五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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あけましておめでとうございます。

どう言う流れで書くか、時系列順に誰から書くのが正しいのかなどを考えていたら、年が明けました。


それでは、本編にどうぞ。


奏二の秘密

四葉のことが何気によくわからない。




第49話 過去から未来へのバトン

 

 

 足音や叫び声が響いていた工場内に、静寂が戻る。

 

「……やっと捕まえたぜ」

「……」

 

 里中の攻撃をひたすら避け続けて、数十分くらいが経ったのだろうか。

 

 

 俺は、彼女を押し倒す形になったものの、なんとか無力化に成功していた。

 

「さて……」

「……!」

 組み伏せられた里中は殺してやると言わんばかりで睨みつけ、起きあがろうと抵抗しているが、そこは男と女の力の差と言うものか。

 

 

 動きこそするものの、それで押しのけられる気配はなかった。

……いや、目的は話し合いだからこの態勢を解きたいけど、解いたらさっきまでの焼き直しになっちまう。

 

 

「さて、どうすっかな……」

 

 どうしたもんかと考えていた俺の耳に。

 

 

 

 

「………なんで」

「ん?」

 

 何かが聞こえたかと思えば。

 

 

「どうしてこうなっちゃうの⁉︎」

 

 里中が、悔しさと絶望に顔を歪ませていた。

 

 

 

 

 呆気に取られる俺の前で、半狂乱で喚く。

 

「私は………昔みたいに戻りたかっただけなのに………!

 

 

 

 沙奈も、お母さんも助けられなくて………

 

 

 

 それで……こんなの……

 

 

 どうして……?

 

 

 

 

 どうしてよおおおお⁉︎」

 

 

 決壊したダムの様に溢れ出す慟哭の後、胡乱げな顔で俺を見ていた。

 

 

 

 

「どうして……どうしてなのよ……」

 

 

 絶望に枯れた目で、壊れた様に繰り返す。

 

 

 

 その姿は、いつかの俺と重なるデジャヴを俺にもたらし。

 

 

「………なら、昔話に付き合ってくれや」

 

 

 今まで誰にも話したこともない事を話そうと思った。

 

 

 

 

 

side里中

 

「こんな体勢じゃ変だし、まずはお互い離れて座ろうぜ」

 突然昔話をしたいと言い出した町谷に、座る様に促された私は困惑した。

 

 

 だってそうでしょう?

 

 あの態勢なら………

「……何のつもり?あそこから私をレイプするなり殺すなりできたでしょ?」

 

 

 どうせ、私にはもう何も希望がない。

 

 それならいっそ、このまま絶望し続けるより………快楽にでも堕ちた方がまだマシだ。

 

 投げやりに問いかける私に、息を一つつき。

 

 

「それなら俺も拘束を解かねえよ……兎に角聞け。負けたお前に拒否権なんてねえからな」

 

 面倒臭そうにしてる癖に、反対意見を封殺してきた。

 

 

 

 そして、軽く咳払いをして。

 

「まず、単刀直入に言うが………俺はお前の一歩先にいる」

 

 

 脈絡もない事を言い出す。

 

 

「どう言う意味?」

「いや……二十歩くらいかな?」

 

 

 すぐに訂正したが、したからって分かる様にはなっていない。

 

 

 人に聞かせたいなら、分かりやすく話すべきではないだろうか。

 

 

 と、胡散臭いものを見る様な目に……

 

 

「………まあ、そんだけ人の死に目に立ち会ってるって事だ」

 

 

なろうとしたところで、不意打ちを受け………いや、コイツは……!

