五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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第50話です。

 今回まではちょい鬱ムードとなりますがご容赦ください。

 次回から巻き返します。


奏二の秘密

 唯、三ツ矢、四郎、竜伍の保護者を気取っているが、他四人からすれば一番危なっかしいと言う評価で一致している。


第50話 無知と無謀へ罰を

 

 途切れた意識が戻ってきた時。

 

 

 目を開けた私に飛び込んできたのは、瓦礫の山を背にした町谷の姿だった。

 

 

「………なんで」

「目ェ覚めたかよ……?」

 周りの状況も輪郭でしか分からないほどに、瓦礫に埋め尽くされている周囲の中、町谷が私を守ってくれたのだ。

 

 

 震える声で語りかけるその姿は、身体中を傷で塗れさせ、滴る血は私の頬に流れ落ちる。

 

 

 荒い息を吐きながらも、私と瓦礫の間に壁となっていた彼は。

 

 

「これが無堂のやり方だ。

 

 お前ごと俺を殺せば………その後の報酬を踏み倒せるし、お前が生き残っても……俺を殺した殺人犯として、真っ先に切り捨てる。

 

 

 アイツに……妹さんを助ける気なんてさらさらねえぜ」

 

 

 わかっていたかの様に吐き捨てる。

 

「あんなに親身になって話を聞いてくれていたのに……?」

「ベラベラ喋りすぎだ、馬鹿野郎が……」

 

 衝撃的な内容に、思わず耳につけていたイヤホンマイクで、外に待機してるであろうカウンセラーの人に呼びかけるが……。

 

 

「……出ない」

 

 帰ってくるのは、無機質な機械音だけだ。

 

 

「多分撃ったのは、お前が呼びかけてる奴だよ。

 

 

 お前が使えなくなったからって、俺もろとも殺そうとしたのさ」

 

「そんな……」

 

 

 話を聞くほどに、裏切られた悔しさと、沙奈への気持ちを弄ばれた事への怒りが湧いてくる。

 

 でも……

 

「なんで、私を助けたの……?

 

 アソコで普通に逃げていれば、あなたはそんな怪我をしないで済んだのに。

 

 しかも、私はあなたを殺そうとして……」

 

 

 大怪我を負ってまで私を助けた理由がわからず、問いただす。

 

 

 すると……やはりこの態勢を維持するのが難しいのか、顔を顰めながら。

 

 

「大事なものを失くした時。

 

 それを止めることができなかった時の苦しみも……取り残される痛みをそれを味わせたくなかった」

 

「………!」

「そして……一つでも命を奪ったら。

 

 

 お前はもう、後戻りできなくなっちまう……」

 どこか祈る様に、私にまっすぐと告げてきた。

 

 

 

 気遣いへの感謝をするべきなのか、そんな理由でこんな無茶をした事への糾弾をするべきなのか。

 

 

「ドブ臭え役を引っ被るのは……俺だけで……」

「ちょ、ちょっと……!」

 そんな私の葛藤を他所に、彼に力が入らなくなってきたのか、間にできていた空間が狭まろうとした時。

 

 

 

 

 

「奏二!大丈夫ですか⁉︎」

 

 瓦礫のドームの天井から光が差し込み、そこから天使のような声がした。

 

 

 

side奏二

 

 咄嗟に庇ったは良いものの、結果として俺の背中には多数の瓦礫が降り注ぎ。

 

 

 そのうちのいくつかが体に刺さり、切り裂いた事を、貧血に似た様な目眩や、灼けつくような痛みが教えてくる。

 

 

 そんな大怪我の功名か、里中はほとんど無傷だったが………踏ん張る俺の身体が限界を迎えはじめてるのか、背中にのしかかる瓦礫に押しつぶされそうになったその時。

 

 

 

「奏二!大丈夫ですか⁉︎」

 

 

 聞き慣れた声と共に、突如として俺にのしかかっていた重みがなくなった。

 

「……四郎?」

「……返事はできるな?」

「三ツ矢……唯まで」

 

 更には、突然の浮遊感と共に、別の聴き慣れた声も聞こえてくるときた。

 

 

「な、なんで……お前らがここに」

 

 助けてもらった事への感謝はあるが、それ以上になんでここにいるのかがわからず問いかけると、入口から足音がして。

 

 

「今日の貴様の様子は色々とおかしかったからな……後を追跡させてもらった。

 

