生活環境の変化と、アイデアの難産により遅れてしまいましたが更新です。
それではどうぞ。
奏二の秘密
神父服を格好良く着こなすため、食事に気をつけている。
学園祭が始まって、小一時間くらい経った頃。
「いやー、すごいお客さんですね先輩」
「そりゃあ、いくつかの屋台とタイアップしてるからな」
山田がそう漏らすように、俺たちの屋台にはなかなかの列ができていた。
まあ、そうなるように下準備をしていたから当然と言えば当然か。
俺がその屋台に持ちかけた取引は、屋台の食い物と、こっちの飲み物でセット販売をしようと言うものだった。
例えばウチのクラスのたこ焼き屋でたこ焼きを買うと、そのたこ焼きにウチのドリンクの当日限定の値引き券を付けさせる。
その逆に、俺らの屋台でドリンクを買えば、タイアップした屋台の食い物の当日限定の値引き券を渡す……と言った感じだ。
これが宣伝代わりになるおかげで、他に比べて圧倒的に少ない人数でも、売り子などに人数を割かなくてもいいし、その屋台の宣伝をこっちでもやることで向こうの宣伝になる。
さらに、数が売れるようになるから、値段が下がってもそこまで問題ない。
まさにwin-winという訳だ。
「……てな訳で、まだまだ来るから気を抜くなよ?」
「先輩って本当に何でもできますよね……」
「何でも屋だからな」
そんな訳で、なかなかな滑り出しを見せていると。
「安全点検に参りましたー!」
と、四葉が安全点検をしにやって来た。
「中野先輩、ここ最近ずっと働いてますよね。大丈夫なんですか?」
「全然平気だよ!」
チェックリストに書き込んでいる四葉に、山田が心配そうな顔をするが、それを受けた四葉の顔は、いつも通りの顔だった。
流石は無尽蔵のスタミナだ……と言いたいが、人間である以上はそんなもの存在しない。
更にはコイツは自分を抑える傾向にあるためかなり消耗しているのかもおかしくはないのだ。
「……ほらよ。やってもらっておいて何だが、あんま無理すんなよ?」
「町谷さんまで!心配無用ですってば!」
俺は、冷蔵しておいた栄養ドリンクを出して四葉に握らせ。
「どうだかな…心なしか動きが鈍い気がするぜ」
「もう、本当にへっちゃらなんですからねー!」
やけに元気を強調する四葉に、手を振って送り出した。
「……まあ、多分3時に間に合わせたいんだろうな…」
side五月
「は?学祭中も一人で自習してる?
お前……勉強ばっかで大丈夫か?
友達いる?
学校つまんねーなら、相談乗るぞ?」
「あなたにだけは言われたくなかった言葉です」
学園祭中も勉強をすると宣言した私に、上杉君はとんでもなく失礼な事を言い出した。
「俺ですら、この場の雰囲気に少しワクワクしてるってのに…
しかし、わかんねーもんだな。
これだけやってりゃ、流石にお前程の馬鹿でも何かしら成果は出て来ても不思議じゃないが……奏二には言ったのか?」
その名前を聞いて、私は彼に思いを馳せる。
「いえ。最近、町谷君とても忙しそうにしていたので……それよりも、想像を絶するバカで悪かったですね!」
ここ最近は、出し物に関することや、お仕事に関することが忙しいらしく、ずっと余裕なく動いていた。
ここ最近、不可解な動きが多いのである。
「いや、まあそこまで気にすることでも……」
「そこで変に気を遣われると逆に不愉快ですよ!
約束は15時……それまでに用意した問題集を終わらせます!
