五等分の花嫁 家庭教師の二重奏   作:暇人の鑑

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今回で無堂と一応の決着がつきます。


最後まで読んでいただけると幸いです。


第53話 友として、子として、親として

「本当に大丈夫なの?息荒いけど……」

「心配すんなって。伊達に鍛えてるわけじゃないんだぜ…」

 

 今の俺には、行かなきゃ行けない舞台があり。

 

 

 見届けなければいけない戦いがある。

 

 

 そんな訳で、俺は里中に支えられながら、見張りの警官が運転する車に乗っていた。

 

 

 本来なら、俺との面会が終わった後、里中を警察署に送り返す予定だったらしい。

 

 だが、俺が被害届を出さないことを公言したことや、俺も里中も無堂の被害者である事などを配慮してくれたのか。

 

 

 既に張り込んでいる警官達に紛れると言う形で、旭高校へ連れて行ってくれていた。

 

 

 流石に昨日の今日なだけはあり、動くたびに身体中が痛む。

 

 傷口が開かないか心配だが……ここまできたら引き下がれない。

 

 

 いや、自分から逃げ場を無くしてるようなもんか。

「ほんと、こんな時に突っ込むバカはいないぜ……」

 

 

 そんなこんなで自嘲気味にため息をつき、痛みに呑まれないように改めて気を張ることにした。

 

 

 

 

side五月

 

「やあ、まさか五月ちゃんの方から来てくれるとはね」

 

「私」の登場に、無堂先生は上機嫌な様子だった。

 

 

「僕の言葉に、耳を傾けてくれるようになった……と言うことで良いかな?」

 

 

 それはそうだろう。

 

 あの人からすれば、自分の邪魔をする町谷君を葬り去ることができて、私を丸め込むまで後一歩なのだから。

 

 

 

 今も目を覚まさない彼を思うと、目の前の男への怒りが込み上げてくるが……ここで変な事をして、「私」……三玖を危険に晒してはいけない。

 

「五月ちゃん、ここは堪えて……」

「分かってます…」

 

 

 後ろにいる一花達と共に、息を潜めている間にも、目の前の2人の会話は続く。

 

 

「ええ……聞かせてください。

 

 学校の先生になりたいと言う夢が間違っているのだとしたら、私はどうしたら良いのですか?」

 

 三玖のいかにもな聞き方に、悦に浸ったような口調で。

 

 

「五月ちゃんが、五月ちゃんらしくあってほしい……その手助けがしたいんだよ。

 

 君は今もお母さんの幻影に取り憑かれている……それは、そぐわぬ先生を目指しているからに他ならない。

 

 学校の先生以外なら、何でも良いんだよ。

 

 お母さんと同じ……間違った道を歩まないでくれ」

 

 

 詠うように、お母さんを間違いだと言った。

 

 

「………なぜ、急に私の前に現れたのですか?」

 

 

 その言葉に苛立ったのか、「私」の問いに少しばかり圧が強まる。

 

 

 だが、そんな圧など気にも留めないのか。

 

 

「離れていた時も、ずっと気にしていたのさ……罪の意識に苦しみながらね」

 

 言葉の割にはスラスラとした口調で、罪の意識と宣う。

 

「それがどうだい。

 

 

 まさか、こうして父親らしい事をしてやれる日が来るとはね……

 

 

 この血が引き合わせてくれたんだ。

 

 

 愛する娘への、挽回のチャンスを………」

 

 

 そんな、白々しくも父親を語る無堂先生だが。

 

 

 

「ガハハハ、父親だって?

 

 

………笑わせんな!」

 

 聞き馴染みのない声が、それを断ち切った。

 

 

 

「あれ、フー君の…!」

 

 二乃が驚いた声を上げるように、その声の方にいるのは…。

 

 

「き、君たちは!」

「うーっす、先生ご無沙汰」

 

 上杉君のお父様と、下田さんだ。

 

 確かに、お二人はお母さんの生徒であり……無堂先生とはある程度の因縁みたいなものはあるんだろう。

 

 特別講習で、町谷君と同じような表情をしていた理由を、今になって悟るが、下田さんは後ろを振り向いて。

 

 

「つっても、用があるのはうちらじゃないんだけどな」

「………え?」

 

 

 

 その先にいたのは。

 

 

 

「お久しぶりです、無堂先生……お元気そうで」

 

 

「私達」にとっての「お父さん」だった。

 

 

 

 

 

sideマルオ

 

「お二人に加えてお父さんまで……何でここに……?」

「俺らが連れてきたんだ」

 

 五月の真似をした三玖の、困惑しながらの問いに上杉が答える。

 