 

「何を悲劇ぶって……何人も殺して、のうのうとしていた癖に!」

 

 

 自棄になっていた心が、冷静な思考と正義感を取り戻す。

 

 

 だが、その冷静な思考は。

 

 

「………罰してくれる人がいたなら、まだマシだったんだろうさ」

 

 

 目の前の少年の顔に滲む後悔と無力感にも気づいてしまった。

 

 そんな様子に、つい先ほどまで抱いていた印象が揺らぐ。

 

 

「他人の命を代わりにして生きながらえたんだ。

 

 

 ………ある意味「殺し」ってのは言い得て妙だな」

 

 

 少し前まで、不敵な笑みを浮かべていたのはどこへやら。

 

 その表情と……雰囲気は、どことなく他人に思えない。

 

 

 

 私の中に渦巻く疑念をよそに、後悔を携えた瞳はこちらを見据えて。

 

 

「だから、お前の気持ちは……。

 

 

 取り残される方の辛さは、痛いほど分かるんだわ」

 

 

 自棄に重みを感じさせる共感を口にした。

 

 

 

 犯罪者に同情なんてされたくはないが……

 

 その言葉には、なぜか嘘だと思うことができない。

 

 

 この少年へとむけていた殺意に、これは本当に正義なのかと頭の中で問答し始めた時。

 

 

 

 

 

「何を迷っている。妹にはもう時間がないのを忘れたのか?

 

 

 このチャンスを逃して、妹を治してやれるのか?」

 

 

 

 レシーバーから聞こえてきた音声が、迷っていた私の心を再び凍り付かせる。

 

 

………そうだ。たとえこの少年が本当に悪人で、その場での出まかせを言っていたとしても……あるいは、本当はただの善人で、人殺しは何か理由があって、仕方なかったのかもしれなくても。 

 

 

 

 

「………お話ありがとう。でもね………」

 私にはもう、賽を投げるしか道が残されていないのだ。

 

 

 

 ゆっくりと立ち上がり、隠していた拳銃を取り出して、安全装置を外す。

「………もう、私にはこれしかないの!こうしないと………あなたを殺さないと、沙奈の治療が………!

 

 

 弾丸を装填して、いつでも発射できる様な状態にして………!

 

 

 

 

「……え?」

 

 撃とうとしたその時、私が突き出した銃は手元から弾き飛ばされた。

 

 

 呆気に取られた私の前では、銃が地面へ落ちてゆく。

 

 

 

そうして弾を発することなく落とされた銃が、地面と擦れ合う音で理解が追いつき、拾い上げようとするが。

 

 

 

 

「…………ああっ!」

 

 

 1発の銃声と共に、さらに遠くに弾き飛ばされてしまった。

 

 

 

 

 その光景に、咄嗟に放たれたであろう方向を見ると。

 

 

 

 

「……もうよせ。

 

 地獄から門前払いされてんだよ、アンタは!」

 

 

目の前では町谷が銃を片手に口を歪めていた。

 

 

 

 

 

side奏二

 

 

 その場にへたり込んだ里中を警戒しつつ、打ち落とした銃を拾い上げると、そこには懐かしい重みがあった。

 

 

 

 その重さは、7年前よりもはるかに力がついた今でも………変わることはない。

 

 

 

 この重さは………人を殺せて、殺した重さなんだ。

 

 

 でも、だからこそ………里中にこの重さを知られなくてよかったと思う。

 

 

 しかし……いくら説得しようとも、コイツの妹さんに時間がないのは現実だ。

 

 

 

 

 

 だから……

 

「………取引をしよう」

 

 

 俺は、札束を入れた封筒を里中に手渡した。

 

 

 

 

 

side里中

 

 渡された封筒を見て、私は目を張った。

 

 

 そこには、一万円札の束が入っていたからだ。

 

 

 

「50万はいってるはずだ………妹さんの治療費にでも使え。

 

 

 その代わり……もう、あんな奴の言いなりになんてなるな」

「………なんで」

 

 

 行動の意味がわからずに彼の顔を見るが、その目には後悔の色は微塵もない。

 

 

 確かにこれだけの金額があれば、今すぐ沙奈を治すことは可能だ。

 

 

 でも……そんな魅力よりも、目の前にいる彼に困惑が尽きない。

 

 

 

