五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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更新です。

今回は少し短めですが、前後編という事で。


奏二の秘密

霧雨魔理沙のコスチュームを持っている。


第38話 雛が巣立つ時 

「いつまでも、みんなで一緒」なんて、できるわけがないのはわかっていた。

 

 鳥の雛が巣立つように……いつか、みんながそれぞれの道を見つけて、羽ばたいていくのだから。

 

 

 

 町谷から「二度と会えなくても後悔しないか」と念押しされたあの時は、深く考えなかったけど……。

 

 

 先日、一花が出ていくかもしれないと聞いて、改めてその時が迫っている事を感じた。

 

 

 

 進学……仕事………結婚。

 

 理由はいろいろあるけれど、私たちは、いつか離れ離れに巣立っていくのだ。

 

 そんなこと……考えたくなかったのに。

 

 

 

「フー君は…いなくならないでくれる?」

 

 そうして巣立っていくことによる孤独に怯えたのか、取り残されていく事への不安に駆られたのか……フー君に繋がりを求めてしまった。

 

 

 

 そうやって、恐怖を少しでも拭おうとしたのに。

 

 

「みんなには言っておかないとね。

 

 

……私、二学期からは学校行かないから。

 

 

 

 辞めるんだ、学校」

 

 

 お母さんの命日、墓前にて。

 

 五月の聞き間違いかと思ったら………一花本人の口から、そう告げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聞こえない。

 

 

「あーあー!聞こえない聞こえない」

「突然ごめんね。

 

 

9月からの長期ロケを受けることにしたの」

 

 

 

 聞きたくない。

 

 

 

「あーあー」

「少し離れた撮影地で、拘束時間も長いの。

 

 

 できるだけ、家から通うつもりだけど……」

 

 

 

 受け入れたくない。

 

 

「聞こえないわ」

「学校は諦めないと」

 

 

「なんでよ!」

 まさかこんなに早く、その時が来るだなんて……!

 

 

「あと、半年じゃない。

 

 

 もうちょっとで卒業なのに……

 

 

 私達が同じ学校に通えるのは、これが最後なのよ?」

「そ、そうだよ一花!

 

 他に選択肢はなかったの?」

 

 思わず一花に食ってかかった私の後に、四葉も困惑した顔で聞くが。

 

 

 

「お仕事に専念したいから」

 

 当の一花本人は、もう決心したようだ。

 

 でも……

 

 

 なんで、そんなにさっぱりと決心できるのだろうか。

 

「なんで、そんな大事なことを1人で……

 

 

 相談してくれなかったのよ」

 

 

 納得がいかない私に、五月が諭すように。

 

 

「二乃……

 

 

 寂しいですけど、家では一緒と言ってくれてます。

 

 

 一花が学校よりも大切なものを見つけたことを喜びましょう」

 

 と、まさに優等生な事を言ってきたが。

 

 

「それは、本当にあんた自身の言葉なのかしら」

 五月だって、私に負けず劣らずの5人でいることにこだわっていたはずなのに、一体どう言う心境の変化なのか。

 

 

 疑わしい五月に疑惑の目を向けていると、四葉が。

 

 

「すごいなあ、一花。

 

 私も一緒に卒業したかったし、一花だけいないなんて寂しいよ。

 

 

 でも……一花の夢だもんね。応援するよ」

 

 一花を激励している隣で、三玖は何かを考えているようだった。

 

 

 

 

 

 side三玖

 

「フータロー、一花の事……」

「ああ。お前らの父親から話は聞いた」

 

 

 一花が学校を辞めると言うことが発覚してから数日。

 

 ソージに案内してもらったフータローの家で、私とフータローはその件について話をしていた。

 

「お前も、親父さんから聞いたのか?」

「違うよ。私達は一花から直接」

 

 墓地でのことの顛末を話すと、フータローは少し考え込み。

「他の姉妹達は今、どんな反応を?」

 

 それからの様子を聞いてきた。

 

 ここ最近は、学校での夏期講習がちょこちょこあるので、そこまで大きな動きがあるわけじゃないけど……

 

 

 まあ、ないわけでもなかった。

「二乃はまだ、気持ちが追いついてないみたい……納得しようとはしてるみたいだけど」

「…まあ、アイツの性格ならそうだよな。五月も似たような感じか?」

 

 二乃は物言いこそキツいけど、私達姉妹への想いは本物で……

「5人で一緒」にこだわりを見せている。

 

 そうなると、今回の一花の退学は大きなショックだったことだろう。

 

 