教室にも行きませんからね⁉︎」
「流石に、夜までは待てねえぞ…?」
「上杉君‼︎」
どこまでも失礼な上杉君に抗議した私は、絶対終わらせて見返すべく、問題集に目を落とした。
side二乃
「何で私がこんな目に……」
学園祭のオープニングライブがあってからと言うもの、道行く生徒に声をかけられ、サインを求められ、探し回られるようになってしまい。
一花の気持ちが少しだけ分かったような感じがしつつも、人目が無いところをブラついていると……。
「二乃」
「ヒッ⁉︎
……って、五月じゃない」
学園祭だって言うのに、なぜか勉強の態勢をとっている五月に遭遇した。
「そう言えば、お見事なダンスでしたね。
まさに学園祭という感じでしょうか」
「あのね……。
そのせいで、知らない人に声かけられまくりでむず痒いんだけど?」
他人事のように言う五月に、ため息と共に噛みつく。
と言うか、そもそも……
「何であんたは、学園祭だってのに勉強してんのよ』
折角の学園祭だと言うのに、この子は一体何をやっているのだろう。
「町谷達を手伝わなくてもいいの?」
ジュースを売る屋台について話し合っていた事を思い出して聞くと、苦笑いしながら。
「私のシフトは明日なんですよ‥‥15時には終わらせますのでご安心を」
先ほど来たメールを話題に出した。
「全く、どう言うつもりなのかしら、フー君は……」
side奏二
開会式が始まってから少しした頃。
「学園祭初日15時に、教室に来てくれ」というメールがあった。
随分と突拍子もない話だが……何というかただ事じゃない気がする。
そんな訳で、15時まで少し時間があるのでウチのクラスの出し物に差し入れに行こうとした時。
「……三ツ矢?お前何してんだよ」
何故か、人だかりの前で大道芸をしていた三ツ矢に出くわしていた。
この学園祭中に無堂が何かしてこないかと、唯、三ツ矢、四郎、竜伍の4人に見回りを頼んでいたのだが、これはどう言うことなのか。
「頼んでいた仕事はどうした?」
「やろうとしていたら、迷子がぐずっていたんでな……泣き止ませようと色々していたら、この有り様だ」
意味がわからず真意を尋ねると、デジャヴを感じざるを得ない事を言い出す。
「成る程ね……他の奴らから何か連絡は?」
「今のところ特にないな」
相変わらず気を使いすぎるやつだ。
と言うか、その野次馬達が早く話を終わらせろと言わんばかりの目を向けてくる。
まあ、俺らが雇った売り子って事にすればいいか。
それに、これに無堂がおびき出されるかもしれないし………
「そいじゃ、しばらくは天の岩戸を頼むわ」
「ああ…大喝采を聞かせてやる」
そうして三ツ矢と別れた俺は、今度は………。
「……お、現在話題沸騰中の、レッド先輩じゃないっすか」
「あんた、分かってて言ってるでしょ……」
現在一躍時の人となった二乃……いや、レッドさんに出くわしていた。
「お前があんな事をするとは、意外だな」
「らしくないってのは分かってるわよ……」
人通りの少ない場所にあるベンチにて。
二乃への違和感をぶつけていた。
今回やったオープニングのダンス。
コイツは、こう言ったことは恥ずかしがってやらないと思っていたからだ。
と言うかそもそも……
「これ、確か四葉がやるんじゃなかったか?」
確か、この仕事を元々引き受けていたのは四葉だったはず。
一体どう言うことだと考えていると、二乃が呆れたように。
「あの子がどれだけ仕事引き受けてると思ってるの……あんな量、無茶苦茶すぎるわ」
「だから代わりに引き受けたってわけね……相変わらずお節介だぜ」
一応の合点が行った俺が頷いていると、二乃はそれにと前振りをして。
「舞台の上からなら、客先を見渡せるかなって思ったのよ。
……まあ、無駄だったけど」
と、諦めたように肩を落とした。
「一応、屋台の場所はそれとなく教えてあるから、もしかしたらこの後来るかもな」
「そう……」
「まあ、諦めるのはまだ早いってことさ……じゃあな」
それとなくフォローを入れ、別れようとすると二乃は思い出したかのように。
「あ、町谷……五月ったらせっかくの学祭なのに、学食で勉強してんのよ。ちょっと様子見に行ってあげてくれない?」
と、五月の居場所を教えてきた。
それなら差し入れの量を増やすかと考えていたのだが……。
「……こちら四郎。
ターゲットを確認しました。
今、学生食堂に入ってます」
四郎がもたらした聞き捨てならない情報に。
「町谷、いきなりどうしたの⁉︎」
俺は、嫌な予感に駆られて走り出した。
side五月
祭りの喧騒が遠く聞こえる学食の一席にて。
「やっぱり私には、分不相応な目標だったのでしょうか」
つい先ほどの自分の言葉が、私の頭の中で反響する。
「そ、そんなこと言ってないわよ。
学校の先生なんて、立派な夢じゃない。
……これでも、あんたの夢応援してるんだから」
二乃は照れ臭そうにしながらこう言ってくれて。
「少々弱気になってしまってました」
それに応えようと、その場ではこう言ったけど……やっぱり、それでどうにかなるものではない。
誰かに頼れればいいけれど……今ここには誰もいない。
「全く……あんたがこんなに悩んでるのに、パパは何してるのかしらね」
「え?どうしてお父さんが…」
「招待状送ったのよ。
十中八九来ないでしょうけど……」
「頼ってみたら?
こう言う時に道標になってくれるのが、親なんじゃないの…?」
お父さんも……
「……いや、あんたにはそれ以上の適任がいたわね。呼んできてあげるからちょっと待ってなさい」
町谷君も………って!
