楽しんでいただければ幸いです。
「ソージ?」
「三玖、なんでここに」
5つ子の家庭教師の日。
コンビニで飲み物を調達していた俺に声がかけられたので振り返ると、そこにはヘッドホンが特徴的な三女こと、三玖が立っていた。
「買い物……抹茶ソーダを買いに」
「アレを名指しで買いに来るやつ初めて見たな……俺も買い物だ」
「美味しいのに、みんな飲まない……」
そう、残念そうな顔をする三玖に、俺は苦笑いする。
抹茶ソーダとは、その名の通りお茶とソーダを掛け合わせた飲み物の事だが………アレは絶妙に不味く、シンプルに抹茶を飲んだ方がいいのでは?と思う。
まあ、味の好みは人それぞれなのでなにも言わないが。
「まあ、強いる事もないだろ……それよかさっさと買って行こうぜ。あんまり遅いのも忍びない」
「そうだね」
そうして俺たちはマンションへと向かったのだが………そこには不審な行動をしている知り合いが。
「風太郎のやつ、何やってんだ?」
「……まさか、オートロックを知らないとか」
困惑しながらも近づいてみると、防犯カメラに向かって話しかけ始めた。
「アレじゃあ警備員に捕まえてくれと言ってるようなもんだろ」
老人がデジタルに馴染めないのはわかるが、17歳の高校生がデジタル社会から取り残されてるのはなかなかに問題のある光景だ。
「仕方ない……」
アイツにデジタル機器の操作法を教えた方がいいなと考えていると、三玖が風太郎に話しかけていた。
「今時オートロックも知らないんだ……ほら、ここに部屋番号を入れれば私たちに繋がるから」
「ま、まあ知ってたけどな?」
「嘘つけ。知ってたらあんな奇行に走らねえだろ」
「お前も見てたのか⁉︎」
バツが悪そうにする風太郎に笑いが込み上げそうになるのを堪えていると、三玖が不思議そうに。
「2人ともなにしてるの?
………家庭教師、やるんでしょ?」
と、振り向きざまに尋ねてきた。
「おはようございまーす」
俺たちが三玖と共に部屋に入ると、ニ乃を除いた3人がリビングにいた。
昨日の面子に一花が加わり、五月は少し離れたところで様子見って所か………昨日の2人からすれば大した進歩だ。
「準備万端ですよ!」
「私もまあ見てよっかな」
「私はここで自習してるだけなので、勘違いしないで下さい」
「約束通り、日本史教えてね」
どうやら状況は前と変わらないらしいが、見ているだけでも今は良しとしよう。
「よーしやるかー!」
初めてまともな家庭教師ができそうな状態に、風太郎が意気揚々と始めようとすると。
「なーに?また懲りずに来たの?」
上から声がしたので視線をあげると、そこにはニ乃がいた。
「ニ乃…」
「懲りずに……?なに、お前アイツにはめられたの?」
「……初日にな」
聞く俺に、触れてくれるなと言わんばかりのしかめ面で風太郎が答える。
そんな俺たちをどこか侮るような顔で続けた。
「先週みたいに途中で寝ちゃわなきゃいいけど」
「……薬か」
何かに薬混ぜて眠らせ、追い出した……ってところか。
どうやらコイツはガチで俺たちが家庭教師をやるのを良く思ってはいないようだ。
コイツはどうしたもんかと考えていると、風太郎は。
「どうだい、二乃も一緒に……」
「死んでもお断り」
なんとか作ったような笑顔で誘うが、速攻で引き攣らせることになった。
「これ以上アイツに構って時間を削られちゃあ、それこそアイツの思う壺だ。今はここにいるのだけでやろうぜ」
「そ、そうだな……じゃあ、今日は俺らだけでやるかー」
「はーい」
何とか堪えさせて、勉強会へと持ち込もうとするが……ニ乃はそれでも余裕の笑みを崩す事なくスマホを弄り。
「あ、そうだ四葉。
バスケ部の知り合いが大会の臨時メンバーを募集してるんだけど、あんた運動できるし今から行ってあげたら?」
「い、今から⁉︎」
こちらの生徒を削りに来る作戦に移した。