 自分を殺そうとした人に、何か反撃するどころか、こうして妹の治療費に使えと現金を差し出すのは、あまりに理解できなかったからだ。

 

 

 

 

 

「あなたは何を考えてるの?」

「………」

 たまらず口に出た問いかけに、ため息と共に彼が口を開こうとした時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、1発の銃声が響いた。

 

 

 

 

 

 その後、誰かの足跡が遠ざかっていくのと同時に。

 

 

 

「おい、伏せろ‼︎」

「キャッ⁉︎」

 

 

 その声と共に、私は前からの衝撃で後ろに倒れ。

 

 

 

 

 後からつんざめく、重いものが落ちてくる音や衝撃の中。

 

 

 

 後頭部への衝撃と共に、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side二乃

「もう……四葉ったら、無理しちゃって……」

 

 フー君と熱いキスをした後、お父さんに四葉がここに入院したことを教えられ。

 

 

「フー君もフー君よ。

 

 教えてくれたっていいじゃない?」

「いや……それが気掛かりで、お前らがパンケーキ屋の方に集中できないかと思ったんだが、すまなかった」

 

 目に隈を作りながら眠る四葉を前に、後ろに控えているフー君に抗議する。

 

 

「他の姉妹たちには連絡したのか?」

「もうすぐ一花と三玖が来るはずよ……五月はまだだけど」

「奇遇だな。奏二のやつからも連絡が来てねえんだ」

 

 スマホの返信を見ながら、質問に答えるが…ここで眠っている四葉以上に、連絡のない五月と町谷が心配だ。

 

 

 

 姉妹のトラブルに反応できないほどに追い詰められている五月と、それを気に病んでいた町谷。

 

 

 フー君はこのことを知っているのだろうか?

 

「……ねえ、ちょっと話が」

「まさか、あの2人……なんだ?」

「あ⁉︎え、えっと………」

 

 聞こうとしたところに、気掛かりなつぶやきを被せてきたので、今がチャンスと聞こうとしたが。

 

 

「……すまない、話の前に一回トイレへ行かせてくれ」

「……タイミング悪すぎ!」

 

 

 最低なCMの後に回されてしまい、思わず不満の声を上げたが。

 

 

 

「………あれ」

 ベッドの方から聞こえた声に、その後回しが適切だったと思い知らされた。

 

 

 

 

 

side四葉

 

「……あれっ」

 

 目が覚めたと思えば、見慣れない天井が映ってきた。

 

 

 見覚えはあるんだけど……。

 

 

「学校……家……?」

 

 寝ぼけた頭でまとまらない考えに苦戦していると、横から。

 

 

「病院よ。

 

 あんたがここにいるって聞いて驚いたわ。

 

 

……全然、余裕持ってやれてないじゃないの」

 

 

 心配そうな顔をしてそうで、咎める様な口調の二乃の声がした。

 

 

「………二乃?」

「フー君ったら、私に気を遣って言わなかったのね」

「……心配かけてごめんね」

 

 

 どうやら、風太郎君と一緒にお見舞いに来てくれたみたいだが、私にはやるべきことがある。

 

 

「ちょ…何してんの?」

「すぐ戻るよ。

 

 まだやり残したことがたくさんあるんだ」

 

 

 演劇部の舞台への助っ人があるのだ。

 

 早くしないと、演劇部のみんなに迷惑をかけてしまう……!

 

 そんな義務感に駆られ、ベッドから飛び出そうとしたが。

 

 

 

 

「……何するの?」

「時計を見なさい。もう夜よ」

 

 

 

 二乃の言葉に、そんなまさかとスマホを見るが……

 

 

 

 

「……嘘」

「学園祭2日目は、もう終わっているわ」

 

 時刻は18:00を回っており……咄嗟に、頭の中をある思考が支配した。

 

 

 

「あ、あんたどこいくのよ……」

「ごめん、行かなくちゃ…」

 

 

 みんなに謝りに行かなくちゃ……!

