ここからは第3章の始まりとなります。
3章は主にシスターズ・ウォーのあたりのお話となります。
原作だとシスターズ・ウォーはこの後の修学旅行編のことを指しますが、正直ここから既に始まっているような気がしますので、いわば8巻のあたりは前哨戦と言ったところでしょう。
と、言うわけで本編へどうぞ!
奏二の秘密
ホワイトデーに五月へ何を送るか迷ったので、グルメ系のカタログギフトを手渡した。
第22話 温泉旅館へGO!
「いやー、まさかまたここにくるとは」
「お客さんとしてくるのは初めてじゃない?」
俺と五月の目の前にあるのは、歴史を感じさせるような佇まいの旅館。
そんな旅館を前に……俺は当時を思い出して苦笑いする。
「おう………禅寺の修行体験かと思ったぜ」
「あはは………まあ、他の従業員さん達がいるにしても広いもんね」
「お前さんもやってみるか?」
「遠慮しとく。
だって、折角今の奏二と来れたんだもん」
おかしなことを言う五月にそう返すも、五月は笑みを崩さない。
「………今も昔も俺は俺だ。そしてお前もな」
「………そうだね」
大体、コイツも今と昔じゃ相当違うんだが……まあいいや。
兎に角ここにある思い出は、とてつもなく疲れた事と…………
俺が「シスターズ・ウォー」と名づける、争奪戦の始まりとなった場所だって事だ。
「さーて。次はどの仕事にすっかな」
春休みということもあり、俺はさまざまな仕事をこなしていた。
サーカス団の手伝いや、お坊ちゃんのストレス解消。
道場での手合わせや、無鉄砲のお守りなど。
家庭教師補佐や親父さんの密偵としての任務は、春休みはお休みとの指示があったので、最近受ける事ができなかったタイプの依頼を引き受けていたのである。
休みとは言え遊んでるのはなんだか勿体無い気がするので、こうして仕事をしてるのだが……あえてやりたい事を挙げるなら。
「折角だし遠出してえな……」
折角だし仕事ついでに観光がしたい事くらいか。
そう考え出すと、当然選ぼうとする仕事は遠い場所でのものとなる。
そうしてどこかいいところはないかと考えていると、パソコンに新たなメールが。
内容は………ふむ。
「旅館の手伝いか………」
どうやら、急に10人近くの団体客が入ったが、それに対して人手が足りないので、手伝ってほしいんだとか。
場所的に、何でここに依頼したんだと気になったが、まあいい。
「交通費ありの飯あり、更には無料宿泊もさせてくれると来たか………至れり尽くせりってやつだな」
条件として従業員として働かなければならないのだが………温泉旅館で無料宿泊+交通費支給となれば文句はない。
そんな訳で、俺は一も二もなく飛びつくことにした。
数日後。
遠出がしたいと飛びついたこの仕事だが……俺は早速こき使われることになった。
「さすがは老舗旅館………畑まであるとは」
旅館の近くにある畑から、採って来てくれと言われた野菜を収穫したり。
「でっけえ温泉だな、こりゃ、掃除も一苦労だぜ」
この旅館の醍醐味である温泉の掃除を、入浴不可の内に掃除したり。
「ギックリ腰やんないように気をつけねえとな……」
客が使い終えた布団を片付けて洗濯や干しをやり、その分新しい布団を持っていったりと………もう、とにかく大変だ。
まあ、やってることは普段とあんまり変わんねえからお手の物だが……流石に何度もやると疲れるものである。
とは言っても、休憩時間ではない限りは仕事はどこかしらにあるので、探しに行こうと歩き回っていると。
「ど、どうしてここにあなたがいるんですか⁉︎」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「うわー、久しぶりだ」
「そうね…‥何年ぶりかしら」
「おじいちゃん、元気にしてるかな…」
「早く温泉に入りましょう!泳ぎましょう!」
三玖が温泉旅行を当てて、私達は虎岩旅館……お爺ちゃんがいる旅館にやってきていた。
ここには、小さい頃はお母さんに連れていってもらったのだが……亡くなってからはめっきり来なくなったものだ。
「では行こう。他の客もいるとの事だからあまり騒がしくしないように」
そうして、お父さんがお爺ちゃんと立ち話をしている間に、私たちはあてがわれた部屋に入る。
「ふぃ〜、疲れた疲れた」
「もう歩きたくない…」
「あんたらね………それ、年頃の乙女が、口にするような言葉じゃないわよ」
一花と三玖に二乃が呆れたような声をかけているのを尻目に、私と四葉は温泉へと向かう。
「まさか、上杉さん達も来るなんてね〜。一緒の旅館に泊まったりして!」
「この辺りの旅館はここくらいしかありませんので、多分ここに来ると思いますよ」
そうして、四葉との会話でここに来る前の展望台での一幕を思い出す。
