五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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今回はキリの良いところで終わらせたかったため、かなり短めです。

簡単に言えば学園祭前の下準備編の終わりといった感じですな。


奏二の秘密
 最近ドクターペッパーにはまっている。


第42話 日の出 差し掛かる暗雲

「お兄ちゃん、お父さんお帰りー」

 

 親父と共に帰宅した俺の目の前には、エプロンをつけたらいはと………。

 

 

「なぜお前がウチにいる」

「五月ちゃん来てたのか」

 

 なぜか五月がちょこんと座っていた。

 

 

「お父様、お邪魔しております…」

「お邪魔すんな、帰れ」

「もー、失礼なこと言わないの‼︎」

 

 

 とりあえず帰らせようとするが、らいはにお玉で止められたので、痛む頭をさすりながら、何しに来たのかを聞くと。

 

 

「こちらです。四葉が上杉君に渡した覚えがないと言うので」

 

 

 

 学園祭の招待状を取り出した。

 

 

 

side五月

 

「学園祭の招待状です。中に出し物の無料券や、割引券が入ってて便利ですよ」

「お、こりゃ助かるぜ。サンキューな」

「お兄ちゃん、こんな大切なもの忘れてたの?五月さんにお礼言わなきゃダメだよ?」

「あ、あり……」

 

 招待状を前に和気藹々としている上杉家の方々に和んでいると、お父様が。

 

「学園祭楽しみにしてるからな。

 

 

……ところで五月ちゃん。

 

 ここ最近変わったことなかったか?」

 

 

 と、突拍子もない質問をしてきた。

 

 意味がわからなかったが、その顔は決してふざけたことを言っているようには思えない。

 

 

「えっと……心当たりはありませんが…」

「何のことだ?親父」

 

 同意見だったらしい上杉君も話に加わるが、そこで終わりだと言わんばかりに。

 

 

「外はもう暗ぇから、女の子一人じゃ心配なんだよ!

 

 おい風太郎、帰りはちゃんと送ってけよ」

「はーい、カレーできましたよ!五月さんも遠慮しないで食べていって下さいね!」

「い、いただきます!」

 

 

 らいはちゃんが持ってきたカレーが運んできた、夕食ムードに流されて行った。

 

 

 

side風太郎

 

 最近はあまり構ってやれなかったが、五月について気になっていたことがある。

 

 

「お前……こんなことしてて良いのか?

 

 奏二から聞いたぞ、判定……」

「うっ…」

 

 

 模試の判定が、D判定だったらしいのだ。

 

 まあ、その時の時点での成績だし気にしすぎる必要はないが、気にしなければいけない結果なのは間違いない。

 

 

 そして、それを自分でも分かっているのか五月の表情は苦い。

 

 

「だ、だからって希望校を諦めたりしません!

 

 学園祭返上の覚悟で頑張ります!」

「頼むぞ……入ってくれなきゃ困る。

 

 これで落ちたら俺たちのやってきた事が無意味になっちまうからな」

 

 

「何とかしてやらねえとな…」と焦りを滲ませながら報告してきた奏二の顔を思い出していると、五月が歩みを止めて。

 

 

 

 

「それは違いますよ。

 

 女優を目指した一花や、調理師を目指した三玖との時間は無意味だったのでしょうか?」

 

 

 と、諭すように聞いてくる。

 

 

……いかん。さっき三玖とのやりとりで学んだばかりじゃないか。

 

 

「そうは……思いたくないな」

 

 

 大学だけが全てじゃない。

 

 

 コイツらが本当に望んだ道を……決断を尊重すべきなんだ。

 

 

 

 浅慮を詫びる俺に五月は。

「‥…すまない」

「私たちの関係は、すでに家庭教師と生徒というだけでは語れません。

 

 

 そう思っているのは、きっとみんな同じはず。

 

 

 だから、この先失敗が待ち受けていたとしても。

 

 

 

 この学校に来なかったら……あなた達と出会わなければなんて、後悔することはないでしょう」

 

 

 これまで選んだ道への総括と共に、これから選ぶ道への後押しをしてくれた。

 

 

 多分、コイツにそんな意図はないと思うが……勝手にそう思わせてもらう。

 

 

 

 そうだ。コイツらは決断した。

 

 

………次は、俺の番だ。

 

 

 

 

 

side奏二

 

 無堂ニノ介。

 

 学校教育に長いこと携わり、今は全国各地を飛び回って教鞭を振るう教職者であり、界隈では講師として招かれるほどの有名人。

 

 正に生涯現役、若者達の先に立つ立場の人間の鑑で………ここまでの話が表向きの評判。

 

 

 その本性は……先ほどまでの紹介とは正反対のクソ野郎だった。

 

 

 

 女生徒や女性教諭に対してのセクハラや売春の強要などはお手のもの。

 自分の意にそぐわない教諭や生徒に対して、冤罪をふっかけたり進路を潰したり……場合によっては、不慮の事故に見せかけての抹消などやりたい放題。

 