「えっと……でも……」
四葉は風太郎の方を見ながら困った顔をして迷っているようだ。
一応ネットで調べてみるとガセではないらしく、バスケ部のホームページには今日大会がやることが記されていた。
そして、ニ乃はここが攻め時と言わんばかりに。
「なんでも5人しかいない部員の中の1人が骨折しちゃったみたいで、このままだと大会に出られないらしいのよ。
頑張って練習してきただろうに、あーかわいそう!」
と、迫真めいた口調で捲し立てた。
そして、四葉は風太郎の制止も叶わず。
「上杉さん、町谷さんすみません!困ってる人をほっといてはおけません!」
一言謝ったかと思うと、自分の部屋へと戻っていった。
「嘘だろ……」
「あの子、断れない性格だから」
風太郎と三玖が話している間にもニ乃は一花と五月にも話しかけ……結果的にこの場に残ったのは三玖とニ乃のみとなった。
「よーし、お前らあつまれー。授業を始めるぞー」
「現実見て、もうみんないない」
風太郎が呆然としながら先程の話に戻そうとするが、三玖のツッコミ通りもうその場には誰もいない。
つまりはニ乃の思惑通りになった訳だな。
なにが狙いかはわからんが、気に入らないことがあるなら口ではっきりと言って欲しいものだ。
「とりあえず、三玖だけでもいるなら家庭教師はできる。人数は減ったがその分特化できるのは悪い事じゃない」
そうして残っている三玖だけでも囲い込もうとするが、ニ乃はそれを黙って見過ごすわけもなく。
「あれー?
三玖、まだいたの?
あんたが間違えて飲んだアタシのジュース買ってきなさいよ」
わざとらしい入りと共に勉強会から抜けさせようとするが。
「それならもう買ってきた。そんなことより授業始めよう」
「仕方ない……切り替えて行こう」
「……え⁉︎」
三玖はコンビニの袋を指さして、風太郎に授業を行うように促した………ん?
「……五月からのメッセージか」
スマホが振動したので取り出すと、そこには五月からのメッセージが入っている。
ここ数日手伝っていたテストの復習において、リアルタイムで分からないところの共有をしたいと持ちかけた俺に、SNSアカウントのIDを教えてくれたのだ。
えーと、何何……?
「2人の様子はどうですか?」
2人?
とりあえずわからないので返信する。
「誰と誰の?」既読
「三玖と上杉君とのです」
どうやら、まだ三玖に何かするんじゃないかと疑っているようだ。
心配しなくても………うん。
「ニ乃と息巻いてキッチンにいるぞ」既読
「何故キッチンにいるのですか⁉︎」
「俺がわからん」既読
「聞いてきてください」
気になるなら帰って来ればいいのに…。
「町谷君?」
「分かったよ
あと、勉強で俺が見た方がいいところあったら教えてくれ」
そこまで打ったところで俺はスマホから視線を戻して、ぽかんとしている風太郎の元へ。
「何でアイツら、料理作ってるんだ?」
「いや、男の好みの話から料理対決することになってな……ニ乃が勝ったら今日の勉強は無しだとさ」
……なるほど。
「よくわかんねえけど分かったよ……にしても、流石に持ちかけただけあって手際がいいな、アイツ」
「………三玖は大丈夫なんだろうな」
そうか。あいつに勝ってもらわないと風太郎的には困るんだよな。
しかし……
「ニ乃と比べると、手際があんま良くないぜ」
「……わかるのか?」
「飯作ってりゃ、多少はな」
「……そう言えばそうだったな」
一人暮らしで、安く美味い飯を食べたいのなら……美味い飯を作れるようになるしかないのだ。
そうして俺たちが話している間に2人が料理を作り終えたようだ。
果たしてなにを作ったのやら……。
「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー!」
まずニ乃が作ったのはドイツ生まれのパンケーキらしいダッチベイビー。
