今回は、約束の時間までの前菜みたいな感じです。
今日の全てが終わる頃
各々の部屋で待っています
各々の想いを抱えたまま………
「………ついに来たか、この時が」
「…まだ決めてねえのか?」
五月が去って行くのを見送っていると、後ろから呆れたような声が聞こえてきた。
その声の主は勿論奏二。
「奏二‥‥お前、体の方は大丈夫なのか?」
「お陰様でな……こうして歩くくらいはできる。
今から、加藤達にちょっかいかけてくるつもりさ」
「……怪我人が無茶すんなよ」
身体中についてる包帯やら絆創膏が痛々しいが、どうやら無事らしい。
とりあえず、安堵と危なっかしさを感じながら、並んで昇降口へと向かい始めた。
そうして少し歩いていると、奏二は仕切り直すように。
「で……どうするよ」
さっきの会話が聞こえてたのか、探るような目を向けてきた。
「………選ぶやつは決まったんだ」
「ほーん?」
まず、俺の中で答えは決まった。
………と言うか、この話の大元は俺の宣言からだからな。
それで答えが出なかった、なんて言おうものなら俺は6人からボコボコにされるだろう。
ただ………
「どう言おうか、ってのが……」
恋愛ガイドである程度の勉強はした。
だが……そんなステレオタイプに沿う形で本当にいいのか。
……しかし、王道と呼べるやり方に沿った方が失敗しなくていいのかも………。
「ここ1番の大勝負なんだ、ちゃんとしないと……」
そんな迷いを打ち明けると……奏二は可笑しそうに笑いだした。
「……なんだよ」
こっちは真剣に相談したのに、まさかの反応に食ってかかると。
「いや、五月も似たようなこと言ってたからつい……」
どうやら、今の俺はあの変な口調の五月と同レベルらしい。
少し気恥ずかしさを感じてジト目を向けていたが、目の前でひとしきり笑った奏二は。
「………んなもん、言いたいようにいえばいいんだよ。
それがちゃんとしてるか、そうでないかなんて………受け取ったやつが思うことさ。
大事なのは、どう伝えるかじゃない………何を伝えるかだぜ?」
どこか実感を込めたように語ってきた。
「………五月にもそうやって伝えたのか?」
きっと、さっき五月がスキップしてたのはそう言うことだろう。
「さあな……俺に手本や見本なんてねえ。
言いたいように言うだけさ」
「そうか……そうだな」
それにアイツは……ド直球に答えを伝えてきたんだ。
なら俺も……
side五月
約束の時間が近づいてたので、待ち合わせの場所に向かうと、そこにはみんなが揃っていた。
「すみません、遅れて………」
「大丈夫だよ。わたしたちも早くきちゃっただけだから……」
頭を下げる私に、四葉が手を振り。
「どう?町谷は大丈夫だった?」
二乃が落ち着かない様子で聞いてきた。
聞けば、私が悩んでいる間に町谷君は二乃に今回のことで相談してたらしい。
「ええ。父の件についても、きちんとお礼もできました……」
「そう………良かったわ。アイツ、あんたの事で凄く悩んでたのよ」
私の返事を聞いた二乃が、ほっと胸を撫で下ろした。
きっと、二乃……いや、みんなも同じように相当気を揉んでくれたであろう事が伺える。
改めて、姉妹のありがたみを噛み締めていると、三玖が話題を変えるように。
「……それで、フータローにあの話はできたの?」
今晩控えているイベントについて触れてきた。
それにより、4人の表情に緊張が走る。
「はい。上杉君………かなり悩んでましたよ」
「あはは……フータロー君らしいや」
あの後、後ろから聞こえてきた会話を少しだけ聞いていたが……
「……でも、誰にするかは決めてるみたいです」
彼の心の中には、もう4人のうちの誰かが定められているのだ。
「だから、誰も選ばないと言う事はないと思いますよ」
彼の迷いながらの決意を思い出して、そう伝えると……一花はそっか、と呟いた。
「一花?」
「え?あー……こっちの話。
じゃあ、その時まで存分に楽しもうよ!」
「なんか気になるけど……そうね。今はそれしかないわ」
「うん………お客さんとしてはまだだったからね」
「そうそう、楽しもー!」
続きを促そうとしたが、一花はそれを断ち切るように文化祭巡りへと私たちを引っ張って行き、みんなもそれに賛同していった。
………そうだ。
「あの……みんな!」
「「「「ん?」」」」
みんなへのお礼がまだだった。
「その………あ、ありがとね!」
「………なんか、違和感しかないわ」
「そんなー、皆んなまで⁉︎」
side一花
仕事の為に休学中とは言え、私も今をときめく女子高生。
となれば、当然学生っぽいことをしたいのだ。
そんなわけで、後夜祭のライブを後ろから観戦していると。
「中野一花さん。
学園祭中に、弟が世話になったみたいね。
ありがとう」
「あ、迷子の………」
一昨日、迷子の親探しをフータロー君とした時の子のお姉さんらしき女子生徒が、何かの券と共にお礼を述べてきた。
こう言う経験は、駆け出し女優とは言えそれなりにあるが……やはりむず痒いものがある。
それを表に出さないようにしていると、その子は去り際に。
「弟も応援してるって。 がんばってね」
と、またもむず痒くさせるようなことを言ってきた。
「何……?
