五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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第4話です。

どうぞよろしくお願いします。


第4話 花火大会捜査線

 この街では、9月の末に花火大会がある。

 

 花火大会といえば7月や8月に多いイメージだが、その時期は他の場所でも似たような祭りがやっているので、特別性はいくらか薄れてしまう。

 

 その為、他の花火大会がないこの時期に行って、希少価値を出そうと言うわけだ。

 

 で、そんな花火大会となれば当然ウチにも仕事が舞い込んでくる。

 

 それは……毎年恒例「屋台の手伝い」だ。

「具材の仕込みが1時からで、開店が3時……今年もかなり作るんだな」

《あったりまえよ、今年もガシガシ作ってバンバン売りまくるぞ坊主‼︎》

「おう、じゃあまた後で」

 

 電話を切り、俺はノートに再びペンを走らせる。

 

 家庭教師の補佐をメインにしている今は、今回のようないつもやってる依頼以外はあまり受けないようにしているのだが、その分家庭教師補佐として今まで以上に勉強をする必要がある。

 

 学校の授業でやってるところやその先……あと、中学生レベルの勉強とかな。

 

 だが俺はダラダラとやるとやる気を無くすので、できる時にさっさと終わらせてるのだ。

 

 そして、そこから1時間と少しして。

「よーし、課題と復習、予習完了!」

 

 やっておくべきことを大体終わらせた俺が、出るまで昼寝と洒落込もうかと思っていた時、インターホンが鳴った。

 

「んあ?訪問販売お断りの看板貼ってるんだけどな…通販したもんが届くのも早いし…」

 心当たりがないその来客を訝しみながらも扉を開けると。

 

「………五月?」

「……こんにちは。あなたに渡したいものがあってここに参りました」

 

 最近顔馴染みの同級生兼生徒が、やや緊張した面持ちでそこにいた。

 

 

 応接間にて。

「粗茶ですが」

「どうも……それにしても、お店をやっているというのは事実だったのですね。それに……なんだか小洒落ています」

「広告もあんまり出してない小さな店だけどな……内装や小道具に関しては先代の趣味と俺の趣味の折衷だ」

 

 奏一さんはかなりの分野に精通しており、同時に多趣味だった。

 亡くなった後に、使わない趣味関連のものを捨てたり売ったりしたのだが、特に愛用していたものは残して飾ってあるのだ。

 

……って、そんな事はどうでもいい。

「んで、何の用だ?俺はこのあと出かけるから手短に頼むぜ?」

「私も長居するつもりはありませんから安心してください。

 

 用というのは………これです」

 本題を催促する俺に五月が出したものは……封筒だった。

 

「封筒?」

「お給料ですよ。父から預かってきたのです」

「そういや、月末支払いだったな」

 彼女の言う通り、その封筒には給料と中央に書いてある。

 

 「1週間でまだ2回しか行ってないし、25000円………ファ⁉︎」

 

 回数から給料を計算ながら取り出すと……そこには諭吉さんが3枚に

 樋口さんが1枚で35000円だった。

 

「多くね?」

「一日2500円の5人分を計2回で25000円、そこに私への個人指導が4回あったので10000円追加して、計35000円だそうです」

「……平日のアレを一日とカウントしていいのか微妙なところだが」

「私が申告して、父がいいと言うことにしているのなら、いいんじゃないですか?」

「……でも、それでも多いな」

 

 確かに2回5つ子に対して家庭教師を行っているが……卒業テストの時は兎も角、昨日は五月にしか教えてないので10000円多いのだ。

 

「1万多いから返しておいてくれ……昨日はお前以外には何もできてない」

 

 そうして一万円を封筒に戻して差し出すと、それを止められた。

「……何もできてないって事はないんじゃないんですか?」

「……え?」

「あなた達の存在や行動は……私達に何らかの変化を及ぼしています」

「そうか?」

「ええ、そうです……だから、返金は受け付けません」

 これはテコでも動かないと言った感じか。

 

「なんか申し訳ないけど、受け取っておくぜ」

「…そうしてください」

 

 ここで押し問答しても時間の無駄なので、おとなしく受け取ることにした。

 

 

 

 要件は済んだと五月が出て行って、数時間後。

 

 

 花火大会を見にきた客がひしめく前で俺は、ヘラを両手に鉄板と格闘していた。

 

「坊主!追加で作ってくれ!」

「あいよ!」

 

 おっちゃんの声を合図に鉄板へ油を敷き、温まったら焼いてある肉と生のキャベツ、モヤシ、塩胡椒を入れて炒める。

 

