今回は五等分の花嫁らしくない描写でありつつ、若干オカルトじみた物となっていますが、これなくして奏二のその後は書けないなと思い、入れさせていただきました。
あと、前回においてかなり最初に出したものから修正を加えています。
出したはいいけど、なんかコレジャナイ感が強かったので…。
それでは、第54話をお楽しみください。
そこは、先ほどまでいた場所とは正反対の静かな場所だった。
青い空に白い雲……そして、どこまでも広がる水平線。
「海……いや、川か」
どうやら、とてつもない大きさの川のようだが……もしかして。
「三途の河だったりしてな……」
あれだけの怪我の後にあれだけ派手に動いたんだ。
くたばっていてもおかしくはない。
おかしくはないが………俺の頭に浮かぶのは心残りなことばかりだ。
奏一さんや施設のみんなにする話のネタはまだ足りないだろうし………村山さんには面倒をかけっぱなしで。
そして何より……アイツとの約束を果たせずじまいだ。
「死にきれねえ死に方だぜ……」
自分で言ってて悲しくなるが……まあ、死神にはそれがお似合いか。
「…………んじゃ、地獄行きの船でも探すとするか」
クソッタレな気分のまま、船着場がないかと探し回ろうとした時。
「………安心しろ。それが来ることはねえよ」
ひどく懐かしい声が、後ろから聞こえる。
「……………奏一さん?」
思わず振り返ると……そこにいたのは、紛れもなく奏一さんだった。
「………大きくなったな、優一」
在りし日の記憶のまま、嬉しそうに笑う奏一さんを前に、俺は呆気に取られる。
あの人の火葬には立ち会ったし、遺骨も拾ったから、肉体があるはずがなくて。
そもそも、アニメや漫画じゃあるまいし……死んだ奴と話なんてできる訳がない。
でも……目の前にいる奏一さんは間違いなく、俺に話しかけてきていた。
「…………どうして」
意味がわからず、言葉が漏れる俺に苦笑する。
「……依頼の報酬を渡しに来た。
俺が果たすべきだったんだが………お前には苦労をかけたな」
「…………本当だよ。厄介な依頼持ち込んじゃってさ」
続いて出た言葉に、思わず皮肉を返してしまう。
いや、実際数年かけての解決だったこともあって、すごく厄介だったのは事実だが………例え、育ての親で師匠であったとしても、こう返さずにはいられなかった。
「………俺、結局何も出来てねえままだ」
それがわかってしまった今、俺の中にあるのは達成感ではなく罪悪感……そして後悔だ。
そんな俺の抗議を聞いた奏一さんは一つ息をついて。
「………むしろそうでないと困るさ」
聞き捨てならない言葉に、一瞬怒りがよぎるが。
「………お前はまだこっちに来れねえよ。死んでねえんだから。
そして、俺からの報酬を受け取ったお前の未来は、きっと明るくなるはずだ」
さらっと出された情報の衝撃で、怒りは驚愕の波に消えていった。
「……………死んでねえの?」
「そうだよ。送り返すついでに連れてきたんだからよ」
「………タチの悪い冗談だぜ。で、今度はなんだよ」
気恥ずかしいものを感じて、さらに抗議するが。
「………あまり揶揄うものでもありませんよ」
声を聞いた途端、俺の頭は一瞬で考えるより早く何かに埋め尽くされた。
「な………え………?」
なにせ、目の前に飛び込んできたのは………
「………ほら、俺からの報酬だ」
「…………ファーザー……?」
side五月
あの後、町谷君は学校の保健室へ運ばれた。
無堂先生の連行や町谷君の搬送をおおっぴらに行えば、学園祭どころではなくなってしまうとの事で、連行は裏口に止めてある車に乗せて行い……町谷君の搬送は、後夜祭に生徒の目が向いてるうちに行うらしい。
また、彼の体に関しては………意識が戻って直ぐの無茶による気絶らしく、命に別状はないと診断された。
下田さんや緋色君達には「馬鹿につける薬はない」と呆れられていたが………とりあえず無事で何よりである。
で、夕方に姉妹のみんなで集まる約束をして……それぞれの居場所に向かっていく中で私は。
「……あの、また敬語になってるんだけど」
「む、難しい……今までの敬語が染みついちゃってます………かな!」
町谷君と一緒にいた里中さんと、脱敬語のトレーニングをしていた。
話は少し前に遡る。
「………そうだったんですね」
「……本当にごめんなさい」
町谷君の目覚めを待っていた私は、里中さんが一緒にいた理由と、それまでの経緯を打ち明けられた。
頭を深く下げる里中さんだが……私に、彼女へ何かするつもりはない。
……要は、里中さんもあの人に騙されていて、家族を人質に取られていた様なものだ。
しかも、町谷君がそれを助けようとして、今の状態になっている事はわかっている。
当事者である彼が恨んでるわけでもないのに、私が恨む理由があるわけない。
「だ、大丈夫ですから顔を上げてください………!
