイプの喫茶店まで連れていってくれた。

 

 

 

 

 物心がついた頃には既に1人だった。

 

 

 俺が生まれてすぐの頃、トンネルの崩落事故が起こり………そこで俺は父と母を喪ったらしい。

 

 そして、その後俺を引き取った祖父母は、物心がつき始めた俺に父と母が死んだ事とその理由を書いた手紙を遺して………立て続けに病死した。

 

 

 喫茶店にて、私は驚愕の真実を突きつけられた。

「…………それ、本当なんですか?」

「うん。「町谷 奏ニ」と言う名前は、本名じゃないの。

 

 あの子の本当の名前は……「田中 優一」。

 

 そして……両親を失った彼は、祖父母の家に預けられたんだけど、その2人もすぐに死んでしまって……そうして、彼は私がいた施設にやってきた」

 

 なんと、彼の名前は自分でつけたものらしいのだ。

 そして、この女性……村山さんは。

 

「……つまり、村山さんは町谷君がいた施設にいたという事ですか?」

「そう………初めて会った時、子供ながらにあの子が少し怖かったわ」

 

 その目に悲しみを宿しながらそう呟く。

「怖い?」

 聞き返した私に、村山さんは。

「たった4歳の子供が、涙を見せず。

 

 自分に家族がいない事を理解して……受け入れたのよ」

 

 その言葉の内容に、私は絶句した。

 

 

 

 

 俺が天涯孤独になった事を知ったのは、幼稚園に通い始めた頃だった。

 

幼稚園のバスの中、他の園児が両親に見送られてるのを見て、何で自分にはいないのかと思い、祖父母が遺していた手紙を読んだのだ。

 

 ついでにその祖父母も、もう亡くなっていた事をその時に知ることになったが………それで、どこか納得してしまった。

 

 自分には家族がいないから、見送られることもないんだって。

 

 更には、施設にはファーザーやシスターのおばさん達、俺と同じような境遇の仲間がいたので、親がいなくても別に寂しくなかったと言うのもある。

 

 

 だから……その時に俺は、死んだ家族の分までみんなのことは大事にしようって、子供ながらに強く思った。

 

 

 

 ついでに言うと、奏一さんに出会ったのもこの頃だ。

 

 探偵として色々なことをやっていた奏一さんの話を聞くのが、俺は大好きで………いろんなことを教えてもらったが、すくなくとも、学校の授業よりは真面目に聞いていたと思う。

 

 

 町谷君が施設に入ってからのことを、村山さんは遠い目をしながら話してくれている。

「施設に入ってからすぐに、彼は他の子達と打ち解けて……2年が過ぎて18になった私が施設を出た後、ちょくちょく様子を見に行ってたけど……あの子はみんなのまとめ役みたいになってたわ。

 

 そしてファーザー……施設長は「彼は将来立派な神父になれる」って、あの子が大きくなった時のための神父服を何着も用意してた」

「……あの神父服にはそんなエピソードが。てっきり変な趣味かと…」

「ちなみにあの三つ編みは、私やシスターのおばさん達が教えたのよ。

 

 それまでは長い髪を伸ばしてそのまんまだったからね」

 

 

 何というか、そこで彼の外見的な特徴や………優しさの元が作られていったんだなと思った。

 

 そうして出されたココアを口に含んでいると、村山さんの表情が少し強張り。

 

「………ねえ、五月ちゃん。ここからの話をする前に聞きたいんだけど……「血のバレンタイン」って呼ばれている事件のことを知ってる?」

 

 聞きなれない単語を口に出した。

 

「事件?」

「………まず、そこから話した方が良いわね」

 

 首を傾げる私に、村山さんの表情が陰った。

 

 

 そして。

 

 

「7年前の2月14日。

 

 とある児童養護施設に男が押し入って……そこにいた8人の子供と職員4人を殺したの」

 

 

 7年前に起きていたらしい、事件について話し始めた。

 

 

 

 

 7年前の今日は、雨雲がかかっていた曇りの日だった。

 

 

 小学校からの下校途中だった俺は、見えてきた施設から、何かが壊れるような音を耳にした。

 

 

「なんだ……?」

 

 そうして聞こえてくるのは、仲間達の断末魔に、甲高い悲鳴……そして下卑た笑い声。

 

 

 そんな明らかに異常な声に、胸騒ぎを覚えた俺は慌てて施設に駆け込み。

 

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 首から血を流して倒れているシスターのおばさんと鉢合わせした。

 

 

「おい、おばさん!

