それではどうぞ。
奏二の秘密
水着は、ワゴンセールでの掘り出し物。
一花に四葉と合流した私は、目の前の光景に面食らっていた。
「……おいおい。コイツは別に普通じゃねえか?」
私の話に思うところがあったのか、町谷君も拍子抜けといった表情をしている。
「え、ええ……私もちょっと予想外でした」
そんな私たちの目の前では……。
「フータロー君久しぶり!二乃も三玖も会いたがってたよ」
「さあ、みんなで遊びましょー!」
一花と四葉が、上杉君の手を引いてプールに向かっていた。
正直、修学旅行の二の舞になるのではないかとヒヤヒヤしていたのだが……。
「上杉さん、ちょっと日焼けしました?」
「ほらほら〜、同級生の美少女の水着だよ?これが目的だったんでしょ?」
「うーん、やっぱプールはやめておくべきだった……」
この様子を見る限り、そんなことはなさそうである。
そういえば四葉は、もう過去のことは洗い流したように見えた。
ひょっとしたら、一花が家を出る件にしても、上杉君は関係ないのでは……?
「なんだか、早とちりしていたみたいで恥ずかしいですね。てへへ…」
「まあ、よくわかんねえが考えすぎってことだな」
私達が3人を前に安堵の息をついていると。
「フー君!」
「フータロー!」
「「会いたかったー‼︎」」
2人分の声がしたかと思えば、二乃と三玖が上杉君に飛びついていた。
「「……⁉︎」」
呆気に取られ、互いの顔を見合わせる私達の前で、二乃と三玖は上杉君に迫る。
「お、おう……二乃も三玖も元気だったか?」
「うん!プールに誘ってくれて嬉しかった。暑いけど平気?
日焼け止め持って来たから、お互いに塗り合いっこしようよ」
「って言うか聞いて?
コンタクトが流されちゃって、よく見えないのよ……本当にフー君なのかわかんないから、よく見せて欲しいの。
いいえ……むしろもっと私をよく見なさい。似合ってるかしら?」
「二乃は兎も角、三玖が吹っ切れたな……人は恋をして強くなる、ってか?」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃありませんよ、この2人は本気です!」
考えてみれば、みんなの中で特に上杉君に会いたがっていたのはこの2人だった。
そんな2人が上杉君に会えば、こうなるのはわかりきっていたのかもしれないが……それでも、大胆すぎやしないだろうか。
「……」
そんな2人のアプローチに、タジタジになっている上杉君だったが、そこに四葉が。
「よーし、みんな揃ったね!
ご飯食べたら早速アレやろう、アレ!」
と、このプールにあるアトラクションの中で、一際大きいウォータースライダーを指差した。
side奏二
昼飯の焼きそばを食った俺達は、ウォータースライダーの列に並んでいた。
「わー…」
「意外と高いわね……」
俺の後ろでは、四葉と二乃、風太郎がその高さに圧倒され。
「むぅ……フータローにお願いしたんだけど」
「姉妹で仲良く塗り合いっこです!」
「五月ちゃん、次は私ねー」
前では、「姉妹の秩序を守る」と奮起した五月が三玖に日焼け止めを塗っていた。
まあ、三玖は残念そうな顔をしているが……まあ、そんな展開が起こるのはプライベートビーチくらいなもんだろう。
「あ、あの……やっぱりやめませんか?」
「平気だって。
ジェットコースターだってやってみたら楽しかったじゃん。
怖いなら手を握っててあげるから」
「約束ですよ!本当に手を握っててくださいね!」
と、なんとも微笑ましいやりとりを聞いていると、風太郎が。
「そういや聞いたか?うちのバイト先の店長が事故ったって」
と、あの店長の話題になった。
「本人から連絡きた。
バイクでの事故には気をつけろとさ……まあ、こむぎやの店長がなぜか見舞いに来てるみたいだし、なんとかなるだろ」
どうやらあの店長、バイクで事故って入院しているそうだ。
退院がいつかは知らないが……同型のバイクをショップで探しておいてくれと頼んでくるあたり、取り返しのつかない程の怪我はしてないだろうしそこまで心配はしてない。
すると、同じバイト先の二乃も食いつき……
「そうね……ねえフー君?今度お見舞い行こうよ」
「そうだな。俺も行こうと思ってたところだ」
「なんの話かわからないけど、私もいく」
「あんたは関係ないでしょ!」
「なんかひっつき虫みたくなってねえか?」
「ソージ、女の子に失礼」
何故か、関係ない三玖まで食いついて来た。
吹っ切れたのはいいが、常識から吹っ切れるのはいかがなものか。
と、するとまた話題は変わり、今度は引っ越しが話題に上がったが……。
「どうだ?」
「思ってたよりは穏やかですね。これなら特に何も起こらないでしょう」
「いや、そいつはフラグ……」
五月がフラグになりそうなことを言い出し。
「お次の方、お待たせしました!