 

……実際に頼んだのは僕の方だが。

 

 せっかくの同窓会なら、参加者は多い方がいいだろう。

 

 

 まあ、それはさておき無堂先生に視線を向けると、申し訳なさそうな顔を作って。

 

「……君にも謝るきっかけができてよかった。

 

 中野君には苦労をかけたからね。

 

 思い返せば、君は人一倍……零奈を慕ってた覚えがある。

 

 

 すまなかった」

 

 頭を下げてきたが……僕は大根芝居を見に、ここに来たわけではない。

 

……ましてや、零奈さんを疫病神のように扱うような男の謝罪なんて。

 

 

「いえ、あなたには感謝してます」

 しかし、芝居を見せてくれたことには礼を述べるべきだろう。

 

 

「あなたの無責任な行いが、僕と娘達を引き合わせてくれた」

 

 こちらも、感謝を述べるきっかけを作ってもらったのだから。

 

 

 すると、しばらくの沈黙の後、どこか憐れむような目を浮かべ。

「それはどうだろうね?

 

 責任に関しては、君も果たせてないように見える」

 

 

 高らかに、「五月」を指し示し。

 

 

「だから五月ちゃん自らここに来た。

 

 頼りない君ではなく、僕のところにね」

 

 

……これは一体何の茶番なのかはわからないが、乗っておくのも一興か?

 

 

「五月君が……ここに……?」

「ああ、心中察するよ。

 

 君は親失格の烙印を押されたようなものだ。

 

 

 よければ教えてあげようか?

 

 

 本当の父親の在り方を……」

 

 どうやら、茶番ではないようだが……熱が入りすぎてるようだ。

 

 

「何を言ってるのですか」

 

 

「よく見てください。

 

 ここに五月君はいない」

 

 

 ここにいるのは五月ではなく三玖。

……父親の在り方を語ろうとするその口が、自分の娘の顔もわからなくなっているようだし。

 

 

 

side奏二

 

「……へっ、笑わせてくれるぜ」

「私もスカッとしたかも」

 物陰に潜んだ俺が、茶番劇に賞賛を送っている間にも、御指名に預かった五月は柱から出てきて。

「……私はこちらです」

 

 ため息混じりに、無堂に告げた。

 

 

「……何のつもりだい?」

 

 騙されたことに腹を立てたのか。

 

 トーンを下げた声で問いただすが、五月は怯むことなく。

 

 

「騙してしまい、すみません。

 

 ですが……こうなることはわかってました」

 

「それがどうした?たかが間違えていただけの事……」

 開き直りに転じる無堂に対して。

 

「"愛があれば、わたしたちを見分けられる"

 

 

 私たちの母の言葉です」

 

 零奈さんの言葉を告げる。

 

 

 その言葉に、無堂の顔から建前が消える。

 

 

 そして……うんざりだと言わんばかりに本性が曝け出された。

 

 

「また彼女の話か………良い加減にしろ‼︎

 

 

 そんな良い加減な妄言を、いつまで未練がましく信じているんだ‼︎」

 

 

……それは、向き合うべき過去から逃避し続けた、男の全てが詰まっている。

 

「今すぐ忘れなさい!

 

 お母さんだってそう言うはずだよ。

 

 

 思い出してごらん、お母さんがなんて言ってたかを!」

 

 

 そして……その過去を使って、五月の未来を決めさせようとする。

 

 

「お母さんが、後悔を口にしていたことは覚えています」

 

「そうだ、君のお母さんは間違っていたんだ!

 

 二の舞を踏むんじゃない!」

 

 

 

……だが、今の五月には届かない。

「……ですが、私はそうは思いません」

 

 

 

 

 

side五月

 

 

「きみがどう思おうが関係ない!

 

 零奈自身がそう言ってたのなら……」

 

「ええ、関係ありません」

 

 確かに嘘だと思っても、お母さんがそう言った事実は変わらない。

 

 

 

「たとえ本当にお母さんが自分の人生を否定しても、私はそれを否定します」

 

 でも……お母さんがどう思ってそれを言ったとしても。

 

 

「いいですよね?

 

 私はお母さんじゃないのですから」

 お母さんじゃない私がそれを否定したって、何の問題もない!

 

 

 だって……私の脳裏に、より深く刻まれているのは。

 

 

「ちゃんと見て来ましたから!

 

 全てを投げうって、尽くしてくれた母の姿を!