 

 何があったってんだよ、おい‼︎」

 

 

 肩を揺さぶってみるが、叔母さんからの反応はなく、力無くだれた首からは、修道女の服が真っ赤に染まるほどの血が流れていた。

 

 

「なんだよ……

 

 

 これはなんなんだよ………!」

 

 

 学校へ行く時には、笑顔で見送ってくれたおばさんが、今は生気のない青い顔で倒れている事に、混乱の極みの中にいるが。

 

 

 その、青い顔には見覚えがあった。

 

 

 それは、数年前に風邪をこじらせて死んでしまった仲間の顔色と同じで。

 

 

 

 つまりは………死んでいたのだ。

 

 

 酸っぱいものが込み上げたものの、先程聞こえてきた声が気になったので、俺は大広間へと向かう。

 

 

 そして………。

 

 

「…………⁉︎」

 そこに広がっていたのは、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

 

 

 

 

「偶々用があった私が駆けつけた時………そこはもう、地獄と読んで差し支えないものだったわ。

 

 まだ10歳にも満たない子供が、さまざまな殺され方をして死んでいたの。

 

 

 そして……シスターの1人は………」

 

 

 

 

「夢だ……これは悪い夢だ‼︎」

 

 目の前の光景を受け入れたくない俺は、そう叫びながらそこにいたみんなに駆け寄るが。

 

 

 一人一人の状態が明らかになるたびに、それは現実だと理解してしまっていた。

 

 

 

 つい先日5歳になったばかりの1人は肺の部分にナイフを突き立てられて。

 

 

 小学校に上がったばかりの1人は、首を吊られていた。

 

 

 シスターのおばさん達もその例外ではなく、胸元を撃ち抜かれていたり、脇腹を刺されていたりと様々で。

 

 

「うっ………うえっ……」

 

 シスターの中でも一番若かったお姉さんは………すぐ近くのキッチンで下半身を丸出しにされ、股の部分には白い液体がついた状態で、頭から血を流して倒れていた。

 

 

 

「な、なんでこんな事に……みんなが何をしたってんだよ⁉︎」

 あまりに凄惨な光景に酸っぱいものを吐き出してしまい、その場にうずくまる。

 

 だが……ここに暮らしているのは、コイツらだけじゃない。

 

 

 まだ息がある人がいると信じたい一心で、俺は施設の中を駆け回ったが。

 

 

 

「だ、ダメだ……!誰も息してない……」

 廊下や部屋で見つかるのは、既に事切れていた奴らばかり。

 

 

 

 そして、最後の希望となったファーザーは………

 

 

 

「へっへっへ………全く、最初から殺されときゃ良いのに」

 

 扉を開けた部屋の窓際で、嗤う男の前で倒れていた。

 

 

 

 

 

「………これ、本当なんですか?」

「ええ……事実よ。そして奏ニ君は………全てのものを直視した。

 

 

 

 わずか10歳の子供が……ね」

 

 村山さんの話が始まってから数分で、私は耳を塞ぎ、想像してしまった光景をかき消そうとしていた。

 

 

 それほどまでに………その事件が惨かったのだ。

 

 

 17歳で、色々な悲しみを経てきた私ですら、その話を想像する事を頭が拒否しているのに……

 

 それを、わずか10歳の子供が直視したという事実が、陰鬱さに拍車をかけている。

 

 

 でも、それなら……

「は、犯人は……?それだけのことをしていたなら、絶対捕まるはずですよね⁉︎」

 

 少しもの救いを見出したくて、私は問い詰める。

 これで犯人が捕まらなかったとしたら、あまりにも……町谷君に救いがない。

 

 

 そんな、どうかそうあってほしいという願望も込めた問い掛けは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ………犯人はその場で射殺されたわ。

 

 

 

 

 

