今回でシスターズ・ウォー編は終わりとなります。
少し短いですが、ご了承願います。
奏二の秘密
雑学に詳しいが、使い道がない。
ちょっとした雑学を話そう。
時代劇の舞台といえば……大体江戸時代だ。
水戸黄門や暴れん坊将軍、鬼平犯科帳や必殺仕事人……あげればまあキリがない。
で、そんな江戸時代において、なんと女性は下着を履く習慣がなかったとのこと。
「お馬」と呼ばれる生理の時につけるふんどしみたいなものはあったらしいが、基本的には腰蓑みたいな「湯文字」やら、それの上につける「けだし」などを下着としており、今みたいにパンツを履くのは戦後あたりになってからなんだとか。
つまり、江戸時代を舞台にした、時代劇の世界を体験するこの映画村において。
着物に身を包んだ中野家の三玖嬢が、池に落ちて下着を濡らしてしまい、悲しきかなノーパンになったところで……。
「………なんですか?その続きを早く言ってみてください」
続きを促す声が聞こえてきたので、お答えしよう。
「その当時のリアルを、体験できたって事でいいんじゃなかろうか?」
「いい訳ないでしょう⁉︎
今は平成です!江戸時代じゃありません!」
と、歴史好きな三玖を鑑みた素晴らしいアイデアを申してみたところ、顔を真っ赤にした五月に怒られた。
話を平成の今、映画村に戻そう。
二乃によって池に落とされた三玖と風太郎が、着付け体験の場所に戻ったのを見守っていたところ。
四葉が「三玖がノーパンになるかも」と言い出した。
そうしてそれに対して慌てふためく3人を宥めるべく、こうして話をしてみたのだが……。
「…そもそも、なんで女性用下着の歴史なんて知ってるんですか⁉︎
不純です!」
「いやあ、浴衣の下に下着は履かないって言うのが、どうしてか気になって調べてたら、そこまで行き着いちまって……」
「うーん………。
ソージ君もフータロー君も、勉強はできるのに変な所でおバカだよね」
どうやら、この3人を落ち着かせることはできなかったようだ。
しかし……
「……でもよ、そうなるとどうすんだ?
漏らした時用のお子様パンツじゃあるまいし、ショーツなんざ、こんな所で売ってねえだろ」
そうなると、何かしらの物による対処が必要になるため、どうするか聞いてみると。
「ふ、ふんどしとかどうかな……?いや、でも、流石にそれは……」
「最悪隠せたらなんでもいいよ!四葉の俊足で見てきて!」
一花と四葉によりふんどしを届ける流れになりそうな所で。
「あ、あの……!
その………変な話ですが!
何かあるといけないと思って……
下着を1セット持ってます」
「「「なんで?」」」
僥倖といえば僥倖だが、意味がわからない事を言い出した五月に、俺達3人の反応が綺麗に揃った。
………どうやら五月も、三玖に負けず劣らずのむっつりスケベなようだ。
side三玖
「アイツら見つかんねーな。どこに行ったんだか……
ん?どうした三玖」
「な、何でもない……!」
下着を履いて、ちゃんといつも通りのタイツも履いているのに、今の私は下半身の状態に、気が気ではなかった。
なんせ、その下着は………あまりにも大胆過ぎるから。
もし、それがフータローにバレて、エッチな女の子って思われたら、一巻の終わりである。
いや、でもそれを逆手に……おっと、危ない。
そんな訳でスカートを手で抑えていた私に、強い風が吹き付けてきて。
「………ッ!」
「おい、本当に大丈夫か?」
いけない。もっと平静を装わなくては。
何だかどっと疲れたような気がした私は、そこにあったベンチを指し。
「つ、疲れちゃったから、少し休んで行かない…?」
「お、おう……」