 

 

 少しふらつく足で、病院の廊下を進んでいると。

 

 

 

 

「………お、目が覚めたか」

「上杉さん……」

 ハンカチを手に持つ風太郎君と出くわした。

 

 

 お見舞いのお礼くらい言いたいけど、今は迷惑をかけた人たちへの謝罪が先だ………え?

 

 

 

 

「……通してください」

 

 なぜ、廊下の真ん中に立ち塞がるのだろう。

 

 

 

「ダメだ」

 

 なぜ、私が行くのを止めようとするのだろう。

 

 

 

「行かないと…」

 

「行ってどうする?もう、みんな家に帰ってるぞ」

 

「それなら、そこへ頭を下げて回ります‼︎」

 

 

 たとえ風太郎君が相手でも、引けない理由があるのに。

 

 

「演劇部の方達だけではありません。

 

 

 その後もたくさん引き受けたのに、こんな事………

 

 

 私のせいで、多くの人達に迷惑をかけてしまいました!

 

 

 だから、謝らないといけないのに……!」

 

 

 どうしてわかってくれないのかと憤りも込めたが、彼は。

 

 

 

「……それでも、通すわけにはいかない。

 

 

 俺は、ここから動かない」

 

 

 

 

 断固として、私が行くのを許可してくれない。

 

 

「どうして……!」

「ちょっと落ち着け。

 

 

 とりあえず、お前が倒れた後の話をしてやるよ」

 

 

 そして、おもむろに私が倒れた後の話を始めた。

 

 

 

side風太郎

 

「と、いう事で……。

 

 中野四葉は過労で倒れていたところを発見され、病院に搬送されたらしい。

 

 舞台に穴をあけてしまったことを、あいつに代わって謝罪する」

「そ、そんな!いいですよ……助けてもらったのは私たちですから」

「中野さんが、それほど溜め込んでいたのを気づけなかった私たちも悪いわ」

 

 

 四葉が倒れたと聞かされた俺は、演劇部に謝罪しに向かっていた。

 

 

 正直、何故欠員に対応できる体制を、整えてなかったのかと思うが……まあ、こんな文句に意味はない。

 

「それで……演劇の方は」

「そうね。今からでも代わりの役者を探すしか……」

 

 今は、目の前の緊急事態への対処が先だ。

 

 そんなわけで、演劇部内で話し合いが始まったが……

 

「だけどよ……人に余裕がないから、中野さんに頼んだわけで…」

「衣装も彼女に合わせて作ってあるものだけだ。

 参ったな………流石にこれは無理だろ……」

 

 

 裏方らしき男子達が苦しい顔をする様に、状況は最悪に近いものだ。

 

 奏二でも呼んで、何か良い案がないか聞き出せないかと思ったその時。

 

 

 

 

「話は聞かせてもらいました!」

 

 突然扉が開かれ、その先には懐かしい顔があった。

 

 

 

 

side四葉

 

「え?この人……陸上部の部長さんですよね」

「初日の公演から、お前に会いたがっていたらしくてな。

 

 代役も買って出てくれたよ」

 

 今日の劇の映像を見せられた私は、頭の中に大きなハテナマークが鎮座していた。

 

 

 なぜ、あの部長さんが私を探していたのか。

 

 

 なぜ、私の代役が必要だと言うことを知っていたのか。

 

 

 なぜ……陸上部の件で色々あったのに、代役を買って出たのか。

 

 

「急拵えのくせに、なかなかのはまり役じゃねえか?」

「え、いや……私、頭が混乱して。

 

 

 何が何だか………」

 

 可笑しそうに笑う風太郎君の横で、なおも理由がわからないでいると。

 

「後……この2人を覚えてるか?」

 

 風太郎君は新しい写真を見せてくる。

 

「被服部のお二人……?」

「この2人は、お前を採寸して作った衣装を縫い合わせたんだ。

 

 