 

 

 奏二君の手でね」

「………え?」

 

 さらに後味の悪い結末の前に、私は言葉を失った。

 

 

 

「何でだよ‼︎何でみんなを殺したんだよ⁉︎」

 扉を開けた俺は、その男に血を吐くように叫びをぶつける。

 

 

 意味がわからなかった。

 

 

 許せなかった。

 

 

 

 許せなかったが………何があってこんな事を行ったのかくらいは知りたかった。

 

 

 すでに頭の処理が追いつかず、恐怖に震えながらの叫びにその男は。

 

 

 

 

「そんなの、ストレス発散しかねえじゃん」

 

 

 悪びれる様子もなく、そう言い放った。

 

 

「てか、お前もここのガキ?なら……あ?」

 

 

 つまりこいつは、大した理由もなくみんなを殺した………と?

 

 

 

「………何?その目………イライラさせんなよ、せっかく良い気持ちだったのにさ」

 ここにいるみんなは、辛い過去を持ちながらも……夢を持って精一杯生きていた。

 

 何より……俺にとって大切な家族だった。

 それを…………なんで、こうも簡単に殺されなければならない?

 

 

 

「お前だけは……お前だけは絶対許さねえ……!」

「……ふーん?」

 あまりの理不尽に対して、俺の中に燃えるような怒りと悲しみ、そして………憎しみと殺意が溢れ出す。

 

 

 そして………目の前にあるこの男だけは、このまま思い通りにさせたくないと、頭の中の知識を総動員して考える。

 

 

「でも……多分無理じゃない?」

 だが……目の前の男がそこまで待ってくれるわけはなく。

 

 

 

 

「どうせ…………これでおしまいなんだからさぁ‼︎」

 

 

 

 右手に持っていた銃を俺に突きつけてきたので……

 

 

「……………おしまいなのはお前だああああああ‼︎」

 隠し持っていた箒を滅茶苦茶に振り回して、銃をはたき落とした。

 

 

 

「痛え⁉︎………こ、このクソガキがぁ…‼︎」

 

 

 箒があたった腕を押さえている隙に、俺は銃を拾い上げて距離をとり。

 

 

 

「なっ………打ち方を知っ「終われえええ‼︎」

 ナイフを構えて飛びかかろうとしてきたソイツの、脳天に向けて1発を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 みんなの顔を見にいった私は……絶句した。

 入口や大広間、廊下などには無数の死体が転がっていたのだ。

 

 

 そして………1発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

「誰かまだいる………?」

 

 

 

 一応、武器としてデッキブラシを持っておきつつ、その銃声がなった方へ駆け込むと。

 

 

 

 

「………………優一くん?」

 

 

 ランドセルを背負った優一くんが、拳銃を手にへたり込んでいた。

 

 

 

「優一君、何があったの………?それに、その銃は………‼︎」

 

 

 呆然としている優一君の手から、銃を取り上げて聞いてみると。

 

 

「姉ちゃん、俺……………

 

 

 

 

 

 

 何もなくなっちまった」

 

 

 泣き笑いのような顔で、私にそう告げた。

 

 

 

 

 

 その後の話を少しだけしようと思う。

 

 

 結局、俺以外の施設のみんなは殺されてしまっていた。

 

 

 要は………俺に残ったのは何も守れなかった現実と無力感。

 

 そして………12人もの人間を殺めた奴とは言え、人を殺したと言う十字架だった。

 

 

 事情聴取に来たお巡りさんに、自分を捕まえてくれと頼んだが………「14歳未満の子供を、罪に問うことはできないんだ」と犯罪者として裁かれることもできなかったのだ。

 

 

 その後は、事件のことを聞きつけたマスコミ達が詰め掛けたが………正直それには怒りしか湧かなかった。

 

 

 親に捨てられ、親を喪い………社会の中でもがき苦しんでいた俺達を、問題として取り上げてもくれなかったのに、死んだ途端に話を聞かせてとやってくる大人達が………

 

 

 俺らを金のなる木程度にしか考えてない気がして、どうしても受け入れられるものじゃなかったんだ。

 

 

 どうせ、少ししたらころっと忘れる癖に。

 