本来ならおやつに食べるやつらしいが……多分お昼ご飯ということで野菜や生ハムを使ったのだろう。
「もっと適当に作るのかと思ったら、意外と考えたやつ作るんだな」
「生憎、手は抜けない主義なの」
俺の感想にドヤ顔を見せたニ乃は、隣で縮こまっている三玖に視線を向けた。
それは……
「そぼろご飯?」
「オ……オムライス」
本人曰くオムライスらしいが……卵は散らばり、中の米も赤いところや白いところがまちまちという、失礼ながら「失敗作」と言って差し支えない代物だった。
そんなふたつが並び、少しの沈黙のあと。
「やっぱいい、自分で食べる」
いたたまれなくなったのか、三玖が言葉を発した。
「せっかく作ったんだから食べてもらいなよ〜」
それを見ていたニ乃が勝ちを確信したかのようにニヤニヤとしている前で、風太郎がふたつを口に運んで。
「うん、どっちも普通に美味いな」
まさかの審査員が一番の問題という結果に終わった。
「そういやお前、かなりの貧乏舌だったもんな……そうそうグルメなんてわからねえか」
「そんなこと言われても……うん、このオムライス、普通に美味いぞ」
それを見て呆然としていたニ乃が、嬉しそうにニマニマする三玖を見て。
「………何それ!つまんない!」
試合に勝って勝負に負けたと言った感じで、逃げるように自室に戻っていった。
……一応、俺も両方一口食べてみる。
「こればかりはお前に同情するぜ、ニ乃?」
結果は……まあ、予想通りだわな。
カフェにて。
「それで、結局今日は料理を作ってお流れ……と?」
「俺は途中で抜けてこっちにきたけど、多分そうなんじゃねえか?」
俺は、五月に今日の進捗を報告していた。
ちなみに俺たちがマンションにいる間、コイツは授業の復習や俺から出されていたテストを解いていたらしい。
「………うん、流石に中学2年生レベルなら普通に解けるか」
「教えてもらっておいて何ですが、こんなスローペースでいいのでしょうか…」
「どの辺りから解けなくなるのかを知りたかったしな。それに……久しぶりにスイスイ解けるのは気持ち良かっただろ?」
「悔しいですけど、悪くはありませんでした」
俺はバッグから新しいプリントを取り出して手渡す。
「じゃあ、次は3年のやつだな……高校入試と似たようなもんだと考えてくれればいい」
新しいテストに少し顔を顰めたが、それでも拒否はせず。
「分かりました。それで、さっきお伝えしましたが授業の復習でわからないところが…」
「ん、どこだい?」
そうして俺たちは秘密の勉強会に洒落込んでいった。
その夜。
勉強会が終わり、本来なら自分の家に帰る所だったが。
「5つ子裁判、開廷‼︎」
……何故か、今後の進退に関わる出来事の当事者となっていた。
時は少し前に遡る。
「いやー、まさかパソコンを忘れちまうとは」
「全く……抜けてると言うか、不用心ですよ?」
「お前のお墨付きとは、こりゃあ相当なもんだ」
「茶化さないでください!」
「へいへい……」
パソコンをマンションに忘れた俺は、五月に説教を受けながら30階の部屋にたどり着こうとしていたのだが。
「ん⁉︎今なんか音がしたよな⁉︎」
「ええ……一体何が⁉︎」
「とにかく行くぞ!」
何かが倒れるような音がしたので、俺たちは慌てて部屋に入ってリビングに向かい。
「………最低」
「……お前、家庭教師じゃなくて変態教師やりに来たのかよ」
風太郎がニ乃を押し倒しているのを目撃したのだ。
そうして上杉風太郎を被告、中野ニ乃を原告とした「裁判」が行われているってわけだな。
五月が、スマホを掲げて。
「裁判長、ご覧ください。
被告は家庭教師という立場にありながら、ピチピチの女子高生を前に欲望を爆発させてしまった」
「ピチピチなんて単語、今どき聞かねえよな」
「町谷君、余計な口を挟まないでください!