それに、あなたのおかげで無堂先生から何かされないで済んだんですから」
むしろ、私はあの時助けてもらったのだからお礼をしなきゃいけないのであって………
しかし、それを言っても里中さんの表情は浮かないままで……気まずい空気が流れ出す。
その空気が続くのに耐えかねて、少し考えた後。
「じゃ、じゃあ!こんなのはどうでしょうか……」
「な、なんでもします!」
「そんな深刻な話じゃありませんから……」
食い気味に了承する里中さんに、待ったをかけながら、提案したのが………。
side里中
警察での話が終わり、旭高校に送ってもらった私は町谷の様子を見に行った。
そこにいたのは……
「えっと……あなたは?」
「里中佳奈です………さっきぶりですね」
「あ、私は中野五月です……先に名乗っておくべきでした」
あの手紙の中に出てきた、「五月さん」だった。
………あの手紙をチラッと読んだだけでも、町谷がどれだけこの子に惚れ込んでいるのかよくわかる。
それ程の子であり……また、おそらくこの子も町谷に惚れている。
となれば、この状況は私にとってどれほど気まずいものかは想像に難くないだろう。
で、そんな空気の中で謝罪した私に対して、五月さんが提示したのは………!
「……無理して脱敬語しなくていいんじゃない?町谷も混乱するでしょ」
「脱敬語トレーニング」と言う謎のトレーニングだった。
この状況と言う結果を生み出した大元として、断る事はできないが………理解できるかと言われれば微妙であり。
背景は納得できるけど………そこからのコレにも納得とはいかない。
敬語のトレーニングなら普通にあると思うが、その逆パターンとは……。
と言うかそもそも……それまで敬語だったのに、急に変わってしまうのは流石に混乱するのでは無いだろうか。
そんな珍妙な内容かつ、経過としては全然進展がないと言う実態から、先ほどまで感じていた引け目はなりを潜め。
呆れとも賞賛ともつかない感じの私に、五月は少し唸って。
「確かに、びっくりするかもしれません。でも……
これからは、お母さん越しじゃない、ありのままの私を皆んなに見てほしいから…」
迷いを飲み込んだように、キッパリと口にした。
…………そんなまっすぐな目をされたら、付き合ってあげたくなってしまうじゃないか。
「わかった。じゃあ、次は……」
そうして私は、さっきまでより真剣な気持ちで、脱敬語トレーニングに付き合おうと思った。
それが、町谷と五月にできる償いだと思ったから。
side奏二
俺は神なんて信じない。
運命なんてもっと信じない。
………もし、運命なんてものがあったとしたら、俺達にあまりに救いがない。
たが、本当に神がいるとして、願いを聞き届けてくれるのなら。
叶えてほしい願いがあった。
それは……
「ファーザー………皆んな………?」
「ファーザーや皆んなに、もう一度だけ会いたい」
そんな願いは今こうして叶った。
そして……叶ったらやりたい事は決まってる。
「みんな………ごめん!
