五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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今回で、8巻のストーリーはおしまいです。

なんと言うか、息が詰まりましたな。


そんなこんなでいつも通りの低クオリティですが、楽しんでいただからば幸いです。

奏二の秘密
誕生日を明かしたところ、五月に「お姉ちゃんと呼んでほしい」とせがまれた。


第24話 自分の言葉で見つけ出す

 お父さんに部屋で待機しているように言われていた私は、一緒に正座している三玖を誘って、温泉に向かっていた。

 

 ただ待っているのも何だかつまらない気がしたからだ。

 

 

 そして、そんな私達の前に上杉君とおじいちゃんが。

 

 

「…………えー…」

「五月、三玖」

「あー!今言おうとしてたのに!」

 

 どうやら、上杉君はまだ5つ子ゲームに苦戦しているみたい。

 

 因みに町谷君に本物以外は誰が誰だかわかるかと聞いてみたところ、番号を掲げている指についていたマニキュアや、ヘッドホンをつけているせいか、他の姉妹よりもうっすらと白い首。

 じっとしているのが苦手なために、若干強張っている表情などを改めて見返した中で察したらしく、これも全問正解してきた。

 

 

 流石の洞察力と言わざるを得ないが……私の見分け方に関しては納得がいかない。

 

………って、私のことはいい。

 

 それより……

 

「あなたは一日中何をしているのですか?」

 私が上杉君を呼び寄せて聞くと、彼はまだ当てられないことを咎められていると感じたのか。

「いや、その……もう少しだけ時間をくれ。

 

 お前達の爺さんから、もう少しで何かを学べそうなんだ」

 

 そう言って、去っていくおじいちゃんの後をついていった。

 

 

 

 

 

 女湯の更衣室にて。

「フータロー、大変そうだったね…」

「三玖たちも、何もこんなタイミングで彼を試さなくてもいいじゃないですか……」

 

 

 私たちの話題は自動的に先程の上杉君のことになる。

 

 それにしても……

「あの人は、自分で解決する気はないのですか?」

 

 いくら難しいからと言っても、おじいちゃんの力を借りようだなんて。

………いや、彼にはそれくらいのハンデがないと一生見分けられないかもしれない。

 

 そんな私のぼやきに、三玖がどこか浮かない顔で。

 

「仕方ないよ。

 

 ソージがおかしいだけで……わたしたちを見分けようだなんて、無理な話だよ」

「そうですね……このまま彼に任せておくと、ずっとこの問題が残ってしまいます。

 

 町谷君に頼んで、それとなくヒントを伝えてもらいましょうか」

 

 

 と、そこまで言ったところで………わたしは三玖の太腿にあるアザに目がいく。

 

 

 なぜならそれは………上杉君に家庭教師の解消を持ちかけた、偽五月の特徴だったのだから。

 

 

 

 

「そっか。この足の傷残ってたんだ」

 

 フータローに家庭教師の解消を持ちかけたときに出来た傷が残っていた事を、私は五月に指摘されて気がついた。

 

「三玖……なぜです?

 

 

 なぜ、一番協力的に見えたあなたが、上杉君との関係を断とうとしているのですか?」

 

 いったいどこまで知っているのかはわからないけど、五月は予想外と言う顔を見せていた。

 

 

 その理由は説明するけど……その前に。

 

「その前に、五月に謝らなきゃ。あの時はおじいちゃんがいたから咄嗟に……いや、それも言い訳だね」

 

 私が五月の真似をした理由を伝えないといけない。

 

 

 何故なら………言えなかったから。

 

 

「三玖(わたし)として言えなかった。

 

 

 フータローを大好きなのに、あんな事………」

 

 フータローに、別れを告げるような事を私自身として言えなかったから……五月の姿を借りたんだ。

 

 なぜなら、五月はきっと………

 

 

 そう思っていると、五月は少しぽかんとした後。

 

 

「三玖って上杉君が好きなのですか⁉︎」

 

 今更な事を、本当に知らなかったように聞いてきた。

 

 

「ああ!なんて事でしょう!

