前回の後書きで予定したもの全部を書き切るのは、なんか詰め込みすぎな気がしたんや……
てな訳で、五月VS無堂、四葉と竹林の邂逅、二乃とマルオさんの確執解消への足掛かり的なところまでにしました。
休憩から戻って少し経ち、そろそろお昼時みたいな頃。
「パンケーキ屋のクーポンがすごい速度でなくなっていくな」
「それだけ人気って事だよー」
「こっちもウハウハなんだから良いんじゃねえか?」
パンケーキ屋のクーポンが少なくなってきたことに気づいた加藤に、安芸が頷いていた。
取引をした店舗のクーポン券の中で、うちのクラスのパンケーキ屋がやたらと人気であり、他の店よりも多めに刷っておいてもこの通りである。
「でも、人気ってことはその分女子達への負担も相当になるんじゃないか?
流石にヤバいんじゃ……」
因みに今は俺と安芸、そして顔を曇らせる加藤が店番で、山田と田中の二年組はオフにしてやった。
「恵。スフレパンケーキ作れないか?
町谷のダチの中の何人かをこっちに来させて、恵も助っ人に行かせたほうがいい気がするぞ」
「一応作ったことはあるけど、あれ結構難しいんだよー。
それに、他のみんなと比べて慣れてもないから屋台で出せる出来にもならないだろうし……」
「これ以上助っ人やったら、こっちが回らなくなるぜ。
それに………アイツらを店番にしたら、何されるかわかったもんじゃない」
アイツらはかなりの美形揃いなので、それ目当ての行列なんてされたらたまらないし、女子がいなくなることで、こちらに華がなくなる。
しかも……四郎は兎も角、他3人は愛想が良い方じゃないので接客ができるか怪しいところで。
最後に……無堂の監視体制を緩めたくない。
まあ、五月に他の姉妹達が付いてるなら、そこまで心配することはないんだろうが………
と、そこまで考えていると電話が鳴る。
相手は……二乃だ。
「二乃から電話だ」
「パンケーキ屋がヤバいから、クーポン付けるな……とか来るんじゃないか?」
「かもな…」
苦笑いする加藤に返事をしながら、電話に出ると……
「ごめんなさい、五月がアンタのところに行くって……今、あの子に誰もついてないわ!」
「何ぃ⁉︎
………わかった、見回りを強化するぜ。
見つけたら連絡するから、そっちも頼むわ」
「ええ。あの子ったら……」
さりげなく、ヤバい状況になっている事を知らされた。
………そろそろ、加藤達に隠しきれないかもな。
side五月
「昨日はすまなかったね。
赤の他人に突然あんな事を言われて、困惑するだけだろう」
私の前に現れた無堂先生は、申し訳なさそうに謝ってきた。
でも……どこか白々しさを覚えた私は後ずさる。
「……何のご用でしょうか。私は今忙しいのですが……」
だが、無堂先生は逃げるなと言わんばかりに前に踏み出し。
「警戒する気持ちもわかる。
……私も、君にいつ打ち明けるか迷っていたんだ」
一息ついた後に。
「君のお母さんが……元教え子で。
さらに、元同僚で。
そして……元妻だった事をね」
「…………え?」
頭が一瞬真っ白になった私に、言い聞かせるように。
「つまり私は………君のお父さんなんだよ」
お母さんとの関係性を、私の前に突きつけた。
お父さんの事は、お母さんから聞かされていた。
私たちが生まれる前、忽然と姿を消した事を。
でも、お母さんがいて……亡くなってしまった後も、今のお父さんがいて、そこまで気にしてはいなかったのに。
「お父さん………?
そんな……私たちが生まれる前、消息不明になったと聞いています。
本当に、無堂先生が……?」
いま、こうして「お父さん」と名乗る無堂先生の存在と、嘘を言っているようには思えない態度により、私は混乱の極みに陥っていた。
そんな私の混乱を他所に、その「お父さん」は口を開く。
「ずっと会いたかったんだ。
講師として、全国を回りながら……。
いつも、どこかにいる君たちのことを想っていた。
そんな時、テレビに映る一花ちゃんを見つけたのは……」
「ま、待ってください!みんなを呼ぶので……」
そのまま話を続けてきたので、慌てて待ったをかけた。
この話は、私だけが聞いて良いものじゃないし……
私1人だけで、こんな重い話を受け止め切れる自信がない。
そうして、電話を取り出した私に。
「今は、五月ちゃんと話をしているんだ」
抑え込むように、キッパリと言い放った。
その言葉に体が強張り、思考が飛んだ私を見て、無堂先生は再び言葉を紡ぎ出す。
「君が僕の教室に訪れたのは、決して偶然ではないはずだ。
悩んでいるんだろう?聞かせてくれたじゃないか。
今こそ、父親としての義務を……」
「今更なんですか!」
飛んだ思考はリセットされ、感じていた不安は、お母さんへした仕打ちに対する怒りへと転化された。
「あなたのことはお母さんから聞いてました。
お腹の中にいる子供が、五つ子だとわかった途端に姿を消したと!