 野菜に火が通ったら一旦端に寄せ、焼きそばの麺と水を入れて麺をほぐしながら焼き、ある程度したら具材とあえる。

 

 そうしたらソースと塩胡椒を全体にかけて、焦がさないように焼き絡めて仕上げ。

 

 焼き上がった物をおっちゃんの方へと寄せたら1セット終了だ。

 

「いやー、相変わらず手際がいいな!親父さん以上じゃねえの?」

「いや、あの人にはまだまだ敵わねえよ」

 

 おっちゃんの言葉に謙遜してはいるが……料理は数少ない、俺が奏一さんより上手くできる事だ。

 

「そんなことよりお客さんが来てるぜ?」

「おっと、これは失礼……はい、400円ね!」

 

 おっちゃんが接客している間に鉄板の掃除を行い、きれいにしておく。

 お好み焼き、たこ焼き、焼きもろこしと毎年数多くの屋台を手伝っている為、この手のことには手慣れた物だ。

 

 そんなことの繰り返しで、小一時間経った頃。

 

 

 

 おっちゃんが休憩中なので俺1人で回し、祭りを見に来たクラスメイトや知り合いの相手をしながらも焼きそばを作って売っていると……

 

「奏ニ、お前ここにいたのか」

「あれ?お前今日一日勉強するって言ってなかったか?」

 

 風太郎が五つ子や妹のらいはちゃんと一緒にこちらにやってきていた。

 

 確かコイツは、今日は一日中勉強するとか言っていたはずだが……。

 

「……らいはの頼みは断れないさ」

「相変わらず妹に甘いよな、お前……」

 

 詳しく聞くと、あの後五月は風太郎の家に給料を渡しに行き、らいはちゃんの頼みでゲーセンに行き。

 

 その後流れでこの花火大会にもいくことになったのだが……5つ子達が課題を終わらせてなかったので家に戻してやらせ、ようやくここに来たらしい。

 

 5つ子に視線を向けると、何かを待っているようにソワソワしていた……まあ、ニ乃には思い切り睨み返されたが。

「で、何人分買うんだ?そっちにはカー○ィがいるんだし結構いるとは思うが…」

「そのカー○ィとは誰のことを指してるのですか?……3人前で」

「毎度あり…悪かったからそう睨むんじゃないぜ」

 そんなの言うまでもないが……無言の圧力が怖いので大人しく金を受け取り、3人分を用意する。

 

 

……そうだ。

「俺もう1時間やったら上がりだから、そしたら俺も混ぜてくれ」

「……頼む。通行人の視線が痛いし」

 風太郎が少し疲れたような顔で承諾した。

 たしかに、側から見たら美少女5人侍らせてるハーレム状態だもんな。

 

 そんな話をしている間にもお客さんが並んできたので7人を送り出し、再び焼きそば屋に戻るのであった。

 

 

 

 そして、1時間後。

 

「お?始まったか」

「坊主、待たせたな……それじゃあ、上がっていいぞ」

「分かった。報酬は今度受け取りにくるわ」

 

 

 アナウンスと共に花火の打ち上げが始まったところで上げてもらえた俺は、賄いでもらった焼きそばを夕飯にベンチに座っていた。

 

「……やっぱ、祭りの屋台で作る焼きそばはなんか別格だよな。そして……口直しのラムネもまた美味い」

 普段同じことをしても、ここまでの感動は生まれない。

 やはり、お祭り補正は良い物である。

 

 花火を見ながら、祭りの焼きそばとラムネを頂く……これだけでも人生への彩りが生まれる。

 

 それも……やはり奏一さんとの出会いがなければ興味すら持たなかっただろう。

 

 俺もいつかはそっちに逝くが……それまでにアイツらや奏一さんへ出来そうな土産話のストックを作っておいても、悪くはないはずだ。

 

 

「……おっと、らしくもなくしんみりしちまった」

 俺は嘘はつかないが、しんみりは似合わない男なんだ。

 

 風太郎達のいる場所を聞いて、そっちに向かおうと考え始めたその時、タイミングよく電話が鳴る。

 

 相手は……丁度いいところに風太郎だ。

 

「よお、今からそっちに行くから場所を教えてくれよ」

 電話に出た俺が気楽に頼むと、帰ってきたのはどこか焦りを滲ませた声だった。

 

 

 