「五月と四葉は一花を応援してる……まあ、あの2人はそこまで深く考えることないから」

「辛辣だな、おい。まあ、否定出来ねえところはあるが……」

 

 五月は「一花がやりたいことを見つけたなら、それを祝福すべきだ」と、まさに優等生みたいな主張をしており、四葉も似たようなものだ。

 

 

…まあ、一花も家では一緒にいると言ってくれているので、そこまで深く心配してないのかもしれない。

 

 あの2人は、タイプは違えども呑気な性格をしているから……。

 

 

 そこまで言ったところで、フータローは私を見据えて。

「で、お前は?」

 

 私についても触れてきた。

 

 

 私は……

「祝福したいけど……一緒に卒業したい。

 

けど……私じゃ多分止められない」

 

 やっぱり、姉妹一緒に成すことができる最後の学生生活を、こんな中途半端で終わらせたくない。

 

 あの修学旅行の件で、私といるのが辛くてこの道を選んだのだとしても……そんな選択はさせたくない。

 

 

 

 でも……過程はどうあれ、一花は女優の道に専念すると決めており。

 

 この姉は決めたことに関しては頑固かつ、聞く耳を持たない。

 

 

 そんな姉を……多分、私では止められないのだ。

 

 

 

 そこまで打ち明けた私が、フータローの反応を待っていると。

 

 

 

「教師たるもの、本来生徒の巣立ちは喜ぶべきもんなんだろうが……生憎、5人で笑顔で卒業させるって、お前と約束しちまったしな。

 

 

 それに……アイツには借りがある」

 

 

 何かの書類を取り出しながら、風太郎はそう切り出したのを聞いて、私はまさに我が意を得たりと言った気分だった。

 

「……そっか。よかった」

 正直、今の一花を止められるのはフータローやソージくらいしかいないと思っていた。

 

 でもソージの方は「クライアントがそう言うなら、下手な口出しはしない」と一花の決定を了承している。

 

 

 だから、もしフータローが止めようと考えているなら………

「だから…」

「うん……私も多分、同じ事を言うと思う」

 

 私と同じ方向を向いてくれているのなら。

 

「「力を貸してくれ(ほしい)」」

 

 私は、私ができる精一杯で、フータローと一緒に戦うんだ。

 

 

 

「微妙に違くね?」

「細かいことは気にしない」

 

 

 

side一花

 

「……」

 退学を承認してもらった私は、学校の中を散策していた。

 

 

 たった一年だけだけど……ここには色んな思い出がある。

 

 

 少なくとも、前の黒薔薇の時はこうやって別れを惜しむこともしなかっただろう。

 

  

 久しぶりにフータロー君に会った学食。

 

 

 私達が普段使っている教室。

 

 

 勉強会をやってた図書室。

 

 

 そして……

 

 

「あ、一花ちゃん!

 

 夏休みなのに、学校来てたんだ!」

 

 

 ここで出来た友達。

 

「すげー、本物だ!」

「俺、初めて見たよ!」

「こら!失礼でしょ!」

 

 

「あはは…気にしてないよ。みんなは部活?」

 

 後ろで、私の姿に湧いている他の部員に喝を入れていたので、それを宥めつつ聞いてみると。

 

「うん。もう3年だけどね。

 

 私が大会が残ってるからさ。

 

 これで最後だし、悔いなく終わらせたいんだ」

 

 

 と、照れくさそうに話してくれる。

 

 

「そうなんだ…偉いね」

「い、いやぁ……一花ちゃんに比べたら、私なんて屁みたいなものですよ。

 

 

 この前CMに出てたでしょ?お母さんと2人でびっくりしちゃって……」

 

 私の言葉にそう謙遜した彼女は。

 

 

「こんな有名人と同じ学校に通っているなんて、誇らしいよ」

 

 

 と、やはりもう私は「テレビの向こうの人」というキャラ付けがされているんだと突きつけてきた。

 

 

 そうだ。私は女優として生きていくって、もう決めたんだ。

 

 

 そしてその言葉で、私にはこの道しかないって、覚悟が決まった気がする。

 

 

 そうしてテニス部の子達を見送っていると。

 

 

「有名人だって。

 

 

……おかしいね」

 

 いつのまにかいた三玖が、塀に腰掛けていた。

 

 

 

 side三玖

 

「学校には話せた?」

「うん、応援してくれるって」

 

 一花のあの告白から、初めてこうして2人で話す機会を得た私は、昇降口で話をしていた。

 

 

「もう、これで戻れない。

 

 私にはこの道しかない……覚悟が決まった気がするよ」

 

 一花は、もう女優としての道を選んでおり、その言葉に迷いはなかった。

 

 

 でも……

「そうかな?