その時、お母さんがどんな気持ちだったか……⁉︎」
きっと、私が想像したもの以上の絶望や悲しみを味わったのだろう。
「私は………私はあなたを……!」
そんなものを味わわせた発端に、さらにぶつけようとした言葉は。
「ごめんなさい!」
「……⁉︎」
突然土下座をした無堂先生の、謝罪の言葉にかき消された。
「自分の事ながら、なんて情けない!
ずっと後悔していたんだ。
当時の僕に甲斐性があれば、君達にこんなに迷惑をかけずに済んだのに、と!」
その勢いに言葉を失う私に、頭を地につけたまま。
「そして……君達の行く末を考えると、心が張り裂けそうな思いだった。
私の罪が消える事はない。
しかし、許されるのならば……」
尚も謝罪の言葉を続ける無堂先生だが……私としては。
「罪滅ぼしをさせてほしい。
今からでも、父親として……娘にできることをしたい」
「………もう、私たちに関わらないでください。
お父さんならもういます」
もう、関わらないでほしいとしか思えなかったが………
「中野君か」
思い当たったように、今のお父さんのことを口にする。
「あの子は優秀な生徒だったが、父親としては不合格だと言わざるを得ない。
やはり、血のつながりが親子には必要不可欠だ。
それに………」
そして。
「お母さんが死んだ時、彼が君に何をしてくれた?」
「!」
その問いかけに、そちらが言えたセリフではないと言葉が出かかったが、無堂先生は畳み掛けるように。
「娘が、亡くなった母親の影を追い続け。
母親と同じ、間違った道に歩を進めようとしている。
………学校の先生が、君にふさわしくないと言うことは、君が一番分かっている筈だ」
昨日のことが頭を駆け巡り、言葉は失われ。
「父として、到底見過ごすことができない!
君たちへの愛が、僕を突き動かしたんだ!」
そこに、無堂先生が高らかに放つ言葉が頭に入り込み。
「………僕ならば、違う道を用意してやれる。
思い出して欲しい。
君のお母さんは言ってた筈だ」
その言葉通りに思い浮かべてしまった、在りし日のお母さんは。
「"私のようにはならないで"とね」
確かに、そう私に語りかけてきた。
side奏二
「………五月!」
無堂の場所がわかり、そこで五月が無堂と話していると竜伍から連絡を受けた俺は、四郎に店番を任せてそこに駆けつけたが。
走ってきた五月に声をかけても、そのままスルーされてしまった。
俯いていた彼女から、その表情は伺えなかったが………
「………ッ‼︎」
頬に飛んできた水滴で、どんな物なのか理解した………
いや、してしまった。
「この、馬鹿野郎がぁ‼︎」
その瞬間、やり場のない感情は拳となって、壁を殴りつける………自分への怒りが口に出るが。
その拳の痛みは、あんな顔をさせてしまった不甲斐なさをかき消すはずもなかった。
あんな顔はさせまいと、俺はこうして水面下で動いてたってのに……!
悔しさと申し訳なさ、怒りに頭が沸騰しそうだったが。
「………少し頭が冷えたか?」
「………わりぃ、まずは礼が先だな」
竜伍の声にハッとした俺は、ひとまずの礼と共にボイスレコーダーを受け取る。
それを再生すると、無堂と五月の会話らしき音声が頭に響いてきた。
……その会話の内容を頭に刷り込みながら、竜伍に目を向ける。
「………五月の後を、追いかけてもらえるか?」
「……三ツ矢が既に行っている。
そして、こうなってしまっては俺達ではどうにもならん。
あの女に全てを話し、自分で決着をつけさせるしかないだろう」
この事態にそぐわないほどに冷静な竜伍の提案に、確かにそれしかないと思ったが。
それとは別に………五月にあんな顔をさせて、里中と言う少女を唆し……それ以前に、多数の人の夢を絶ち、欲望のままに弄んだ。
自分の欲の為なら、他人の痛みに気も留めない、そんな外道に………絶対に落とし前をつけさせなければならない。
だから、俺は………
「………悪いな。そっちに行くのが早まりそうだ」
「奏二……貴様、何をするつもりだ?」
絶対に、刺し違えてでも止めようと思った。
side四葉
頭が上手く回らないのに、視界はぐらぐらと揺れ。
走ってるわけでもないのに、息はやたらと上がっていて。
私の身体は、限界を迎えようとしていた。
私には、やらなきゃいけないことがあるのに………みんなの為に、役に立たなきゃいけないのに。
これじゃあ……思い上がり、姉妹を見下し、風太郎君との約束を守れなかった、昔の愚かな自分と同じじゃないか。
……いや、今も昔とあんまり変わってないか。
約束一つも守れなかったのに、風太郎君に約束を果たすための知恵を授けた竹林さんへ対抗しようとしたんだから。
そんなことを考えている間にも、私の意識は遠くなろうとして……。
「風太郎のお友達さんですよね」
先ほど頭に浮かんだ、竹林さんに声をかけられた。
「あの……上杉さんは?」
