五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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第39話です。

 今回で11巻のお話はおしまいとなります。

 いろいろ迷走していましたが、とりあえず形には出来たかと思います。

 それではどうぞ!

 奏二の秘密

声優としての芸名は「関 優一」(せき すぐかず)としている。


第39話 分枝 旅立ちの刻

 あらすじがてら、現状の整理をしよう。

 

 

 風太郎のバイト先と言えば、ケーキ屋と家庭教師だが……近頃風太郎にとっての死活問題が起こっていた。

 

 

 

 夏休みということで家庭教師の仕事はしばらくお預けとなり、その間はケーキ屋のアルバイトがメインの稼ぎ扶持になるはずだったが………

 

 つい先日、店長がバイク事故により入院したので、そのバイトの収入もしばらくは期待できなくなってしまっていて。

 

 

 現在、なんとか一花の退学を止めようと、色々策を練っているみたいだが……軍資金が無いのではどうにもできず。

 

 そんなピンチに陥った風太郎に、協力者である三玖がとある提案を持ち出していた。

 

 

 

 夏休みがいよいよ終わりに差し掛かってきたころ。

 

「お、あれだあれ」

「むむむ……」

 

 俺は、二乃に連れられてこむぎやのバックヤードにいた。

 

 三玖が風太郎をこむぎやで働かせている事を聞きつけ、俺を巻き込んでその視察に来たわけである。

 

 

「こ、こんな感じか……?」

「もっと強く………うん、いい感じ」

 

 

 ライバル店のエースバイトと部外者を、入れてくれるのか心配だったが……風太郎から俺の紹介でケーキ屋のバイトを始めた事を聞いたらしく、紹介の参考にしてくれと中に入れてくれた。

 

 

 

「へえー、初々しいねえ…」

「そんな事言ってる場合じゃ無いわよ!折角の私だけの特権が……」

「店が臨時休業してんなら仕方ねえだろ?そんなに殺気立つなよ」

 

 殺気立つ二乃を抑えていると、店長が目頭を押さえて。

 

「あの三玖ちゃんが、新人君にレクチャーしてる……

 

 新人君はものすごくシフト入ってくれてるし、このお店はもうあの子達のものよ………」

 

 

 と、苦労してきたのかやけに実感のこもる喜びの声を上げていた。

 

「あの奇天烈料理ともお別れか〜…」

「そんなに寂しそうにしなくても大丈夫よ。

 

 料理が出来ないのが三玖だけだと思ってるのかしら?」

 

 

 二乃のジト目を受け流しながら、三玖と風太郎の共同作業を見守っていると。

 

 

 

「ねえ、改めて聞いてもいい?

 

 

 なんで一花をそこまで引き止めようとするの?」

 

 

 三玖が、俺も地味に気になっていた事を話題に出していた。

 

 

 

 

 

side三玖

 

 

「前にも言ったろ?お前ら5人を笑顔で卒業させるって…」

 

 

 

 私達の次の手は、自主映画……まあ、内容は一花が勉強してるだけだけど、復学に必要な「一定の学力」を用意する事だった。

 

 

 そのため、ここでのバイトでお金を貯めることにしたのだ。

 

 

 で、今はまずフータローにここでの仕事に必須な技術を教えているところで……まあ、ここまできたら説明はいいか。

 

 

 

「本当にそれだけ?」

 

 気恥ずかしそうに言うフータローに、念押しするように聞く。 

 

 

「それだけってなんだよ」

「なんとなく、それだけじゃ無いような気がした」

「ウグッ………また随分とアバウトだなオイ」

 

 

 呆れたように言うフータローだが……その前に若干「バレた」みたいな顔をしたのは見逃さない。

 

 ここには私しかいないんだし、意地を張る必要はないのに……。

 

「今いるのは私だけ。素直になっていいんだよ」

 

 と、フータローの目を見て促すと、分かったと言わんばかりに嘆息して。

 

 

 

 

「………クリスマスのあの時。

 

 俺を雇い直すために、あのアパートの敷金やら礼金を出してくれたのは一花なんだろ?