 

 一花なら、何でも器用にこなせるような気がするけど」

 

 普段はグータラな姉だけど、なんだかんだで二足の草鞋を履いてこれていたのだ。

 

 それをあと半年続けるくらいなら、できそうな気がする。

 

 

 でも、一花は首を横に張り。

「私もそう思ってたんだけどね〜。

 

 

 仕事と学業の両立ができるほど、現実は甘くなかったよ。

 

 私にはソージ君ほどの力はなかったみたい」

 

 

 と、窓の外を見ながら言うが……本当にそれだけなんだろうか。

 

 

 ひょっとして……

 

 

「私といる事が、まだつらい?」

 

 私に負い目を感じて、辞めようとしているのかもしれない。

 

 修学旅行の一件が、まだ尾を引いているのなら……

 

 

 

 

 そう思った私の質問に、一花は。

 

「違う。

 

 辛いのは三玖と一緒にいるからじゃない。

 

 また、元のように戻れると思ったけど、フータロー君と一緒にいると……自分が許せなくなる」

 

 自戒を込めたように否定して。

 

 

「…………一緒に卒業したいよ」

 

 一瞬、弱々しい声で、絞り出すようにそう言った。

 

「……それなら!」

「なんちゃって。

 

 ありがとね三玖。帰ろっか」

 

 その後、すぐにはぐらかしたけど……きっと、あれは一花の本心なんだと思った。

 

 でも、一花は修学旅行の一件を振り切る事ができなくて、こうして責任を取ろうとしている。

 

 私達は……少なくとも私はそんな事望んでないし、一緒に卒業したいけど。

 

 一花はもう……私じゃあ止めることはできない。

 

 

 止める事ができるのは…………!

 

 

 

 

「………だってさ。フータロー」

「⁉︎」

 

 そうして、私は待機していたフータローに声をかけた。

 

 

 

 

side風太郎

 

 家にやってきた三玖に協力を仰ぎ、なんとかして一花の退学を考え直させようと調べた所。

 

 ある一つの道を見つける事ができた。

 

 

「休学?」

「……ああ。

 

 出席日数と一定の学力を示せれば、また復学し、卒業までできるそうだ」

 

 

 それは、退学ではなく休学。

 

 言ってみれば、「5人揃って笑顔で卒業」を達成させるための切り札だ。

 それに……どうやら一花もそれを望んでいるようだし。

 

「この手段を選べ。

 

 5人で卒業したいと言う気持ちがあるならな」

 

 

 俺がそう告げると、一花は一瞬目を見開いて。

 

 

「意外だなぁ。

 

 

 君は後押ししてくれると思ったのに」

 

 と、ため息をついた。

 

「一定の学力って……これからずっと撮影と稽古だよ?

 

 

 ただでさえお馬鹿なんだから……

 

 

 授業も出ないでそれは無理だよ」

 

 と、実に客観的な自己分析をしてきた。

 

 

 たしかに、度合いは知らないが多忙を極める女優業と、学業の両立は困難を極めるのだろう。

 

 だが………それはこいつだけならの話。

 

 

「だが、俺がいるならそうなるとは限らない。

 

 また、お前が個人的に俺を雇うんだ。

 

 お前の時間に合わせて、俺が一対一で教える。

 

 

 お前の学力は落とさない」

 

 

 これなら、女優業を続けながら、示せるほどの一定の学力を保つ事ができる。

 

 

 俺たちが夢見た、5人揃っての卒業も不可能じゃないだろう。

 

「フータロー君は優しいなぁ」

「ビジネスだ。………どうだ?」

 

 

 

 そんな、半ば願望も込めた俺の提案に。

 

 

 

 

 

「ごめんね。

 

 

 女優一本でいくって決めたんだ。

 

 

 そのビジネスには乗れないよ」

 

 

 と、断られてしまった。

 

 

 

「ふっ……やれやれ」

「カッコつけたのに、失敗したね」

「ほっとけ」

 

 

 正直、事実でとどめを刺すくらいなら優しくして欲しいが……ここで慰めてもらっても事態は変わらないし、それは良しとしてやる。

 

 

 

 それよりも……次の手だ。

「三玖、頼んだ」

「うん。覚悟はいい?フータロー」

「ああ……こんなところで諦めてたまるか」

 

 

 そんなこんなで、俺は三玖と共にある場所へ向かっていった。

 

 

 




今回はここまでとなります。

次回は一花退学騒動の後編となりますので、お楽しみに!
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