 

 こんなこと、皆んなが知ったら驚きますよ!」

 

 そう言ってクネクネしている五月だけど……多分みんな知ってる。

 

 

 と言うか、五月だって多分ソージの事を………いや、この子は恋愛に関してはフータローと同レベルの鈍感だ。

 

 まあ、ソージも恋とかについてはあまり興味がなさそうだし……

 

 

 ある意味お似合いの二人だなって思っていると五月は。

 

「でも……いいのでしょうか。私たちは仮にも生徒と教師なのに……」

 

 

 五月らしい優等生な反応を見せる。

 

 そう。今の私たちは生徒と教師で。

 

 その関係性が………私にはただの足枷にしか思えなくなったから。

 

「だからだよ………」

 

 

 

 

 

 

 だから、こうしたんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 

 俺が旅館に戻ると、風太郎と爺さんが何故か一緒にいたので声をかけたところ。

 爺さんから「お主に話がある」と呼び止められた。

 

 

 呼び止められたのだが……さっきから会話がない。

 

 

 これはどうしたもんかと悩んでいると、爺さんが。

 

「どうしてこんな遠くから、仕事の依頼をしたのか………不思議に思わなかったか」

「不思議に思ったとしても、引き受けたなら下手な詮索はしないタチでね」

 

 色々ありすぎて、もはや今更な事を聞いて来たのでため息と共に返すと。

 

 

「お主の事は、マルオから聞かされていた。

 

 だからこそ……ワシはお主をここに招いたのだ」

「……初日の台詞はそういうことね」

 

 この仕事に込められた内情を話してきた。

 

 つまり、親父さんからの話を聞いて興味が湧いたから呼んだってところだろう。

「先程五月から色々聞かされているのを、偶々聞いていた。

 

 

………そして、それに対してのお主の言葉もな」

「………撤回するつもりはないぜ」

 

 全ての命は生きている限りは変わり続ける。

 

 中身も……見た目も。

 

 その変容を受け入れられないのも、受け入れないのも、ただ弱いだけであり。

 

 その変容を認められなくても、受け入れるしか

 

 

 それに……

「変わっていったとしても、変わらないものもある。

 

 

 アイツにとっちゃ五つ子である事と………互いを思う気持ちがソレなんじゃねえか?」

 

 

 大事なものは、その中でも変わらないものにあると俺は思うから。

 

 

 倍以上も歳が離れていそうな相手に、偉そうに説教している状況に、給料もらえねえんじゃねえかなと内心ビクビクしていると。

 

 

 

「………零奈を喪ったワシにとっては、あの子達は最後の希望だ。

 

 

 そして……ワシはもう長くはないだろう」

 

 なかなかの眼力で、俺をまっすぐ見据える。

 

 

 まるで、何かを託そうとするかのように。

 

「だから……孫達にこう伝えてほしい。

 

 

 

 自分らしくあれ……と」

 

 

 伝言を頼んで来たが、俺は背中を向けた。

 

 

「………んなもん、手前自身が言うんだな」

 

 

 俺は、臆病風に吹かれた爺さんに付き合ってやるほど優しくはないし……

 

 

 大事なことは自分で直接言うもんだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「よし……来たな」

「ええ……」

 

 俺と五月は、一室に集った風太郎と三玖の様子を、仕掛けておいたマイクを使って傍受していた。

 

 

 そしてその時に五月から伝えられた内容を、改めて想起する。

 

 

 今回の偽五月騒動は、三玖が起こした自棄に他の姉妹が図らずも乗っかった事で起こったものだった。

 

 

 まあ、感想としては……

「おとなしい奴に限って、やることが派手なんだよな…」

「気づかれてしまいます、お静かに……!」

 これに尽きる。

 

 

 そうして、それに対して五月が持ちかけたのが……フータローと三玖の直接対面だ。

 

「上杉くんは、この騒動の解決に対して……真剣に取り組もうとしています。

 

 他力本願なのを差し引いたとしても、その熱意を無駄にさせたくないんです」

 

 とのことらしい。

 

 

 まあ、アイツにはこれを放置したら家庭教師の仕事がなくなると言う事情があるが………爺さんに師事してまでも、コイツらに向き合おうとする覚悟を無駄にさせたくないのは同意見だ。

 

 

 だから……

 

「頼みましたよ、上杉君………」 

「ここで決められなきゃ、男じゃないぜ……」

 