 詰めが甘いぞ、奏二」

 

 黒服の男を抱えた竜伍が、いつも通りの仏頂面でやってきた。

 

「……ったく。言ってくれるぜ」

 

 大丈夫かの一言くらいくれても良いと思うが、遠のく意識が文句をつけるだけの威勢を、俺に与えてくれない。

 

 

「今救急隊が来る。

 

……せっかくだ、まだ死ぬなよ」

「へっ……心配すんなって。あいにくこれくらいじゃ死ねなそうだ……」

 珍しく心配してくる唯に、どこか恥ずかしいものを感じながら返事をする。

 

 あれだけ色々用意したのに、結果としてはこのザマなのだ。

 

 いっその事、あの場で死んでた方がまだ格好がついたかも知れない。

 

「……まさか、本当に」

 

 

 だが、里中の男を見る目をみるに、どうやら無堂の刺客なのは間違いない。

 

 竜伍が拘束しているなら、じきに警察に引き渡されるだろうし……里中を人殺しにも、死人にもしなくて済んだ。

 

 

 それなら……まあ、この展開でも悪くはねえのかもな。

「……じゃ、おやすみ……」

 

 ひとまずの達成感を感じながら、俺は救急車のサイレンが聞こえてくる中で意識を失っていった……。

 

 

 

side風太郎

 

「それ…本当なの?」

「ああ。奏二がその場面を目撃しているらしい」

 

 

 一花と公園で恋バナをした後。

 

 二乃の言いつけ通り、家に送るまでの道で、俺は一花にあの話を打ち明けていた。

 

 

 

「お前らの元父親が、五月に接触した」

 

 学園祭の一日目で、学食に案内したおっさんがコイツらの本当の父親で。

 

 

 ソイツが五月に何らかの働きかけをしたことを。

 

 

「でも…嘘……なんで……?」

「それはわかんねえが……親父も言ってたが、奏二がなにかしでかす気だ」

 

 

 

 目を見開く一花の質問に、連絡がつかない五月と、それ以上に不穏なことをつぶやいていた奏二が頭にちらついてくる。

 

 

 

「最近の五月の様子はどうだ? 何か変わりはなかったか……?」

 

 一応、今日は一度も姿を見ていない五月の様子を聞くと、一花は表情を曇らせ。

 

 

「私も、昨日から会ってないからわからない…。

 

 

 四葉が倒れたときに連絡したんだよね?」

 

 

「ああ。

 

 それでもあいつからの反応は、俺のところにも二乃のところにもなかった」

 

 

 スマホを改めて確認するが、やはり五月と奏二からの反応はない。

 

 

「そう……フータロー君、ちょっと急いで家に帰ろう。

 

 もしかしたら、五月ちゃんに直接話が聞けるかもしれないよ」

 

「ああ、急ぐか」

 

 

 そうしてマンションに走る俺の中には、いやな予感が渦を巻いていた。

 

 

 

 

 

 

side五月

「お母さんの後を追ってるだけ」

 

 

「ゆがんだ愛執は、五月ちゃん自身を破滅に導く」

 

 

「君の思いに君自身が追い付いていない」

 

「母親と同じ、間違った道に歩を進めようとしている」

 

 

 自分をお父さんと名乗った無堂先生に投げかけられた言葉を、頭の中から追い出そうと、問題集に取り掛かったが。

 

 

「どうして……どうして私は…」

 

 

 

 進まない問題集は、無堂先生の言葉をより鮮明に突きつけてくる様だった。

 

 

「お母さん……」

 

 お母さんの選んだ道が、間違っていたなんて思いたくない。

 

 

 思いたくないのに………それを否定することが出来ない。

 

  

 そうなるとつまり………

 

 

 本当にお母さんの選んだ道は間違っていて。

 

 

 私がしている事………その道を目指して進む事は、過ちの繰り返しに過ぎないのか?

 

 

 

 そうなると、今やっている行為は、意味のないものだというのか?

 

 

 

 

 

 

 そんな事、考えたくない。

 

 

 

 お母さんが間違ってたなんて。

 

 

 

「思いたくないよ…!」

 

 

 

 そんな結論を見出したくないのに、無堂先生の言葉と、お母さんの言葉が反響して、私に刻み込まれていく杭の様だ。

 

 

 

 軋む様な胸の痛みと、お母さんとの思い出が紛い物の様に霞んでいくような感覚への苦悶は、問題集のインクを滲ませていく。

 

 

「うぐっ……うぇっ………」

 

 

 悲しくて、悔しくて……惨めで、やるせなくて。

 

 

 それでも、否定もできない情けない自分に、泣く資格なんてないのに……!