 

 

 あんなに優しい人の人生が、間違ってたはずがありません‼︎」

 

 

 いつも優しくて、凛々しくて……大好きだったお母さんなのだから。

 

 

 

「五月……」

 

「うん、きっとそうだよ……」

 

 後ろから聞こえるみんなの声に、しっかりやり切れたことを噛み締めていると、憎々しげに。

 

「子供が……知ったような口を」

 

 何かを言い出す前に、お父さんが。

 

 

「あなたこそ、知ったような口ぶりで話すのですね」

 

 私たちの前に立ち塞がるように、無堂先生に歩み寄った。

 

 

 

sideマルオ

 

 

「……どう言う事だ、中野君」

 

 五月の話はどうやら終わったようなので……今度は僕の番だ。

 

 

 

「恩師に憧れ……同じ教師となった彼女の想いは、あなたに手ひどく裏切られた。

 

 そして、見捨てられ……傷ついていたのは事実」

 

 同じ志を持っていた、ある探偵の友として。

 

「しかし、そこで逃げ出したあなたが知っているのもそこまでだ」

 

 

 あの人の生徒として。

 

 

「………その後の彼女が、子供達にどれだけの希望を見出したのかを、貴方は知らない」

 

 

 この5人の娘達の父親として。

 

 

「断じて……あなたに彼女を語る資格はない」

 

 

 この男にこそ、父親失格の烙印を刻まなければならなかったのだ。

 

 

「お父さん……」

 

 形式的なものだけじゃない……彼女たちにとっての「父親」になる為にも。

 

 

 僕は、今は亡き人へ思いを馳せる。

……零奈さん。

 

 やっと、彼女達のお父さんになれたようです。

 

 

 

 そして、父親としてやるべき事は……。

 

 

 子供のわがままを聞く事。

 

 

 子供を叱る事。

 

 

 そして子供の成長を見守り、背中を押す事だ。

 

 

「五月君。

 

 

 僕もまだ、何かを言える資格を持ち合わせてはいないが……」

 

 

 例え、その資格がないとしても……

 

「君が君の信じた方へ進む事を望む。

 

 

……きっと、お母さんも同じ思いだろう」

 

 

 思いと言葉があるなら、やらない理由はない。

 

 

「………はい!」

 

 零奈さんが育てた彼女達なら……きっとわかってくれる。

 

 

 何かに打ち震えるような五月を前に、僕の心も、先ほどより少しだけ晴れていくような気がした。

 

 

 奏一……見ててくれたかい?

 

 

 side五月

 

 抑えきれない感情が視界を曇らせていくが、私は目の前の人に伝えなければならないことがある。

 

 

 この人は結局………自分の罪から目を逸らしたいだけだ。

 

 

「無堂先生……結局、最後までお母さんへの謝罪の言葉はありませんでしたね」

 私達の信頼を免罪符に、お母さんを過去の亡霊として葬りたいだけなんだ。

 

 

「……私は貴方を許さない!」

 そんな事絶対にさせない。

 

「私達は、貴方の罪滅ぼしの駒にはなりません!」

 

 そもそも……教育者としても、1人の人間としても、こんな人を許して良い訳がない。

 

 

「あなたが、お母さんや……被害者の方々から解放される日は永遠に来ないでしょう」

 

 だから……今ここでこの人に「さよなら」を叩きつけなければならない。

 

 

 

「僕が、せっかく……!」

「見苦しいぜ、おっさん!」

 

 

 まだ何か言おうとする無堂先生を、上杉君のお父様が遮るが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生意気言いおってええええええええ‼︎」

 

 突然そう叫んだと共に、私に迫って来た。

 

 

「五月ちゃん⁉︎」

「逃げて!」

「野郎!」

 

 

「ヒッ……⁉︎」

 みんながどよめく間にも、その巨体は真っ直ぐこちらに詰め寄って来て来る。

 

 だが……突然のことで固まってしまい、私は動けない。

 

 

 そのまま、私に向かって手を伸ばしたその時だった。

 

 

「伏せて‼︎」

 聞き覚えのない声と共に、銃声が響く。

 

 

 

 

「ぐうっ⁉︎」

 

 その一撃で手を弾かれ、無堂先生が動きを止める。

 

 

 

 訳がわからず、その弾が飛んできたであろう方向を見ると。

 

 

 

 今度は、誰かが私の前に割って入ってきて。

 

 

 

 

 

 

「………うりゃあッ‼︎」

 

 

 気合いの叫びと共に、彼の顔面に渾身の右ストレートを叩き込んでいた。

 

 

 

 吹っ飛ばされた無堂先生はうずくまり。

 

 反対に私は目の前に立つ背中に、先ほど以上に込み上げるものを覚えた。

 

 

 

 