 

 

……だから、その恩返しがしたいんだ」

 

 

 と、さっきよりも赤い顔で白状した。

 

「……誰にも言うなよ⁉︎」

「分かってるって。じゃあ、続きを始めていこう」

 

 

 

 

 

 

 

「覚悟が決まったような気がするよ」

 

「自分が許せなくなる」

 

「……一緒に卒業したいよ」

 

「なんちゃって」

 

 一花の言った事がどのくらい本気で、どのくらい冗談なのかは分からない。

 

 本当は一緒に卒業したいのかもしれないし………もう、女優一本で生きていこうと決めているのかもしれない。

 

 

 でも……どんな思いを抱いていようと、私はみんなで卒業したい。

 

 

 

「フータロー……頑張ろう」

「……おう」

 滅多に見られないであろう、フータローの可愛い顔を独り占めできた事に満足しながら、改めて一花の退学を止めようと心に決めた。

 

 

 

 

 side二乃

 

「あ、二乃と町谷君じゃないですか。ちょうど今いいところなんで一緒に見ませんか?」

「……ながら勉強は効率が悪いらしいぞ?」

 

 視察に付き合ってくれた町谷に、クッキーでもご馳走しようと家に連れてくると、リビングには勉強中の五月がいた。

 

 

「あんた、後で机の上のアイスのゴミを片づけなさいよ?

 

……で?何を見ようって言うのよ」

 

 

 机の上にある大量のアイスの殻を指差しながら、その内容を聞くと。

 

 

「これです!一花の出てるCMですよ!」

 

 

 と、リモコンの再生ボタンを押す。

 

 

 

 すると、最近話題の一花が出ている炭酸飲料のCMが流れ。

「忘れられない夏にしてあげる♡」

「キャー‼︎」

 

 最後の決め台詞に五月が沸いた。

 

「運動会の父兄かよ」

「うるさいわね……一花なら毎日見てるでしょ?」

 

 町谷と私のツッコミに、五月は振り返り。

 

「それとこれとは話が違います。

 

 

 テレビや映画で観る一花は、いつも見ている一花より輝いて見えます。

 

 

 それはきっと……本当に一花がやりたい事をやれているからだと思うんです。

 

 だって……こんなに楽しそうじゃないですか」

 

 

 と、まさに優等生な事を言い出した。

 

「仕事人のプロ意識みたいなもんじゃねえの?

 

 ……まあ、それに関しちゃ俺も通ずるところはあるがな」

「本当、優等生よね……」

 

 そのブレなさにため息を吐くと、五月は真面目な顔になって。

 

 

「それでも、一花を応援する気持ちは本当です。

 

 

………二乃もそうでしょう?」

 

 

 と、見透かしたような発言をしてきた。

 

 

「……あ、もうこんな時間。それでは私も一花を見習ってお仕事に行ってきますので!」

 

 真面目なのに、どこか抜けている五月がそう言って自分の部屋に向かっていったのを横目に。

 

 

「………ちょっと待ってなさい。用意するから」

「へーへー……」

 

 

 私は台所に引っ込んでいった。

 

 

 

 side奏二

 

 二乃に出されたクッキーとアイスコーヒーで一休みしていると、目の前でアイスティーを飲む二乃が。

 

 

「……それで、あんたは何かやるの?」

 と、ぶっきらぼうに聞いてきた。

 

「何かってなんだ?」

 間違いなく一花の事についてだろうが、素直に答えてもつまらないので聞き返す。

 

「茶化すんじゃないわよ。一花の退学についてよ!」

 

……まあ、神経質になってるらしいので、これ以上のちょっかいはやめておいてやるか。

 

 

「……まあ、俺から何かアクションを起こす気はねえな。

 

 

 依頼者がこうだと言ったのなら、妙な詮索はしないもんさ」

「……あんたのことだからちょっかいでもかけるかと思ったけど、意外ね」

「俺、任務に対してはまじめなんでね」

 

 