 

 

 

 失意の中に沈んでいくような思いは、救いを求める様にいつもそばにいてくれた彼を思い出す。

 

 

 お母さんがいなくなった時……四葉のことで、色々とやりきれなくなった時。

 

 

 そんな時、彼は手を差し伸べてくれた。

 

 

 私を許してくれた。

 

 

 私を……助けて、救って、守ってくれた。

 

 

 

 そんな彼に、会いたくて……せめて、声を聞きたくて。

 

 

 町谷君の番号を、スマホに入力しようとした時。

 

 

 

 

 

 

「五月ちゃん、大変‼︎

 

 

 

 ソージ君が大怪我をして、お父さんの病院に救急搬送されたって!」

 

「………え?」

 

 

 

 一花の声に、私の時が止まった。

 

 

 

 

side風太郎

 

 

 

 

「三玖、四葉!」

 

 

 一花と五月の2人と共に、急いで病院に駆け込んだ俺は、三玖と四葉に声をかける。

 

 

「あ、上杉さんこっちです!」

「一花と五月も来たね」

 

 ホッとした様子の四葉と、深刻そうな顔の三玖に出迎えられた俺達が、病室に入ると。

 

 

 

 

「ソージ君…!」

「………ッ」

 身体中の至る所に包帯やガーゼをつけ、眠る奏二の姿があった。

 

 

 心のどこかで、冗談だと笑う姿を想像していたが……現実は非情だ。

 

 口元を抑える一花や、呆然としている五月と共に言葉を出せずにいると、三玖が心配そうな顔をして。

 

「命に別状はないそうだけど……しばらくは目を覚まさないって、お父さんが」

「………それならよかった。でも、ボロボロじゃねえか」

 

 よくはないんだろうか、とりあえず助かりはしたことに安堵する。

 

 

 だが………それと同時に、止められなかったことを呪った。

 

  

 親父から無堂のやった事は聞いてるし、力を貸してやることが……いや、せめてこうなることを止められたかもしれないのに。

 

 

「……馬鹿野郎が」

「……フータロー?」

 

 三玖の怪訝な顔に、口に出た言葉をどう誤魔化そうかと急いで頭を巡らせていた時。

 

 

「二乃ももうすぐしたら来るそうです。

 

 そして、みんなに話したいことがあるとも」

 

 

 どうやら、二乃も何かを知っている様子だ。

 

 

 謎が謎を呼び、何が明らかになるのか少し怖くなっていると。

 

 

「……では、役者が集まるまで俺たちも待つとしよう」

 

 

 昨日、奏二といた4人がゾロゾロと入ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side二乃

 

 

 

 町谷がお父さんの病院に運ばれたと聞いて、学校での用事もそこそこにやってきた私は。

 

 

 

「お見舞いに来たつもりなのに、なんで会議室に連れてこられたのよ」

 

 

 なぜか病室ではなく会議室に案内されていた。

 

 

「病室で話すような内容じゃないし、人数が多すぎるって……」

 

 

 誰の言葉かは知らないが、確かに病室で話して、他の誰かに聞かれたくない。

 

 それに、6人も一病室にいたら確かに窮屈だろう。

 

 気遣いに感謝しつつ扉を開くと。

 

 

 

「……来たな」

 

 そこには、いつもの顔ぶれの他に、昨日の火事の時に町谷と一緒にいた男たちが待ち構えていた。

 

 

 

………誰?