「人混みに巻き込まれて迷子だと?お前ら一体いくつだよ…」

「仕方ねえだろ。急になだれ込んだんだから」

 話を聞くと、元々はニ乃が予約した店で眺める予定だったのが、花火が上がり始めた時にもっと近くで見ようと人が一斉に動いたことで、バラバラになってしまったことが原因だった。

 

「しかも、その店の事をニ乃しか知らないとか……詰めが甘いぜ?」

「分かってるからそう言ってくれるな…で、今ニ乃と2人でいるんだが、他のやつがお前の近くにいないか?」

 

 近くを見渡してみるが、それらしい人影はない。

 

……そもそも、ほとんどみんな浴衣姿だからそう簡単に判別がつく物でもないな、こりゃ。

 

「残念ながらこっちにはいないよ」

「そうか……クソッ、何とかみつけねえと」

 電話越しに毒づく風太郎に、俺は違和感を感じた。

 

「……何で、そんなに必死なんだ?花火ならどこからでも見れるだろうに」

 別にどこからでも花火は見れるのに、コイツはみんなで見ることに拘っている気がするのだ。

 

 

 そんな俺の疑問に風太郎は真剣な口ぶりで。

 

「アイツらにとって5人揃って見る花火は、母親との思い出なんだと。

 

……その為に真面目に宿題もやってたのも見てるからな。何というか……このまま終わらせちゃいけない気がする」

「……そう言うことね」

 

 責任的な物を感じてるのもあるんだろうが……コイツが勉強以外かつ、自分の事以外で真剣になるとは。

 

「お前も変わってるってことか……」

「どう言う意味だ?」

「いや、別に?」

 

 五月は俺たちが5人を変えていると言った。

 

 だが……それは俺たちもあの5人からなんらかの変化をもたらされているとも言えないだろうか。

 

 そして、その風太郎の変化の表れ始めがこの台詞なのだろう。

 

「で、この後お前さんはどうする?」

「他の姉妹達を探しに行くが……お前も手伝ってくれるか?」

 

 俺の変化がどんなもんかはわからんが、とりあえず今やることは……。

 

「オーライ……とりあえず、俺がいた焼きそば屋で合流するか。その時に今お前達がいる場所の住所と、ニ乃のスマホの電話番号を教えてくれ。上空からのサポートを頼みたい」

「はあ⁉︎なんでアタシの番号をアンタに教えなきゃ……」

 

 俺の話をスピーカー機能を使って聞いていたのか、ニ乃からの嫌悪が伝わってきた。

 案の定、あの裁判の一件以来俺はニ乃からかなり嫌われてるようだ。

 

 いつもの俺なら仲が拗れた相手とは、修復するのも面倒だからあまり関わらないようにするのだが………その情報を持っているのがニ乃だけなら今はなりふり構っていられない。

 

 

 それに………思い出の大切さは俺もよく分かってるからな。

 

「ニ乃も聞いてるなら丁度いいから言わせてもらうが……お互い、目的の邪魔になるようなしがらみは今は捨てようぜ。

 

 大切な思い出をこんな事で潰すなんてバカな話は……」

 

 と、ここで通信が切れ、無機質な機械音が聞こえるのみとなった。

 

 アイツが聞き入れてくれるかどうかは分からないが……今は信じるだけだ。

 

 

 

 

 数分後、ニ乃の連絡先と集合場所の住所を記したメモを持った風太郎

と合流した俺は少し安堵しながら電話帳にニ乃を登録し。

 

 

 一花を探しに行った風太郎と別れた俺は、居場所がわかっている四葉とらいはちゃんを集合場所に案内することになった。

 

 その、道中にて。

「しっかしお前、どんだけ乱獲してるんだ?」

「いやー、つい熱が入ってしまって…」

 ビニール袋にぎっしりと閉じ込められた金魚を横目に、少し呆れたように話すと、四葉は照れ臭そうにしていた。

……褒めてるわけじゃないんだが、まあ、この笑顔を曇らせるのもかわいそうだ。

「すごかったんだよ四葉さん……奏ニさんにも見せてあげたかったな!」

 小走りしながららいはちゃんがすごい物を見たと興奮したように話してくるが、きっと金魚掬いの屋台主が真っ青になってる事だろう。

 

「なんというか、らいはちゃんにはいろいろやってあげたくなっちゃうんですよ……やはり、これはお義姉ちゃんになるしかないのでは⁉︎」

「軽はずみに爆弾発言すんな……あ、そこの建物の屋上だ」

「すっごーい!高いビルだ!」

 