上杉君は、相変わらずお父さんから嫌われているようだった。
本当に、上杉君は何をやったんだと頭を悩ませていると。
「そうだね。ひょっとしたら、町谷さんもここに来てるかもね!」
「まさか……そんな偶然はそうそうありませんよ……四葉?」
急に四葉がモジモジとし出して。
「ごめん、ちょっと忘れ物‼︎」
「もう……」
元きた方向へ駆け出していった。
本人は忘れ物と言っていたが、おそらくトイレだろう。
なぜ、不味くなる前に行かないのやら……姉妹の中の永遠の謎である。
仕方ないので、1人で温泉に行こうとすると。
見覚えのある三つ編みが、なぜかこの旅館の制服を着て歩いていた。
「ど、どうしてここにいるんですか⁉︎」
声の方を振り向くと、なぜかそこには五月がいた。
と言うか、俺がこんな所にいる理由はそうそう限られている。
「どうしてって……俺は仕事とあらばどこにでも行くぜ。
てか、お前さんこそ、どうしてこんな所にいやがるんだ」
むしろ、俺の方がそれを言うべきだし、できればコイツとはあまり会いたくなかったのだ。
祝賀会のあの日、コイツは俺のことを好きだと言った。
俺の過去を………罪を知った上で、好きだと言ったのだ。
となれば、ただ口からの出まかせを言った訳ではないし、コイツはそれができるほど器用なやつではない。
だが……だからこそ、俺はこいつの好意を受けていいのか、考える時間が欲しい。
俺はもう、愛を信じるにはあまりに多くのことを知りすぎているから。
永遠の愛を誓い合ったはずの夫婦が、流れる時の中で永遠のはずの愛を捨てて浮気に走ったり。
愛の結晶として育んだ命を、自分の保身のために簡単に捨てたり。
強い友情で結ばれたはずの人間達が、愛一つのためにその身を滅ぼし合ったりな。
俺はもう………人の愛を臆面なく信じることはできないのだ。
こんな俺が今、人から向けられた愛に対してどう結論を出せばいいのやら………俺は、考える時間が欲しい。
遠出したいと言うのは、リフレッシュの面もあったが………メインはそのためだった。
そうして、コイツがこなさそうなところにやってきたつもりだったのに………。
「お客さんとして来たんですよ。それに、ここにはおじいちゃんがいるんですから」
なのに、どうしてコイツはここに来やがったと、頭を抱えたい衝動を堪えきれずに出た質問に、一つしかない理由を返されていると、ここのフロントにいた爺さんが、祖父である事が…………って、は?
「おじいちゃん?………あの番台の爺さんか」
「ええ。優しい人でしょう?」
まさかの情報に、目を丸くしていると五月はあの爺さんを優しいとか言いだした。
あの爺さんは……
「置き物みてえな爺さんだったぞ。それに……「お主の力、見極める」とか言ってたような」
何故か、俺を知っているような事を言い出したのだ。
「え?それはどういう……」
と、五月が首をかしげた時。
「あの〜、そこのお兄さん?ちょっと何とかして欲しいんだけど………」
宿泊客らしきお姉さんが、俺に声をかけて来た。
お姉さんの話だと、女子トイレの前で仁王立ちしている男がいるんだとか。
で、たまたま近くにいた俺に助けを求めて来たって訳だ。
変態の相手などしたくはないが、これも任務だから仕方ない。
そう言う訳で、俺はその女子トイレに向かったが………そこで俺は頭を抱えた。
「奏二?お前その格好はどうした?」
「何やってんだよ、お前………」
そこには、腕組みをした風太郎が立っていたのだから。
「アホなことしてんじゃねえ……」
「いや、すまん………その、五月に話があるって言われて。
アイツ、トイレに入っていったもんだから、ここにいれば会えるってな………」
風太郎に苦言を呈していると、風太郎は頬を引き攣らせながら変なことを言い出した。
なんせ、俺はさっき五月に会っているから、少なくともトイレにいないことは分かるからだ。
だが、風太郎は嘘を言っていると言う感じはない。
つまりは、風太郎は本当に五月を見たと思っているわけだ。
「………兎に角、もうこんなことはやめろよ?
てか、そんなに気になるんなら本人に電話してみればいいじゃねえか」
「いや、充電忘れてて………」
「お前ってやつは………」
風太郎に釘を刺しておきながら、俺は一体どう言うことなんだと密かに困惑しているのであった。
俺に与えられた仕事は日中で終わるものなため、夜は自由となる。
そして俺は、部屋の明かりをつけず、夜の闇の中で考え事をしていた。
風太郎の話を聞くと、五月は至る所に現れているらしい。
少なくとも、風太郎が見た五月と、俺が話した五月の2人はいる訳だ。
だが、中野五月と言う人間は1人だけ………つまり、俺が会った五月以外は偽物という事になる。
そうなると、その目的は何だ………?