「い、いえ!待ってください、町谷君もきっとお忙しいでしょうから……!」
この頃いろいろと忙しそうにしていた彼に、余計な負担を与えたくなかったので慌てて待ったをかけると、二乃はしたり顔で。
「誰も町谷だとは言ってないわよ?」
「…は、謀りましたね!?」
「あんたが自滅しただけじゃないの」
墓穴を掘ったような恥ずかしさが私の頬を熱くする。
「まったく…人に大人しくするように言っていたくせに、やっぱあんたも五つ子なのね」
「う、うぐゥ…で、でも忙しくしてるのは本当ですし…」
もはや、私の中でそれほどまでに彼の存在が大きくなっていたのか。
私はもっと身持ちの堅いしっかり者だったはず……。
受験生なのにこんな色恋にふけっていていいのかと、頭を悩ませる私に二乃は自信ありげに。
「……アイツ、午後はオフなんでしょ?
大丈夫。あんたのピンチとあらば、きっと来てくれるわ」
と、言い残して学食を後にしてしまった。
それからさらに少し後。
「い、いけません。はしたない………」
フランクフルトやかき氷、じゃがバターに焼きそば、唐揚げ………
いろんなところから耳に入る甘言の数々に、いつのまにか口から涎が出てしまっていた私は、自らを叱咤していた。
本当ならいますぐにでも食べたいけど、今は勉強中。
「集中しないと………」
そう、こうして漂ってくる甘い香りにも………
「………‼︎」
反応してしまった私が、その元に視線を向けた時。
「いいねえ、学園祭。
10年以上前の記憶が蘇ってくるよ」
「!」
そこには先日お世話になった、無堂先生が綿飴を片手に歩いてきた。
「あなたは………」
「おっと、奇遇だね。
君は先日の教室に来てくれてた……五月ちゃんだっけ?」
私が言葉を発すると、向こうも私に気づいたようで、そう話しかけてくる。
「その節はお世話になりました。
無堂先生………」
とりあえず、先日のお礼を言う私を見て、無堂先生は。
「おや、こんな祭りの中勉強かね」
机の上の参考書をめざとく見つけてきた。
「えっと……はい、まぁ……」
どこか照れ臭さを感じながら答えると、無堂先生はなんと、と言った顔で。
「なんとストイックな!
素晴らしい向上心だ!」
と、褒め称えてくれた。
「授業に参加する生徒が、皆んな五月ちゃんみたいな心持ちだったら僕も楽なのに。
僕はね、昔教師をしていた時から………
あ、五月ちゃんも先生目指してるって聞いたよ」
ここ最近、こうして褒められる事があんまりなかった私は少し気が楽になる。
…………でも、なんかこの人のこの話し方、誰かに似ているような?
何か違和感を感じていた私には無堂先生はどうして先生を目指しているのかを聞いてきた。
ちょっと恥ずかしいけど、この人なら話しても笑ったりはしないだろう。
「正直に言うと、今まで苦手な勉強を避けてきました。
でも………夢を見つけ、目標を定めてから、学ぶ事が楽しくなったんです。
そんな風に、私も誰かの支えになりたい。
それが……」
と言いかけた時。
「感動した!
なんて健気で清らかな想いなんだろう」
と、拍手と共に称賛してきた。
その言葉に、胸の中にあったモヤが少し晴れたような気がして。
「……少し、救われた気がします………
本当に、私の夢は正しいのか……
今になっても、そんなことばかり考えてしまって、机に向かっても集中できず………
実は生前、母が言っていた事があるんです。
学校の先生をしていたのですが………」
と、ここまで思っていたことを吐き出していた時だった。
「知ってるよ」
「え?」
突然の反応に、私は素っ頓狂な声を出す。
そんな私に、無堂先生は。
「僕は彼女の担任教師だったんだ」
と、衝撃の事実を告白してきた。
side奏二
学食についた俺は、無堂と五月のやりとりを小型のレシーバーで傍受していた。
今すぐ突撃してもよかったが、無堂の真意がまだわからない以上、情報が欲しかったのだ。
「君は若い頃のお母さんそっくりだ」
「そっくり……」
そう言う五月の目は、不安に揺れている。
この前にも何かあったのかは知らないが、今のアイツからすれば無堂は顔見知りの講師。
そこまで人を疑うことがない気質から、ヤツの話を馬鹿正直に聞いちまってるんだろう。
真面目で純粋すぎんのも考えもんだ。
周りを警戒しながら、俺は傍受を続けるが。
「ああ、歪なほどね。
君がお母さんの後を追ってるだけなら、おすすめはしない。
歪んだ愛執は、五月ちゃん自身を破滅へと導くだろう。
まるで呪いみたいにね」
「そういうことね………」
その言葉を聞いて、俺はなんとなく無堂がたまたま会った筈の五月にここまで言う理由を察した。
要は、五月が教師となれば零奈さんとの娘……つまり、自分の悪行の証拠がうろついてることになる。
つまり、目の上のたんこぶみたいなもんだ。
だから、五月の教師への道を断つことで、悪行が露見するリスクを無くそうとしているんだろう。
「………反吐が出るぜ」
あまりのクズっぷりに気が狂いそうになっている間にも、五月は必死で否定しようとするが。
「ち、違います!