「さっきまで一緒にいたんですが、放送部の話をしたらどこかに行っちゃいました」
ついさっきまで風太郎君と一緒にいた筈なのに、なぜか1人でいることが不思議だったが、すぐに解決する。
だが、不思議なことは連続しておこるもので、彼女はマジマジと私の顔を………
「……何か?」
「あ、すみません。
まじまじと見てしまって……五つ子の方を拝見するのは、今日が初めてで。
本当にそっくりなんですね」
「あはは……よく言われます」
誰かと会話することで多少はマシになったものの、未だふらつく頭でいつもの流れに苦笑いするが。
「四つ子は見たことあるんですけどね」
「⁉︎ど、どこで……」
そこから放り込まれた言葉に、私は思わず質問してしまう。
だが、竹林さんはその反応を想定していたかのように。
「6年前に京都で……。
風太郎と会ったのは、あなたですか?」
なんてことないように、姉妹達しか知らないような事を聞いてくる。
どこまで知ってるかわからないような底の見えなさを覚えつつ、何でそう思ったのか聞き返すと、どうやら風太郎君がよく私とのツーショットを見せてきており。
さっきのパンケーキ屋での一悶着の後に二乃達に聞いて、確信したんだとか。
「……さすが、上杉さんの先生ですね」
あの金髪の不良みたいだった風太郎君を、今の天才にしただけはあると感心していると。
「その事、風太郎には……」
「い、言わないで……言わないでください」
風太郎に伝えたのかという彼女の問いに、答えとも取れる懇願をしてしまった。
「どうしてですか?秘密にする理由は……」
首を傾げる竹林さんに、私は。
「がっかりされたくないんです……
上杉さんは、ずっと正しく努力してきたのに。
私は、無駄なことに執着した意味のない6年間でした」
そこまで言って………
「それだけですか……?」
その後に、何か話していたのは知っているけど……それを考える間も無く、色々動いていたのは覚えているが………
「………あれ?ここは」
「病院よ」
次に思考がまとまったのは、二乃曰く病院のベッドの上だった。
side二乃
「どうしたのよ、その手は……」
「いやあ、はやる若さを抑えられなかったっつーか……」
「変な言い訳は良いわよ。それで、五月はどうだったの?」
休憩時間中に町谷の元に向かった私は、何故か手を怪我していたが……兎に角五月の事を聞くと。
「………無堂に出くわした。
アイツは今、相当不安定になりつつある」
後悔を滲ませた顔で、ボソリとつぶやいた。
「………ごめん」
「……悪りぃ、八つ当たりみたくなっちまったな」
原因を作ったことへの罪悪感に駆られて謝る私に、慌てて取り繕っていたが……ふと、思い出したように。
「……そういや、親父さん見なかったか?
昨日、来るとか言ってたんだけどよ」
色々あって忘れかけていたが、心残りだったことを思い出した。
「……本当?」
「ああ、待ち合わせとかはしなかったけどな」
半信半疑の私に、町谷は考え込む仕草と共に頷く。
「あの人もなんだかんだで、お前らのこと心配してんだぜ?」
その後につづいた言葉に、昨日のある言葉が思い浮かぶ。
昨日、フー君のパパはこう言った。
「お嬢ちゃん達が心を開いていったように、アイツも歩み寄っているはずさ」
確かに、初めて会った時に比べれば距離は近くなったような気はするが………それでも、まだ心の底からパパとは思えない。
町谷から聞かされた、「本当のお父さん」の存在もあるが………今までしてもらえなかった事や、そう言う人なんだと言う固定観念が、先に思い浮かんでしまうのだ。
でも……親交があるらしいフー君のパパや、私たちより近い距離で見てきた町谷もこう言ってるし、信じても良いのかも………
と、思っていた………待っていたのに。
「………どうせ、そんな事だろうと思ってたわよ」
17:00を示す時計とアナウンスに、その希望は打ち砕かれる。
やっぱり、あの人は私たちのことなんて………!
まだ並んでいるお客さんに気取られないようにしつつも、頭に諦念や失望、怒りが染みていくような感覚を覚えていると、突如前方が騒ぎ出す。
「え?」
「何?」
「カッケぇ…」
更には、エンジンをふかす音まで聞こえてくるではないか。
「きっと武田君よ、カッコイ〜」
「前田か町谷じゃない?あの2人なら似合ってるし」
何事かと視線を上げると。
「あっ!」
「もう待ってらんねえよな。
……行くぞ、二乃」
クリスマスのあの時と同じように、フー君がメットをかぶっていた。
……露骨にがっかりした他の連中には、このかっこよさがわからないのよ。
いかがでしたか?
次回は二乃の確執の解消、奏二の身辺整理あたりを書ければなと思います。
具体的には二日目の夕方以降ですな。
時間の流れが分かりにくいんですよね、学園祭編って。
なんとか書いていくのでお楽しみに。