 更には、無堂の傘下となっている教員への不当な優遇人事や、手篭めにした女性の提供などを行っているとのこと。

 

 

 

 つまり、その内実は教育界に根を下ろす怪物と言って差し支えないものであった………。

 

 

 

 

 

 

「……で、この5人が無堂の娘か」

「ああ。この鑑定の精度がどこまでのものかは分からねえが……」

 

 

 そんな、無堂と5つ子の血縁を知らされた日の深夜。

 

 

 俺と以前から無堂を探っていた唯はその事について話し合っていた。

 

 

「………たまたま、講演のためにこっちに来たってわけじゃないと思うぜ」

「ああ………十中八九、この5人へなんらかのアクションを起こすな」

 今回無堂がこの街にやってきたのは、ただ講演に行くためだと思っていたが………

 

 

 5人が無堂の娘となると、この学園祭の時になんらかの形で接触を図ってくる可能性も考えられる。

 

 だが……その場合考えられる理由として、最悪なパターンが存在する。

 

「……傘下の教師とのつながりを強めるために、娘をそいつらに売ることくらいはやるだろう」

「あるいは、なんらかの形で借金を背負ったから、その肩代わりに…ってか?

 

……吐き気がするぜ」

 下田さんの話によると、今まで講演を希望しても却下されていたのに、急にすることにしたらしい。

 

 

「……だが、そのケースを考えておかないといけないのは事実だ。割り切るしかない」

 

 最悪な想像が一瞬頭をよぎり、吐き気を催しそうになるが、唯の顔を顰めつつの嗜めに、なんとか持ち直して。

 

 

「分かってる。そんなことはさせないさ……」

「ああ……必ず阻止するぞ、奏二」

 

 

 無堂の行動に対する対策を、日付が変わるまで話し合っていた。

 

 

 

 その数日後。

 

「来たな、奏二……」

「ああ、サンキューな。急な頼みを受けてくれて」

 

 学園祭はもうすぐと言ったところで、俺と唯は下田さんのいる学習にやって来ていた。

 

 

 今日は無堂が特別講義をこの塾で行う日であり、下田さんにたのんでこの講義に飛び入り参加させてもらったのだ。

 

 

 

「……しっかし、結構な数の生徒がはいってやがるな。

 

俺には理解できないぜ」

「まあ、お前みたいに中身を知らなければ、あの人は高名な教育者だからな」

 

 下田さんのため息混じりの言葉の通り、入り口に立っている俺達とすれ違う受験生らしき人はかなりな数がおり、それだけ表向きの評判がいいことを感じさせる。

 

 

 現に、身近にいる受験生である五月もこうして………ん?

 

 

「五月⁉︎」

「町谷君?どうしてあなたがここに……」

 

 

 俺は、素っ頓狂な声を出していた。

 

 

 

side五月

 

 特別講師の講義を受けにやってきた私は、目の前でポカンとしている町谷君に首を傾げた。

 

 確か、彼は受験はしないと言っていたし……模試も大学を適当に選んで受けていたはず。

 

 そんな彼が、なぜこの場にいて……なぜ、私がきたことに驚いた顔をしているのだろう。

 

 

「ひょっとして、受験する気になったんですか?」

「いや、する気はないし、するにしても………」

「私が頼んだんだよ。機材の修理はコイツの得意分野だからな………」

 

 場違い感のある彼が何かを言いかけたところで、下田さんが理由を説明してくれた。

 

「そう言うことでしたか……あ、おはようございます下田さん。

 

 本日行われる受験対策の教室と言うのは、こちらで合ってますか?」

「んあ?

 

 お嬢ちゃんには今日のこと、伝えてなかったはずだが………

 

 他の講師から聞いたのか?」

 

「はい。

 自習だけではどうも不安でして……目指す夢のため、今はできることをしたいと思います」

 

 そう意気込む私だったが、対する町谷君と下田さんは複雑そうな顔をする。

 

 その顔の真意を聞こうとした時、後ろから。

 

 

「素晴らしい!

 

 こんな暗い世の中では、夢を持てると言うだけでも一種の才能だ!」

 

 

 と、男の人の声がしたので振り返ると、そこには一人の老年の男性が。

 

 

「………こちらが今回の特別講師、無堂先生だ」

「よ、よろしくお願いします……!」

 

 と、下田さんに紹介された無堂先生は。

 

 

 

「才気溢れる若者よ。

 

 私は君にエールを送るよ」

 

 

 激励を口にするが、それよりも。

 

 

 

「……………」

 

 町谷君が、きつく握りしめた拳と共に、今まで見たこともない表情を見せていたのが、妙に気になった。

 

 

 

 

side奏二

 

 夕陽が差し込む道場に、激突の音が響く。

 

「この俺から誘わない限り応じなかった貴様が、この頃はどう言う風の吹き回しだ?………フッ!」

「ちょっと入り用ができたんでね……ハッ!」

 

 

 無堂の受験対策の特別講座と言う、生き地獄のような時間を耐え切った俺は、竜伍の道場にいた。

 