 そして、コイツらだけじゃない」

 被服部の2人に、バンドを組んでいた3人組。

 

 

 更には、招待状を貰いにきた三つ編みの子まで……

 

 

 その写真の人たちは、何をしているかはバラバラだが、共通点がある。

 

「……気づいたみたいだな。

 

 

 コイツらは全員、お前の世話になった奴らばかり。

 

 

 言わば、お前のために集まったんだ」

 

 

 そう、私が仕事を引き受けた人たちだ。

 

 こんな私なんかのために………力を貸してくれたのか。

 

 

 目頭が熱くなっていると、風太郎君は一つ咳払いをして。

 

 

 

「……さて、お前は明日も安静にしてなければならない身だ。

 

 そうなると、お前の抜けた穴は当然大きい。

 

 

 だが、俺もお前の世話になって……お前のために集まった1人だ」

 

 

 私の目をまっすぐ見据えて。

 

 

 

 

「託してくれ。

 

 

 持ちつ持たれつ、だろ?

 

 

 お前が持たれたっていいんだ」

 

 

 私が一番託したい人に、託してくれと言ってもらえた。

 

 

 自分が受けた仕事を投げるのは、正直罪悪感はある。

 

 

 

 でも……もう、一人で背追い込む必要なんてないんだ。

 

 

 私には、風太郎君をはじめ、後を託してもいい人たちがいるんだから。

 

 

 だから。

 

「上杉さん。

 

 

 最終日の仕事…私の分も、どうかお願いします」

 

 

 みんなの思いに甘えて、バトンを託すことにした。

 

 

 

 

「ああ。任せろ」

 

 

 

 

side一花

 

 昼頃に、学校で四葉が倒れたと聞いて。

「倒れたって聞いたけど……元気そうで安心した」

 

 大急ぎでやってきた病院にて、私は四葉の様子に安堵していた。

「うん……ありがと」

 

 

「でも……人の頼みを聞きすぎて、自分を疎かにしちゃダメだよ?

 

 それで倒れられたら、罪悪感を与えちゃうからね」

「うん……」

 

 病人に説教なんてしたくはなかったが、こうでも釘を刺しておかないと、四葉はまた無茶なことをするだろう。

 

「それじゃあ、安静にしてなよ?」

 

 そうして、挨拶と共に部屋を出たところで。

 

 

 

「一花…」

「二乃、フータロー君」

 

 二乃とフータロー君が一緒にやってきていた。

 

 

 

「一花も来てたのね」

「今来たところだよ。

 

 電話したんだけど、いてもたってもいられなくて……」

 

 意外そうな顔をする二人に、ちょっとした抗議の念も込めながら皆んなの様子を聞くと、この後に三玖がくるようだが。

 

 

「五月ちゃんとソージ君と連絡がつかない?

 

 二人は何かしてるの?」

「加藤の話だと、奏二は5時頃には帰ったらしいが……既読すらつかねえんだ」

 

 フータロー君が、困惑顔でソージ君について話す隣では、二乃が思い悩む様な顔をしていた。

 

 

「………二乃?」

「……………兎に角、私たちは大丈夫だから、心配しないで」

 

 そんな強がりは逆に不安を掻き立てるんだけど……。

 

 そんな私の視線に気づいてか、目を逸らしていた二乃は思いついた様に。

 

「ああ、そうだ!

 

 私、後片付けがまだなの忘れてたわ。

 

 

 学校に戻るから、フー君は一花を送ってあげなさい」

「え?お、おう……」

 

 

 そう言い残して、どこかへ行ってしまった。

 

 

 取り残される私とフータロー君に、どこか気まずい空気が流れる。

 

 

 フータロー君の返答に、思わずビンタをしてしまったのが昨日の話なのだ。

 

「じゃ、じゃあ……今日は家に帰るよ」

「あー……明日の仕事は大丈夫か?」

「うん……明日はオフなんだよ」

 

 

 会話も、どこかぎこちなくなってしまった。

 