 

「な、何よあんた達……」

 

 

 

 赤の他人に、今からの話を聞いてほしくないのもあって警戒を向けると、四葉が割って入って。

 

「二乃、落ち着いて……この人たちが、救急車を呼んでくれたんだから!」

「え……?」

「それに、応急手当もしてくれていたってお父さんが言ってたよ」

 

 

 三玖の付け足しに、この四人の火事の時の動きを思い出す。

 

………それなら、少なくとも聞かせちゃいけないわけではなさそうだ。

 

 

 とは言え、困惑は隠せないでいた私の心情を察してか、ブロンドの髪をした一人がどこか気品を漂わせ。

「ありがとうございます四葉さん……しかし、貴方にはまだ名乗っていませんでしたね。

 

 僕は愛鬨 四郎です。以後、お見知り置きを」

 

 

 恭しく頭を下げてきた。

 

「……中野二乃よ。よろしく」

 

 流石に、こうも礼儀正しくされてはこちらもしっかり答えざるを得ない。

 

 

 気後れというか、変な感じがしながらも後の3人に目を向けると。

 

 

「緋色 唯だ」

「………鳥羽 三ツ矢」

「俺は張 竜吾だ……中野二乃」

 

 

 後の3人はものの見事に無愛想というか、なんか偉そうと言うか………まあ、今だけの関係だろうし別に構わないけど……。

 

 

「そ、そう……よろしく」

「二乃…頬が引き攣ってるよ」

 

 一花が苦笑いするまでもなく、私の表情はきっと固まっているのがなんとなく分かった。

 

 

 

 と、ここで。

「自己紹介はその辺にして……話ってなんだ?」

 

 

 フー君がこの空気を変えるようなアシストをしてくれたので、それぞれ会議室に設けられた椅子に座り。

 

 

 

「コホン………じゃあ、単刀直入に言うわね。

 

 

 今、私たちの生みの父親が学校にやってきて。

 

 

………五月に接触して来てるわ」

 

 

 そんな導入と共に五月を見ると、どうしてと言う顔を向けてきた。

 

 

 

side五月

 

 二乃の言い放った言葉に、私は唖然としていた。

 

 

 どうして、私が無堂先生にあった事を知っているのか?

 

 この事は、まだ誰にも話してない。

 

 

 みんなを呼ぼうとしていたけど、結局阻止されて、色々言われて。

 

 頭の中にいろんなことがいっぱいになって、耐えられなくなって…。

 

 

 結局話せなかったのに、なんで二乃がそれを既に知っている?

 

 

 どう言うことだと視線を送ると、二乃はため息混じりに。

 

 

「町谷に聞いたのよ……アイツと言いアンタと言い、なんか様子がおかしかったからね」

 

 

 放った言葉に、町谷君がこの事を知っていたことに驚こうとしたが……そう言えば、私を呼ぶ声が聞こえた気がする。

 

 

 あれは、そう言う事だったのかと納得していると。

 

 

「……奏二はずっと前から、無堂を追っている。

 

 

 奴の師……町谷奏一が生きていた頃からな。

 

 

 そしてその死後も、俺達と共に追い続けていた」

 

 

 緋色さんが、町谷君のお義父さんの名前も出してきた。

「それって、お母さんと……」

「ええ。貴方のお母さんと、奏一さんは高校時代の生徒と教師……貴方達の今のお父さんと同じなんですよ」

 

 

 他のみんなは驚きと困惑を顔に浮かべるが、私は下田さんや村山さんから聞いている。

 

……でも、町谷君はそんな前から無堂先生を追っていたことは初耳だった。

 

 

 罪悪感みたいなものを感じていると、上杉君が解せない表情で。

「……でも、なんで五月なんだ?思ったんだが、姉妹なら誰でも良いんじゃねーのか」

 

 

 その問いに、確かに無堂先生はみんなを呼ぶのを止めようとしてたのを思い出した。

 

 間違いなく他のみんなにも聞かせた方がいい話なのに……なぜか、私だけに聞かせようとしてきたのだ。

 

 

 

 「後ろめたいことがあって、みんなの前で話せなかった……とか?

 

 でも、父親としての勤めを果たすのなら、どの道みんなと会わなければいけないから、結局意味がないんじゃ……」

 

 

 その矛盾を孕んだ行動が、どこか卑怯さを感じる。

 

 そして、そんな人の言葉に揺らいでしまっている自分が、なんとも情けなく思えて……

 

 

「……五月、大丈夫?」

「ええ、なんとか……」

 

 

 心配そうな顔の四葉に、なんとか気丈に振る舞おうとしたが。

 

 

「……残念だが、そんな綺麗なものじゃない」

 

 

 三ツ矢さんのため息混じりの否定に、振る舞いを考えるのを止められ。

 

 

 

「無堂からすれば、お前の夢は邪魔でしかないからだ」

 

 緋色さんのきっぱりとした言葉に、突然殴られた様な衝撃を受けた。

 

