今回と次回でシスターズウォー編は終わりとなります。
なので、今回は少し変な終わり方となりますが、ご了承ください。
奏二の秘密
好きな色は黒。
あの日のことは、今でも思い出せる。
俺はあの日、あの子……零奈に振り回されるがままに、辺りを散策した。
俺を必要としてくれた彼女との旅が、楽しくないはずがなかった。
気がつけば陽は落ちて、夜になっていた。
学校の先生が迎えに来るまで、零奈が泊まっていた旅館の空き部屋で待たせてもらってる間、トランプをしていた。
その後、担任にこっぴどく叱られると言うオチがあったものの………今となってはいい思い出だ。
だから………
もういいだろ?
「え?」
これ以上、俺とあの子との思い出に……後悔を滲ませないでくれ。
目の前にいる奴に、何の意図があるかは分からないが……流石の俺もここまでされたら限界だ。
俺は、目の前に立つ三玖……じゃない。
「お前に付き合うのもここまでだ。
………一花!」
「………え?」
驚いたような顔をする一花に、目線を据えた。
何で分かったのかって?
「ただの勘……だけじゃない。
これまでの状況を考えたら、お前の可能性が1番高い」
三玖が俺を好きだとして……それが明らかになった今、1番都合が悪いのは、あの一花をプッシュしていた三玖だ。
で、その三玖が偽物だとしたら………まあ、誰かと言われたら一花になるだろう。
「ち、違うから、ハズレ!
残念でした!」
明らかに動揺していて怪しいし……仮に本当に違ったとしても、もうコイツらのミニゲームに付き合ってやる義理はないから同じことだ。
だがまぁ……どうやら俺の予想は当たりのようで。
「ほら、正解だ」
「………っ」
ウィッグを取り上げると、そこにいたのは一花であった。
曇天だった空が、何かに呼応したかのように雨を降らす。
「このタイミング………先日、廊下で会った三玖の中身もお前だな?」
さっきの推理の続きをしよう。
昨夜、悲鳴を聞きつけた俺が、偶々一花と会った時。
「三玖の話を聞いてあげてよ」
三玖の話を聞くように言われた。
だが……それは、恐らく矛盾の解消が目的だろう。
三玖が俺のことを好きなら、「一花とお似合いだと思うから、応援する」と言ったのと矛盾してきてしまう為、辻褄を合わせに来たのだ。
怒りとも……悲しみとも、分からないものが頭を渦巻くが、それを出さないように何とか抑えて。
「あ、あれは私じゃ……」
「なぜあんな嘘をついた」
あんな嘘をついて、こんな事態を引き起こした訳を聞くと、答えはなかった。
いや……沈黙はもはや肯定と同義か。
そうしてしばらくの沈黙の後。
「さっきの話………
フータロー君は、知ってるんじゃない?
6年前のその子が私たち5人の誰かだって」
不意にそんなことを聞いてきた。
「………ああ」
その結論は、旅行前から行き着いているので肯定する。
すると……
「……私だよ。
私………私なんだよ。
私たち、6年前に会ってるんだよ……
嘘じゃないよ……信じて…………」
この一花の言葉が、本当か嘘かはわからない。
いや、本当だったとしても疑わしいが、一応……
「6年前、俺とここで買ったお守りを覚えてるか?」
「えっ、うん!
今でも持ってるよ……」
やっぱり嘘か。
あの子が持っていたお守りは、クリスマスに川に流れて行った。
つまり、ここにそのお守りがあるわけがないのだ。
「忘れる訳ないよ……」
「嘘……なんだな」
目を逸らし、必死に探すふりをする一花をこれ以上見たくなかった俺は。
「もう……今はお前を信じられない。
お前の何を信じていいかわからない」
何かが溢れる前に一言だけ告げて、この場を後にした。
side奏ニ
「アイツに、あの思い出絡みの冗談は禁句だ…流石にやりすぎたよ。お前らは」
「ソージ君……」
声をかけてきた先公に話をつけて、寺の敷地内を探していると、ちょうどこちらに向かってくる一花と鉢合わせした。
その顔は、大切な何かを失ったかのようだ。
……まあ、愛しの風太郎からの信頼と、姉妹達との情をダブルで失えばそうもなるか。
だが……
「俺は言ったはずだ。
嘘で積み重ねた物は脆く、嘘が壊した物は戻らない……って」
「……そうだね」
俯く一花は、自嘲気味に笑う。
三玖の姿を使った嘘を積み重ねて作ろうとしたシナリオは、三玖と四葉によって壊され。
その嘘が壊した風太郎からの信頼は、どれだけ時を重ねても、そっくりそのまま元通りとはならないだろう。
「………悪役を演じられても、お前に悪役は似合わねえよ。やっぱ」
「………」
……やっぱり覚悟しきれてなかったんじゃないか。
いや、そんな覚悟が出来ちまったら……それはある意味、真人間を辞めちまうようなもんか。
俺は、俯く一花を傘の中に入れる。
「……ほら、誤解されたくなきゃさっさと行くぞ」
「ソージ君……ごめんね」
「謝るんじゃないぜ……俺はしんみりが苦手なんだ」
お節介の焼き過ぎも、考え物だと少し反省しつつ。
俺達は、相合傘の形でホテルへと戻って行った。
「お前の取った道は間違いじゃないが……それが受け入れられるかどうかは別問題さ」
「………ごめん」
side一花
「シャワー空いたよ。
先、頂いてごめんね」
シャワーから出た私を待っていたのは、外の曇り空よりもどんよりとした空気だった。
「で、では……次は四葉がどうぞ…」
「うぅ〜…
下着までぐっしょり……」
四葉と五月ちゃんは私と同じようにびしょ濡れになったからだが……二乃と三玖に関しては、私の自業自得のようなものだ。
「わぁ……五月ちゃん、これ攻めてるね……着ないの?」
「こ、これは違うんです!