……兎に角!この写真は上杉被告で間違いありませんね?」
「……冤罪だ」
それに対して風太郎は、目を泳がせながら否定した。
肯定と同義なのか、それとも否定したくても否定しきれないところがあるのか……何にせよ、今後の進退が決まる大事な裁判なのでもう少し情報が欲しい。
「裁判長、原告と被告の両方から今回の経緯を聞きたいんだが?」
俺は裁判長……要するに長女の一花に手を挙げた。
「そうだねぇ……わたしも両方から改めて話を聞きたいな。まずは……」
俺の提案に首を縦に振った一花が視線を2人にやると、先に手を挙げたのはニ乃だった。
「はい、原告のニ乃くん」
「この男は、一度マンションから出たと見せかけてわたしのお風呂上がりを待っていました。
悪質極まりない犯行に、我々はコイツの今後の立ち入り禁止を要求します」
「ふむふむ、大変けしからんですなあ」
「お、おい!それはいくら何でも……」
主語がなんか大きい気がするが、まあいい。
次は風太郎の話を聞かないとな。
「一花!俺は財布を忘れて……」
「…………」
「さ……裁判長…」
「……(ニッコリ)」
呼び名なんてどうでもいいと思うが、どうやら拘りたいらしい。
そんな風太郎と一花のやりとりに一石を投じるように、今度は三玖が手を挙げた。
「異議あり」
「はい、三玖」
「フータローは悪人顔してるけど、これは無罪。
私がインターホンで通した……録音もある。これは不運な事故」
「暇だし、確認させてもらうぜ……」
俺がインターホンを操作すると、たしかに三玖と風太郎のやりとりらしき音声が記録されていた。
どうやら、三玖は弁護人側に回るようだ。
すると、それが気に入らないのかニ乃が噛み付いた。
「三玖、あんたまだそいつの味方でいる気?
コイツははっきり「撮り」に来たって言ったのよ⁉︎盗撮よ!」
「忘れ物を「取り」に来たんでしょ」
「日本語って難しいよな……で、その忘れ物の財布はあったのか?」
「ああ。机に置いてあった」
家の中にも防犯カメラがあれば、本人の発言だけじゃなく確実にわかるのだが……そんなもん家の中にはつけないわな。
何かおかしなところはないかと考えていると、ニ乃が焦れたように。
「裁判長〜三玖は被告への個人的感情で庇ってま〜す」
「ち、違………」
三玖へとその矛先を向けた。
どうやら、弁護人を削ぐ作戦に移したようだ。
しかも……偶然なのか狙っていたのか、内容は今の三玖にはよく刺さる。
理由は何もいうまい。
「三玖……!信じてくれるって信じてたぜ…」
「それ以上近づかないで」
「あれ⁉︎」
顔を赤くした三玖が風太郎に顔を見せたくないのか、感激の視線を向ける風太郎からそっぽを向いた。
………やっぱり、三玖は風太郎をかなり意識し始めているな。
高速フラグ建築に、ラッキースケベ……実はコイツ、ハーレムラブコメの主人公の気質があるんじゃないだろうか。
「え〜?その態度は警戒してるって事かな〜?」
「してない。ニ乃の気のせい」
「言っとくけど、私は裸を見られたんだから」
「見られて減るようなものじゃない」
「はー?あんたはそうでも、私は違うの!」
「同じような体でしょ」
と、馬鹿なことを考えていると風太郎の裁判のはずが、ニ乃と三玖の喧嘩になっていた。
「あの2人、さっきも喧嘩してたな……仲悪いのか?」
「まあ、ちょっとね……」
「のんびりしてないで止めましょうよ!