俺……みんなを守ることができなかった」
あの日の事を、謝りたかった。
こんなのは、ただの責任逃れかもしれない。
許してもらえるだなんて思ってない。
でも………それでも、謝らずにはいられなかった。
「許される事じゃないのは分かってる………でも、どうしても謝りたくて……!」
あの日味わった喪失感、無力感、絶望……それらが俺の頭の中にかつてないほど痛烈に蘇ってくる。
そんな俺の前で、みんなを代表したかのようにファーザーが。
「………顔を上げてください」
懐かしい声音で、語りかけてきた。
sideファーザー
久しぶりに見た優一は、あの頃の面影を残しながらも大きく成長していた。
………神父服が似合うと見た私の目は間違いじゃなかったようだ。
だが……だからこそ悔やまれる。
これほど大きくなった彼や、他の子達の成長を見守ることができないことを。
そして………それを私以上に悔やんでいるのが、目の前の優一だと感じる。
本来、子供達やシスターを守るのは私の役目だった。
それを私は成し遂げられず……結果としては優一に押し付ける形になってしまった。
彼に……優しい心には背負いきれないであろう数の十字架と、夥しい量の血を被せてしまったのだ。
謝るのは決して彼じゃない。
「謝らなければいけないのは私達です」
奏一に引き合わせてもらった今、私たちが彼を救わなければならないのだ。
「………だから、自分をこれ以上責めないで。
許してあげて。
それが、私たちの願いよ」
シスターの1人が優一の手を取ると、彼の目から涙が溢れ出す。
「………ごめん……ごめんなさい…………」
そして、まるで張り詰めた糸が切れたように。
その手を握ったまま泣き崩れた。
正直、こんな優一は初めて見る。
でも………この涙は彼にとってはどれほどの物が詰まってるかは予想もつかない。
いわば、両親の死を悟ったその時から………無意識にかけてきた感情のストッパーを、今ようやく外すことができたのだろう。
「本当に………よく頑張ったね」
1人の少年から、悲しみを奪ってしまっていた事を既に亡き心に刻みながら、その慟哭が止むまで私達皆んなで、そばに寄り添っていた。
side奏二
生まれて初めて、こんなに泣いた気がした。
そう思えるほどに、涙が流れた。
そんな土砂降りの後に見える空は……人は。
とても、透き通って見えた。
「ありがとう……みんな」
ようやく感情が落ち着いた俺は、気恥ずかしいものを感じながら礼を述べる。
「俺………やっと、空を見て生きていけそうな気がするよ」
でも……そんな気恥ずかしさなんてどうでもいいくらい、あの時間には救われたような気がした。
そして、俺たちの様子を遠巻きに見ていた奏一さんに。
「ありがとう………こんな機会を設けてくれて」
深々と頭を下げると、奏一さんは飄々とした顔で。
「言ったろ?
これから先のお前の未来は、きっと明るくなるはずだって」
少しずつ、あたりが眩しくなっていった。
いや、俺の体がやけに光り始めていたのだ。
「………なんだ、これ?」
「お前の身体が呼んでるんだよ。
………そして、お前を待ってる子もな」
奏一さんの言葉に、俺は思い浮かべる。
俺に希望を取り戻させてくれた人を………俺に生きたいと思わせてくれた人を。
そして俺は生きている………なら、ずっとここにいるわけにはいかない。
「………ああ、サンキューな」
俺は、奏一さんに礼を告げてから、ファーザー達に向き直り。
「ありがとう。
そして……」
「皆まで言わなくてもいい。
私達はまた会える………その時には、いろいろお話を聞かせて下さいね」
さようならを言おうとしたが、遮られてしまった。
「……一応言っておかないとって思ったのに」
思わず抗議しようとしたが、ファーザー達と一緒にやってきた子供達が俺の近くにやってきて。
「………あのね、お兄ちゃん!
僕たち、お兄ちゃんに頼みたいことがあるんだ!」
「………なんだ?なんでも言ってみろ」
ある意味、これまでの俺の生きる意味だったこいつらの願い。
俺が必死に縋った過去の戯言じゃなくて、本物を聞けるなんて滅多にない機会だ。
その内容を心して聞こうと身構える俺に。
「………大きくなって、幸せになってね!」
なんとも大雑把なお願いをしてきたのであった。
「………ああ、お前らこそ元気でな!」
そうして俺の周りの景色は、やがて真っ白に染まっていき………‼︎
「…………」
「……何やってんだ?」
「うわぁ⁉︎」
次に見えた景色は、目を瞑った五月の顔のどアップだった。
いかがでしたか?
今回は奏二への救済回とも呼ぶべきものにしました。
あのオカルト的な会話は、「ガンダムSEED DESTINY」の最終話における、シンとステラの精神世界での会話や、「仮面ライダー鎧武」の最終盤にあった、呉島主任が意識不明から目覚める前の、紘太との会話。
あと、NARUTOの戦争編の最終盤にあった、ナルトが穢土転生から昇天していくミナトとした会話を参考にしてみました。
ちょっと唐突にも思えたかもしれませんが、これが無いと奏二にとってのハッピーエンドは訪れないと思い、この展開を入れさせていただきました。
そして次回は、実に久しぶりな奏二と五月の絡みと、あわよくば風太郎の告白イベント前の描写もしていければなと思います。
それではお楽しみにお待ちください。