 失礼な事を言い出した二乃に抗議すると、難しい顔をして押し黙る。

 

「………何か迷ってるみたいだな」

「……五月の言う通り、応援したいわ。

 

 一花が自分のやりたい事を見つけて、自分の道を進もうとしてるんだもの。

 

 

……でも、折角みんなで過ごせる最後の学生生活だもの。

 

 やっぱり一緒に卒業もしたい」 

 

 

……そして、その心境を吐露してきた。

「まあ、お前の姉妹への入れ込みは相当なもんだしな。三玖も似たようなこと言ってたし」

 

 風太郎の家に案内する前に、三玖から聞いていた事を思い出しつつそう話すと、二乃は難しそうな顔で。

「……三玖はフー君と組んで何かやるみたいね。

 

 何をやるかは聞いてないの?」

 

 

 どこか、期待するような目を向けてきた。

 

 

 

 何をやるかに関しては、風太郎から聞いたので大体は知っている。

 

 

 だが……

 

「風太郎達の案が通ったとしてもだ。

 

 それで、一緒に卒業できるかは微妙だぜ」

「そんな………」

 

 風太郎の手前言えなかったが……今や一花はその存在を大きくしすぎたが故に、小回りの効く選択はできない。

 

 本人がそうしたいと言っても、そうはさせない大人の事情というやつだ。

 

 それに……

「例えそのやり方で今回の撮影を乗り切ったとしてもだ。

 その後にまた大きなものが来てしまえば、その時こそ退学が避けられないかもしれない。

 

 こう言った懸念事項の解消も、今回退学に踏み切った理由だろうな」

 

 言ってみれば、今風太郎達が考えている未来図とは、分の悪い賭けって事だ。

 

 

 

 俺がそこまで言うと、二乃はしゅんとしてしまう。

……どうやら、色々あって普段の強気な思考は鳴りを潜めているようだ。

 

だが、これはあくまで現実的な話であり。

 

「もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。

 

 お前の姉貴と……妹と。

 

 

 風太郎を信じてやれば……あるいはな」

 

 

 現実だけに囚われて、諦めるのはナンセンスってわけだ。

 

 

「……んじゃ、俺も仕事があるから帰らせてもらうよ」

「……ええ、わかったわ」

 

 そこまで伝えた俺は、残ったクッキーをもらって家に帰るのであった。

 

 

 

 side一花

 

 ブランコに乗りながら、私と四葉はフータロー君のことについて話していた。

 

 これから会えなくなっていく前に、みんなとの思い出を作りたかったのだ。

 

「やっぱり覚えてたんだ。フータロー君のこと」

「あはは…見た目がすごく変わってたからびっくりしたけどね」

 

 

 そして、あの時のことを思い出したら、色々と納得が行った四葉の態度の原因は……初めからフータロー君のことを覚えてて、わかってたからだと言う推測をぶつけてみたところ、正解だと白状される。

 

 

 そうなると……私は知らず知らずの内に四葉に苦しい思いをさせてしまっていたのだ。

 

 

「あの時、四葉がどんな気持ちで慰めてくれたのか、私には分からなかった。

 

 

 ごめん………お姉さん失格だね」

 

 許してもらえるとは思ってないし、許されてはいけないが……謝っておきたかった。

 

 

「これから会えることも少なくなるだろうから、言っておきたかったんだ」

 

 

 

 都合が良すぎるかもしれないけど、こうしないとスッキリしないから。

 

 

 そうして、四葉の返事を待っていると。

 

 

 

「本当に辞めちゃうの?