 俺たちは、耳をすませ続けていた。

 

 

 私たちは、教師と生徒……それでいいと思ってた。

 

 

 フータローが大好きなのに言葉で伝えることができず。

 

 その癖に他の姉妹達に余裕をひけらかすような、臆病でずるい私。

 

 そんな私でも、認められるようなチャンスを公平な形で掴めるから。

 

 1番の生徒になれば。

 

 

 

 

 でも………今回の学年末テストでそれは潰えてしまった。

 

 

 

 潰えてしまった今………私に残された手は「リセット」だったから、それを使った。

 

 

 家庭教師と生徒。

 

 この関係のままじゃあ、いつまで経っても私とフータローの関係性はここから動かないから、それを解消しようと五月の姿を借りて働きかけた。

 

 

 

 昨夜の更衣室にて、そこまで話した私に五月は考え込むような顔をして、顔を上げた。

 

 

 そんな五月に勝手に姿を借りた事への罪悪感からか、なんだか圧を感じていたときに、五月はこう持ちかけた。

 

 

 

 最後に、フータローに会って欲しい、と。

 

 どんな顔をしていいかわからなくて、嫌だったけど……五月の言葉には、嫌だと言うことを忘れさせる何かを感じた。

 

 

 だから一夜明けた今、偽五月としてフータローの前に立ち。

「お前は初日の夜、俺と話した五月って事でいいんだよな?」

「はい。私の正体は………」

 

 さっさと終わらせるべく、正体を明かそうとして……

 

「待った」

 

 フータローに待ったをかけられた。

 

 

 

 

「五つ子ゲームを、結局俺は正解できなかった……降参だ」

 

 

 最初に会った五月を前に、俺は白状する。

 

 

 結局俺は、変装が苦手な四葉以外を見分けることができなかった。

 

 

 だが………コイツに家庭教師の解消を持ちかけられたことと、今回の五つ子ゲームにはなんらかの関連性があるのなら。

 

 

「一人も見分けることもできない奴に家庭教師はできない」と言うことだろう。

 

 

 四葉は自滅みたいなものだからノーカンだとして………せめてコイツだけは。

 

「お前だけは、俺から正体を暴く」

 

 それが、今の俺が示せるコイツらと向き合う覚悟だ。

 

 

 そして今。

「五月から話は聞いてるな?」

「ええ……」

「それなら、アイツに頼まれた件を含め、順を追って説明していこう」

 

 

 俺のリベンジマッチが始まった。

 

 

 

 まずは四葉。

 アイツの悩みは、「しっかり五月の真似ができているか」というこの旅行自体にあったから、今日が終われば自動的に解決する。

 

「そしてお前は四葉じゃない。

 

 

 アイツは、お前ほど完璧に変装できないからな」

 

 正直、ここが一番自信を持って答えられるが……どうだ?

「……正解です」

 

 よし、これで四葉という可能性は潰れた。

 

 

 次は二乃だが……アイツは少々甘かった。

 

 足の爪に塗るマニキュア……ペディキュアっていうのか?成る程………。

 

 

 とにかくそれを落とし損ねていたのを、更衣室で奏二が教えてくれた。

 

 

 そして……目の前にいるコイツの足の指に不自然な艶はない。

 

 そこまで話した俺に、その五月は怪訝な顔をして。

 

「待ってください。

 

 

 顔の判別もつかないのに、なぜペディキュアを塗っているのが二乃だとわかったのですか?」

「その話は置いといてくれ」

「わ、分かりました……」

 

 

 何故なら………言うのが気恥ずかしいので、とりあえずその話よりも正解かどうかを聞くと。

 

 

「正解です。

 

 それで、その二乃の悩みと言うのは……?」

「いや、これだけは言えない」

 

 二乃の悩み……悩みってわけでもないだろうが、アイツは俺への好意で動いている。

 

 しかし、それを言ってしまうのは自惚れているみたいで恥ずかしいし、こう言うのは誰彼構わず言うものではない。

 

 

 そうした俺の葛藤を察したのか、今はそれよりも答え合わせが先決なのか。

 

「分かりました。聞かないことにします」

 

 目の前の五月は聞かなかったことにしてくれた。

 