これは私の意思で……!」
「そうだと無意識に思い込んでる……それが呪いだ。
現に、君の想いに君自身が追いついてないじゃないか」
「…………!」
悦に浸ったように放たれた言葉に、鋭く息を呑む音がした。
これ以上無堂と五月を対面させておくのはまずいと、乱入を考えたとき。
「………⁉︎」
突如向けられた殺気に、思わずその方向を向くが。
………誰もいない。
「なんだ、今の………?」
正体を知るべく、その方向に行った方がいい気もするが………今は無堂だと、近づいて話を聞くことにした。
side五月
今までやっていた事が正しいのか……それとも間違っていたのか。
色々な考えに迷い、息苦しさを感じていた私に無堂先生は。
「きついことを言ってしまってすまない。
でもね、僕は五月ちゃんにお母さんと同じ道を辿ってほしくないんだよ」
申し訳なさそうな顔をして…………
え?
「え…?」
その話の内容に、一瞬思考が止まって。
「どう言うこと……ですか?」
再起動した思考回路が、なんとか言葉を絞り出すと。
「彼女は僕に憧れて、似合わぬ教職の道へと進んだ……最後まで、そのことを後悔していたよ」
その言葉に、私は遠い記憶を引き摺り出された。
「私の人生………間違ってばかりでした」
聞いた時は、よくわからなかったけど………胸の片隅に引っかかっていたこの言葉。
その言葉が、今無堂先生の口から放たれた言葉にリンクする。
私は、お母さんが今でも大好きだし、お母さんのようになりたいと強く思っている。
先生になりたいのだって……憧れが理由の一つだ。
でも……お母さんがもし、その道を歩いたのを後悔していたのだとしたら。
間違っていたのだとしたら………?
私のこの思いも、間違いだったんじゃないか………?
そんなこと思いたくないのに、浮かんでしまう考えに、息苦しさを覚え。
「す、すみません。
このあと約束があるので私はこれで………」
「悩んでいるのなら、いつでも相談に乗るよ。
きっと、君に合った道は他にもある筈だ……明日も来るよ」
無堂先生の言葉もそこそこに、私はその場から逃げるように立ち去った。
私………どうしたらいいの?
side奏二
「よお、随分なご高説だったぜ」
五月がいなくなり、どこかへ行こうとした無堂を、俺は逃すまいと引き留める。
「………君は確か、町谷君だったね」
「覚えていてもらわなくてもよかったけどな……それより」
怒りをなんとか抑えながら、絞り出すように。
「アレが親が娘にかける言葉かよ」
その言葉に無堂の顔色が険しくなる。
そりゃそうだ。
コイツとあの5人にある血縁関係を知っているのは、おそらく親父さんと風太郎の親父さん、そして奏一さんに下田さんくらいだろう。
まさか、講義に来ていた受験生がその情報を持っているだなんて普通は思わない。
そんなこんなで険しい顔をしていたが、ふと納得したような顔で。
「………成る程。
君はあの町谷君の息子か。
僕も随分と嫌われたものだ」
「当たり前だ!
アンタ、自分がやった事がいい事だとでも思ってんのかよ⁉︎」
ため息混じりのその態度に、思わず怒気が込もってしまう。
「そして、母親をダシにして、自分の娘の夢を潰そうとするなんざ……吐き気がするぜ」
そう吐き捨てるが、無堂は言われ慣れてると言うふうに。
「僕が言ったことは現実で……事実さ。
それに……人殺しの君が言えたことでもないと思うがね」
施設でのあの惨劇のことを知っていたのか、侮るような目を向けてきた。
確かに、相手がどんなクズだったとしても。
罪に問われることはなくとも……俺のしたことは決して許される事じゃない。
だが。
「俺は、自分のした事から逃げない。
過ちは、繰り返さない!
………自分のケツも拭けねえアンタみたいな男にだけは、なりたくねえからな、無堂さんよぉ!」
だからこそ、俺は背負って生きていく。
自分の過去も……罪も。
もし、そこから目を背けたら、コイツと同レベルにまで堕ちてしまうから。
そんな大見得を切った俺に、無堂は。
「………この子ネズミめ」
と、吐き捨てて立ち去っていった。
静寂が戻った食堂では、ついさっきあった殺気は感じない。
だが……アレは間違いなく俺に向けられていた。
その正体が非常に気になるが……今はそれよりも。
「………アイツ、妙な考えに行きついてないといいが」
五月へ一抹の不安を覚えながら、俺は指定されていた教室へ歩き出した。
「死神のセリフじゃねえんだろうが………今度こそ、守ってみせる」
いかがでしたか?
次回は一日目の後半となります。
ぜひ、お楽しみに!