 

 

 私を1人にしないでくれたのは一花達じゃん」

 

 と、焦りを滲ませた顔で聞いてきて。

 

 

「一花が辞めるなら私も………」

 

 と、また自分を蔑ろにするようなことを言い出したので。

「よしなよ。

 

……四葉は四葉自身がやりたい事を探しな」

 

 

 姉として、一言物申した。

 

「……夏も、もう終わりだね」

 

 

 

 

side奏二

 

 夏休みも残り数日となったある日のこと。

 

 

 

「……どうも、菊は元気?」

 

 俺は、風太郎と三玖に連れられてとんでもない場所にやってきていた。

 

 

 そこは………

 

「フータロー君……三玖にソージ君まで……?」

「ふふふ……嬉しいよ。

 

 ようやくプロダクションに入る決意を固めてくれたか」

「いや、そう言う話ではなく」

 

 一花が所属する芸能事務所の応接間である。

 

「なあ、菊って……?」

「そこの社長さんの娘さん…」

 

 俺が三玖から情報をもらっていると、風太郎は社長の感激の言葉を流し。

 

 

「分かってるでしょ。一花のことだ。

 

 

 

……退学を考え直して欲しい」

 

 

 と、単刀直入に切り出す。

 

 

 

 すると、社長は即座に首を振って。

 

「それは無理な相談だ。

 

 彼女は君の想像をはるかに上回る程、大きな存在になっている。

 

 

 今まで通り、学校に通いながらと言うのは不可能だろう。

 

 

 何より彼女が決めた事だ………僕はそれを尊重する」

 

 と、こちらに目を合わせない一花を横目にそう締めた。

 

 

 

 

 

 まあ、俺が考えていたことと似ているが……一応、俺がここに呼ばれたのは交渉役としてだし、ちょっと揺すりをかけてみるか。

 

 

「とは言っても……中卒だぞ?

 

 子役から上がったわけでもなく、おバカタレントとして起用するわけでもねえなら、今は良くても、いずれ期限が切れるのはそう遠くねえんじゃねえのか?」

 

 芸能界に学歴はそこまで関係はなさそうと言っても……やはり、学のない人間はどこにいても長持ちしない。

 

 今は話題性があって、なおかつ若さがあるから良いのかもしれない。

 

 だが………それがなくなった時は、生き残るためには知恵や学力がないとダメだと思うのだ。

 

 そんな、いきなりの不躾な発言に社長は眉を顰め、こちらに何か言ってくるかと………

 

 

 

「………君、もしかして「関優一」かい?」

 

 思いきや、俺がゲームの声優の依頼をこなす時の名前を出してきた。

 

 

「…………なんだその名前?」

「……依頼先での芸名だよ」

 

 風太郎の問いに、少しむず痒いものを感じながら答えると。

 

「………なんか「戦国乱舞」の最新作で聞いたことあると思ってた。

 これで謎が解けたよ」

「そ、そうなの?ソージ君…」

 

 三玖が思い出したかのように頷き、一花が驚いていると、社長はやはりと言わんばかりに。

 

 

「その声のトーンを聞いて確信したよ。まさかこんな近くにいたなんて……どうだい?うちのプロダクションに入る気は…」

「いや、声優はあくまで依頼されたからやってるだけで、本業にする気は……」

 

 

 と、契約書片手に詰り寄ってきた社長に抵抗していると、風太郎が咳払いして。

 

 

「……それなら、仕方ない。

 

 諦めよう」

 

 

 と、迷いなく言い切った。

 

 

「……えっ」

「……君は一体何をしに来たんだい?」

 

 呆気にとられる一花と社長だが、そこに風太郎は。

 

 

「それじゃあ次は……ビジネスの話だ」

 

 

 と、第二の矢を取り出した。

 

 

「フータロー君?それなら前に……」

 

 その、第二の矢とは………

 

 

「俺は、自主映画を撮ることにした」

「じ、自主映画⁉︎」

 

 一花が目を丸くして繰り返したように、自主映画と言う名の復学に必要な実績の証拠映像を撮ることであった。

 

 

 

 

 

 この映画の内容を改めてはっきりさせておこう。

 

 

 この映画は、一花が復学する際に必要な「一定の学力」を示すための証拠映像であり……ジャンルは実録ドキュメンタルかバラエティーあたりだろうか。

 

 

 撮影回数は週2回。

 

 

 製作兼脚本兼監督兼主演は、初挑戦の上杉風太郎………比べるのも烏滸がましいが、「アイアンマン」シリーズの監督で有名なジョン・ファウロー氏が手掛けた「シェフ」みたいなもんだな。