ほら、私たちが争っていてどうするのですか?」
「おい、今行っても……」
風太郎と一花に食ってかかった五月が、俺の制止も聞かずにニ乃と三玖の間に割ってはいるが。
「五月は黙ってて」
「てか、あんたもその写真消しなさいよ」
こういう時だけ息ぴったりに、2人から集中砲火を喰らう羽目にあっていた。
「裁判長〜」
「よーしよし、頑張ったねー」
五月が一花に泣きつき、泣きつかれた一花がヨシヨシしながら。
「うーん……三玖の言う通りだとしてもこんな体勢になるかなー?」
「一花!やっぱアンタは話がわかるわ。
コイツは突然私に覆い被さって来たのよ!」
「………やっぱ有罪。切腹!」
「三玖さん⁉︎」
ニ乃が一花の疑問に乗っかり、三玖が捲れて寝返って。
いよいよ持って風太郎が崖っぷちに……ん?覆い被さる?
「……五月、俺にもその画像をよく見せてくれ」
「……え?ええ」
「ちょっと!アンタ勝手に…」
俺は五月からスマホを借り受けて、よく注視すると……あたりには本が散らばっていた。
そして、風太郎はニ乃の体が隠れるように覆い被さっていて……顔を顰めている。
って事は。
「裁判長、被告人の上半身を脱がせていいか?」
「へ?」
「良いわけないでしょう⁉︎」
「いきなり何を言い出すんだお前は」
顔を赤くした五月に詰め寄られるがそれを止めて、困惑顔の風太郎に。
「あくまで可能性の一つだが、コレは被告人が原告を崩れ落ちた本たちから庇った……とも見ることもできる。
襲うのが目的と言いづらい」
「………成る程。つまり、その本が当たったアザがあるかもしれない、と、言いたいのですか?」
「当たり。そのアザがあるならこの顔の顰め方も納得がいくだろ?」
俺が画像を指さしながら五月に頷くと、一花が苦笑いしながら。
「だとしても、言葉が足りないんじゃないかな……まあいいよ。許可します」
「ええ⁉︎おい、俺の意思は…」
「冤罪を晴らせるかもしれないんだから、文句は無しだ」
許可も得たので風太郎の背中を捲ると……ビンゴ。
「ポツポツと当たった跡にできる黒ずみがある……つまり、コレが答えさ」
「……俺、お前と友達で良かったと初めて思うわ」
「感謝の割には一言多いぜ」
風太郎にツッコミながら、姉妹の方を見ると。
「確かに」
「……やっぱり、フータロー君にそんな度胸はないよねー」
……と、風太郎が無罪の方向に話が進み始めている。
1人から「余計なことをしやがって」と言わんばかりの視線が飛んでくるが、こっちも仕事なんだから悪く思わないでほしい。
そして、その1人は。
「ちょっと!なに解決した感じ出してんの⁉︎」
「ニ乃、しつこい」
「アンタねえ……!」
またも食ってかかろうとしたが、三玖に一蹴されて睨みつけることしかできなくなっていた。
そこから、また一波乱起こると見たのか一花がまあまあと。
「そうカッカしないで。
…私たち、昔は仲良し五姉妹だったじゃん」
場を収めようとして言った言葉に、ニ乃は先程とは少し違う反応を見せた。
まるで、「なんでわかってくれないんだ」と言った感じだ。
「とは言え、俺の注意不足が招いた事故だ……悪かったな」
風太郎がニ乃に謝罪するが、ニ乃は耳に入ってない様子で。
「昔はって……私は……!」
意味深げな言葉と共に部屋を出て行ってしまった。
10分後。
そろそろ夕飯時という事で、俺達はエレベーターの中で駄弁っていた。
「さっきは助かったぜ。本当にありがとうな」
「お前がクビになると俺があの5人を見ないといけないからな。そんなの俺の身が持たねえよ」
テーマは勿論、先程の裁判についてだ。
「にしても何でニ乃は俺たちを敵視するんだろうな」
「……最後にニ乃が見せたあの反応、風太郎も気になってたか」
風太郎は少し驚いたような顔をしてたが、そのまま続けるようだ。