 地図アプリに検索させた場所はある程度の高さを持つ建物であり、屋上には1人の女がいた。

 

 

「2人はニ乃と合流してくれ。俺は残りをまた探しに行くぜ」

 2人に指示を出しながら、俺は電話をかける。

 

 

 すると、ぶっきらぼうな返事が返ってきた。

「……2人が見えてきたわよ」

「なら、出迎え頼むぜ……風太郎からは何か連絡は?」

「………あ」

 

 2人が建物に入ったのを確認した俺は、現時点での進捗を聞こうとしたのだが、返ってきたのは一言の白状だった。

 

 

 要は、風太郎とニ乃は互いの番号を知らないから連絡できないって事だ。

「お前らが交換してなくてどうするんだよ……」

「うるさいわね!アイツの番号なんていらないわ!」

 

 逆ギレしてくるが、自分が悪いというのを分かっているのか、どこか覇気がない。

 

「じゃあ姉妹からは?」

「そっちもダメね……と言うか、アンタとこうしてそれなりに電話できてるのも距離が近いからだわ。遠いと繋がらないしメッセージの送信もできないもの」

「それもそうだな……悪い、じゃあ俺も捜索に戻るわ」

「……悔しいけど、頼んだわよ」

 

 まだ俺のことを信用しているわけじゃないが、今は仕方ないと言った感じで、ニ乃は頼んでくるのであった。

 

 

「しかし、風太郎は何やってるんだ?一花のところへ行ったのなら一花がこっちに戻ってきていてもおかしくないはずだってのに」

 

 メッセージを送っても、未だ返ってこない返信に苛立ちながらあたりを見渡すと誰かが声をかけてきた。

 

 正直、今は誰かに構っている余裕はないのだが……。

 

「あの、今俺は急いでるんで」

「ソージ、私」

 

 名前を呼んできたって、そんな親しい仲のやつが……って?

 

「………誰?」

「三玖」

 振り向いた先にいたのは、聞き覚えのある声ではあるものの、その声の持ち主にしては雰囲気が違う少女だ。

 

「いや、アイツならヘッドホンを付けてるんだが……」

 そもそも、アイツは今みたいに髪を結いてはいないはず。

 顔立ちは似てるので他の姉妹かとも思ったが、髪の長さ的に一花と四葉はありえないし五月だとアホ毛がない。

 

……まさか。

「隠された6人目の姉妹…⁉︎」

「……ヘッドホン」

 驚愕の新事実に俺が慄いていると、頬を膨らませた顔のそいつは三玖がつけているヘッドホンを……。

 

 

「三玖か⁉︎」

「ひょっとしてわざとやってる?」

 俺が驚きのあまり飛び退くと三玖が不機嫌そうに聞いてくるが、急なイメチェンは探す方からしたらいい迷惑だ。

 

「悪いな……あまりに雰囲気違うからわからなかったぜ。それで、お前は何をしてたんだよ」

「足を怪我しちゃって、フータローが五月を探しに行く間に少し休んでた」

「五月を……?って事は、一花は見つかってるのか」

「ヒゲのおじさんとどこかに行っちゃった、って言ってた」

「な……⁉︎」

 

 三玖から出た発言に俺は驚きのあまり声がうまく出なかった。

 

 つまり、アイツは俺たちが探してる間に逢引きを……ってか、相手がヒゲのおっさんってなんかヤバい気がする。

 

 新たな懸念事項に頭が痛くなってくるが、今は目先の任務が優先だ。

 

「あと20分……とりあえず、お前は回復したらこの場所に行ってくれ。そこにはニ乃と四葉、らいはちゃんがいるはずだ」

 住所を書いた紙を渡すと、三玖は不安そうに。

「でも、そうなると五月は」

「アイツは俺が探して連れてくから……下手に待ってみんなバラバラでした、は嫌だろ?」

 出来るだけ納得してくれそうな言葉を使って説得してみると、少しの間をおいて、首を縦に振ってくれた。

「……分かった。なら、五月のことは任せる」

 

 

 これで三玖も合流できるはず。

 後は一花と五月か……一花がそのヒゲのおっさんといるのなら、面倒ごとになりそうだからできれば五月を見つけたい。

 

 

 どこかで何か食べていてくれると足止めできて良いのだが……。

 

 三玖と分かれ、再び探し回りながら考えていた俺の耳には、迷子センターからのお知らせが……

 

 

 

 

 

「これだ‼︎」

 そうだ、五月を迷子ってことにして迷子センターに来させれば良いのか!