身の丈に合わないので捨ててしまいます!」
とりあえず、バッグに凄い下着を入れていた五月ちゃんに話しかけていると。
「一花。
三玖に言う事…あるんじゃないの?」
二乃が、逃げるなと言わんばかりに声をかけてきた。
その声にビクッとした三玖と私はしばらく見つめ合う。
三玖の顔は、どこかやつれたようであり……目は少し赤い。
その顔に、押し込めたはずの罪悪感が蘇る。
それだけのことを私はしてしまったのだと、突きつけられているのとイコールだ。
「ごめんね……一花」
違う。
謝らないといけないのは私の方だ。
それなのに……たった一言の「ごめんなさい」も言えず、三玖の優しさに甘えてしまう。
どうしてこうなったんだろう。
どうして、私はこんな嫌なやつになってしまったのだろう……?
重い空気が、さらに重くなって行こうとしていた時。
「五班……全員いるか?
連絡事項を伝えにきた。
30分後に2階の大広間に集合だ……奏ニがクラスのグループチャットに詳しい内容を送ってくれているから、そっちも見てくれ」
ノックの後、フータロー君が私達に連絡事項を伝えにきた。
「なぜ、あなたが……」
「一応学級長だからな」
先程のいざこざが記憶に新しい私は、あの時向けられたあの拒絶の目が頭をチラついて目を逸らすが……三玖の反応はその比ではなく。
「と、トイレ!」
フータロー君から逃げるように、トイレへと向かってしまった。
それを受けたフータロー君はため息を軽く吐き。
「お前ら、まだ揉めてんのか。
ちょっと俺に話してみろ」
サラッと爆弾を投げ込んできた。
この場でそれをフータロー君に話すと言うことは、立ち回り方によっては、自分が原因で私達が喧嘩していると知られることになる。
そうなれば、責任感の強い彼はまた辞めてしまうかもしれないし、あるいは自分自身を責めるかもしれない。
そうでなくとも……フータロー君に、また心配をかけさせたくない。
とは言え、このままでいても彼は納得してくれないし………。
どうしたものかと頭を悩ませていると。
「ふー、スッキリしたー!」
突然ドアが開き、全裸に近い姿の四葉が出てきたかと思ったら、速攻でまた閉めた。
その、嵐のような出来事に張り詰めた空気が一瞬壊れたので、そこに畳み掛けるように。
「大したことないよね!」
「ええ!こんなの、姉妹じゃ日常茶飯事よ」
「じょ、じょ、じょーしきですよね!」
なんとか誤魔化す流れに持って行くと、フータロー君は疑惑の目を変えることなく。
「ならいいが………
兎に角30分後な。
明日のコースもそこで決めるらしいから、考えておけよ?」
と、言葉だけを残して去って行った。
そうして、また訪れる張り詰めた空気。
「ごめん、勝手なこと言って…」
「いいわよ。フー君に心配されるのだけは1番避けたいもの」
とりあえず、適当なことを言ったことを謝ると、二乃は仕方ないと言った顔で頷き。
「あんたもすぐ逃げんじゃないわよ。町谷にも言われてたでしょ?」
「確かにそうだけど、でも……」
「三玖…いつまでもそうは、していられませんよ」
トイレから出てきた三玖に苦言を呈していた所で………
「………みんな、はっきりさせよう。
私たちはずっと、フータロー君と2人きりになる機会を伺ってる」
私は、今まで誰も触れてこなかった所を自分から口にした。
side五月
「私は班決めの時からそう言ってるわ。
五月、あんたもなの?」
「否定はできません…」
二乃に話を振られた私は、静かに肯定した。
私は、今回上杉君にあの日の事を思い出してもらおうとして、2人きり……ではなくとも、一緒に行動したかったのだ。
だから、正確には少し違うんだけど……まあいい。
「でも……このままじゃ、誰の目的も叶わない。
それは全員が望む所じゃないはず」
「あんたがそれを言うのね……」
「も、もういないよね……?」
顔を真っ赤にした四葉が顔を覗かせてきたので、一花が会話に入るように促したところで。
「だから………最終日のコース別体験学習。
五つのメニューから一つを選んで、各地に赴くカリキュラムなのは知ってるでしょ?