こちらは二人乗りのボートです。
これから先は二人一組でお並び下さい!」
わずか数分での回収となった。
「「「「…………!」」」」
「フラグ回収が早いぜ」
「はあ……やはりこうなってしまうんですか」
side三玖
「三玖……変わったね」
2人乗りのボートに対して、私達の人数は7。
誰と誰がペアで乗り、誰が1人で乗るかを協議した結果、二乃と四葉、フータローと五月、そして一花と私になった。
因みにソージは、あぶれたので一人で乗るとのこと。
できればフータローと乗りたかったけど、それだと私が嬉しすぎてどうにかなりそうだったかもしれないから、これでよかったのかもしれない。
そんな訳で、私と一花が乗り込んだ所で、一花がさっきの言葉を言い出したのである。
「うん……もう、弱気になっていられない」
「……好き」
修学旅行のあの時、私はフータローに告白した。
結局あの時は答えをはぐらかしちゃったけど、それでも……気持ちは伝わったと思う。
何だか不思議な気分だ。
告白するまでは、さっきみたいに飛びついたり、こうして前向きな思考を持つことは出来なかったのに……。
「告白してからは、なんだか……景色が違って見える」
「……そっか。よかったね」
旗は掲げた。
だからもう……迷わない。
天命を受けるために、私は人事を尽くすんだ。
すごいスピードで降ったボートが、水飛沫を上げて前に出る。
そうして見えた景色は……やはり、以前よりも晴れやかな物だった。
side奏二
「いやー、笑った笑った。
アイツ直球すぎるぜ!」
「あまり笑いすぎると、後で彼女に怒られますよ?」
一人でボートに乗るべく、3ペアの後に並んでいた俺は。
「にしてもあれが、例の五つ子とその家庭教師でしたか…」
「おう、癖だらけだけど楽しくやってるよ」
お忍びでやって来ていた四郎と偶然会ったので、その二人でボートに乗り込んでいた。
どうやら、息抜きとしてここにやって来ていた時、俺を見つけて登って来たらしい。
で、俺がバカ笑いしていたのは、俺たちの前に乗った五月と風太郎の事なんだが……
なんと、風太郎が五月の腹に頭を乗っけたかと思えば、枕みたいと言い放ったのだ。
最近なりを潜めていたものの、やはりノンデリカシーの名前を欲しいままにするだけのことはある。
まあ、俺も笑ったから後で怒られるんだろうし、さながら刑罰の執行場所に向かう犯罪者だな。
と、そんなこんなで覚悟を決めて、俺たちも滑ろうとした時。
「………それで、例の事は?」
「……その話は、また今度にしてくれ」
四郎の耳打ちに、俺は声のトーンを落として返した。
「無堂のクソ野郎がこの街に来るかもしれない、なんてよ」
滑り終えた俺達は、また近いうちに会うことを約束して別れ。
俺がみんなのところに戻ると、真っ先に飛んできたのは捲れた顔をした五月だった。
「町谷君‼︎
さっきはよくも笑いましたね⁉︎」
「いやー、まさかあんな唐突に来るとは俺も予想外で……ブハッ!」
「また笑った⁉︎」
まあ、焼きそば食った後で腹が膨れてたのかもしれないが……それにしても、あの不意打ちはダメである。
「まあ、普段の食生活の賜物よね……五月、本当に肉まんお化けにならないように気をつけなさいよ?」
二乃がため息と共に、俺を揺さぶることで報復に移った五月にそう注意すると、五月はムキになったかのように。
「もう!町谷君にはお仕置きですからね⁉︎」
「おい、俺は大食いはやらねえぞ?」
「まだ言いますか⁉︎
運動ですよ運動、プールで泳いでフィットネスです!」