 

 多分、めちゃくちゃ怒られるだろうが………善は急ぐもの。

 

 迷ってる暇はないので、俺は迷子センターへと急ぐのであった。

 

 

 

 

 結論からすると、この作戦は成功した。

 

「迷子センターです。五月ちゃん……中野五月ちゃん。

 

 奏ニお兄ちゃんがお待ちです。至急、入り口付近の迷子センターまでお越しください」

 

 職員さんに事情を話してアナウンスをしてもらい、しばらくすると顔を真っ赤にした五月が駆け込んできたので、俺が探し回るよりも遥かに楽だったのだ。

 

 

 側から見たら妹と逸れた姉だろうし、まさか高校生が迷子だなんて誰も思うまい。

 

 

 そんな配慮も含まれた作戦は、無事に五月と合流という結果を残したのだが……問題はその後にあった。

 

 

「町谷君‼︎なんて事をしてくれたんですか⁉︎」

 

 そう。恥ずかしさと怒りがごちゃ混ぜになったような顔になっている五月の機嫌直しだ。

 

 ニ乃達が待つ場所に向かいながら、五月の説教を聞いておく……聞き流したらさらに怒られそうだし。

 

「私とあなたは連絡手段を持っているじゃないですか!」

「繋がらないだろうがな……そもそも、もし連絡できても合流できる自信あるのかよ?なかなかの人混みだってのに」

 

 因みに五月は三玖が休んでいた場所から少し遠いところを彷徨っていたらしい。

 要は、ふつうにやりとりしながら探していたら間に合わなかったわけだ。

「うっ………方向音痴ではありますが、だからってこんな辱めを……!多分ここにいるクラスメイトの方々にも聞かれてますよ、あれ!」

 

 覚悟していたとは言え、次の登校日には騒がれるのは間違いないだろう。

「悪かったって……ほ、ほら!今度なんかの食べ放題奢るから、それで勘弁頼むわ」

「………た、食べ物だけでなんとかなるほど単純じゃないですよ私は!」

「ちょっと間があったのは見逃してねえぞ」

 

 余計な事を言うなとキッとした目をする五月だったか、やがて仕方ないと言う口ぶりで。

「まあ、探してくれたのには感謝してます。

 

 …………ケーキバイキングと焼肉で」

「感謝して2つかよ……いえ、なんでもございません」

 食べ物でなんとか出来るのは認めてんじゃねえか。

 

 いや、下手に口を挟んで許されなくなったら面倒だし、何も言わないけどよ。

 

 

「それで、みんなは今からいく建物にいるんですよね?」

「何もなければな」

「不安になる事言わないでください……それより、一花はまだ見つかってないんですか?」

「ああ、風太郎曰くヒゲのおっさんと一緒らしいんだが……」

「ええ⁉︎そ、それって……」

「それ以上は言うなよ?」

 

 とんでもない事を口走りそうになった五月に釘を刺す。

「で、でも……!」

 

 だが……まあ、今考えていることはほぼ同じだと思う。

「……助けを求めてこない限りはそっとしておくのが優しさだ」

「………みんなを守るって決めたのに、情けないです…」

 ワナワナと震え始めた五月が、気になる事を言い出したので掘り下げようとした時。

 

 

「町谷さーん!手伝って欲しいことがあるのですが!」

 

 ニ乃達と合流していたはずの四葉が、コチラにやってきていた。

 

 

 

 

 数十分後。

 

 花火大会が終わり、結局一花と風太郎が合流することはなかったが……残った俺たちは近くの公園にやってきていた。

 

 

 

「水入りバケツ、準備完了だよ!」

「桶に氷、缶ジュース……疲れたけどいい感じ」

「三玖?なんか、抹茶ソーダが多い気がするのですが……」

「気のせい。別に布教なんて考えてない」

 

 四葉と三玖、五月が微笑ましいやりとりをしているのを横目に、俺はニ乃に噛みつかれている。

 

「アンタ、いつから私達と血縁関係持ったのよ……アンタみたいな弟いらないわ!」

「手厳しいな……俺は3人も見つけたMVPだぜ、お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん呼ぶな!………もう、お礼言おうと思ってたけどやっぱ勿体ないわ!」

「そこは素直に言ってくれよ………あと、らいはちゃん起こしちまう」

 キャイキャイ騒ぐニ乃をあしらっていると、四葉達は先に始めている。

 

「お前ら、2人が来るまでにやり尽くすなよ?買いに行くの面倒なんだからな!」

 

 それは………おっと、来たな。

 

 

「………打ち上げ花火と比べると、随分見劣りするけどな」

 

 後ろを振り返ると、そこには風太郎と一花が公園の入り口に立っていた。

 

 

「上杉さん、準備万端です!