アンタのファンってとこ?」
「どうだろう」
でも……少しだけ寂しさを感じてしまう。
私はもう、テレビの向こうの存在であり……普通の女子高生や、夢見る少女じゃいられない。
「…‥これがやりがいってやつなのかな」
でも、こうした嬉しいことは、これからも大切にしていきたいと思った。
「なんか、年食ったみたいだわ」
「失礼だなチミは。私はまだピチピチのうら若き乙女だよー?」
side二乃
随分と大人びたことを言い出した一花に、なんだか妙な焦りを感じながら、私の行きたかったところに向かうと。
「あちゃー」
「うちの屋台、誰もいないね」
「多分、出し物の結果を見に行ってるんだよ」
そこは、さっきまでの盛況が嘘だったかのように、静かなものだった。
……まあ、今は皆んな結果発表の方に行ってるか。
「じゃあ、私たちも行きましょう……三玖と四葉もそっち行きたいのよね?」
そう言うわけで、さっさと体育館に戻ろうとすると。
「……お父さんが今日ここに来たのは、二乃に頼まれたからだと言ってました」
「え……」
五月が、改まった様子でどこか懐かしいことを言い出した。
「……実際、すごいよ二乃」
「あのこわーいお父さんに立ち向かったんだもんね」
それに乗っかるように、一花と四葉が尊敬の眼差しを向けてくるが……多分私だけじゃ、あの仏頂面のお父さんに、そこまで何かを頼み込むことはしなかっただろう。
そんな今までから、先へ進めたのは……
「私だけの力じゃないわ」
自らの殻を破って……私に匹敵するレベルの料理を作れるようになった三玖や、将来に向けて真剣に考えている五月。
必死に、私達を繋ぎ止めようとしてくれた町谷やフー君の存在あってこそだ。
そして……それは他のみんなも同じ事。
きっと、私と同じような事をする時が来る。
「だけど……アンタ達も、立ち向かわなきゃ行けない日が来るわ。思ったより近いうちにね」
そんな時のために……今から助言しておく事にした。
side三玖
珍しく姉っぽいことを言い出す二乃だが……言ってることはその通りだと思う。
「やったね、四葉」
「三玖もおめでとう」
たしか、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」だったっけ。
「最初は、クラスメイトに嫌われないか怖かったけど……」
何かをしたいとなった時……。
「やるべきと感じたまま、やり抜いたことを後悔してない」
例え、目の前に壁があったとしても、それを乗り越えなければ何もできないし……諦めたら、もしもの可能性に悩み続ける事になる。
男女の壁を乗り越えた結果、最優秀賞の栄誉を勝ち取ったクラスのみんなを前に、ようやく出せた結論に。
「うん、私も同感。
例え、望んだ結果が出なくても……後悔しながら生きていくより100倍いいよ」
演劇部に視線を向けながら、四葉は深く頷いた。
side四葉
「例え、望んだ結果が出なくても……後悔しながら生きていくより100倍いいよ」
三玖の言葉に私は、自分自身に言い聞かせるようにも頷く。
………この後の約束の時を過ぎれば、閉じ込めてきた想いを打ち明けることが、できなくなってしまうかもしれない。
そしてその後………それを気にしないでいられるかと聞かれたら、答えは多分「NO」だ。
だから、私は…。
「最後は五月だよね?ほら、行こう!」
五月の行きたい場所を早く行って、その後の約束に備える事にした。
side五月
"私たちは、いつまで五つ子でいられるんだろう?"
一花の発した言葉は、ポップコーンでお腹を満たしている間にも私の頭の中を渦巻いていた。
「凄い勢いで……よほどお腹が空いてたんだね、五月ちゃん」
「……待ちなさい。アンタに持たせてたら一人で食べきられそうだわ」
二乃の言葉と共にポップコーンが取り上げられてしまい、栄養補給ができなくなった頭は……難しい思考を止める。
「五つ子って何なのでしょうか……」
すごく単純な形で口に出たこの疑問は、みんなの頭を唸らせた。
そうして少しして、二乃が。
「……はっきりとはわからないけど、少なくともいろいろ苦労が多いのは確かね。
こうして屋台回るだけでもめんどくさいもの」
と、少し疲れたように口にする。
確かに、こうして回ろうにもどこから行くかとか、ポップコーンの味をどれにするかとか………人数の分だけ選択肢が多くなり、それは簡単ではなくなる。
「私たちが普通の姉妹だったら、違ったのかなあ?」
「うーん、それはそれで別の悩みがあったと思うよ」
かと言って、普通の姉妹だったら……五つ子特有の悩みはなくなるかもしれないが。
そうしたら、洋服のお古だったり……ご飯のおかずの量の差だったりと、別の悩みが生まれるだろう。
「二乃が妹をいじめたり」
「あーら、五つ子でよかったわね」
姉妹喧嘩は、五つ子だろうが普通の姉妹だろうが起こるものだ。
………うん、答えを出そうとしてもこれは出せない。
でも……確かなことは一つだけある。
「はい!