 

 

「………無堂が送り込んでくるかもしれない刺客に、備えておきたいのさ」

「……俺も少し調べてみたが、わかりやすい悪だ。だが……だからこそ、あらゆる策に備えておく必要がある」

 

 

 ストレス発散と修行、そして協力を取り付けに来たのだ。

 

「俺も手を貸してやろう………容赦はせんぞ!」

「良いぜ…遠慮はいらねえ!」

 

 そうして、俺は無堂への怒りとあの5人を守り抜くと言う決意を込めて、目の前の竜伍との戦いに打ち込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 そして………数日後。

 

「ご来場の皆様は、体育館にお集まりください。

 

 

 

 

 ただ今より、第29回旭高校「日の出祭」開会式を執り行います」

 

 

 

 俺の人生において、大きな転換点となった「高校3年生の時の学園祭」が、幕を開けることになった。

 

 

 

side???

 

 とある場所に呼び出された私は、とんでもない要求をされていた。

「この男を始末しろ……そうすれば、無堂先生が特別に治療費を工面してくださるそうだ」

 

 

 差し出された写真に写っているのは、私と同い年くらいの男の子。

 

 そして、この人を……殺してしまえと言ったのだ。

 

「そんな!そんな事………」

 

 

 私は里中佳奈。

 

 私には、2個下の妹がいる。

 

 そしてその妹は………数年前から病に侵されていた。

「いいのか?妹はこのままでは治らないかもしれないんだぞ?

 

 それに………この男は人殺しで、警察を丸め込んで好き勝手している極悪人だ。

 

 今から君がやるのは正義の行いなんだ」

 

 

 

 その病を治すためには、大金が必要であり………母子家庭の私達には到底払えない額だった。

 

 

 お母さんは借金して、働いてでも返すと言ってるけど……お母さんはこれまでも毎日必死に働いていて、体を悪くしてしまっている。

 

 そんなお母さんに、更なる借金が重なってしまっては………どうなるかなんて想像したくない。

 

 

 私も、高校を中退して、水商売でも何でもやって働こうとしたが……お母さんにそれだけはやめてくれと泣かれてしまった。

 

 

 

 でも、そうでもしないと誰も救われない………私がどうなってでも、お母さんと妹だけは明るく元気でいてほしい。

 

 

 でも、そう思っていても、私が出来ることなんてたかが知れている。

 

 どうしたらいいのかわからなくて、私はお悩み相談員として学校に来ていたこの人に話をしてみて、今に至る訳だ。

 

 

「………妹を治したいんだろう?母親に無理をさせたくないんだろう?」

 

 

 

 畳み掛けるような口調に私の中の天秤が揺れる。

 

 

 人を殺してはいけないと言う良心と、………たとえ自分の手を汚してでも、二人を助けられるのならと言う思考が、せめぎ合う。

 

 

 

 人を殺すなんて間違っている。

 

……でも、このチャンスを逃して仕舞えば、妹もお母さんも………!

 

 

 

「相手は人じゃない。人の皮を被った悪魔なんだ……きっとみんな許してくれるさ」

 

 

 

…………そうか。

 

 

 目の前に置かれている紙にある通り、この子は13人も殺した挙句、それをもみ消してのうのうと生きている極悪人なんだ。

 

 

 

 

 だったら………

 

 

「受けてくれるね?」

「……………はい」

 

 

 私が取る選択なんて、一つしかないんだ。

 

 

 この悪魔を討ち取って、私は妹を救ってみせる………!

 

 

 

 私は、依頼者に書かれた「町谷奏二」と言う名前と、その顔写真を食い入るように見つめていた。

 

 

 

 

 

 

side奏二

 

「それじゃあ今日の打ち合わせをするぞ。

 

 午前は俺と山田が屋台での販売をする。

 

 で、午後は加藤と安芸に交代しよう。

 

 五月と助っ人の田中は明日から販売をしてもらうから、今日はオフ。

 

……あと、全員何かあったら俺に知らせてくれ。対策を考える」

 

 

 開会式セレモニーが終わり、いよいよ学園祭が始まろうとする頃。

 

 

 俺達は空き教室にて最終確認をしていた。

 

 

 で、俺が今日の動きを大体話すと、5人分の了解が返ってくる。

 

 

 それじゃあ……ゲームスタートだ。

 

「んじゃ、行ってみようか!」

 

 

 

 

 そんな訳で、学園祭第一日目の販売が開始された。

 




いかがでしたか?

今回は少しだけ新登場のオリキャラがおりますのでそちらの解説をば。

里中佳奈(さとなか かな)

17歳。

何の変哲もなく、優しい少女だが、病気の妹と働き詰めの母親がいる。

家庭が貧困で、妹の病を治するために必要な費用を工面できず、途方に暮れていたところを無堂の差し金に漬け込まれてしまう。


田中
山田の友人で、奏二達の出し物に助っ人として参加する。


次回は学園祭第一日目のお話となります。

楽しみにしていただけると幸いです。
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