 

 

「それで、生徒役をお宅の中野一花さんにお願いしたい」

「お金はあります」

「……撮影機材関連は俺が用意してあるから、そこは心配しなくて良いぜ」

 

 

 三玖が金の入ってそうな封筒を出し、俺が機材のリストを見せる。

「君たち………まさか………」

 

 社長が冷や汗を流しながら何かを言いかけていると、一花が意味がわからないと言うように。

 

 

 

「フータロー君……なんで、そこまでして……?」

 

 そんな質問を投げかけられた風太郎は、鬱憤を晴らすが如く。

 

 

「俺はなぁ……正直イラついてるんだよ。

 

 

 

 一度、俺が家庭教師を辞めた時に、引き戻したのはお前らだろ。

 それなのに、勝手におりやがって……。

 

 

 

 「5人揃って笑顔で卒業」………それができなきゃ俺が納得いかねえんだわ」

 

 調子が入ってきたのか、タカリ屋みたいな事を言い出す風太郎だったが。

 

 

「………違うでしょ」

 

 ジト目の三玖が、それを半ば奪い取るように引き継ぎ。

 

 

 

「フータローは感謝してるんだって。

 

 

 あの時フータローを雇い直せたのは一花のお陰。

 

 

 その恩返しがしたいんだよ」

「お前⁉︎それは言うなって……」

 

 何時ぞや聞いた、風太郎の本心を暴露した。

 

 

「全くお前は………まあ、そう言うわけだ」

 

 素直じゃない風太郎から一花に目線を移し替えると、一花はためらいがちに。

 

 

 

「フータロー君……私、卒業できるかな。

 

 ソージ君が言うこともわかるけど、このままお仕事に専念ってのも悪くないと思ってるんだ。

 

 

 あとたった半年、これ以上君に迷惑かけて………

 

 そんなに勉強してまで、学校行く理由ってなんだろ?」

 

 

 そう聞かれた風太郎は、しばらく唸った後、照れ臭そうに。

 

 

「そりゃ……青春をエンジョイ……言ってただろ?」

 

 

 と、あまりに似合わない事を言い出した。

 

 

「………明日の天気は槍か?」

「……私もびっくり」

 

 

 俺と三玖が唖然としている前で、風太郎は続ける。

 

「この前、クラスの奴らと海に行ったんだ。

 

 

 

 俺が今まで不必要だと切り捨ててきたものだが……きっと、こんなことができるのは今しかない。

 

 

 そんな、今しかできない事を俺はお前たちとしたいんだよ」

 

 

「フータロー、大胆……」

「デレ太郎が振り切れるとこうなるんだな……可愛いとこあんじゃねえか」

 

 俺と三玖の反応に、余計なこと言うなと言わんばかりにこちらを向いた後。

 

 

「………とはいえ、全てはお前次第。

 

 

 

 生半可な覚悟では出来ないだろうが………もし、学校に未練があるのなら、この金で雇われてくれ」

 

 

 と、さっき三玖が持っていた封筒を一花に差し出す。

 

 

………でも、なんか出演料にしては薄過ぎるような。

 

 

 ふと、嫌な予感が浮かんだ俺を前に、社長がその中身を改めると。

 

 

 

「全然お金足りないけど………。

 

 いくら君の頼みとは言っても、うちの看板女優をみくびらないでくれ」

 

 と、少し申し訳なさそうに突き返してきた。

「嘘だろ⁉︎それでも多めに入れたのに⁉︎」

 

 風太郎が、そんなまさかと言わんばかりに抗議するが………。

 

 

「………流石にこれじゃあ無理だと思うぜ」

「マジか……」

 俺も改めさせてもらうと、中に入っていたのは15万円。

 

 

 たしか、ドラマや映画の出演料はエキストラなら一日5000円程度でいいらしいが……起用する役者になって異なりはするものの、ドラマの主演ならば1話分につき100〜300万。

 

 映画なら規模や制作会社によるが300万からとなるらしい。

 