 まあ、一つだけ感謝する事があると言えば………俺の存在の意味を教えてくれた事だが。

 

 

「死神と、上手い取引でもしたんじゃねえの?」

「へっへっへ、違えねえ」

 俺の病室の前で、通り過ぎたマスコミ達の誰かがボソッとつぶやいた言葉。

 

 これが、俺にとってはまさに的を得ていて。

 

 

 

 そして、俺の生きる道を示した。

 

 

 

俺は…………アイツらの事を消させない。

 

 

 みんなの命も………俺が殺したあの男や、はるか昔に死んで行った家族の命も全部背負って生きていくし、みんなが抱いていた「夢」を叶えてやる。

 

 

 

 それが罪を犯した俺の罰で。

 

 

 向かう先に死を誘う………「死神」として俺がやるべき使命だから。

 

 

 だからまずは…………みんなを送るんだ。

 

 

 そして…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その事件が起こってから、あの子は変わってしまった。

 

 

 何があっても泣かなくなった。

 

 

 どれだけ辛くても、仕方ないって飲み込んで……諦めて。

 

 

 そして………償いと使命のためにしか生きれなくなってしまった」

 

 

「そんなの………そんなのって………!」

 

 村山さんが、町谷君との関わりを大体話し終えた時、私は耐えきれなくなってしまい、涙を流していた。

 

 

 

 

 この話を聞いた後、町谷君の普段の行動を思い返してみると…………彼は、痛々しいほどの自己犠牲で………優しすぎるのだ。

 

 

「町谷君は……何も悪くないのに!」

「罪の意識は……そう簡単に消えるものじゃないわ。

 

 私だって………まだ10歳の子供を、こんな状態にしてしまった事を、今でも後悔してる」

 

 そして、自分の痛みを……他者への気遣いに変える事ができてしまう。

 

「痛みを背負うのは、死神の俺だけで良い……他の誰にも渡さない」

 

 二乃に言ったこの言葉が、まさにその意識の表れだろう。

 

 そんな彼が……あまりに眩しく、そして余りに辛くて、私はどうしたらいいのか。

 

 

「何か……私にできることはないんですか?」

 

 せめて、そんな彼に何かをしたいと聞く私に、村山さんは。

 

 

「……そう思ってくれる子がいるだけでも、奏二くんには大きな救いになるわ。

 

 少なくとも………あなたといるあの子は、どこか楽しそうだったからね」

 

 

 と、私の目を見て微笑んだ。

 

 

 それを見て、私は……改めて決意した。

 

 

 先生になるためにまずは、この学年末試験を乗り切って。

 

 

 そして………町谷君にお礼を言おう。

 

 

 「あなたが守れたものはあるんだよ」って、伝えたいから。

 

 

 

 でもまずは………

 

 このチョコレートを町谷君の家に届けに行こうと、村山さんにお礼を言って立ち上がった。

 

 

 

 




いかがでしたか?

ここで軽くキャラ紹介を。

村山さん

児童養護施設を営む女性。

奏二と同じ施設出身であり、奏二の過去を知る数少ない人物。

奏二に過酷すぎる運命を背負わせることになった事に、負い目を感じている。

また、奏二にとっても歳の離れた姉のような存在であり、彼女が営む施設に、手伝いにいっている。


田中優一
奏二の本名。


血のバレンタイン
本編開始7年前に起こった事件。
世間一般的には「総勢12名の犠牲者を出し、犯人の男は自殺した」と言うことになっているが、真相は「総勢12名の犠牲者を出し、犯人の男は、唯一の生き残りによってその場で射殺された」である。

奏二にとっては大きなトラウマを生む出来事となり、それにより彼の懐にいつも改造エアガンを隠すようになるきっかけとなった。



今回は、奏二、五月、村山さんの3人の視点が入れ替わり合う形にしてみました。

 また、五月が奏二の過去を知るタイミングがここくらいしかなかったので、今回のような過去回を入れさせていただきました。

 もう一つの過去回は、奏二と奏一の追憶のようなものにする予定なのですので。


 そして次回は、学期末試験まで行こうと思いますので、お楽しみに!


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