そうして考え事をしていたら………いつの間にか俺は寝落ちしていた。
まあ、疲れてる中で暗い中にいれば当たり前か。
翌朝。
「なあ、何で俺も風呂に入ってんだ?
しかもここは混浴じゃねえか」
朝の仕事を終えた俺は、なぜか風太郎に連れられて風呂にいた。
………まあ、さすがに入るわけには行かないので服を着ているが。
「まあ、俺からの労いってやつだ。それに……今からくるやつとする話は、お前とも関係があるからな」
「ああ?そりゃどう言う……」
風太郎の言葉の意図がわからず、聞き返そうとした時、女湯の方から足音が聞こえる。
「デミグラス」
すると、風太郎が突然単語を発して……
「は、ハンバーグ……」
か細いが、五月の声で返事らしき単語が返ってくる。
「山!川!みてえなやつか?」
「町谷君も呼んだのですか……?ですが、そうですね。あなたにもいてもらった方がいいでしょう」
「………おいお前ら、俺に何聞かそうってんだ?」
不穏当な会話になんだか不安になりながら、俺は続きを促す事にした。
風太郎から飛び出した内容に俺は驚きを隠せなかった。
なんと、五月に扮した誰かが風太郎に家庭教師をやめるように促して来たと言うのだ。
「風太郎を囲い込むために、あの親父さんに刃向かって置いて………なんでやめるように促したんだ」
「わ、私には何が何だかさっぱり………」
つまり、五月以外の姉妹の誰かが風太郎と距離を置こうとしているってわけだ。
しかし……俺にはそれ以上に気になることが。
「なんで五月に変装してんだ?する必要ねえだろ」
正直、やりそうなやつには心当たりがある。
だが………なんで五月の格好をするのかがわからないのだ。
すると、五月が「ああ、それなら」と話し始めようとしたその時。
「あら……あんたとはよくお風呂で会うわね」
何故か、二乃が混浴の方にやってきた。
「なんでお前、混浴の方に入ってくるんだ?女湯はあっちだぜ」
「あんたこそ、なんで温泉で服着てるのよ………それに、男湯は向こうよ?なんで2人して混浴にいるの」
「それは俺が聞きたい」
とりあえず話を振ってみると、二乃は慌てる様子もなく風太郎の近くに行く。
「まあ、良いわ………それよりフータロー?せっかくだし体でも洗ってあげようか?」
どうやら、お目当ては風太郎と言うことらしい。
つまり俺は除け者にされた訳だが………とりあえず、これでその偽五月が二乃じゃないことは改めてハッキリした。
二乃は警戒心が強い一方で、好意を抱いたやつには惚れ込むタイプというのは、キンタローの件で分かっている。
で、今の二乃は風太郎に惚れ込んでいる訳だから………そりゃ、わざわざ拒絶する理由がないよな。
とりあえず、変態紳士の名の下にその様子を眺めていたが。
「ちょっと待て。
お前……誰だ?
五月じゃないのはわかるんだが………しかし………」
まさかのトンチンカンっぷりを発揮して来た。
「お、お前………本当、なんでわかんねえんだよ」
「上杉君………」
2人分のため息が響いた後。二乃は恥ずかしさなのか、悔しさなのか。
「………馬鹿‼︎」
風呂桶を風太郎に投げて出ていってしまった。
まあ……コイツに恋は難しいって事だ。
「今のはあなたが悪いです」
「無茶な。全員同じ顔なんだぞ?奏二の見分け方を試してみたが、いまだにわからん。
全部同じ柄の神経衰弱をしてる気分だ」
「間違い探しでいいだろ。それじゃあただのめくる作業じゃねえか」
二乃の乱入から少しして、俺たちは話を元に戻していた。
「確かに、よく似てると言われますが……全てが同じという訳じゃありませんよ。
現に私たちは見分けられています。
………きっと、上杉君もできるはずです。
愛があれば!」
「出たよトンデモ理論」
「外見を見分けるのに、視覚情報以外に頼ってどうするんだ……」
相変わらずトンデモ理論をかましてくる五月に頭を抱えていると、五月は咳払いして。
「………しかし、疑問です。
あれほどあなたを嫌っていた二乃が、一体どういう風の吹き回しなんでしょう。
いいえ、二乃だけじゃありません。
一花も三玖も四葉も………
春休みに入ってから、どこか変なのです」
風太郎レベルで恋愛に関して鈍感である事を明かしてきた。
一花と四葉は兎も角、二乃と三玖のそれはかなりわかりやすいし、そもそもコイツは同じ気持ちを俺に抱いているとみているから、俺は悩んでいるのに………呑気なもんだぜ、全く。
「お前は風太郎のことをとやかく言える立場じゃないと思う」
「何故⁉︎」
「答えを見つければ、俺の言ってることがわかるようになるさ」