一先ず休んで、心を落ち着かせる事にした。
「目まぐるしくて、あっという間の3日間だったね」
「……だな」
休憩所っぽい所で休んでいた私達は、今日までの3日間を苦笑いと共に振り返っていた。
まあ……色々あって。
「私は実質2日だったけど……最後にフータローと過ごせたから、それだけで嬉しい」
いろんな気持ちになったけど……なんだかんだで。
いま、こうして大好きな人と一緒にいられるのならそれでいい。
つい昨日まで、泣いたり落ち込んだりしてたのに、細かい事だと忘れちゃう。
このまま、今履いてる下着のことも……いや、それは流石に無理か。
そうして、フータローの反応を待っていると、彼の視線は私の後ろに向けられていた。
「…どうしたの?」
「いや、それは何だと」
その言葉を不思議に思った私も、後ろを振り返ると……
「な、何で私のパンがここに……」
「作ってきてくれたのか?」
見覚えがあり過ぎるあの袋が、私の近くに置いてあった。
たしか、一昨日みんなの前から逃げた時に、無くしたと思ってたのに……。
「え、いや、そうなんだけど……」
「腹減ってたし、一個もらうな」
「あ、ちょっと…」
どう言うことだと混乱している私に構わず、フータローは袋から一つ取って……口に入れた。
そして、咀嚼して飲み込んだ後………
「うまい。
……まあ、俺味音痴らしいから、正直自信はない。
もしかしたら、このパンはまずいのかもしれない。
どっちかはわかんねえが……
お前の努力だけは分かった。
……ありがとな」
私のこれまでが、無駄じゃなかったことを教えてくれた。
「……うん」
かつて、フータローが教えてくれた好みの子の特徴。
それを信じて、私は今までいろんな料理をしてきた。
髑髏が出てきたり、二乃にダメ出しされまくったり……色々あって。
その度に、フータローに「美味しい」って言われたくて。
「私……頑張ったよ。
……頑張ったんだよ」
今こうして……実を結んだ。
つい昨日も流していた涙なのに、今込み上げてくるものは別物だ。
震える声でそう返す私に、フータローは懐かしいものを見るような目で、私のパンの袋を見る。
「どうしたの?」
「いや、ちょっとな……お袋を思い出した」
気になったので聞いてみると、フータローは、自分のお母さんのことを話してくれた。
「6歳の頃死んじまったんだが……元気なうちは、毎日パンを焼いてくれたんだ。
親父も俺もそれが大好きで……」
と、ここで口をつぐんだので首を傾げる。
「大好きで……何?」
「いや、今は俺の話なんてどうでもいいかって思って」
「そんな事ない!」
そうして……私は気づいた。
「こんなに一緒にいるのに、そんな事全然知らなかった!」
人を好きになるには、人を知らなければいけない。
何かの本にそう書いてあった気がする。
それなのに、今まで私は……好きになってもらおうって、自分のことを知ってもらおうとしてばっかりで。
フータローの事を……少なくとも、今教えてくれたような事は全然知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
でも……
「私……もっと知りたい。
フータローの事、全部!」
そう思ったのなら今から知ろうとすればいい。
思いがあるなら、たとえ失敗しても、そこから立ち上がれる……
あの時ソージが教えてくれたのは、きっとこう言うことだろう。
「私のことも、全部知ってほしい」
「……お、おう」
だから……今から自己紹介をする。
私は中野三玖。
好きなものは日本史関連のもの。
戦国武将も、こう言う街並みも……時代劇も。
「あれ!