 

 今回の場合なら規模は超小規模で製作は個人……ほぼ友情出演みたいなもんだとしても、流石に15万で引き受けてはくれないって事だ。

 

 

「世間はお前が思う以上に、金の動きが派手なのさ………」

 

 

 と、項垂れる風太郎にそうフォローすると、風太郎は。

 

 

 

 

 

 

 

「一花、金貸してくれ」

 

 さっきまでの勢いが嘘かのように、情けない事を情けない顔で言い出した。

 

 

「お、お前……」

「フータロー………」

 

 まさかの展開に俺と三玖がジト目を向けていると。

 

 

 

「ぷっ………あははははは!

 

 

 カッコ悪っ!

 

 

 途中まではよかったのに、締まらないな〜」

 

 

 一花が揶揄うように笑い、風太郎が顔を赤くして震えていると。

 

 

 

 

「仕方ないな……じゃあ、足りない分は出世払いで」

 

 と、可笑しさと嬉しさが混じったような顔で、風太郎の案を了承した。

 

 

 

 

 

「ああ……契約成立だ!」

 

 

 

 

 

 

side五月

 

 

 月日は流れ、いよいよ夏休みが終わり。

 

 

 2学期の始業式の日に、私達は駅へとやってきていた。

 

「いやー、月日の流れは早えな。

 

この騒動で揉めていたのが、もう昔のことに思えるぜ」

「町谷君、なんだか年寄りくさいですよ?

 

でも……喉元過ぎれば熱さを忘れる、と言った感じなんでしょうね」

 

 と、町谷君と話している前では。

 

 

 

 

「忘れられない夏にしてあげる♡」

「わー、そっくり!」

 三玖が一花のモノマネをしていた。

 さすが、変装が得意なだけあってクオリティはかなりのものだ。

 

 

 

「……三玖、もう一度やってくれよ。これ撮って風太郎に見せてやろうぜ」

「いいね、それ撮れたら私にもちょうだいよ。

 

 それと、私の出席日数足りなくなったら、代役お願いね」

「絶対ヤダ!」

 

 スマホを構えた町谷君と、囃し立てる一花の悪ノリに三玖が恥ずかしそうに拒否していると、やがてその時はやってくる。

 

 

 

「………じゃあ、私こっちだから」

 

 そう、今から来る電車に乗って、一花は遠い撮影先に向かうのだ。

 

 

「ええ、頑張って下さい」

「帰ったら、お話聞かせてね」

 

 私や四葉がそう送り出すと、一花も手を振り。

 

 

「うん、みんなも頑張ってね」

 

 と、改札を通ってホームへの階段へ向かおうとした時。

 

 

 

 

「一花!

 

 

 

 体調、気をつけて………!」

 

 

 二乃が、目に涙を浮かべながら、気遣いの言葉を投げた。

 

 

「………まあ、吹っ切れたなら何よりだな」

「……そうですね」

 あまりいい顔をしていなかった二乃の、そんな送り出しへ安堵の息を吐く町谷君に頷くと、一花も。

 

「………うん、行ってきます!」

 

 

 と、涙ぐみながら返事をして、今度こそホームへの階段に向かって歩き出していった。

 

 

 

 

 こうして、一花は休学となった。

 

 

 きっと、今回みたいな事は他のみんなにも起きて……少しずつ、生活が変わり。

 

 

 私たちが一緒にいられるのも、後少しなんだろう。

 

 

 

 

 それぞれの道へ羽ばたく時………卒業の時は、すぐ近くまで迫ってきているのだから。

 

 

 でも、だからこそ私は思う。

 

 

 いつか旅立っていく日が来るまで、今を大事にして行こうって……!

 

 

 




いかがでしたか?

映画のギャラ関連のお話は、簡単に調べたものを自分なりに噛み砕いて載せてみたものですので、もし気になったらご自身でも調べてみるといいかもしれませんな。


 次回からはいよいよ学園祭編となりますので、頑張って書いて行こうと思いますので、楽しみにしていただければ幸いです。
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