 

 こうして問題は三択式になったわけだが………いや、二択だな。

 

 

 もしコイツが本物なら、家庭教師の解消を持ちかけてきたタイミングで、中庭で待っていたと言うアイツの証言がおかしなことになるからな。

 

 

 だが一応………

 

「デミグラス」

 

「えっ⁉︎

 

 デッ、デミッ……⁉︎」

「いや、その反応で安心した。

 

 お前は本人でもない」

「せ、正解です……」

 

 合言葉に対応してないから、コイツは五月本人じゃないな。

 

 

 そうして後は、一花か三玖のどちらかと言うことだが………残念ながら。

 

 

「そこからは、まだわからない」

 

 

 格好がつかないが、まだわかってない事を白状した。

 

 

 

 私は、何を期待していたんだろう。

 

 

 フータローに、見つけて欲しかった。

 

 

 私に気づいて欲しかった。

 

 

 でも……神様は残酷で、フータローに天啓を与えてはくれない。

 

 

「俺のこと呼んでくれない?」

 

「上杉君……その手にはかかりませんよ」

 

「徳川四天王って誰だっけ?」

 

「わかりません」

 

「内緒話があるから耳を貸してくれ」

「左耳ならどうぞ」

 フータローの質問から、なんとか隙を作り出そうと言う悪あがきみたいなものが透けて見える。

 

 

 つまり、そうでもしないと私か一花を見分ける手段がないのだ。

 

 

 その光景に、やめてと言いたいけど……それを言い出したら止まらなくなってしまうだろうから、グッと堪えると……飲み込んだ言葉に、心を幾重にも切り裂かれているような気分だった。

 

 

 見つけられないのなら、こんなことに意味はない。

 

 それどころか、想い人に「お前の事なんて眼中にない」と告げられているようなこの状況から、たまらなく逃げ出したい。

 

 

「だめだ、分からん……お手上げだ」

 

 そうして、無情にもフータローはギブアップを宣言した。

 

 いや、むしろ私にとっては楽にしてもらったと言うべきか。

 

「そう……ですよね………」

 

 

 

 幾度となく味わった挫折と諦めを、今度も繰り返すのだと言い聞かせていると。

 

「だから、アイツを呼んできてくれないか?」

「あいつ?」

 

「お前らの末っ子の………

 

 ほら、今お前が変装してる………」

 

 

 幸か不幸か、フータローからこの針の筵からの出口を教えてくれた。

 

 

 そうだ。ここで一花の真似をすれば………きっとこの生き地獄から抜け出せる。

 

 

 そうして私は……

「ああ、五月ちゃんね」

 

 

 一花の口調と呼び方を真似した。

 

 

 

「ハハハハハ‼︎

 

 かかったな!

 

 五月をその呼び方で呼ぶのは一花のみ!

 

 

 つまり………お前が一花だ!」

 

 俺が五月の格好をした一花にそう告げると、一瞬の間をおいて笑い出した。

 

「あはは。いやー、まんまとやられちゃったなぁ」

「まったく、手間をかけさせやがって」

 何日も悩んで出した結果で、そんな気の抜けた笑い方をされてはたまったもんじゃないとため息をつく。

 

 

「まあ、お前だけ悩みの見当がつかなかったから、そうじゃないかと睨んではいたがな」

「へえ、すごい……」

 

 そうして、一花の悩みについて答え合わせをしようとすると、一花は何故か背中を向けて。

 

「じゃあ、私もう行くね」

 

 と、出口へ向かおうとしていた。

 

「え?いや…」

「帰り支度があるから、またね」

 

 

 話を続けようとしても、それより先に予防線を張られてしまう。

 

 

 そんな姿に…………俺はさっきの一瞬を含めて違和感を感じる。

 

 

 

 あの一花が、こんな強引に話を切ろうとするだろうか?