 

 

side風太郎

 

 

「……⁉︎」

 

 緋色の言葉に、鋭く息を呑む音がした。

 

「………え?」

 

 五月の瞳が焦点を見失い……他の姉妹達の顔が凍りつく。

 

 

「簡単な話だ。

 

 無堂は、お前達5人を身籠った中野零奈を捨て、姿を消した。

 

 

その娘のうちの一人……しかも、もっともその面影を持つ奴が教師となれば……どうなると思う?」

 

 

 親父や奏二から、あのおっさん……無堂がやらかしてきたことは大体聞かされていた為、答えはすぐに出た。

 

 

「コイツらの母親との一件が明るみに出る……かもしれなくなる」

「……そう言うことだ」

 

 俺の予想に、緋色は静かに頷き。

 

「そうなれば、無堂にとって自分の地位が危うくなりかねない。

 

 だから、その道にゆくのを阻止しようとした」

 

 

 張が、吐き捨てるように締め括ったが、そのやり方のクソっぷりを考えればそんな言い草になるのも無理はないと思える。

 

 

 凍りついた様な空気の中、二乃が裏切られた様な顔で。

 

「………なんでそこまで言ってくれなかったのよ。町谷」

 

 悔しそうに涙ぐむが、緋色は一切顔色を変えず。

 

 

「認識が足りないな。

 

 

 言ったところでお前にできた事はない」

 

「………でも!」

 

 無慈悲な断言を下し、食い下がるのにも構わず。

 

 

「むしろ、余計な事をしてチャンスを逃される事を防いだんだろう」

「………」

 

 

 歯に衣着せぬ物言いだが、奏二の性格を考えるとあながち間違っていない。

 

 

 

 きっと、俺達には最低限の情報しか与えず、関わらせなかったのは、取り押さえるチャンスを不意にしたくないのもあるだろうが………俺達を危険に晒したくなかったんだと思う。

 

 

 それでも……二乃からすれば、妹に迫る危機を詳しく教えてくれなかった奏二に腹が立つのも無理がない話だ。

 

 

「だが、それで自分がこんなボロボロになって……結果的にこんな形で知られちまったんじゃ、意味ねえだろ」

「そこに関しては同感だな」

「僕らが駆けつけた時も、そんなまさかと言わんばかりでしたからね……」

 

 俺の吐露に三ツ矢は嘆息しながら同意し、愛鬨は苦笑する。

 

 

 どうやら、この怪我の元になった件に関してはコイツらにも言ってなかったようだ。

 

 

 で、次はその怪我がどう言う経緯からのものかを聞こうとした時。

 

 

「……あれ?五月ちゃんは?」

 

 

 

 話を呑み込んで、少し顔が青くなった様な一花の声が響いた。

 

 

 

 

side五月

 

 

「………」

 

 居た堪れなくなって、会議室から出た私は、町谷君が眠る病室にいた。

 

「………私が」

 

 私が、分不相応な夢を抱いたから。

 

 

 みんなに打ち明ける勇気がなかったから。

 

 

 

「町谷君を、こんな目にあわせた……!」

 

 

 

 布団を捲ると、顕になった部分にも、顔や腕と同様に包帯が巻かれていた。

 

 更には、目の周りには隈ができていて……その罪深さを改めて突きつけられる。

 

 

 

 私が迷っている間にも、助けようとしてくれていて。

 

 

 私の事を、信じてくれていたんだろうに……!

 

 

 彼に無意味な葛藤を強いて。

 

 

 信頼に応えることができず。

 

 

 その優しさからの無謀を止められなかった。

 

 彼ほどの行動力があれば、こんな無茶をするのは予想できたはずなのに……!

「こんな、私なんかの為に………私のせいで」

 

 そこまでのことをしておきながら、私はまだ……お母さんへの諦めをつけることも、決意を固めることもできない。

 

 

「ごめんなさい………ごめんなさい……!」

 

 

 謝って済む問題じゃない。

 

 

 でも……謝らないではいられない。

 

 

 こんな私に、彼から好意を向けられる資格なんてない。

 

 

………とすら考え出した時。

 

 

 

「………私宛て?」

 

 

 机の上に、私宛てと書かれた封筒が置いてあった。

 

 




いかがでしたか?


 次回からは今までの暗いムードを巻き返していこうと思いますので、楽しみにしていてください。

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