五つ子でよかったです」
五つ子が良かったか悪かったかと聞かれれば………間違いなく良かったと思う。
「うんうん!
私、みんながいたから頑張れた気がする」
みんながいたから頑張れて。
「この学祭中、離れてもみんなを感じてた」
離れていても、多くの絆を感じることができて。
「同じ顔の別の子が頑張ってるってだけで、私にもできる気がするよ」
みんなの姿を見て、「自分も」と勇気を貰えた。
「ふんっ、そんなの今更よ!」
それを、この学園祭で今まで以上に感じることができた。
「五つ子と言うのは、きっと切っても切り離せないのでしょう。
でも……それによる問題は、みんなで乗り越えることができて。
嬉しいことは、みんなで分かち合える。
それはとても、幸せなことで………きっと、これからもそう思っていける気がするんです。
五つ子でよかったと」
そうして、約束の時が来るまで………ポップコーンを分け合いながら、何気なくも愛おしい会話が弾けていた。
そして…………
「では……みんな、覚悟はいいですね?」
side奏二
「お前、昨日と今日で随分ボロボロじゃないか………何があった?」
「いや、まあ……ちょっと事故っちまって」
加藤達の前にやってくると、皆んなは昨日との変化に随分驚いた様子だった。
確かに……つい一日前にも見たはずの景色と顔なのに、えらく懐かしく感じる。
「でも、一応動けるから手伝いをな」
「バカ言うんじゃない。
そんな格好じゃ、客もビビって逃げるぞ。
……だから、後は俺たちに任せとけって。
伊達にお前の背中は見てねえし、緋色達もいるからな」
「そうそう。わたしたちに任せておいてよー」
そうして2人が見せてきたスマホには、売り子や客引きをやってる唯達の姿があった。
「………一皮剥けたじゃねえか」
「うるせえ」
きっと、俺がいない間も2人は山田やあの4人と協力して、この屋台を引っ張っていたのだろう。
すっかり歴戦の猛者みたいな顔つきになった2人の言葉に、甘える事にした。
「サンキューな……2人とも」
「えらく素直だな……なんか変な感じだ」
「なんだと⁉︎」
そして次は………
「お前ら、ありがとな」
仕事を終え、それぞれの場所へ戻ろうとした4人を捕まえて、改めて礼を告げた。
思えば、コイツらには今回の件で3年以上も付き合わせてしまった事になる。
それに加えて、今回は色々と手を借りることになったからな。
そんな俺の礼に、唯は。
「……お前のミスの清算は、今に始まったことじゃない」
三ツ矢は。
「……今度に借りを返してもらう。日程は追って通達する」
四郎は。
「いえ……これくらいお安い御用ですよ」
そして竜伍は。
「バカは死んでも治らん……なら、せめて拾った命を捨てるようなバカにならないことだ」
微妙に煽りがこもったような返答と共に踵を返していった。
「………ったく、素直じゃねえな。相変わらず」
(お前が言うな)
暗くなりかけた夜空でぼやいた俺は、その4人にほぼ同じ事を思われている事を、知る由もなかった。
「………んじゃ、病院に行く前にもう一仕事するとするか!」
まあ、この後のイベントの前では些細なことだがな。
side風太郎
「行きたまえ、上杉君……君はそれで勉学をおろそかにする様な人ではないのはわかってるよ」
「上杉!せっかくカッコつけたんだから、ビシッと1発決めてこい!」
恋愛は、学業から最も離れた愚かな行為。
ましてや、こんな受験への佳境で手を出そうとするなんざ、迂闊以外の何物でもない。
なぜなら、学生の本分は勉強なのだから………
今までの俺はそう信じて生きてきた。
だが……そんなことはなかった事を、俺は随分な遠回りの末、やっと気づくことができた。
勉強。
友情。
仕事。
娯楽。
そして、恋愛。
あの5人は……常に全力投球で。
凝り固まった俺に、それを教えてくれた。
そして……ここまで、随分待たせちまったんだ。
挙句の果てには……そのうちの3人には、待たせた挙句に「NO」を突きつける事になるのが、正直心苦しいし、胸が痛い。
でも……アイツらはそれでもって、俺の答えを待ってくれている。
武田も前田も…そんな俺の背中を、揶揄いながらも押してくれた。
何より……
俺自身、その選ぼうとしてる未来に進みたくて仕方ない。
だから、俺は………覚悟を決めて、待ち人のところへ歩き出した。
いかがでしたか?
今回、もしかしたら初めてのメイン7人全員分の視点が入ってます。
次回こそ、ついに風太郎の告白イベントですが、我らが主人公の友人系主人公の奏二も動くので、原作とは流れを少し変えていこうと考えております。
どうなるのか、楽しみにしていただけると幸いです。
感想のほど、お待ちしております。