このモヤモヤをぶつけていると、風太郎が急に立ち上がった。
「何で俺がそれについて考えてるんだ!そんなことやってる場合じゃねえ!」
「おい、急に立ち上がるな!お湯がかかるぜ!」
制服を濡らされちゃ敵わんと抗議する俺に、すまんと謝る風太郎は。
「俺にとっては、偽五月問題の方が最優先だ。
アイツの真意が理解できないままじゃ、本当に家庭教師解消になりかねない。
……お悩み相談はその後だ!」
多分、タイミング的にその偽五月の真意と五月の持ちかけてきた話は関係性があると思うんだが。
家庭教師の仕事へこだわる風太郎に、その事を伝えようとした時。
「ですが………私も、偽五月に共感できる所もあるのです」
五月が意外な事を言い出した。
コイツ、さっきは鈍感だと思ってたが意外と勘がいいのだろうか。
「偽五月の真意は私にも分かりませんが………もう、利害一致だけのパートナーではないという事です。
だってそうでしょう?」
その言葉の先を待っていると、彼女は。
「数々の試験勉強の日々。
花火大会に林間学校……年末年始。
これだけの時間を私たちは共有してきたのです。
それは最早…………
友達でしょう?」
やっぱりそんなことはなかったと、俺に再認識させた。
少なくとも………アイツらはもう、友達の枠を飛び越えようとしているのだ。
だが………風太郎への言葉としてはちょうどいいものだったらしく。
「恥ずかしい事を堂々と………。
楽しい旅行が台無しだが………やるか。お悩み相談」
風太郎は、ため息を一つついて、お悩み相談をやる事を表明した。
その後、混浴に飛び込んできた五月を諫め、顔を赤くした五月を更衣室に向かわせて、更衣室から出た事を確認した俺達も風呂場を後にした。
その後。
「さて、アイツらうまく言ってんのかな…」
仕事の一つである草むしりや床掃除をしながら、俺は五月を追い出す前に風太郎がしていた話を思い出していた。
風太郎曰く、あの4人から話を聞く事において1番の難関は親父さんとの事。
そのため、五月に足止めをしてもらっているうちに話を聞くと言い出したのだ。
正直、あの親父さんを足止めして稼げる時間がどの程度かはわからないが……まあ、ないよりはマシだろう。
にしても……ここ最近色んな悩みが山積みだ。
親父さんからの打診に始まり、五月からの言葉やここでの偽五月騒動。
なんだか、アイツらと関わり始めてから、今まで悩む必要すらなかった事に悩みまくっている。
だが俺はしんみりは苦手だし、うじうじ悩んでいる俺をアイツらは認めてくれないだろう。
俺は一体どうすりゃいいんだと、ため息をついていると。
「奏二君!五月ちゃんからこの紙を渡してくれって!」
仲居さんの1人が、小さな紙を持ってやってきた。
「浜辺で待ってます。
あなたに見てほしいものがありまして 五月」
もらった手紙を拝見すると、中には地図と共にこんなことが書いてあった。
そして、手紙の内容を見せて抜け出させてもらった俺は、借りた原付で浜辺へ向かい……そこで絶句した。
眠れない時にやることといえば、羊を数えることだが………少なくとも今目の前にいる奴を数えても、眠くはならないし頭が痛くなるだけだ。
そう、今目の前にいるのは………
「風太郎が混乱するわけだ………なんで全員五月に」
何故か5人に増殖した、中野五月五姉妹だったからだ。
いかがでしたか?
前回までの奏二と五月について、少し補足を入れます。
本来、五月の告白は学園祭の時にやる予定でしたが、それだと2章における総括として考えていた「7人がそれぞれの恋について考え始める章」において、五月と奏二だけ蚊帳の外になってしまうと思い、前回のタイミングで挟ませていただきました。
そういう割には四葉の恋について触れてないのは、四葉の恋については奏二が五月の話からでしか知らない為です。
そして、ここからは以下のことをテーマにお話を進めていけたらと思います。
・五月からの告白を受けて、自分で決めた人生の道のみを見て行動していた奏二が、これまでの自分とこれからの自分について他人の言動を取り入れて考え始める
・奏二への告白を経て、今まで感じたことのない想いが芽生えた五月が、その想いについて、他の人から学んでいく。
・7人がそれぞれの想いの下に、風太郎を巡るゼロサムゲームに臨んでいく
なので今回は、一番上のテーマについて奏二が考え出すことを重点において書かせていただきました。
正直、これからどう書いていくかは私にも想像がつきませんが、頑張って書いていこうと思います。
それでは、次回もお楽しみに!