お奉行所として、時代劇にも使われる名スポット。
今日はあそこを見れただけで私は満足。
Dコースほどじゃないけど、ここにも私の好きなものがたくさんある」
そしてここには、私の好きなものがたくさんある。
例えば……
さっき渡った大きな橋。
「またドラマか?」
「うん。それとね……」
左隣にある提灯が立ち並ぶ建物や。
瓦版みたいなものが貼ってある看板。
私達を日差しから遮ってくれている和傘。
「いや、多すぎじゃね?」
「ううん、まだまだあるよ」
そして……
「好き」
目の前にいる、フータローが、私は大好きだ。
「ああ、知ってる」
……よかった。伝わった。
side一花
「私………全員が幸せになってほしくて。
いつも消極的になってる子を、応援してたのかも……
こうなるって、少し考えたら分かるはずなのに…
だから、一花の本当の気持ちに気づいてあげられなかった。
だから……ごめん」
「一花……ごめんね」
私は……謝られてばかりだ。
1番謝る必要があるのは私なのに。
「私のことも、全部知ってほしい」
三玖……ごめんね。
ずっと、邪魔してばっかりでごめん。
「悪いが、今はお前を信じられない。
何を信じて良いのかわからない」
フータロー君……嘘ついてばかりでごめんなさい。
だけど。
「よっ、来てくれたのか。
1人で退屈だったし、何かしようぜ」
「じゃ、じゃあ、七並べ!」
だけどね……。
「なんだ、ネタがバレてる2人か。
脅かして損したぜ」
あの時、2人で七並べをした思い出は。
「私達、6年前に会ってるんだよ」
ほんの少しの僅かな間だし、もう信じてもらえないだろうけど。
「好き」
「言った……」
三玖の声が、嘘ばかりついていた私が、言う機会を失った言葉を発する。
あの思い出と、君への想いだけは……
「嘘じゃないんだよ……!」
ダメだ。止まらない。
後悔と、悲しみと……涙が。
そんな私に、二乃が肩を置いた。
side二乃
ボロボロと泣く一花に、私は白状した。
あれだけ偉そうな事を言っていたのに……私も結局、三玖の邪魔をしていた事を。
「私ね……あの2人が一緒にいるのを見て、いてもたってもいられず、気づいたら飛びついてた。
あれだけあんたを責めておいて、私が三玖の邪魔をしてるんだもの。
情けないわ……」
そして……だからこそ理解できた。
「あんたの気持ちが、今なら分かる。
もしかしたら……タイミングが違えば、立場が逆だったかもね」
だから……私の方こそ言うことがある。
「偉そうなことばかり言ってごめんなさい」
「そんなこと……そんなことない………」
例え、相手が自分のせいだと言ってくれたとしても。
「ありがとう。
でも、同時に己の愚かさにも気づいたの。
あんたもそうなんじゃない?
最後は三玖まで……一花は悪くないって言ってたわよ」
最後まで自分のせいだって落ち込んでいた、手のかかる妹のように。
「だから……
抜け駆けや、足の引っ張り合い。
この争いには何の意味もないわ。
何故なら……私たちは敵じゃないんだもの」
「うん……そうだね」
私達はフー君を取り合う敵同士じゃない。
だから……
「これが最後だなんて言わないで、三玖に謝りましょう」
その責任をとって離れるなんて絶対に嫌。
なぜなら……。
「きっと前よりも仲良くなれるわ」
私たちには……フー君がいる。
「私達にしては珍しく、同じ好きなものを話せるんだもの」
同じように想いを寄せる、彼がいるのだから。
と、そんなふうに思っていた時。
「やっぱり私は、家族のみんなが好き」
三玖が私の方を指差していた。
「ええっ⁉︎」
「えええ⁉︎」
そして、フー君が振り向き様に私を確認して驚きの声を……。
「あ」
「逆にバレねえと思ってたのかよ……」
side五月
「お前ら、何故ここに……てか、奏二もかよ」
「おう……ちなみに仕事ってのはこいつらのお守りだ」
「三玖、気づいてたの?」
驚いたような顔の上杉君と、いつも通りの町谷君の隣で四葉が三玖に声をかけると。
「やっぱり……一花と二乃の声が聞こえた時から、おかしいと思ってた」
と、少し前から疑ってた事を明かしてきた。