 二乃のことが気になりすぎるけど、まずはこの空気をなんとかしないと……

 

 

「フータロー君」

「一花」

 

 なんでまた変なタイミングで重なっちゃうんだろうか。

 

 

 これじゃあ……いや、もういいや。

 

 

 なんだか可笑しくなってしまった私は、軽く息を整え。

 

「ねえ……今日の仕事はもう終わった?」

「終わったが……それがどうした?」

「じゃあさ……。

 

 

 

 

 

 少し、あるこうよ」

 

 

 フータロー君を、夜道の散歩に誘い出した。

 

 

 

 

 数十分後。

 

「わっ、意外と広いんだね……」

「花火大会の時は、あんなに狭く思えたのにな。

 

……まあ、人も屋台もないから当たり前か」

 

 適当にぶらついてた私達は、花火大会の会場だった場所にたどり着いた。

 

 ここら辺に来る時は、いつも人混みがすごいからか。

 

 こんなに静かなのが、違和感を感じさせてしまう。

 

 

 そして、こんなに静かだからか……路地裏でイチャつく声が、やけによく聞こえてくるのだ。

 

 

「あ。誰かまた花火してるみたい」

 

 また、花火をして騒ぎ立てる声も。

 

「うちの生徒じゃねーか?

 

 どいつもこいつも浮かれやがって…」

 

 ため息混じりに話すフータロー君だが、私としては騒ぎたい気持ちもわかる様な気がする。

 

「でも、そうなるのも納得だよ?

 

 学園祭の真っ最中……カップル成立もこの三日間が多いみたい。

 

 その中でも三日目の後夜祭と来たらもう……なんだってさ。

 

 君もそれを知っててあんなこと言ってたんじゃないの?」

「ふっ……。

 

 俺がそんな世間の風潮に流されるやつだと思うか?

 

……なんでそこで笑うんだよ」

「いや、その……」

 あくまで硬派ぶるその姿に、思わず待ったをかけた。

 

「だって、フータロー君意外と俗っぽい所あるのに、硬派ぶるのが可笑しくて………」

「ど、どこが⁉︎」

 

「1、高級車見たら、窓から覗き込む。

 

 

 2、久しぶりの旅行にテンション爆上がり。

 

 

 3、山頂でヤッホーって叫ぶ。

 

 

 4、女の子に借金。

 

……どう?」

「………ナンノコトデショウ」

 

 できるだけ丁寧に教えてみると、彼は気恥ずかしいのか。

 

 目を背け、そっぽを向いていた。

 

 

……でも、そんなところも惚れた弱みと言うのか。

 

 

「まあ、そこも可愛く思えちゃうんだけどね。

 

 

 そう言う素直な気持ち、大事にしなよ」

「……何が言いたい」

 

 少し恨めしげに聞いてくるが、私からしたら昨日の返答の仕返しだ。

 

 

「誰も選ばないなんて、言わないで」

 

 

 少し語気を強めると、彼は一瞬怯んだ様だがすぐに持ち直した。

 

 

「俺の気持ちなんて、俺自身もわかんねーよ」

 

 どこか逃げ道を探そうとしているフータロー君に、逃げ道なんて与えない。

 

 

「難しく考えすぎなんだよ。

 

 それか考えない様にしてるだけ」

「うぐっ……でもな……」

 

 逃げ道を選んだ君なんて、見たくないから。

 

「じゃあ……今から問題を出すよ。

 

 

 

 二乃に三玖………四葉にそれから五月ちゃん。

 

 

 

 君は誰と一緒なら嬉しいですか?」

「……!」

 

 

 その問いに、目を見開いて固まる彼に、私は答え方を指し示す。

 

 

「そこの自販機の飲み物。

 

 お金渡すから、好きなのを2本買ってきてよ。

 

 

 フータロー君が飲みたい奴、同じのを2本ね」

 

 

 400円を握らせ、自販機の前に立たせたら………

 