と、俺の手を引いてどこかへ連れて行くのであった。
「姉妹の秩序はどうすんだ?」
「今はあなたへのお仕置きです!」
side五月
「で、結局なんでまたここに」
「他に良さそうな場所がなかったので……」
出来れば遠泳用のプールがあればよかったのだが、運悪く存在せず。
そんなわけで、私たちは再びあのウォータースライダーにやって来ていた。
……さっきのが楽しかったから、またやりたいというのは内緒だが。
「一人用のボートがあればな…」
「無い物ねだりはなしです。
それに、私だけ恥ずかしい思いをするのは不公平だと思うんですよ」
思えば、大食いキャラと勘違いされたり、体重が重いと認識されたり、お腹の事を笑われたりと……私は今まで、散々町谷君に辱められて来た。
ここは一つ、彼にも恥ずかしい思いをしてもらってもいいのではなかろうか。
……決して、三玖達にあてられたわけじゃない。
そんな私の復讐劇は、こうしてボートに乗り込むところから始まり……
「ん?どうしたよ」
「さあ、私に体を預けてください」
「………へ?」
先程と同じく私が後ろに座り、町谷君に早く乗り込むように促す。
「お前、さっき風太郎に言われてたのにまだ懲りてねえのか?」
「きっと、彼が使っている枕は硬いのでしょう!私のお腹はそこまで弛んでません!」
そうだ。彼のお家はお世辞にも裕福とは言えない。
そうなれば……枕だってそんなに柔らかいものは使ってないだろう。
だから私のお腹だってそこまでは……!
「さあ、早く来てください!
私はこんなのヘッチャラなんですから!」
何だかすごく恥の上塗りみたいなことをしているような気がするが、いまさら後には引けないのだ。
そんな私に根負けしたのか、町谷君がやれやれと言った顔でボートに乗り込み、私のお腹に……
「いや、そもそも寝そべる必要ねえ気がするんだが……現に、他の面々は普通に乗ってたし、俺と四郎だってそうだぜ?」
乗る前に、さらっととんでもないことを言い出した。
「……え?」
「たぶん、風太郎がやり方を間違えただけだな」
ため息と共にそう告げて来た町谷君と、固まる私。
そんな少しの沈黙があったが、それを打ち破ったのは。
……クゥゥゥゥ〜……
私のお腹が、小腹をすかせたことを告げる音だった。
「…………」
「………言いたいことがあるのなら、はっきり言ったらどうですか?」
咄嗟にお腹を押さえ、思わず睨みつけるが、町谷君は笑いを堪えているのか、こちらに目線を一切合わせなかった。
そんな彼にこっちを向かせようと手を伸ばした時。
「キャアアア⁉︎」
「おわぁ⁉︎」
ボートが突然進み出し、その勢いで前に出た私は、町谷君に抱きつく形となる。
「………もう、お嫁に行けません……」
「……フルコンボだドン、ってか?」
滑り終えた後にきっと、彼はしてやったりと言わんばかりの顔なんだろうが……空腹と勘違いで屈辱の極みにいた私は、その顔を見ることができず、そう訴えかけることしかできなかった。
side奏二
ここで、このボートの乗り方を改めて確認しよう。
このボートは2人一組であり、後ろに乗った奴が足を広げ、その間に前の奴が収まる形となる。
その形となると、普通は体が大きい方が後ろに行った方が収まりやすいのだが……五月はそれを考慮せずに後ろについた。
更に言えば、風太郎も普通に体を起こしておけばいいのに、なぜか五月の腹を枕にして寝転がった訳だな。
……で、それでヤケになった五月が俺を巻き込んで自爆テロをかまそうとしたが、お腹の虫がそれを止め。