そこで……それぞれ一つずつ選択するのはどう?」
と、一つの案を提示してきた。
side三玖
なんと言う事だ。
「「あ」」
昨日の雨から一転して、まさに行楽日和となった最終日。
みんなでバラバラに行き先を選んだ中で、コース別体験学習で私が選んだのはDコース。
それが……
「やっぱDコースがいいな……三玖、交換しようよ」
そんな申し出をしてきた一花とコースを交換したことで、私がやってきたのはEコースだった。
いや、それだけじゃない。
「三玖……」
「フータロー…」
一体なんの因果か、折角低い可能性で外れるように祈っていたのに、まさかここで5分の1を引き当ててしまうとは。
「ここにいるのは一花のはずだったのに……」
二乃やソージに色々言われたけど、やっぱりまだ私には想いを伝えるだなんて無理だよ……。
どうか、このまま1人でいさせてほしいと思っていると。
「この後、お昼過ぎまで見て回れるらしいね」
「どこ行くんだコラ」
「適当に回ろうぜ」
フータローの班の3人が話し合っていた。
ソージがいないのが気になるけど、いても勘付かれそうだからこれでいい。
兎に角この場から離れるべく、気配を消してみたが……
「あ、中野さん。また会ったね」
武田君が、余分にもめざとく見つけてきた。
「ははっ、また逃げられちゃった」
「嫌われてんじゃね?」
3人分の視線も構わずにその場から逃げていると。
「三玖、止まれ!」
「あっ!」
目の前に人がいたのに気づかず、そのままぶつかってしまった。
「すみません……おい、大丈夫か?」
その場にへたり込む私にフータローが近づいてくるが。
「危ないだろ?立てるか………おい!」
「じゃ、じゃあね!」
フータローの顔をまともに見れず、私はまた逃走を再開した。
二乃、ソージもごめん。
やっぱり、無理だよ……!
「あ、おい!」
フータローの声に後ろ髪を引かれながらも、それを振り切って逃げようとした時。
「戦国武将の着付け体験いかがですかー?」
まさに私に刺さりそうなイベントの宣伝が、私の足を止めた。
side奏ニ
映画村に班でやってきた俺は、仕事関連の用事があるからと理由をつけて、単独行動を取っていた。
その用事とは……
「待たせたな、五月……に四葉?」
五月に三玖のサポートのサポートを頼まれたのだ。
本来、こんな贔屓じみたことはしないが……まあ、この争いを煽った身としては、見届けるくらいはしないとな。
「五月と町谷さんも一緒なら百人力だね!」
と、能天気に笑う四葉の隣で、五月が俺の服を見て何か言いたそうだ。
「なんだよ」
「…折角の映画村なんですし、もっと観光地らしい格好をしても良かったんじゃないですか?」
「別にいいだろ?しっくり来るんだからよ」
因みに、今の俺の格好は宣教師であり、着付け体験で選んだ物だ。
呆れたようにいちゃもんをつけてくる町娘姿の五月に応じていると、同じく町娘姿の四葉が考え込むような顔で。
「でも、なんかいつもと変わらないような…」
「いつものは改造神父服で、今回のは宣教師だ。
それより……お前ら何で、わざわざ別コースから来たんだ?」
大した事ないような事を考えていたので、適当に答えながらも気になっていた事を聞いてみる。
「……お巡りさんに聞きながら、なんとか迷わずに来れたんですよ」
「方向音痴がようやるわ……で、なんで別コースからわざわざ」
話題を逸らそうとする五月に、改めて聞こうとしたが。
「2人とも、上杉さんたちが行っちゃうよ?」
四葉がそう促してきた。
まあ、聞こうが聞かまいがやることは変わらねえし、今はよしとしよう。
そんなこんなで俺達は、茂みに隠れながら、風太郎達を尾行し始めた。
「さあ…スニーキングミッションだ」
side二乃
「一花、なんで……⁉︎」
「二乃こそ……」
折角2人きりになったのに、三玖がフー君から逃げようとしてたので、興味をひけそうなものを探して。
「「戦国武将の着付け体験いかがですかー⁉︎」」
適当に、それっぽいものをでっち上げて叫んでみたら、なぜか一花が同じように茂みに隠れ、同じ言葉を叫んでいた。
私が言えたセリフではないが、皆んなバラバラに選ぼうって言い出したのは一花なのに、これはどう言う事なのか。
「私はせめて、あの2人を見守ろうと仮病を使って……
あんたまさか、またあの子の邪魔をしようって⁉︎」
「ち、違う!