 

 我慢できずにおっぱじめちゃいました!」

「お前が花火を買ってたおかげだ……助かったよ」

「ししし!」

 

「まさか、あの場で一番いらないものがこんなところで役に立つとは……分からないもんだぜ」

 あの時、風太郎と四葉が提案したのは近くの公園で俺たちだけの花火大会を行うことだった。

 

 それで、合流していた俺達が買い出しや設営などの準備をしてたって訳だな。

 

 

 そんな風太郎に矛先を変えたニ乃が風太郎に詰め寄ったことで自由になった俺は、ベンチに座る。

「キミ!五月をおいてどこかいっちゃったらしいじゃない!

 お陰で町谷がとんでもないことをしでかしたんだからね⁉︎」

「ニ乃!私はもうそこまで気にしてないので……!」

 

 やりとりを眺めているとこっちに視線が向いたので片手を上げておく。

「わ、悪い……」

「アンタに一言言わなきゃ気が済まないわ!

 

 

 お、つ、か、れ‼︎」

 

 おっと、アレはいいツンデレですなあ。

 

 

 そんなバカな事を考えている間にも花火大会は本格的に始まるかと思われたが、一花が頭を下げた。

 

 

「ごめん、私の勝手でこんなことになっちゃって………本当にごめんね」

 

 おそらく、自分のせいでみんな揃って花火が見れなくなった事への謝罪だろう。

 

「そんなに謝らなくても…」

「まあ、一花も反省してるんだし……」

「全くよ」

 

 

 五月や風太郎が宥めてると、ニ乃が流れを変えんがばかりに言い切る。

 

「なんで連絡くれなかったのよ?今回の原因の一端はあんたにあるわ。

 

………あと、目的地を伝え忘れた私も悪い」

 

「私は自分の方向音痴加減に嫌気がさしました……」

 

「私も今回は失敗ばかり」

 

「よくわかりませんが私も悪かったと言う事で!屋台ばっかり見てましたので」

 

「みんな……」

 

 そして、それに他の姉妹達が乗っかるように謝罪した。

 その流れで俺の奢りをチャラに……は、ならなそうだな。

 

 せっかくもらった諭吉さんとも、どうやらすぐにお別れらしい。

 

 いい感じなムードの中で思いっきり俗な事を考えていると、五月が思い出したかのようにこんな事を言い出した。

 

 

「お母さんがよく言ってましたね。

 

 

 誰かの失敗は5人で乗り越える事。

 

 

 誰かの幸せは5人で分かち合う事。

 

 

 喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも………

 

 

 

 私たち全員で五等分ですから」

 

 

 

 本格的に始まった小さな花火大会。

 

 そんな光景をベンチでぼーっと眺めていた俺の前に、花火が差し出された。

 

「お前を燃やしてやる的な、新手の殺害予告か?」

「そんな物騒な事しませんよ……いちいち茶々を入れないと会話できないのですか?」

「生憎、これが俺の性分でね」

「……はぁ」

 

 

 渡してきたのは五月であり、それを受け取ると何故か俺の隣に座った。

「………今日は、色々とありがとうございます」

「そう思うなら奢りをチャラにしてくれると助かるんだがな?」

「それはそれ、これはこれです……そもそも、それを言い出したのは町谷君なんですからね?」

 やっぱダメだったか……まあ、金はあるからいいけどよ。

「へいへい……まあ、結局花火大会中での5人集合は出来なかったんだ。任務が失敗してるのに、礼を言われる筋合いはないぜ」

 

 下手な哀れみなら腹が立つだけだからいらないのだが……どうやら哀れみではないようだ。

「今揃ってるから問題ありませんよ。

 

………それに、お仕事を終えて疲れてるのに私達のために動いてくれた人に感謝しないなんて、お母さんに怒られてしまいます。だから………」

 

 そして、そこまで言ったところで後ろから缶ジュースを取り出し。

 

「………お疲れ様でした」

「花火の次は缶ジュースか………でも、ありがとな」

 

 俺も素直に例を言って、その缶ジュースを受け取るのであった。

 




いかがでしたか?

次回は中間テスト編となりますのでどうぞよろしくお願いします。

それではまた次回でお会いしましょう。
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