結果としては、勘違いと空腹バレで自爆した、燃え滓が出来上がったのであった。
「んー♪」
「んー……こんな屋台で3000使うとは思わなかったぜ」
で、流石にこのままでは通行人の視線が痛かったので、フードコートに連れて行ったら……かき氷や冷やしパイン、その他諸々の食い物で、ある程度機嫌が治っていまに至る。
「お仕置きです、お仕置き」
「でもよ、そんなに食ったら……」
「大丈夫です、最近スポーツジムに通い始めたので…」
正直、スポーツジムに行ったとしても、一回のカロリー消費なんざたかが知れている。
こいつの食事量分のカロリーに対して、どこまでの効力を発揮するかはわからないが……まあ、それはおいおい考えよう。
「やっぱお前は、その食ってる表情が1番だな」
「⁉︎」
こいつのこの顔を、もう少し楽しみたいからな。
「も、もう!そんなことでおだてたって……」
そんなこんなで俺は、五月が食い終わるまで待ち。
「……それなら、もうちょっと見せてあげますよ」
「まだ食うのかよ⁉︎」
帰り際、それを見ていたらしい二乃に、あまり甘やかすなと怒られたのだが、それはまた別のお話で。
そんなプールでの一件から数日。
「折角だし、あの5人と行ってもいいんじゃ?」
「きっと警戒されてしまうだろう……それに、命日くらいは親子水入らずにさせてやりたい」
奏一さんの墓を手入れするべくやって来た俺は、たまたま会った親父さんと共に、零奈さんの墓の前で手を合わせていた。
今日は8月14日。
アイツらの母親である「零奈」さんの命日なのだ。
そうして線香と献花をした後。
「………そう言えば、五月君がずいぶんと世話になっているね。彼女から君の話をよく聞くよ」
「……何を話したのか、気になるけど知りたくねえや」
五月の話題になったので、場合によっては土下座に移れるように構えるが。
「何か思い当たるところがあるようだが………安心したまえ。ただ単にお礼が言いたかっただけさ」
「それが俺の仕事だ。別に気にしなくていいぜ」
何だ拍子抜けなことを言い出した。
お礼とは何のことやらさっぱりだが、俺はしんみりは苦手だ。
なので話を断ち切り、掃除用具を持って奏一さんの墓に向かおうとすると。
「………先生が亡くなって、5人の中で1番ショックを受けていたのは五月君だった。
そんな彼女を救ったのは……間違いなく、あの時の君の言葉さ。
本当に感謝している」
親父さんは、そこまで言ったところで俺の目を見据え。
「君を想うのは、君だけじゃない。
それは忘れないでくれたまえ」
念押しめいた口調で、そう告げてくるのであった。
「………俺は1人でよかった筈なんだけどな。
お節介焼きな連中だぜ」
……わかっているさ。アレだけはっきり言われちゃあな。
数分後。
「それじゃあ、俺は慰霊碑の整備に」
「ああ。これからも励みたまえよ」
ここでの用事を済ませた俺が、次の要件を果たしに行こうとすると。
親父さんが思い出したかのように。
「ああ、そうだ……君には先に言っておくが、二学期から一花君抜きで家庭教師補佐を行ってくれ」
と、一花を抜きに………ん?
「へ?」
とんでもないことをサラッと言われたので、そのことの意味を理解するのに少しの時間を要した。
「……おいおい、マジかよ」
いかがでしたか?
次回は一花の退学疑惑騒動となります。
今回は二乃のアプローチイベントである病院編は、省かせていただきました。
その分、次回は二乃視点を多くしていこうと思います。
それではお楽しみに!