 

「は?いやどう言う………おい、どこに行くんだ?」

「私、仕事先から飛んできて疲れてるんだよね……そこのベンチで待ってるから」

 

 

 そう言って、近くの公園のベンチに座る前に。

 

 

 

 

 

「ちなみに紅茶が二乃。

 

 お茶が三玖で四葉はジュース。

 

 

 コーヒーが五月ちゃんだからねー?」

 

 

 選択肢を与えておくことにした。

 

「さて……見せてもらおうかな?フータロー君」

 こうすれば流石に………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 決めるだろうと思った時期が、私にもありました。

「信じらんない。なんで10分もかけてまだ悩んでるの……?」

 

 

 まさか、後制限時間が一日もないのにまだ決めあぐねていたとは。

 

 

「うーん、締まらないなぁ………」

 

 まあ、答えを急かしたからああなってるんだから、原因は私にあるのはわかっているけどね?

 

 

 そんな光景を見ていたら、なんだか眠くなってきて。

 

 

「ふぁーあ……」

 

 いつの間にか、ベンチで横になっていた。

 

 

 

 

 side風太郎

 

 好きなものを二本買ってくる。

 

 そして、選択肢として挙げられた飲み物の種類。

 

 つまり、誰が好きで……誰と一緒に飲みたいかを一花は答えさせようとしてきたのだろう。

 

 

 そして、俺の答えは決まっていた。

 

 

 だが………そいつ以外の姉妹達それぞれと過ごした思い出があって。

 

 それぞれの姉妹に好きなところがあって。

 

 

 そいつらも俺を好いてくれていたのに、応えられないのが苦しくて。

 

 

 だから俺は選ばないことを選ぼうとした。

 

 

 そうして俺は、その金ではなんの味もしない天然水を2本買って一花の元へ戻る。

 

 

 すると、一花はスヤスヤと眠ってしまっていた。

 

 

「待たせすぎた………」

 

 

 まるで、優柔不断への罰を受けている様な気分だ。

 

 

「だせえとこ見せちまったな………いや、お前とはいつもこんな感じか」

 

 ……いや、もしかしたら俺の考えを見透かしているのかもしれない。

 

 俺の考えに気づいて、それに向かい合わせようとしたのかもしれない。

 

 だとすれば……一花にとっては残酷な結論を突きつけられることになる。

 

 それをわかっていて……俺の背中を。

 

 妹の背中を押そうとしたのだろう。

 

 現に、コイツは自分自身を選択肢に入れてなかったしな。

 

 

 

 なら……俺がやる事は、選ばない事じゃない。

 

 

「ありがとな……一花。そして……」

 

 

 俺が、コイツのためにできる事はと、その先の言葉を紡ごうとした時。

 

 

 

「………」

「………は?」

 

 突然迫ってきた一花に、唇を奪われていた。

 

 

 

 

 side一花

 

 

 

「………おめでとう」

 

 どうやら答えにたどり着いたらしいフータロー君に、私は祝福を送った。

 

 

……いや、祝福なんて立派なものじゃない。

 

 

 悪あがきと呼んだほうが近いだろう。

 

 

「素直な気持ちを大事に」と言ったのは、自分が気持ちを伝えることの大義名分にしたかったのかもしれない。

 

 

……フータロー君が誰を選んだとしても関係なしに、私は君が好きで。

 

 

「………んじゃ、家に帰ろっか!」

「え?ちょ……一花⁉︎」

 

 

 歩き出した私を慌てて追いかけるその可愛げな姿に、私の答えはずっと出てきた。

 

 

 

「………この気持ち、まだまだ収まりそうにないや」

「おい!そんな簡単にキスすんのかよお前!」

「失礼だな君は。乙女のキスは安くないんだぞ?」

 




いかがでしたか?

 次回は、最終日に向けてのお話を書いていきますので、気長に待っていただけると幸いです。

それでは、お楽しみに!
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