 その声は……聞き馴染みがあって。

 

 

 

 

 どこか懐かしくもあって。

 

 

 

 

 私が、ずっと聞きたかった声だし、見たかった姿だ。

 

 

 つまり。

 

 

「………無事か?五月」

 

 その人こそは……今、こちらに振り向いた町谷奏二だった。

 

 

side奏二

 

 

 現在絶賛怪我人中な俺にとって、この拳はまさに諸刃の剣だが……間に合ってよかった。

 

 

 ここまできて守れませんでしたなんて、悔やんでも悔やみきれない。

 

 

 背中に感じる視線にとりあえずの安堵が湧く。

 

……だが、まだそれに浸るのは早い。

 

 

「………き、君は………⁉︎」

 

「………お前を道連れにしないまま、棺桶行きはしねえぜ」

 

 この因縁に終止符を打つまでは……。

 

 

 

 血走った目でこちらを見る無堂に、努めて明るく笑いかけてやると、その顔は、さっと青くなった。

 

 

 そりゃそうだ。

 

 コイツにとって俺は死んだ存在……こうしてここにいるなんて、夢にも思うまい。

 

 いわば……

「死神と亡霊の参上って奴だ」

 

 

 

 

 無堂は俺の言葉に、まさかと言わんばかりにある方向を見るが。

 

 

 

「………ふぅ」

 

 そこには、銃をおろして息をつく里中の姿があり、今度こそ無堂は理解した。

 

 

「ま、まさか……!」

「そうだ……そっちが聞いたのは、俺のダチが送った偽情報だった。

 

 

 てめえは……子供の妄言に負けたんだ」

 

 

 さっき散々五月に言っていた「妄言」に、まんまと踊らされていたのだ。

 

 

 

「そして今……あんたは傷害未遂の現行犯にもなった。

 

 

 今まであんたがして来たような、もみ消しはもうできない」

 

 

 

 その言葉に、私服の警官たちが無堂に群がり。

 

「………こんな、こんな所でええええ‼︎」

 

「ちょうど良いんじゃねえの?

 

あんたには反省すべきことが山ほどあって……今からあんたがいく場所は、反省をするための場所さ」

 

 

 項垂れる無堂を拘束して、俺たちの前から姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その姿を見送った後、押し込めていた喜びなのか、疲労なのかはわからないが……めまいみたいな感覚に見舞われつつも、成し遂げたという事実を噛み締める。

 

 

 これで、やっと無堂の野望を止めることに成功した。

 

 

 ついに俺は………守れたんだ。

 

 

 

「奏一さん……これで、少しは恩返しできたかな」

 

 俺と同じくらいに、この瞬間を待っていたであろう人に思いを馳せ。

 

 今までの張り詰めた息を吐き出すと、俺の身体は無茶をした反動を、痛みという形で突きつけてくる。

 

 どうやら、先ほど感じたものは喜びと疲労のダブルパンチみてえだな。

 

 

「任務……完了……………」

 抗う力が残ってない身体は、マッチ棒の様に膝から崩れ落ち。

 

 意識は再び眠りに………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「町谷君‼︎」

 

 落ちてゆく中で、暖かい何かが俺の体を抱き止めたような気がした。

 

 

 

 

side五月

 

 絶望のどん底に突き落とされた時、私は君に救われた。

 

 

 

 初めて会った時も……今回も。

 

 

 でも……ようやく。

 

 

 

 ようやく、私も君に手を差し伸べることができた。

 

 

 抱き止めた彼は、何かを感じたのか体を深く預けてくる。

 

 

「町谷君……」

 その重みや温もりは、間違いなく生きている事を教えてくれて。

 

 

 何よりその顔は、今までで一番安らかなものだった。

 

 

 

「……やっと、終わったんだね」

 

 

 

 

 そんな彼を抱きながら、私はこの先の未来に願った。

 

 

 どうか、私たちの約束が果たされる時が来る事を………。

 

 




いかがでしたか?

 今回、無堂と五月の対峙の時に奏二のことを出そうか迷ったのですが、そこで出しちゃうと、あくまであの一家の問題として対峙してると言う状況に矛盾しちゃうなと思い、今回は零奈さん関連の因縁は、原作通りに五月とマルオで決着をつけさせていただきました。
 

 次回からは奏二関連のイベントを少しやった後、ついにこの作品における最大のイベントである、風太郎のルート選択イベントになります。

 クライマックスに向けて頑張って執筆していきますので、応援のほどよろしくお願いします。

あと、前々から予告をしていた、なんでもありのスピンオフ的なもので、やってほしいネタがありましたら是非感想にて。
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