「ああ。俺たちが嫌いなだけじゃ説明がつかないんだよ。
だって、何かやったわけでもないんだぞ?」
「今日やらかしたけどな……でも確かに、五月があの反応を見せていれば納得がいくが、ニ乃の場合はよくわかんなくなるのか」
例の「太るぞ」発言をかますようなデリカシーのないやつが許せない、とかだな。
……やけに分かりやすい例えに笑いが込み上げてきたぜ。
そうして笑っている俺をよそに、風太郎はどこかスッキリした顔で意外なことを言い出した。
「……だが、一花とのやり取りで何となくわかったぜ」
「……ほーん?お前の推理か」
三玖からの好意に気づいてない鈍感かと思いきや、意外と鋭かったらしい。
「いいぜ。話してみろよ」
「アイツは……姉妹のことが大好きなんだ。だから、異分子である俺や奏ニが入り込んでくるのが許せない。
そして、それを受け入れている三玖や「昔は仲良しだったのに今は違う」と言わんばかりの一花も気に入らない。
誰よりも「5つ子の世界」が好きだからこそ、それを守ろうとしてるんじゃないか?」
「……おいおい、俺の台詞をとるんじゃないぜ」
「妹は良いもんなのは、俺もよくわかるからな」
……なんだ、よくわかってるじゃん。
風太郎は人付き合いが苦手だから、俺が何とか仲を取り持たなければ
と思っていたが……コレなら俺が考えすぎなくても大丈夫だな。
エレベーターが開き、入り口近くに出ると赤い人影がポツンと座っているのを見て。
「なら、ニ乃に関しては任せるとするかな?
……多分俺、アイツからお前以上に嫌われてるだろうし」
俺は風太郎の肩を叩いた。
風太郎に対しての二乃の警戒は、五月が現在同様に良い印象を持っていないのを知っているから5段階中の4くらいだろうが。
多分俺は、5段階中の5だ。
今日のやり取りでアイツの目論見をぶっ潰した事や、風太郎に対して似たような認識を持つ仲間であるはずの五月が、俺とは普通に話しているのを見ている事から更に警戒されているだろう。
そんな、俺の考えを知ってか知らずか。
「……あんまり人の家庭に口を出すのはどうかと思うし、優しくするだけ無駄かもしれないが。
まあ、何とかするさ。なんせ俺はアイツらの家庭教師だからな」
と、どこか決意めいた表情を見せていた。
いかがでしたか?
今回は1話の後書きで出てきた人について紹介します。
町谷 奏一(まちや そういち)
無差別殺人により全てを失った奏ニを引き取り、育てていた男性で、奏ニ曰く「俺の心の父であり師匠」。
普段は陽気だが、仕事は徹底的に行う性格。
「よろず屋 町谷」の前身にあたる「町谷探偵事務所」を立ち上げ、一人で切り盛りしていた。
奏ニにはその手伝いをさせる中で様々な分野の知識や技術、物事の考え方などを教え込み、その性格や言動に大きな影響を与えている。
壮絶な過去を過ごしてきたことで自棄的かつ命の重みを理解できなくなっていた奏ニに「命の大切さと生きることの楽しさ」を教えなければならない言う使命感と愛情からの行動だった。
奏ニが中学3年生の時に持病の不治の病により死亡した。
よろず屋 町谷
奏ニが営んでいる何でも屋。
奏一の死後に町谷探偵事務所を畳んで作り直した。
主な仕事は有償でのペット探しやイベントや仕事の手伝い、出前配達員やテストの採点、家事手伝いなど様々。
主な客は奏一の作っていた知り合いや街の住民であり、評判は奏ニの高い技術力や人懐っこい性格も相まって悪くない。
最近は中野医院の院長の5つ子の家庭教師補佐を主な仕事としている。
大体こんな感じです。設定考えるの楽しいですよね……現実的じゃないと言う意見は無しでお願いします。
次回は花火大会のお話になりますのでどうぞよろしく。
感想や評価をお待ちしてます。