「だろうな。てか、風太郎は何で壁一枚隔ててのやりとりに気づかねえんだよ…」
嘘だろ?と言わんばかりの町谷君に、上杉君は待ったをかけて。
「ちょっと待ってくれ。
と言うことは……今の「好き」ってのは?」
と、深刻そうな顔で三玖に聞くと。
「そこに隠れてたみんなを指して、だけど。
もしかして………自意識過剰くん?」
と、悪戯めいた笑みで答えていた。
side奏二
「ば、馬鹿にしやがって‼︎」
顔を真っ赤にして、どこかに行った風太郎を見送っていると。
「三玖、良いの?折角伝えたのに誤魔化して」
「良いんだよ。
私は誰かさんみたいに、勝ち目もないのに特攻するほど馬鹿じゃない」
「誰が馬鹿よ」
四葉の問いに三玖が答え、そこに二乃が噛み付いていた。
まあ、ほぼいつも通りの姉妹のやりとりだな。
そして、そこに付け加えるように。
「それに……
フータローも、思ってるほど鈍くもないから」
三玖は、自信ありげにそう言った。
「ちょい前までピーピー泣いてたやつが、随分大きく出たな」
「旗を掲げたなら、格好つけるよ……ありがとう、お陰で自信ついた」
「そーかい…」
思わず軽口を挟んでいると、三玖が改まったように姉妹達に向き直る。
「四葉……パンをありがとう」
「ししし、一時はどうなるかと思ったよ」
「五月、多分あの下着五月だよね……ありがと……」
「すみません……」
「何であれで五月って分かるんだ……?」
まあ、多分そう言うことなんだろうな……。
「二乃」
「いいわよ。水臭い」
と、二乃にまでお礼を言った所で。
「ごめん!
ごめんね、三玖……ッ」
一花が、三玖に抱きついて謝っていた。
そして、そんな一花に三玖は。
「いいよ。
……ありがとう、一花」
その手で、一花を抱き返す。
そんな2人に他の3人も静かに寄り添った。
こうして、しばらく続いたシスターズ・ウォーは終わりを迎えた。
とは言っても、風太郎が答えを出さない限り、戦いは終わらない。
だと言うのに、こんな「雨降って地固まる」みたいな雰囲気を出すとは、甘い奴らだとしか言いようがない。
だが……コイツらは俺に勝った。
俺はゼロサムゲームの形が出来上がった以上は、「みんな仲良く」なんてできるわけがないと思っていた。
だから、泥沼化させるよりかは、短期決戦で決着をつけさせようとしたが……姉妹の絆まではどうすれば良いのかわからなかった。
だが……こいつらは、本音をさらけ出して、ぶつかり合って。
そして……この戦いが無意味だと悟ることができただけでなく、姉妹の絆をより強めたようなものだ。
少なくとも……俺では、このルートに辿り着くことはできなかっただろう。
だから………素直に賞賛を送ろう。
「……大したもんだぜ。おめでとさん」
「雨降って地固まる」を、ゼロサムゲームから見出したこの5人にな。
数年後。
結婚式が始まる式場の、花嫁の控室にて。
「あの後、俺は風太郎達のところに戻ったんだが……お前らは何を話してたんだ?」
「それは、私たちだけの秘密だよ……多分、五月に聞いても同じ答えが出てくる」
神父服に身を包んだ俺は、ウェディングドレスに着替える前の花嫁と話をしていた。
その中で、修学旅行の時のことを思い出した俺が聞いてみたところ、今の答えが返ってきたってわけだ。
「だろうな……まあ、それを聞くのは不躾か」
「そう言うこと」
「へーへー」
まあ、あの時の俺が聞かないって決めたんなら、それを尊重するとするか。
「んじゃ、そう言うわけでそろそろ着付けのスタッフが来るから、作業に戻るわ」
「そう。じゃあまた式の時に会おうね」
そう言うわけで、俺はドアを閉め、会場へと向かって行った。
あ、そうだ。
「………風太郎のことは頼んだぜ。
あと、改めておめでとさん。
三玖」
いかがでしたか?
今回は主人公と五つ子達の対立ルートも考えてましたが、そうなると暗くなってしまうため、やめました。
また、この作品での風太郎の相手は三玖でいかせていただきます。
そして次回から新章……と言うより最終章へ突入していこうかと考えております。
最後までお付き合いしていただけると幸いです。
と、言うことで次回もお楽しみに!