 

 

 もっとこう………キリのいい形で終わらせようとするはずだ。

 

 

 それに……一花なら、奏二のものとはタイプは別だが、馬鹿げた茶々を入れてくるだろう。

 

 

 それをしないと言うことは………

 

 

 俺は、そうして改めて去ろうとする後ろ姿を見ると、五月であり一花なはずの後ろ姿が、何故だかアイツに見えてきて………。

 

 

 この考えに、今までみたいな証拠はなく……要はただの直感だ。

 

 だが………この直感に賭けてみたい。

 

 

 

 

 だから………

 

 

「お前………三玖か?」

 その背中の持ち主の名を呼んだ。

 

 

 

 

 

 なぜ、今になって私に気づいてくれたのか。

 

 

 私に気づいてくれたのは、とても嬉しいのに………諦めをつけて、振り出しに戻そうとした私の想いを、何故また掘り起こしたのか。

 

 

 なぜ、楽にしてくれないのかと滲む涙を見せたくなかったから、私は振り向かずに問いかける。

 

 

「………なんで?

 

 

 一花って言ったじゃん」

 

 

 すると、フータローは。

 

 

「いや、すまん………今、なんとなく思ったんだがな?

 

 

 

 一瞬……お前が俺の中の三玖と重なったんだ」

 

 

 と、はっきりと口にしたのを聞いて、せめぎ合っていた気持ちは一瞬にして幸福に埋め尽くされてしまった。

 

 

 フータローは、私のことをちゃんと見ててくれたんだ。

 

 

 そう考えると、この嬉しい気持ちを伝えたくてしょうがなくて。

 

 

 

 

 

「当たり!」

 

 

 わたしは、思いっきりフータローに飛びついた。

 

 

 

 

 

「マジか………」

 

 三玖に飛びつかれた俺は、まさか正解だったとは思ってなく、惚けた顔をしていた。

 

 

「一つ聞いてもいい?」

「………なんだよ」

「私の悩みは心当たりがありそうだったよね。

 

 

 私が偽五月じゃなかったら、何に悩んでると思ってた?」

 

 

 しばらくして、三玖が思い出したかのように聞いてくる。

 

 まあ、なんと言うか自意識過剰な話だが………

 

 

「間違えてるとわかった今となっては、恥ずかしい話だが………笑わないで聞いてくれ」

 

 俺は、念押しをして意を決し。

 

 

「バレンタイン……返してないことに腹立ててんのかと思ってた」

 

 

 言いながら顔を晒すフータローが、なんだかおかしくてつい私は笑ってしまった。

 

 

 

「わ、笑うなって言っただろ⁉︎大体、お前なんで家庭教師をやめるように……」

「ごめんごめん。やっぱアレなしで」

「な⁉︎お前な……」

 

 

 そうして頭を抱えるフータローに、私は改めて思った。

 

 私とフータローの関係性は、家庭教師と生徒。

 

 それは変わらないとしても………その中の全てが変わらないわけじゃない。

 

 

 私がフータローを好きになり。

 フータローが私を見分けることができるようになったように。

 

 

 だから……私はフータローに目を合わせ。

 

「フータロー……私を見つけてくれて、ありがとう」

「………おう」

 

 顔を赤くして目を逸らそうとするフータローに、感謝した。

 

 

 

 

 そんなこんなで、偽五月騒動は終わりを告げ、俺のこの旅館での仕事も終わりを告げた。

 

 

 あの爺さんは、ちゃんとあの5人に伝えることができたのだろうか?

 

 

 あるいは、俺じゃなくてフータローに伝言を託したのか………爺さんが死んでしまってから数年経った今は、もはや迷宮入りである。

 

 

 まあ………答えは、孫達と笑顔で写ってる写真を見れば、言わなくてもわかるな。

 

 

 そうして俺の記憶はこの次へと向かっていく…………。

 




いかがでしたか?

今回は、
「学期末試験の結果から悲観した三玖が、風太郎とのやり取りで関係性を考え直した」
「自分の意志は、自分の言葉を用いて、自分で伝えないといけない」

 これらを重点に書かせていただきました。


 あと、本作において初めて三玖視点になります。

 そして、今回カットしたシーンの中に風太郎の花嫁が決まる大事なシーンがあるのですが、これはこの作品においての花嫁は四葉ではないと言うことです。


次回からは9巻のストーリーになりますが、ここは8巻のシリアスムードより、序盤のコミカルなムードでのお話にしようと思います。

まあ、一花さんが目覚めてしまうのでそこは仕方ないとして。


 それでは、次回もお楽しみに!
 



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