私も腹痛で抜けてきたの!」
アレだけやってまたやるのかと詰め寄る私だが、どうやら一花も私と同じく様子を見にきたようだ。
「……って言っても、信じてもらえないと思うけど…
私のしたことは許されない。
最終日が終わる前に、少しでも罪滅ぼしをさせて欲しいんだ。
……きっとこれが、私たちの最後の旅行だから」
と、ここで一花が聞き捨てならない事を言い出す。
「あんた、まさか……」
一花が何を考えてそんな事を言っているのか、一瞬よぎった嫌な考えに駆られるように問いただそうとした時。
「あれ!一花と二乃もいる!」
「結局皆、Eコースに集まってしまいましたね」
「これなら、最初からEコース希望すりゃ良かったんじゃねえか?」
私たちと同じように、町娘の格好をした四葉と五月。
「あんた、ここでもいつもの服着てんの?」
「違えよ、宣教師のコスをここで借りてんだよ!」
「変わり映えしないわね…」
「ガロンハットと黒い羽織してんじゃねえか…」
そして、ここで借りたと言い張ってるが、いつもの格好とあまり変わらない町谷の3人がやってきていた。
どう言う意図かは……大体わかる。
多分、この子達も三玖の事を見守りに来て、町谷を巻き込んだのだ。
「全く……誰もルールを守ってないじゃない」
ため息と共にそうこぼすと、どうやらフー君と三玖が動き始めたようだ。
「三玖達が移動するみたいだよ」
「と、とりあえずついて行きましょう」
「はい!」
「よーし、みんなで三玖をサポートしよう!」
そんなわけで、私達5人はフー君と三玖の後を尾行し始めた。
side一花
「着付け……でしょうか?」
「フー君は絶対似合うわ。
なんせ顔が良いんだもの」
「すげえバイアスのかかり方だな」
「最初はタイプじゃないとか言ってなかったっけ?」
「え、何それ?
そんな大昔の私なんて覚えてないわ」
茂みに隠れて様子を伺いながら、4人が会話してる中でふと、二乃が私をチラリと見て。
「まあ、一花がフー君と会った初日から、気にかけてたのは覚えてるけど」
と、また懐かしい事を言い出した。
「そ、そうなのですか?」
「はは……気のせいだよ」
だって、アレを……あの時の事を思い出したのは、あの日の夜だから。
6年前、フータロー君と……
あの時の記憶がふと蘇り、その記憶は、今の私があの時のようには戻れない事を私に突きつけてくる。
嘘をつき続け、信頼を失った私には……
痛みに苛まれている私の隣で、二乃が難しい顔をしている。
「やっぱ、あの男2人が邪魔ね。
ちょっと私がなんとかしてくるわ」
どうやら、フータロー君と同じ班の2人の男の子達を、排除しようと考えているようだ。
「折角だし、一花は三玖に着付けさせるように仕向けなさい」
さらには、私にまでよくわからない事を言い出す。
唐突な妹にどうするのか聞いてみると。
「そりゃあもう……得意でしょ?
三玖の変装」
私が悪いとは言え、傷口に塩を塗るような方法を打診してきた。
「意地悪……」
仕方ない。あの中でとびっきり可愛くしてあげよう。
side二乃
「ヒィ〜〜⁉︎」
「よし、誘導完了ね」
邪魔な男2人をお化け屋敷に放り込み、一仕事終わったと息をついていると、視線の先には新撰組?の袴を着たフー君と、艶やかな着物に身を包んだ三玖が、2人で歩いているのが目に入った。
つまりは……一花も上手くやったのだ。
「ふーん、お似合いじゃない」
今のフー君と三玖は、誰が見てもお似合いの2人だと思う。
でも……そう思うほど、自分がああなりたかったって思ってしまう。
これでは一花を責められたものではない。
そう思うと、居ても立っても居られなくなって。
無防備なフー君の背中に飛びついた。
「譲ったわけじゃないんだから……」
「うおッ⁉︎」
「あ」
流石に、その衝撃で三玖が池に落ちることは予想外だったけど。
「……やり過ぎたわ」
いかがでしたか?
次回でこの章は終わり、第11巻あたりのお話となります。